夏祭りを守って
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/30 18:42



■オープニング本文

●夏祭り
 響く笛の音、太鼓も唸る。
 微かに聞こえる虫の音をかき消すように賑わう人の声。
 
 ここら一帯で夏祭りと言えば、この村の祭りの事を示す程この夏祭りは盛況だ。
 普段は何の変哲もない村なのに、近隣の町や村から老いも若きも男も女もこぞって祭りに参加して、どこにこれだけの人が住んでいたものかと知らされるくらいの人の数。当然のように祭りの場は大混雑。夏の暑さと人の熱と祭りの熱気が相まって、この夏で一番熱い夜を演出していた。
 
 四方に道が伸びる広場の中央に高く大きく組まれた櫓。その上で大太鼓が祭りを盛り立てて、それを取り巻くように展開する夜店は楽しげで、おめかしをした浴衣姿の娘達は華やかだ。日頃の憂いを忘れて過ごす人々の表情は一様に明るく活気に満ちている。そして日が暮れたとはいえまだまだ宵の口。祭りの夜は始まったばかりだ。

●招かれざる者
 そんな祭りの最中、中心部よりやや西側に離れたところで事件は起きた。
「な、なんだこいつらは?」
「アヤカシだ。アヤカシが出たぞー!」
 彼らの前に突如現れた存在、それは鬼。
 その数は十くらいだろうか。棍棒やら折れた刀等、各々それぞれの得物を持って下卑た笑いを浮かべている。
 だが、鬼は総じて小さかった。その背丈はせいぜい人間の子供程度の小鬼と称されるアヤカシだ。
「‥‥小鬼程度なら‥‥」
 誰かがそういった。そう、小鬼程度なら志体を持たぬ一般人でもどうにかならないわけでもない。ましてや今は祭りの真っ最中。数の勝負となれば比較にもならぬ。が、
「やめておけ、俺らは素手だが、あいつらは武器を持ってる」
 別の男が殴りかかろうとした血気盛んな男を制止した。いくら弱いアヤカシとはいえ舐めてかかるものではない。とりあえずはこれ以上村へ近づかせぬようにするのがせいぜいだ。

 小鬼もこれ以上攻め入るのは危険と分かっているのか、姿を現したものの襲い掛かってくる気配がない。一歩近寄れば一歩後退し、こちらが下がればその分近寄ってくるといった具合だ。それにしても、小鬼にしては統率の取れた集団だ。そう思って見てみれば、他の小鬼よりも幾らかまともな装備をした赤い小鬼が指揮を執っているようにも見える。

「あれは、アヤカシなのか?」
 櫓の上からは色んなものが良く見える。西の方にアヤカシと対峙する男達の姿が見える。ついつい太鼓を打つことも忘れて見入ってしまう。
 そして、祭りの中心部にも人伝で情報が伝わり始める。どこからアヤカシが、何のアヤカシがどれだけ現れたのかは人の口を経る度に真実から遠ざかり、また尾びれが付いて広がるばかり。

「山のような鬼だとか」
「目玉のような奴が五十匹くらいと聞いたぞ」
「東の方はもうダメらしい」
「北から火の手が上がるのを見た」

 そして

「「ここにいるのは危険なんじゃないのか」」
 次第に動揺が広がって、我先に逃げ出さんとする者達が現れる。だがしかし、多くの人出で混雑した状態では思ったようには動けない。人と人との衝突も始まって、混乱の具合はますます深まってくる。
「こりゃあ、ちょっとまずそうだな‥‥」
 すっかり太鼓の音が途絶えた櫓の上で男が呟く。混乱状態をこのまま放っておいたら怪我人が出てしまうかもしれない。今ならばまだ間に合うかもしれないが、もしこれ以上酷くなれば手に負えなくなるだろう。

「おかーさーん、どこー‥‥」
 混乱の最中、親とはぐれてしまったのだろう。幼子が泣くのを堪えて親を探し彷徨っている。
 そしてそんな騒ぎとあっては幼子を草むらよりじっと見つめる、獲物の隙を狙う様な視線がある事など誰も気付くものはない。

 西の小鬼の集団も村の若い衆と一触即発の状態だ。何がきっかけで衝突するか分からない。そしてもしそうなったら若い衆は祭りで気が高ぶっているだけでただの素人だ。怪我人の一人や二人ではすまないだろう。

 ━━━そんな祭りの場に居合わせた貴方達開拓者。
 
 アヤカシ退治に向かうのか。
 混乱を収めるために立ち回るのか。
 それとも、迷子に救いの手を差し伸べるのか。
 あるいは━━。

 なにはともあれ祭りの平和は開拓者達に委ねられる事となった。
 この祭りが悲しい記憶となるか、楽しい記憶となるかは開拓者次第。


■参加者一覧
崔(ia0015
24歳・男・泰
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
正木 鏡太郎(ia4731
19歳・男・サ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
燕 一華(ib0718
16歳・男・志
ノルティア(ib0983
10歳・女・騎
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
藤丸(ib3128
10歳・男・シ


■リプレイ本文

●騒乱
 ただの祭りの賑わいとも違う、このざわめき。琥龍 蒼羅(ib0214)は往来の人々の話に耳を傾けてみる。
「この騒ぎは‥。ただ事では無さそうだが」
 どこかでアヤカシが出ているようであるがどうにも要領を得ない。アヤカシを退治するにしても相手が見つからぬでは打つ手がない。
「‥‥こうしていても埒が明かんな」
 こういうときの噂など当てになるものではないと、蒼羅は櫓を見上げる。高い場所から眺めれば何か分かるかもしれない。少なくとも噂話を聞き続けているよりはマシだろうと櫓に向かって歩き出す。

「こういったヒトトキは今しか味わえないのに‥‥‥誰なんだろうね」
 人ごみに揉まれながらも『アハハ』となんとも言えない乾いた笑い声を出す男。正木 鏡太郎(ia4731)は周りの人からの訝しげな視線を気にすることなく、せっかくの祭りの雰囲気が失われていく事を嘆く。
「すまないね、ユリ子‥‥‥逢瀬は一旦終わりだ」
 想い人に暫しの別れを告げる鏡太郎。しかしその傍らには女がいるどころか、人っ子一人いやしない。鏡太郎は刀に向かって話しかけているのだ。それも別に冗談でも演技でもなくごく当たり前に。
「まずは、あそこ、か、ナ‥‥‥?」
 鏡太郎は『ユリ子』を抱いたまま、誰かが駆け上がっていく櫓に視線を向ける。

 喧騒の中、太鼓櫓を駆け上るは燕 一華(ib0718)。こんな櫓の高さなど朝飯前と雑技で鍛えた身のこなしで軽々と櫓の上まで上り詰める。
「すいません、ちょっと借りますねっ!!」
 そう言うと、太鼓打ちの男を押しのけて櫓から身を乗り出す。
 まずは北側。道を見える限り遠くまで見たけれど、何もない様に見える。
 続いて90度身体を捻って東側。こちらも特になんと言うこともない。
 太鼓の裏に回って南側。人は多いが異常は見当たらない。
 そして最後に西側を見れば、明らかに人の流れが違う。入り口の様子が他とまるで違う。百聞は一見に如かずとはこういう事かと思わずにはいられない。

「小鬼、でしょうか‥?」
 異形だが小さな姿から察するに小鬼だが、このまま放置するわけにはいくまい。しかし、櫓下の状況もそのままにはしておけない雰囲気だ。二つの問題を解決するには一人では手に負えない。
「誰か、開拓者はっ?」
 一華は下に向かって呼びかける。他の人がアヤカシに向かってくれるのであれば、自分は他の対応に専念をする事が出来る。
「どっちだ!?」
「西ですっ!!」
 短い応答、でもそれだけで問題はない。伝わるべき人に、伝えるべき事はこれだけで通ずる。開拓者としての仕事を生業とする者達にとって、求められる事が何かと言う事は察しが付く。
 幾人かが西へ走っていく。恐らくこれで大丈夫だろう。
「さてとお次は‥‥」
 一華はそう言うと、櫓下を見て頭を捻るのだった。

●迷子
「太郎ー、太郎やー」
 子供とはぐれた母親が、盛んにその子の名を呼び続ける。
「どうかしたの?」
 そんな彼女を見つけた藤丸(ib3128)は小走りで近づくと、耳をピンと立てて母親の顔を覗き込む。
「実は‥‥」
 と母親は太郎という名の五つの子供とはぐれてしまった事を告げる。
「それなら俺も探すのを手伝うよ!特長とか、ある?」

 どうやらこんな祭り時にアヤカシが紛れ込んだのは確からしい。
 ノルティア(ib0983)は多くの人が行き来をする雑多とした風景を見てふと思い出す。
『こゆお祭りとか賑やかなところには、人攫いが居るとか━━』
 確かにこんなに人がいては、誰かがいなくなっても見つけ出すのは難しい。特に子供となれば、人波に埋もれてしまうだろう。現に、十つ歳を数えるとは思えぬ程小柄なノルティアにとってこの状況は相当に厳しい。終始埋もれっぱなしだ。誰かが肩車でもしてくれなければ、新鮮な空気は望めない。
 兎に角、ノルティアにとってすれば迷子になると言う事も、その不安さも『よく分かる』わけだ。
「まずは、‥拠点、かな‥」
 迷子を探すにも親を探すにしても、待機所のようなものがあった方がいいだろう。
 お互いに探して歩き回っていては無駄に時間がかかる。
「ヤァ‥‥開拓者が入り用ですか‥?」
 同じような考えをした人だろうか?やや怪しげな青白い顔をした長身の男が誰かに話しかけている。
 とりあえずそこへ行ってみようと、ノルティアは小走りで近づいていった。
 
●出陣
「折角の祭りに水差す奴ぁ、許せないな」
一華より、『西』との連絡を受けた崔(ia0015)は西へ向かって走り出す。
「裏を、回りましょう‥」
 静かだけれどもしっかりと通る声で柊沢 霞澄(ia0067)は提案する。
 もちろん本通を真っ直ぐ行くのが最短距離ではあるが、こちらへ押し寄せるような人並みの中を逆流するのはいささか骨が折れそうだ。それならば、いっそ遠回りをした方が早いかもしれない。
「屋根の上を走れればよかったのですが‥‥」
 鹿角 結(ib3119)は走りながら藁葺き屋根を見上げる。いくら混雑しているとはいえ、流石に屋根の上にまで人がいると言う事もない。なので屋根の上を走り抜ける事ができるなら、都合は良いだろう。
 だが、都市部と違って家屋が密集しているわけでもなく、屋根の高さもまちまちだ。屋根の上を走るというのは思い描くほど綺麗にはできそうにない。

「太鼓が、戻ったか」
 櫓から離れてしまったので、それほど大きな音ではないが崔の耳にはも確かに太鼓の音が聞こえてくる。
「後は、アヤカシを退治すればよいだけのこと」
  結が弓を片手に駆け抜けていく。まだ大きな混乱状態にならないのはアヤカシが村に入り込んでいないから。ならば侵入をいち早く食い止めるためにも自分達は急がなければならない。

●収拾
 時を同じくしてその頃。
「皆さんっ!アヤカシさんはまだ村に入っていませんっ!まずは状況をお知らせするので聞いてくださいっ!」
 一華が櫓の上から大声で叫ぶ。まずは、アヤカシの情報を正確に伝える事でこれ以上の混乱が広がらないようにする事が狙いだ。
 『アヤカシがまだ村にはいっていない』という事、『開拓者が討伐に向かっている』事。一華が説明を重ねる毎に騒ぎは収まりつつあるように見える。
「太鼓をまた打っていてくださいっ!」
 太鼓打ちの男にそう言うと一華は櫓の梯子を駆け下りる。地上に降りてもなお一華は呼びかけを怠らない。
「何か無くされた物や、何方かとはぐれてしまった方はいらっしゃいませんかっ?」
 
 太郎は思ったよりも簡単に見つかった。
 自分が迷子の立場ならば、人が多くいるところよりも、人がいないところにいた方が見つけてもらえるんじゃないかと。 
 そう考えた藤丸は人通りの少ない所を捜索、それが功を奏したというわけだ。
 太郎と思しきその子は歩きや騒ぎで疲れてしまったのだろう。一人草むらにしゃがみこんでいた。
「おまえが太郎か?俺は藤丸。もう心配要らないぞ!尻尾掴むのはかんべんな!」
 元気のない太郎に元気を分け与えるかの如く、藤丸は飛び切り元気に声をかけるのだった。

 しかし、太郎の元へ近寄ってきていたのは藤丸達だけではなかった。
「お兄ちゃん、あれ‥‥」
 太郎が小声で呟き、指差す先に何か蠢く何かがいる。
 視線が低いのが幸いしたか、藤丸にも草むらに忍ぶ異形の姿が視界に入る。
『せっかくのお祭りなのに、アヤカシ空気読めー!』
 と心の中で 叫ぶ藤丸。本当は叫びたいけれども村の中にアヤカシが入り込んでいる事を知られるのはどうにも拙い。
 藤丸は二人に目配せをすると、弓を取る。
「だいじょぶ。必ず、守る‥‥から」
 ノルティアは太郎の前に立ち、剣を構える。ここは通さぬと鉄の意志を持って。
「‥‥さあ、モウ一度の逢瀬だよ、ユリ子‥‥‥」
 鏡太郎は『ユリ子』と呼ぶ刀を抜いて小鬼に切りかかる。踏み込んだ一歩が土煙を上げて、その土煙を払う様な豪快な一閃。その太刀筋からしてみれば、何も身につけぬ小鬼などはまるで紙を斬るようなもの。
 最初の一撃で決着は付いているのだが、さらに返す刀で叩き割られた小鬼は四つに分かれながら黒い霧となる。
 抵抗する間もなくやられた仲間を見て、残された小鬼は踵を返す。
「逃がしはしないよ!」
 小鬼が逃げ出すよりも前に藤丸から放たれていた矢が小鬼を貫く。一矢、二矢。そして、三本目の矢が小鬼に届いた時、矢だけを残して小鬼の姿は消えていく。
「モウ、安心だ。親御さんの元へ帰ろう、ネ‥‥‥」
 三人は太郎を守るようにしながら、櫓の下へと戻っていくのだった。

●戦闘
 開拓者達が到着した時、西の外れでは依然緊張感を保ったまま膠着状態が続いていた。
「奴等の相手は俺達が引き受ける」
 蒼羅はそう言って小鬼と若者達の間に割って入る。
「ちと、下がってもらえるかな」
 崔は若者達に有無も言わせず後に下がらせる。目前に広がるアヤカシの群れ。小鬼とはいえ多少、数は多いか。
 赤い小鬼が指揮をとっているらしい事はわかるのだが、直接狙うにはやや遠い。
「僕が、あの赤いのを」
 そう言うと結が弓を絞る。確かに弓ならば、対象が遠くにいても問題はない。
 もともと紅白の弓なのだが今はなおも赤々とした光に包まれている。弓を引き絞る度に紅の光が僅かに零れていく。

「なら、露払いといこうか」
 崔は小鬼の群れへと向かって駆け出していく。いや、飛ぶ、だろうか。
 あっという間に間合いを詰めた崔はとっさの出来事に驚く事しか出来ない小鬼を目の前に型を構える。
 右足を高く上げ、大きく歩幅をとってそのまま重心を低く、地面を踏みつける。その瞬間、生じた衝撃派が近くにいた小鬼達を襲う。
 遠くから見た者は崔が足を振り下ろしただけで、小鬼たちがよろめいたように見えるだろう。
 そして遂に結から放たれる紅蓮の矢。そこにいる誰もがその矢の輝きを目で追ってしまう程、刺激的な紅が闇を言葉通り切り裂いていく。
「頭を潰すのは定石‥‥」
 間髪いれず放たれる雷光。蒼羅も赤小鬼を狙って雷を帯びた刀身を繰り出す。
 崔の『崩震脚』でバランスを崩したところに、結の『紅蓮紅葉』で強化された矢が赤小鬼の腹部を貫くと同時に蒼羅の『雷鳴剣』が赤小鬼の首を刎ねる。
  
「怪我をされた方は‥いらっしゃいませんか?」
 霞澄は小鬼との小競り合いで怪我をした者がいないか確認する。
 幸い到着が早かった事もあり、大きな怪我をした者は誰もいなかったようだが軽い切り傷や打撲痕を拵えている若者が何人かいるようだ。
「アヤカシはお願いしても大丈夫そうですね‥」
 霞澄が怪我をした若者の治療をしている横で小鬼が宙を舞っていた。力量差がありすぎて数の差などまるで問題になりはしない。
「纏うは紅。見切り、断ち斬る‥‥」
「それは、フェイントです」
「逃がすわけには行かなくてな」
 小鬼の掃討戦は実にあっけなく間もなく片が付いてしまいそうな勢いだ。
「な、なんだあんたたちは‥」
「ただの、通りすがり(?)です‥‥」
 霞澄は苦笑しながら手際よく治療を続けていく。
 と、そこへもう一匹こちらの方へ小鬼が飛んできた。
「こっちには、こないでくださいね‥‥」
 霞澄は掌を空に突き立てると、小さな白い光弾を小鬼に向かって放つ。憐れ、空中で弾と衝突して爆ぜる小鬼。治療を受けていた若者は呆けた様に口を開けて霞澄を見つめる事しか出来なかった。

●お祭り
「その、他に迷子とか大丈夫なのか?」
「ええ、おかげさまでそういったことも全て片付いています」
 村長はありがたい事でと崔に頭を下げる。どうやら順調に問題は解決したらしい。楽しんでいってもらうのがせめてものお礼と開拓者達を祭りに送り出した。

「ただ単純に楽しむと言うのは‥」
 楽しんでくれと言われてもどうにも蒼羅にはしっくりこない。別に難しく考える必要がないことくらいわかってはいるのだが、これは性分というものだ。
「腹も減ったし、何か食うかねえ」
 崔はそう言うと屋台群を一瞥する。
「確かに何も食べていなかったな」
 心配事が何もないと聞けば肩の荷が下りた気もするし、急に腹が減ったようにも思える。
 崔と蒼羅は屋台の並ぶ通りへと消えていった。
 雑多な料理の匂いが鏡太郎の鼻腔をくすぐる。匂いは時として忘れていた日々を思い出す鍵となる。
「アア、忘れてた、風流だ‥‥‥イイ気持ちだ‥‥」
 再び取り戻した喧騒の中、彼なりに祭りを楽しんでいた。

「ここは林檎飴を選ぶか、それとも杏飴にするべきか、どうしよう!?」
 林檎飴は大きいが、実のところ食べにくい。串の刺さり方が甘いと不幸な落下事故が起きる事も多い。なかなか完食が難しい代物だ。
 藤丸が悩んでいる様子を見て、屋台の親父が両方持っていけば?と林檎と杏を手渡してくれた。
「二つも食べれないからなあ。あ、そうか!」
 藤丸は手を振る太郎の下へ杏飴を届けに行くのだった。しかし、その後藤丸が林檎飴を無事食べきれたかどうかは定かではない‥‥。

 櫓の上から結が降りてくる。折角のお祭りがアヤカシのせいで盛り下がるのは耐えられないと太鼓打ちを買ってでたのだ。華やかで勇ましいその姿は大層祭りを盛り立てたとか。
「お疲れ様でした‥‥」
「ありがとうございます」
 霞澄より結に氷が差し出される。熱気で上気した体に氷の冷たさが心地よい。
「大きな問題もなかったようですね」
「ええ、不幸中の幸い、ですね‥」
 アヤカシの襲撃というちょっとした事件はあったものの、祭りに参加している人々の表情は一様に明るい。
 こうした人々の小さな幸せを自分達の手で守れたという事が単純に嬉しい。二人は明日からの仕事もがんばろうと思うのだった。

 一華とノルティアは一緒に屋台めぐり。天儀の祭りは初めてというノルティアを一華がエスコートする形だ。二人は飴細工屋の前で何を作ってもらうか考えていた。
「ノルティアの好きな動物を作って貰うのは如何ですかっ?」
「じゃあ‥金、魚?」
 できる?と問いかけるような注文に、飴細工屋の男は無言でニヤリとして作業に取り掛かる。
 男は熱く熱した水あめを火傷も恐れず素手と鋏で切り出していく。固まる前が勝負の飴細工。男は飴の塊を切り、時には引き伸ばす。最初はただの丸い塊だったのに、アレよと言う間にその姿に見えてくるから不思議なものだ。
「あ、‥‥金魚‥‥」
「そっくりですねっ」
そして、最後に筆で着色をすると、そこには紛れもなく金魚が現れていた。
 金魚掬で得た金魚と飴細工の金魚。二つの金魚がノルティアにとって祭りの記憶となるのだろうか。
「お祭りは、楽しいですかっ?」
 提灯の灯りに照らされながら、飴の金魚が空を泳ぐ。
 ノルティアは満面の笑みで一華に答えるのだった。
「‥‥ん。お祭り‥て。楽しい、ね」