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■オープニング本文 かつて放棄された土地がある。 農業が軌道に乗らなかったため人口が流出し、最後には人1人いなくなった。 かつて栄えていた街がある。 最盛期に街の人口が増えすぎ、他の街との競争に完敗した今では人が余っている。 街を領有する領主は、蓄えが底をつく前に新たな産業を興して失業者に職を与えることにした。 無論容易くはいかない。辛うじて成功する可能性があるのは、かつて開拓が失敗し、今ではケモノやアヤカシが出没するようになった土地の開拓である。 ●領主からの依頼 「金がないのです」 開拓者ギルド内の一室で、妙に腰の低い領主が言葉を飾らずに言った。 「開拓に成功したとしても最初の数年は開拓地から税はほとんど入って来ません。万一に備えた金を残し、開拓のための資金を投入すると残りは…」 示されたのは火の車という表現がふさわしい内情であった。 「なんとか最低1つの開拓村をつくれるだけの土地を確保して欲しいのです」 開拓者ギルドは即座に依頼を受理し、開拓者の募集を開始した。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
茜ヶ原 ほとり(ia9204)
19歳・女・弓
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●広さは強敵 並みの龍では一撃耐えることさえできない爆発が地面で生じ、逃げ惑うアヤカシを一瞬で塵に変えた。 破滅的な光景を間近で直視する羽目になった鷲獅鳥の黒煉は、全身に力を込めて平常心を保とうとしている。 「これで全てでしょうか」 クレーターが出来た地表と鈴木透子(ia5664)から渡された地図を見比べながら、朝比奈空(ia0086)は上空を飛ぶ黒煉の背中で考え込んでいた。 鮮やかな体色を持つ炎龍が黒煉に近づき、その背に座る三笠三四郎(ia0163)が風の音に負けない大声で話しかけてくる。 「地上の確認は私が行います。空さんは川に向かって上空から進んで下さい」 確認のため空がクレーターの外側に目を向けると、複雑な地形の荒野が広がっていた。 手振りで三四郎に肯定の返事をしてから、空は敵を見落とさないことを最優先にするため、最高速の10分の1にも満たない速度で川に向かって飛んでいった。 「さつな、戻ったらからすさんの…まあ必要無いとは思うけど、手伝いや警護を頼むね」 そう言い残すと、炎龍が地上数メートルで速度を落としたタイミングで、 三四郎は長弓と矢筒だけを持って地上に飛び降りた。 衝撃を受け流しつつ華麗に着地に成功し、三四郎は手を振って長年の友を見送る。 「さて、と?」 気配を感じて振り返ると、そこには野犬にしては力がありすぎ、朋友の忍犬にしては小さい柴犬がいた。 「遮那王さんか」 三四郎は矢をつがえていた長弓を下ろす。 「アヤカシは…ああ、地図を出すから少し待ってください」 地図が広げられると、忍犬は前脚で地図に触れることで敵の位置と伝えていくのだった。 ●水際での戦い 地上数メートルをいく見慣れぬ鳥に気付き、豚鬼達は不審に思いながら投石用の石を探し始める。 落としてしまえば不審な鳥の活動を止めると同時に腹を満たすことができるはずだった。しかし鳥は素早く反応し、距離をとって逃げ去ってしまう。 豚鬼は限界まで力を込めて投擲するが、手からすっぽ抜けて明後日の方向へ飛んでいってしまう。 豚鬼と少数の小鬼は警戒を解き、獲物を求める徘徊を再開する。そして、結果的に致命的な隙をさらしてしまった。 「ふしぎ兄、そっちに行ったのじゃ」 「よしっ、霊剣と妖刀で×の字切りだっ!」 丘にしては低すぎる地形を乗り越え、極めて似通った2人がアヤカシ達の前に現れる。 1人は天河ふしぎ(ia1037)。 冒険行が似合う美貌の少年であり、豚鬼のような下級アヤカシですら感じ取れるほど強大な力の持ち主だ。 もう1人は天河ひみつ。 ふしぎとよく似た外見の人妖であり、天河家では家族の一員として扱われているふしぎの妹以上になりたい乙女である。 「今なのじゃ!」 「はぁっ」 超高位の開拓者による攻撃はオーバーキルにもほどがあった。 具体的には、刃の片方に触れた時点で存在の核ごと消し飛ばされるてしまう。 悲鳴をあげることすらできなかったアヤカシは瘴気の欠片となり、春の風に吹かれて消え去るのだった。。 ふしぎは霊剣と妖刀を鞘に納め、ぐるりと周囲を見渡す。 「そろそろ川だね。スライムがいるという話だけど」 「もう1度飛…なにやつっ」 そこだけ色違いの赤い瞳を光らせ、ひみつは猫っぽい威嚇のポーズをとった。 「あ、たいちょーだ〜! やほ〜!」 遠くに見える川と平行に歩いてきたのはプレシア・ベルティーニ(ib3541)。 その背後で礼儀正しくお辞儀をしているのは羽妖精のオルトリンデだ。 「もうスライムには会った?」 艶のある純白狐尻尾を機嫌良く揺らしながらプレシアが質問すると、ふしぎが答えるより早くひみつが口を挟んだ。 「まだじゃ。れもふしぎ兄と妾がいれば問題ないのじゃ」 良くも悪くも愛情が激しいふしぎはあからさまに対抗心を見せている。もっとも素直で善良な性質故か悪意は感じられず、真っ直ぐにぶつかってくることで爽やかささえ感じられた。。 「そう?」 プレシアが首をかしげると、きらめく金髪が波がうねるように揺れた。 「良ければお願いできるかな」 「ふしぎ兄っ」 ひみつが切ない視線を向けるが、ふしぎは軽い口調でひみつを宥めながら川に視線を向けた。 目に練力を集めて気配を探ると、川の周囲に点在する湿地の中にアヤカシを見つけることができた。 向きが変わった風が運んでくるのは酸の香りだろうか。 「僕が相手をすると時間がかかるんだよ」 弱酸性スライムに真っ直ぐに近づき、鈍い動きの一撃を開始しながら超絶技量の一撃を加え、敵の追撃をあっさりと振り切り戻ってくる。 並みのアヤカシなら一撃で重傷か致命傷になる攻撃を受けたスライムは、多少動きは鈍ってはいるものの未だに健在だ。 スライム種は体積が大きな分頑丈であり、鈍さと引き替えなのか異様に打撃に強いことがあるのだ。 「うー」 ひみつは不服そうな表情を浮かべるが、それ以上反論はなかった。 「それじゃあ始めるねっ。かまちゃーん、カッター!」 プレシアはカマイタチに近い性質を持つ式を放つ。 ふしぎの強烈な一撃に耐えたはずのスライムは、高位ではあるがふしぎと比べると力量が劣るはずのプレシアの式により、体の半ばを切り飛ばされる。 極端に物理に強いかわりに術に対しては脆い、スライムの性質故の結果であった。 「必殺〜! 黄泉から来たおきゃくさん〜!」 とどめに放たれた一撃は、通常のスライムとしては限界近い強さを持つに至ったアヤカシを、溶けかけのバターを刃で切り裂くように軽々と打ち倒す。 この場合、お客さんとは黄泉より這い出る者により召喚した高位式神のことを指す。プレシアの表現は一応は冗談ではあるが、真実の可能性がある冗談ではあった。 「頑張らないと今日のノルマはこなせないよ。行こう!」 明るいふしぎの声に導かれ、開拓者と朋友達は元気に仕事を進めていった。 ●拠点 穴というより堀と表現がふさわしい段差が、乾いた大地に深く刻みつけられていた。 上空から拠点とその周囲の状況を確認していた黒色赤眼の甲龍が、身にまとう分厚い装甲をものともせずに軟着陸を成功させる。 離陸前は粗大ゴミ同然だった建物は綺麗に掃除がされ、蜘蛛の巣も埃の層も完全に取り除かれていた。 「予定通りのようだな」 獅子鳩の主は、掃除用の割烹着を着ている状態でも戦闘力的な意味で万全の状態だ。そのことに確かな満足を感じながら、龍は無言のまま敵影のないことを報告する。 「警戒はさつな殿に任せ休息をとれ。予想通り時間がかかりそうだからな」 のそりと、それまで拠点の影で涼んでいた赤い龍が立ち上がる。 三四郎に拠点の担当を言いつけられていた炎龍は、拠点の現在の主であるからす(ia6525)の言葉に従い、身軽に離陸して上空で旋回を開始する。 「さて」 からすは、彼女としては非常に珍しいことに、困惑に近い表情を浮かべていた。 「少し多すぎるかもしれないが、後に続く者の助けにはなろう」 からすと三四郎が持ち込んだ鳴子や虎バサミは既に設置が終わっているのだが、依頼人である領主も気を利かしたつもりで罠を送り込んだため、未使用の罠が中庭に大量に積まれている。 からすは半ば恒久的な拠点にするため、丹念に罠を仕掛けていくのであった。 ●夜 ひみつがチェーンソーで解体して運んできた枯れ木を焚き火に投げ入れると、炎は勢いを増して夜を彩る。 昼の間にからすが仕留めた猪肉に火が近づき、脂が弾けて芳しい肉の香りが広がっていく。 「えへっ」 じゃんけんで最初に選ぶ権利を得たプレシアは、骨ごと焼かれた肉を手に取り高々と掲げた。 「上手に焼けましたー!」 彼女の笑顔は焚き火よりもずっと眩しかった。 「脂を零さないよう気をつけてね」 鈴木透子(ia5664)は持ちやすいように骨に布を巻いてやる。 「透子殿」 からすが呼び止めると、透子は無言でうなずいて地図を広げた。 拠点を中心に川の近くまで、みっしりと情報が書き込まれている。 上空からの目視や地上で足を使った調査を皆が行った結果だが、透子の朋友である忍犬が果たした役割も大きかった。 「できればもう少し制圧地域を広げたいな」 ベルナデット東條(ib5223)は茜ヶ原ほとり(ia9204)と共に地図を確認し、川に沿って視線を動かした。 「水場が確保できるかどうかで開拓の難易度が変わってくるものね」 ほとりは相づちを打ち、ふとあることに気付いた。 「私達は開拓者なのだから、これが本業なのよね」 彼女の言葉はさざ波のように広がる。 「確かに…」 「そう、ですね」 開拓者達は改めてそのことに気がつくと、誰からともなくくすりと微笑むのだった。 ●朝靄の中で 「まだ見ぬ土地ってワクワクするわね!」 翌日川越え一番乗りを果たしたベルナデットは、人の気配が全く感じられない森を見て不敵に微笑んだ。 そんな彼女の真後ろから猫が気配を消したまま飛びかかり、痛くはないが極めて鬱陶しいという絶妙の力加減で猫パンチを放ってくる。 「分かっているから」 ベルナデットが表情を真剣なものに切り替えて宥めると、猫は変化を解いて美貌の人妖となり主人の肩に腰掛けた。 「嫌な気配がします」 アヤカシの影響で動植物のバランスが崩れ、さらにアヤカシ複数が戦闘準備を整えつつこちらを伺っていることを短い台詞で伝える。 「そう」 時間をかけた対峙は可能だ。 からすの手により食料の蓄えも万全で、素晴らしいことに風呂の準備まで完了している。 いっそほとりお義姉ちゃんとのバカンスを兼ねて頑張ろうかという気にもなったが、依頼人を待たせると気の毒なので打てる手を打つことにする。 「おねえちゃん!」 上空の姉に合図を送ると、ゆっくりと宙を舞っていた駿龍が体を傾け森をかすめる軌道で加速していく。 森との距離が弓矢の間合いから刀剣の間合いになった瞬間、鮮烈な赤い光が弾け、その中から鋭い矢が飛び出し森の中の気配に的中する。 「要練習…」 ほとりは大柄な鬼を射て森から追い出すことに成功したものの、朋友との連携には満足していないようだ。 左右の足で別々のリズムを刻むと、クロエは右の方向と左の加減速を正確に読み取り実行に移す。 黒江が複雑な軌道で森から飛び出ようとするアヤカシと戻ろうとする鬼を同時に牽制し、ベルナデットに気をとられた鬼がさらした隙を見逃さずにほとりが一矢を放つ。 「人手が必要」 倒れて瘴気に戻っていく鬼を確認すると、ほとりは風に吹き消される程度の小声でつぶやく。 距離は100メートル近く離れて強い風が吹いているが、妹は姉の意図を完全に把握した。 「一度戻るわよ」 上空のほとりが拠点に向かって飛んでいくと、隙有りとみたのか森から昆虫型を中心としたアヤカシがあふれ出す。 雑な殺意を捉えて軽々と回避しながら、ベルナデットは近づいて来たアヤカシのみを一刀で切り捨て川へと向かう。 アヤカシと開拓者の追いかけっこは、アヤカシが川に達するまで続いた。 ●皆殺し 「杭を打っておきましょう。川原にある石を使って積み石をするのもいいですね」 穏やかに今後の策を提案する透子の背後、流れの緩やかな川の向こう岸で、あまりにも一方的な戦いが展開されていた。 おいかけっこに興じていたアヤカシが、ほとりが呼んだ増援に襲われているのだ。 「矢を多めに持ってきて正解でしたね」 三四郎は特別な技を使わずに矢を放っていく。 ベルナデットに森から釣り出される形になったアヤカシ達は、緩やかな弧を描いて飛来する矢によって大地に縫い止められ、多くはそれだけで限界を超え消滅していく。 生き残ったものも長くは生きられない。 朋友達が地道に処理するので取りこぼしなどあるはずがないのだ。 「残敵掃討も終わりか」 森から3桁に達する新手が現れた時点で、からすは弓をおろして行李に入れていた握り飯を取り出す。 「おひとついかが?」 昼食を勧めるからすの背後で、空により生み出された爆発が全てを吹き飛ばしていた。 遮那王が小さな体で勝利の雄叫びをあげる中、その主である透子は地図に新たな情報を書き入れていた。 この地域が放棄される前の地図を基本にし、時間による変化と今回の依頼による変化を反映させ、アヤカシの目撃情報と討伐情報を書き入れていく。 索敵に関しては開拓者並みの成果をあげた遮那王は、調子にのって普段は出せない雄叫びを上げ続けている。 「もう…」 透子が怒るふりをすると、遮那王は素直な態度でその場に座り込むのだった。 ●結果 川の北側のアヤカシは完全に駆逐された。 川の南側に存在する森から現れたアヤカシは1体も逃さず殲滅されたが、開拓者達に森全体を調査する時間はなかったため南側に関しては確実に安全とはいえない。 もっとも、上空から鏡弦を使った調査は行われていたため、領主は川を含んだ北側全体の開拓を決定した。 予算も人材も限られているため開拓の速度はゆっくりしたものになるだろうが、領主も領民も開拓が軌道に乗り次第改めて感謝を表すつもりらしい。 |