【人形】穴と蜘蛛
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/01 20:01



■オープニング本文

●「からくり」
 アル=カマル、神砂船の船室より発見された、人間大の動く人形。
 陶磁器のように美しい肌は、継ぎ目ひとつ無い球体を関節に繋がれて、表情は無感動的ながらも人間さながらに柔らかく変化する、不思議な、生きた人形。
 あの日、アル=カマルにおいて神砂船が起動され、「からくり」の瞳に魂が灯ったその日から、世界各地で、ぽつり、ぽつりと、新たな遺跡の発見例が増えつつあった。何らかの関連性は疑うべくもない。開拓者ギルドは、まず先んじて十名ほどからなる偵察隊を出した。
「ふうむ‥‥」
 もたらされた報告書を一読して、大伴定家はあご髭を撫でる。
 彼らは、足を踏み入れた遺跡にて奇怪な姿の人形に襲われたと言うのである。しかも、これと戦ってみた彼らの所見によれば、それらはアヤカシとはまた違ったというのだ。
 なんとも奇怪な話であるが、それだけではない。
 そうした人形兵を撃破して奥へと進んでみるや、そこには、落盤に押し潰された倉庫のような部屋があり、精巧な人形が――辛うじて一体だけ無事だったものだが、精巧な人形の残骸が回収されたのだ。
「‥‥まるで、今にも動き出しそうじゃのう」
 敷き布の上に横たえられた「人形」を前に、大伴はつい苦笑を洩らした。

●穴と蜘蛛
 各地で見つかる新たな遺跡――その一つが、武天はとある山でも見つかった。
 崖の岩肌に、隠された扉があり、その向こうに、人工的な石造りの通路が広がっているのだ。
 開拓者ギルドはその情報を得、偵察隊を派遣した。
 だが、偵察隊は、数人負傷し、引き返してきたのだ。

 偵察隊の一人、中年のサムライが、ギルドにて他の者へ話をしている。
「……閉口したのは……足元さ。落とし穴が床のあちこちにあるんだよ。
 あるところを踏むと、突然床がぽっかり開いて、下におちるってやつ。穴の高さは、二階くらいかな。死にはしないが‥‥」
 そこまで言うと、サムライは顔をしかめた。
「しかも、出てくる敵さんは、足元を注意しないでいい、ときてやがる。ムカつくことに。
 コウモリみたいなアヤカシが飛んできて噛んでくるし、天井からツタのような触手が伸びてきて、絡みつこうとしてきやがる。
 どっちも弱かったがな。
 弱くない奴もいた。――『蜘蛛』だ。いや、虫の蜘蛛じゃねえ。‥‥人形の体に、足が四本、手が四本生えているんだ。
 そいつらは本物の蜘蛛みたいに、壁や天井を這ってくる。手裏剣を投げてきたり、近くによれば、鎖分銅を使ってきたり‥‥。厄介な奴らだったよ。
 で、『蜘蛛』どもとの戦いの途中で俺らは引き返した。俺ら、だいぶ消耗してたし、奥に何がいないとも限らねぇし。
 ‥‥ふん、臆病者だと笑いたきゃ笑えばいいさ」
 サムライは怒ったような口調で言うと、ギルドの出口へ歩いていく。
 ギルド員は彼を見送った後、遺跡の探索者を募集する張り紙を作成。掲示板に張りつけた。


■参加者一覧
煙巻(ia0007
22歳・男・陰
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
巳(ib6432
18歳・男・シ
革帯 暴食(ib6553
25歳・女・泰
アイラ=エルシャ(ib6631
27歳・女・砂
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲


■リプレイ本文

●コウモリとツタ
 開拓者たちが立っているのは、石造りの床の上。空気は澱み、やや息苦しさを感じさせる。
 入ったばかりの入口からは陽が差し込んでいる。入口は南にあり、通路は北にまっすぐ伸びていた。
 開拓者たちは先程、武天にある遺跡に入り、探索を開始したところだ。
 アイラ=エルシャ(ib6631)の手には折りたたまれた紙。
「マッピングが必要よね。任せて、ちゃんと地図用の紙を用意して――あ」
 紙を開いて、動きを止める。それは地図の白紙ではなく、甘味マップ。甘味屋の場所はこれでバッチリ! ‥‥探索の役には立たないが。
 地図は他の人に任せるわ、とアイラは苦笑しつつ地図をしまう。

 代わって地図担当になったのは、鈴木 透子(ia5664)。皆と歩きつつ、地図に筆を走らせる。
「偵察隊が作動させた落とし穴は、作動前に戻ってますね‥‥地図に、位置を書いて――」
 先頭を歩く巳(ib6432)が通路上に見つけた罠を、紙に記載していく。
 透子の独白と思索を、
「‥‥なにか来るぞ!」
 巳の声が遮った。巳の超越聴覚は、前方に羽ばたきの音を、捉えたのだ。
「構えろ‥‥ただ、道のあちこちに落とし穴がある。敵が来るまでに目印をつけておくから、踏まないように闘ってくれ」
 と、告げる。

 現れたのは、コウモリのアヤカシたち。数は十匹以上。キィキィ、高い声をあげ迫ってくる。
 銃声。
 コウモリ二匹が地面に墜落。
 アイラの白と黒の拳銃二丁が、火を吹いたのだ。
「うん。私の手には地図よりこれね! アヤカシ達、私の二丁拳銃からは逃れられないわよっ」
 銃を構えたまま、宣告するアイラ。
 彼女の技に、闇野 ハヤテ(ib6970)が目を細めた。戦闘前は松明を持っていた彼だが、今は早撃ちの戦闘態勢を取っている。
「スイマセン。俺も続かせてもらいますね」
 ハヤテの単筒から、強弾撃。威力ある弾が、コウモリにめり込む。

 コウモリは、後衛の攻撃に怯みつつも、さらに接近。開拓者前衛に飛びかかる。
 一匹が杉野 九寿重(ib3226)の肩に噛みつこうとするが、九寿重は足を動かさず、上体のみをそらして回避。
 そして、攻撃を放ったばかりの敵を、黒き刃で両断。瘴気が飛び散った。
 敵一匹を瞬殺しつつも、彼女の目に油断はない。心眼で前方を見、仲間に、呼びかける。
「皆さん――油断しないでください。前から増援がきます!」
 彼女の警告通り、新たな敵――ツタに似た、緑色の触手が幾本も、ガサ‥‥ガササ‥‥天井を這い、近づいてくる。
 九竜・鋼介(ia2192)は異形の敵に、表情を変えることもない。そればかりかこう言ってのける。
「――ツタのアヤカシも来たようだな。ツタだけに天井をツタって」
 え?
 仲間数人が、顔を引きつらせた。
 だが、鋼介は平然。体に巻きつこうと伸びてきた触手に、「虎徹」を閃かす。敵を切断し、消滅させた。
 両手をベルトで縛られた革帯 暴食(ib6553)。彼女のもとにも、コウモリや触手が襲いかかる。
「オーイオイッ! 喰えねぇ雑魚が束っても、鬱陶しいだけだってッ! ――蹴って潰して、かみ殺してやるサッ!」
 暴食は哄笑しつつ、コウモリの顔に足の裏を突き刺す。絡みついてきたツタには、口を近づけ――噛みちぎる!
 開拓者たちの猛攻に、アヤカシどもは次々に消滅。コウモリは全滅し、触手アヤカシも、残り二本。
 触手アヤカシは戦意を喪失したのか、元来た道を戻ろうとしている。
 煙巻(ia0007)は白いフードの奥から敵を見つめる。
「後々、絡みつかれると厄介だ。――ここで刈らせて貰おう」
 煙巻は天儀人形の顔を、アヤカシに向けた。真空の刃が発生し、触手アヤカシを刻む! アヤカシは床に落ち、のたうちまわり――消滅。

●蜘蛛との遭遇
 敵を倒し、歩き続ける一行。
 しばらく歩いたところで、透子が立ち止まる。つけていた地図から顔を放した。床の一点を指す。そこを調べて欲しい、と仲間に頼む。
 はたしてそこには、隠された落とし穴。
「罠の配置には、一定の規則があるようです。理由は分かりませんが」
 巳の忍眼にも見落としがない訳ではない。が、透子が罠配置の規則を見破ったことで、罠発見率が高まる。
 開拓者たちは罠にはまらず、探索を続けていく。アヤカシが散発的に現れるが、これをなんなく撃破し先に――。

 南から北にまっすぐ伸びた通路は、ある一点で西に折れ曲がっていた。
「この先の天井に、何かがいます」
 曲がり角の手前で、九寿重が鋭い声をあげた。彼女の心眼は『視た』。角の先に微弱な生命反応が、複数ある。
 一斉に武器を構える開拓者。
 曲がり角の先で、天井に張り付きながら、開拓者たちを待ち伏せていた『モノ』。
 開拓者が自身の存在に気付いた事を察したか、ソレらは天井を這いながら角を曲がり、姿を現す。
 ソレらは、人形。数は八。胴体からは、やたらと細長い手足が四本ずつ生えている。その姿は――『蜘蛛』。蜘蛛人形たちは、無表情な顔で開拓者を見降ろしている。

「キモッ! 誰だよっ、あんなの作ったの! 趣味が悪いにもほどが――くうっ!」
 敵の姿に喚いたのは煙巻。彼の視線の先で、蜘蛛人形の手が動いた。持っていた手裏剣を投擲してくる。手裏剣は煙巻に当たった。
 刺さった刃の痛みを、煙巻は堪え、呪縛符と斬撃符を投げ返す。二種の式はともに手足に命中。蜘蛛人形の体が揺れた。
「今なら、かわすことが出来ない筈!」
 天井で姿勢を崩す敵に、ハヤテは躊躇なく銃口を向けた。発砲。――蜘蛛人形は背中を撃たれ、さらに姿勢を崩す。
 一方、透子は普段通り、ぼんやりした眼で敵を観察していた。
「心眼の効きが弱く、傷口からも瘴気が見えない‥‥やはりアヤカシとは別物? 火もあまり邪魔に思っている様子もありません。
 いえ、それより、今のように天井にいる状態だと、前衛の方の武器が届きませんから‥‥」
「私たちの射撃や術で、天井から床へ撃ち落とす必要があるわね。やってみましょうか」
 アイラは透子の言葉を引き継いだ。アイラの口調も表情も自信に満ちたもの。アイラは、二丁拳銃で発砲。天井を這う敵の腰にひびを入れた。
 さらに九尾の狐が現れた。透子が召喚したのだ。狐は高く跳び、爪で蜘蛛人形の腕を抉る!
 精密な射撃と狐の獰猛な攻めに、蜘蛛人形は床に落下。
 人形の落下点に、三人――暴食、巳、九寿重の三人が立つ。
「ケラケラ! ケラケラケラ! 蜘蛛人形ちゃん、ようやくお出ましだねッ!」
 暴食は体を赤く輝かせながら、落ちた人形に飛びかかる。人形の頭部に自分の額を激しくぶつけ、肩口に鋭い犬歯を突き立てた。
 巳は忍刀を振う。斬撃に、人形の一部が欠け、破片がとぶ。
 蜘蛛人形は、両手足を動かしだした。八本の手足で地面を素早く這う。シャカシャカと音を立て、目指しているのは、壁。
「‥‥また天井に逃げるつもりですか? させません――っ!」
 追撃したのは、九寿重。巻き打ちで蜘蛛人形の足の一本を使用不可能なほどに、傷つける。が――蜘蛛人形は止まらない。
 さらに残りの蜘蛛達が天井から、九寿重や暴食、前衛達に手裏剣を投げる。
 降り注ぐ大量の手裏剣。鉄の雨のごとく――。
 開拓者らが手裏剣の雨に翻弄されている間に、蜘蛛は床から壁を登り、再び天井へ。

●破壊
 天井から、執拗に手裏剣で狙ってくる敵は、標的を後衛に絞り始めていた。後衛も必死に反撃するが、後衛だけでは致命的な傷を与えるのは難しく、床に落とす事も容易ではない。
 鋼介は眉を寄せた。
 前衛の武器がほとんど届かぬ以上、後衛が倒されれば、天井に張りつく敵への、攻撃手段はなくなる。――事態を打開せねば。
「俺が惹きつける。‥‥その隙に頼む!」
 仲間に言うと、息を限界まで吸い込み――咆哮!
 結果、蜘蛛人形のうち四体が天井から地面に降りた。やはり無表情な顔をいまは鋼介に向けている。
 蜘蛛の拳が鋼介を打つ。あるいは鎖分銅を首や足に絡ませ、体勢を崩そうとしてくる。
 不動で体を硬質化させ耐える、鋼介。
 それでも攻撃の激しさに、膝をつきかけるが、
「支援する。なんとか耐えてくれ」
 煙巻が治癒符を投げつけた。鋼介の体にできた打撲の痕が消えていく。
 煙巻の顔はすでに常の落ち着きを取り戻していた。冷静な目で戦況を見る。
 彼の視線の先で、九寿重も動いていた。
 黒髪を揺らしながら、咆哮影響下にある人形に接近。九寿重が刃を振った直後、蜘蛛の人形の体にヒビが広がり――動きを止めた。

 だが、蜘蛛人形全てが、咆哮の影響を受けたわけではない。一体が、後衛の眼前に着地し、ハヤテに襲い掛かっていた。
 敵の鎖が、ハヤテの足を打ち、胴に巻きついた。だが、ハヤテは狼狽しない。
「――アイラさん、いまですっ!」
「了解。今、助けるから!」
 彼の声にアイラが応え――サリックで弾丸を発射、蜘蛛人形の両腕を貫く。
 ハヤテを縛っていた鎖がほどけた。ハヤテは即座に反撃を開始。強弾撃、そして単動作でもう一発。
 二人の射撃に、蜘蛛人形は破損し、動きも鈍り出していた。アイラとハヤテ、二人の瞳に勝利への確信が浮かぶ。

 敵の多くが咆哮につられ地上に降りた事で、戦局が変わった。開拓者は、前衛と後衛の連携攻撃で、蜘蛛人形を傷つけ破壊していく。
 敵の数は、今や残り一体。
 だが、開拓者たちも傷を負っている。それを癒す手段も、ほとんどない。
 特に深い傷を負っているのは、咆哮で敵を引き寄せていた、鋼介。
 耐えられるのは、後一発か? だが、鋼介はひかない。残った蜘蛛めがけ直進。飛んできた手裏剣を盾で弾く。
「この程度か! 今度はこっちから行くぞ」
「私も加勢します。呼吸を合わせていきましょう――」
 後衛から透子が声を飛ばした。透子は蒼き燐光を放ちながら、術を行使。
 白狐二匹の爪が敵の肩を砕き、鋼介の直閃が敵の首に食い込む。
 蜘蛛は傷だらけになりながらも、なお暴れる。拳が巳の腹を殴り、手裏剣が暴食の額に刺さった。
 巳は体をくの字に折り曲げたが、それは一瞬。即座に、短刀を突き出す。狙いは、敵の関節。蜘蛛の足が、ちぎれた。
 暴食は額から流れ上唇に着いた血を、舌でなめとっていた。
「ケラケラ! 最高の食前酒だヨッ! モチロン、主菜は――ケラケラケラッ!」
 銀目に狂気を湛え、暴食は跳ぶ。着地点は蜘蛛人形の頭の上。人形を両足裏で、踏みつぶす!
 ゴキ。鈍い音。――蜘蛛人形を終わらせた。

●最奥
 人形の残骸を越えた開拓者は――前方に突きあたりの壁と、扉を発見する。
「‥‥罠はねぇ、な」
 巳の確認後、ギィ、扉をあける。
 扉の向こうの小部屋では石の棺桶が、十五、並べられていた。
 鋼介が棺桶の蓋を外すと――
「‥‥人形、か?」
 そう、それは人間と同じ大きさの人形だった。先ほどの蜘蛛人形と違い、まっとうな人間の姿をしている。
 首輪をつけた彼らは、目を閉じていて動き出す気配はない。
「ケラケラ! 美味そうな物みっけ!」
「食べる訳にもいかないだろう。‥‥いくつかはギルドに運ばなければ。全てを持っていくのは無理だろうが」
 不穏な発言する暴食に、煙巻が釘をさす。
「ええ‥‥敵の残党に遭遇したことも考えると、運び手を守れるようにしなくてはならないでしょうから‥‥持っていくのは二つにしませんか?」
 九寿重が提案し、仲間と人形を担いだ。
 残党や落とし穴を警戒しながら、遺跡の外に――。

 外に出た途端、山の新鮮な空気が肺に流れ込んでくる。太陽の眩しさ、空の青、雲の白、木の緑と茶、遺跡には無かった鮮やかな色。
 開拓者たちは、その場に人形を置き、座り込んで休憩する。
 風がそよぎ、肌をなぜた。ハヤテの茶髪がほんの少しだけ揺れる。
「‥‥あとはギルドまで人形を運んで報告するだけ。無事終わりそうですね‥‥」
 そう言いながら、ハヤテは懐から紙を取り出した。器用に折り曲げ、紙飛行機を作る。紙飛行機は、風の中をまっすぐ飛んでいく‥‥。
 空から鳥の鳴き声。まるで、開拓者の帰還を喜んでいるように、聞こえた。