救え、正義の味方を
マスター名:えのそら
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/08 19:54



■オープニング本文

 ガン! 酒場の扉が音を立てて開く。
「赤色仮面! 心に炎が燃えてるの」
「黄色仮面! たえなる輝き、今放つ!」
 扉の向こうに立つのは、覆面をつけた二人。声からして、10代前半の少女。

 ここは武天のとある町。酒場。
 此の酒場で、酔っ払った旅人が、女性店員に乱暴を働いていた。その話を聞いて、二人の少女が駆けつけたのだ。
 少女らの名はハズミとカオリコ。
 親元で家事手伝いをする町娘なのだが、最近、正義の味方が悪党たちを退治する物語を読んで、心からそれに憧れた。
 そして正義の味方の真似をするようになった。覆面をかぶり、『仮面二人衆』として、町の不良等を退治して回る。
 二人は訓練こそ受けていないもの、志体持ち。町の不良等では相手にならない。
 町人達は二人の活躍を喜び、二人は人気者となったのだ。

 今日も、二人の少女の拳の前に酔っ払いはあっさり倒れた。
「「我らは仮面二人衆――我らに倒せぬ悪はないっ!!」」
 見得を切る二人。酒場にいた人々は、二人組に拍手と歓声を贈る
 助けられ礼を言う女店員を、二人の少女は手で制す。
「礼には及ばないわ? 正義の味方の務めだもの」
「それじゃあ! 私達、これから『西の洞窟』に行く準備があるからっ!」
 颯爽と酒場から出ていく二人。
 酒場の客たちは心配そうな顔。
「西の洞窟って、最近アヤカシが住みついたのよね‥‥まさか、退治に行くつもり?」
「だ、大丈夫か?」

 少しの時間が経過する。所かわって、武天の開拓者ギルド。
「お願いだ。アヤカシを退治してくれ! そして、我が町の正義の味方を、助けてやってほしいんだ!」
 例の町の町人が、ギルド員へ懇願していた。
 正義の味方に憧れ、正義の味方の真似をしている二人の少女が、アヤカシ退治に行こうとしているらしい。
 二人の少女――ハズミとカオリコは、志体を持っていて、通常人より頑丈。しかし、訓練を受けていない。アヤカシと戦えば、痛い目にあうでは、済まないだろう。
 二人の無事と、アヤカシの退治を、町人は望んでいる。

 開拓者が今から向かえば、二人組が街の出口まで移動した時点で、二人に追いつける。
「二人と一緒についていくなり、二人が出ていくのを思い留まらせるなり、具体的にどうするかは、開拓者の皆さんに任せる」
 二人は、正義の味方に憧れているから、二人と会話するなら、そこが利用できるかもしれない。

 アヤカシが出るのは、町の近くの洞窟。町から洞窟までは一本道をしばらく歩けばつく。
 目撃者の証言によれば、アヤカシは四体。
 二体は、牛アヤカシ。力強い突進で、角を敵に突きさす。
 他の二体は、蛇アヤカシ。非力だが、体をくねらせ、敵一人を幻惑し、回避や攻撃を鈍らせる。
 戦場となる洞窟内は、十分な広さ。戦いに支障はない。

「アヤカシはきっちり退治して欲しい。
 でも、ハズミちゃんとカオリコちゃんは、どっちもとってもいい子さ。真面目だし、優しい。普段は礼儀正しいし‥‥だから、どうか二人の無事も頼む!」


■参加者一覧
水月(ia2566
10歳・女・吟
趙 彩虹(ia8292
21歳・女・泰
鞘(ia9215
19歳・女・弓
西中島 導仁(ia9595
25歳・男・サ
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
アッシュ・クライン(ib0456
26歳・男・騎
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●村の出口で
 村を出てすぐの場所。森の中へと延びる道。
 依頼を受けやってきた開拓者達は、前方に二人の少女を発見した。
「ハズミ、準備はいい?」
「うん、大丈夫よ」
 立ち止まり、会話を交わす少女達。二人は赤と黄色の仮面を被っている。
 彼女らがハズミとカオリコ。正義の味方を夢見る二人組で、開拓者が守るべき存在。
 ロック・J・グリフィス(ib0293)も仮面を被っていた。彼は少女らの足元に、一輪の薔薇を投げた。振り返る二人へ、ロックは話しかける。
「出発を待ってくれないか、お嬢さん達。アヤカシ退治に向かうとみられるが、その前に聞いてほしいことがある。
 俺は――そう、白薔薇のナイトとでも名乗らせて貰おう」
 ロックの振る舞いや台詞に、二人の少女は目を輝かせた。まずは、二人の少女に好印象を与えることが、出来たようだ。
 開拓者たちは、ハズミ達へ説明をする。自分達は開拓者で、今から洞窟のアヤカシ退治に向かうのだと。
「「私達も一緒に連れてって下さいっ!」」
 声を揃え頼んでくるハズミ達に、繊月 朔(ib3416)と蒼井 御子(ib4444)が、
「わかりました。開拓者の仕事をお見せしますよ? でも、危険な場に出ないようしてほしいのです」
「そう、ボクらの後ろに立っててくれるかな?」
 と、同行を認めつつも釘を刺す。
 朔の声の響きは、二人を案じていることを感じさせる。
 御子の言葉遣いは、いつもより朗らかではない。ハズミ達に対し思うところがある様子。
「二人が勝手な行動を取れば、逆にこちらが危なくなる」
「アヤカシというのは、お前達が考えているほど、甘い奴らじゃない。戦うよりも、一度見てみることだ」
 無表情に言葉を紡いだのは、鞘(ia9215)。鞘の言葉を受け語る、アッシュ・クライン(ib0456)の声は、冷徹。
 ハズミ達は、不機嫌な顔になる。開拓者の理屈はわかるが、感情的に納得できないのだろう。
 西中島 導仁(ia9595)と水月(ia2566)が、ハズミ達の前へ出た。
「お二人の正義感の強さは、町人から聞いた。立派な心構えだと、思う。だからこそ、お二人には、今傷ついてほしくないのだ。お願いする」
 導仁は二人へ頭を深く下げる。水月も一緒に頭を下げた。顔をあげ、翠の瞳でじ、と二人を見つめる。導仁と水月、ともに真摯な態度。
 趙 彩虹(ia8292)は、穏やかに笑む。彼女らに正しい形で希望を持たせてあげたい‥‥そんな想いをこめて。
「ご不満は、あるかもしれません。でも、アヤカシ退治は初めてですよね? まず、専門家の戦いを見るのも勉強になると思うんです♪」
 ハズミ達は、数秒間顔を見合わせた。そして、わかりました、と首を縦に振る。

●くねる蛇と突進する牛
 しばらく後。開拓者達はハズミとカオリコを連れ、洞窟内を歩いていた。
 水月と朔が、人魂と瘴索結界を使用し、偵察をしてくれている。敵の位置と地形は把握済み。開拓者達は、迷わず足を進めた。
 はたして、開拓者達の前に、アヤカシが姿を現す。
 牛のアヤカシ二体。蛇のアヤカシ二体。八つの眼が開拓者へ向けられた。
 蛇は這い、牛は駆け、距離を詰めてくる。きゃっ――ハズミ達の口から悲鳴が漏れる。
「さーって、二人とも。今からつよーい人達の本気を見せてあげる。でも、約束だよ! 絶対前に出ないでね!」
 御子は、後ろの二人に念を押すと、エレジーハーブの弦を指で弾いた。紡ぐ音の力で、仲間とハズミ達の体を輝かせる。
 御子の曲に合わせて、朔が舞う。
「西中島さん、支援します」
 堂々とした所作と凛とした声で、仲間の心を奮い立たせる。
 支援を受けた導仁は、叫ぶ。
「愚かなアヤカシどもよ、いつまでも好き勝手出来ると思うな! 悪の限りを行った報いは、いつか必ず払わされる! ‥‥人それを『贖罪』と言う!」
 導仁は、地面を蹴った! 蛇との距離を詰める。薄い朱の天儀刀――その刃を蛇に叩きつける。これが報いだと。
 蛇は導仁へ噛みつき返そうと、口を開けた。だが、
「白薔薇のナイトの実力、お見せしよう」
 ロックの動きが早い。白く輝く槍で、蛇の胴を貫く。
 ロックの振る舞いは、正義の味方としてのもの。少女達に、正義ごっこの次の段階へ進む勇気を与えるため。

 開拓者のうち二名が牛を抑え、残りの六名で蛇を集中攻撃。
 その戦術によって、開拓者は、蛇の一体を追い詰めていく。
 蛇が舌をちろりと出した。しっぽの先端で立ち、全身をくねらす。
 牛の抑え役を務めていたアッシュ。彼は、眩暈を感じた。蛇の動きに幻惑されたのだ。
 二体の牛が姿勢を低くし、突進してくる。
 アッシュは、ダーククレイモアに漆黒の気を宿らせていた。その刀身で、一体の突撃を受け止める。だが、もう一体の牛の角に脇腹を刺され、血を零した。
 追撃しようとする牛ども。だが、
「おっと、好きにはさせませんよ♪」
 彩虹が棍を回転させる。牛の角を払い、顎を突く。牛の動きを牽制する。
 水月は眼を閉じる。精神を集中する。兎型の式――耳が刃になっている――その式による斬撃を、蛇へ見舞った!
 水月を睨みつけてくる蛇。その頭を、鞘が狙う。
「あの蛇の動きは、厄介。確実に仕留めないと」
 漆黒の角より作られた弓で、鞘は瞬速の矢を放つ。さらに即射で一撃。
 二人の術と射撃は、蛇を瘴気に返した。
 朔は後ろを振り返った。ハズミとカオリコは、大人しくしているものの足が震えている。牛達がいつこちらに来てもいいように、カミナギを構えながら、その一方で朔は仲間の援護を行う。
「――今、治します」
 吹かせたのは、一陣の風。風の中の精霊の力で、アッシュを回復させた。

 アヤカシどもは、その後も抗い続ける。牛の突進は重たく、蛇の幻惑は巧妙。開拓者達をてこずらせた。
 今も、残った蛇が体をくねらせる。
 その動きがもたらす不快感を、しかし、ロックは堪えた。自力と、仲間が与えてくれた力で。
「輝け命の光、舞え白き薔薇の旋風!」
 ロックの体が白い輝きに包まれた。カミエテッドチャージで、蛇の体を貫通!
 蛇は口から、悲鳴のような音を漏らし――動きを止めた。
「あと少しだよっ!」
 御子は、指を弦に叩きつけ、先ほどとは違う曲をかき鳴らす。
 情熱に満ちた調べで、仲間達に勇気と力をもたらした。
 
 水月は、唇を開く。
「趙さん」
 振り向いた彩虹に、水月は視線で告げる。今こそ――相談していた『あれ』を使う時と。
 水月は、手に持つ青白い符に力を込める。巨大な白い龍を生み出した。龍は、牛へと飛びかかる。
 その龍は、力を持たないただの幻にすぎない。――だが、龍の神秘的な姿に、牛の注意がそれた。
 彩虹が踏み込み、百虎箭疾歩で奇襲する。
 さらに全身の気を燃焼させる。精霊の力を全身に満たし武器へ注ぎ込む。牛の眉間に、彩虹の全身全霊を込めた一撃!
「‥‥趙家棍術我流絶招『天雷虎吼旋』! ――これが、龍虎共闘の威力です」
 牛は体力を大幅に奪われ、体勢を崩していた。
「クラインさん、今が好機よ。合わせられる?」
 鞘の即射を用いた二本の矢が、牛の脚を射抜いた。効率と速度を重視した射撃、その威力は高い。
「了解した。――決める」
 鞘に、アッシュが呼応する。牛の体に刃を向ける。全身にオーラを満たし、斬る! 刃は牛の体を両断! 牛をただの瘴気へと変える。

 最後に残った牛にも、開拓者は容赦しない。牛は体中に傷を作る。
 牛は突然、走り出した。
 入口、即ち、後衛がいる方向へ。
「「っ!?」」
 ハズミとカオリコは慌てて、防御の構えを取るが――顔から血の気が引いている。
「前途有望な少女達に手出しはさせん。――新たに得た力、ここに見せる! 震空烈斬!!」
 導仁の両手には今、それぞれ一振りずつの刀。大上段に構え、そして踏み込みと同時に振り落とす。
 真空の刃を飛ばし――アヤカシの命を消した。

●帰り道にて
 敵を全滅させた開拓者達は、ハズミとカオリコを連れ、町へと戻る。
 その帰り道で。
 鞘が、自分達の隣を歩くハズミとカオリコに、語りかける。まっすぐ相手を見て。
「私は、正義のために戦うのを否定はしない。でも、実力がないなら、害悪になる可能性が高い。現実と物語とは違う。それは今日の戦いを見て、分かったと思うけど」
 鞘の言に、アッシュが頷く。
「そう、軽い気持ちでアヤカシ退治は務まらない。その上で、まだアヤカシと戦いたい気持ちがあるなら、時間をかけ、自身を鍛えることだ。そして自分に合う戦い方を身につけろ」
 と、淡々とした口調で言葉を紡いだ。
 ロックは、未だ、仮面のナイト姿のまま。
「鍛えるなら、開拓者ギルドを頼るのも一つだ。力を磨きあげるための助言を、くれる筈」
 彼の口調からは、彼がハズミ達に悪い印象を持っていないことが、うかがえた。
 でもね、と、御子が口を挟んだ。
「強くなろうとするなら、力について、もっと考えてほしい。志体持ちが、ふつーの人に力を振るう時点で、アウト、だし」
 御子の顔は、真顔。彼女は続ける。
「お師さんは、『自慢するものでも、ひけらかすものでもない。振るうべき時に振るえばいい』って。重要な事の為の、ボク達の力だって」
 その言葉は、ハズミとカオリコの胸に突き刺さったようだ。二人は沈痛な表情に。
 そんな彼女達を、
「だが――アヤカシを倒そうとした想いは評価に値すると、俺は思う。――もちろん、強くなりたいならば、誰かについて修行したほうが良いだろう。力も、心も、な」
「お二人が、正義の味方に憧れた気持ち、困った人を助けたいという気持ち。私はそれを応援したいと思いますよ。‥‥私はお二人に、開拓者を目指して欲しいです」
 導仁と彩虹が励ます。導仁の言葉には、戦いのときとは別の、力強さ。彩虹の口ぶりには、妹に向けるような優しさが、あった。
 水月はハズミとカオリコに近づく。二人の手をとった。上目遣いで彼女らを見つめる。
 今回のことをきっかけに、何を目指すか、そのために何が必要か、真剣に考えてほしい――それを、言葉を使わず伝えようとする。
 ハズミとカオリコはしばらく考えていた。ゆっくりと唇を動かす。
「私達は実力不足でした。考えも足りなかったです‥‥でも‥‥」
「やっぱり‥‥誰かが困っていたら、助けてあげたい‥‥そのために、努力して皆さんみたいに‥‥」
 その声は弱々しい。けれど、今の時点での彼女らの、真実でもある。
「もし、開拓者になるなら、私達の後輩になりますね。――その時は私のことも守って下さいね? 期待しています♪」
 朔は、笑みと明るい声を送る。ハズミとカオリコに向け。或いは、彼女達の未来に向けて。