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■オープニング本文 ● 「今回は護衛をお願いしたいのです」 「護衛、ですか‥‥?」 開拓者ギルド受付の不月 彩は聞き返す。 無理も無い。『護衛』と言ったこの男、物腰は柔らかであるがその肉体は筋骨隆々との言葉そのもので、そこらの開拓者よりも余程鍛え上げられている様に見える。 「ええ。私たちもそうなんですが、主に私たちのお客様を守って頂きたいのです」 「はあ‥‥。差し支えなければどんな仕事かを教えていただけませんか?」 この男は『私たち』と言った。たまたまこの男だけが逞しいのかもしれないが、もし他の仲間も同じ様に鍛え上げられているのであるとすれば、かなり危険な仕事の可能性がある。迂闊にこの依頼を受けてはいけないかもしれない。 「ああ、すいません。私たちはこういうものです」 男は一枚の紙を机の上に差し出す。そこには筋肉質な男の絵と仕事内容が書かれていた。 「‥‥壁殴り、代行‥‥?」 たとえば、どうしようもなく腹が立って壁を殴りたいのだが自分にはそんな筋肉はない。 または、殴りたい壁がそこにない。 あるいは、殴りたいがそんな勇気がない。 そんな時に──。 「そうです。我々の出番というわけです」 依頼者に代わって鍛え上げられた肉体を持った男たちが、壁を殴る。 これでもかと言うくらいに殴る。 なおかつ壁は自前で用意するというのだから実に用意にいい連中だ。 「なるほど。‥‥よくわからないわ」 「そうですね。お見せしたほうが早いかもしれません」 男はすっと立ち上がると壁に向かって拳を作る。盛り上った筋肉に力が入り、血が通う。 そして、男は息を深く吸い込むと拳を壁に向かって真っ直ぐに突き出す。 「ちょっと何を!」 彩の声にも男の腕は止まらない。いや、止めるには遅すぎた。 ドゴォォッという轟音がギルドに響く。いったい何事かとそこにいた誰もが男に注目していた。何せあの音だ。そこらの長屋や安普請の建物ではないにしろただでは済むまい。 と思ったら以外にも壁にはなんの跡もない。 「こういう感じです」 「そっかーなるほどねー。まったくわからないわ」 「そうですね。やっぱり本当に壊す形式の方が良いですね」 「やめて」 彩は素早く男を止める。壁に穴を開ける必要は全く無い。いや、壁を殴る必要すらない。 もう何の話をしにきたのかすらよくわからない。 殴っても壁にダメージがないのはどうやら、鍛え上げられた力と技によるものらしく、地面にでも最悪壁が無い場合でも音を鳴らすための技術なのだとか。壁、いらないじゃん。 「で、護衛ってなんなんですか?」 正直壁を殴るとかその辺はやっぱりよくわからないのだが、もうさっさとまとめてこの男を追い返したい。多分このままだと本当に壁に穴があく。 「ええ、さっきも言いましたが私たちのお客様の護衛です」 壁殴り代行。不思議な仕事だがそもそも壁を殴りたくなるとしたらどんな時だろうか。 そうだな、たとえばこういうのはどうだろう。 自分は寂しい時間を過ごしているのに、イチャつく連中がたくさん周りにいたら? 具体的には師走の後半とか、如月、弥生の中旬とか‥‥。 そう、そんな時は壁を殴ろう。 『目障りだ』と無言で意思を伝えるのだ。 というわけで、そのお客様はそういう時期に彼ら壁殴り代行を雇うのだとか。 「で、わざわざ外に行って?」 「ええ。そして私たちはお客様が希望する時に壁を殴る。という形になります」 そのお客様、おとなしく引きこもってればいいものを、わざわざそういう場所に足を運び壁を殴らせる。 そしてそんな事をすればどうなるか。 「先月の話になりますが、そのお客様が簀巻きにして川に投げ込まれてしまって‥」 というわけで、今回は護衛をも付けて再実行ということらしい。 「遠巻きにでもでいいのでお客様を守っていただきたいのです」 そして男は最後に一言言い加えた。 「壁殴り代行は仲間も募集しています。壁を殴るだけの仕事です。簡単で誰にでも出来ますよ?」 「なんだかさっぱりわからないわ‥‥」 |
■参加者一覧
和奏(ia8807)
17歳・男・志
リーナ・クライン(ia9109)
22歳・女・魔
薔薇冠(ib0828)
24歳・女・弓
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
オルカ・スパイホップ(ib5783)
15歳・女・泰
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●哲学と実学 人はなぜ壁を殴るのか。 そう聞かれた時に多くは頭を抱えるだろう。その感情の複雑さを表現するのは難しい。 「ふむ、それは永遠の課題じゃのぅ?」 薔薇冠(ib0828)にとってこの問いは課題であるらしい。 だが、ある種の人間はまた別の角度から答えるだろう。 「なぜなら、そこに壁があるから」 和奏(ia8807)は黙って聞いていた。時折相槌を入れながら聞いていた。正直なところ、どこまで話し手と聞き手の間に意思疎通が取れているか疑わしい部分はあるが会話は成立している様だ。 「手袋なりを用意したほうがいいのでしょうか?」 どうやら彼もいっしょに壁を殴る事にしたらしい。確かにその綺麗な手を傷めるのは勿体無い。手袋をするのも良いだろう。 それにしても薔薇冠といい和奏といい整った顔立ちで壁を殴るとなるといささか妙な光景になりそうではある。壁を殴るという事はそういうものだ。 「ねね〜!僕にもその方法!教えてよ〜♪」 オルカ・スパイホップ(ib5783)はその理念よりも、泰拳士として拳を振るうことのある身としては壁を殴らず音を出すという仕組みの方が気になるものらしい。 確かに気功掌、爆砕拳に紅砲やら泰拳士の技術の中にも、拳より気などを発するものはあるが、音だけというものはあまり聞いたこともない。 まあ、アヤカシやらの危険を相手にする以上、より実践的な技術に目が向きがちではあるが、こうして広い視野を持つことも良いことなのかもしれない。 「世の中には色々な生業があるものですね」 そしてもその壁を殴るという行為が商売として成り立つのも不思議な話だ。Kyrie(ib5916)は世の中の不条理さを心の片隅に感じつつ、仕事の準備に取り掛かるのだった。 ●本当にこいつを守るのか 「やほー、久しぶりだねー」 リーナ・クライン(ia9109)が丸々と太った男に声を掛ける。この肥満体型の男が『依頼人の依頼人』であり、つまり護衛対象だ。その男、『油谷 稔(あぶらたに みのる)』というが以前アヤカシに狙われていたことがありその件でリーナとは旧知である。 「あれー、もしかして前と大して変わってないのかなー?」 「ふひっ!?」 散々『痩せろ』と言われたはずなのにどうも改善が見られぬ残念な油谷であったがその油谷がなぜ壁を殴るかと言うと。 「世間は乱れきっているでござる。最近の風紀の乱れは倫理に反すると言っても過言ではないでござる」 「よ、よくわかんないケド‥要は自分に恋人が居ないから妬ましいと‥‥」 モユラ(ib1999)がため息をつく。あの後もぐだぐだと油谷は何か言っていたが、結論から言うとそういう事である。 「油谷さんはますます春が遠ざかる気いたしますが‥ふむ。それも一興」 暦の上では春ではあるが、油谷に春は訪れまいとレティシア(ib4475)は思う。 一方『まるごとにゃんこ』を纏った彼女自身は十分に春めいている。『眼鏡のへたれに泣きつかれても愛らしく和ませるにゃんこ』を標榜しているらしく、何故か猫なのにその着ぐるみの色は青い。青い猫だ。 ‥これ以上はわかるな? 「ともかく護衛をすればいいんだよね‥‥?」 琉宇(ib1119)が言う。そう、油谷がどうなろうとも基本的には自業自得な気がするのだが、個人的な心情は置いといてとりあえず彼を守れば良い。 「そ、それで気が晴れるなら‥‥うーん、イイのかなァ‥」 時として開拓者は自分の意思に沿わぬものも守らねばならない事がある。ただそれが今だという事だ。 ●壁を殴ってみた 暖かな陽光の元、恋人達は仲睦まじく愛を囁きあっていた。 まるでそこには自分達しか存在しないかの様に、彼らはお互いの事しか見えていない。 甘き夢の世界に浸る彼らには油谷らの姿など目に入らない。外部への注意がまるで希薄でどこまでも幸せを見せ付けるだけだ。そしてそれは油谷の怒りの炎を一層炎上させるに十分な燃料となったのは言うまでもない。 「我慢ならないでござる」 油谷が忌々しそうな顔つきで指をぱちんとならす。 するとどこからともなくムキムキな男達が壁とともに颯爽と登場し、轟音を上げて壁を殴りだす。そんな中に混じって和奏とか薔薇冠とかオルカも殴っている。 揃いもそろって筋肉質な男達と、姿格好もそれぞれの若者達。規則正しく響き渡る爆音と、不規則でバラバラな音。いい音と湿気た音も入り混じる。 「わしのこの一撃、受け止めてみよ!」 「あ、あれ??失敗?」 時折そんな声なども混じりつつ。 そして天気も良いのにその近辺にだけ吹き荒れる吹雪。 「近づけさせるわけにはいかないよ」 とリーナは静かに言う。 だが元より誰も近づこうと言う者はいないし、むしろ後ずさりをする人間がいるくらいだ。 さらに鳴り響く口笛。 「通りすがりの楽師がいたって不思議じゃないね」 琉宇がちょっと離れた所から上手に口笛で場を和ませようとしている。 だが、口笛はもう一方からも流れてくる。レティシアも口笛を吹いているのだ。 そしてそれは一緒の曲を演奏しているわけではない。曲調も違ったそれぞれが絡み合い、ハーモニーとかそういった言葉はとは程遠く、不協和音がその場を支配した。 さらに極めつけはKyrieだ。 「盛り上がっていこうぜぇ!イェアァァ!!」 顔には濃いメイクで、頭は髪を振り乱すくらい激しく上下に振りつつ叫んでいる。 そして両手に持ったスティックを振り回して、まるで壁を太鼓代わりに叩いているかのような動きをしている。そこには太鼓も壁も何もないというのに。 「ど、どうしたらいいのっ‥‥!?」 モユラはそれを見て右往左往する。 それはもう『混沌』としか言えない。 突然の変化にカップル達は固まり、動く事はおろか声を上げることすらできない。甘い空気は雲散霧消、そしてその急激な変化は怒りを生む事さえ許さず思考の停止をもたらした。 「ええ、と‥こんなカンジでよろしいですか?」 和奏は壁殴り職人達に感想を求める。何でもそつなくこなす彼のことだから、あと数回やれば壁殴りのコツもほとんど会得してしまうかもしれない。が、本当にこんな技術を会得していいのだろうか。当人にはそういった疑問はないようであるからいいのだろうか。 「やはりこうでなければ駄目でござる」 もともと壁を殴るだけのはずだったが、各種付属品が付くことで当初予定していた内容とは大分違うものになってはいる。しかし、結果的に恋人達の邪魔を出来たので油谷は満足のようだ。 「ふぅん、で、次はどこへ行くつもりなのかな?」 音が鳴る仕組みについてはちょっと興味があるものの、琉宇にとっては壁を殴る事も邪魔する事も割とどうでもいい。ただ仕事なので付き添っているだけだ。さっさと油谷が満足して解散命令を出してくれるのが一番望ましい。 「どこにするべきでござるか‥」 油谷は悩む。なんというノープラン。 「‥‥甘味処ですよ」 青い猫がそっと近寄って地図を指し示す。 「そうだね〜甘味処だよね〜。あ、僕が行きたいわけじゃないからね〜?」 白い兎もこの意見に賛成。賛成理由はきっと言葉の後半に隠されている。 「甘味に気を緩ませた若者達が堕落の一途を辿っているに違いありません」 渦巻く陰謀を胸のうちに秘めつつもにっこりと微笑みながらレティシアは油谷を焚きつける。 「甘味処‥。いかにもありそうでござる」 油谷は醜い笑みを浮かべる。行き先は決まった。 自分達が幸せならそれでいいというならまずはそのふざけた幻想をぶち壊す。それだけだ。 ●甘味よりも甘すぎる 予想はしていたが、現実に見てみるとなかなか厳しい。 「ふむ。噂以上にカップルが多いところじゃのぅ」 甘味処も数あれど、そこにはどこもかしこも連れそう若い男女が幸せな時間を過ごしていた。 「皆さん幸せそうですね」 そんな幸せ空間を壁殴り空間に変質させるべくレティシアはまた焚きつける。 レティシアには怒りに身を震わす油谷も壁を殴る面々も愉快でならない。何気ない一言ではあるが、明らかに言葉がもたらす効果を知っての『いいぞもっとやれ』という願いをこめた発言だ。 だが、そんな言葉すら要らないのもまた事実であった。 「あわわっ‥‥都の男女はあんなコトまでするのっ!?」 二人だけの世界にいるからだろうか、白昼かつ公衆の面前というにはいささか過激な行為に及んでいる者達がいたのもまた確か。 モユラは恥ずかしさに顔を赤らめ、油谷は怒りに顔を赤く染め上げていた。そして、すぐにでも彼の指が音を鳴らすかと思われたが、制止が入る。 「やる前から怪しまれてたら、やる事も出来ないよ?」 とりあえず、落ち着けと諭される。そうだ。ここはまだ端の方で中心部にはちと遠い。 恋人達の数も先に進めばもっと多いことだろう。そうだ、より多くの罪人らに強烈な一撃を食らわすにはもう少し先まで進まねばならないのだ。 「ふうん、やめるんだね」 出番があるかと構えていた面々も警戒を解く。取りあえず一息入れようと茶店の中でもすいている店を探して一行は休憩をとった。 「えっと〜‥人参汁下さい!!」 オルカが開口一番妙なものを注文するがそんなものはない。 「え、ない??おかしいなぁ‥‥」 オルカの故郷では人参を好む者が多かったかもしれないが、兎の神威人も珍しい遭都では人参はただの野菜であって、飲み物ではない。わかりやすく言うならば、『カレーは飲み物』と言うのが一般的には受け入れられないのと同じようなものだ。 「これはなかなかいけますね」 先程の狂乱っぷりがまるで嘘の様に落ち着いたKyrieが桜を模した練り切りを美味しそうに口に運んでいる。なかなか外見からは想像が付き難いものだが、甘い物が嫌いではないらしい。 こうしてしばし穏やかな時間をすごした後、彼らは中心部へ向かって足を進めるのだった。 ●大混乱 「ではいきますね」 和奏は空気を大きく吸い込むとそのまま深く息を吐く。体中の空気をすべて取り替えるような深呼吸をして壁に向き合うと拳を握る。 ドオゴォォッというちょっと耳慣れて来た音が響く。 その音で我に返った恋人達が和奏を注視する。そして一人の男が文句を言いに近寄ってきた。 「人がいらっしゃるとは気が付かず‥‥」 深々と頭を下げる和奏。これだけ人がいるのに気が付かないはずもない。ないのだが、その眼は嘘を言っている様にも見えない。『もしかして本当に気が付かなかったのか?』と思えてくるから不思議だ。 「あ、壁の近くにいるのは危険ですから、お気をつけくださいね」 何でここで壁を殴っているかの説明はないが、微笑む和奏には害意が見られない。そしてそれを合図の様に壁殴りが再開される。 「こちらに目をひきつけておれば問題あるまい」 確かに壁を殴ったりしている人間や、変な猫の着ぐるみとか濃い化粧の男が激しいパフォーマンスをしているのだから、普通に注目はそちらに集まる。 だが注意力がある者であれば、他に口笛を吹いている者や、壁殴りを『もっとやれ』と楽しそうに眺めている太った男がいるのもわかる。そしてその男を守る様に娘が不安げに視線を送っているのがわかる。 「その調子でござる!!もっと見せ付けてやるのでござる!!頼んだ甲斐があったでござる!!」 そして注意力がなくともこんな事を叫ばれれば首謀者が誰なのかなんて事はすぐに気がつく。 「あはは。ここまでとはね」 空気が変わるのを察した琉宇は口笛を止める。すでに和ませるというには遅い気がする。しかしそこで手をこまねいているだけというわけにはいかない。危険は少しでも取り除かなければ。 「そうもいってられないかな」 バイオリンを手に取ると、まどろみを誘うようなゆったりとした調べを奏で始める。ちょっと眠たくなる昼下がりに春のうららかな陽気と『夜の子守唄』。近くにいた何人かが崩れ落ちる様に眠りに付く。 「うんうん、夢で続きを楽しむといいよ」 「にくきうばりあ〜」 レティシアがぴこぴこんっといった感じに片手を挙げて、ぱっぱらぱっぱっぱーな感じに放つそれは空気を振動させ油谷の身を守る。とはいえ、その効果は一瞬。タイミングを逃せば何の意味もない。そんな謎のバリアよりも油谷をこの場から退避させるべきだ。 「愛でて愛でて〜」 と『にくきうあぴーる』をして時間を稼ぐ。‥稼げるのか? 「油谷さん、にげてっ、にげてーっ」 モユラの悲鳴にも似た声が聞こえる。 正直なんでこんな事をしているんだろうと思いながらも怒りに燃える恋人達を押さえ込む。 「ここから先は行かせないよ」 突然吹き荒れる雪と風に凍りつく恋人達は雪山で吹雪に見舞われたかの様な錯覚を受ける。 これはもう魔女だ。魔女の仕業だ。マゾじゃない。マゾじゃないからこんな吹雪には耐えられない。というわけで恋人達は思うように近寄れない。 だがそれでも四方八方から怒りに燃える恋人達は迫ってくる。 「ふむ、カップルとは斯様に‥‥」 「オウッ!アウチ!」 向こうが本気で殴って来たてもこちらは手が出せない。下手に殴れば大怪我を負わせかねないからだ。 薔薇冠は予想外の怒りの力を感じつつも、必死に道をふさぐ。そしてKyrieは顔を守りながらも大概は上手くいなしている。そう、大概は。 しかし、抵抗をしなかったのが拙かったかそれとも油谷に手が届かぬもどかしさからか、Kyrieへの攻撃は激しさを増すばかり。 「顔は止めてくれ!私の美しい顔があぁ!」 Kyrieらの体を張った必死の抵抗を背に油谷は走った。明日に向かって。 明日はどっちかはわからないが。 ●説教タイム 流石に開拓者八名の力を持ってすれば、武器すら持たぬ一般人から人を一人守るなんて事は容易い。開拓者の中には殴られたりした者もいたが、油谷や壁殴りの面々は無事だ。 だが無事とはいえ、油谷が自ら破滅を招いたのは事実。そういったことを踏まえて油谷の部屋で反省会の様なものが開かれていた。 とはいえ反省すべきは油谷のうかつな言動でなく、こういった行為に及ぶ事が問題だ。今回は無事でもこの様な事を繰り返していれば、いつかはもっとひどい目にあうだろう。 「誰か良い人でもみつけられんものかのぅ」 薔薇冠が呟く。現状に不満だからといって、この様な事をしていても事態が改善するはずもない。それどころか、悪化するだけだろう。 誰か相手でもいればいいのだろうが、まあいないからこうなるのか‥。 「こんなコトしてると、いつかバチがあたっちゃうよ‥‥」 モユラにも諭される。壁殴りは報酬を貰えるが、それ以外は基本的には誰も得をしない行為で誰からも感謝されることもあるまい。 「稔くんにはまた課題が増えたねー」 『痩せる』という課題に加えて、『色々自重しろ』という課題まで加わった油谷。 「ぐぬぬ‥」 リーナ達の生暖かい視線を受けながら油谷は頭を抱えるのだった。 |