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■オープニング本文 ●猫の多い町 ここ朱藩の海に面したとある港町はあるものが多い。すごく多い。 それは町中いたるところにいるわけで、町を数分歩けば必ず目にする位の頻度でそれはいる。 あっちでニャーニャー、こっちでニャーニャー。 飼い猫、野良猫、迷い猫。その中に混じって猫又だっているような気がする。そう、この町は猫が多い。 猫好きの多い町の人間にとってはそこらに猫がいることは当たり前だから特に気に止めることはしないものの、外からこの町に来た者はその猫の多さに唖然とすると言う。 ●はじけすぎる野良猫 「でもね、最近妙なのが混じってるみたいなんだよ。追ってはいるんだけどなかなかすばしっこくてね」 「妙なのって、色が青かったり、黄色かったりするんですか?それとも空を飛ぶんですかぁ?」 妙な猫といわれても、困る。こっちだって暇じゃないし。それに私は猫がくるとくしゃみがとまらないから嫌なのよね。依頼の内容をさっさと教えて欲しいわ。もしかして猫を捕まえて欲しいとかそういう依頼なのかなー。 「流石に空は飛ばないが‥‥。青かったりはするな」 「青いって‥‥。それ、普通に猫じゃなくないですか?」 思いっきり冗談だったんだけど。青い猫など聞いたことも無いんだけど。 それでも私の目の前の依頼人はその『妙な猫』の特徴を語り続ける。青い時点でそれは猫以外の『何か』だと思うんだけどねー。 「うーん確かに、大きさは牛くらいあるし、角みたいのもあるな」 「大きさは牛くらい‥‥‥え?」 ちょっと待って。いくらなんでも牛くらい大きい猫ってありえなくない? それに、角!猫に角なんかないわよ!!絶対に!! 「それは猫じゃなくて、アヤカシ、ですよね?」 一応、確認。アヤカシ退治の依頼ならそうと最初から言えばいいのに。 依頼書に『アヤカシ討伐』と話しながら、筆を進める。時間は有効に使わないとね。 「でも、肉球っぽいのも足についてたし、『ニャー』って鳴いてたし」 ダメだコイツ。どこまで貴方の中では猫なの?青くて牛みたいな大きさの角生えた猫なんているわけないじゃない!! 「あの、人を襲ったりしてませんか、その『猫』は」 もういいや猫で。面倒だし。アヤカシがそんな普通の猫みたいに昼寝ばっかりしてるとは思えないんだけど。 「いや、じゃれるなー。こないだは漁から帰ってきた船の魚をねだってたな。最終的に船は沈んじまったけどな、ハハ」 『ハハ』じゃないわよ。それ普通に人襲ってるよね?? 「で、アヤカシ退治なんですよね?」 「いや、捕まえてもらってうちの飼い猫にしようかと‥‥」 「‥‥アヤカシは飼えませんよ。ダメですよ!絶対に、ダメ!!」 |
■参加者一覧
蒼零(ia3027)
18歳・男・志
風瀬 都騎(ia3068)
16歳・男・志
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
ヨーコ・オールビー(ib0095)
19歳・女・吟
ルーディ・ガーランド(ib0966)
20歳・男・魔
藤嶋 高良(ib2429)
22歳・男・巫
フェイル・ランツィスカ(ib3126)
18歳・女・泰
月影 輝(ib3475)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●どう見ても猫じゃないだろ、常識的に考えて 「こ、こんなに猫が‥‥。素晴らしい町だな」 この町に猫が多いのは本当だった。日当たりの良さそうな場所に塀の上。蒼零(ia3027)は猫を見つける度にあっちへふらふら、こっちへふらふら。 今もまた昼寝をしているキジトラに近寄ろうとする蒼零を見て、流石に見かねた都騎(ia3068)が蒼零を咎める。 「蒼たん!仕事が終わってからの約束だろ!」 このままでは猫と遊ぶだけで日が暮れてしまいそうだ。それに、自分だって猫と遊びたいけど我慢してるのに! 「でも、都騎ぽん‥‥」 今ここで出会った猫にまた明日会えるとは限らないじゃないか。と言おうとしたもののそんな事を言ったら本気で都騎に怒られそうだ。都騎も我慢しているのは分かっているし。 「ほら、早く行くぞ!」 都騎に急かされた蒼零は名残惜しそうにキジトラを眺めると、都騎の後を追いかけるのだった。 「皆さん、協力をお願いします」 「牛くらい大きい猫、見た事ありませんか?」 藤嶋 高良(ib2429)と設楽 万理(ia5443)は道行く人に呼びかける。アヤカシの討伐協力依頼を兼ねた情報収集といったところだ。 『牛ほどの大きさがある猫を虎と呼ぶのではないかしら?』 いくら猫に似ている部分があるとはいえ、牛くらいの大きさのものは正直猫ではないのではと万理は思いながらも目撃情報を集めていく。 「あーあの青い奴ね。港によくいるなあ‥‥」 高良が尋ねた男は漁師らしい。職場である港で度々青牛猫を見かけたことがあるようだが、それほど緊迫した雰囲気が見られないのは依頼人と同じだ。もしかしてこの人もアヤカシを猫と勘違いしてるんじゃなかろうかと 高良は思うのだった。 「魚をよほど、欲しがっているのは明白です」 『水が苦手なのに船を襲うと言う事は』と前置きした上で月影 輝(ib3475)は推理を展開する。 たしかに例の青牛猫は積極的に人を襲うというよりは、水揚げしようとした魚を奪う事の方が多いのだとか。 もちろん人を喰わないということではないのだろうが、恐怖と魚だけで割りといけるクチなのかもしれない。 「どんな魚を好むのやろか?」 魚を使って青牛猫を釣るとして、青牛猫の好みの魚はなんだろうと悩むヨーコ・オールビー(ib0095)に漁師が答える。 「魚なら何でもっていうか結構見境ない感じがするなあ」 つまり何の魚であっても良いということだろうか。しかし、ここは流石は港町。いさきに鯵に鱧、穴子。鮮度の高い魚はどれもおいしそうに見える。 「アヤカシなんかにあげるのは勿体無い気がしますね‥‥」 「うちもちょっとそう思うわ‥‥」 「大体、こんなところか」 ルーディ・ガーランド(ib0966)が地図の数箇所に丸をつけていく。袋小路や広い場所などアヤカシと戦う場所を選定しているのだ。単純に広さだけではなく、周囲への影響が少なくなるように考えた上で、だ。町の人間はどう思っているか知らないが、青牛猫はアヤカシであって猫じゃない。街中である以上、そういった配慮も必要だろう。 「ここと、そこと、ここやね」 フェイル・ランツィスカ(ib3126)はさらに地図へ印を付け加える。その印は青牛猫の目撃情報を意味するのだが、明らかに印の分布は港に偏っているのが分かる。 「それなら、このルートが無難な線だろうな」 ルーディは港の広場から伸びる一本の路地に線を引いていく。港で青牛猫を見つけて、人気の少なそうな倉庫まで追い立てようという段取りだ。 「今のうちに覚えちまわないとな」 「俺はあんまり覚えるのは得意やないんやけど‥‥」 実際に追い立てるとなれば悠長に地図を確認する必要など無いかもしれない。ルーディとフェイルは地図を真剣な眼差しで睨むのだった。 ●猫狩りの準備 「ほら、この魚は牛猫用や、ニャーニャーいうても分けたらへんで!」 魚があり、猫がいる。となれば猫が魚をねだるのはごく自然な事だ。魚は笊に山盛りとなっているのだから、一つ二つ与える事は問題ない。だがここは間もなく戦場となる予定だ。『普通の』猫は邪魔にならない様お引き取りいただくのが正解だろう。ヨーコは釣竿の先に魚を結びながら、猫が近寄ってこないよう追い払う。 「これでうまく猫を釣れたりせーへんやろか‥‥」 『海老で鯛を釣る』という言葉はあるが、『魚でアヤカシを釣る』というのはどうだろうか?それはやってみないとわからない。ヨーコは結び目をきつく縛るのだった。 「逃げ場はない。覚悟しろよ」 ルーディは出来上がった石の壁を拳で軽く叩いて出来映えを確認する。元々ここは細い路地の入り口であったが、今はすっかり壁に阻まれて通る事はできない。もっともそれは人が普通に通る事に限った話で、牛サイズの猫さらにはアヤカシとすれば大した障害となる高さではないかもしれない。 「あとはどれくらい跳べるかだが‥‥」 牛くらい大きい猫というのは今まで読んだ本の中にはなかった。だから、どれ位の高さまで跳べるかはわからない。 「ま、もう一個積んどけばいいか」 そんな細かい事はおいといてとルーディは考える事を止めて、もう一度詠唱を始めるのだった。 青牛猫が港に良く出るのは分かっているが、必ずそこにいるという事でもないし、港はそれなりに広さがある。従ってまずは手分けをして探し出す必要があった。 万理は言葉を発することなく、弓の弦を静かに掻き鳴らす。 ビィーンという音を発するだけで、弦はただ揺れている様にしか見えない。その揺れ幅も時と共に小さくなるばかりで特別変調を見出せない。 だが、常日頃より弓に触れてきた者だけが感じ取れる感覚というものがある。 「東かしら?」 距離はまだありそうだが何かを感じさせる。万理は東の方角へ歩き出そうとした。その時、 ブォォォォォォォォオ ブエーーーーブエーーーー 聞きなれぬなんとも言えぬ耳障りな音が聞こえてくる。これは、青牛猫を見つけたという合図か。万理は妙な音がする方向へ走り出した。 ●お魚くわえたアヤカシ追っかけて 「ニャー」 そいつは確かにそう言った。大きな体を目一杯使って走りながら。 「牛ぐらいの大きさでニャーと鳴かれると違和感ありますね」 高良は青牛猫を追いかけているのだが、青牛猫の足は思っているよりも速い。このまま走っていても追いつくとは思えないが、焦る必要は無い。予定通りの場所へ追い込めればよいのだから。 「待ちや!」 ブブゼラを首から下げながら、フェイルも青牛猫を追う。持ち前の俊敏さを生かして追いかけるが、猫の瞬発力、しかも牛並みの大きさとなれば一瞬で差が開く。開拓者といえど万能というわけではないのだ。 猫のような瞬発力はなくとも、人間には知恵がある。例え見失ったとしても隠れている場所の目星が付いていれば探すのは難しい話ではない。 「思った通りや!」 何やら気配を感じて曲がり角を幾つか曲がった先に見えるは青い巨体。考えるよりも手が動く。『八尺棍「雷同烈虎」』が唸りをあげて青牛猫の背後に迫る。 「ニャッ!?」 フェイルの八尺棍は青牛猫の左後ろ足を掠める。驚くように飛び跳ねた青牛猫は再び猛烈な勢いで逃走を始める。 「そっちにいったでー!!」 「!!危ないですね」 輝は突如として現れた青牛猫に衝突する事なく、いささか面妖な足取りで後に下がる。 間近を通り抜けた青牛猫。あの大きさと色彩に有り得ない角、やはりあんなのを猫と呼ぶのはどうだろうか。 「そのまま書いてはゴシップ以下になってしまいますね‥‥」 輝き走り抜ける青牛猫を見ながら、懐の手帳を取り出し遭遇時の感想を追記するのだった。 青牛猫は思っていたよりも、速かった。まさか魚で本当にアヤカシが釣れるとは。 そして何よりもその大きさで追っかけてくるのだから恐ろしい。良く考えてみたら、牛より大きい猫と言う事はもはや虎といっても過言ではない。つまり今、ヨーコは青い虎に追っかけられているのだ。猛然と迫り来る青い虎(角付き)。これにはヨーコもたまらず叫び声をあげる。 「堪忍やー!ちょっとこれは無理!!」 「ヨーコ!!どいてくれ!」 声に反応してヨーコが横に飛びのくと、滝のように流れていた汗がぴたりと止まるのではないかという程の冷気を感じる。青牛猫のモフモフ加減に暑苦しさを感じていた夏の気温とは打って変わる不自然過ぎる寒さだ。 夏の装いにこの冷気、そして急激な温度差は正直厳しい。少しずれた状態でもこれ程なのだから、直撃を喰らった青牛猫のダメージは言うまでも無い。 素早い相手には打ってつけのフローズを放った声の主、ルーディは叫ぶ。 「逃げられる前に一気に畳み掛けよう!」 「普通の猫もこれくらい巨大になればよいのに‥‥」 「ああ、確かに大きな猫だな‥‥しかし、迷惑を掛ける猫にはお仕置きだ」 蒼零は左、都騎は右。二人で刀を抜いて構えども、やはりその大きさは異様なものと感じる。しかしそんなことに怯む二人ではない。 「やるぞ、蒼たんっ!」 「応っ!」 都騎が回り込むように走り出し、一寸の間を置いて蒼零が姿勢を低く走り出す。 最初の一撃は蒼零が右前足を振り払うように斬りつける。手ごたえはあったが思ったよりも傷は浅いのか、青牛猫は蒼零に牙を剥く。 しかし、青牛猫が蒼零を見るならば、都騎は青牛猫にとっての死角となる。 「余所見をしている暇はないはずだ」 都騎の流し斬りは反応の遅れた青牛猫の左前足を深く切り裂く。 「ギニャー!!」 耳をふさぎたくなるような奇声を上げて、暴れ狂う青牛猫。そのあおりを受けて蒼零と都騎は弾き飛ばされる。でたらめに手を振り回したような攻撃だが、その力は強い。転がされた二人になおも攻撃を加えようと飛び掛る青牛猫に一本の矢が飛来する。 「その自慢の肉球を撃ち抜いてあげるわ!」 万理の放つ矢は寸分違わず、一本、二本と青猫の前足を貫く。 怒りと痛みによりおぞましい唸りを上げる青猫にさらに矢が突き刺さる。両の前足を射抜かれながらもなおも威嚇を止めぬ青猫。しかし、この怪我では自慢の逃げ足は使えまい。 「もうこれで逃げ回る事は出来ないわね」 「大丈夫ですか!?」 青牛猫の動きが止まった隙に、高良と輝は手傷を負った二人の下に駆け寄り『陣風恩寵』による治療を開始する。派手に吹き飛ばされはしたものの幸い傷は浅い。 「これくらいならすぐ治りますから」 高良は風の精霊の力を借りながら手際よく治療を続ける。完璧に治すのは戦いが終わってからでも構わない。戦列に復帰できる程度で良いのだ。 機動力という持ち味をを失った青牛猫。最早この時点で勝負は決していた。 さらに動きを鈍らせようというのか、フローズは体力を削り、ヨーコのハープが奏でる『武勇の曲』が仲間達の勇気を盛り立てて、その曲に乗ったフェイルの『骨法起承拳』はかわす事すら許されない。 治療を切り上げて『神楽舞「速」』を舞う輝の援護を受けて、戦線復帰した蒼零と都騎は息のあった連携で青牛猫を襲い、高良の『力の歪み』は青牛猫の尻尾をひねりあげる。 そして最後に眉間に矢が突き刺さると、ようやく青牛猫は遂に動く事を止めるのだった。 ●猫祭り 青牛猫が瘴気に戻るのを見て都騎は叫ぶ。 「アヤカシは倒した。猫達と遊ぶぞ、蒼たんっ!」 仕事は終わった。そしてここには溢れんばかりに猫がいる。何を我慢する事があろうか!都騎と蒼零は他の誰よりも早く猫(に)まっしぐら。 蒼零は常に持ち歩いていると言う『猫用玩具』を取り出して目の前の黒猫と戯れる。 じゃれる黒猫、さらにそれをみて駆け寄るぶち猫に物陰から様子を見る白い猫。 「‥‥移住したい‥‥」 猫のいる生活、いや猫に囲まれる生活。そんな夢があったっていいじゃないか。 「ああ、ここは天国に違いない」 都騎もまた、てしてしと歩み寄る三毛猫を抱き寄せて仕事の後の一杯ならぬ一匹を堪能する。 『私は猫が近くだと』 猫と戯れる二人を見て、猫が嫌いならこんな事に悩まないのにと万理は思う。 青牛猫のような猫に似たアヤカシ相手には特に拒否反応らしき症状は出なかったが、本物の猫に触ったり戯れたしようものなら涙と鼻水の洪水が万理を襲うだろう。 「子猫も大人の猫も可愛いのよね。生殺しもいいところだわ‥‥」 万理はため息をつくと引き続き遠くから猫達を見つめるのだった。 「ほーら、あんたらにも迷惑かけたな。勝利の美魚や、ぐっといき♪」 ヨーコが鯵を取り出すと待ってましたとばかりに集まってくる猫、猫、猫。 アヤカシにやるのは勿体無いと思ったが、普通の猫にやる分にはいいだろう。何よりこんなにおいしそうに食べてくれるのだから。 「お、もう食べたんか。もう一尾ほしいんか?」 「ん〜、やっぱり猫は可愛いなぁ」 高良がそっと猫を撫でれば、猫は目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。無論この猫に角などありはしない。高良は顎を伸ばして撫でられるままの猫と記憶の中の青牛猫と比べてみる。 「猫の形をしていてもアヤカシじゃ本物には勝てないね〜」 「そやな、アレはにゃんこを冒涜してるとしか思えへん」 フェイルはあんなアヤカシは認めないと思いながら、お腹を見せる猫をつつく。 「アヤカシは不快ですが、やっぱり猫は、可愛いです」 輝は鼠の獣人であるが、その事が猫を愛でるという事の障害となることもない。姉には「新種のアヤカシ取材」と嘘をついてまでこの依頼を受けたくらいだ。 それに、アヤカシではもふもふできないが、猫ならもふもふできる。この差は如何ともしがたい。 「まだ仕事が残ってるんだけどな‥‥」 ルーディはそうぼやきながら石の壁を『マジックキャンセル』で片付けていた。退治だけでなく後始末も大事な仕事だ。 石の壁を作ったのも自分だし、それを綺麗に消せるのも自分だけ。それは、分かっているんだけれどもなんか理不尽な感じがするのは気のせいだろうか‥‥。青牛猫が崩したりした場所は他の人にも手伝ってもらおうと思いつつ、残ったもう一つの壁に『マジックキャンセル』をかけるのだった。 |