【大祭】茸汁野望全国版
マスター名:梵八
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/16 21:25



■オープニング本文

●安須大祭
 石鏡、安雲の近くにある安須神宮にて二人の国王‥‥布刀玉と香香背は賑々しい街の様子を見下ろしてはそわそわしていた。
「もうじき大祭だね」
「そうね、今年は一体何があるのかしら」
 二人が言う『大祭』とは例年、この時期になると石鏡で行なわれる『安須大祭』の事を指している。
 その規模はとても大きなもので石鏡全土、国が総出で取り組み盛り上げる数少ない一大行事であるからこそ、二人が覗かせる反応は至極当然でもあるが
「はしゃいでしまう気持ちは察しますが、くれぐれも自重だけお願いします」
「分かっていますよ」
 だからこそ、やんわり淡々と二人へ釘を刺すのは布刀玉の側近が滝上沙耶で、苦笑いと共に彼女へ応じる布刀玉であった。人それぞれに考え方はあるもので、石鏡や朝廷の一部保守派には派手になる祭事を憂う傾向もあり、一方で、辛気臭い祭事より盛大なお祭りを望むのが民衆の人情というもの。
 様々な思惑をよそに、お祭りの準備は着々と進みつつあった。

●戸の木村
「失敗は許されぬ。‥‥それはわかっておるな?」
 薄暗い部屋に灯火一つ。肌寒い部屋の中、老人の声に反応するかのように炎が揺れる。
「重々承知だ。」
 再びゆっくりと炎が揺らめく。その言葉に軽さは感じられない。男は視線を低く落としたまま、蝋燭の火を見つめていた。その男の言葉に軽いものは全く感じられない。また、男だけならず老人の表情も真剣そのもの。
 そして暫しの沈黙の後、意を決した様に老人は腰を上げてもう一人の男に言った。
「では田吾作よ。蔵の干し椎茸をもって行くがよい‥‥」

 『戸の木村』には特産品と呼べる特産品は無かった。春に畑を耕して、秋にその実りを収穫する。毎年変わらぬ生活を続けていたこの村に、変化が起こったのはつい最近の事だ。
 この村を変えたもの、それは『キノコ汁』。
 理穴の首都、奏生で開かれた『豊穣感謝祭(ほうじょうかんしゃさい)』への取り組みを端緒としたこのキノコ汁はたちまち村人の熱意を集め、戸の木村の一大ムーブメントというべき状態となった。
 オラが村のキノコ汁を世に広く知らしめんと、気負って参加した豊穣感謝祭は予想以上の成功を収め、村人達のやる気は高まるばかりで落ち着くところを知らない。
 だが、大きな祭りとはいえただ一つの祭りで成功を収めたくらいの知名度ではたかが知れている。もっと他の祭りに参戦し、知名度を上げねばならぬ。そう、キノコ汁で天儀を制するの事を望むのであれば、石鏡の安須大祭は『食の祭典』に挑まねばならぬ。

 だがしかし、仮にも『食の祭典』を名乗る祭りである。万国より選りすぐられた食材、腕に自信のある料理人が集うこの祭りに、素人に毛が生えた程度の農民が地元の野菜のみで挑むのは無謀ではあるまいかと。
 その様な危機感もあって田吾作らはなおも味の追及に余念がなかった。そして彼らは更なるキノコ汁を完成させたのだ。干し椎茸などの乾物を適量使用する事で、味に深みを増すことが出来たのだ。
 最早その味はぱっと見では真似のできぬ独自性を持つ領域まで練り上げられていて、特産品を作り出すという点では当初の目的を達成する事が出来たといっても良い。
 一方今回のキノコ汁には問題もあった。乾物の使用。それは備蓄食材の使用を意味する。もとよりキノコ汁が始まったのは今年からだし、そんな事に使用するために備蓄していたのではないから、数に余裕があるとはいえない。
 これより厳しい冬を迎えるにあたり、その備えに手を出すというのはいかにも危険な事だ。下手を打てば村全体の生死をも左右しかねない。
 だが、戸の木村はその危険性を冒してでも『安須大祭』の『食の祭典』へ行くと決めた。どこまでもキノコ汁に本気な連中だった。

●どこぞの山中
 所変わってどこぞの山中。どこから見ても山賊といった身形の男達がなにやら元気もなく会話をしていた。
「お頭ぁ、腹が減ったでゴンス」
「そうだな。三日くらいろくなもん食ってねえからなあ」
「やっぱり、昨日の野郎の積荷を奪うべきだったゴンスよ」
「バカ野郎!『病の母が薬を待っている』って言ったろ!そんな非道ぇことができるかってんだ」
「一昨日の猟師も‥‥」
「あれは『子供が腹をすかせてる』なんて言われたらしょうがねえじゃねえか!」
「三日前は‥‥」
「アホか!あれはどこぞのアヤカシ討伐隊だ。俺らが適う相手じゃねえ!」
 ぐぅ〜っと腹の音がなる。どうにも耐え難い。野生の獣でもいればよいのだが、運悪くそれすら見当たらない。
「やっぱり、俺らは山賊になんか向いてないでゴンスよ」
「‥‥‥」
 頭領と呼ばれた男は今回は怒鳴り返す事もなく黙り込む。それは手下に言われるまでもなく自分でも分かっていた。山賊という職業(?)が自分達にいかに向いていないかなんて。
 何せまだ一回たりとも、人から物を奪えた事がないどころか、人に向かって刀を抜いた事すらないのだから。
「次だ、次はどんな奴らが来ても絶対積荷を奪うぞ!」
 頭領は色々な思いを封じ込めるように叫ぶのだった。

●再び戸の木村
 再び戻って戸の木村。村は村人総出で準備に沸いていた。
「この祭りが終わったらオラ、妙にぷろぽーずするだ」
 田吾作は汗を拭いながら、隣のミッシェルに話しかける。
「あっ、田吾作の湯呑みが真っ二つに!!」
「鼻緒が‥‥」
 
「‥‥なんだか不安になってきただ。開拓者を護衛に雇うべ」
「んだな、今回も積荷はいっぱいあるでなあ」
 こうして彼らは再び開拓者達に助けを求めるのだった。


■参加者一覧
慄罹(ia3634
31歳・男・志
白漣(ia8295
18歳・男・巫
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
藍 玉星(ib1488
18歳・女・泰
S・ユーティライネン(ib4344
10歳・男・砲
春陽(ib4353
24歳・男・巫
ルー(ib4431
19歳・女・志
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰


■リプレイ本文

●戸の木村再び
「というわけでお願いするだよ」
 田吾作が指し示す先はキノコを中心に各種野菜が山盛りになって運び出されるのを待っていた。
「前より多くねえか?」
 慄罹(ia3634)が飽きれた様にため息をつく。
 野菜は確かに多かった。今回も開拓者に運んでもらうから、という事で量が増えたのだろう。田吾作達だけでは到底運ぶ事ができなそうな量に膨れ上がっている。
 それはそうとせめてすぐ運べる様に事前に用意をしてくれても良いものだが、『野菜が傷むから』との事で運搬の準備から借り出されることとなる。
「今回もまた楽になりそうにはないわね」
 ルー(ib4431)はそう言いながら、駕籠に野菜を詰め始める。大きくもない村でよくもこれだけの量が用意できるものだと思ったが、どうやら近隣の村から色々調達しているらしい。
「運びがいがありますね」
 立派な体躯を持った春陽(ib4353)が両手に野菜を抱えて歩いてくる。力士をも思わせる巨体に加えて大きな角。怪力無双と見えるがこれでいて巫女なのだから人は見かけによらないものだ。
「メグレズと申します。よろしくお願いいたします」
 一方、女でありながらメグレズ・ファウンテン(ia9696)も春陽と負けず劣らずの高身長。二人が並ぶと実に圧巻だ。ただしその肉質は、春陽が『柔』ならメグレズは『剛』とも言うべきもの。初対面の村人達に挨拶を交わすと、鍛え抜かれた肉体はこんな野菜など重い物のうちには入らないのかもしれない、軽々と持ち上げては大八車に積み上げていく。

  さりとて今回の依頼には力自慢と見える面々ばかりが集まっているわけではない。慄罹も天儀の人間としては標準的だし、ルーも背は高いが、飛びぬけて大きいという事はない。大きいのはとある一部分だ。
「こんな感じでいいでしょうか?」
 籠の状態を確認してもらっているS・ユーティライネン(ib4344)は自身が籠に入れるような大きさだ。
 とはいえ、いざ戦いとなれば大きな機械弓を操るのだから非力ではない。
 ちなみに彼の本当の名前はジークフリート・ ユーティライネン。開拓者ギルドの大人の事情により名前が長すぎて受け付けてもらえなかったのだとか。
 しかし、Sと呼称するのはアレなので以後彼のことをジークと呼ぶ事にする。
「あ、白菜がっ!」
 籠から零れ落ちた白菜を追いかける袴姿。白漣(ia8295)も線が細くともすれば女性と間違われる事も。
「おいおい、気をつけろよ」
  慄罹は目の前に転がってきた白菜を拾い上げると、白漣に手渡す。どうやら、白漣は慄罹にキノコ汁の事を聞いてこの依頼にやって来たらしい。
 生立ちからか、客商売というものからか、どんな相手にでも人当たりの良い白漣は実に多くの開拓者との良好な関係築いている。そんな顔の広い彼の元へは色々な話が舞い込んでくるのだろう。

「積荷を再確認するアル」
 藍 玉星(ib1488)は用意のできた籠に布をかぶせて紐で縛ったり、大八車の確認をしたりと気を配る。道中の万が一にも備えて修理道具まで準備する念の入れようだ。
「笑う角には福来るネ。不安がらずに笑うがヨロシ」
 例え何が起こるにせよ、備えをしてあとは大きく構えていたほうがいい。玉星は数日前の諸事が凶事の先触れではないかと不安に思っている重三を元気付けるのだった。

「諸君、私はキノコ汁が好きだ───!!」
 なぜか出発前に突然始まる演説。この村は本当に大丈夫なのか。内容が内容だけに、長谷部 円秀(ib4529)はちょっとそんなことも思ったりもしたが、
「茸汁にそこまで熱くなれるとは‥‥ある意味尊敬ものですね」
 と前向きに考える事にしてみた。
 円秀は野菜が詰まった駕籠を背負う。ずっしりとした重みが肩にのしかかる。
「では今回も大八車を牽かせてもらいます」
 春陽はそう言いながら、積荷が満載の大八車を牽いて行く。
 ある晴れた昼下がり、石鏡へ続く道。大八車がゴトゴト、キノコを連れて行くのだ。

●高まる思い(キノコ汁に)
「キノコ汁はどんな工夫をしたんですか?」
 白漣は屈託の無い笑顔で田吾作に尋ねる。会話の無い道中というのも退屈だからなのだが、もしかしたら何か得られるものがあるかもしれない。
「んだなあ、干し椎茸を入れることによって味の深みが──」
 失敗した話、それを乗り越えた話。色々と彼なりに人に話したい事はあった様で田吾作の話は止まらない。
「へーすごいですねー」
 いつしか白漣は聞き手に徹していた。笑顔は崩れていなかったので退屈という事でもないらしい。いつかこの話が白漣の料理に活きる事があれば良いのだが。
「確かにおまえさんらの茸汁は旨い。けど、まだ駄目だ」
 慄罹は言った。彼は以前キノコ汁販売のサクラとなって、文字通り『食い倒れ』た事がある。よって戸の木村の住民以外で彼ほどキノコ汁を食べた者はいない。つまり、外部で最もその味を知る者と言っても過言ではない。
「まだ‥‥?」
 権兵衛が難しそうな顔をしながら、慄罹の方を向く。
「何かこう、変化が欲しい。どうしても飽きがきちまう」
 それはひたすらキノコ汁だけを食べ続ければどうしたって飽きるだろうと権兵衛は思った。いくら好きなものや美味しいものでもあんな食べ方では無理がある。
 しかし、どうも続けて聞いていれば箸休めや食感について色々考えた上での言葉とわかる。確かに味の追求をしてきたが、供し方については検討が充分とはいえない。権兵衛は今後の課題として帰ったら取り組んでいこうと心に決めた。
「あの失礼ですけど、なんでミッシェルなんですか?」
 ジークがミッシェルに尋ねる。確かに田吾作、権兵衛、重三ときてミッシェルなのだから違和感はあるかもしれない。
「オラにはジルベリアの血が流れているだよ」
 ミッシェルは言う。祖父がジルベリアから渡ってきたのだとか。確かに良く見てみればやや向こうの血が混じっているように見えないことも無い。
「ふーん、そうなんですか」
 もしかしたらジルベリアに憧れとか何かの生まれ変わりとかでそう名乗っているのだろうかとジークは思っていたのだが、そんな面白い事もないようでやや拍子抜けだ。

「もし襲撃されるとしたら、視界が悪いところでしょうから、森が近いところとかが危ないですね」
 特にアヤカシの報告があるでもないが、気になる兆候もあったことだし注意するにこした事はない。それに、自分達が付いているのに何かなどあってはならぬ事。
  円秀は道中の先頭に立って前方を警戒する。後方はルーやメグレズが守っている。大八車が坂道を通る時に後から押して手伝うためだ。
 彼女らが後から大八車を押してくれたり、玉星が道中の石をどけてくれたりするので、大八車を引いている春陽の仕事も心なし楽だ。
「冷えるようになりましたね〜」
 春陽が何気なく呟く。近頃は確かに秋は深まり冬の近さを感じさせる。山中ともなれば寒いと感じる事もある。
「そうですね。過ごし易い時期というのは短いものです」
 メグレズが応える。寒い冬が近い。しかしそれは、
「キノコ汁がより美味しく食べられますね」
 と言う事。聞けば今日は野宿となるがそこで田吾作らが例のキノコ汁を作ってくれるらしい。
「そういう楽しみもありますね」
 メグレズはまだキノコ汁を食べた事が無かったが、ちょっと食べてみたいなと興味が沸いてくる。

「熊でもでれば熊鍋にできるアルが」
 この時期、冬眠に備えて熊の行動範囲が広がると言うのは考えられる。玉星はそんな熊との遭遇を警戒、どちらかというと望みながら道中を進んでいた。
「キノコ汁もあるし、熊には遭わないほうがいいと思うんだけど‥」
 開拓者が八人いれば熊は簡単に熊鍋の素材になるだろうが、解体は面倒だし、何より田吾作らが巻き込まれないとも限らない。やはりここは熊に逢わないで済む方が良さそうだとルーは思った。
「熊鍋で精を付けられると思ったアルが、キノコ汁でも精はつきそうアル」
「それに、改良したって言ってるし。あの時でも十分美味しかったように思うけれど」
 こうして開拓者達はキノコ汁の事で頭をいっぱいにしながら道中を進むのだった。

●山賊?
「来たでゴンスよ」
「なんだあ?あいつら飯の用意なんてしやがって!!」
 山賊たちの腹がぐーっとなる。
「いや、待て。もう少し我慢すれば飯も一気に手に入るってえ算段よ」
彼らは遠くの茂みよりその機会を待つのだった。空腹と闘いながら‥‥。

「ふむ、この茸は茸汁に入れても大丈夫そうですね。入れてみますか?」
 円秀は野草図鑑片手に食べれそうなキノコを探していた。
 そのキノコは特別鮮やかな色があるわけでもない。図鑑の通りならば食べられそうな気がする。
「アイヤー、そのキノコは焼いた方が美味しいアル」
 玉星はそのキノコを見るとすかさず答える。
「そうですか、ではあとで焼いてみる事にしましょう」
 円秀はその茸を摘み取って籠にいれるのだった。

「小口切りでいいですか?」
「んだ」 
 白漣は料理のお手伝い。ちなみにジークは安全保障の都合により調理のお手伝いはお断りとなった。
「僕が料理をするとみんな『こんな芸術品は食べられないよ』って言うんです」
 なんて言ったからだが。とりあえず皆が楽しみにしているキノコ汁を芸術品に変えられてはたまらないので他の手伝いを、という事だ。
 そういえば『このシチューを作ったのは誰だぁっ』なんて言われたこともあったなあとジークは思い出しながら水汲みにやって来ていた。
 すでに料理の完成が近いようで、良い匂いが漂ってくる。すると草むらが揺れ、
「小僧、金目の物を寄こすんだ。あと食い物をな!」
「ハロウィンの変装ですか?もう時期は過ぎてますけど」
 山賊なんだろうなあと思いながらもあえてジークはとぼけてみる。
「ふざけんじゃねえ!!」
 山賊が叫ぶ。叫んだのが悪かった。

「何事?」
「何をしているのです」
 ルーとメグレズが駆け寄ってくる。そして状況を把握した二人は剣気を放ち、山賊らを圧倒する。
 このような相手なら剣を抜くまでも無い。
「ごっ‥‥ゴンス」
 下っ端はがくがくと震えている。逃げる事すらままならないといった風だ。
『そんな怖がられてもちょっと‥』
 仮にも山賊と思しき相手がこれ程怖がるなんて自分はそんな怖いのかな‥とルーは思ってしまう。
「これを見るがいいネ!!」
 両手は荒野を舞う鷹の如き力強さ。
 高く挙げた左足は爪の如き鋭利さ。
「な、なんだこのカッコいい構えは!!」
 玉星の『荒鷹陣』を見た山賊はその衝撃に思わず後ずさる。
「大人しくするんだなっ」
 慄罹は棍を山賊に突きつける。しかしもうすでに彼らは闘うとかそういう状態ではない。顔は青ざめ、歯をガチガチ鳴らしながら震えている。
「‥‥お前ら、それでも山賊かよ?」
 慄罹は呆れ顔でため息をつくのだった。

「うんうん、大変でしたね」
 ジークが荒縄で縛られた山賊たちの身の上話に頷いている。
 食い詰めた上での犯行、今までに一つも山賊稼業が成功していない事。
「それならなおさら、こんな事やめてまっとうにお仕事を探しませんか?」
 今ならまだやり直せる。そんな思いで春陽が語りかける。
「仕事があるならそうしてえが‥‥」
 と言い出したところで腹の音が鳴る。それに釣られて他の誰かの腹も鳴る。
「わ、私じゃないわよ」
 とルーはひとりごちる。
「お湯を頂けませんか?あとお椀も少々お借り致したく」
 メグレズは村人にそう言って、芋幹縄を自分の荷物より取り出す。
「あ、そうだパイでよければ‥‥」
 白漣も持参したパイを取り出して山賊に差し出す。すると露骨に目の色を変える山賊達。その様子を見た他の者達も干飯やらを取り出して山賊らの前に用意する。
「く、食い物だ!」
「なんだかこの干飯しょっぱいでゴンス」
 涙を流しながら一心不乱にむさぼり喰らう山賊達。良く考えれば彼らは縛られたままなのだが、どうして器用にがっついている。

「そんなに腹が減っているのならこれも食べるといいだよ」
「いいんですか?」
 円秀は田吾作に問う。相手は積荷やらを狙ってきた山賊。本来ならば斬り捨てても文句のいわれもない連中だ。
「何、多めに作ったでな」
 そう言うと田吾作はお椀にキノコ汁をよそう。ふわっと良い匂いが辺りを包む。そして、山賊たちの前に置く、と。
「こ、これはなんといううまさでゴンス!!」
「限りなく、うまいぞぉぉぉっー!!」
 山賊達はキノコになっていたり、口から光線の様なものを発している気がするが、きっと気のせいだろう。

「ほれ、皆も食べるでよ」
 何かにもだえている様な山賊たちをはひとまず置いといて。
「やった、いっただきまーす!」
 白漣は嬉しそうにキノコ汁を啜る。口に入れた瞬間に広がる芳醇な秋の香り。
 滋味を噛みしめる毎に、食べるという事は幸せな事なんだなと思う。
「同じキノコに見えても歯ごたえが違う」
 ‥既に食感については手をいれていたか。慄罹は先程の会話を思い出しながら、椎茸を一切れ摘んで口に放り込む。
「‥‥あたたまりますね」
 ほっと一息。冷えた体に暖かい汁物。自分が生きているというのを実感するのは案外こんな時なのかもしれない。
 春陽は両手でお椀を包み込むように持ちながら、その温もりを感じ取るのだった。

「奪って暮らすなんて、馬鹿らしくならない?」
 ルーの一言にがっくりと頭を下げる山賊達。腹が満たされてすっかり大人しくなった彼らは説教を喰らっていた。
「山賊なんか向いてねえよ」
 さらに、がくり。
 しかし、このまま縛っておくわけにも行かないし、どうしたものかと思い始めた頃、メグレズが口を開く。
「一案ではありますが‥。お祭りの手伝いをさせてみるのはどうかと」
「根っからの悪人という雰囲気には見えませんが‥‥」
 円秀も同じことを考えていたが、やはり山賊を雇うというのは躊躇する。田吾作らがどう考えるかによるだろう。
 そして暫く黙っていた山賊が口を開く。
「あんなうまいもんは食べたことがねえ。もし、もし手伝わせてくれるならこの命すら惜しくはない」
 そして、
「お願いします、俺達を弟子にしてください!!」
 と田吾作らに頭を下げる。その場を誤魔化すために嘘をついている風でもない。その様子を見た田吾作は山賊らに向かって言い放つ。
「オラ達の求める道は厳しいが‥‥。付いて来れるなら、くるがいいだ」

 やがて田吾作らは無事に祭りの地にたどり着く。
「『山賊も改心する美味いキノコ汁』というのはいかがでしょう」
 別れの際にメグレズは提案する。確かにこのキャッチコピーは興味を引きそうだ。それは良さそうだと玉星は『戸の木村 茸汁』と書いた旗にメグレズの言葉を書き加える。
「良かったら宣伝に使ってほしいのコト」
 旗は元山賊らの後でたなびいている。
 ちなみに彼らは後に『キノコ汁の六使徒』と呼ばれる事になるのだが、それはまた別のお話。