ウサ耳慕情
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/21 22:49



■オープニング本文

●カワイイは正義
ここは朱藩の某所の某鍛冶屋。
「手前!神聖な鍛冶場にそんな格好で来るとは何考えてやがる!!」
 赤く燃え盛る火と轟音の中、それに勝るとも劣らぬ怒声が響く。筋骨隆々の剥げ頭。そんな男に怒鳴られながらも相手はそんな事に動ずることなく、
「だって、かわいいんだもん!」
 ぷくっと頬を膨らませて言い返す。その頭には明るく春めいた色のリボンが着いており、リボンの両端がまるでウサギの耳のような形で『可愛らしさ』を存分に主張していた。もし街角で年頃の娘が身に着けていたのなら、さぞかし男達の目を引くことだろう。だが、ここは鍛冶場だ、『そんな格好』と言われても仕方が無いくらい不釣合いだ。いや、街角でなくても朱藩というお国柄を差し引いてもかなり突飛であることは間違いないのだが。
「かわいいとかそういう問題じゃねえって言ってんだろ、だいたい‥‥ 」
 改めて言うがここは鍛冶場だ、別にウサ耳リボンは仕事の邪魔にはならないかもしれないが、心構えとして間違っている。そんな浮ついた状態では大怪我だってするかもしれない。そもそも可愛さをアピールする必要がわからない。格好良くなりたいとか異性にもてたいというのであれば分かるが‥‥ 。だいたいなんでウサギなんだ?人間やめたいのか?そう、人生ってなんだ。どうしてこんなに辛いことばかり‥‥ 。
 いや、それはこの際置いといて、結論から言えば『こんな所にウサギはいらない』などとちょっとした思考と感情が禿げ頭の中を逡巡し、
「いいからさっさとそれを取れ!」
 と行動させるに至った。禿げ男は毛むくじゃらの腕をウサギの耳へと伸ばして、ウサギの耳を鷲掴みにする。
「イヤッ!やめて!」
 甲高い悲鳴をあげながらウサギは抵抗するものの、鍛えあげられた男の力にかなうはずも無く耳は剥ぎ取られてしまうのだった。
「返してよ!」
「ダメだ。返したらまたつけてくるだろ!」

●大事なウサ耳なんです
「で、そのリボンを取り返すために親方の家から取り戻して欲しい、と?」
 開拓者ギルドの職員は怪訝そうな顔つきで依頼内容を確認する。
「私には大事な、どうしても必要なものなんです。あのリボンがあると本来の自分になれる気がするんです」
 だが盗人の真似事を開拓者にやらせるわけにはいかないと職員は一旦は断りを入れる。
「それは大丈夫です。親方といっても私の父ですし。家も私の実家ですから」
 依頼人は別に今回の件が原因ということでもなく、数年前から父の元を離れて一人暮らしをしているのだという。そして親方の家(依頼人の実家)には何度か侵入したのだが、家を出てから建て替えられていることもあり捜索は難航、目的のウサ耳リボンは見つかっていない。
「もうとっくに捨てられてしまったのでは?」
 と職員は確認してみるものの、
「まだ探していない場所もありますし、あきらめたくないんです!」
 依頼人は諦めを知らない。
「同じものを買う、というわけにはいかないんですか?」
「ええ、亡き母の形見の着物から作った物なんです。新しく買うというわけには‥‥」
 そういうことならしょうがない、ただしあまり面倒ごとにはしないようにしてくださいね、と念を押しながら職員は書類の作成にとりかかった。なんで依頼人がリボンをつけなければいけないかはさっぱりわからなかったが。


■参加者一覧
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
磨魅 キスリング(ia9596
23歳・女・志
ロムルス・メルリード(ib0121
18歳・女・騎
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
ノルティア(ib0983
10歳・女・騎
ラヴィ・キャロット(ib2724
20歳・女・弓
ネリク・シャーウッド(ib2898
23歳・男・騎
スミレ(ib2925
14歳・男・吟


■リプレイ本文

●男の娘
 とある蒸し暑い日の午後、開拓者達は開拓者ギルドを通じて依頼人と示し合わせた場所へ向かう。
 目印にした柳の木には、日傘を差した浅黄色の着物が涼しげな人影が一つ。
 あれが今回の依頼人に間違いないと、御陰 桜(ib0271)が足取り軽く人影に近寄って
「御陰 桜よ、ヨロシクね千洋ちゃん♪」 
 とウインクまじりに挨拶をしたところで凍りつく。
「まさかこういうことでしたとは‥‥」
 桜に一足遅れて依頼人の下へ現れた、磨魅 キスリング(ia9596)が桜と依頼人を交互に見て呟いた。
 浅黄色の着物の『男』は、集まった八人の若者達に向かって自分が依頼人の鉄 千洋(くろがね ちひろ)であると挨拶をするのだった。

●幼女の罠
 家の前で見知らぬ幼女が泣いている。何でこんな所でと思わずにはいられないが、
「うぅ‥‥。ここ、が‥‥‥何処。だか‥わから、ない‥‥」
 などと言っているし、このまま無視して家に帰るのは人の親として幾らなんでもまずかろう。
 鉄 万洋(くろがね ばんよう)は怖がらせないようにできるだけ優しい表情で
「どうした迷子か、ん?」
 と声をかけてみる。すると、泣いていた幼女に
「宿‥‥戻ら、ないと‥‥だけど‥。ふぇぇ、おかーさぁん」
 しっかりと袖も掴まれて、さらに泣き続ける始末。
 泣いている幼女、ノルティア(ib0983)はもちろん家宅捜索中に万洋が家に帰ってこないように引き止めているわけで、本気で泣いているわけではない。
 だが、小さい体で泣きじゃくるその姿は、保護欲を掻き立てるというか守ってあげなきゃと思わせるにはそれはもう抜群で、万洋の面倒ごとに巻き込まれたと言う気持ちはとうに吹き飛んでしまっていた。
「管屋、か。よくもまあ迷子とはいえこんなところまで歩いてきたもんだ」
 言うも早いが、万洋はノルティアを肩に背負って走り出す。
 ハゲ親父が幼女を背負って猛烈に夕方の街を走り抜けるその姿は『人攫い』と疑われてもしょうがないものではあったが、ノルティアが軽いのか、万洋の走る速度は予想以上。
 想定通りならかなりの時間を稼げるはずだったが、思っていたよりも早く管屋に送り届けられてしまった。
「りが、とー。ございまし‥‥た」
 走り去る万洋を見届けるとノルティアは万洋とは違う道を選んで走り出す。
「もっこす。あとは‥‥頼‥んだ‥よ」  
 ノルティアにとって長距離走という名の長い戦いが始まった。

●捜索開始
 ノルティアが万洋に背負われていく姿を確認した秋桜(ia2482)は、捜索班に侵入開始の合図を送る。
「万洋様はしばらくの間戻ってこられないでしょう。今のうちです」
 その合図とともに千洋と四人の男女が家の中へと潜入する。
「うふっ!あんなに可愛い物を取っちゃうなんてっ、絶対にウサ耳を見つけてあげないとね☆」 
 スミレ(ib2925)は鍛え上げた上腕二頭筋に力こぶを作って、仕事への意欲を見せつける。
「ウサ耳は絶対に取り返して見せるのです!」
 ラヴィ・キャロット(ib2724)も負けじと意欲をアピールする。長い耳に丸い尻尾。獣人ではないかと疑われる程気合の入った服装をする彼女ほど『ウサ』に熱い情熱を傾ける者はいない。つまりウサ耳リボンに対する情熱も彼女が一番ということだ。
「ウサ耳はどこかしらねぇ?」 
 軽快に家の中へ入り込んだ桜が居間をぐるっと見回す。
 大して広い家とは思えないが、男所帯のせいだろうか道具やらなにやらが雑多に散らばっていて捜索は一筋縄ではいかないだろう予感がする。
「さっそくですけど、まだ探していない場所を教えていただけますか?」
 ロムルス・メルリード(ib0121)が丁寧な口調で千洋に問いかける。
「未着手なのは父の部屋、ですね。一番怪しいとは思うのですが‥‥」
 千洋は奥に見える戸を指差して答えると、スミレが駆け寄って戸に手をかける。
「ここねぇ、‥‥アレ?」
 スミレが開けようとしても、開かない。
「押してダメなら、ってことでもないですよね?」
 ロムルスが逆方向に引いてみても、やっぱり開かない。
 なんなのこの変な戸は、と思ってじっと戸を見てみれば、下の方に穴が開いているのに気付く。
「あ、これは鍵穴?」
「そういう事ならこんな鍵、あたしの破錠術で開けちゃうわね♪ 」
 他の二人は背が高いから鍵穴にすぐに気付かなかったのねと思いつつ、桜は細く白い指を戸にそっと近づける。指が鍵穴に触れると、キンッと甲高い音が響く。
「楽勝よね♪ 」
 ご機嫌に、開錠された戸を勢い良く開ける。万洋の部屋は何が入っているんだかなんだか良く分からない箱やら本やらが居間と比べ物にならない勢いで散乱していた。
「これは、大変そうだね‥‥」
 室内の様子を見て、心なしウサ耳がしょんぼりしているようにも見えるラヴィが呟いた。

●刃の罠
 捜索班が万洋の部屋を捜索し始めてからしばらくたった頃、万洋が戻ってくるのを秋桜は察知すると背後に向かって語りかける。
「お二方、そろそろご用意を‥‥」
 すると宵闇の名から黒髪の男女が現れて、そのまま万洋の方へ足を進めていくのだった。

「包丁が欲しいんだが」
 二人組みのうちの一人、ネリク・シャーウッド(ib2898)が落ち着いた雰囲気で万洋に話しかける。
「あんた料理人かい?」
「一本鍛えてほしいだ。いい包丁は料理人にとって宝になるし」
 包丁の良し悪しが料理の決め手と言うことでもないが、一般的に天儀の包丁は刀と同じく片刃であり、ジルベリアのそれよりも切れ味が鋭い。
 そして切れ味が鋭い包丁があれば、より繊細な表現も可能になる。もっともそのような表現には料理人の力量もそれなりに必要とするが。
 足止めのため万洋に話しかけたネリクではあったが、包丁について説明を始めた万洋の言葉を聴いているうちに、マジで一本包丁買って帰ろうかなどという気にもなってくる。
「出刃包丁もいいが、刺身包丁も捨てがたいな‥‥」
 予算を考えるとそう何本も買える訳ではない。ネリクは自分の料理のレパートリーや料理を食べてくれる相手の顔を思い浮かべては、最良の選択方法を模索しはじめるのだった。

 考え込んでしまったネリクに変わって、今度は磨魅が刀について聞いてくる。
 使い手と作り手。お互いの立場は違う分、新たに気付かせられることもあって興味深い。
 プライドを持って仕事をしている職人にとって磨魅やネリクのように真摯に話を聞き、興味をもってくれる客の存在は嬉しいものだ。
 であるから、ついつい話が長引いてしまう。万洋は随分と話し込んでしまったことに気付いて、
「まあ立ち話もなんだから、中に入ってゆっくりと‥‥」
 とネリクと磨魅を家の中へと誘おうとして歩き始めた。

「もう長くは持ちそうにありません」
 その頃、秋桜が捜索班に親方が間近に迫っていることを告げていた。万洋の部屋の捜索は難航しており、もう少しの時間が欲しい。であるならばと、捜索班より最後の刺客が飛び立った。

●ウサウサの罠
 万洋の帰宅への道のりは果てしなく遠かった。幼女を送り届け、包丁の客と刀の客と話して、ついにはこれだ。
 なぜだ!?なぜ今度はウサギ娘が!!

「うっ‥急に差し込みがっ‥‥」
 ウサギ娘のラヴィが胸のあたりを押さえて苦しみ出す。苦しそうに万洋に手を伸ばしているが、怪しい。
 なんだこれは?いったい俺の周りで何が起こっている?
 そもそもなぜウサギなんだ?そういえば千洋もなんか変なリボンをつけてやがったな。━━リボン?もしや!
 万洋はしがみつくラヴィもそのままに、玄関への足取りを速めるのだった。

 一方捜索班の作業も佳境を迎えていた。
 あらかた床の上にあるものや棚の中は調べたが、目的のリボンが見つからない。もしやこの部屋には無いのかと思い始めていたのだが、
「あそこ、なんか違うような気がします」
 細かい所まで見逃すまいと天井を見つめていたロムルスが片隅の一枚だけが他と違う色をしていることに気付く。
「どっせー!」
 さすがに天井の高さとなるとそのままでは届かない。そこで、スミレが桜を軽々リフトして天井の板を外すことを試みる。
「この箱じゃないかしら♪」
 案の定、その板は簡単に外れて桜の手には小箱がおさめられていた。
「これです!ありがとうございます!」
 千洋が小箱の中から目的のウサ耳リボンを取り出し、子供のように喜ぶ。

 と同時にガタン、と音がして玄関の戸が開く。
「どういうことか説明してもらおうか?」
 万洋がラヴィを腰にぶら下げたまま大きな声をあげる。怒気のあまり真っ赤になったハゲ頭からはそれとわかる湯気がもうもうと立ち上る。
「スミレは仏像、スミレは仏像‥‥」
「「「「おまえみたいな仏像があるかっ!」」」」
 とっさに仏像のふりをしてその場を逃れようとしたスミレは、あえなく全員からつっこまれてしまうのだった。

●歌謡ショーの誘惑
 お茶の用意もメイドのすることですから、とお勝手に立とうとする千洋を静止して秋桜がてきぱきと給仕を行い始める。流石は本物のメイドというものは違うものねと感心している千洋の肩に秋桜は手をおいて諭すように語り掛ける。
「千洋様、親方様に申し上げることがあるのではありませんか?」
「そうですね‥」
 千洋は意図を決した様に万洋の元へと歩み寄り万洋に語りかける。
「話が、あるんだ」

 激しく言い争うかと思えば、時折沈黙が続く。まるで千日手のような堂々巡りで一向に話がまとまらない。そんな流れを四半時は繰り返しただろうか。
「この柄、覚えてるよね?これが母さんの着物だって」
「もちろん覚えている。しかしなんだってこんなものにしてしまったんだ」
 どうやら原因の一つはリボンの形が問題らしい。
 可愛い、可愛くないでお互いが譲らない。それであるなら、ウサ耳リボンの可愛さを万洋に知ってもらうしかない。
 というわけで開拓者が千洋にかわってウサ耳リボンのすばらしさを伝えることに‥‥。

  『ウサ耳はすばらしいの歌』 
  作詞:スミレ 作曲:スミレ 歌:ウサ耳探し隊
 
「ウ〜サ ウサウサウサ ウサ耳は〜♪」
 スミレは勢い良く三味線を掻き鳴らしつつ、テンポよく歌い出す。
 良く通るバリトンの声が、高らかにそして明るい歌声を紡ぎ出す。

「素敵!萌!可愛い! 」
 曲にあわせてラヴィも自説を主張する。単語ごとに自前のウサアイテムを使ってポーズを決める細かい振り付けが可愛らしさを演出する。物事の本質を語るにあたって、長い言葉は必要ない。視覚に訴えるというのも効果的な宣伝方法だ。
 「ほ〜ら ほらほらほら あなたもつけたくな〜る ♪」
 曲はサビを迎えて、スミレの歌声はますます勢いを持って万洋の心に忍び寄る。
 『ウサ耳リボンは可愛いので、貴方もつけよう』という一見非常にシンプルな楽曲に思えるこの歌は、理解のできない相手の行動であっても、自分も試してみれば相手のことを理解できるかもしれない。という人間関係に悩みながら生きる人々への応援ソングだ。多分、きっとそうに違いない。

 が、この歌には問題が一つあった。自分がウサ耳という事にこだわらず、リボンをつけることを想像して欲しい。
 髪を長く伸ばしているならポニーテールのようにつけることも出来る。ショートならサイドにつけてもいい。
 だが、万洋はどうだ。ハゲの万洋はどうすればいい?おでこに巻く?それでは鉢巻だ。
 万洋はリボンをつけたくても髪がないのでリボンをつけることが出来ないのだ。しかし、そんな心配も━━━
「これならいけますわね」
 磨魅は自分のウサ耳頭巾を脱いで、万洋に被せてみる。
 確かにハゲ頭にリボンは無理だが、頭巾なら被ることが出来る。
 磨魅の機転がハゲ頭の惨劇を見事に回避するのだった。
「と、とっても似合っていらっしゃいますよ?」
 一瞬の沈黙の後、目をそらしながら秋桜は場を取り繕うようにあわててフォローする。
 そう、似合っていると言われれば結構そういう気にもなるものだ。
「ウサの素晴らしさが分からないなんて、人生の8割損してますよ!?」
 とまで言われればなんとなくそうかな?って思えるのが不思議だ。
 もっともそこで否定なんかしたりしたら、小一時間くらいウサ耳について熱く語られそうな気もする。
「母親は唯一無二の存在だからな」
「形見の品なら常に見に付けておきたいと思っても不思議じゃないでしょう」
 次々と畳み掛けるように浴びせられる言葉に『母親』とか『形見』等が織り込まれ、やっぱり取り上げたのはやりすぎだったかとも思えてくる。 
「ボク、から‥‥も。お願い。つけるの、許して。あげて、下さい」 
 息も絶え絶えになりながら戻ってきたノルティアがごめんなさいと謝った後でお願いをするとついに万洋は折れた。
「仕事は仕事でちゃんとやるなら、な」
 かくして形見のウサ耳リボンは無事、千洋の元へ戻るのだった。

●もう一つの似合う、似合わない
 ロムルスは千洋のリボンを思い出す。
「ウサ耳リボンか‥‥確かにちょっと可愛いかった、かな」
 やっぱり可愛いものは可愛い。ちょっとつけてみたいという気落ちもある。
 でも、やっぱり自分には似合わないんじゃないかとも思ってしまう。
 なんて考えていたらネリクが
「あぁいうの好きだろ?つけてみたらどうだ?」 
 なんて言ってくる。不意を付くような言葉に少し顔を紅潮させながら
「‥‥絶対に嫌 」
 つれない返事を返す。
 さっきまで迷っていたけれど、あんな可愛いリボンはやっぱり私になんか似合わないわよ。
 と思いながら自分の銀色の髪をなでる。
 ネリクはロムルスのにリボンが付いた姿を想像してみる。
 彼女の髪には何色が似合う?清純なイメージの白?それとも大人な感じで黒?
 ‥どちらでも似合いそうなんだからつけてみればいいのにと思う。
 どうやらロムルスの機嫌を損ねてしまったようだが、ネリクの頭の中ではウサ耳をつけたロムルスが優しい表情で微笑みかける。
 確かに大人びて見える彼女ではあるが、その姿は決して謙遜する必要がなく、十分に可愛いといえる。
 一人で似合わないなんて決め付けるのはもったいなすぎる。
「他人の目が恥ずかしいなら俺だけに見せてればいいし。笑ったりしないからさ」
 ロムルスの返事は無かったが、ネリクは心の中で付け加える。
「本当に笑ったりなんかしないさ。だって可愛いから笑うっていうのはおかしいだろ?」
 さすがにキザ過ぎる気がしたので口には出せなかったが。