咲いちゃったじじい
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/30 17:22



■オープニング本文

●じじいとばばあ
 いつの間にやら暖かくなって、桜の花も存分にという頃合。
 陽だまりの中、穏やかな陽気に包まれているじじいとばばあがおりました。正確には機械的かつ単純に考えると老人に分類されるはずの生命体が二体おりました。
 眉間に刻まれた深いしわ、日の光が曝け出す古い傷跡、並みの男では比較にすらならない程の巨躯。じじいとばばあと表現してもなお余りある存在感に和やかである場所もどこか殺伐とした雰囲気があります。
「咲いたな」
「ああ、そのようだ」
 じじいとばばあは今すぐにでも満開となりそうな桜を見てそう言いました。他に言葉はありません。『桜が咲いた』という事実を確認するだけで二人には充分なのです。感慨深い言葉も桜の儚さに対する言葉なんて必要ないのです。

「それより、あれよ」
「ああ、どうにかせんとな」
 二人の間に多くの言葉は必要ありません。したがってこの程度で会話が済んでしまうのです。
 何か問題があるらしいのですが、具体的な内容はじじいからもばばあからも出ないのです。
「しかし我らにはやるべき事がある」
「左様。ならば、よ」
 正直どっちの台詞がじじいなのかばばあなのかさっぱりです。しかしそれすら気にする必要はありません。何故ならじじいもばばあも同じ様なものだからです。細かい事は気にしてもしょうがないのです。
 それはともかくとして、じじいとばばあには抱えている問題が一つありました。しかし、じじいとばばあには他に用事があるらしくそれに対応する事ができないのだそうです。
「若い者の手を借りてもよかろう」
「ああ、開拓者ギルドとかいったか」
「なかなかやるようであるしな」
「やれるかどうかは、わからんが‥‥」
「まあ五分五分、といったところか」
「失敗したらその時よ」
 じじいとばばあから見て、成功率は半々という感じでしたが、二人は開拓者ギルドに依頼を出す事を決めたようでした。

●奴らがギルドにやってきた
「弟さんを捕まえて欲しいと?」
「左様。ただの老いぼれではないがな」
 じじいとばばあは開拓者ギルドにやって来ました。そして依頼とは『ばばあの弟を捕まえて欲しい』というものでした。
 しかし当然ながら迷子の老人を探して欲しいといった生温い相談ではありません。仮にもこのじじいとばばあが頼みごとをするのです。
「普通のおじいさんではないと?」
「あやつはシノビくずれよ。そう簡単には捕まるまい」
「そうですか‥。他に何かありますか?」
 とりあえずこのばばあの弟ということであれば、まあ普通の老人ではないんだろうなと開拓者ギルドの受付も妙に納得してしまいます。
「あやつは桜の木を狙う。木を叩き折ろうとする。手刀でな」
「素手で叩いて折れるものでしたっけ‥‥」
 やはり普通の老人ではないらしいと受付は思いました。斧を使ってならまだしも、手刀で木は普通には折れません。まあ開拓者ならそういう人もいなくはないですが‥。
「木をへし折るくらいはそう珍しくもあるまい。あと灰を投げる」
「灰?ってあの燃えかすの灰ですか?」
「その灰よ。灰を撒き散らす」
「はあ‥‥」
 『身軽で素手で木を叩き折る灰を撒く老人を捕らえて欲しい』というのが依頼内容のようです。やはり『迷子の老人探し』というものではありませんでした。それにしてもなんで桜の木を折ろうとして灰を撒くのかはわかりませんが。

「ああ、あと多少痛めつけても構わん。死なれては困るが」
「え!?」
 相手は老人だから怪我などさせぬよう気をつけてというのがお約束なのに、依頼人の方から手荒でも構わないというお墨付きが。
「生きていれば何とでもなるという事よ。なにそうそう死ぬほど老いてはおらん」
 ばばあは受付の表情を見て付け加えます。
「はあ‥。で、弟さんの場所のあてとかはありますか?」
 細かい事を突っ込んではダメ。世の中には不条理が溢れているのです。受付は話しを進める事にしました。
「我らが家の桜を狙ってくるはず。待ち構えていれば姿を現すであろう」
「なに我らの足でもそう時間はかからぬ。若い者なら然程かかるまい」
 そう言ってじじいは村の場所を告げます。
「急いでも半日はかかりそうですけど‥」
 とりあえず今からという事で依頼は受諾され、張り出される事になるのでした。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
及川至楽(ia0998
23歳・男・志
喪越(ia1670
33歳・男・陰
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
楠木(ib9224
22歳・女・シ
闇野 ジュン(ib9248
25歳・男・魔


■リプレイ本文

●邂逅
 桜の咲き様もまさに見ごろですし、陽射しもまた春そのものと言ってもいい位快適です。つまりお花見には最適なので、多少荷物が膨れるのは仕方のない事です。ですが、三笠 三四郎(ia0163)の荷物には手枷、足枷と鎖もろもろが含まれているのです。よもや性的倒錯者主催の花見かと疑われるほどです。鋭角な木馬にまたがって桜をみるとかステキですね、嘘です。
「何があるかわかりませんからね」
 そんな三四郎の荷物よりも闇野 ジュン(ib9248)の荷物はさらに膨れています。もっとも彼の荷物は普通のお花見仕様です。性的な意味ではないお花見仕様です。ただその量が本気過ぎて軽く引くくらいなだけです。
「ジュンさん、お花見だけじゃないのわかってますよね!?」
「え、違うの?」
 どこまでその言葉が本気なのか楠木(ib9224)には分かりかねます。ジュンの真意とはまた別に、今回の依頼について喪越(ia1670)も疑問を持っていました。
「桜を守りたいのかばばあの弟を捕まえたいだけなのかよく分からねぇな」
「んーどっちかっていうと捕まえる方じゃないの〜?」
 依頼書は確か捕まえろとかそんな感じじゃなかったかなと及川至楽(ia0998)は思うのですが、細かい事は忘れてしまいました。細かい事はいいんです。
「しかし依頼とはいえ、ご老人を叩き伏せて果たしてよいものか‥」
 そしてラグナ・グラウシード(ib8459)は依頼内容に若干の不安を感じます。騎士として老人を手荒に扱うというのは果たして如何なものかという事です、が。
「構わぬ。此の度は弟を捕まえてもらう事がうぬらに頼まんとする事よ」
「だが、桜を守れればなお良し」
「で、出たー!?」
 アムルタート(ib6632)達の前に唐突に出現したじじいとばばあが依頼の目的を裏付けます。それにしても相変わらず濃い、でかい、暑苦しい。
「人相はわかりませんが、見かけたらすぐわかりそうです」
 基本的に捕獲するなら、その人相や特徴を聞くものですが捕獲対象がこのばばあの弟ならばその必要もなさそうだと相川・勝一(ia0675)は苦笑するのでした。

●登場
「では我らはここを離れるが、ぬかるでないぞ」
 用事があるというので、じじいとばばあとは一旦ここでお別れです。
「じゃ、警戒する人と桜の木で待ち構える人と別れる〜?」
 まず桜を折らせない様に人を配置。そして残りはそれをやや遠巻きに散開。ちなみにゆるそうに見えてやることはやっている至楽は前者です。
「来たよ!」
 望遠鏡を片手にアムルタートが二時の方角を指差します。
 二次の方角だったら薄っぺらいじじいが現れそうですが、やはり遠目にみてもじじいはムキムキ天国な可能性が高いです。あとじじいと紛らわしいのでこれは『花じじい』と呼ぶ事にしましょう。
「見たくはねえけど、見ちまうよなあ」
 人魂を飛ばしていた喪越も花じじいを目視で確認、想像通りふれあいたいとは思わせる隙もない老人です。それにしても花じじいというと、股間だけを花で隠蔽した全裸の老人を意識しがちですがそんな事はありません。
「では」
 と一言入れて、三四郎は山をも震わす雄叫びを上げました。しかし、花じじいはそんな三四郎を無視して素通りです。好みのタイプではないのでしょうか。いや、好みとかそういう方向で寄って来られても困りますが。
「!」
「そんなに桜を折りたいの!?」
「俺達は眼中に無いって事か」
 好みとかそう言う事ではなく恐らく楠木の言う通りなんだろうとジュンは考えます。この状況ではジュンの考えた毒茶を花じじいに飲ませる作戦も諦めたほうがよさそうです。
「何故桜の木を折ろうとするのだ、ごぶふぉおお!」
 そして何故そこまで桜に執着するのか、『ご老公』と言おうとしたラグナは花じじいが無言で撒いた灰を思いっきり吸い込み、割と危険な状態です。今も『ぐおおお』といいながらのた打ち回っています。
「仮面が無ければ危なかった‥」
 仮面はあっても口元は開いてる気がしますが、真っ白になりながらも勝一は己の幸運に感謝するのでした。

●捕獲
 八人の若者、それとも志体持ちの開拓者が一人の老人を捕まえる。そう聞くと簡単に聞こえますが、以下開拓者の皆さんに聞きました今の心境です。
「早く花見してえ!」
「殴り殺さない様に注意する‥。そんな風に考えていた時期が私にもありました」
「死なせなければよいといわれたが、このままだとこちらが死ぬ」
「ナメてたら死ぬよね。俺、死んじゃうのかな〜。ナメてないけど」
「これは――戦争だ!」
「うう、めがねが灰だらけです‥」
「灰を撒くのは桜じゃない枯れ木だああああ!!」
「ぐほぁお!い、息ができな‥‥」
 つまり、がんばりましょう。

「じーさん、とっとと花見にしようぜ!」
 花じじいを捕まえさえすればあとは花見です。大福です。団子です。酒です。糠秋刀魚です。やっぱり多すぎます。
「桜折るより花見の方が楽しいって!」
「‥‥」
 ジュンの誘惑が聞こえているのか聞こえていないのかも分からない花じじいの無反応っぷり。
「せこくても仕方ねえよな」
 まともにぶつかればろくな事にはならないだろう(最悪死ぬ)と喪越は支援に回ります。
「幻の桜に酔いしれな!」
 若者達の言葉は耳に入らなくても、桜が増えれば戸惑うらしく花じじいは初めて反応らしい反応を見せます。
「こちらも本気にならせてもらう!この褌にかけて‥‥桜は守る!」
 もし仮に桜が守れなければ勝一の褌は消滅するという事です。本気です。
 桜が折れ無残な風景の中、褌を失った少年が少年が無念さ溢れる表情で佇むという事になります。
「ゴーグルあって良かったなあ。まあこんな事もできるんだけど」
 『そいやっ』と至楽が巻き起こした風が花じじいの灰を霧散させます。
「これ以上は近づかせぬ!」
「うりゃりゃー」
 次第に花じじいの動き回る範囲を狭めていきます。それでも花じじいはまだ桜の木への攻撃を諦めません。
「くっ」
 三四郎が踏ん張りながら花じじいの攻撃を逸らします。
「桜はやらせん!」
 そしてその逸らした花じじいの手刀をラグナが体全体を使って受け止めます。
「いまだああ!」
 手刀の痛みに耐えながら、ラグナが叫びます。仲間が体を張って作った好機を逃すわけにはいきません。
「覚悟するんだよ花じじい!」
 アムルタートの鞭がついに花じじいを捕らえます。その鞭は三四郎とかラグナも捕らえてたりするかもしれませんが花じじいを捕らえているので問題ないでしょう。
「花じじい召し取ったりー!」
 とアムルタートが宣言しても、まだまだ油断はできません。なにせあのばばあの弟なのです。つい気を緩めれば、鞭をぶちぶちっと引きちぎられてもおかしくはありません。
「じゃーん、とっても便利な荒縄くんでーす!」
 荒縄は友達。もちろん性的な意味ではなくて。荒縄の女、楠木は性的な意味ではないにしろ、荒縄を手馴れた感じで使って花じじいを縛り上げます。
「縄だけでは不安ですね」
 三四郎がやはり性的ではないけど、そういう風にも見える道具を使って花じじいの捕縛状態を強化します。
「もう逃げられないよ!」
 そういって楠木が胸を張った頃には、重装備花じじいが完成しているのでした。

●それは愛
「ほう、無事捕らえた様だな」
 疲れ果てた開拓者達の前にじじいが風とともに現れます。
「桜も無事か。なかなかやりおる」
 そしてじじいに気を取られている間に、ばばあもいつの間にやら帰ってきていました。
「ええ、まあなんとか‥」
 そう返事をしつつ、三四郎の視線はじじいとばばあの持ち物に目が行きます。何だか用事と言っていた割にどうも生活感に満ちています。そしてそう思ったのは三四郎だけではないようで、アムルタートが先に尋ねます。
「もしかしてじじいとばばあの用事って、『芝刈り』と『洗濯』?」
「左様。日頃の生活を疎かにはできまい」
「俺らがそっちやった方が早かったんじゃねーの?」
 ジュン達が芝刈りと洗濯をして、じじいとばばあが花じじいを捕まえる。そっちの方が確かに効率が良い様な気がします。しかし、じじいは首を横に振るのです。
「まだ貴様らに、『芝刈り』は早い。そう死に急ぐ事もあるまい」
「それは本当に『芝刈り』なのか‥?」
 そんなラグナの呟きに、じじいは濃い微笑で返すだけでした。

「そんな事よりお爺さんが理由を話してくれないんです!」
 いくら楠木が優しく『ねぇ、どうしてあんな事したの?』と花じじいに聞いても答えが返ってこないので、ちょっとぷんぷんしています。ツンツンでもデレデレでもありません。でも、ぷるんぷるんはしてると思います。ぷんぷるんぷんぷるんです。
「‥‥」
 花じじいはいまだ黙したまま何も語ろうとしていません。ただ桜の方を敵意を持った眼差しで見つめています。
「で、どーすんのー?何かすんのー?」
 花じじいが何でこんななのか気になる事は気になるものの、割合人生適当な至楽はじじいとばばあがどう出るかに任せるつもりです。
「治す」
「まさか『愛の力』でどうにかするなんて言わねえよなあ?」
 まあ花じじいは見た目もひっくるめて色々おかしいと喪越は思ってはいましたが、こんないかつい顔は治す治さないの問題ではなくてご愁傷様だし、中身となれば『治す』と言われても言っている意味が良く分かりません。
「ほう、見かけはおかしな奴だが以外と頭が回る」
 しかし、喪越の思いとは裏腹にばばあは愛の力を信じていました。まさにロマンチストばばあ、嫌な響きです。
 ばばあの愛。もう言葉だけでも遠慮したいそれは岩やアヤカシすらをも粉砕する事が容易いだろう握り拳から発せられるものの様でした。
「やめてください、しんでしまいます」
 このままではせっかく花じじいを捕まえたのに、ばばあに殺されてしまいそうです。勝一は引きつった笑顔で抗議の意を示すのでした。

●愛の治療
「こやつの飼っていた犬が死んでな。その遺灰を桜の木の下に埋めたのよ」
 その時の花じじいの落胆ぶりときたら相当なもので、励ますつもりで『まあ元気出せ』とばばあが花じじいの背中を叩いたところ、ちょっとばかり力を入れすぎて花じじいは宙を舞い、桜の木に頭を打ってしまったのだとか。つまり、もう一回殴れば治るはず。どう考えてとんでも理論です、本当にありがとうございました。
「ばばあ、本当にやるの?」
「まあ見ておれ」
 ばばあはアムルタートに言うが早いが躊躇無くそのとんでも治療を開始します。がごっという何かこうヤバイんじゃないか的な音が花じじいから発せられます。
「よぉ、アミーゴ調子はどうだい?」
「あばばばばば」
「なあ、これひどくなってねえか!?」
 喪越の挨拶に壊れた機械の様な反応をする花じじい。ジュンの目には悪化したようにしか見えません。
「ふむ、少しずれたか」
 今度は、ずごっという音。今度はどこ壊れたんでしょうこの人間打楽器な感じです。
「お爺さん、大丈夫‥?」
「おっ●い揉みたい」
「‥‥これは判断に迷いますね」
 少なくともさっきよりはマシな気がしますが、楠木に大丈夫かと聞かれてこの回答ではまるでどこかのアヤカシです。三四郎は治ったかどうかの結論が出せません。
「あと一息か」
「まだやるの〜?大丈夫〜?」
 普通の人間なら木っ端微塵とは言わないまでも洒落にならないだろう治療を続けても大丈夫かというと、至楽でもちょっとダメではないのかと思います。しかし、若者達の意思は尊重されずばばあの拳は止まらないのです。まさに外道。
「ご老公!気をしっかり持たれよ!」
「ネコと和解せよ。犬は腹を切って死ぬべきである」
「きっと治ってないですね‥もともとどんな人か知りませんけど」
 ラグナの呼びかけにも残念な結果。勝一も誰もが本当の花じじいを知りませんが、これが本当の花じじいだったらそれは結局あまり変わってない気がします。だいたい本当の花じじいという響きが嫌です。
 その後結局、花じじいは何回か殴られてばばあと同じ様な口調の『正常』に戻りました。奇跡ってすごいですね。

●花見
 色々ありましたが、問題は片付きました。あとは花見です。そして花見を待ち望んでいたジュンが切り出します。本当はかなり前から花見に切り替えたかったのでそのタイミングをずっと狙っていたのです。
「おっしゃ、皆で花見しようぜ!じーさん達も一緒にさ!」
「もう!そればっかり!」
 ジュンに文句を言いながらも楠木は花見の準備を手伝います。それにしてもジュンの動きが早い。簡単にではありますがあっという間に宴席の用意が出来あがります。
「これで全部ですね!」
「飲もうぜ!」
 全員がお酒を飲むわけではありませんが、お酒が入れば盛り上がる人達が出てくるのは当然と言えます。
「はーい!アムルタート踊りま〜す♪」
「お酒サイコー!花見サイコー!はっはーん!」
 日常を割合楽しく過ごせる性格のアムルタートと至楽は花見においてもその本領を発揮します。正直騒がしいのはこの辺が原因のほとんどです。
「じじい!ばばあ!キビ団子ちょーだい♪」
「俺、じじいとばばあの弟子になるわー」
「待っておれ」
「死を覚悟してからなら、考えよう」
 騒ぎに酔いしれる死を覚悟して至楽が弟子入りするかはわかりませんが、それはそれとして全員が全員騒いでいるという事ではありません。
「世の中は広いな‥あのような、恐ろしい老人がいるとは」
 ラグナは酒を手にしたものの、激しい疲労感に襲われていました。いくらあんなじじいとはいえ、たかが老人一人を相手にと考えると自分が許せません。
 そんな沈みがちなラグナの後ろから声がします。
「貴様はまだ若い。若すぎる」
「くっ‥‥まだ、未熟‥。修練に励まねば‥」

『こんな恐ろしい連中と花見とか優雅の欠片もありゃしねぇ』
 喪越達が守りきった桜は綺麗なのですが、喪越には濃い老人が三体の方が気になって仕方ありません。
「どうしました?」
 楽しい場であるのになにやら深刻そうな表情をしている喪越に気がついた勝一が尋ねます。
「うん?ちょっとな」
 と喪越は一言。まあ正直に『余りに濃すぎるからじじいとばばあの顔真似をしていた』なぞ知れたらどうなるかわかりません。言葉が少なくてもいい時もあるのです。
「何かこう‥‥濃い顔を見た後だとこの桜が余計に綺麗に見えます‥」
 勝一には濃い面々がいてもまだ桜は美しいと思えます。
「そうか、それは何より」
「似せようとするなら、目線はもっと上を向くのだな」
「「!?」」
『命も桜もまた儚いですね‥』
 騒がしい輪より少し離れて、三四郎は静かに桜の花が舞い落ちるのを目で追います。何故か花の散る様は人に死を意識させるものです。特に開拓者ともなれば死は近いもの。たとえそれが花見の席であってもです。
『散り際はどうなる事やら‥‥』
 そして湯呑に浮かぶ花びらを見つけ、三四郎はさらなる思いを巡らすのでした。