|
■オープニング本文 村から続く道を少年は歩いていた。 彼の目的地は、村から少し離れた位置にある墓場だ。 少年の持つ水桶が揺れた。 「掃除めんどくさいけど、墓を綺麗にしたら、あの世のじーちゃん、喜んでくれるかな?」 等と言いながら、歩を進めていく。 けれど、少年は違和感を感じていた。いつもならやかましいほど聞こえてくるセミや鳥の鳴き声がちっとも聞こえてこないのだ。 そして、墓場の入口で、少年は悲鳴を上げる。 奥に建てられた墓石に異形の存在がいたからだ。 少年と同じくらいの背丈の鬼たちが三つ、墓石を椅子にして座っている。 一体は自分の腕より長い角が一本生えており、別の二体は弓を手にしていた。 彼らの周りを黒い影――コウモリに似たものが飛びまわっている。 角の長い鬼が、顔を動かした。少年を見る。鬼の角が黄色く光り出した。 少年は背中を向ける。悲鳴をあげて逃げ出したのだった。 「……というわけで、村の人々から依頼がありました」 ここは、神楽の都の開拓者ギルド。ギルドの事務員が開拓者たちに向かって話をしている。 「村から少し離れた所にある墓場に、アヤカシの群れが居座ったので、退治してほしい、ということです」 アヤカシの数は六体。 コウモリの形をしたものが三体。弓を持った鬼が二体。 角の長い鬼――角長鬼が一体。 「……目撃者等の証言からすると、この角長鬼になにやら特殊能力がありそうですが……」 戦闘場所となる墓場は、1辺、50メートルほどの長方形で、入口の南側以外は塀で囲まれている。 アヤカシ達は、北の端にいる。 「また、墓場ですからあちらこちらに、墓があります。 依頼人達は、その墓を出来るだけ傷つけないで欲しがっているようです。……傷つけたとしても仕方がないということですが」 依頼に関する説明はそこで終わりのようだ。 「そうそう、依頼人の村では、美味しいお団子を出すお茶屋さんがあるそうですよ。 依頼を果たせば、好きなだけご馳走してくれるとのことですので、いってみてもよいのではないでしょうか。 では、よろしくお願いいたします。墓参りは、生きる者が死んだものにたいしてできる、数少ないことの一つ。――必ず解決してあげて下さい」 |
■参加者一覧
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ
巳(ib6432)
18歳・男・シ
レオ・バンディケッド(ib6751)
17歳・男・騎
サミラ=マクトゥーム(ib6837)
20歳・女・砂
リュシオル・スリジエ(ib7288)
10歳・女・陰
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
マキ・クード(ib7389)
21歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●二手に分かれ 陽は頂点からやや西に移動しつつあった。日ざしはまだ強く、墓石たちにふりそそいでいる。 開拓者のうち囮組四人は、今、墓場の入口、南側に立っている。 墓場の奥、北側には、鬼三体が墓石に腰かけていた。 頭頂部から白い角を伸ばした長角鬼が、開拓者たちを指差した。それに応じるように、弓鬼二体が墓石の上に立ち、武器を構える。 鬼の頭上には、コウモリが三匹、飛びまわっていた。 「お前らにゃ仕置きが必要だな。この俺が相手してやるぜっ!」 巨漢、嵐山 虎彦(ib0213)は息を大きく吸い込み、全身の筋肉を盛り上げ――咆哮! 咆哮の力は、鬼どもにはきかなかったようだ。 が、コウモリどもの目は一斉に虎彦に向けられる。キィキィと鳴きながら、開拓者のいる入口付近へ飛んでくる。 「墓に気を遣いながらってのがな‥‥でも、さっさと終わらせてやる!」 「クード君、後ろや側面は任せてくれていい。君は好きなように暴れてくれ」 虎彦の隣に立つのは、クード・マキ(ib7389)と緋炎 龍牙(ia0190)。 マキは猫の耳と赤の瞳に神経を集中。アヤカシ達の動きの把握に努める。龍牙は、二振りの刀を構えた。その刀身は、どちらも漆黒。 三人の後ろで、茶色髪の青年、ケイウス=アルカーム(ib7387)が、銀色の鈴を動かした。 「お前らの為の演奏なんだ、きっちり聴いてってくれよっ!」 ケイウスが紡ぐのは、アヤカシのみに聞こえる楽曲。別働隊の動く音を隠すためのものだ。 別働隊の四人は、今、墓場の外周部にいた。北側を目指し歩いている。 四人の一人、巳(ib6432)の目尻には朱色が塗られているが、巳はその目を細めた。塀の向こうから聞こえてくる音に耳を澄ます。 「‥‥コウモリは南側に行ったが、鬼どもはまだ北側にいるみてぇだな。このままいきゃぁ、背後を取れる筈だ」 超越聴覚で知った結果を仲間に告げ、抜き足で先を急ぐ。 他の三人も彼と共に歩く。 カチ。 レオ・バンディケッド(ib6751)の靴が、小石にぶつかって音を立てた。彼の靴は金属で出来ているため、音が響きやすい。 「囮役の人が派手に動いてくれてますから、まだ大丈夫なはず。ですが、極力音を立てないように行きましょう」 「おう、分かった」 リュシオル・スリジエ(ib7288)は細身にローブ姿。リュシオルがレオに注意すると、レオは素直に頷いた。 一行は脚を止めず、進み続ける。迅速に、けれど、慎重に。 (ケイもマキも皆、頑張ってくれてる筈。私も役目をしっかりこなさないと。家名に傷をつけないためにも) サミラ=マクトゥーム(ib6837)は拳を握り、ヴェール下の表情を引き締める。 ●引きつける者と、奇襲する者 墓場の南側で。 コウモリたちが墓の上を通過し、開拓者に迫る。 「叩き落とす!」 マキは、コウモリが十分近づいた頃合いを見計らい、腕を振る。ラティゴパルマ! 精密な狙いで、鞭の先をコウモリに叩きつける。 ふらつくコウモリに、さらに追い打ちをかけようとするが――墓場奥から、弓鬼がマキへ射撃する。 矢の一本を肩に受け、その場に膝を突くマキ。さらにもう一本の矢が飛ぶ。矢はマキの頭部へ――。 龍牙がマキの前に、割り込んだ。忍者刀を一閃! 龍牙は、仲間を狙っていた矢を、叩き落とす。視線を素早く動かし―― 「嵐山くん、そっちにいくぞ。気をつけてくれ」 警告を虎彦へ送る。 コウモリ三匹は体勢を立て直し、虎彦に攻撃を加えんとしていた。 だが、虎彦は二匹の体に盾をぶつけて、防ぐ。 もう一匹は盾を掻い潜り、虎彦の右肩に牙を突きたてる。 しかし、損傷は軽微。虎彦は不動の力で己を護ったのだ。 「はっ! そんな牙、通じるかよっ!」 笑い飛ばす虎彦。 コウモリたちは素早い、またコウモリへの攻撃を、弓鬼たちの射撃が妨害してくる。 開拓者はなかなかコウモリを倒しきれず、少しの間、こう着状態が続いた。 突然、鬼たちが後ろを向いた。弓鬼が塀の頂点へと、矢尻を向ける。 そこには、サミラとレオ。二人は、奇襲を仕掛けるため、塀を登ったところだったのだ。が、気づかれてしまったらしい。隠密活動に不向きな装備の者がいたことが、災いしたか。 サミラは弓鬼が弓を引き絞るのを見、ヴェールを頭部からはずす。 「させないよっ」 ヴェールを下へ投げた。ヴェールは弓鬼の顔を覆う。――鬼の放った矢は、サミラの肩を掠るだけ。 もう一体が放った矢は狙いたがわず、レオの胴に刺さる。 レオは前のめりに倒れる。墓場内、長角鬼のすぐそばに落下。 「まだまだぁ――アヤカシの頭領、墓を荒らした罪の罰、受けてもらうぜ!」 レオは素早く立ち上がると、そばにいた長角鬼の足に斬りかかる! 横薙ぎの斬撃はかわされてしまうが、迫力は十分。鬼たちに数瞬の隙を作った。 その隙に、サミラは着地。外側にいた巳とリュシオルも、塀を乗り越え、墓場へ侵入。 長角鬼は開拓者が増えても、怖気づかない。にぃ、と唇を歪める。 「キャーハーッ!」 奇声と同時、鬼の角が光りだす。鬼は姿勢を変えた。バチっと音。次の瞬間――角から電撃が放たれる。 「ギャハ! ギャハハ! ギャハーーア!」 「くっ?!」 電撃は巳に命中。顔を歪ませる巳。 「‥‥ちっ、この威力‥‥しばらく観察して‥‥たぁ、いかねぇか‥‥」 巳は感電した痛みをこらえつつ、地を蹴る。長角鬼に接近。忍刀「霧雲」を振る。が――空振り。 リュシオルはすかさず符を掲げた。符に描かれた五芒星が煌めく。 「やはり、あの角を狙わないと、ですね。――魔殲甲虫ビートルマグナを召喚!」 現れたのは、黄金色をしたオオカブトの式。リュシオルの命に応じ、式は動く。長角鬼の角、その付け根に斬撃を加えた。 鬼の角についた傷は、僅か。だが、鬼の顔には苦悶の表情。リュシオルの攻撃は、確実に効いている。 鬼は瞳に憎しみを籠め、開拓者たちを睨んだ。 ●長角鬼 奇襲は失敗。しかし、奇襲組の登場により、囮組への射撃が止んだ。 「弓の支援がなけりゃあ、コウモリなんて――敵じゃねぇ!」 マキは接近してくるコウモリを、軽やかな足捌きと舞うような動作で回避。 同時に鞭を操る。――乾いた音が二つ。コウモリ二匹が墜落し、消滅。 残った一匹は、虎彦に飛びかかるが――虎彦は避けない。両腕を大きく開いて待ち構え―― 「コウモリども、好き勝手してくれた礼をくれてやる。受け取れ!」 二枚の盾でコウモリを挟み、圧し潰す! 悲鳴をあげる間もなく――最後のコウモリも瘴気に還った。 コウモリの相手をしていた四人は、前進。墓場奥で鬼と戦う奇襲組と合流する。 仲間全員を支援できる位置に移動した、ケイウス。彼は、長角鬼の角が光りだすのを視認。 「来るっ‥‥気をつけて!」 ケイウスは声を飛ばしつつ、鈴をリン、強く鳴らした。奏でるのは、霊鎧の歌。仲間達の体が精霊力で輝いた。 はたして角長鬼は電流を放つ。最も近い位置の、レオへ。 「う‥‥が‥‥ま、まけ、まけるかっ‥‥成敗してやるぜっ!」 レオは、両膝を地面に着くが、それでも動きを止めない。膝立ちの姿勢のまま、腕を振る。オーラ纏わせた大剣で、長角鬼の足を――凪払う! 長角鬼は横転する。砂が舞い散った 弓鬼たちは、弓の弦を引き絞っていた。長角鬼が立ち上がる時間を稼ごうとしている。 龍牙は矢が射られるより早く、弓鬼の前に移動する。 「アヤカシは例外無く全て駆逐する‥‥朽ち果てろ。――龍ノ顎」 龍牙は弐連撃を実行。刀が高速で動き――鬼の右腕が宙を舞う。次の一秒後には、弓と左手が地に落ちる。 もう一体の弓鬼に駆けよるのは、サミラ。 サミラは走りながら、錬力を体内に集積させる。弓鬼まで数歩の距離で、一気に加速。 「‥‥墓からのけ、アヤカシ」 弓鬼とすれ違う瞬間、サミラは翡翠の曲刀を閃かせた! 弓鬼の右腕を切り捨てる。 弓鬼たちは、傷口から瘴気をまき散らし、息絶えた。 残る敵は長角鬼、一体。今、かろうじて立ちあがったところだ。 リュシオルは、モンシロチョウ型の式を使い仲間を回復させていたが、攻めに転じる。 「行けーっ! マグナァアアア!!」 斬! リュシオルの斬撃符が鬼の角を切断。 「がああああ?!」 角を失くした鬼は、顔を青く変色させる。荒く呼吸。 首を動かした。にげようとする気配。 「もう少しだけつきあってもらうよ」 ケイウスは鬼に向け歌いだす。低い声を作り、暗いメロディを口ずさむ‥‥。その歌は、聞く者に不安を与える『奴隷戦士の葛藤』。 ケイウスの歌に気を取られる鬼。 「悪いな、これで終いだ‥‥」 巳は鬼の背後に回り込む。首筋を、死鼠の短刀で刺した。 長角鬼はうつぶせに倒れ、そのまま起き上がらない。 ●団子の時間 敵はもういない。墓にも傷はなかった。 開拓者たちは乱れた地面を整え掃除をし、黙祷を捧げるなどした後、依頼人の村へ戻る。 開拓者らの報告に、村人たちは大喜びで礼をした。その後、開拓者は村の茶屋へと案内される。 長い年月を経た、趣のある木造の店舗。その店先に設置された椅子に、開拓者八人は座る。 「この度は、ありがとうございます。本当に‥‥ささ、お食べになってください」 「ありがとうございます! 折角ですので、頂きますね。あっ、いい香り」 リュシオルは茶屋の主人に丁寧に返礼をしてから、皿を受け取る。顔をほころばせた。 団子はもち米で作った団子を串に刺して、網で焼き、上に醤油と砂糖のタレを塗ったもの。団子の表面は焦げ目が入っており、香ばしい匂いがほのかに鼻をくすぐる。 レオも早速、串を掴み団子をほおばる。口の中をもぐもぐさせ、団子の触感とタレの味を堪能。ふと、墓場の方角を振りかえる。 (でも、ほんと怖いもの知らずだったよな、あのアヤカシ達‥‥墓の上に乗ったら普通呪われるだろ‥‥。――まあ、もう成敗してやったけどさ) 倒せてよかったと一人頷いた。 サミラの手には陶器の杯。村人に頼んで酒を用意して貰っていたのだ。 「やっぱり天儀のお酒は美味しいね‥‥あら? マキったら、すっかりできあがってる?」 サミラは、仲間の様子を見て、口に手を当てた。笑い声を洩らす。 「へへー♪ 全然できあがってねーし、よってもねーぞぉ♪ んー、団子もうめぇ♪」 「マキ! それ、俺の分じゃないか!?」 マキも酒を飲んでいたのだが、今は頬が桜色で、目はトロンとしている。隣にいるケイウスから団子を奪い取ろうと、手を伸ばしていた。 ケイウスは文句を言いながらも、楽しそうな口調。 虎彦の飲み方は豪快だ。丼に酒を注いでもらい、一気に飲み干す。つまみ代わりに団子を齧る。飲み食いの合間に、虎彦は茶屋の主人や給仕してくれる村娘に、武勇伝を語る。 「‥‥そこでこの嵐山、射られた矢の雨にもコウモリの群れにも恐れずに、やってくる敵を叩きつぶし、まさに鬼も恐れる鬼法師って活躍よ♪」 彼の語りぶりに、仲間数人がくすくすと笑った。 巳はそれぞれ両手に、団子の串を一本ずつ。 団子を一気に口の中に入れると、また別の串をとる。 しばらくそうしていたが、ふと、不思議そうに、傍らの龍牙をみた。 「どうした、緋炎? くわねぇのか?」 「ん‥‥いや‥‥少しね‥‥」 巳に聞かれ、龍牙は曖昧に返事した。 龍牙は空に顔を向けていた。 龍牙の目は、青空より遠くを見るよう。ここにいない誰かを想い出していたのだろうか。 視線を店先に戻すと、仲間達は変わらず賑やか。龍牙は目を細めながら、お茶をゆっくりとすすった。ずず、と小さな音。 |