親子喧嘩と襲撃者ども
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/14 19:58



■オープニング本文

 武天は此隅近くの町。
 その町の酒場兼食堂に、開拓者である、あなたたちは来ていた。
 窓からは月の出た夜空が見える。
 隣の席には、酔っ払い気味の中年男性が座っている。整った顔立ちをしているものの、気弱そうな表情。

 中年男性――ヨタロウという名の男は誰ともなく、話しかけている。
「あたしんちではね、嫁さんが働いてるんでさ。で、あたしは家で家事」
 ヨタロウの話は続く。
 外で働く妻を、ヨタロウが美味しい料理を作り家を清潔に保ち、支援する。夫婦関係は良好。
 だが、ヨタロウたちの息子ジュンイチは、父のことを不満に思っていたのだ。
 そして、妻が長期出張中の今日の昼、ジュンイチの怒りが噴出した
「なんでうちは母ちゃんばっかり働いているんだ」「よそのうちじゃ、母ちゃんがご飯を作ってくれるって!」「父ちゃんが怠けてるから、母ちゃんが働かないといけないんだ!」
 ジュンイチは、ヨタロウを罵る。ヨタロウが反論できないでいるうちに、ジュンイチは家を飛び出していった。
 で、夜になっても戻ってこない。
「息子がどこにいるかは分かってるんですよ……町外れの森の奥に小屋がありましてね。息子は気に入らない事があるといつもそこに行くんです。
 知り合いも森に入るのを見たらしいですし、間違いはない。
 森は危ない動物もいないし、一晩だけ過ごすなら悪い場所じゃありません。……明日には朝一番に必ず迎えに行くつもりですが……」
 ヨタロウは酒場の壁を見つめ、溜息をついた。

 突然、酒場の入口の扉が開いた。
「てーーーへんだーーっ!」
 入ってきた男が声を張り上げる。
「アヤカシがきたぞっ!」
 男の話によれば、アヤカシたちが街に襲来し、すでに一軒の家が被害に遭ったらしい。
 アヤカシの数は四体。
 家の壁を、鬼の少女が自分の身の丈よりも巨大な木槌で殴り、老人の鬼は衝撃波を手から飛ばした。さらに、彼らにつき従う黒犬二匹が口から氷を噴く。
 家は短時間で破壊されてしまった。
 ――人間の死者は出なかったが、飼っていた犬や鶏が犠牲になった模様だ。
「で、そのアヤカシは今どこに?」
「アヤカシは家を壊してから移動して、今は森の入口で座り込んでじっとして――」
『森の入口』。その言葉を聞いた途端、ヨタロウは顔を青ざめさせる。立ち上がり酒場を飛び出ていこうとする。
 居合わせた客たちは、開拓者であるあなたたちを見る。
「あなた達、開拓者ですよね? ヨタロウさんが危ない!
 どうか、アヤカシを倒して、ヨタロウさんやジュンイチの坊主を助けてください。――お願いです!」
 そして、あなた達は――。


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
月酌 幻鬼(ia4931
30歳・男・サ
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
白藤(ib2527
22歳・女・弓
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
如月 瑠璃(ib6253
16歳・女・サ
アイラ=エルシャ(ib6631
27歳・女・砂


■リプレイ本文

●始まりは酒場で
 開拓者たちは酒場の中にいた。
 目の前では、中年男、ヨタロウが酒場を飛びだそうとしている。
「待ってろ‥‥今、父ちゃんが‥‥っ」
 周りの町人たちが、危ないからと引きとめる声も聞こえていないらしい。
 開拓者の一人、鈴梅雛(ia0116)は手を伸ばし、隣に座る月酌 幻鬼(ia4931)の服の裾を引いた。
「お父さん、行きましょう」
「おお、鬼がいるとなりゃあ、丁度いいしな」
 幻鬼は雛に応え、指をボキっと鳴らす。二人は立ち上がり、ヨタロウに近づく。
 他の六人の開拓者も、二人に続いた。
 ルエラ・ファールバルト(ia9645)は、ヨタロウの前にたつ。胸に手を当て名乗る。
「志士のルエラと申します。私たちは開拓者で、アヤカシとの戦いに心得があります。ジュンイチさんの保護に同行させて頂けませんか?」
 頭を深々とさげるルエラ。
 ルエラの誠実な口調が、ヨタロウを信用させたようだ。ヨタロウは、有り難うございます、お願いしますと頭を下げ返した。
「なぁに、礼には及ばん。巨大な得物をもつアヤカシに、わしも興味がある故な」
 如月 瑠璃(ib6253)は赤い瞳の奥に、愉しげな、強者を求める武人特有の光を浮かべていた。

 開拓者とヨタロウたちは酒場を出、町外れへ走る。
 そして、森の入口付近でアヤカシの姿を見つけ、道脇の茂みに隠れた。
 アヤカシは四体。黒い犬型の者が二体に、赤い着物を着た少女鬼、腰の曲がった老人鬼。犬は地面に伏せ、鬼は腰を落としている。開拓者に気づいた様子はない。
 ヨタロウの息子ジュンイチがいるのは森の奥の小屋。その小屋には、鬼の横――鬼の近接武器は届かないが、飛び道具なら届く距離――を通らないと行けない。他の道もあるが、相当な遠回りになる。
「‥‥あの四体の他に、アヤカシの気配はないなー」
 瘴索結界で探った結果を、笹倉 靖(ib6125)が報告する。
 開拓者たちは状況とヨタロウからの情報を確認し、作戦を手短に打ち合わせる。
 打ち合わせを終えると、アイラ=エルシャ(ib6631)はヨタロウの顔を見つめた。
「ヨタロウさん、ヨタロウさんのことはしっかり護衛するけど、私たちから離れないように。約束よ?」
 ヨタロウを不安にさせないように力強く、けれど、油断をさせないように真剣に、言う。そして、アイラは撃破班を担当する仲間五人へ、視線を移した。
 その五人は、茂みからでる。茂みから離れた位置に立ち、
「皆さん、準備はいいですか? ‥‥では吹きますよ?」
 白藤(ib2527)が呼子笛に唇を宛がい、吹き鳴らす。
 アヤカシ四体は音に反応した。立ち上がり、戦闘の構えをとり、白藤たち五人にゆっくり近づいてくる。
 巴 渓(ia1334)は敵が来るのを待たない。地面を蹴る。
「さあ、コイツらを釘づけにしてやんぞ! ――犬っころが! 喰らいやがれ‥‥っ」
 瞬速で敵との距離を詰め、犬の側面に回り込む。
 小手を嵌めた手で手刀を作り、犬の背骨に叩きつける! 鈍い音がした。

●闘う者と助けに行く者
 ルエラ、アイラ、靖が、ヨタロウを連れ、茂みから飛びだした。撃破班五人とアヤカシの戦闘が始まったのを、森奥に行く好機ととらえたのだ。四人は、アヤカシの横を過ぎようとする。
『――増援? 後ロニ、回リ込ム、ツモリカ?』
 老人鬼が、四人に気づいた。掌から気の塊を生み出し、飛ばしてくる。
 犬二体も、ガオウ、と吠えた。開いた口から氷のつぶてが飛び出る。
 気の塊は靖の頭に命中。靖はぐらつく。隣のヨタロウがひぃと悲鳴をあげた。
「大丈夫だって。たいして痛くねーし。それよりヨタロウ、足を止めちゃ駄目だぞ?」
 靖はすぐに体勢を立て直し、ヨタロウに笑いかけてみせる。
 その隣では、
「せいっ!」
 ルエラが飛んできた氷を白銀の刃で斬り払い、抵抗。
「妙な力を持っているようだけど――簡単には、させないわよ?」
 アイラは白い短銃の銃口を老人鬼に向け、引き金を引いた。直後、弾丸が鬼の足に命中。
 アイラをにらむ老人鬼の後頭部に、
「よそ見とはいい度胸だな、同族の鬼ぃっ!」
 幻鬼が青龍戟を振り回す! 両断せんとばかりに叩きつけるっ! グヘェ――悲鳴をあげる老人鬼。
 ルエラは心眼「集」で前方を『見』つつ、呼びかけた。
「今です、ヨタロウさん、笹倉さん、アイラさん、行きましょう! 幸い、前方には、敵は見えません。だから、このまま一気に!」
 鬼たちが攻撃にひるんだ隙を逃さず、救出班三人とヨタロウは森の奥に向かって走っていく。

「皆さん、頑張りましょう。ジュンイチ君やヨタロウさん、町の皆さんを危険に合わせないためにも‥‥」
 撃破班の皆を鼓舞するのは、雛。普段は控えめな声の彼女だが、今は懸命に声を出す。さらに踊る。精一杯手足を動かし、瑠璃を強化した。
 強化された瑠璃が立つのは、木槌を持つ少女鬼の前だ。
「雛よ、かたじけない――さて、そこな鬼の娘よ。アヤカシといえど、武人とお見受けいたす。いざ尋常に勝負せい!」
 瑠璃は頭上にて、長巻を回転させる。回転を止め、少女鬼の脳天へ刃を振り落とす!
 刃は少女の頭に命中。頭部に傷ができ、そこから、ドス黒い瘴気が漏れ出した。
 だが、少女鬼は倒れない。お主なかなかやるの、と瑠璃が視線を送ると、鬼の少女はフフフ、と嬉しそうに笑う。
 渓は、犬二体から狙われていた。犬の片方が渓の足に噛みつこうとし、それをよければもう一体が氷のつぶてを吹きつける。
 さらに追い打ちをかけようとする犬の足を――矢が射抜いた。
 白藤が夢魔の弓より放ったのだ。
「‥‥巴さん、いけますか?」
「おお――叩きこんでブチかましてやるっ!」
 白藤の凛とした言葉に、渓は応え、腕を突き出した。
 拳が犬の顔に、激突。犬はきゃいいん、悲鳴をあげた。

●安全確保と激戦
 ヨタロウと共に森の奥に向かった三人は、小屋に辿りついていた。
 小屋の中にいたジュンイチは、入ってきた父親を見て、顔を赤くする。父親の脇をすり抜け、小屋の外に行こうとするが、靖がジュンイチの襟首を掴んだ。
 ジュンイチは手足をばたつかせるが、靖は掴んだ手を放さない。
「逃がさないよ? 向き合わずに逃げるなんて餓鬼のすっことだぞー」
 反論しようとするジュンイチの前で、ルエラはしゃがみ込み視線の高さを合わせた。
「ジュンイチさん、聞いて下さい。実は、アヤカシが町に来たんです。――それでお父さんと私たちは、ジュンイチさんを助けに来ました」
 靖に掴まれていたジュンイチは暴れるのをやめる。本当? と聞き返してくる。
 アイラは、本当よ、と頷いて見せた。
「でも、もう大丈夫。安心していいわ。だって、お父さんが助けに来てくれたから。ね、ヨタロウさん?」
 アイラはヨタロウの背後に回り、背中をとん、と押した。靖もジュンイチから手を放した。
 ヨタロウはジュンイチに歩み寄る。最初はアイラに押された勢いで、けれど最終的には自分からジュンイチに近づき、ジュンイチの体をぎゅっと抱きしめた。
「わわ?!」
「無事で‥‥よかった‥‥」
 抱きしめられ混乱するジュンイチと、構わず抱き続けるヨタロウを見て、アイラ、ルエラ、靖は互いに顔を見合わせ、微笑んだ。

 森入口での戦いは決して順調ではない。
 瑠璃の腹に木槌がめり込む。瑠璃の体が吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられる。
 幻鬼もまた、地面に両膝をついていた。角を狙った攻撃がかわされ、顎を気で撃ち抜かれたのだ。
 雛は舞いを止めた。雛の全身が輝き、癒しの力を持つ光が皆の体に降り注ぐ。
「皆さんは、ひいなが全力で支援します。心配せず、攻撃に集中して下さい」
 雛の癒しの力は強い。傷ついた幻鬼や瑠璃は体勢を立て直し、再び攻めに転ずる。

 戦況は開拓者が有利。だが、開拓者は決定打を欠いてもいた。
 雛が支援し、幻鬼と瑠璃が鬼を抑え、白藤と渓が犬を撃破――それが開拓者の基本戦術。
 だが、白藤と、戦力温存中の渓だけでは、犬を倒すには時間がかかる。
 唐突に、犬二体が攻撃をやめた。二匹は走り出す。深手を負った一体は、森の奥へ。もう一体は、開拓者たちをすり抜け、開拓者が来た方向、町中に向かう。
「‥‥いけないっ、ここで倒さないと‥‥っ!」
 白藤は息をとめた。弓を持つ手と弦を引く手に、錬力と全神経を集中させ――放つ!
 矢は深手を負った犬の頭蓋を貫き――犬を消滅に追いやった。
 もう一体は、町に向かって駆けだしていたが――渓が瞬脚を使い、犬の前に回り込む
「遅いんだよ、犬妖魔がっ! てめぇらにはもったいねぇが、とっておきを出してやるっ!」
 渓は跳んだ。そして、犬の顔面めがけて落下する。精霊力を満たした足、その足の裏で、犬の顔を――踏みつぶす! 犬は情けない悲鳴をあげ、のたうちまわった。

 やがて、開拓者五人はもう一体の犬を倒すことにも成功。犬担当の二人が、鬼への攻撃に回り――流れが変わった。
 幻鬼は、老人鬼に気をぶつけられ、額から血を流しつつ、笑う。
「いい一撃じゃねぇか。同族だけある。その力、寄越せ‥‥寄越せぇぇぇ。力ああ、その角おおおおおおお、寄越しやがれええええええええっ!!」
 鼓膜を潰さんばかりの絶叫。幻鬼の筋肉が、異様に盛り上がった。
 幻鬼は戟で鬼の角を殴りつける。顔を庇おうとした老人鬼の細腕ごと、力任せに打ちつけるっ!
 その隣で、
「おぬしの癖、見切ったわ――これで仕舞いにさせて貰おう!」
 瑠璃は少女鬼の木槌を野太刀にて払う。
 瑠璃は返す刀で、少女鬼の足を斬る。体勢を崩した鬼に――スマッシュを叩きこんだ!
 老人鬼と少女鬼は、倒れ、起き上がらぬまま――消える。

●帰路
 敵を倒した撃破班五人は、森の奥に行き、救出班三人と合流。
 今は町に戻るべく森の中の道を、全員で歩いている。
 一番先頭を歩くのはルエラ。いつでも抜刀出来るよう、刀の柄に手をかけている。万一別のアヤカシに遭遇した時に対処するためだ。
(ヨタロウさんとジュンイチさんが無事帰るまでが、依頼ですからね)
 心眼「集」で周囲の気配を探りながら、歩き続ける。不審な気配は感じられない。
「なかなか面白い奴らであった。この街に来たのは、観光と武者修行を兼ねてであったが、来た甲斐はあったの」
 瑠璃はアヤカシがいた方向に目を向け、うむ、と一人頷く。
 幻鬼は、傍らにいた娘、雛の頭に手を置いた。
「雛よ、よく頑張った」
 大きな掌で、優しく撫でてやる。

 渓は、隣を歩くジュンイチに話しかけていた。
「親父が男らしくないのが嫌か? 視野が狭い。俺みたいな女も、笹倉みたいな男もいるんだ。――男とか女らしくじゃなくても、自分らしくありゃあいい」
 お前の親父は、親父らしく自然に生きてんだよ、と渓は言い聞かせる。
「人には向き不向きがあってね。私も女だけど、家より外にいる方が向いているわ? それにね、お父さんが家を守るのだって立派な仕事よ」
「君のお父さんやお母さんは、家の事や仕事をしてる時、楽しそうじゃない? 家族が楽しく笑顔なら、それが最上の事だと思うの」
 明るい調子で語りかけるアイラ。穏やかに言葉を紡ぐ白藤。
 巴、アイラ、白藤の言葉は、ジュンイチの胸に届いたようだった。
 それでも、
「でも‥‥父ちゃん、かっこわるいし‥‥」
 と弱々しく反論してくる。
 先程幻鬼に撫でられていた雛が、ジュンイチの手を取った。違いますよ、と首を左右に振る。
「ヨタロウさん、アヤカシが森に行ったと聞いて、すぐに飛び出していったんです。ヨタロウさんは格好悪くなんて無いです。とても立派なお父さんです」
 雛の声は小さい。が、それでも自信に満ちていた。
 靖はヨタロウと共に、最後尾を歩いていた
「子供に何言われても、とりあえずはどっしり構えておけよ? ――アンタが不安そうだから、頼りがいないって思われるんだぞ? 今日みたいに、やりゃあできんだから、さ」
 ヨタロウは靖の言葉を黙って聞いていた。靖が言い終わってから十秒以上して、ヨタロウは頭を下げる。
 頭をあげると、自分の息子に近づいていった。
――父ちゃんな‥‥
 息子へ語りかける父親。父親の言葉を神妙に聞いている息子。開拓者たちは、満足そうに頷きあう。