都市乱入まで残り１０分
マスター名：馬車猪
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| ■オープニング本文 古木を棍棒代わりに担いだ鬼が荒野を行く。 数は七体。率いるのは百体を越えてもなお数を増しつつある小鬼の大群だ。 鬼の身長は人間の成人男性よりやや低めであり、防具どころか衣服すら身につけぬ有様は酷く見窄らしくさえみるかもしれない。 しかし全身を覆う筋肉は桁外れに分厚く、無数の矢傷と刀傷が体の前面を覆っている。 目には冷たい知性が現れており、視線だけで全ての小鬼を完全に統御する様には歴戦の将の風格が感じられた。 彼等の目的地は辺境に存在する中規模の都市。 少数ではあるが志体持ちが含まれる守備隊は地方有数の戦力を持ってはいるが、並みの軍に匹敵する練度を持つアヤカシに対抗できる訳がない。 街が滅ぶかどうかは、たまたまこの街に滞在していた開拓者次第の動き次第だ。 あなたは依頼を終えて帰還途中にこの街に立ち寄るか、あるいは単に旅行や移動の過程でたまたまこの街に立ち寄りました。 そろそろ出発しようと街の門から出たところでアヤカシの接近を知らされました。 背後では恐慌状態に陥った住民達が騒ぎ出し、守備隊は住民の慰撫に手を取られており戦力としては全く期待できません。 このままだと１０分後に前方から接近してきたアヤカシが街に入り込み、大量の血を流すことになるでしょう。 前進してアヤカシの群れに突っ込むか、この場で守りを固めるか、あるいは住民の避難に全力を尽くすか、いずれを選ぶにせよ時間の余裕はありません。 どうしますか？ |
■参加者一覧
九竜・鋼介（ia2192）25歳・男・サ 
月酌 幻鬼（ia4931）30歳・男・サ 
和奏（ia8807）17歳・男・志 
茜ヶ原 ほとり（ia9204）19歳・女・弓 
利穏（ia9760）14歳・男・陰 
蒼井 御子（ib4444）11歳・女・吟 
ベルナデット東條（ib5223）16歳・女・志 
罔象（ib5429）15歳・女・砲 |
| ■リプレイ本文 ●驚愕 利穏（ia9760）は早足で街道を歩いていた。 当初の予定では既に街についているはずだったが、途中で悪天候に巻き込まれたためようやく行く手に街の壁が見えてきたところだった。 常人の全力疾走に近い速度で歩きながら利穏は旅行者や隊商を次々に追い抜いていく。そろそろ門が見えてくるかと思った頃、街道以外に何も無い場所で突っ立っている男女を見かけた。 「綺麗…」 「おいおい。アヤカシじゃねぇのかよ」 「否。このような場所で出会えるとは今でも信じられんが、あれは人妖だ。動く黄金呼ばわりする奴もいるが…捕まえようなどとは思うなよ。貴族の持ち物なら傷一つつけても首を切られかねん。開拓者の連れなら並みの志体持ち以上の力を持っていてもおかしくない」 物騒な会話を続ける人々を追い越し街に向かおうとすると、話題になっていた人妖から声をかけられた。、 「すみません。肩を貸して下さいませんか」 余程急いで来たらしく、息を切らした人妖が、それでも礼儀正しく利穏に要請する。 「構わないけど」 軽く屈むと人妖は助走無しで利穏の肩に飛び乗り、利穏が立ち上がると忙しなく視線を動かし、やがて一点を凝視して動きが止まる。 「アヤカシの、軍？」 整った人妖の顔に、微かではあるが恐怖に似たものが浮かんでいた。 「え」 事態に気づいた利穏が人妖の向きを参考にして視線を向けると、地平線近くで見事な隊列を組んで進んでくる者達が見えた。 「この敵勢は…む、無理だよ。誰か、早くギルドに援護要請を」 口にした時点で、それが無理なことは理解できていた。アヤカシは近く開拓者ギルドは遠すぎる。 「街まで行けばあいつ…じゃなくて主人もいます。だから」 人妖に皆まで言わせず、利穏は決然たる態度で口を開く。 「アヤカシが接近中です。皆さん急いで街に向かってください！ 僕達が守ります。守りきってみせます！」 北戦のようなことは２度と起こさせない。利穏はそのためにはなんでもするつもりだった。 ●混乱 街の守護を担ってきた男達が駆け回り声を張り上げる。しかし半ば恐慌状態に陥った街に変化は起きない。 練度が劣っている訳ではないのだが、アヤカシという脅威の前では彼等は頼りなさ過ぎる。 そんなとき、絶望的な努力を続ける守備隊を呼び止める者がいた。 「俺達は開拓者だ。既に開拓者が迎撃に向かったから落ち着いて避難を、って住民に呼びかけてくれないか？」 九竜・鋼介（ia2192）が不敵に微笑む。 彼の背後では、気品のある佇まいで和奏（ia8807）が門を守っていた。 「助かります！」 守備隊は地面につくほど勢いよく勢いよく頭を下げてから、噴き出る汗を拭いもせずに混沌の街に飛び込んでいく。 「迂闊でした」 開拓者の存在により辛うじて耐えている者を意識し、和奏はそよ風にかき消される程度の小声でつぶく。 アヤカシの出現位置と和奏の現在地を考えれば仕方のないことなのだが、和奏としては出発まで外の異変に気づけなかったことを大きな失敗ととらえていた。 それと同時に、混乱し騒ぎたてる住民が少し邪魔だなと内心思っている和奏なのだが、高い実力が伴った風格の内側に気付く住民は誰もいなかった。 「ベルちゃん、何が起きてるの？」 柔らかな雰囲気を持つ女性が、人の流れに逆らって門から出てくる。 「ほとりお義姉ちゃん！」 ベルナデット東條（ib5223）は姉に気付いた瞬間、冷たささえ感じられる美貌に喜びの色を浮かべた。 「アヤカシの襲撃です。芙雪に偵察に行ってもらってますがここで迎撃することになると思います」 茜ヶ原ほとり（ia9204）の表情から迷いの感情が消える。柔らかな雰囲気が余裕となり、冷たく硬質な知性の切れ味をさらに鋭くする。 「そう。犠牲者ゼロは、厳しい」 犠牲を無くすための方策を脳内でまとめながら、ほとりは鋭い視線をアヤカシのいる方向へ向けていた。 ●刀槍でもなく弓矢でもなく 数十の個体がタイミングをあわせて行動するのは非常に難しい。 ただ歩くだけでも大変だ。全力に近い速度で走っているなら難易度は幾何級数的に増大する。 ７体の鬼を中心にまとまった小鬼達は、走りながらも隊列を崩さず、一斉に槍を構え切っ先を街に向けていた。 そんな悪夢じみた光景を真正面から見据えたまま、罔象（ib5429）は装弾済みの魔槍砲を片手で抱えてアヤカシの隊列に向ける。 既に表情が読めるほど近づいた鬼達は、投石や矢による迎撃が来ない現状に戸惑っているようだ。 アヤカシ側から見れば、数人の強そうな人間はいるが戦闘に立っているのは小柄な少女１人だけだ。戦場に飲まれて混乱しているのかと思いつつ、一切の油断無く前に進み続ける。 彼等にとって非常に残念なことに、実用化されてからそう時間が経っていない魔槍砲に出会ったのはこれが初めてだった。 罔象の口から精霊への祈りが響くと同時に、魔槍砲「戦神の怒り」から何かが飛び出した。 最前列の小鬼達と彼等を指揮する鬼をすり抜けるようにして飛んだそれは、アヤカシの隊列の中心よりやや手前で地面にぶつかり、強烈な光量を伴う爆発を引き起こす。 後方にいた鬼が、陣を左右に分けて爆風の被害を少しでも抑えようとする。 しかし完全に不意を打たれたアヤカシ軍は、先鋒に位置していた小鬼十数体を１度に失っていた。爆風の圏内で立っているのは先鋒の指揮官である鬼と、破城槌の役割を期待されていた３人組の鬼の合計４体のみだった。 「さあ震えあがるがいい！ 今日は最高の鬼退治日和だ！」 地の底から響くような低音の哄笑を伴いながら、月酌幻鬼（ia4931）は赤い刀身に燃えたぎる闘志を込め高々と掲げる、。 「お前ら」 人間の放つものとは思えない、高位のアヤカシでも可能かどうかという水準の殺意と共に猿叫が迸る。 「喰わせろぉおおお！」 殺意と、声と、刃が同時に振るわれた。 体格の良さをかわれて常に先頭に立っていた鬼が、脆い陶製の人形であるかのように一撃で砕かれ血煙と化す。 同属の衝撃的な最期を間近で目にしたにも関わらず、残る鬼達は怯えを表に出さず最も有効な行動をとろうとする。 大技を繰り出した直後の幻鬼を複数方向から攻めて一撃で戦闘不能に陥らせようとしたのだ。 しかしその攻撃は、放物線を描きながら幻鬼の頭上を飛び越えた爆弾により強制的に中断させられる。 乱戦状態の場所に投げ込まれた焙烙玉の落下位置は狙った場所からはずれていたものの、爆発と同時にまき散らされた鉄菱が鬼の足を傷つけ動きを鈍らせる程度の効果はあった。 そこに駆け込んできたベルナデットが、赤い燐光をまとう長大な刃を振り下ろす。 鬼達は異様な連携の良さを見せ、狙われた鬼の両側から丸太にも見える棍棒を突き出し盾代わりにしようとした。 だがベルナデットの腕は鬼３体を上回る。乾燥し堅くなった丸太を２つまで苦もなく切り飛ばし、勢いは削がれたものの狙った鬼の胸元に深い傷を付ける。 最初の爆風と赤い一閃で致命傷をうけた鬼は、せめて目の前の人間を食い止めようと、切り刻まれるのを覚悟の上で前進しつつ両手を伸ばす。 が、音を置き去りに飛来した矢がほぼ垂直に額に着弾し、頭部の最も重要な部分を貫き吹き飛ばす。 急速に意識が拡散していく中、鬼の副将が最期に目にしたのは二の矢をつがえるほとりと、その手の大弓に描かれた紅い彼岸花であった。 ●乱戦から 「すまんな、飯がまだなんですぐに終わらせてもらうぞ」 鋼介は大胆に踏み込みながら刃を繰り出し、戦闘よりも指揮に力を入れていた鬼の首筋を割いていた。 致命傷をうけ体の端から崩れ始めた鬼は、強烈な痛みにさらされながらも満足げな笑みを浮かべていた。 本陣に残る３体の鬼が、４体の鬼が辛うじて稼いだ時間を有効に使って残存戦力を結集したのだ。 「へえ」 残るアヤカシに襲いかかろうとしていた鋼介は、数十の小鬼が一斉に投擲を始めたことに気付き大型の盾を掲げる。 雪崩に真正面から立ち向かうような圧力に耐えながら、鋼介は背後に攻撃を通さないためその場に留まるのだった。 「左右に分かれるつもりですか」 鋼介の後方でファストリロードで再装填を終えた魔槍砲を、罔象はどこに向けるべきか悩んでいた。 初撃の広範囲攻撃と次の通常攻撃で魔槍砲の射程を読まれたらしく、アヤカシは巧みな進退を行い魔槍砲の攻撃を避けている。 とはいえそれは小手先の工夫でしかない。 長大な射程を誇るほとりの華妖弓は小鬼を一矢一殺していき、陣の奥深くにいる鬼の指揮官にも浅くない傷をつけていた。 「来る」 彼女たちの近くにいた利穏は敵陣の変化に気付き、得物を握る手に力を込める。 アヤカシは中央に３体の鬼を残し、残る全ての鬼を左右に分けて走らせた。 「小賢しいわ！」 最前列で踏ん張る幻鬼の一撃が、鬼の指揮官を文字通り一刀両断にする。 しかし残る２体の鬼も小鬼達も動じない。 鬼は１秒でも長く開拓者を足止めするために後先を考えない猛攻を開始し、小鬼は広範囲攻撃術を警戒して広がりながら街へと向かって行く。 利穏が咆哮で広範囲の小鬼の行動を縛り、集まってきた小鬼をほとりが乱射で、利穏が仲間と距離を取りつつ悲恋姫で一気に蹴散らしていく。 しかし鬼の最期の指揮により小鬼は広く展開しており、小鬼の全てを倒すことはできなかった。それどころか１０に満たない数の小鬼は街に全速で向かっている。 アヤカシは１分に満たない戦いで戦力のほとんどを失いながら、戦力を街に送り込むことに成功しつつあった。 ●不落の壁 「壁の上にアヤカシを上げないことだけを考えて！」 蒼井御子（ib4444）が門の前で竪琴を奏でると、壁の上に待機中の守備隊弓兵達の動きが鋭くなる。 防御の準備を整えるため街の中を高速で駈けずり回ったせいで心身共に限界近い疲労が溜まっているが、御子は表情に出すのは耐えて明るい笑顔と共に支援を行っていた。 御子の側についていた和奏は、近づいてくる大量のアヤカシに守備隊が精神的に飲まれつつあることに気付く。 アヤカシの中では最弱に近い小鬼が１０体未満とはいえ、練度も気合いの入り方も尋常ではない。 「街には絶対に踏み込ませんから、落ち着いて祝勝の準備をしていてくださいね」 緊張を全く感じさせない口調で、和奏は門の向こう側にいるはずの住民達に語りかける。その内容でなく口調に勇気づけられたのか、弓兵達の手元の震えは止まり接近してくる全ての小鬼に対し狙いを定める。 「この門は、落ちない。そう知るといいよ」 御子が鋭く手を振り下ろすと、この場所に配置された十名弱の弓兵が一斉に矢を放つ。 半分以上が外れ、もう半分もかすり傷をつけるだけで終わってしまうが、残る矢は小鬼の胸や腹を突き抜け止めを刺すことに成功する。 「まずっ。ちょっと抜けるかも」 支援の曲から精霊の狂想曲に切り替え広範囲を攻撃すると同時に混乱状態まで引き起こす。が、極めつけの幸運により狂想曲を潜り抜けた小鬼が１体、効果範囲の外を行くことに成功した小鬼が２体、計３体が街を守る壁に手をかけようとしていた。 守備隊が弓から槍に持ち替えて迎撃しようとするが、個々の能力はともかく集団としての練度は明らかに小鬼が上回っているので阻止しきれない。 慣れた動作で壁に手をかけ、小鬼が一気に壁を飛び越えようとしたとき、無色の力に真横から襲いかかられた。 瞬風波は小鬼を２つに裂き、体液をこぼすことすら許さず瘴気に戻す。 それが三度。 鮮やか過ぎる幕切れに、守備隊の面々は勝利の実感を得られず呆然としていた。 「小鬼をここまで鍛え上げた鬼と戦うのも良かったかもしれませんね」 音を立てずに刃を鞘に納め、和奏は相変わらずの落ち着いた様子でつぶやきをこぼす。 アヤカシは全滅。住民に被害は無し。開拓者も消耗も軽微。 結果だけ見れば楽な戦にみえるかもしれないが、巻き込まれた誰にとっても過酷な戦であった。 ●礼 最後のアヤカシが倒れてから数分後、護衛を含む戦力をかき集めた領主が門に到着した。 明らかに室内用の服装に武装は槍だけであり、最大限に急いでこの場に駆けつけたことが伺えた。 「お疲れ様、領主さん。お陰でなんとかできたよ」 御子が白い歯を見せてにっこりとする。 領主はようやく現状を把握し胸をなで下ろす。すっかり汚れてしまった室内着を少し気にしながら、領主は笑顔で礼を述べるのだった。 |
