東房生まれの手井さん
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/20 19:27



■オープニング本文

●破ァッ!
 遭都北方にあるその村は呪われていた。
 どういう理由かは分からないが、やたらとアヤカシの襲撃を受けるのだ。近くに魔の森があるわけでもない。アヤカシも同じものばかりではない。数も時間も何もかも揃わないが、とにかくこの村を襲うのだった。
 近隣の村はそう目立つ被害はないのに、なぜかこの村だけアヤカシの襲撃回数が多い。目撃回数だけなら二倍や三倍では済まないのではないだろうか。

 何か理由があるのではないかと調べたこともある。巫女や陰陽師の力を借りて調べたのだが、彼らも首を傾げるばかり。彼らは口をそろえて『何もない』と言うばかり。むしろ村の何処を見ても瘴気が不自然な程少ないと言われたくらいだ。
 しかし、村人達はそんな逆境に屈することなく日々の生活を続けていた。
 それには理由があった。無論、その土地を離れて生活をする当てなどないというのもあるが、この村には一人の頼れる男がいるのだった。

「破ァッ!!」
 頭を丁寧に反りあげた若い男が小鬼を吹き飛ばす。
 否、小鬼は砕け散る。単なる肉体の力か、それとも何らかの精霊力が働いているかは分からない。
 ただ、その坊主頭の男が小鬼とはいえアヤカシを圧倒しているのは確かだ。
「さすが東房生まれの手井さんは違う」
「東房生まれってすげえ」
 村人達はアヤカシを前にしても逃げることはない。それだけその手井と呼ばれた男を信頼しているのだろう。『彼がいれば大丈夫』と。
 そもそも東房生まれだからどうって事もないのだが、この村には手井以外に東房出身の者はいない。基本的に生まれてから死ぬまでこの地を離れない者の方が多いのだ。
 したがって『東房生まれ=アヤカシより強い』という間違った認識があるようだ。
 ともかく手井に関して言えばその認識は間違いとも言えない。手井は強い。志体を持って生まれた彼は、天儀天輪宗の僧侶として修行を積んだ身だ。故あって今はこの村に居候しているわけだが‥。

●破ァァッ!!
「怪我はなかったか」
 難なくアヤカシを退けた手井が村人に尋ねる。
 いつだって、『破ァッ!!』と村人達を間一髪救ってきてはいるが確認は怠らないのだ。
「いや、大丈夫です。ありがとう手井さん」
 こんなやり取りは最早日常。アヤカシの襲撃、撃退が日常に織り込まれていながら、常に然したる被害はなく平和に過ごせているのは手井の力に因る所が大きい。

 しかし、この日常は手井がいないと成り立たない、いつ崩れるとも知れぬ脆い基盤の上に成り立っている事は誰もが認識していた。
 手井はこの村の生まれでもなければ縁者がいるわけでもない。
 たまたま寄り付いた先にこの事情というわけで、なし崩し的に留まっているのが延々と続いているようなものだ。
 手井がこの村に居ついて早数年、いつまでもそれが続けばよい、あるいはアヤカシがいなくなれば、と村人達は考えながら日々の生活に追われていた。

 そしてその日、日も沈みかけた頃、一通の手紙が手井のもとに届く。
「──これは!」
 文字は兄のものか。見慣れたような、久しく見ていないような文字はただ言葉少なげに母親の病状悪化を伝えていた。
「行かなければ。しかし‥」
 遭都と東房の国境は接しているとはいえ山を越えなければならないし、この村と故郷を行き来するに一日、二日というのでは済まないし、数日滞在も当然有り得る話であれば最悪十日は必要かもしれない。
 その間、この村は無事でいられるかどうか。その予想は誰にもできまい。アヤカシは来ないかもしれないし、手井が戻ってきた時に生きた人間は一人もいないかも知れない。

「置いてはいけぬ。だが帰らないわけにもいかない─」
 根本的な改善策は今後考えるとしても、とりあえず今をどうにかしないといけない。
 誰か代わりになるものがいれば良いのだが、例えば開拓者なんかがいい。
 しかし、今すぐにでも旅立ちたいのだ。ギルドに依頼という手順を踏めばどうしても時間がかかる。まあ金の問題もあるが、それは村人と相談しよう。
 問題なのは時間だ。通りすがりの開拓者なんかが今ここを通れば良いのだが‥。

 そう思って、外に出た手井であったが、彼は精霊の粋な計らいを知る。これは今までの働きに対する褒美だったのかもしれない。そこには村人ではない、見慣れぬ者達が歩いていたのだ。
 衣服や武器はそこそこに汚れていて傷のある者もいたが、彼らの表情は一応に明るかった。
 恐らくこれは依頼を終えた開拓者達。
 手井は村人に相談する前にこの機を逃してはならぬと彼らに駆け寄るのだった。


■参加者一覧
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
月野 奈緒(ia9898
18歳・女・弓
白銀狐(ib4196
14歳・女・シ
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
サクル(ib6734
18歳・女・砂
山羊座(ib6903
23歳・男・騎
射手座(ib6937
24歳・男・弓
魚座(ib7012
22歳・男・魔


■リプレイ本文

●手井さんとの出会い
 なにやら坊主頭の男がこちらに駆け寄ってくる。
 何か用事があるようだが、そんなのは知った事ではない。だいたい道端で声を掛けてくる奴にろくな奴はいない。
 一度取り合おうものなら、がらくたを売りつけようとしたり、あわよくば騙そうという奴も少なくない。
 だから山羊座(ib6903)はその存在に気付きながらも気付かないフリをした。こういう手合いは無視するのが一番手っ取り早い解決法だ。そうすればいつか諦めるだろう。
 と思ったら、歩いているのは自分だけで他は坊主頭に呼び止められたまま歩みを止めているではないか。
「めんどくせえ‥」

「え、えっと手井さんがいない間、この村を、守れば良いという事ですか?」 
 坊主男、手井というらしい男にファムニス・ピサレット(ib5896)が依頼内容を確認する。開拓者ギルドを通さぬので正式な依頼ではないので、頼み事と言うべきだろうか。
「そう言うことだ。何とかならないだろうか?」
 母の病状悪化という理由もあって手井には余り時間が無いらしい。
 ──どうしよう。
 自分は引き受けても良いと思うが、他人の予定や都合などはわからない。
 それに誰が偉いとかそう言う事もない、ただ依頼を共にした開拓者の集まりに過ぎないし、誰が主導権を持つという事もないので回答に困る。
「あ、え、そうですね‥」
 ファムニスは言葉を濁しながら、助けを求める様に仲間達に視線を走らせる。
「私は構いません」
 一番最初に返事をしたのはサクル(ib6734)。そうだ、別に全員が受ける必要はない。
 都合がつく者だけが受ければいい。とんでもなく強力なアヤカシが村を狙っているというわけでもない。最悪一人でも事足りるかもしれない程度の話だ。
「わかりました。村の皆さまをお守りいたしますの!」
 白銀狐(ib4196)も続いて快諾する。
「あと、陰陽寮製の特別なお薬なの、お母様のために使って」
「こんなものまで。有難く頂戴しよう」
 そしてその流れのまま、手井の頼みを断る者は現れない。
「それじゃみんな参加でいいんだよね♪」
 と魚座(ib7012)が、話に加わっていない山羊座の分まで含めて決めてしまったので、山羊座は否応なく巻き込まれる事となってしまったのだった。

●手井さんの出立
「すまないが、頼む」
 村の人間と話しをつけ、開拓者達の質問に答えた後、手井はそう言い残して旅立った。
「風呂と飯に寝る所があるなら悪くはないか」
 一先ず前向きに射手座(ib6937)は考える事にした。どうせ帰ってもやる事がそう変わらないし用事があるわけでもないから、こういう寄り道だって悪くない。
「しかし、何のカラクリも秘密もないとはな‥」
 村を襲うアヤカシを退けていたという手井。だがしかし、巴 渓(ia1334)が話しを聞く限り、手井は特別な工夫も技術もなく場当たり的に解消していた様なのだ。
「ええ、少し驚きましたが‥」
 サクルも村を一人で守るなんて何か『方法』みたいなものがあるとふんでいたのだが、実態はそんなしっかりしたものではなかった。
 何と言うかちょうど手井が通りかかったところにアヤカシが出るというか、呼ばれてからでも間に合うとか『不幸中の幸い』に何度助けられ続けているのかと。
「鳴子はあるみたいだが、ちと心細いな」
 そう言って渓は荒縄を自分の荷物から取り出すと、黙々と解き始めた。
「夜は当番を決めて‥」
 とにかく依頼として引き受けた以上、手井が不在の間は村を守らなければならない。月野 奈緒(ia9898)は夜の警戒を含めて話し合うべきとした。
『──できるだけ近くにいた方が合理的ですよね』
 奈緒は日中は農作業の手伝いでもして過ごそうかと考えるのだった。

「お風呂の用意ができました〜」
 ファムニスが帰ってきた。治療だけでなく、氷も作る事ができれば、火を起こす事もできる一家に一人欲しいのが巫女である。どうやら風呂が沸いたらしい。
 白銀狐とファムニスがこだわった甲斐あって、滞留中の風呂も毎日入れるから一安心だ。
「やっぱり毎日お風呂には入りたいですの」
 白銀狐は少し恥ずかしそうではあるが、嬉しそうに微笑むのだった。

●手井さんがいなくても
「まさかこんなに早く来るなんて」
 サクルの目の前に現れたのは猫。いやアヤカシだ。
 無理をすれば猫に見えなくもないが、余程がんばらないと色々無理があって猫には見えない。具体的には目が十個くらい付いていて、体が極彩色の辺りが猫と判断するには厳しい要素だ。
 早速朝から皆で鳴子を作って、設置しようとしたらこの有様。アヤカシが頻繁に襲撃してくるというのも嘘ではないらしい。
「可愛くない猫、アヤカシなの」
 手裏剣を打ちつつ、白銀狐は距離をとる。
 大して大きくはない敵だが、その分それなりの速さはある。迂闊に踏み込んで手痛い反撃をくらうのは避けたいし、村の中へ逃げ込まれるのはもっと避けたい。
「素早い敵ですね、だけど」
「この程度なら相手にならないの」
 『戦陣「砂狼」』──。砂漠で獲物を駆る様な俊敏さで距離を詰め、サクルと白銀狐の刃が牙となって猫もどきを仕留める。
「やはりこの人達も東房生まれなんじゃ‥?」
 何やらそんな声が聞こえてきたが、サクルは自分の肌を見て『さすがにそれはないんじゃないかなあ』と思うのだった。

 そしてその次の日にもアヤカシはやって来た。
 立て続けではあるが、昨日のアヤカシとは同じではない。今度は猫ではなく鼠に近い形をしている。
 しかし鼠の様な形でありながら、そいつらは蚤みたいに飛び跳ねながらやって来た。
「ちょうど体を鍛える時間が欲しいと思っていた所だ」
 山羊座は待っていたとばかりに剣を抜く。
「おい、余計な物まで壊すなよ」
「わかっている」
 目の前のアヤカシに気をとられすぎて、山羊座が何か壊したりするのではないかと射手座は気掛かりだ。わかってはいるようだが、危ないと思ったら止める事も検討に入れねば。
「一匹たりとも逃しはせん」
 そんな射手座の気持ちも知らず、山羊座は剣を振りアヤカシに斬りつける。
「それには同感だ」
 射手座も負けじと矢を番う。

「これで、最後かな?」
 魚座の雷撃が最後の一匹を焦がす。小さい標的に狙いが定まりにくかったか、次第に苛立ちの表情が見え始めた山羊座に射手座はそれなりに気を揉んだらしい。
 それにしても鼠もどきは拍子抜けする程貧弱だった。
 とりあえず当たれば倒せる。そんな程度だったので追っかけ回すのには難儀したが、攻撃が命中したときにはさも一撃で鮮やかにアヤカシを葬り去るかの様だった。
「あんたらももしかして、東房生まれかね?」
 遠巻きから見ていた老人が魚座らに問う。
「違うけど♪そう見える?」
「いや、見えん」
「東房どころか天儀の人間でもないしな」
「天儀の外は東房ばかりみたいな強者ぞろいなのかのお‥」
「あ、おい‥」
 老人は何だか微妙な勘違いをしたまま何処かへ行ってしまった。

 さらにアヤカシは時間を選ばない。その暫く後、別の場所でもアヤカシが現れていた。
「狙うなら、私を!!」
 何はともかくアヤカシの目を自分に向けさせるため、奈緒は矢を放つ。
 農作業を手伝っていたのも近くにいて守るため。奈緒の考えは村人を護る事として筋が通っている。
「しかし、これ程の頻度とはな」
 渓が蹴りを小鬼に叩き込む。小鬼は大きく転がって、地面に臥したまま二度と動かなかった。
 これが手井にとっての日常なら、体を休める間も無かったのではないか。
「なんで、こんなに‥」
 『アヤカシを見たらすぐ逃げろ』とか『戦闘中は近寄るな』と村人に言い含めた甲斐あって怪我人という怪我人も出ないので、ファムニスも治療に回らず弓を射る。
 村人が無事なくらいなので、開拓者達にとっては朝飯前程度のアヤカシではある。だが、やはり何とも言えぬ不気味さが消えない。なので奈緒は警戒を緩めるつもりはなかった。
 銀色が涼しげな弓の弦を摘んで弾く。弦の振れ幅を静かに見て反応を確かめる。
 これだけでアヤカシが近くにいるのなら、弓術士たる奈緒にはすぐわかるのだ。
「特に何もないみたいです」
 討ち漏らしもなければ、新手の気配もない。
「とりあえず、これで終わりか?」
「‥みたい、ですね‥」
 しかし一刻後の事はわからない。開拓者達は気を緩めず警戒を続けるのだった。

●手井さんがいなくても平和な時もある
 アヤカシの襲撃は多かったが、毎日来るわけではなかった。
 その間、開拓者達は見回りなどをしつつも次の警備に備え体を休めたり各々自由な時間を過ごしていた。
「本当に何もない村だね♪」
 誰に言ったわけでく魚座の独り言。それでも異国の見慣れぬ地であるから目新しさに欠けると言う事ではない。
 それにアヤカシがこの村を襲う理由が本当にないのかも気になる。
「理由がない方が気味が悪いしね」
 探す当てもないが、調査を止める理由もない。魚座はさらなる探索を続けた。

「手伝う」
「え」
 いきなり悪人面の異人が声を掛けてきたのだから村人は戸惑った。
 数日前から開拓者達がいるのは知っているが、この山羊座という男、今『手伝う』といったのか?とてもそんなお人良しには見えないのだが‥。
「そんな唐突に言っても伝わらないよ」
 続いてやたらと濃い顔の異人がやって来た。射手座、といったか─。
「‥その作業を、俺も手伝おう」
「というわけなんだ、いいかな?」
 射手座はアヤカシの監視も兼ねて農作業を手伝いたい旨を告げる。
「ああ、そりゃ歓迎だ」
 こうして二人は鍬を振るい、鎌を手に手伝いを始めた。

「だめですぅ!そんなに激しくすると、こ、壊れちゃ‥‥」
「だってもう我慢できないですの!」
 ファムニスがすがるような悲鳴をあげても、白銀狐はその手を休めない。
 もちろん、壊してはいけない大事な、デリケートな所があるのはわかっている。それでも本能が、体が求めるのだ。とめろといわれてもそう簡単にこの衝動は止まらない。
「ほら、もうこんなになってますの」
「ああ、すごいです。でも‥」
「あとはこの甘露を──」
「そ、そんなに。ああ、こぼれてしまいます‥」
 といった具合で『かき氷』は無事完成した。
 ちなみに氷削り器は借り物で壊すわけにはいかなかったのであり、暑い日に冷たい物を本能的に体が求めるのは当然だ。もしよからぬ妄想をしてしまった者は腹筋でもして心を落ち着けるのがいいだろう。

「生き返りますね」
「西瓜もどうぞ」
 村人らに混じりつつ、奈緒とサクルも涼をとる。西瓜はサクルが持ってきていたものを村人達に渡したものだが、回りまわってこっちに返ってきたらしい。
「何と言うか砂漠ともまた違う暑さがあります」
 日差しはアル=カマルより弱いのだが、暑くないということはない。表現に困るが、天儀の夏は別の意味で暑いのだ。
「でも、それなりの過ごし方はありますから」
 奈緒はそう言って氷を口に含む。甘みを感じると同時に口の中で氷が解けていくのを感じる。
「あ、頭が─」
「ええ、ちょっと─」
 キーンという微妙な痛みを感じながら、二人はこめかみを抑えるのだった。

 そして次第に日は落ちて、過ごしやすい時間となってくる。
「お代は聴いてからでも結構。いや、冗談だ」
 そう言ってから渓はバイオリンを抱えると、穏やかな調べを奏で始める。
 星が輝き始めた空の下、暑さを和らげる風に乗せてバイオリンは穏やかな夜を演出する。
 渓はがさつにも見える所もあるが、この様子を見てはその節もない。ただ、鍛えられた肉体とその体に残された傷跡だけが、戦士としての証跡を静かに語っていた。

●手井さんの帰宅
「無事、だったようだな」
 約束の十日を待たずに戻ってきた手井は、村の様子に変わりない事を知る。
 鳴子がやたら増えていたり、案山子というには物騒な赤い鎧の様なものを見かけたがあれらは開拓者の手によるものだろう。急に無理な頼みごとにもかかわらず、彼らは頑張ってくれたようだ。

「ご不在時の事はここにまとめてありますので」
 サクルが数枚の紙を手井に手渡す。いつ、どこにどんなアヤカシが来たのかをまとめたものだ。
「‥多い」
 どうやら手井は不在の間に襲撃が一回あるかないか程度と見ていたらしく、サクルの報告書をさらっと読んだだけで開拓者に依頼をした事が正解だったと分かった様だ。
「お母様の具合はいかがですの?」
「ああ、そうだった。帰ったら実は大した事がなくてな」
 手井は白銀狐にわざわざ符水までもらったのに『すまんな』と謝罪の言葉を述べた。
「お母様が元気ならそれで問題ありませんの!」

「ねえ、本当にこの村には何もないの?」
 時間のある時は散々村中を歩き回った魚座ではあるが、特におかしなものは見つけられなかった。村人達の話も聞いて手帳への書き込みは増えたがアヤカシが来る理由となるとさっぱりだ。
「これだけアヤカシが多いとなると何か理由はありそうだがな」
「でも、ないんだろう?」
 山羊座と射手座もおかしいとは思っていた。だがそれとわかる理由どころかアヤカシが来る以外におかしな所があるとすれば、やたらと村人が東房贔屓な事だけだ。
「ない。と思う」
 手井とて何もしてこなかったわけではない。しかしやはり彼も何も見つけられたという事でもない。いまだ真相は闇の中だ。

「だが、俺がいる時よりもずっと頻度が─」
「不思議なもんだな、運が良いと言うのもなんだがな」
 サクルの報告書の中身を改めて確認する手井を見て渓は苦笑する。これだけ開拓者がいるから余裕はあったがもし一人で全てを対処するとなれば、いつまでも続けられる状態ではなかった。
「本当に、八人もいたから何とかなりましたけど‥」
 奈緒もここ数日を思い出してアヤカシの襲撃回数を数えなおす。あの間隔で昼夜問わずやって来たアヤカシを相手にするなら八人でも多すぎるという事はないだろう。
「まさか志体持ちの数が多い程、アヤカシがたくさんくるとかだったりな」
「そ、それでしたら、今は手井さんを入れて、少なくとも、九人は‥」
 手井のよくわからない予測に嫌な予感を感じつつファムニスは答える。『昨日よりも一人多い』と。
「まさかな‥」
「ハハハ、そんなこと、ないですよね」
 微妙な空気が流れる。
 誰もが空虚な笑いをするしかなかった。こうなったら次に何が起こるかなんて言うまでもない。

「アヤカシだー!」
 ほら、始まった。
 しかしそんな突っ込みも不要とばかりに皆声の方へ走り出す。誰一人として出遅れる者もない。
「破ァァッッ!!」
 そしてまたこの村に手井さんの気合が入った声が戻ってくるのだった。