冒涜者、許すなかれ
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/16 22:25



■オープニング本文

 かつて、『舞天龍』(ブテンリュウ)という格闘家集団がいた。
 彼らは志体を持たぬ身ではあったが、名を知られてもいた。
 観客を集め、舞台の上で格闘技の試合をおこなうのが彼らの仕事。
 試合中に、観客の興味を引くため滑稽な仕草を入れたり、或いは技名を叫んだり観客にサービスしながら。
 ある者は、舞天龍を罵った。真剣勝負ではないと。彼らは格闘家ではなく芸人だと。だが、彼らの戦いに胸を熱くする観客も、確かにいたのだ。
 ある日。武天はとある村で、舞天龍が闘いを披露している最中――アヤカシの群れが村に襲来した。
 舞天龍の団員は村人たちを逃すべく、アヤカシに立ちはだかった。
 村人たちはそのほとんどが、安全な場所まで退避できたが――団員は全員が死亡。
 その後アヤカシは、開拓者によって撃退され、村人も村に戻る。
 村人たちは、舞天龍の格闘家たちに感謝し、彼らを称えるための石碑を建てたのだった。

 そして、数年後の今。村に再びアヤカシの群れが現れた。
 そのアヤカシは人型で――死亡した『舞天龍』団員に酷似していた。

 武天は此隅にある開拓者ギルドで、ギルド員が開拓者に、依頼内容を説明している。
「……という訳で、近くの村から依頼がありました。村に陣取るアヤカシを退治してほしいと」
 アヤカシは、広場に陣取っている。
 広場は村はずれの森の中にある。広場の隅には、格闘家のための記念碑があったが、既に破壊されている。
 広場は、開拓者とアヤカシ全員が、十分闘える広さ。
 広場への出入り口は、村へと続くものが一つ。
 広場の周囲は木々に囲まれている。木と木の間をうまくくぐれば、出入り口以外からの出入りも可能だろう。

 アヤカシの総数は、五体。
 アヤカシは、舞天龍メンバーのうち、次の五名に似た姿をしている。
 一。ナゲヤ。10代後半の青年。生前はいかなる体勢からでも、相手を投げ飛ばすことが出来たという。
 二。テンニョ。10代後半の女性。極めて素早く、飛び跳ねる動きと空中技で敵を翻弄する。
 三。カエン。中年の小男。口から炎を吐いたり、どこからともなく、ナイフやこん棒などの武器を取り出したりした。
 四。クマクマ。舞天龍に飼われていたクマ。爪と噛みつきが武器。
 五。テツ。筋肉質の男。複雑な技は使わない。が、極めてタフ。生前はクマクマの攻撃をなんど受けても倒れなかった。
 アヤカシ達は戦闘でも、生前の舞天龍の団員と似た動きをし、似た技を使うが――
 ――アヤカシ達の身体能力も技の威力も、生前の舞天龍団員を大きく上回る。油断すれば、開拓者とてただでは済まないだろう。

「……彼らが格闘家だったにせよ、芸人だったにせよ……最後に人を救う為に戦ったことは、事実。
 彼らと同じ姿をしたものが、人に害悪を為すのは――許せない事」
 ギルド員は拳を痛いほど強く握った。
「必ずや――そのアヤカシどもの討滅を。木端微塵にしてやってください」
 どん。ギルドの机を強く叩き、懇願する。かつてはこのギルド員も舞天龍の試合を観戦した事があるのかもしれない。
 ギルド員は旅立とうとする貴方たちに、瓶を数本手渡した。上等の天儀酒のようだ。
「……彼らはいずれも酒豪だったと聞きます……。闘いが終わったら、皆さんでどうぞ」


■参加者一覧
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
藍 舞(ia6207
13歳・女・吟
レイシア・ティラミス(ib0127
23歳・女・騎
アッシュ・クライン(ib0456
26歳・男・騎
東鬼 護刃(ib3264
29歳・女・シ
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
雹(ib6449
17歳・女・陰
灰虎(ib6456
22歳・男・泰


■リプレイ本文

●開戦の鐘は鳴る
 午前中。村から広場へ続く道を、開拓者八人は駆ける。鳥の鳴き声に耳も貸さず、前へ、前へ。
 彼らの目が、目的地である広場を捉えた。
 そこに、五体のアヤカシが立っている。

「みんな、打ち合わせ通りにいくよ。頑張ろう! この戦いは絶対負けられないんだからっ」
「ええ。あの姿に対して攻撃を仕掛けるのは、躊躇いがありますが‥‥これ以上彼らの魂を汚させないために‥‥」
 新咲 香澄(ia6036)が、皆に檄を飛ばす。彼女の紫の瞳には、敵への憤りが混じっていた。
 香澄に同意する雹(ib6449)の表情はどこか哀しげ。
 二人は術を行使する。輪の形をした焔と真空の刃が生まれ、飛ぶ。アヤカシのうち二体、武道着の青年ナゲヤと無精髭を生やした小男カエンに、悲鳴をあげさせる
 上半身裸の大男テツが雄叫び、白い毛皮のクマクマが吠える。二体は術を放った者へ突き進むが――
「死者を冒涜する貴様らの、思い通りにはさせん!」
「円秀、あっしも手伝うでやんすよ」
「クマクマ、お前の相手は俺だ。その辺の獣アヤカシとどう違うか、見せてもらおうか」
 テツの直進を、長谷部 円秀 (ib4529)と灰虎(ib6456)が阻む。クマクマの前に立ったのは、アッシュ・クライン(ib0456)。
 テツの剛腕が、円秀と灰虎に伸びる。クマクマの手が、アッシュへ振られる。
 首を掴もうとするテツの腕を、円秀は横踏でかわす。灰虎も身をそらし、かろうじてやり過ごした。
 アッシュはソードブロックの構えで、クマクマの爪を弾く。
 藍 舞(ia6207)は地を蹴った。三角跳びで、地面から広場の周囲に生えた木の幹に移動し、さらに幹からテンニョの前へ飛び降りる。泰国ドレスを着た彼女へ、名乗る。
「曖昧な狂的科学者、藍 舞。一戦闘狂としてちょっとご指導願うわ。‥‥っ!」
 舞は、とっさにしゃがみ込んだ。その直後、舞の頭の上を、テンニョの足が通過。――空中後ろ回し蹴り。
 しゃがまなければ、顎を砕かれていた? 舞は唇の端を釣り上げ、笑む。その笑みは、強敵にめぐり合えた故のもの。
 東鬼 護刃(ib3264)とレイシア・ティラミス(ib0127)も、それぞれカエンとナゲヤに接近していた。
 さきほど攻撃を受けたアヤカシ二体は、目を見開いていた。怒っている。
 カエンが服の袖からナイフを取り出し、護刃を斬る。
 ナゲヤはレイシアの背後に回り込む。腰に手を回し、体をそらす。レイシアを持ち上げ、投げ捨てる。
 血が飛び散る。地面にレイシアの落下音が響く。
 だが、二人は即座に体勢を立て直した。
「さすがの早業じゃの。‥‥じゃが、わしとて動くことはできる。お主に捉える事できるかの?」
「なかなかやりづらい相手、ね。でもっ」
 護刃は分身を生み出す。カエンの目を惑わせた。
 レイシアは、大剣をオーラで輝かせ、その刃でナゲヤを――斬る。

●闘いはそれぞれに熱く
 開拓者は一人で、あるいは二人で、それぞれ敵を攻撃する。
 敵一人を集中攻撃するという手段を取らないために、戦闘は長引く。
 だが、開拓者の戦法は、敵を分断し連携技を封じてもいたのだ。広場の各所で一進一退の攻防が続く。

 円秀はテツを斬る。刃に紅い光を纏わせ、ひたすらに、敵の胸を腕を、肩を。
(姿形を似せていても、信念は真似れないと教えてやる)
 一太刀ごとに思念を籠め、刀を振るう。
 灰虎は普段より鋭い眼付きで、敵を見ていた。脚絆「瞬風」嵌めた足を動かし、敵の脛や腰を蹴りつける。テツに隙を作る為。
 二人は、攻撃を繰り出し続ける。が、テツは倒れない。顔色を変えすらしない。
 テツの反撃は無駄の多い大振りのものばかり。円秀と灰虎はそれを避け続けたが――数十秒後、
「がぁ‥‥っ‥‥な、なんて威力でやんすかっ」
 灰虎はテツの拳を顔面に受けてしまう。
「けど、倒れる訳にはいかないんですわ‥‥さぁ、いくでやんすよっ!」
 灰虎は倒れそうになるのを必死で堪え、地を跳ねる。テツの左側面に回り込むことに成功。相手の脇腹へ、爪を刺す。
 テツの両膝が崩れ、地に着く。灰虎と円秀の攻撃が、テツのタフさを上回ったのだ。
「膝をついたか、アヤカシ‥‥。本物なら、たとえ貴様より弱くとも、最後の最後まで立っていただろうにな」
 円秀は刃を振り上げていた。敵の首筋へ刃を落とす。紅蓮紅葉の燐光と敵の傷口から漏れる瘴気が、飛び散った、

 クマクマは巨体。にも関わらず、俊敏。剛腕の連打でアッシュを襲ってくる。
 アッシュは構えを崩さない。気で強化した漆黒の刀身で、クマクマの爪を防ぎ続ける。
 だが、攻撃全てを受けることは出来なかった。フェイントを利用したクマクマの一撃に、アッシュは、肌を抉られてしまう。
「今の技は‥‥。人に飼われ訓練を受けたか、それともアヤカシだからか。ただの獣ではないようだ。しかし」
 アッシュが流した血に、クマクマは昂りだす。腕を直線に突きだしてくる。
 アッシュはその腕を払いのけ、敵の背後を取った。
「これで、終わりだ。――漆黒の牙よ、穿ち砕けっ!」
 刀身に闇色のオーラを集中させ、背に叩きつける。
 何かが砕ける音。――クマクマの瞳から光が消えた。

 カエンは懐や袖から短刀や棍棒など様々な武器を取り出す。
 が、護刃は空蝉を用い、攻撃のほとんどを回避。
 カエンが取り出し投擲した石も、見当外れの場所に飛んでいった。
「雹、隙が出来たぞ。頼む!」
 護刃が指示を出し、後方の雹が呼応する。後方から式でカエンの体力を奪った。
 闘いは、開拓者二人に有利に流れていた。
 カエンが、不意に口を大きく開く。
 雹はその動きに気づいた。
(炎を吐く準備? 私を狙っている? 避けるのは可能ですが‥‥)
 雹はかわそうとせず、カエンの口めがけ式の斬撃を放つ。
 カエンの吐いた火が雹を焼く。
 だが――カエンの口の中に、雹の式が入り込む。式はカエンの内側を切り裂いた!
「こ、これで‥‥もう火は吹けない筈‥‥」
 雹は痛みに呼吸を荒げつつ、視線を仲間へと移す。
 護刃は雹へ小さく頷き、精神を集中。
「冥府魔道は東鬼が道じゃ。わしの焔が三途の火坑へ案内してやろうっ!!」
 宣言の直後、カエンの足元から炎を噴きあがらせた。
 カエンの体を焦がし――焼き尽くす。

 アヤカシどもが次々と倒れていく中、テンニョは軽快に動き続ける。
 今も、テンニョは高く跳んでいた。自分の身長の倍以上高く。
 そして、体を回転させながら落下。落下する力に回転力を加え、舞を押しつぶそうと。
 舞はバック転で回避。
「はっ! 真剣じゃないなんてよく言えたものだわ。技としての完成度、そこらの格闘家よりも上じゃないのっ!!」
 愚痴めいた台詞。けれど、舞の瞳には喜悦の色。
 テンニョは着地すると、再び地面を蹴る。飛ぶように跳ぶ。
 舞も相手を追いかけるよう、跳躍。
 舞は空中で体を捻った。
 放つは――空中後ろ回し蹴り。テンニョの技を真似て。
 足裏が、テンニョの胴に直撃。テンニョは地面に墜落し、起き上がらなくなる。
「ありがとうございました、よ」
 舞は地面に降りると、テンニョへ頭を垂れた。

 香澄は前方のナゲヤに、火輪を直撃させていた。
「きみの事は絶対に許せないんだからっ」
 香澄の言葉にか、火傷の痛みにか、ナゲヤは苛立たしげに唸る。
 レイシアは剣を地面に突き立てた。
「術や剣は不満? なら、こうさせてもらうわっ」
 素手で掴みかかるレイシア。
 レイシアの手は空をきる。ナゲヤはレイシアの背後に回る。もう一度投げようと言うのか?
 レイシアは背にナゲヤの気配を感じながら、にやりと笑った。
「‥‥覚悟は良い? ナゲヤ!」
 足を後ろに向かって突き出す。オーラで強化された踵で、ナゲヤの顎を粉砕!
 ナゲヤは仰向けに倒れた。
「さあ、フィニッシュ行くよっ!」
 香澄は宣言し、ナゲヤの横に立つ。跳び上がった。披露するは、月面宙返り。
「――月面刃烈!」
 ナゲヤへ落下しつつ、香澄は腕を伸ばす。瘴刃と化した忍刀をナゲヤの胸に突き刺し――ナゲヤを終わらせた。

●再び鐘はなり――
 アヤカシは全て消滅した。
 しばらく時間が経過して――。
 午後の広場では、多くの村人たちが集まっていた。
 食い入るように何かを見ている。
 彼らの視線の先、広場の中央では、舞台がある。そこで開拓者二人が闘っていた。
 アヤカシとの闘いを終えた開拓者たちが、追悼と村人の慰安を兼ねて、格闘技の公開試合を行う事にしたのだ。

 観客として集まった村人の前で、試合しているのはレイシアと香澄。
「さぁ、これはどうっ?!」
 レイシアの投げ技によって、香澄の背中と頭が、舞台の床に叩きつけれた。その豪快な投げに、床が震えた。悲鳴を上げる村の婦人。
「さあ、ティラミス選手。一方的に攻めている! なんという力。この破壊力は、まさに格闘界に現れた悪夢。――ああ、新咲選手、夢から覚めぬまま終わってしまうというの?」
「新咲の目は死んでないやんす。まだここからでやんすよ」
 観客たちの傍では、舞と灰虎が試合の実況と解説を行っている。
 二人の実況解説を聞き、観客の子供が声援をだす。新咲、がんばれーっ。
「まっけないよぉっ!」
 香澄は跳ぶ。レイシアの首を両脚で挟み――投げ返すっ!
 試合展開に、観客たちは熱狂。歓声と拍手。

 観客たちからやや離れた場所、広場の隅では、石碑の痕跡があった。開拓者の数人は修復しようとしたが――すぐに直すのは無理だったのだ。
 丁寧に清掃された石碑の痕跡の上には、酒瓶が置かれている。開拓者が供えたものだ。
 石碑の傍には、護刃、円秀、アッシュ、雹が立っていた。
 護刃は観客の村人に、細めた目を向けている。
「みておるか? 舞天龍の者よ。村人たちは夢中になっておる。村の者たちの心には、お主らの魂、熱く刻みこまれておるようじゃよ‥‥」
 円秀の手には杯。酒を喉に流し込むと、言う。
「あなた方の勇気と精神に敬意を‥‥私がそれを引き継いでいきましょう。この刀に誓って」
 円秀の言葉を受け、アッシュと雹が目を瞑った。
「お前たちの想いは俺も継ごう、舞天龍の者よ。できれば生きているうちに会いたかったものだが‥‥今は安らかに眠るがいい‥‥」
「私と違い、人々と心通わせることが出来た方々‥‥今度こそ、静かにお休みください‥‥」
 二人は、今は亡き者を想い、それぞれ祈りを捧げるのだった。