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■オープニング本文 ●魔法少女、はじめました 「え、何?もう一回言ってくれる?」 不月 彩(フヅキ アヤ)は机にだらーっとなりながら不機嫌そうに言った。まだ都は、開拓者ギルドは暑い。 「だからぁ、『魔法少女』だってば」 「ああ、『阿呆少女』ね。貴女はそんなの前からじゃない?」 「違うわよ!アホじゃなくて魔法よ、ま・ほ・う!!私は『魔法少女』なの!!」 「昼間から何言ってるのよ‥‥。そんな処‥‥」 「ちょっ違っ!!」 何を言われるか察しがついたため、女は彩の口を手で塞ぐ。 暑い。っていうか何するのよこの娘は。彩はその手を鬱陶しそうに払いのけると、女に向かって言った。 「で、結局何の用なのよ、イツカ」 「私の零神愚心臓(れいじんぐはーと)を探して欲しいの!!」 イツカと呼ばれた女そうは言い放つ。何やら大事なものらしいのだが、名前からでは想像がつかない。 「れいじんぐはーと?‥‥何それ?」 「私の杖よぅ。ほら、前にも見せたことあるでしょ?」 杖と聞いて思い出す。元は飾り気もない『マジカルワンド』を非常に自由な発想で装飾した、もはや原型を留めていないアレか。 桃色やら白いリボンが巻きついて、先端に素材は良く分からないけど赤い珠がついていたヤツ。なんか金属片みたいのもついていた気がするし、杖っていうか鈍器という方が相応しい代物だった事は覚えている。 元々は安いものだけど、色々手を入れているのでぱっと見、高級品に見えるかもしれない。‥‥よっぽど勘違いすればの話だけれど。 もっとも使用するにあたってはセンスを強く問われる事になるだろう。使用するどころか持ち歩く事すら遠慮したい、そんな代物ではある。 「あーアレね‥‥。失くしたの?」 あんな趣味の悪くて派手な杖を失くす方が難しいと思うんだけど。ホント、どうやってなくしたんだろう。 「朝まではあったの。だけど、気がついたらなかったの!!」 ●イツカの行程 朝、起床して簡単な朝食。しかる後に支度をして外出。その際、件の杖は所持していた。というのも、出かける際は杖に向かって挨拶をするのがイツカの日課であるから、その時までは杖を持っていたのは確かだ。 まず開拓者ギルドに行って依頼の張り紙をチェック。その時の様子を彩は確認していない。(寝坊して遅刻したから) どうやらめぼしい依頼がなかったようで、ギルドを立ち去ろうとする。 その際、旧知の開拓者と出会って挨拶程度の会話をするつもりが、長話。邪魔に思ったギルド職員に追い出されるまでどうでもいい話を続けていた。 その後万商店に行き、『鍋のふた』を手に入れる。 『ハイヒール』とか『シルクのストラ』がいいのだけれど、暁君はなぜか妙な物ばかりくれる。こないだ、大きなタヌキの置物を渡されていた人を見たけれど、アレをどうやってもって帰ったんだろう? そんな事を考えながら、商品を物色してみる。『隠神刑部の外套』も欲しいけど、高い。依頼を二つ三つこなせば買えるけれどもそうはいかないのが世の定め。 「なかなか、貯まらないんだよねぇ」 などといいながら店を出る。それなりに見て回っていたけど結局何も買わなかった。 そして、お腹がすいたので、お昼ご飯。うどん。うどん美味しいようどん。 しかし、問題があった。それは、うどんにかき揚を追加するか否かということ。 かき揚一つあるかないかで見た目も満足具合も大分異なる。だがその一方、かき揚の栄養価、具体的には油が体のどこに回っていくのかといった事を考え出すと、単純に手を出すのは危険であるという事になる。 結局今回は食べつつ考えていたので、考えがまとまる前に大分食べ進んでしまい、考えることを途中でやめた。 次に修練場を覗いてみる。滝が涼しかった。そしてちょっと心地よかったので昼寝。 目が覚めた時には鍛えるという気持ちは既に無く、『明日がんばろう』と思って早々に立ち去った。 数々の拠点が並ぶ通りを抜けて、最後に鍛冶屋。お金が貯まらないのは間違いなくここのせい。 「この間は上手くいかなかったけど‥‥。きっと今日は。がんばろうね、『零神愚心臓』」 と、言ったところで杖がないのに気がついたというわけだ。 ●本当にいた。勘違いした人 「まあ目立つし、特徴ありすぎだし、見つかると思うけど‥‥」 「もし転売されたりしたら困るのよぅ」 「あんな燃えないゴミなんて誰もほしがらないと思うけど‥‥」 「『零神愚心臓』の良さが分からないなんて、彩って本当にセンスないよね!!」 イツカがギルドで『零神愚心臓』の捜索依頼を出している頃‥‥。 「これはきっと高く売れるにちがいねえ」 ごつい男が顔に似合わぬ杖を持って小走りに歩いていた。 男は自分が今、どんな見た目になっているかなど思いもつかなかった。当然、往来の人々から白い目で見られているということも‥‥。 |
■参加者一覧
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
小(ib0897)
15歳・男・サ
海神 雪音(ib1498)
23歳・女・弓
マナカ(ib3114)
17歳・女・シ
リヴォルヴァー・グラン(ib3125)
27歳・男・泰
不知火 心(ib3645)
17歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●ある意芸術 「というわけで、その『零神愚心臓(れいじんぐはーと)』とやらを探してきてください」 ま、私はどうでもいいんだけどねといった感じで開拓者ギルド職員の不月 彩が依頼内容を説明する。 「私も探しますけどぉ。ご協力をお願いしますぅ」 そもそも『零神愚心臓』とは杖だ。その杖の持ち主であるイツカがそれをいつ失くしたかわからないし、場所もはっきりしないためある程度人海戦術になるのは否めない。 「詳しい形状を教えて欲しいニャ」 マナカ(ib3114)は「はいっ」と手を上げて要望を伝える。どの様な杖なのか興味があるのだろうか、猫耳をはっきりと立てて聞こうとしている。 「そうだな、絵があればありがたい」 同じ様な耳であってもこちらは白虎の耳。リヴォルヴァー・グラン(ib3125)は落ち着いた雰囲気だ。そこらにあるものであれば『コレと同じの』で済むのだが、どうも聞く限り唯一無二の独創的な代物らしい。簡単にでも絵があれば探す助けにはなるだろう。 「ではここに絵を‥‥」 水津(ia2177)が彩に手帳を差し出す。手首に付けられた鎖がじゃらりと音を立てる。 「アレの絵、ねえ‥‥」 そして簡単にで良いといったのに、絵はなかなか完成しなかった。主にイツカがあーでもないこーでもないと彩の絵に難癖を付けたからだ。まあ、彩も十分適当だった所もあるが。 「ここは左右が逆よぅ」 「知らないわよそんなの!そこまで言うなら貴女が描けばいいでしょ!」 「だってぇ、それが彩の仕事でしょう?」 「あーもういいわよこれくらいで!ちょっとくらい間違っててもどうせ似たような杖なんてありはしないわ!!」 色々と面倒になって嫌気が差した彩が投げるように手帳やら絵をそれぞれの元へと戻す。そしてその絵を見た不知火 心(ib3645)が高い声を上げる。 「なかなかの芸術的な杖ですね〜凄いです」 そう、凄かった。よく言えば芸術的なのかもしれないが万人受けする造形とは言い難いものだった。 「まぁ、なんていうか‥。高い芸術品とかと変に勘違いする奴もいるかもな」 時として自分には理解できないものが芸術として扱われる事がある。小(ib0897)が言うように、『零神愚心臓』は最早その様な領域に近づいた杖と言っても過言ではない。とはいえ、小もそうだが芸術品としての価値を認めるものはそうそういないだろうが。 「‥‥少なくとも私は使いたく無いかな」 海神 雪音(ib1498)が表情も変えずにボソッと一言。芸術ではなく実用品としても十中八九、いや百中九十九くらいは雪音と同じ感想を抱くであろう。色彩、形状、そして名称。これらの使用条件を全て満たすとなれば百人のうちの一人という程度では収まらないかもしれない。 しかし、猫の肉球を模したかのような杖を持つ猫宮・千佳(ib0045)ならば、あるいはその条件を満たす事が出来るかもしれない。 「魔法少女にとって武器は必須にゃ!この魔法少女マジカル♪チカがばっちり見つけてあげるのにゃ♪」 話を聞き終えた開拓者達は各々探索に向かっていく。だが、ロック・J・グリフィス(ib0293)だけはその場に残っていた。そして彼は彩とイツカに近づくと片手で髪をかきあげながらこう言った。 「そうだ、彩嬢、イツカ嬢、折角だし共に食事でもどうかな?」 一瞬の間を置いて、彩が口を開く。 「早く探しに行ってください」 これ程機械的な営業スマイルはないという位の見送りを受けて、ロックは開拓者ギルドを後にするのだった。 ●捜索 捜索にあたっては開拓者達は手がかりの有りそうな場所を手分けしてあたる事とした。 まずは開拓者ギルド近辺での聞きこみを、開拓者としての経験も豊富な水津が行っていた。 「必ず『零神愚心臓』を探し出して見せます‥‥この『蔵有瓶賭(くらーるう゛ぃんと)』の名にかけても‥‥」 片手首にのみ繋がれた鎖が手元より垂れ下がる。一見ただの『手鎖「契」』だが、水津が『蔵有瓶賭』と呼称するそれはなんと、ただの『手鎖「契」』だ。 「この手帳の絵を見せれば、きっと何かしら‥‥?あれ、手帳はどこですか‥‥?」 何故か、あるはずの手帳が無い。せっかく絵を描いてもらったのに。 とはいえ、開拓者ギルドで絵を描いてもらったのだから、その時まではあったはず。そして今は開拓者ギルドの入り口。この精々数十歩の間に物を落とすなんて、まるで雑踏の中に隠れ潜む赤と白の縞々の服を着た細長い眼鏡男が行く先々で物を落としていくかのようでは無いか。 水津は遺失物の箱から自分の手帳を探し出すと、本来の探し物を再会する。 「こんな杖、見かけませんでしたか‥‥?」 万商店にも捜索の手は伸びる。小はその場にいた店員に声をかける。 「意外とこの店変なのあるし、違和感無いかもしれねえけど‥」 小は絵を店員に見せながら、見覚えがあるかどうか聞いてみる。なんと言っても万(よろず)というだけあって品揃え豊富なこの店はごく一般的な形状のものから、斬新な形状のものや余程の怪力でなければ使用できそうもない巨大な武具まで揃っている。ただ、変わった杖なんて言おうものなら、『こんな杖などいかがですか』と見たことも無いような杖を持ってこないとも限らない。 「忘れ物にもないかニャ?」 マナカが尋ねる様に、単純にイツカが置き忘れていった可能性もある。もっともそのまま商品として紛れ込んでいる可能性も否定は出来ないのでマナカは杖が並んでいる場所も確認してみたが、目的のそれらしきものは見当たらなかった。 「この杖のお客さんは確か今日来ていたような‥‥」 「で、その杖は出る時持ってたか?」 「忘れ物としてお預かりもしていませんし、持っていかれたと思いますけど‥‥」 「売りに来た人とかもいにゃいニャ?」 「それはいませんね。その、買い取っても売れないと思うので、買い取りもしませんけど‥」 「先に言っておく‥‥おやじ2つだ!」 ロックは座るなり言い放つ。このうどん屋に来るまでに杖の目撃情報がないか聴き込みをしながら歩いて来たというのに、まるで手がかりとなる情報に当たらない。 若い女性ばかりを狙って声をかけていたからだろうか。ナンパと誤解されて話を聞いてもらう前に軽くあしらわれた事も苛立ちの理由の一つだ。 「特に怪しい奴がいるという話も聞かなかったな」 リヴォルヴァーがうどんをすすりながら、現状をまとめている。イツカは確かにここで食事をしていたようだが、その時はちゃんと杖を持っていたらしい。うどん屋の店主ははっきりと断言した。『あんなもん見違えるわけねえよ』と。 「この辺りにはないってことなのかもしれないな」 ロックは勢いよくうどんをかき込むと、優雅に口元を拭う。 「となれば、他の連中が頼りだな‥‥」 分かれた仲間達はお互い、手がかりがあれば連絡を取り合う手はずとなっている。 しかし、まだその連絡の兆しすらない今はただうどんの味を楽しむ以外に他はない。リヴォルヴァーはどんぶりを手に持って汁を飲むのだった。 「ここはどこなのでしょう〜」 ここは何処だろう。そして一体何処へ行こうとしていたのだろう。あとなんでメイドなんだろう、おまけに箒まで持って。 結論から言うと、心は迷子だった。往来の人々へ聞き込みをしているうちに持ち前の方向音痴が本領発気。気が付けば自分一人、見知らぬ場所で箒を握っていた。 実は箒は仕込み杖の様なもので中には刃が仕込まれている暗器なのだが、街中で箒を持って歩き回る方が余程目立つ。しかし心はその様な事を気にするでもなかった。 「私は、迷子なのですね〜」 心は誰に言うわけでもなく独りごちた。 万商店やそれに程近いうどん屋は神楽の都では南方だが、修練場は北の方角に当たる。 また修練場は万商店と違い、開拓者ギルドからも遠く離れている。そんな道中を明らかにテンションが対照的な二人が道行く人に尋ねながら進んでいた。 「うに、派手な杖だし誰か持ってたら確実に目立つと思うんだけどにゃー」 しかし、あまり有力な情報がはいってこない。なんか箒を持ったメイドがいたとかいう話もあったが、まあそれはきっと‥‥。 「こんな杖、見ませんでしたか?」 雪音が尋ねたのは修練場の入り口にも近い場所。開拓者と思しき男を捉えて尋ねる。 「あーなんか、さっき見たなあそれ。なんかいかつい男が持ってたような」 「その男はどっちにいったにゃ!?」 千佳が顔を突き出すように割り込んでくる。いきなり出てきた千佳に少し戸惑いながら、男は南を指さす。 「南だな。ちょうど修練場から出てきたんじゃないかなと思うけど」 この通りは真っ直ぐ北に伸びる道を進めば修練場。そのまま南に行けば鍛冶屋といったところ。果たしてただ拾っただけなのかそれとも盗まれたかはわからない。盗みでない方が良いのだが‥‥。 「あれを持って町の中を歩きたくは無いわね」 「とりあえず、急ぐにゃ!!」 ●見つけた 先端に赤い球。鈍器なのか杖なのかそれとも他の何かなのか。凶悪さというか一種禍々しくすらあるそれは、何とも少女趣味な彩りで飾り付けられている。例えるならば鬼がフリルの付いたスカートを身につけているような感じだろうか。 加えて恐ろしくもあり、おぞましくもあるその杖は、杖という存在が似合わないような大男が持ち歩いていた。 「あれにゃ!」 うん、どうみてもあれだ。間違いようが無い。 「待って」 雪音は千佳を制して呼子笛を5回鳴らす。この音が広い神楽の都全てに聞こえるわけではないが、幸いここは集合場所としていた鍛冶場の近く。他の仲間も集まってきているかもしれない。 「見つかったってことか!」 小は呼子笛の音を聞くと自分も同じく呼子笛を5回鳴らし、音と音の連携で距離をつなぐ。そして一寸たった後、別の方角からも同じ様に5回音が聞こえた。あれは水津だろうか、なんか妙に不安定な笛の音だった。 そして、ぶぇーーーっという音も聴こえる。誰だ、ブブゼラを使ったのは。 千佳と雪音はこっそりと後をつける。今すぐに捕まえてもいいのだが、男に気付かれた様子もないし、逃げる様子もない。捕まえるのなら、仲間が集まってからの方が確実だ。 しかし、そんな思惑など他の者が知るはずもない。男が鍛冶屋の前を通ると、大声で呼び止められたのだ。 「おいあんた、その杖は‥‥」 流石に鍛冶屋で幾度と無く改造を受けて来た『零神愚心臓』、鍛冶屋にはこの男が本当の持ち主で無い事など一目瞭然だ。 「し、しまった‥‥!」 男は弁解をしようともせず、即座に逃げようと走り出す。 「あ、ちょっと!」 雪音が手を伸ばすが、ぴったりと背後について尾行をしていたわけではない。雪音の手は虚しく空を掴む。 一目散に駆け出した男の足は速かった。往来の人々を跳ね飛ばす様に走る男の勢いは凄まじく、誰も止められないのではないかと思えた程だった。━━━彼の目の前に真紅の薔薇が突き刺さるまでは。 地面に鋭く突き刺さるその薔薇は普通の薔薇ではなく、金属で出来ていた。そしてそれが飛んできた方を見ると、薔薇に負けずと赤い髪をなびかせる男の姿があった。 「残念だがそれはお前のような者には似合わん‥‥さぁ、その杖を返して貰おうか」 ロックはそう言うと真っ白な槍の穂先を突きつけるように構えて道を塞ぐ。 「湖の方の生まれの騎士水津‥。癒しと補助が本分です‥‥」 そして建物の影から水津がゆっくりと現れて、小道を塞ぐような体勢をとる。途中で走って転んだのだろうか、膝や袖の辺りが若干汚れている。 着々と完成しつつある包囲網。今度はメイド服の少女が姿を見せる。どうやら彷徨い歩いていたら偶然この場に辿り着けたらしい。決してご都合主義とかそう言うことではない。 「魔法少女、不知火心さん参上ですね〜」 心がそう言いながら鞭を鳴らす。『魔法少女でメイドで鞭(あと箒)』だ。混ぜるな危険なのか、いや、これはもしかしたらアリなのかもしれない。 しかし残念ながら、新しい時代を感じさせるこの組み合わせを悦ぶ余裕は男に無い。パチンと空中で音を響かせる鞭に威圧された男は尻餅をつきながらも後ずさる。 そして見上げるように前を見ると、何時の間に屋根に上ったのだろう、千佳がポーズを決めて叫んでいた。 「そこまでにゃ!魔法少女の命たる杖を盗むとは言語道断!悪い子にはこのマジカル♪チカがお仕置きにゃ!」 太陽の光を背中に受けて輝く肉球は正義の印。ある種伝統的な魔法少女の系統を踏襲した衣装は勿論スカートであるから、下から彼女を見上げた場合色々と表現に不都合がある事態となる。 壁際に男の背中があたる。もう後はなかった。何がなんだかわからなかった。逃げようと思ったら、あっという間に物騒な連中に取り囲まれてしまった。物凄い殺気も感じるし、正直詰んだと男は思った。 「さっさと返すニャ!!」 このまま自棄を起こして振り回されたりでもしたら、壊されてしまうかもしない。マナカが素早く飛び掛り、男の手から『零神愚心臓』を奪い取る。 「あとはよろしくなのニャ」 マナカはそう言うと杖を大事そうに抱えて後に下がる。捕り物に巻き込まれて壊したら元も子もない。 そしてこうなれば後は男を捕らえるだけ。リヴォルヴァーは男の手を掴んでねじり上げる。 「痛い思いをしたくないなら、わかるな?」 とはいえ、相手が普通の人間となると手加減しなければ痛い思いどころではなくなるから力の加減が難しい。 「ったく、手間取らせんじゃねぇっての」 小が男を縛り上げる。縄できつく縛り終え、小が一息つくと場の空気が少し穏やかになった気がした。 「さっさと返しに行こうぜ!」 イツカも今頃どこかで探し回っているかもしれないが、まずはギルドに帰ろうと小は縄を引きながら歩き出すのだった。 ●事後 男は途中で警吏に引渡し、ギルドに戻った時には日が暮れようとしていた。 『開拓者として大切な武器をなくすのはどうか』ととリヴォルヴァーは思うのだが、『零神愚心臓』との再会を喜ぶイツカを見てまあいいかと口にするのをやめる。 「皆さん、ありがとうございました!」 イツカが嬉しそうに頭を下げる。あんなものでも本人にとっては大切な物なんだなと雪音はちょっと思った。 「‥‥女性が困っているのなら、手を差し伸べるなんて当たりま」 「で、この杖にはどんな力があるのニャ?」 残念、ロックの台詞は好奇心旺盛なマナカによって遮られてしまった! 「別にぃ特にはないけれどぉ、この強化で何かがある気がするの!」 そう言ってイツカは鍛冶屋へと楽しそうに走っていく。 「強化って、まあもうすでに鉄くずみたいなもんだよな‥‥」 小は強化という言葉に一瞬不安を覚えたが、結果はどうであれ関係ないか。と気にするのをやめた。 |