料理対決!
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/20 21:25



■オープニング本文

 武天の開拓者ギルドを、蒼い着物姿の女性が訪れた。
 彼女は、自分がとある町の町長だと名乗ったうえで、こう続けた。
「料理大会に出る者を募集したい」

 彼女の町は、今年はあまり景気が良くない。町人の心も沈んでいる。その沈んだ気持ちを盛り上げるべく、観客を集め、料理大会を行うことにしたのだ。
「本来は町の料理人に何人か出てもらう予定だった。だが、全員、急用が出来たり怪我をしたり色々な事情で出れなくなってな。
 そこで、開拓者たちに料理人として大会に出場してほしいのだ」

 大会に出場するだけでなく、もう一つしてほしいことがある、と町長は続けた。
 料理人が参加出来なくなったという情報は、すでに、町人達の耳に入っている。
 料理大会はすでに中止になったと思っている者も多い。
「大会が始まるまで、料理の準備をしながら、町の広場や住宅街で宣伝活動をしてほしい。どのように宣伝するかは、開拓者に任せよう」
 宣伝期間は三日間。

 料理大会のお題は――「元気の出る麺料理」だ。うどんでも、そばでも、あるいはその他でも、麺類であれば自由。
 材料は、町の方で用意してくれる。だが、あまり高価すぎる物は手に入らない。
 また、海から遠いので、新鮮な海の幸も難しい。天儀風でない食材もない。
 だが、逆に農業はそこそこ盛ん。新鮮な野菜は手に入りやすいようだ。武天なので、肉類も入手できる。
 大会の会場は、町の大広場。観客たちに見守られながら、広場に設けられた台所で、審査員六人分の食事を作る。
「美味い料理を作るのも大事だが、料理を作る際に、観客たちを盛り上げてくれると嬉しい」
 例えば、激しく動いてみたり、大胆不敵に自分の勝利を宣言したり‥‥開拓者の個性を十二分に発揮して、客をわかせてほしいとのことだ。

「優勝者や、大会を特に盛り上げてくれたものには、報酬を多めに支払おう。
 開拓者の感性と技なら、よい大会にしてくれると、信じている」
 女町長は、その場にいる者たちに、にっと笑って見せた。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
マテーリャ・オスキュラ(ib0070
16歳・男・魔
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志


■リプレイ本文

●行進
 とある町の市場。
 太陽が強く輝き、光が地に降り注いでいる。
 けれど、人々の顔は晴れやかとは言い難く、売り子の声にも張りがない。猛暑と不景気のせいだろう。
 そんな人々の表情が、変わった。中年男性は目を丸くし、女の子が、かわいー、と叫ぶ。
 八匹のぬいぐるみが、やってきたのだ。
 ぬいぐるみの中に入っているのは、開拓者たちだ。今日は開拓者が町に来て二日目。
 昨日、町に着いた彼らは、買い物や情報収集などと並行して、今日の準備をし――そして今、八人皆で、宣伝の為の行進をしている。
「今年の料理大会は、開拓者たちの対決ですよー! 親御さんと一緒に見に来てね―」
 一匹のとらさん――趙 彩虹(ia8292)が、子供たちに明るく話しかけ、チラシを配った。
 チラシには、大会の日時と場所、それから、三頭身の動物の絵が愛らしく書かれている。
 朝比奈 空(ia0086)は鶏の着ぐるみの中。
 チラシを配りながら、「よろしくおねがいします」と丁寧にお辞儀。受け取った子供の一人の頭を、片手の羽で軽く撫でた。
 まるごとやぎさんに身を包んだ、マテーリャ・オスキュラ(ib0070)はやぎの上からフードを被り、俯いている。
(あまり目立たないように‥‥)
 けれど、内気な仕草が、かえって魅力的らしい。やぎさーん、と子供たちがマテーリャに近づいてくる。
 積極的に動いているのは、とらさん姿の井伊 貴政(ia0213)。
(一人でも多くの人に来てもらえばいいなぁ)
 手製の手持ち式看板を、軽く振ったり。妙齢の女性の前で、ぴょんぴょん、と跳ねたり。

 数歩離れたところから、
「わわ、たかーい」
 と幼い声。いのししの着ぐるみ、長谷部 円秀 (ib4529)が子供を肩車しているのだ。肩を揺らすと、子供は嬉しそうに悲鳴。
 白猫のベルナデット東條(ib5223)は黒猫の茜ヶ原 ほとり(ia9204)の隣を歩いていた。
 ベルナデットは立ち止まり、持っていた旗をほとりに渡す。両手を地面につけ逆立ち。そして、腕の力を使って、跳んだ。空中で体を縦に半回転。足から着地して、大見得を切る。
「今年の暑い夏は、料理対決の麺料理で乗り越えよう!」
(ベルちゃん、凄いです!)
 ほとりは旗をもったまま、ぽふぽふと拍手。通行人たちもつられて、盛大に拍手した。
(みんな喜んでる。でももっと楽しんで貰わなくちゃ!)
 蒼井 御子(ib4444)はやぎの中から、仲間の曲芸や振る舞いを見ていた。ボクも負けてられないと、手に持つ竪琴を弾き出す。もこもこした体で弦を器用に操り、明るい音色。

 開拓者のぬいぐるみは芸や演奏を披露しながら、チラシを配りながら、行進を続けていく。注目度は上々だ。

●決戦
 その後も、開拓者たちは、材料調達や料理の仕込み、宣伝活動をそれぞれ続け――そして、料理大会当日を迎えた。
 広場には、子供やその親を中心に、それなりの客が集まっている。宣伝効果があったらしい。
 審査員席には、10代前半、20代、60代のそれぞれ男女、計六人が座っている。
 主催者たる町長が声を張り上げた。
「それでは、第一回料理大会を行います。お題は、『元気の出る麺料理』。では、早速――調理開始!」

「ハープのおねーちゃん、がんばれよっ!」
 客席から御子に声援。御子は、きぐるみ行進の前日も、広場で竪琴を弾き宣伝したり、聞き込みをしたり、町人と交流していた。声援をくれたのは、彼女の竪琴を聞いた中年男性。
 ありがとーっ! 御子は、客席に手を振って応え、調理を開始。取り出したのは、野生のミズナやミツバ、タンポポ‥‥。町の周辺で採ってきたもの。アク抜き等の下処理は、既に済ませてある。
「じーちゃんの得意料理、あの味には届かないかもしれないけど、がんばるよーっ!」
 山菜を程良い大きさに切っていく。植物の香りが御子の鼻孔をくすぐった。

 マテーリャの調理台の上には、夏野菜。茄子、玉ねぎ、南瓜、ゴボウ‥‥。
 相変わらずフードを被ったままだが、宣伝の時とは雰囲気が違う。
(ジルベリアで名を轟かせた師匠の弟子として、頑張りませんと)
 夏野菜を細く切り、衣と絡めて、てんぷら鍋の油の中に。
 ジュウウ‥‥。鍋から音。
 マテーリャの調理に、審査員の一人が、ごくり、喉を鳴らした。

「燃える着ぐるみ料理人、推して参ります!」
 宣言したのは円秀。麺棒を持ち、紅蓮紅葉で光らせた。棒を手の中でくるくると、回す。
 まな板の上には、予め仕込んでいた冷麺の生地。それを麺棒で力強く、押し広げる。
「かっくいーっ」
 客席の少年が瞳を輝かせた。

「おーっ! 包丁の動きが見えない!?」
 観客の一人が驚きの声をあげる。彼の視線の先には、ベルナデット。
 包丁が陽光を反射していた。その刃を、ベルナデットは巧みに操り、山菜やネギを切っていく。その動きは俊敏にして精密。
 ベルナデットの頭につけた白猫耳が、ちょこんと揺れた。
(今のところは順調。お義姉ちゃんと隊長はどうかな?)
 彼女は仲間に視線を移す。

 こちらに向いた義妹の視線に、ほとりは、小さな笑顔で応えた。彼女の頭にも猫耳。色は黒。ほとりは、目の前の鍋に意識を戻す。
 今は、牛乳に、抹茶と砂糖、溶かした寒天を混ぜている。大会前に考えていた物は手に入らなかった。が、これを冷やし、固まった物を粉々に砕けば、近い味わいができる筈。
 もう一つの鍋では、湯が煮えたぎっている。こちらは、そうめんを茹でるためのもの。

 今は対戦相手の二人を見て、彩虹は快活に笑う。
「ベルちゃん、ほとりん、二人ともやりますね! 私も、負けてられません♪」
 彩虹が作るのは、泰料理の刀削麺。
 片手に持つ生地を、もう片手の包丁で削る。包丁が閃けば、シュパパパッ! 小気味よい音。削られた生地が、湯だった鍋の中に。
「はぁッ!」
 頃合いを見、泰練気法を使用。体を輝かせ、さらに麺を削りだしていく。
 観客席は静かになる。食い入るようにして彩虹の技を見つめている。

 対戦相手の動きに比べれば、空の動きは地味だった。
 そば粉を手でこね、棒で伸ばし、畳み‥‥。
 けれど、
「でも‥‥なんか格好いいよな‥‥」「すごく真面目って感じ」
 観客の評判は決して悪くない。空が堅実に作業する様子が、好感を呼んでいるのだ。
(華のある動きは、皆さんにお任せしましょう。私は、一つ一つの作業を丁寧に‥‥)
 空は観客ではなく、目の前の蕎麦に集中し続ける。生地を切り、麺を形作って‥‥。

 時間が経過して、貴政は菜箸を片手に、盛り付けに入っていた。
 皿に、茹で終わったそうめんを載せ、形を整えていく。
(皆の様なパフォーマンスはやれないし、考えていた流しそうめんも難しそうだから、ここをしっかりしておかないと)
 麺は通常の白いものだけでなく、梅や茶を練り込んだものも。具には、椎茸、錦糸卵、胡瓜、煮豚‥‥。
 貴政は、それらの具を麺の上に丁寧に配置し、鮮やかな彩りを演出する。

●試食
 調理が終了して、審査員による試食の時間。
 まずは、貴政の冷やしそうめんから。各種の具が盛られ、涼やかな見た目のそれに、茗荷やネギなどの薬味を添えて、出す。
「客席の皆さんの分も用意しました。よければ、どうぞ」
 貴政は、多めに用意していた器に、そうめんを少量ずつよそい、観客に配る。彼の心遣いに、観客たちは大喜び。
 貴政のそうめんに、「綺麗ですね」と女性審査員が目を細める。麺の喉越しや手製のツユの味の評判も、決して悪くない。

「名付けて、草花の恵みそばーっ!」
 御子は意気揚々と、審査員の前に器を置く。
 こちらも冷たい麺だ。麺は小麦粉を主にした細いもの。具は山菜や野草のかき揚げ。
 審査員の一人、老婦人が麺をすすり、目を見張る。麺には山に自生するユズの皮を、少量混ぜていたのだ。ユズは、爽やかな後味をもたらしている。
 山菜のかき揚げも、歯ごたえとほどよい苦みが、心地よい。
 気に入りました、と審査員は微笑む。

 ほとりは、審査員に、そうめんと鰹出汁のツユを配る。
 会場の子供たちに、猫弓を渡し、審査員席から離れた所にある、円形の的を撃つように指示。的には「ゆず」「豆乳」「はちみつ」「とろろ」「梅干し」「納豆」等の文字。
 ほとりは、ベルナデットの協力を得て、的を回転させた。
「前菜のそうめんでは、弓を射てもらって、矢が当たったものを入れて召し上がって頂きます」
 彼女の言葉に、審査員は惹かれたようだ。自分のツユには何が当たるかと、射手と的に注目する。
 皆が、的当てそうめんを楽しんでいる間に、ほとりは主菜を準備。茹でたそうめんに、梅酒をかける。
 盛り付けでは、そうめんで丸顔、黒ゴマでつぶらな目、抹茶牛乳を寒天で固めたもので三角の耳を、それぞれ表現。緑の皿の上に猫の顔を描く。
 題して、黒猫そうめん。
 きゃっ? おいしっ! 女性審査員がそうめんの味に、驚きと喜びの声を上げるのを聞き、ほとりは、
「よかったです」と小さく笑んだ。

 ベルナデットは義姉の手伝いを終えると、今度は自分の料理を披露する。
 鶏がら出汁に蕎麦麺を合わせた、かしわそば。
 そばの香りとコクのある鶏ガラ出汁の相性は、抜群。
 舌包みを打つ審査員の前に、東條は湯呑みを置く。蕎麦茶を淹れたのだ。
「名付けてにゃんこそば。‥‥そうそう、蕎麦茶で割ったお酒も用意したわ。そっちがいい人は言ってね?」
 涼やかな声で、ベルナデットは言う。

 円秀の料理は、冷麺。具は、自分で漬けたキムチ、卵、胡瓜とホウレン草、海苔。赤と黄、緑に黒、それぞれの色が皿の上で映える。
「タレにはニンニクやショウガを使ってあります。苦手な人は仰ってください。これらを控えたものも用意していますので」
 円秀の言には、気配りが感じられる。だから、辛い材料を使っているにも関わらず、審査員らは和やかな雰囲気で、試食を進めていく。

「ぎゃあああ?!」と悲鳴。
 審査員が、マテーリャの夏野菜のかき揚げうどんを見て、悲鳴を上げたのだ。
「この町特産の夏野菜をふんだんに使ったかき揚げを、うどんに載せてみました。つけあわせの、茗荷の甘酢和えと胡瓜の酢の物は、食欲増進と‥‥」
 マテーリャがフード越しに説明するが、審査員の耳には届いていない。
 うどんの汁は何故か緑色で、かきあげは蛍光色の桃色。‥‥食欲をそそらない外見。
 味はよい。が、審査員が食べる決心をする前に、熱いツユは冷め、かきあげもふやけてしまう。良い評価は期待できなさそうだ。

「ちょーと辛いかもしれませんが、泰国の味を召し上がれ♪」
 彩虹が提供するのは、夏野菜の垣々刀削麺。
 麺に、厚い部分と薄い部分があり、それぞれ異なる触感で舌を楽しませる。具はキュウリやオクラなど。スープは炒めたひき肉に、唐辛子など各種調味料と鶏の出汁を混ぜたもの。ゴマが、香りと味に深みを出している。子供には辛みを和らげたものを提供。
 額に汗をかきながら、うまい! と声を出す審査員。

 最後は冷たい汁蕎麦。空の作品だ。蕎麦は、普通のそば粉でつくったもの。具も鶏にネギと簡素。いわゆる、普通の蕎麦。
 けれど、審査員はずるずる、無心で蕎麦をすすっている。
 吟味された材料を的確な動作で打った蕎麦は、香り、歯応え、喉越し、どれも素晴らしい。麺に絡む汁の味付けも、よい塩梅だ。
 派手な工夫はないが、蕎麦の魅力を引き出しきっている。
「ごちそうさまでした!」
「いえ、お粗末さまでした」
 食べ終え頭を下げる審査員たちに、空は穏やかに返礼する。

●結果発表
 料理は全て平らげられた。審査結果の発表が始まる。

「まずは、審査員特別賞から。――朝比奈 空さん!」
 目立ちはしないが、丁寧な仕事で作られた十割そば。素晴らしかったと、審査員の中の老紳士が述べた。
「そして、準優勝は同着で、趙 彩虹さんと長谷部 円秀 さん!」
 坦々刀削麺で、審査員に未知の触感と辛みを味わせた彩虹。唐辛子や大蒜、生姜、など、活力の出る素材をうまく使った円秀。
 審査員の男性は二人に言う。力が出る料理をありがとう、と。
「そして栄えある優勝は――
 ――茜ヶ原 ほとりさん!!」
 審査員たちは説明する。前菜のそうめんは、的当てを利用し、食べ手の遊び心をくすぐった。また、主菜の黒猫そうめんには、梅酒で味付けするという新発想があった。
 どちらの料理からも、相手を楽しませ元気にしようという意識が感じられた。それが、優勝の決め手となったのだ、と。
 優勝者と入賞者に観客から、惜しみない拍手が注がれる。
 円秀は、審査員や客席に頭をさげる。
 彩虹はほとりに駆け寄った。ほとりの右腕を取り、観客に見せるよう掲げた。ほとりは、自分の勝利を喜んでくれる仲間に、はにかんだ笑みを浮かべるのだった。
 ぱち、ぱち、ぱち。空は手を打ち鳴らす。上位入賞者たちを祝福する。

 客席からの拍手はやまない。
「井伊さーん。そうめんありがとー」
「東條氏のかしわそばも、コクがありそう。うちでもやってみる!」
 観客の二人が、貴政とベルナデットに声をかけた。
 貴政はひょうひょうと笑い、軽く頭をかく。
 ベルナデットは会釈をした後、仲間の入賞を祝うべく、彩虹らの元へ。
「でも、姉ちゃんの山菜のかき揚げもうまそうだったよな。俺も町の外に山菜とりに行きたくなってきた!」
「オスキュラ殿のかき揚げは、怖かったでござるが、面白かったでござるよ」
 観客の言葉は、御子とマテーリャにも。
 御子は「山菜の場所、町長さんに教えとくねー」と応える。マテーリャは苦笑しながら、恐縮して体を小さくする。

 観客たちが帰る頃、開拓者たちは主催者と、後片付けの作業に入る。夕焼けの中で、互いの健闘を称え合いながら。