魔法少女、結婚します?
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/13 22:01



■オープニング本文

●目覚め
 いつの間にやら寝苦しい程の暑さはなく、むしろ朝には肌寒さを感じさせる程。
 蝉の声もいつしか消えて、夜に涼やかな虫の音が響く。

 したがって安眠を暑さだとか、蝉の声だとかで妨げられる事もない。
 ましてや早朝から戯言を聞かせるためだけに押しかけて、寝ている所をたたき起こされるなんてあってはならない事だ。
「彩!聞いて聞いて!」
 うるさい。とてもうるさい。ここは自分の家のはずで、今寝ているはずだ。さらに付け加えれば今日は仕事が休みであって、起きて仕事に行く必要もないはずだ。つまり誰にも眠りを妨げられるいわれもない。
「ねーねー起きてよ彩!聞いてるの?」
 良く考えれば何故こいつは寝ている家に勝手に上がりこんでわめき立てているんだろう。そう考えるとふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 しかしこのまま寝た振りを続けても諦めそうにないので、仕方なく対応をするしかないようだ。不月 彩(フヅキ アヤ)は布団をから頭を出してイツカに怒鳴りつける。
「うるさいわよイツカ!今何時なのよ!なんでここにいるのよ!」
「え、七つ(朝四時)だし、私がここに来たからよ」
「そうじゃなくてなんであんたがそんな早くから来てるのかってことよ!!」
「あのね私結婚するの!!」
「は!?」
「蛙みたいな肌に、蛙の様な手足。それに蛙みたいな目で蛙みたいな長い舌を持った素敵な人なの!」
「それだとただの蛙じゃない!」
「でね、彩も気に入ると思うの。ね、いっしょに家族になりましょうよ!」
 そう言うとイツカは彩の手を引っ張ると外に連れ出そうとする。この力の入れようは冗談ではなく本気らしい。思わず布団から引きずり出されそうになるが、このまま外に出れる格好ではないし、出る気もない。そもそも言動がおかしすぎて付いていけない。
「いい加減にしなさいよ、イツカ!!」
 彩が言葉とともに放ったのは電撃。至近距離から放たれた電撃はイツカの体を貫くのだった。

●もう一人の目覚め
 流石に電撃をくらったイツカは静かになった。
 というか喋るどころか動きもしない。
「やりすぎた‥?」
 一応手加減はしたし、イツカも志体持ちだからまず死ぬことはないだろうがそれでもまさかという事もある。彩はそっとイツカに近づいてつついてみる。
「う‥ん‥」
「生きてるみたいね」
 とりあえず一安心。
「生きてるけど、普通友達に魔法とかで攻撃しないと思うの‥」
 まだダメージが残っているのか、イツカに先ほどの元気はない。
「普通友達はこんな時間から家に侵入して騒いだりしないと思うわ」
「そういえば私、何でこんな所にいるの‥?」
「こんな所って自分で押しかけてきておいて‥」
 急に考え込んで黙ってしまったイツカを見て、彩は言葉を失くすのだった。

●そして休日出勤
「やっぱりアヤカシよね」
「そうとしか考えられないわ」
 イツカのあいまいな記憶を整理して出た結論は、アヤカシの仕業。アヤカシがイツカを操り、餌となる人を集めようとしていたのではないかといった所だ。
「まだ他にも人がいるのよね?」
「何人いたかはわからないけど、他にもいたわ」
 相手がアヤカシだと仮定して、なぜ食べられずにまだ生き残っているのかがわからないがまだ他にもアヤカシに操られていると思われる人間がいるらしい。もっとも中身はとっくに食べられていて人間もどきになっている可能性も否定できないが、イツカが元に戻れた事から生存者がいる可能性は高い。
 それにこのように操った人間を使ってどんどんその対象を増やそうとするのであれば、放置すればする程その被害も大きくなってしまう。
「しょうがないわね‥」
 流石にこの状態では休みだからといって知らぬ振りをするわけにはいかない。彩は出勤準備を始める。そんな彩にイツカが声をかける。
「アヤカシ退治のついでに、私の零神愚心臓(れいじんぐはーと)も取ってきてくれるよう頼んでくれない?」
「ゴミはその場に捨てておいたままで構わないと書いておけばいいのね?」
「ゴミじゃないわよ!零神愚心臓は私の大切な杖なの!」

 その後、渋々出勤した彩は依頼書を作成。依頼書には蛙風アヤカシが潜伏していると思われる場所、人が生きたままとらわれている可能性がある事、そして最後にゴミみたいな杖があったら持って帰ってくる事というのが小さく書かれるのだった。


■参加者一覧
雪ノ下 真沙羅(ia0224
18歳・女・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
水月(ia2566
10歳・女・吟
ネオン・L・メサイア(ia8051
26歳・女・シ
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰


■リプレイ本文

●廃屋の前
 件のアヤカシは蛙に似た形状であるらしい。そんな姿にも関わらず一時魅了状態にあったイツカは『それと結婚する』などと言っていた。異常をきたしていると容易く察せられる位『雑な操り方』であるが、馬鹿に出来ないものがある。
 それはともかく、蛙的アヤカシに魅了されるという事は一人ならず気になる所がある様だった。
「そ、そんなにステキな蛙さん‥?」
 雪ノ下 真沙羅(ia0224)は八頭身で扇情的な眼差しをした蛙でも想像したのだろうか。
 なお、先に言っておくがそのアヤカシは八頭身でもなければ、胸元を大きく開けた服を着ているとかでもなく単に大きな蛙である。恐るべくはその魔性の力なのだ。
『蛙なら魅了の他、舌、か‥?』
 琥龍 蒼羅(ib0214)は真沙羅の想像をよそに、討つべき敵の予想をする。今までも蛙状のアヤカシの相手をした事はあってもそれが同じアヤカシとは限らない。ただ有り得る事態を予測するのは無駄な事ではない。

 草の茂みに隠れ、遠目で破れた壁の中を覗き見る。見れば聞いたままに大蛙と人。中には蛙に寄り添うようにしている者までいるから目を疑う。
「流石にアレと結婚は嫌だにゃぁ」
「‥‥アレに魅了される、か。狩の仕方としては悪くはないが‥」
 アレとはすなわち蛙のアヤカシである。猫宮・千佳(ib0045)とネオン・L・メサイア(ia8051)のどちらにも魅力的な存在には映らない。魅了されていなければ普通はそうだろう。
「とんだ蛙の王子様が居たものね〜」
「でもこっちはアヤカシ。見過ごす訳にはいかないの」
「そうね口づけでどうにかなるわけでもないしね」
 葛切 カズラ(ia0725)と水月(ia2566)はジルベリアの物語か何か思い当たる節があったらしい。
 とはいえその手の物語と違って、相手はアヤカシだ。口づけを交わそうと壁に叩きつけようとアヤカシはアヤカシのままだ。滅する以外に幸せな結末など有りはしないと二人の決意は揺るがない。

●その作戦は
 まずは廃屋の中にいる人達をアヤカシから引き離す。
 これが開拓者達の考えた作戦だ。その名も『お姉さまを助けて作戦』と言う。その作戦の命名者である滝月 玲(ia1409)はじっと様子を窺っていた。
「うまくいくだろうか‥」
 しかしこの作戦には間違いがあった。それも致命的で取り返しの付かない重大な間違いが。
 アヤカシの目の届かない所から助けを求め、中の人間の注意を引いて誘き出すというもので着眼点は悪くなかった。しかし──。

「ぐすっ‥痛い‥痛いよぉっ‥」
 と助けを求めるのは赤い服を着たリンスガルト・ギーベリ(ib5184)。身長四尺、外見年齢十歳程度。痛がって助けを求める姿はともかく、彼女はどうみても『お姉さま』ではない。
 何という事か、『お姉さまを助けて作戦』であったはずなのに実態は『幼女を助けて作戦』になってしまっていた。
 これは非常に由々しき事態である。何しろ『お姉さま』と『幼女』では方向性が違いすぎる。作戦は根幹部分から破綻していたのだ。

 しかしそれでも幼女リンスガルトの演技は続いていた。
「お墓には‥タンポポがいいな‥いっぱい‥供え‥」
 演技が過熱しリンスガルトの死が相当間近なシーンまで進んでいたが、事態は思わぬ方向へ動きを見せる。
「ああこれはいけない蛙様に見ていただかなければ」
「早く蛙様にお供えしましょう」
「本当の君を始めるために、今までの君を、終わらせよう」
「ま、待つのじゃ!」
 中に居た者達は誘い出されてきたものの、リンスガルトの怪我の様子を調べようとも言葉を聞こうともせず、廃屋へ運びこもうと担ぎ上げたのだ。
 彼らは一見何の異常もないが、言動はまともではない。会話すら成り立っていない。ただ共通するのは一人でも多くの人間を主の元へ連れて行くという気持ちだけ。
「これはまずいっ!」
 このまま黙って見ているわけにもいかないと玲は飛び出していった。

●人
 なれば多少手順とは異なるが、どうにか大人しくなってもらうしかない。魅了された人々の救出を行動の旨とする者達はそれぞれ自分達でやれる事を開始する。
「マジカル♪アイヴィー、バインドにゃ!」
 『魔法の蔦で縛る』 = 『マジカルアイヴィーバインド』。
 技の名前を呼べば対処のしようもありそうなものだが、正気を失った者はそんな事など気にしない。彼らはそのまま千佳のマジカルな蔦に絡め取られる事となる。
 そして蔦を抜けたり、違う角度から寄って来た者も、突然何かに躓いたり転んだりしていた。
「うまくいっているようだな」
 獲物を仕留めるわけではなく、できるだけ怪我をさせないようにする罠。しかも限られた時間と材料という悪条件ではあったが、ネオンの罠は狙い通りに機能しているようだ。
「にゃにゃ!結構いるにゃ!」
「ずいぶん溜め込んでるじゃないか」
 事前に数を調べていなかったが、どうやらかなりの数の人が中にいるようだ。騒ぎに気付いたか蛙が命じたかは知らないが、中からさらに人がやって来る。
「おのれ、危ない所であったわ‥」
 それらに混ざってリンスガルトも姿を現す。どうやら蛙の所に運ばれる前に自力で脱出したようだ。手には荒縄。魅了された者達が妙な真似をしないように縛っておくつもりだ。

「ゆっくり眠ってて‥‥」
 子供を寝かしつけるかの様な歌声が水月から発せられる。
 本当は一人一人確実に魅了を解いていきたいところだが、人数も多い上に術を扱うアヤカシもまた側にいるとあってはそんな余裕はない。
 歌を聞いた者達は一人、また一人と倒れるように眠りに付く。しかし、何人かはまだ眠りにつく気配がない。
『お願い、眠って‥』
 祈るように歌っても、彼らにその祈りは届かない。眠りに付く事が彼らのためであっても、正気を失ってはその分別が付く道理もない。
「仕方ない」
 歌で眠らないのなら、無理にでも眠ってもらうしかない。
 玲はいまだ眠らぬ男の鳩尾に拳を打ち込む。それは勿論手加減の上。下手を打てば助けるどころか殺しかねない危険な行為である故、慎重さが求められる。
「‥その人は?」
「気を失っているだけです」
 倒せば良いだけの相手と違って気が磨り減るものだ。多少の怪我なら水月に治療をお願いできるが、『最悪』の場合は彼女にお願いしてもどうにもならない事だってある。
 玲は冷や汗を拭いつつも、まだ終わってはいないと気を引き締めるのだった。

●襲撃
 魅了された者達への対応とは別に蛙の対応を担う開拓者達もいた。
「‥‥」
 蒼羅はいつも以上に寡黙で平静な表情で殺気を収める。否、消すのではなく内に秘める。
 手には弓。耳を澄ませば心臓の鼓動さえ聞こえそうな程、呼吸すらも静かに歩みを進める。相手はアヤカシだけではない。いまだ中には人がいる。
 迂闊に狙えば誤射もあるし、下手に騒げば盾になる者が出ないとも限らない。
 そして蒼羅の少し後ろにも人影が。重量感のある柔らかそうな塊を揺らしながら歩いているカズラと真沙羅もまた慎重にその機会を窺っていた。
「まずあの人達をどうにかしないといけないわね」
「ええ、そしたら早めに決着を、ですね」
 お互いの肌が触れてしまう位の間近さで囁く。だがそんな事を気にしていられない緊張感がそこにはあった。

 そして次第にその張り詰めた空気に雑音が混じり始める。外の様子が騒がしくなってきたのだ。歌声とか『にゃー』とか聞こえてくる辺り、仲間達が何かしているだろうという予測は間違いではないだろう。
「人が、減ってきました」
「いつまでも待っていられないしそろそろかしら?」
 その騒ぎが滞留していた流れを動かした。蛙が完全に孤立する様な状態にはならないが、幾分人は掃けてマシな状況にある。
 カズラは蒼羅に視線を送ると、蒼羅はやはり表情を変えずに頷いた。
「狙い撃つ‥」
「行きます!」
 矢が放たれて一呼吸、真沙羅も真っ直ぐ矢の様に蛙の元へ走りこむ。
「ここから先は通行止めよ」
 そう言うカズラの後ろには、荒れ果てた建物に似つかわしくない滑らかな面を持つ黒い壁が出現していた。蛙と魅了された者達を遠ざけるための壁だ。
 そしてまた騒ぎの声が大きくなる。内と外。沼地の廃屋は俄かに騒がしくなった。

●視線
「悪いな、待たせた!」
「手間取りました!」
 ネオンと玲が駆け込んでくる。その後も続いて現れて開拓者八人が勢ぞろい。これだけの数が揃えば不足は無い。最早蛙の運命は定まったか。しかし蛙はその時を待っていたかの様でもあった。

 蛙の目がぎろりと妖しく光る。
 音もない。
 痛みもない。
 ただ、鈍い光を少し感じただけ。
 だが、咄嗟に抗わなければならないと本能が注げた。だが、抗えない。

「はぁ‥ぬるぬるのお肌、大きなお口、長い舌‥何もかもが、ステキです‥」
「妾は蛙に、蛙になりたい‥。妾は蛙になるのじゃ!!」
 あろう事か真沙羅とリンスガルトの二人が敵の術に落ちてしまった。だが、彼らは一般人ではない。プロだ。志体持ちだ。したがってその対処方も一般人相手とは異なるものである。
「こら、真沙羅っ!」
「こうなったらマジカル♪ボクサツにゃ♪」
「だめよ殺したら。鞭打ちでちょうどいいんじゃないかしら」
「女性にこういう事をするのは気が引けますが」
「‥痛かったら、(後で)治す‥から‥」
「斬りはしない‥」
 仕事とは楽しいことばかりではない。時として辛く厳しく、涙をこぼしかねない事もあるのだ。魅了されていてもまだ自覚が残っていたのだろうか、これから起こる事を予測してか真沙羅とリンスガルトの表情は引きつるのだった。

●蛙始末
 こうして辛い時を乗り越えた若者達は再び蛙と対峙していた。
「‥もう、あんな事は、嫌‥」
 悲しい記憶を繰り返さぬ様、水月の歌が仲間を守る。経験豊かな開拓者といえどまだ幼い彼女に先ほどの様な治療を幾度も見るのは今後の成長に暗い影を落としかねない。

「その舌、斬ってやる!」
 太刀を構えた玲はタイミングを狙っていた。素早く伸びる邪魔な舌を叩き斬ってやろうと。中腰に太刀を構えて摺り足で距離を詰める。次に奴が舌を伸ばした時、それが奴の最後だと。
「そろそろ観念してもらうおうか」
 前に仲間がいればこそ、全神経を集中して弓を引くことができる。ネオンの精一杯の力を込めた矢は激しい唸りを上げて、蛙の脚を射抜く。
「マジカル♪アローを食らうにゃ♪」
 負けじと千佳の魔法の矢も激しく蛙を射立てる。
 蛙が矢の嵐にたまらず舌を伸ばしたその瞬間。玲はその動きを見逃さなかった。
「これでどうだっ!」
 生々しい物質が暫し、宙を舞う。そして欠けた体の一部は地に落ちた途端、即座に瘴気と化す。

「歌っているだけなら良かったのに」
 何かしている。
 カズラは間違いなく何かをしている。彼女にしか分からない、仮に分かっても言い様の無いアレが何かをしている。
「寒くなる前に消えなさいな」
 筆舌に尽くしがたい痛みや苦しみというものが蛙を襲っているのかもしれない。
 把握しきれないとはいえ、好機であった。そしてその好機を真沙羅が逃すはずもなく。
「覚悟!」
 薄い刃に赤い光の破片を帯びて、真沙羅の刀は輝き煌く。
 醜い蛙と比べたらそれは月とすっぽん所の例えではない。その赤い光は蛙の腹を鮮やかに切り裂く。
「‥抜刀両断」
 真沙羅と入れ違うように現れた蒼羅もまた赤い光を刃に纏っている。蒼羅の本領は刀、抜刀術の類である。彼が鞘から刀を引き抜いた時、赤い炎が立ち上るが如き錯覚をも引き起こす。
 蛙の腹に引かれた線は二本。既に満身創痍であった蛙には十分すぎる致命傷。だが、攻撃の手は緩まない。
「放て愛全!酒割部振威厳!(しゅわるべふりーげん)」
 リンスガルトの叫びとともにオーラが球状となり、蛙に撃ち込まれる。蛙に吸い込まれていく球。蛙は動かない、動けなかった。そして蛙の体は次第に瘴気へと変化を始めるのだった。

●後始末
「‥大丈夫‥ですか?」
 真摯な眼差しで水月が目覚めた人達の様子を確認している。操られていただけならアヤカシが消えれば元に戻りそうなものだが、催眠や魅了は後に残るものもある。
「怪我はないか?」
 玲も同様に被害者が気になっていた。仕方なかったとはいえ少々荒っぽい対処をせざるを得なかったからだ。とはいえ擦り傷や転んだ時の怪我をした者はいる様だが、全員正気に戻り、大事に至った者はいなそうであった。

 そして依頼のおまけと言っては何だがイツカの零神愚心臓(れいじんぐはーと)の回収も必要であった。アヤカシもいない今、単なる探し物であるから気楽であった。
「大変だったな、真沙羅?」
「はい、ネオン様」
 二つの巨大な双丘が先程の戦いを振り返りながら例の杖を探していた。真沙羅の心には不覚を取ったという所があったが、ネオンは致し方の無い所と見ている。誰が悪いというのではない。その時々の運というものもある。
「だが、良く頑張ったぞ」
 慰めるようにネオンは真沙羅を抱き寄せる。それは男なら誰しも『挟まれたい』と思うのではないかとも言うべき狂気を誘う動きであった。
 そしてそれを見つめるのは男達だけではない。ある種野生の眼差しも獲物に狙いを定めているのであった。
「お肉‥おいしいのかにゃ?かにゃ?‥うー、頂きますにゃ〜♪」
「え、な、何ですか〜!?」
 蒼羅はその手の騒ぎには興味がないらしく、後ろを振り返らない。なお振り返らないので後ろがどうなっているかは残念ながらお知らせする事ができない。
「‥あれか‥」
 そして蒼羅は棒状の奇妙な物体を拾い上げる。探すのに苦労はしないだろうと思っていたが、正直戦闘中からその存在には気が付いていたくらい零神愚心臓の回収は容易だった。

 戻ってきた開拓者達の手に見覚えのある杖があるのを見て、イツカが駆け寄ってくる。
「私の零神愚心臓!!」
 悪趣味な装飾が施された鈍器ではないかと思うが、イツカには大事な物との事で価値観というのは人それぞれであると感じさせる。
 リンスガルトはイツカにそのブツを渡すとこう告げた。
「そろそろばーじょんあっぷした方がいいのではないかの?」
「そうね、失われた武器が戻る際の強化はお約束ってやつだし」
 隣にいたカズラもそれに同調する。
「そういうものなの?でも結構いじってあるからなあ」
 これ以上改造するとなると原型を残すのは難しい。ちなみに元の素材は『マジカルワンド』である。
「いっそ魔槍砲と連結すれば?流行だし」
「でもそうしたらも別の子になっちゃう‥。え、何?『強くなりたい』?でも‥うん、わかった。そこまで言うなら‥」
「誰としゃべっているのじゃ?」
「あのね、零神愚心臓が生まれ変わって強くなるんだって!じゃあまたね!!」
 イツカは答えにならない返事もそのままに、鍛冶屋の方角へ走って行った。
「まだ術が解けてなかったのかしら‥?」
 取り残された者達は微妙な気持ちでイツカを見送るしかなかった。