背徳の『肉兎陣』
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/07 22:40



■オープニング本文

●夏の砂浜は危険がいっぱい
 これはいったい如何なものか──。

 太陽はやりすぎなくらい元気で暑い。だがしかし、暑いのは夏だから当たり前だ。むしろ夏なのに寒かったりする方が問題なのでこの際、やや行き過ぎた感のある暑さについては目を瞑ろう。
 そして砂浜は大混雑だ。だがしかし、この暑さだ。一時の涼とは言えども、海に人が集まるのも致し方ない。しかしそれにしても、すごい人数だ。見渡す限りの人、人、人、そして兎。‥‥兎?

 兎だ。なんか兎っぽいのが居る。というか鼻をひくひくさせているあたりマジ兎。しかし、首から下は人間の男のもの。それも激しく肉体派。真夏の暑さをより加速する事間違いない肉体派だ。そんなこんなで人の群れの中に、頭だけ兎男が紛れ込んでいる。

 逞しい厚い胸板。その筋肉で夏の日差しすらシャットダウンなのか。
 くっきり六つに割れた腹筋。それぞれが別の生き物にすら見えてくる割れっぷり。
 力こぶが男らしさを主張する上腕ニ頭筋。自己主張も大概にして欲しい。
 柔らかさを失った尻。鋼の尻だ。男の尻なんてどうでもいいが、それは本当に尻なのか。

 そして問題なのはこいつが裸だという事だ。
 裸とは言っても下半身のいわゆる大事な部分は兎の白い獣毛で覆われているのでナニとかアレとかが露出しているわけではないのが不幸中の幸い。
 しかし、その獣毛が何でこうもえぐい角度になっているのかはわからない。ブーメランとかそういうレベルじゃねえぞ。スレスレすぎてドキドキが嫌な方向に止まらない。さらに言えばその獣毛、胸元にも生えていてつまりそのビキニスタイルの様になっている。しかも貝殻の形にも見えるので非常に悪質だ。

 当然そんな奴には誰も近寄りたくないので、いくら砂浜が混雑していてもそいつの周りを避ける形で特殊な空間が出来上がっていた。しかしそれはまるでその兎野郎を取囲む舞台の様でもある。
 その状況を勘違いしたのか、兎野郎がくねくねとポーズを取り出す始末。酷い。酷すぎる。
「おいやめろ!」
「なんだか頭が痛くなってきた‥‥」
「吐き気が‥」
 途端、体の不調を訴える人々。だが兎野郎の気持ち悪さは留まるところを知らない。なおも執拗にその体を見せつけ、挙句の果てにはつぶらな瞳から熱視線まで投げかけてくる始末。

「死ね!」
「ふざけんなこの兎野郎!」
 当然そんな事をされれば怒りの炎に油が注がれる事になり、燃える炎は兎野郎の身を焦がす。つまり袋叩きだ。いかに鍛え上げられた肉体といっても無敵という事はない。というか全裸だからか知らないが案外打たれ弱い風で、割合あっさりと兎野郎は一言も発する事なくその場に倒れ臥した。

 そして、『瘴気』となって消えた。

「消えた!?」
「もしかして、アヤカシだったのか‥?」
 そう、兎野郎はアヤカシだったのだ。

「どうりであんなに気持ち悪いわけだわ」
 そう、だからあんな恐ろしい姿だったのだ。

「でも、もう居なくなったし安心だね」
 そう、開拓者がでてくる前に名も無き民衆たちの手によってアヤカシ兎野郎は打ち倒されてしまった。くねくねしてただけで一般人に負けてしまった新アヤカシの鮮烈過ぎる登場。

 しかしその頃、押し寄せる波といっしょに海から上がってきた一団がいたのにまだ人々は気がついていない。
 不吉な足音を立てながら兎野郎が大量に姿を現していた。
 

 別に依頼が発生する前にアヤカシが退場してしまったからではない。


■参加者一覧
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
サニーレイン=ハレサメ(ib5382
11歳・女・吟
ピスケ(ib6123
19歳・女・砲
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
二香(ib9792
25歳・女・武


■リプレイ本文

●兎の砂浜
 砂浜に群れる兎達は、つぶらな瞳でふさふさした手触りのよさそうな毛をしている。
 ※ただし頭部、下腹部、胸元等の一部に限る。
 というか兎と呼ぶのがそもそも間違いではないかと思われるそのアヤカシたる異形の姿は対峙する開拓者達に動揺を与えているのだった。

「ぶふぉっ」
 勢い良く水を噴出したピスケ(ib6123)が咳き込んでいる。水を飲もうとした瞬間、奴らに出会ってしまった彼女は運が悪かった。その姿だけでピスケにダメージを与える強敵は無論他の開拓者達とて無反応ではいられない。
「うさ‥‥え‥‥うさ、ぎ‥‥?」
 二香(ib9792)の体に鳥肌が立つ。真夏だと言うのに寒さすら感じる。否、これは悪寒と言うものか。頭部はともかくとして首から下が人間の体と著しく似通っている。
「やだ、うさぎさんマッソォ‥‥」
 しかも思わず岩宿 太郎(ib0852)がそう呟いてしまうほど兎頭の奴らは筋肉質だ。しかも過度な露出が人々の目を楽しませて止まない。
「ぎゃははは!なんだありゃ!まじウケるぜ!」
「か‥‥かっくいい‥‥っ」
 笑い転げるナキ=シャラーラ(ib7034)に羨望の眼差しを向けるサニーレイン(ib5382)。沸き立つ男のエロスはその勢いのあまり、笑いや尊敬にまで昇華していくのだ。
 ※ただし一部の人間に限る。

「なんで兎なんですか、しかも何ですかあの毛は!」
 なんで兎なのかはわからない。あえて理由を述べるならばそれはアヤカシだからか。アーニャ・ベルマン(ia5465)は『あの毛を剃ったら‥』等と考えている様だが、そういう事は考えないほうが良い。そこに夢や希望が詰まっているという事は無い。
「もうがっかりですよ‥‥‥‥全力でがっかりですよ‥‥‥‥」
 斑鳩(ia1002)は肩を落とす。彼女が期待していた兎はそこにはいなかった。こんなのは兎ではなくて変態であると。危ないラインを攻めきっている毛の生え方についてはもう何も言う事はない。『危ない毛』なんて水着の危険さとは比べ物にもなりはしない。
「き、気持ち悪い!目の毒だ、残らず叩き斬ってやる!」
 背中にうさぎのぬいぐるみを背負うくらい兎は好きなラグナ・グラウシード(ib8459)が怒りに燃える。そんな風にぬいぐるに『うさみたん』とか名前を付けて外にまで持ち出すからモテないんじゃないだろうか、ラグナ・グラウシード。

●煮えたぎる太陽
 炎天下の砂浜で、兎どもは襲う相手を探す風でも避難した人間を追い回すのでもなく、割合にのんびりしている。とはいえ、それは何か嵐の前の静けさ的なものなのかもしれない。
「あれ、準備運動ですよね?」
 アーニャが指差す兎達は屈伸運動や体の回旋運動をしている。
「やるき、ですね」
 一方サニーレインとしては相棒の土偶がいない(さっき砂風呂に埋めた)ため、自分が戦わなければならず、めどい。もとい、面倒。『鉄仁十八号VS兎野郎〜南海ビーチ大決戦〜』はお預けだ。

「これは真っ向勝負せざるをえねぇ!」
 熱い日差しが太郎を変態に変えてしまったのだろうか。
 褌一丁で頭部にはウサ耳。今誰よりも太郎はアヤカシに近い存在と言える。どれくらい近いかというと兎野郎といっしょに駆除されても文句が言えないレベル。
「こんなこともあろうかと、家から着てきたッ!」
 そう言って服を脱ぎ捨てたラグナは水着姿だ。もしラグナが女性用水着を着てきているのであれば、これまたいっしょに駆除されても泣き寝入りするしかないレベル。だが、流石に普通の男性用を着用しているのでかろうじてそれは免れる。
「さあ退治してやるぜ!このヴァイブでな!」
 水着姿と言えばその体型が故に色気は感じられない黒のマイクロビキニ姿のナキ。色気こそないがいっしょに駆除される心配はない。むしろ心配なのは手元の『ヴァイブレードナイフ』を妙に略して呼ぶ所だ。間違ってはいないのだが‥。

 そして兎達は未だ準備運動を継続中だ。兎の内の一体が上体を反らす。反らすと局部が強調される感じでアレだ。ナニだ。不愉快だ。
 斑鳩の頭に怒筋が浮き出て、二香の眼光が鋭く、その光をピスケの眼鏡が反射する。
「あんなものさっさと滅ぼしてしまいましょう。存在そのものが悪です」
「ぼこればよろしいのですね?」
「ええ、やってしまいましょう。悪は滅ぼさねば。ふふふふふふ」
 そして、そんな会話をしているうちに兎達の大部分もウォーミングアップが済んだ様でもある。砂浜が戦場に変わるまでにそう時間はかからないのだった。

●衝撃の肉兎棒
「なにぃ!これをくぐれと言うのか!」
 ラグナの目の前に兎野郎が三体。まず二体が立ってそれらに抱えられるようにもう一体。俗に言うリンボーダンスと呼ばれる形状。しかし、棒を支えるのは兎野郎であって、なおかつ棒自体も兎野郎であるから、純度100%兎野郎のリンボーセットである。そして兎野郎はこっちに来いとでもいわんばかりに手招きしている。
「やってやろうじゃねえか!」
 ナキの柔らかい体をもってすれば、潜る事自体はそれ程難しい問題ではない。問題なのはそこに飛び込めるかどうかという事だが、兎野郎の肉体を恐れないナキにとってはそれすらも問題にならないらしい。
「これくらいどうって事はねえな!」
「おおー、すごい」
 アヤカシの罠かもしれないのに飛び込むのがすごい。
 あんなかっこいい肉体を潜り抜けて平然としているのがすごい。
 サニーレインはそうおもいました、まる。
「よっしゃ!俺もやってやるぜ!」
 ウサ耳をつけた太郎がそれをくぐるとなると、兎野郎と仲良く遊んでいる様にしか見えないのが問題だ。
 太郎は腰を落とすと一歩ずつゆっくり進んでいく。そして、悲劇は発生する。
「うごぉっ!」
 太郎の鼻先を掠める、毛。兎野郎のデリケートゾーンをカバーする毛が太郎の鼻をくすぐる。そんな事をされてはバランスを保てない。いや、正気すら保てまい。たまらず太郎は尻餅をついてしまった。
 続いて潜るのは兎野郎で、難なく潜り抜けた後に誇らしげにポージングを決めだす。うざい。
「貴様らなどより、私の方が‥‥ッ!」
 どうやら自分の筋肉には自信があるらしい。ラグナも対抗して暑苦しくポーズを決めだす始末。しかし、アヤカシとそんな事を張り合って何になるのだろう。
「きれてる、きれてる」
 サニーレインの声が虚しく響くのだった。

●撃滅の肉兎陣
 砂浜で追いかけっこに戯れる美女と言えばある意味夏の定番ではあるが、実年齢=彼氏いない暦的美女、アーニャは割とマジな表情で逃げていた。
「いやぁぁぁぁ!!こっち来ないでぇぇぇぇ!!」
 実年齢(略)の美女を追いかけているのはもちろん爽やか好青年なんかではない。爽やかさの欠片もない肉体派兎アヤカシだ。
 ちなみに捕まったらどうなるかと言うと、こうなる。

「う、兎が一匹‥、兎が二匹‥」
 顔を引きつらせながらうわ言を呟くピスケに斑鳩と二香が介抱している。
「ピスケさん、しっかりしてください!!」
「‥恐ろしい呪い(?)です‥!」
 ピスケの体には一つの傷すらない。外傷こそ無いものの、兎達はただ取囲んで彼らの肉体美を見せ続けるという非道の行いをしたのだ。その結果たるやピスケは気を失う程だ。
「死ぬまで見せ続けるなんて、ひどい変態ですね。鼻もひくひくさせてるし!」
 斑鳩の『白霊弾』を喰らおうとも兎は最後までピスケに迫り続けた。正直何がしたいのかわからないしわかりたくもない。自分がやられようとも見せたい体なのだろうか。斑鳩には不快感しか沸き起こらない体なのだが。
 二香もまた兎野郎の意図を探りかね、わからないならわからないまま、とりあえず倒せばいいかというシンプルな結論を導き出そうとしていたのだが、まるで呪いの苦しみにうなされていたかの様なピスケが目を覚ましたので結論は先延ばし。
「あ、気がつきましたか?」
 二香はピスケを案じつつも開拓者の仕事とは変態と真正面から向き合わなければならない時もあるのだと、自分の選んだ道の厳しさを噛み締めた。
「この程度で私の魔槍砲への情熱が‥‥!」
 ピスケはゆっくりと立ち上がる。心に深い傷を負いながらも彼女の戦意はまだ失われていなかった。

●抹殺の肉兎祭
 斑鳩の前に数体の兎野郎が立ちふさがる。そしてポーズを決め‥‥ようとしたところで白霊弾。
「きもいの見せないで下さいねー」
 別に律儀に兎野郎の準備を待つ必要はない。
「ちょっとくらくらしますね!」
 多分組み体操か何かをしようとしていた一団に焼き尽くせとばかりに精霊砲を叩き込む。空気を読まない斑鳩の無慈悲で冷酷な攻撃が兎野郎達を蹂躙する。見たら殺すとばかりに殺兎マシーン化した斑鳩であるが、それを上回る鬼気迫る表情で撃ち続けるのはピスケだ。
「とっととクタバレ兎野郎ども!」
 ボーリングのピンが如く、ぶっ飛んでは消えていく兎達。そしてすかさず装填。一秒でも長く生かしておくことは出来ぬとでも言わんばかりに撃つ。込める、撃つ。
「見敵殲滅!見敵殲滅!」
 たとえ錬力が尽きようとも、ピスケの手は止まらない。魔槍砲という名の通り、弾が尽きても槍がある。そして槍が折れるか自分の気力が尽きるかしない限りは問題ない。
「見敵殲滅!見敵殲滅!」
 口角をきつく上げたピスケは次の獲物に向かって走っていく。

「うさみたん!私を見守っていてくれ!」
 ぬいぐるみに向かって語りかけるラグナの姿は正直やばい。どれくらいやばいかというとこれで彼女が居たら即座に兎野郎が自爆するレベル。
「私のうさみたんのほうが百倍愛らしいわ!」
 台詞がなかなか香ばしいもののラグナの剣はばったばったと兎野郎達を斬り伏せる。その姿まさに鬼神の如し。ぬいぐるみに愛をそそぐ鬼神まじやばい。
「その体躯でくねくねと‥‥‥‥きもいわ!!」
 鬼神ならぬ修羅の二香もまた険しい表情で兎野郎達に剣を振るう。そして二香の近くに現れた魚頭の筋骨隆々な生臭いナニかは果たして何の精霊の幻影なのだろうか。魚頭が兎頭を打ちのめすとか怪人大戦争状態。そんな混乱状態に拍車をかける騒音が鳴り響く。
「うーさぎさん、どーしておみみが、おっきいのー♪」
 それは歌と言う名の雑音。神経すら侵す暴力的な雑音。サニーレインの『スプラッタノイズ』が兎野郎を襲う。ぶおーという野太い角笛の音が兎野郎の混乱の渦を広げていく。だが、もともと意味不明な動きをしていた兎野郎なので、混乱した結果の行動なのか素の行動なのかいまいち区別がつけ難い。
「あまり、かわりませんね」
 それならばとサニーレインは歌を変えてみる。
「兎野郎はきもくないーちょうかっこいいー♪」
「何だか少しだけ気が楽になった感じがします。変な歌だけど」
 かなりいい加減な歌だが、歌の力は本物という事で二香の心がほんの少しだけ強くなった気がする。
「でもアヤカシだからーやっつけなくちゃーかなしいねー♪」
 だが残念ながら歌詞も適当だが、歌そのものもあんまり上手くない。

「たろうマッスルによる『肉兎陣』を見るがいい!」
 兎野郎達と同じ様な格好をして、同じ様に動いてまさに太郎が体で学んだ『肉太郎陣』。その見た目の気持ち悪さから抱かれたくない開拓者(男)ランキング急上昇中。
「うう、心を無にしなくちゃ!」
 アーニャが精神を研ぎ澄まそうと苦慮している。弓術とは心の有り様に大きく左右されるものだ。すなわち、こういったアヤカシとは相性が悪いと言える。心さえ乱れなければ、止まってポージングしているので凄く狙い易いのだが。
「心を無になんて、無理!!」
 腕を後ろに組んで腰振っているのがいるし、ブリッジしながら駆け回ってるのもいるし、褌でウサ耳つけたおっさんもいっしょになってなんかやってるし。無理無理到底無理。‥‥いいやもう出鱈目で。
「ぬおわっ!」
 太郎のウサ耳の間を矢がすり抜ける。危ない。
「おおっ!」
 太郎の褌をかすめて矢が飛んでいく。危ない。今のはかなり危ない。危ないが、太郎の事はこの際仕方なかったと言う事でどうだろう。

「そのまま斬り付けてもなぁ‥」
 ナキと兎野郎では体格差が大きすぎる。まともに斬っても有効な攻撃にはならないのではという懸念。そんな彼女が選んだ攻撃は血筋も凍ろうという悪鬼の所業であった。
「どうだバニーちゃん、あたしのヴァイブの味は!おねだりしてみろよ!」
 兎野郎の尻で振動するナイフ。台詞も絵面も最悪な感じだが、すぐに瘴気になって消えるのがせめてもの救いだ。
「どんどんいくぜ!」
 兎野郎、早く逃げるか他の開拓者の餌食になってくれ。

●兎の消えた砂浜
「悪は滅びましたね」
 岩清水を片手に柔和な表情に戻ったピスケが感慨深げに一言。仕事を終えた後の岩清水は普段よりも爽快感が増している気がする。ただ滅んだ悪の事を思い出すと水が不味くなるので思い出したくは無い。
 思い出すといえば、サニーレインはとある事を思い出す。
「そういえば、テツジンを、忘れていました」
 兎野郎達と戦う前に砂風呂に埋めてきた相棒を掘り起こさなければ、いずれ土偶のテツジンは砂浜の一部と化す事になるであろう。あるいは満潮時に生き埋めとなるかもしれない。

「あはは!やっぱり夏は海だな!」
 着替える必要のないラグナはすでに海に入っている。夏が好きだからか、何だか物凄く楽しそうだ。きっと水着美女を見つけて当たって砕けるまでは元気だろう。
「せっかくの海ですしね」
 そして日はまだ高い。そして目の前には海がある。治療の必要もないのであれば、もう斑鳩の今日の仕事は終了だ。泳ぐのも遊ぶのも良いだろう。しかし海に入るを躊躇する者達もいる。
「海は、エキスが混ざっていそうなので‥‥」
「そうですね、ちょっと近づきたくないですね‥‥」
 兎野郎達の出汁が溶け込んでるかもしれない海はちょっと遠慮したいという事で、アーニャと二香は砂浜で城の築城に着手した。砂浜も兎野郎達のほとばしる男汁(汗)が染み込んでいるが、気がついていないなら別に大丈夫。問題ない。
「細けぇ事は気にすんな!」
 海に兎野郎のエキスが何て言われたら、ちょっと躊躇してしまうものだがナキは気にせず海に飛び込んだ。そう、そんなエキスなんて何だ。海では『もよおしてしまう』子供だって居る。色んなエキスすら何とかしてくれるのが偉大な海だ。とりあえず何も知らなければ皆幸せだ。
「今日は疲れた‥‥」
 色んなモノが傷ついた。色んなモノを傷つけた。そんな時は、泳ごう。あの水平線の彼方まで、泳ごう。夏の海はきっとそんな傷すら癒してくれるはずと太郎は水平線に向かって泳ぎ始めた。頭にウサ耳をつけたまま。海面に飛び出た二対の突起物は次第に小さくなっていく。そんな太郎を見ながらアーニャがふと何かに気がついた様に一言。
「あ、そうだ。また海の中からざばざば来ませんよね?」
 そう言って弓の弦を弾くのだった──。