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■オープニング本文 ●湖野竹の里からの依頼 「その洞窟の奥にはよ、ちょっと上った所に開けた場所があるんだわ」 男は開拓者ギルドの受付で何やら洞窟の内部について説明をしている。どうやら洞窟の中に何かがあるのが問題らしい。 「どえりゃー大きなキノコがあったんだわ。んで、ピカッピカ光っとるもんだから、そりゃ近づくがね」 早口でまくし立てる男が言うには、光る大きなキノコが村の近くの洞窟にあったと。 「んだけども、近寄ったら何だか気持ち悪くなって、こりゃアカンと逃げたがね」 判断の速さが幸いしてか、やや気分を害しただけで大事にはいたらなかったとの事だ。 「それにちょっと動いてたし、よく考えたらあれはキノコなんかじゃないがね」 今までそんなキノコは見たことがないし、数週間前にはそんなものの影も形もなかったというのだから、発生経緯的にも唐突過ぎる。つまりはアヤカシであると。 「毒もあるし、村に来られても困るがね。はよどうにかせんといかん」 作物を荒らす動物ならともかく、得体の知れないアヤカシとあれば村人の手には余るというもの。 こうして開拓者ギルドには『アヤカシ退治 但し毒に注意』という依頼が張り出されることになる。 ●同じころ戸の木村では 「光るキノコってどんなもんだべな」 「オラはぼんやりと光るのではなくて、提灯くらいはっきり光ると聞いただ」 「それよりもどんな味がするかが気になるべさ」 「んだな〜」 『光るキノコ』。その噂はキノコに関する情報収集だけはやたらと熱心な戸の木村の田吾作達のもとへも届いていた。 キノコ汁への飽く事なき追求。未だ彼らの熱意は衰えるところを知らない。 西に美味いキノコがあると聞けば西に走り、東によく香るキノコがあると聞けば東へ走る。 ならば北に光るキノコがあると聞けば、北に走らざるを得まい。 「んだけど毒があるとかそういう噂もあるだ」 「処理をすれば食えるやも‥‥」 毒があるからといってなんだ。そんなことを恐れていてはこの道を突き進むことなどできはしないと、ただ毒があるだけでは彼らにはたいした障害ではないらしい。 「やっぱ見てみないことにはなんともなあ‥‥」 「んじゃ、いってみるべか」 湖野竹の里はそう遠くもない。うだうだ迷っているくらいなら、いっそ見に行ってみようかという事になる。 そして村の若い衆が一人、権兵衛が今回の調査要員として現地へ赴く事となった。 だが、その毒の強さも、そもそもそれがキノコではなくアヤカシだということさえ知らないまま旅立つこととなった。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
春陽(ib4353)
24歳・男・巫
白仙(ib5691)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●入り口 洞窟。見た目は何の変哲もない洞窟。強いて言えば湿気が強そうな位か。 つまり貯蔵庫としても使い難く、本来あまり人が立ち入る必要があるような場所でもない。そんな洞窟の前に一人の男がいた。 「光るキノコ、どんなもんだべか‥‥」 この男、『戸の木村の権兵衛』。キノコ汁の追求に情熱をたぎらせる男だ。キノコと聞けば異常な程反応する戸の木村の連中は、光るキノコと聞いていてもたってもいられず現地に権兵衛を派遣したのだ。 「んじゃ、いってみっか」 権兵衛は何の警戒もする事すらなく洞窟へと足を踏み入れる。 この洞窟に潜むアヤカシの存在を、そしてその光るキノコがアヤカシだと知ることすらないまま‥‥。 それから暫く後、同じ場所に今度は数人の若者達の姿があった。権兵衛とは違って武装をしており、特徴的なのは口元を布で隠している者が多い事だ。 「キノコ、ですか‥‥‥場所と言い、何か気になりますね」 何か思い当たる節でもあるかの様に、エグム・マキナ(ia9693)はそっと呟いた。 「やはり気になりますか。でも、今度戸の木村に行った時に話の種には丁度良いかもしれませんね」 春陽(ib4353)も同じ様な事を考えたのだろうか。 戸の木村の連中に会った事がある者はキノコと聞けば奴らの事を思い出さずにはいられない。 あの村人達はキノコ汁に取り憑かれたとしか言い様のない程熱狂的な集団だ。キノコと聞けば天儀を飛び出してジルベリアまですっ飛んでいくかもしれないし、例えキノコがアヤカシだといってもそれを狙いにくるかもしれない。 ましてや今回は光るキノコということで物珍しさがある。その噂を耳にしている可能性は高い。 「まさかいないとは思いますが‥‥」 「ですよね、いませんよね」 しかし嫌な予感が消えない二人だった。 「何か気になるのか?」 『アヤカシ出現中。洞窟立ち入り禁止』と書かれた看板を持った九竜・鋼介(ia2192)が二人の様子を不思議に思って声をかける。 「知り合いがここに入ってきそうで‥」 「キノコと聞くとすごい人達ですから」 「そうか。まあ、この看板があれば流石に入ってこないだろう」 そういって鋼介は看板を適当な場所に打ち付ける。いくらキノコが好きとはいえ、まさかアヤカシがいるという場所になんか普通、人が来るはずもない。 「だなー」 荒縄できっちりと看板を固定しつつ羽喰 琥珀(ib3263)は鋼介に同意する。 ここまでやってそれでもキノコが好きでしょうがなくて命すら投げ捨てる覚悟があるというのなら、もうそれは仕方がないという気もする。 「ま、入口を塞ぐ訳でもないから、入ろうと思えば入れるけどなー」 「そんなに見たいのであれば好きにさせればいい」 シュヴァリエ(ia9958)は仮に入ってきた者がどうなろうとそれは自業自得だといわんばかりの態度をとる。 もっとも、その重厚な鎧と兜の下ではどんな表情をしているかは窺い知れない。 「‥‥普通の人って、光る茸も美味しそうに見えるんですか?」 普通というのは良く分からないけど、と珠々(ia5322)は疑問に思う。 キノコ汁のためという事であれば勿論食用という事を考えているのだろう。光り方にもよるかもしれないが、光るキノコなんてあまり食欲をそそらない。 「まあ、あんまり食いたいとは思わんなあ」 天津疾也(ia0019)も別段食べたいとは思わない。それに食べるよりももっといい方法があるはずだ。 「それにしてもアヤカシでなかったらいい名物になるんやろうけどなあ、もったいないもったいない」 光るキノコの見物料に宿泊施設。土産物は光るキノコ饅頭‥‥。と獲らぬキノコの皮算用(?)で頭の中の算盤をはじく。とはいえ、アヤカシであるからそれも全て夢物語だが。 「そうですね、光る以前にアヤカシですからね‥」 『‥‥もう‥‥どくきのこ‥‥やだ‥‥‥‥』 もう? そう、白仙(ib5691)は毒キノコに辟易していた。修行中の記憶が蘇る。鍋の記憶が。 白仙の師匠がキノコ狩りに出かけるたびに、何故かいつも混じる毒キノコ。いつまでもいつになっても必ず混じる毒キノコ。すなわち白仙にとってキノコとは常に死と隣り合わせの危険な存在と記憶している。 そして、今回のキノコは毒がある上アヤカシだ。これを倒さずとして何とする。 「アヤカシだから‥‥こてんぱんに‥倒さなきゃ‥‥」 ●道中 「なーなーソレ、無理がねーか?」 「大丈夫だ。問題ない」 ソレは槍斧。全長八尺を超えて琥珀の倍はあり、巨漢の春陽の背丈をも越えてなお有り余るその槍斧は洞窟という場所には不向きである様に見受けられる。 「すごく、大きいですね‥」 春陽がため息を漏らす。まあこの槍斧が通れない場所があるなら春陽も通れない可能性もありそうで、ある意味一蓮托生と言えるかもしれない。 「思ったようには使えないかも知れないぞ?槍だけにやりきれないかもしれない」 槍斧は、突いてよし、叩いてよし、払ってよし、薙いでよしと幅広い特性を持つ武器だ。だが、長物としての都合上、屋内やこういった洞窟では使い方が限られるのが難点だ。そして駄洒落は空気が凍る事があるのが難点だ。 「だが俺はあえて使い慣れた槍斧(ハルベルト)でいくぜ 」 そんな事は勿論承知の上とシュヴァリエの気持ちは揺るがない。駄洒落にも反応しない。 それにいざとなれば短剣もある。足手まといにはなりはしないと槍斧をしっかりと持って奥へと進んで行く。 「‥‥どくきのこ‥‥食べられるのもある‥‥けど‥‥」 「ああ、紅天狗茸、食べられますよね。色々面倒なんで、仕事中はもっと取り扱い楽なの食べますけど。蛇とか」 シノビの生活は辛く、苦しい。毒を持つキノコとて食べれるものは食べる。蛇だって例外ではない。 松明の明かりが珠々の顔を照らす。彼女のまだ幼きその顔立ちからは計り知れない苦労があるはずだ。 「しかし今回のはアヤカシですからね‥‥。いかに処理をしても食べられませんね」 さまざまな形をとるアヤカシ。時には食べれるとしか思えない様な奴もいるが、それらはいつだって食べられない。 仮に食べることができるのなら、餓えに苦しむ人も減るでしょうか?なんて考えても見るが基本的に不味そうだし、お腹を壊しそうなのも多い。‥あんまり助けにはならないですねとエグムは考え直す。 少なくとも、アヤカシがいなくなれば生活が楽になる人が多いはずだ。 「ま、倒すくらいしか金にならんもんはとっとと片付けるに限るわ」 ●権兵衛 「もうそろそろついてもよさそうなもんだが」 権兵衛は近くの岩場に腰掛けると一息つく。 洞窟には無茶な勾配もないので多少迷うことはあっても一般人でも特に難はないが、その一方特に物珍しいものがある事もないので退屈な道中でもある。しかも権兵衛一人だから話し相手すらいない。せめて途中に普通のキノコでもあればと思うがそれすらない。 そんな折に後ろから話し声が、遅れてぼんやりと灯りが見えて、遂には人が、エグムや春陽といった顔見知りまで現れたとなるとさすがに驚かずにはいられない。 「やっぱり人がいました」 珠々の声に反応した権兵衛が驚きの声をあげる。 「おめえ達いったいこんなところで何を‥‥」 それはこっちの台詞だと言いたくなるのを堪えてエグムは尋ねる。 「‥‥まさかとは思いますが、『光るキノコ』ではないですよね?」 「おーそれよれ。噂を聞いていてもたってもいられなくなっただよ。おめえ達もキノコ汁にしようってか?」 「この洞窟にいるのはキノコ型のアヤカシです。アヤカシは瘴気が集まったものですから食べれません」 「またまたそんな冗談笑えないだよ」 春陽の説明こそが真理ではあるが、やはり予想通り権兵衛はアヤカシという事を言っても聞かない。 「百聞は一見にしかずと言うだ。見てみればわかるだ」 「‥‥だめ。‥‥アヤカシは‥‥危ないから‥‥」 「ちっとくらい見させて欲しいだ。アヤカシじゃないのに退治されたりでもしたら勿体無いだ」 「聞き分けのない奴やなあ。アヤカシは危険ってわかるやろ?」 「真のキノコ汁の完成のためには、多少の危険は覚悟しているだ」 「心意気は立派だけどさー死んだら何にもならねーだろ?」 「もうオラ達はキノコ汁に命を懸けているだよ」 「そこまで言うなら止めはしない。だが、何があっても自己責任だ。どうなっても知らんぞ」 シュヴァリエは冷たく言い放つ。死にたければ勝手に死ねとまでは言わないが、何の守りもない一般人がアヤカシの所へ向かうなんて自殺行為もいいところだ。 「せめて後ろのほうにいてくれないか?キノコだからといってノコノコ前に出てこられても困る」 「せっかくだから近くで見たいだ」 「もし聞いてもらえないなら‥‥」 「やれやれ、情熱も行き過ぎは良くありませんよ」 「わ、わかっただ」 春陽とエグムが縄やらを持ち出したのを見て、権兵衛は渋々条件を飲む。こうして最後尾に権兵衛を加えた一行は一路洞窟の奥へと足を進めるのだった。 ●毒祭り 「‥‥おっきくて‥‥きれい‥‥」 薄暗い洞窟の奥底で光るキノコを見て白仙は思わず感想を口にする。 「でも‥‥綺麗なきのこには毒があるって‥‥いうし‥光るキノコなんて‥‥‥」 綺麗なキノコには毒がある。まあ地味な毒キノコも多いのだが、それはともかく警戒色を通り越してここまで露骨なものはその言葉に当てはめるのなら猛毒キノコといった感じだろう。 それにビミョーに動いてる。この時点で少なくともキノコではない。まあ巨大さと光加減からもうアヤカシ確定といっても良いぐらいだが。 「さてアヤカシとわかったことだし、やるとするか」 鋼介は刀を抜く。他の仲間達も同様にそれぞれの備えを終えている。 「アンタはちゃんとさがってなアカンで」 疾也は権兵衛に釘を刺す。戦いの邪魔だけはされたくないものだ。 そして、戦いの火蓋は切って落とされる。 アヤカシとはいえ所詮はキノコ。肉質も柔らかく倒すのは簡単かと思われた。 だが、そうは問屋が卸さない。自発的に撒き散らす胞子に加え、こちらが斬りつけてもその分胞子が舞う。そしていかに口元を隠そうとも呼吸を意識しようとも、するするっと吸い込んでしまうのだ。 「アハハハ‥‥アハハハハハ‥」 乾いた笑いが洞窟に響く。琥珀は何を見ているのだろう。何もない所で笑い続けながら刀を上下に振っている。しかも笑っていながらも目は笑っておらず、空中の一点をただ見つめている。 「地断撃も胞子を舞い上がらせるだけか」 「アカン、なんか眠く‥」 「‥‥これは、毒でしょうか‥‥」 となれば解毒の役回りをする巫女二人は忙しい。そんな二人に負荷はかけまいと珠々は治療の要請を断っている。 「私のことはか、かまわ‥‥」 言葉も終わらぬうちに『くしゅんっ』と可愛いくしゃみを珠々は一つ。 「自分の事は何とか、な‥(くしゅんっ)‥。にゃー!」 鼻水とくしゃみで会話もままならないが、珠々には日々鍛えられたシノビの力、『死毒』というものがある。一時的に『軽く死にたくなるくらい辛い』思いをする事になるが、ある程度の毒はにゃんとかにゃるにゃー。 「物凄く大変な風に見えますが、大丈夫ですか?」 高熱にうなされているかの如き呼吸、胸を抑え付け苦しんでいる姿はとても大丈夫そうには見えない。 だが、春陽の問いかけにやや遅れて答える珠々はいつもの珠々だった。 「もう、大丈夫です」 そう言うと何事もなかったかのようにまたキノコの方へ走り出していった。 いつしか知らぬ間に権兵衛は少しずつ近づいていた。 例え一欠片でもと思ったのだが、胞子はともかく本体はどうやら切り離された瞬間に瘴気に戻っている様だ。ここまで見れば流石の権兵衛もキノコではなくアヤカシと認めないわけにはいかない。 「戻るべか‥‥」 アヤカシとわかればこんな危険な場所に留まる必要はないと大人しく戻ろうとした権兵衛。だが、そんな動きをアヤカシは見逃さなかった。 アヤカシは大きく膨らんで、胞子をブレスの様に放出する。その射線は権兵衛一直線。 「いかん!」 権兵衛に胞子が吹きかかる寸前、シュヴァリエが権兵衛を跳ね除ける。おかげで権兵衛は直撃を免れたが、自然とシュヴァリエは胞子をまともに浴びる事になる。 「!!‥‥大丈夫‥‥ですか‥?」 しかし、シュヴァリエは駆け寄る白仙の言葉にも無口のまま。 そして、何を思ったか白仙に向かって槍斧を振り上げる。 「──!!」 白仙は思わず目を瞑る。 『こんな所で‥‥私‥‥』 その場にいる誰もが次の瞬間の惨劇を予想した。ある者は目を塞ぎ、またある者は間に合わないと知りつつも走り出していた。 が、一向にその時は来なかった。 「‥‥え‥‥?」 天井に引っかかっている穂先。そしてそれをどうすればいいかわからない様子でシュヴァリエはもだもだしている。 「確保ー!!」 疾也が抱きつくように押さえ込むと、次々とシュヴァリエの上に仲間達が押さえにかかる。 「はやく目を覚ましてください!!」 対象者を下敷きにしたまま春陽の体が光るのだった。 「そろそろ、終わりにさせてもらいましょうか」 エグムの矢が刺さる。その分胞子が弾けるが気にしはいられない。長引かせるほうが危険だ。 「とっとと往生せいや!」 闇に雷閃煌いて、流れた太刀筋は深くキノコの胴を傷つける。沸き立つ瘴気が傷の深さを裏付ける。 それでもなお反撃を試みるアヤカシの攻撃を横に飛んでかわす。 そして別の場所からも噴出す瘴気。激流の様に噴出した瘴気がより闇の暗さを増す。 「これでお仕舞いです」 そしてそんな闇よりも黒い苦無を握った珠々が呟くように一言言うと、遂にキノコは跡形もなく消えて行くのだった。 ●事後 「おめえ達には世話になっただ。お礼に今度オラ達の村に来た時はキノコ汁をご馳走させてもらうだ」 近くに来た時には是非寄って欲しいと権兵衛はシュヴァリエの両手を握る。 「今度はその命を無駄にしないことだな」 だがシュヴァリエは食べに行くとは言わず、ぶっきらぼうに返事をするばかり。まあキノコに興味もないわけだが。 「茸に関してもっと勉強しなって。中途半端に知識あるだけだからこんなあぶねーめにあったんだぜー」 琥珀も権兵衛に無茶をしない様に要請する。今回だって一つタイミングが間違えば権兵衛の命はなかったかもしれないのだ。小言の一つや二つは言いたくなる。 「んだ。美味くて生き返るくらいのキノコ汁をつくるだ」 「それは楽しみですね」 彼らのキノコ汁の味を知る春陽は密かに思い出に心を躍らせる。生き返ることはないにせよ、『また食べるために生きたい』と思わせるキノコ汁ならいつか作ることが出来るかもしれない。 そんな日を楽しみにしつつ、権兵衛と別れるのだった。 |