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■オープニング本文 ●花を呪う 水無月、それは恋の季節。この月に結婚した二人は幸せになれるという噂。 そんなわけで、多くのカップルの二人を応援‥‥すると思った? リ ア 充 爆 発 し ろ ! ! 世の中には光と影がある。 どんなに陽の光が強くとも、影が消え去ることは無い。むしろその強い光がどこかに深い影を作り出す。 そして幸せに包まれる者がいれば、そんな幸せとは縁遠い者もいる。人間は平等じゃない。時として残酷な事実は必要以上にその姿を顕にするものだ。 自分は不幸なのに、水無月の幸せに酔いしれる者達ときたらどうだ。これが同じ人間なのかと疑わずにはいられない。もしかすると自分は人ではなくてアヤカシなのではないかと錯覚する程だ。 ‥‥そうだ、自分は人間だと思って生きてきたつもりだが本当はアヤカシだったのだ。そうでなければこんな事になっているわけがない。──そして困窮極まった男は狂気に駆られて神楽の都に凶刃が‥‥。 斯くも人生は厳しい。厳しいものとわかってはいるが幸せさを見せ付けられて、悲しき者はなお深い悲しみに襲われなければならないのだろうか。失意と絶望の淵で何時来るともわからぬ終わりを待ち続けるのか、あるいは耐え切れず発狂するしかないのだろうか。 この世は生きるのにあまりに厳しすぎる。 ●壁を殴る しかし、その様な者達にも残された希望の欠片ともいうべき存在がある。大地を踏みしめ、力の限り邪気を払わんと拳を振るう男達が。 人々は彼らをこう呼んだ、『壁殴り代行』と──。 「で、今回はどういう、また護衛ですか?」 その彼らは傷だらけ怪我だらけであった。見るからに鍛え上げられた筋肉質な体ではあるが、それ以上に怪我が目立つ。新しいのもあれば古いのも全身が怪我だらけ。 危険な仕事なのだ。‥‥まあ自業自得という気がしないでもないが。 彼らの仕事は依頼に応じて壁を殴る事だ。弱き者のためにその拳を壁に向かって撃つのだ。 カップルが楽しげに談笑する所で、人目を気にせずいちゃつくところで。不幸な者達の怒りや悲しみを知れとばかりに壁を殴るのだ。 しかし今は水無月。如月や師走も依頼が多いがこの月はただいちゃついているところに乗り込むのではない。披露宴や身内の祝いの場などで壁を殴ることになる。実に危険だ。その中に友人や身内に志体持ちがいてもおかしくない。あるいは宴の主役が屈強な開拓者という事だって有り得る話だ。 当然、追い払われるだけで済めば良いがひどい場合は大怪我を負う事もある。護衛が必要といってもおかしな話ではない。だが、男は必要なのは護衛ではないと言う。 「いえ、人が足りないので臨時の要員をお願いしたいのです」 つまり、開拓者自らが壁を殴るという事だ。幸いコツやらは教えてもらえるので経験不問、初心者歓迎らしいのだが、危険であることには違いは無い。しかも場所は客が指定する所だから選べない。求められることは壁を殴る事。間違っても『そんな事はやめろ』なんて言うのは求められてはいない。こんな事言うのも何だが『誰得』だ。まあそれでも依頼を受けて仕事をこなせば報酬はもらえるのでただの仕事と言えばそうなるのだが。 それに加えてこちらは殴られるようとも蹴られようとも手を出すことが出来ない、という事だ。殴るべきはあくまでも壁であって人ではないという事らしい。 こっちは大怪我をするかもしれないが、反撃は不可。忍耐力も求められるらしい。あまり開拓者達にとっていい話でもない気がするが──。 「確かに面白くないしね‥‥」 開拓者ギルド受付の不月 彩(フヅキ アヤ)は小声でそう言いながらその依頼を受理することにした。 |
■参加者一覧
朧楼月 天忌(ia0291)
23歳・男・サ
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
薔薇冠(ib0828)
24歳・女・弓
ウィリアム・ハルゼー(ib4087)
14歳・男・陰
クラリッサ・ヴェルト(ib7001)
13歳・女・陰
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●動機あれこれ 水無月、それは恋の季節。 恋の季節、それは悲しみの季節。 そして悲しみに暮れる者達を救う者、それは壁殴り代行。 何にしろ良く分からない妙な仕事であるためか、動機はそれぞれだ。 ウィリアム・ハルゼー(ib4087)はストレートに『恋人達の邪魔をするため』だ。言い訳の余地もない。 「徹底的に撲滅してやります。リア充ってやつを‥‥」 はて壁を殴るにあたって、その邪悪さがどこまで良いアクセントになるものか。 一方、薔薇冠(ib0828)は恋人達の存在などどうでも良かった。 「ふむ。幸せな人々を不幸にするのは気がひけるのじゃが‥‥」 と言っているものの、気持ちはそこになかった。 薔薇冠はただ壁を殴りたかった。力の限り壁を殴りたかった。壁を殴ると言うこと以外に望みはなかった。つまり彼女は壁殴り職人であった。立場としては『壁殴り代行』の『代行』であるが、『壁殴り代行』そのものだ。言ってて良く分からなくなるがそういうものだ。 「何をしてるんだろう、私‥」 銀色の髪をした少女が何かを諦めたかのようにため息を一つ。クラリッサ・ヴェルト(ib7001)は苦学生だった。陰陽四寮の入寮試験を終えた彼女は問題を抱えていた。金だ。 試験は終わったが、合格後には学費を納めなければならない。滞納も許されないためクラリッサには急いで学費を工面する必要があったのだ。そう、例え怪しい仕事を請けてでも。 「とはいってもまあただの仕事だしな」 巴 渓(ia1334)は依頼の異常さを感じつつも平然としている。その落ち着きはベテランの為せる業といった所か。そして壁殴りも自分を鍛えられる機会の一つと思えば見方も変わる。 しかし、この感覚、虫の知らせというか胸騒ぎというか何ともすっきりしない気分でもあった。 「何だかイヤな風が吹いてやがるぜ」 「へっ、イカレた依頼だな!」 水着姿のナキ=シャラーラ(ib7034)が言う。『他人の幸せをぶち壊した所で自分が幸せになるわけでもないのに』と幼い身でありながらそんな事を考えていた。 ああそうだ。こんな事をしていてもどうしようもない事はわかってる。分かってるけど仕方が無いんだ。 『無意味だし、間違っているということも分かります』 ナキの言葉の意図する所を十二分に感じ取るペケ(ia5365)。だけど、リア充を見ればやはり何と言うか心の奥底からこみ上げてくる黒い物があるのだ。まだナキにはそんな感情は早いのかもしれないし、知らずに済めばいいのだろうがそれを『知ってしまった』自分達は『間違っている』という事を知りつつも『分かりたくない』のだ。 自分で言うのも何だが、顔は悪くないと思う。肌は白いしスタイルだって悪いって事はないはず。実家はそれなりの家柄だけど、決してお高くとまっている事もなくて社交性だってある。 だが、アーニャ・ベルマン(ia5465)は『彼氏いない暦=年齢』であった。その上、年はすでに二十歳を超え、年下の者に次々と追い越されていく始末‥。考えれば考えるほど気が重い。 「はあ‥‥」 こんな時は壁でも殴らなければ心を保てそうに無かった。もし幸せに満ちたカップルに見せつけられでもしたら正気ではいられないかもしれない。 「何だ?ヘコんでる奴もいんのか‥‥」 そんなアーニャを見て朧楼月 天忌(ia0291)が声をかける。目出度いものは目出度いと何の裏も無く祝福をしていた天忌ではあったが、ここに来て改めて幸せとは全ての者に行き届く類のものではないと思い知る。 「おめえらだけ不幸ってのも不憫な話だ。オレに任せな、オレに出来る程度のコトならなんでもやってやらあ!」 天忌はそう言った。『なんでもやる』と言ったってたかが知れていようものとそう深く考えた言葉ではなかったが。 「じゃあ、『そういう仕事』だから、怪我に気をつけて行って来て下さい」 どこへ行くかは壁殴りの人達に聞いてと開拓者ギルド職員の不月 彩は彼らを見送った。勿論、彼女の心の中には『分かりたくない気持ち』があるのだった。 ●お仕事開始 「あ、ボクは独りでやりますので」 誰が何処へ行こうかと相談している時にウィリアムはそう宣言した。 「ボクには他の人に出来ないことが出来ますし‥」 なにやら良からぬ笑みを浮かべる彼には何か考えがあるらしかった。その様子は何かいたずらを思いついた子猫の様でもある。‥だが男だ。 「そうか。とりあえず『コレ』は後にして出来る奴から片付けるか」 渓は一枚の依頼書を端に除ける。何とも恨み辛みがこもった依頼書ばかりだが、その中にちょっとキツそうなのがあったのだ。怨念とかそういう意味ではなく、単純に危険という意味で。 「どいつも負の情念に塗れた奴らだなー」 正直どうしようもない理由のものも多かったのだが、愚痴っていても仕方が無い。やらねば。 依頼の理由に違いはあれど、仕事内容は基本的に『恋人達の前で壁を殴る』ということに集約されよう。 「あ゛?何見てんだ?え?」 ガラも悪いが、殴り方も荒々しい。まさに自暴自棄という言葉が相応しい天忌の壁殴りは苛立ちを表現すると言った点で申し分ない。 「ストォップ!!そんなことしちゃダメ、報酬が貰えなくなっちゃう〜!」 そんな中、クラリッサの叫び声が響く。アーニャは弓を引き絞る。街中で『バーストアロー』?やめてください、死んでしまいます。 「おいやめろ!何考えてやがる!」 慌てて天忌が止めに入るが、アーニャの目は据わったまま。それどころか矢は彼の方に向けられるではないか。 「邪魔シナイデ‥‥」 「ちょっま、待て!待つんだ話せば分かる!!」 「ベルマンさん!!」 そんな事をしていればさすがにカップルはその隙に逃げていく。そしてその場に取り残される壁殴り代行達。虚しく吹く風が一同を無言にする。 「‥‥なあ‥オレら何やって‥」 「それ以上言わないで下さい」 いっそ開き直りたいと思っているクラリッサが言葉を遮る。時に言葉は一言であっても饒舌過ぎる事もある。 「なんか通じるものがあるかもしんねー!」 時に高く、次には低く。殴り方を変えれば音も違う。ナキらジプシーのスキル『パルマ・セコ』は殴った際に小気味良い音を出す。特に壁殴りと関連性は無い様だが、コツが掴みやすい事には違いない。そして求められている音はソルダ、低い音だ。ナキの壁殴りはリズミカルだが、殴り方は割りと個性が出るものらしい。 六月陽が輝く陰で魂の怨嗟がこだまする(中略)嫉妬旋風シノビペケ お呼びじゃないけど、やりますかー。 と情け無用の壁殴り代行(代行)ペケが壁を殴ればアウトローもカップルも震えだす。心の闇を叩きつけるように壁を殴ればドゴォと響く。 「ペケケケケ」 口元を少しだけ綻ばせ、悪い笑みを浮かべるその姿はちょっと怖い。 「うむ、今日もよい音じゃのぅ?」 薔薇冠もすごい音だ。何もかも破壊してしまうのではないかと思う程。自分の体まで壊してしまいそうな勢いだ。もしあの男、かつて壁殴りを依頼した名前はなんだったか──『脂身』だったろうか。彼ならさぞ喜ぶことだろう。 カップルに恨みはない。ただこの壁殴りを追求し、極めたい。何事も一つの事を突き詰めるとある種の美しさが生じるもの。薔薇冠のそのストイックな壁殴りには怒りどころか感動を生み‥‥出すはずも無い。 「何だお前らは!」 当たり前だが怒られる。 「てめぇらのその間抜けヅラ、まじで笑えるぜぇ!」 そんな事もお構いなくナキは壁を殴る。それにしてもこの少女、ノリノリである。だがノリノリすぎるこの悪態は人々の怒りを買うには十分だ。 「うわっ石!や、やめ!」 「ひとまず退散です!」 「これからだと言うのに‥」 しかしまだ仕事は始まったばかり。これは序章に過ぎなかった。 ●男の娘の罠 際どい格好をした娘が一人壁を殴っている。どれくらい際どいかと言うと、あと一寸でも服がずれれば大惨事というのに、大きな胸が上下に揺れているのだからぎりぎりのぎりぎり。‥だが男だ。 やる気なさげに殴ってはいるが、ウィリアムだって男だし開拓者。そんなに貧相な音という事もない。 「やめてくれないか」 迷惑だから、と男が近寄ってくる。その男が来るとウィリアムは悲しげな表情で呟く。 「素敵な人‥私みたいな女の子からしたら雲の上‥‥」 男は何が何だかわからない、といった感じだがウィリアムは気にせず続ける。 「でも、ちょっとだけ‥」 と言って体を寄せる。胸を押し付けて上目遣いで男の瞳をじっと見つめる。勿論ウィリアムは男だから、その胸は偽物。だが、それは素人目に簡単に分かるような作りでもない。男とは悲しい生き物だ。正直過ぎる事が悲しい生き物なのだ。その気は無くともついつい鼻の下が伸びてしまう。 「どうもすみませんでした‥あの‥失礼します!」 男の変化に気付くと、ウィリアムはぱっと離れてさっと駆けていく。男はぽかんとしたままウィリアムの後姿を見つめていた。そして女は、鬼の様な形相で男を睨んでいた。この後二人がどうなったかは誰も知らない。 ●結婚式 「本当にここなのか?」 天忌がそう言うのも無理は無い。ウィリアムを除いた七名はある建物の前にいるのだが、どうも目出度い空気という感じではない。 「‥殺気か。この感じ、間違いないな」 ピリピリとした張り詰めた空気、身に親しんだ戦場の空気を渓は感じ取る。しかし依頼書によればここは祝宴が開かれる場所のはずなのだが‥。 「仲の悪い剣術流派の跡取り同士の結婚!?」 「困難を乗り越えたのじゃから、祝ってやればよいのにのぅ」 「それに横恋慕する師範代?男同士の組み合わせとか混じってる気がするんだぜ?」 「‥‥誰だって良いじゃないですか。壁殴りましょうよ」 アーニャが遠目で見ると参加者は概ねピリピリとしていてその中には悔しげな目や恨みを込めた目で見つめる者とか到底お祝いムードとは程遠い有様。しかし、彼女には結婚する二人が仲睦まじく談笑している姿しか見えない。 だが例え異様な会場だろうとこれは仕事。『壁殴り代行』達はひるまない。 「行きましょう」 ペケは忍び込むわけでもなく、堂々と真正面から入る事を選んだ。他の者達も彼女にならって歩く。横一列に並んだ若者達。まさか彼らが壁を殴りに来たなんて誰が思うだろう。それくらい堂々としていた。 「ふむ、にぎやかで華やかじゃのぅ」 建物の中には色んな人間がいたが、どれもこれも逞しい肉体を持つ者ばかりが目に付く。中には開拓者もいるのだろう。服装は少し浮いてしまうが思った程自分達が浮いた存在ではないと薔薇冠は感じた。 「もう色々爆発しろぉっ!!」 「どんな壁だろうと、壊してみせます」 「目標を破壊する!!」 ‥壁殴りが目的で、破壊が目的じゃないぞ。それは兎も角、七人は一斉に壁を殴り始めるのだった。 ●不毛な逃避行 「待て貴様ら!!」 追いすがる男達を前に渓は余裕を崩さず、穴の開いた壁から飛び出して悠々と飛び出て行く。その際、ちょっと荒ぶってみるくらい朝飯前。 「何、これも修行の内さ!」 と言いつつも渓の速さは群を抜いている。誰よりも早く危機を察知し素早く動けば、追いつかれる間もなくあっという間に姿を消してしまう。 走り去った渓とはまた別にペケも壁に溶け込むように姿を消す。シノビの『秘術・影舞』だ。 「これは褌!?まだ暖かいぞ!遠くには行っていないはずだ、探せ!!」 何か約一名下半身が危険な状態になってる人がいる様な嫌な予感を感じさせる声が聞こえたが聞えなかった事にして走ろう。 『不毛かもしれない、でもなんだかやりとげた感じです!』 ペケは不思議な達成感を胸に、肌に直接あたる涼しい風を受けながら走り続けた。 無事逃げ切れる者達もいたが、残念ながら全員が逃げ切れたわけではない。 「さて、どこまで逃げ切れるかのぅ?」 と最初の内は良かったのだが、クラリッサや薔薇冠などはどうしても他と遅れがちになる。 「ぎゃー!水着姿の幼女捕まえて何しようっていうんだぜ!」 非常に不穏当で誤解を招く叫びも虚しくナキも捕まってしまう。 「‥‥不覚」 「どうしましょう、三人捕まっちゃったみたいです」 アーニャは天忌と二人、物陰に隠れつつ顔だけ出して様子を見る。助けに行くには数が多すぎる‥‥。 「さてどうしてくれようか」 男がそういった瞬間、突然、クラリッサは一粒の涙を流す。男達は驚き、気持ち半歩後ずさる。 「私達は無理やり連れてこられたんです‥」 まるで薄幸の美少女かと。何だか急にクラリッサがすごく可愛そうな半生を過ごしてきたように見えてきた。いやまあそれなりに悲しい過去は背負ってるわけだけだが。 「言う事聞かないと酷い目にあわせるって‥‥」 そしてそれにあわせてナキまでも。最終的に感情の整理ができなくなった子供の様に大声を上げて泣き出す始末。 男達は戸惑う。涙を流すいたいけな少女達を取り囲む逞しい男達の図。まさか、結婚式に文字通り殴りこんできた連中を捕まえたなんて傍から見て誰もそんな事は思うまい。 「誰がそんな酷い事を!」 何の確証も無いのにころりと信じる男達。そして彼女らはそろって天忌を指差す。 「あれが、諸悪の根源なのじゃ‥」 薔薇冠は『すまぬ、すまぬ』と心で涙を流しながらそう呟くのであった。 「あいつか!確かに悪そうな面してやがる!!」 「おい、何だかおかしくねえか!?」 天忌の抗議も虚しく怒声に掻き消されてしまう。それに加えてアーニャの目が訴えかける。 『何でもするって‥』 「やればいいんだろ!やれば!」 そう叫んで飛び出した天忌。彼の勇気は忘れない。抱かれてもいいと思うくらい格好良かった。しかしこのままでは彼はお星様になってしまう。アーニャは勇気を振り絞り大声を上げる。 「あー、あそこに、空飛ぶもふらが!」 「天忌さん、今です!」 「もふらなんてどこにもいないじゃ‥しまった!!」 一同は天忌を拾い上げる様にして走り去るのだった。 ●事後 「結構酷い状況よね‥‥」 帰ってきた開拓者を出迎えた彩はまず一言。揃いもそろってボロボロという有様だった。天忌は全身から血を流し、皆に肩を借りて漸くたどり着いたといった具合だ。まあ見た目程酷い怪我はなさそうだ。他も怪我と言うよりは走り回って汚れたという部分が大きい。 そんな中でウィリアムだけは綺麗な格好のまま戻ってきた。そして散歩にでも行って来たかの様な口ぶりでさらっととんでもない事を言ってのける。 「壁殴りとかどーでも良いんですけど‥‥一度男を寝取ってみたかったんですよね」 男達を手玉に取るように弄ぶウィリアムはまさに魔性の娘。‥だが男だ。 「オレか?オレが間違ってんのか‥?」 「なぁに、人生なんて間違いばかりじゃよ」 色々と納得がいかなかった天忌の肩に薔薇冠が手を置いて諌める。天忌はなんだか物凄く今壁を殴りたい気持ちに駆られるのだった。 |