【城】はじめての民
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 2人
リプレイ完成日時: 2012/03/14 02:08



■オープニング本文

 アヤカシに占拠された土地を開放し城を建てる。
 その計画を知った者の多くはまず冗談と思い、次に立案者の正気を疑った。
 当時は黙殺あるいは嘲笑された計画ではあるが、天儀開拓者ギルド経由で集められた精鋭達により常識外の速度で進展した。
 数ヶ月前まで無人であった砂漠に誕生したオアシスにして城塞都市は、アル=カマルの表と裏両面から注目を浴びていた。

●依頼人
「前拠点は数名のジンにより攻め落とされ全焼しました。被害は管理に雇っていた業者が3名。周辺の森への延焼を食い止めるため、独断ではありますが私兵団から1小隊派遣しております」
「一応は凄腕…か。いかんな、例のジン達を基準に考える癖がついてしまっていた。連中であればとうの昔に儂の身柄を抑えているだろうに」
 生地も定かではない一介の商人から一城の主にまで上り詰めた男は、心底愉快そうに笑声をもらす。
「あの方達が競合相手に雇われたらお仕舞いでしょう」
 主の冗談に冗談で返し、執事は小さく揺れる馬車の中で報告を続ける。
「御言葉通りに手を打ちました。情勢は、予想より内外の反発が弱くなっております」
 天儀ギルドを介在させた結果というより事業を主導した開拓者の行いの結果だろう。
 依頼人は数秒の間考えをめぐらせ、今後発生する可能性の高い事態について口にする。
「住民だな」
 陰謀や後ろ暗い活動で負ける気はない。
 しかし敵対者の息のかかった者に住民として入り込まれたなら、内側から切り崩されたあげくに既存領主により乗っ取られかねない。しかし移民を受け入れないという手は使えない。依頼人の名を語り継ぐ者がいなければ、生涯をかけてつくりあげた財産を使った意味が無くなるからだ。
 そして、これは依頼人にとって興味がないことではあるが、乗っ取られる過程で血が流れ流通が停滞し弱い立場の者が大勢泣くのは確実だ。
「全ての情報を開拓者の皆様方にお届けします」
 うなずきで答えると、依頼人は目を閉じて眠りにつく。
 寿命は残り少ない。己の墓所である城にたどりつくまで少しでも体力を温存する必要があった。

●依頼
 天儀開拓者ギルドの片隅に新たな依頼票が張り出された。
 内容は開拓事業の推進。
 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と依頼人の全資産の扱いを任されることになる。


●依頼票
 城塞都市の状況は以下のようになっています。
 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。滅になると開拓事業が破綻します。

 人口:無 数名の農業技術者が骨を埋めるつもりで住み始めました。
 環境:優 人が少なく水が豊富です。商業施設等は存在しません。
 治安:良 滞在者が増加しつつあるため徐々に低下中です。
 防衛:微 城壁は建築途中ですが少しは機能しています。
 戦力:微 開拓者抜きで、小規模なアヤカシの襲撃を城壁で辛うじて防げます。
 農業:無 何が育つかの特定だけは完了しています。
 収入:微 余った水を外から来た商人に売っています。
 評判:微 周辺領主からあまり良く思われてはいません。
 資金:無 城を完成させるまでの費用は支払い済みですが、他は最低限の運営費しか残っていません。

・新たにとりうる行動
 複数の行動を行っても全く問題はありません。ただしその場合、個々の描写が薄くなったり個々の行動の成功率が低下する可能性があります。

行動:地下洞窟のアヤカシ討伐
効果:成功すれば水源が安全になります。
詳細:水源の方向へ向かう地下空洞が存在し、その奥で開拓者により鬼風のアヤカシが発見されました。数は特定できていません。地下空洞は非常に脆く、追い詰められたアヤカシが崩落を引き起こす目的で暴れると地下空洞が崩壊し水源に深刻な悪影響がでる可能性があります。幸いなことにアヤカシは発見されたことに気付いていません。地下空洞には人1人がぎりぎりで通過できる程度の広さしかない場所や、参加開拓者全員が横一列になって戦える場所などが存在します。

行動:農地の大規模拡張
効果:農業が上昇。資金が低下。
詳細:資金を投入して農地を拡張速度を上昇させます。

行動:城外で捜索を行いアヤカシを攻撃
効果:成功すれば収入と評判がわずかに上昇。
詳細:城壁の外でアヤカシを探しだし討伐します。手頃な集団はこれまで参加した開拓者が討伐したため、城外で捜索を行った場合、見つかるのは小鬼程度の雑魚か下級アヤカシとしては最上位に近いアヤカシの大集団になる可能性が高いです。アヤカシを倒せば良い評判が得られ、新たな商売人や有望な移住希望者が現れます。

行動:城壁内部の設計変更
効果:不定
詳細:城壁の内側には建設が予定されていてもまだ建設がはじまっていない建物が多数存在します。設計の変更を行うことで、新たに資金を使うことなく新しい施設を建設できます。

行動:流民の受け入れ
効果:人口が上昇。収入が低下。治安が低下。
詳細:背後の確認や職業訓練が必要になるので負担は大きいです。ただし人口が増えれば防衛、戦力、農業、収入、評判が上昇し易くなります。準備のみを行い次回以降受け入れることも可能です。

行動:その他
効果:不定
詳細:商売、進行中の行動への協力等、開拓事業に良い影響を与える可能性のある行動であればどのような行動をしても構いません。対外交渉は依頼人を説得しないと行えません。


・現在進行中の行動
 依頼人に雇われた者達が実行中の行動です。開拓者は中止させることも変更させることもできます。

行動:城壁工事。
効果:防衛が上昇。
詳細:規模が極めて大きく、現時点でも外部からの攻撃に対しある程度効果があります。

行動:城壁防衛
効果:失敗すれば開拓事業全体が後退します。
詳細:開拓者の援護が無い場合、成功しても負傷者または戦死者が発生します。

行動:治安維持
効果:治安の低下を抑えます。
詳細:警備員が城壁と外部に通じる道を警戒中です。練度は高くありません。

行動:流民流入阻止
効果:評判がわずかに低下します。
詳細:城壁内に入り込もうとする流民を警備員が阻止して追い出しています。

行動:環境整備
効果:環境の低下をわずかに抑えます。
詳細:排泄物の処理だけは行われています。

行動:農地の拡張
効果:農業がわずかに上昇します。
詳細:既に支払われた資金の枠内で拡張中です。

行動:依頼人の移住
効果:現段階で依頼人が死亡すると次回の依頼はありません。
詳細:依頼人が正体を隠して城に向かっています。依頼開始時点の所在地は、砂漠の外縁部です。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
将門(ib1770
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
エラト(ib5623
17歳・女・吟
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文

●最終攻撃
 抑えた呼吸の音どころか隣にいる仲間の鼓動すら聞こえる。
 練力を使用することで聴力を拡張したエラト(ib5623)は、雑多な音を掻き分けるようにして洞窟の奥から響いてくるはずの音を探していた。
「ルオウさん。申し訳ないですが」
「灯りも消した方が良いか?」
 ルオウ(ia2445)は足場の確認に使っていた棒を引っ込め立ち止まる。
 彼に付き従う白い猫又が問うようにエラトを見上げ一歩前に出ると、エラトは視線で足音が聞こえたことを伝えた。
「小休止をとりましょう。良いですか?」
 鳳珠(ib3369)が提案すると、エラトもルオウも猫又の雪も、音を立てずに肯定の意を示す。
 3人と1体は状況の変化に即座に対応できるよう立ったまま、それでもわずかに緊張を解いて水を口に含む。
 地上に出ればいくらでも飲める水ではあるが、ルオウと鳳珠がこの場に持ち込まなければ心身の疲労はさらに増していただろう。
「瘴索結界に反応はありません」
「申し訳ありません。外から吹き込む風の音が反響し、遠方の音までは聞こえません」
 冷たい水で意識をはっきりさせた女性陣が報告する。
「んー、前アヤカシをやりすごした場所までは行こう。あとは慎重に臨機応変で」
 なお、3人とも声はほとんど出していない。ほぼ身振り手振りによる意思疎通を行っていた。
 白の猫又は満足そうにうなずき、女性陣も無言のまま賛成する。
 気配と音を出さずに移動するのは非常に疲れる。地上なら1分もかからず踏破可能な距離を数時間かけて安全を確認しつつ踏み越え、彼等は人工の地形が存在する場所に足を踏み入れた。
 作りは雑だが知性は感じられる段差を視界の隅で捉えながら、ルオウは今後どうしたものかと考える。
 将来に禍根を残さぬためには地下洞窟のアヤカシを狩り尽くし、その上でエラトに祓って貰うしか無いのだがそれが難しい。慎重にことを進めるしかないかと思いつつ照明を掲げたとき、何かが弱い灯りを反射した。
 意識して呼吸を平静に保ちながら照明をそれに向けると、驚愕に見開かれた鬼の瞳が、洞窟の数十メートル奥できらりと光った。
 人の世に苦痛と破滅をもたらすアヤカシも。
 アヤカシにとっての災厄の化身たる熟練開拓者達も。
 一瞬だけではあるが完全に惚けていた。
 しかし歴戦を経た開拓者達は呆然つつも反射的に体を動かす。
 先頭をいくのは開拓者ではなく雪。
 肉球のついた前脚でぺしんぺしんと地面を叩いて罠の有無を確認しつつ器用に走る。
 それに続くのはルオウ。雪の確認しきれなかった個所を、岩ごと貫く勢いで棒を突き込み確認しつつ駆ける。棒を持つのと逆の手には弾丸装填済みの拳銃が握られ、未だ呆然としているアヤカシを射程内におさめると同時に引き金を引く。
 短銃とは思えぬほど強烈な勢いで放たれた弾丸は、鬼の額を割りおびただしい血を噴き出させる。それでようやく意識を取り戻したらしく、鬼は不気味なほど堅そうな手のひらを広げて振りかざす。
 が、真正面から叩き付けられた魔性の曲に意識を奪われうつぶせに倒れてしまう。堅い岩肌にぶつかって意識を取り戻すものの、アヤカシは体を起こす前に首筋に強烈な痛みを感じて完全に意識が途絶える。
「ことここに至っては被害を度外視して攻めるしかありません」
 杖による全力攻撃で鬼の頸椎を砕いた鳳珠は、異様な冷静さと共に断言した。
「使える術の射程から考えて、俺、エラト、鳳珠の順だな」
 ルオウは再装填の時間を惜しんで短銃から脇差に持ち替え、ほとんど無造作に駆け出す。閉鎖空間に足音が響き、直線が終わり折れ曲がる地下空洞の奥から驚愕と敵意の気配が届く。
 崩落の危険など無視してルオウが咆哮し、エラトが強制的な眠りに誘う曲を奏でる。
 天井と壁から小石がいくつも落ち、洞窟全体が不気味な鳴動を始めていた。
 鳳珠は頭上から降り注ぐようになった細かな砂を無視し、目を見開いたままアヤカシの動きを追う。
「前方に2。右…真横やや下方に1。右のは動いています」
 鳳珠の声に緊張が混じる。
 右側にあるのは岩肌だけであり、前に続く洞窟を進んでも右側のアヤカシのもとにたどり着けるかどうか分からなかった。
「坊! 割れ目があるぞ!」
「ちっ…。前のは任せた」
 ルオウの全身の筋肉がふくれあがり、全身の力を亀裂に叩き込んで幅数十センチの岩を砕き斜め下方へと通じる穴をみつける。頭上から石どころか岩まで落ちてくるが気にしている余裕は無い。
 彼の横をエラトと鳳珠が駆け抜けていく。
 2人は振り返らない。
 アヤカシを倒しても生きて帰ることができるとは限らないが、倒さなければ水源ごと道連れにされかねない以上前進するしか道はない。
 強引にルオウが押し広げた穴を通った猫又が不定形の大型アヤカシに止めを刺し、ルオウの咆哮に釣られ洞窟の行き止まりから駆けてきた鬼をエラトが惑わせ鳳珠が守りを考えない全力の一撃で首を砕く。
 大規模な崩落が発生したのは、それから数秒後のことであった。

●九死に一生
 大量の落石により極めて狭くなった通路を、雪が必死に移動していた。
「坊ー。生きとるかー。鳳珠殿、エラト殿も無事であれば応えて下されー」
 胸を押しつぶしかねない恐怖に耐えながら、雪は努めて明るく呼びかける。永遠にも思える数秒の後、崩落後の不安定な空間を刺激しないよう小声で返事がくる。
「結界にアヤカシの反応はありません」
「不審な音もあ聞こえません。…あの、ルオウさんは無事でしょうか?」
「生きてるぞー。一応もう少しで穴から出られる。血が止まらないんで閃癒を頼む…」
 持ち前の豪運が発揮されたのか、あるいは精霊の加護か。
 3人と1体はぼろぼろの状態ではあるが生き残っていた。
 もっともその結果を引き寄せた最大の原因は、崩落発生までの数秒でかなりの距離を逆走できた彼等の身体能力だろう。
 土砂と岩を押しのけ、酷使により力の入らぬ体を酷使して地上に通じる大穴をよじ登るまで、丸3日かかったらしい。

●守備隊設立
 巨大な城壁の外。
 砂塵が舞う荒野で一つの組織が産声をあげていた。
「わかってるとは思うがこの砂漠じゃ流れ者だろうとなんだろうと各々が出来る事で助け合わねえと生きていけねえ」
 腹に一物抱えた初老の剣使いから紅顔の少年銃使いまで、集められた面々は雑多であった。
「お前らはあのクソ憎たらしいアヤカシ共を速やかに叩き出す事で、この偉大な城の平和を守るなんて大仕事を任されるワケだ」
 偉大の部分に揶揄と諧謔が含まれていることに気づき、食えない男達はにやりと口元を歪める。
「これからの働き次第でこの地獄の入口みてえだった場所に人も金も飯も溢れかえるだろう。酒も女もわんさかだ! 気合い入れてかかれよ!」
 応と答える声からは、むせるほど濃い欲望が感じられた。

●移民管理局
 城塞都市で現在最も人口密度が高いのは、工事現場でも宿舎でもなく城門の前であった。
 流民、否、移民の受け入れを開始したとの報は瞬く間に広範囲に広がり、受け入れ初日は数百名の作業員のうちの十と数名だった希望者が、今では外から来た希望者だけでも一日百名を越えていた。
 移民受け入れの条件は、通常では考えられないほど少ない。
 1つ。都市内の法を守ること。
 2つ。虚偽の申告はしない事。
 3つ。今までの縁を切りこの都市を故郷とすること。
 3つめの条件が厳しいと感じる者もいるだろうが、真実困り果てているなら一族郎党ごと移住を申請するか、余裕のある親族を頼れば済むことだ。
 これでは助けを求める者全てに手を差し伸べるができないのは分かっている。しかし予算的にもこれが限界なのだ。
 玲璃(ia1114)は内心の葛藤を押し殺して笑顔を浮かべ、依頼人の部下による確認を通過した新たな民の手当を行っていた。
「お助け下さい! 私達に行き場はどこにもないんです。せめて、せめてこの子だけでもっ」
 城壁内で手当を行っていた玲璃の耳に女性の悲痛な叫びが届く。
 玲璃は後のことを羽妖精の睦に任せて対応に出ようとしたが、あることを耳打ちされ足が止まってしまう。
「隣接する領主の部下の子飼いの女です。何人か子供を儲けているはずですが、記録にある子供の年齢と現在連れている子供の年齢が大幅に食い違っています。子供の栄養状態が劣悪なことから考えると、使い捨て目的で雇った子供でしょう」
 理解した瞬間、腹の底からわき上がってきたのは怒りではなく悲しみだった。
「なるほど。よぉく分かりました。皆さん! スレイダンという男は水源を私物化して己の欲望のみを満たすつもりです。少しでも気に入らない者を拒絶するのが証拠です。見てください! あの泣いている子供を」
 1分もたたずに新たに響いてきたのは頼りがいのある壮年の男だ。耳に心地よく思わず引き込まれてしまいそうな魅力があるが、注意深い者なら違和感を感じることができただろう。
「この男ですが、申告した経歴に違和感を感じたため私の一存で跳ねました。どうやら正解だったようですね。身振りや声の抑揚が洗練されすぎています。こちらの評判を落とす形で騒ぎを起こすため雇われたのでしょう」
 煽動者に同調する者が現れだしたらしく、表の騒ぎは徐々に大きくなっていっている。沈静化の方策は思い浮かばないがこのままにしてはおけない。玲璃は覚悟を決め表に出、丁度そのとき現場に到着した一団を目にすることになった。
「これより対アヤカシを想定した訓練を開始する。背後にいるのは税金を納めて下さる住民だと思え。1人でも傷をつけたら首が飛ぶぞ。気合いを入れろ!」
 過酷な訓練を強いられ、連日疲労で気絶するまで追い込まれている守備隊は、殺意をまき散らしながらも見事な連携を見せつつその場に展開する。
 殺意の向く先はアルバルク(ib6635)と、その朋友である羽妖精だ。
「ようやく構えも様になってきたじゃねぇか。アヤカシ役はいつも通りリプスだ」
「がおー」
 軽装の羽妖精が刀を振り上げ、本人は威嚇のつもりらしい声を出す。
 見た目は愛らしいが、ある程度見る目がある者ならば彼女が並みの志体持ちを越える力量を持つことにはすぐ気づけるだろう。
 落伍者がほとんどとはいえ一応志体持ちである守備隊は全員初日で気づいた。初見で気づかなかった者も、初日の訓練が終わる頃には体で理解させられていた。
「今日は実弾使用を許可する。いつも通り誤射は厳罰だ。気を抜かずにいけ!」
「…って、うぇー?」
 嬉々として実弾の装填を開始する守備隊の面々に気づき、リプスは両手でぽかぽか叩いて抗議する。もちろんアルバルクが命令の撤回などするはずもない。
 守備隊はアルバルクを巻き込むつもりで半包囲を仕掛けつつ攻撃を加える。しかしアルバルク主従はじゃれあいを中断して銃弾の雨を平然と回避し、続く抜刀突撃はその場から飛び退くことで回避する。
「住むならこいつらが守ってくれるぜ?」
 突然の活劇に呆気にとられる移住希望者に獰猛な笑みを浮かべてから、アルバルクは逃げだそうとした煽動者を確保し依頼人の部下に引き渡すのであった。
「うぃーっす。援護に来たぜ」
 肩をこきこき鳴らしながらアルバルクが城門をくぐる。
「あんなのは気にしない方がいいぜ。守備隊に入りたいって外から来た奴なんて9割方紐付きだったからよ。お陰で数が足りなくて5人1組で2つ組を作ることさえできねぇんだから」
「えぇ」
 何かを振り払うように声を絞り出してから、玲璃は偽りの親に放置された子供を招き入れる。
「申請書への記入は後で構いません。移住を望みますか?」
 虚ろな瞳に、じわりと涙が浮かんだ。

●農業
 城壁の内側の一部に広がる農場で、数家族が総出で苗を植えていた。種類は嶽御前(ib7951)が推した豆だ。順調にいけば春に収穫できるはずである。
「すみません。これどこに置きましょう」
 膨大な量の肥えた土が積まれた巨大な台車を停止させ、眼帯をつけた美貌の狐獣人が問いかける。
「畑の端に置いて下さい。水やりまで終わらせたらとりかかりますので」
 移住前は名の知れた学者だった男が、家族に指示を出しながら返答する。
「あの…」
 台車を軽々と引きながら、ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)は前々から疑問に思っていたことを口にした。
「あちらのみなさんの助けを借りないのですか?」
 ネプの視線の先では、朽葉・生(ib2229)が石壁を量産し新たな住民用の居住区を拡張している真っ最中である。このままでは折角用意した大量の農具が無駄になりかねないので、ネプとしては是非聞いておきたい内容だった。
「技術の無い者には任せられません。故意でなくても手順を1つ間違うだけで畑1つくらい簡単に全滅しますから」
 新規参入者から己の職を守るための発言ではなく、純粋に専門家としての返答だ。
「ネプ殿、すまぬが洞窟入り口に向かってくれ。怪我人が出たらしい」
 水源の防衛を行った結果、体力練力共に消耗が激しい嶽御前がやってくる。地下に同行できなかったエラトの駿龍アギオンや鳳珠の霊騎務が手伝ってくれ、最後には将門(ib1770)とその騎龍が援護してくれたものの、基本的に単独で行うには厳しすぎる仕事だったようだ。
「分かりました!」
 ネプが飛び出していく。城壁の中では、人の数は増えても人材の数は変わらなかった。

●出迎え
「どこの主要街道よ」
 城門から砂漠の外まで切れ目無く続く人の列を横目で眺めながら、鴇ノ宮風葉(ia0799)はこの日3往復目の巡回を行ってた。
「嬢、人が広がりすぎていて狐の早耳では索敵範囲が足りぬ」
 風葉にあわせて速度を落としながら、三門屋つねきちが深刻な口調で報告する。
「ええいもう…。探しているのにアヤカシは出ないわ愛想を振りまかないといけないわでストレスがたまる」
 小さな子供に手を振り返してやりながら、風葉は笑顔のまま小声で愚痴っていた。
「お嬢、自業自得って知っとるか」
 自ら希望してこの場を担当した以上、仕事が増えてもやるしかない。
 この地において開拓者は、依頼人兼領主を除けば最大の権力者として認識されている。影響力が大きいので外面を取り繕わざるを得ない場面が多く、さらに仕事が増えていく。
「分かって…来た!」
 都市の方角を振り返る。数百メートル先でアヤカシが発見されたらしく、隊列が逆側に大きくねじ曲がりつつある。
 風葉は嬉々として駆け出そうとするが、作りかけの城壁の上で人影が動き、城壁の内側から何かが飛び出す方が一瞬だけ早かった。
 将門が組織した連絡網が順調に機能しているらしく、風葉が向かうより早く鷲獅鳥が飛来し、生が吹雪を地上に叩き付けて小型のアヤカシを一気に殲滅する。
 生は瘴気が霧散し終わるのを待たず、鷲獅鳥の司を急かして城壁内に戻っていく。新規住民の数が予想以上に増えすぎているため、宿舎地区の拡張に注力せざるを得ないのだ。
「あー、はいはいどいてー。全部倒せたかどうか確認するから」
 やる気なさげに声をかけながら進んでいくと、奇妙なほど特徴の感じられない老人と一瞬だけ目があう。
「あ」
「ふむ」
 聞いた情報より頬がこけ雰囲気が凄まじく穏和になっているが、依頼人本人だ。意識を切り替えて周囲を観察すると、巧妙に護衛を行っていると思われる一見平凡な通行人が数人見つかった。
「これ紹介状」
 玲璃から預かってきた紹介状を投げ渡すと、護衛が伸ばした手がつかみ取り依頼人にのみ見せる。
「なんか必要みたいだし、許可だけくれない?」
 言葉を省いているが意図は通じる。依頼人が与えていない権限は対外交渉に関するものくらいだからだ。
「だいじょーぶ、悪いようにはしないって! あたしは此処を世界一の城砦都市にして、建設の立役者として歴史に名を残し、世界征服の礎にすんのよ! …だから、手は抜かない。息抜きはするけど」
 説得というにはあまりに無茶な言葉だ。
 周囲の通行人は何が起こっているが分からず騒ぎ始める。
 しかし2人は互いの底を計るため、他の全てを無視して無言で対峙を続けていた。
 依頼人は感情の動きを感じさせない目で風葉を観察し終え、部下から渡されたペンで紹介状の裏に十数行の文字列を書き記す。
 一見無意味な文字の並びにしか見えない。しかし風葉の優れた知性は暗号であることを見逃さず、短時間で解読を終え情報を読み取った。
「阿呆かあんたはーっ!」
 風葉の口から怒声が飛び出し、この地の領主に強烈なツッコミが炸裂した。

●不足
「足りないのですか?」
 建設を進める手を休めず、生は建設を指揮する現場監督から様々な話しを聞いていた。
「住居の方が生様に最終日まで現場を担当していただければなんとか。問題は食糧です。今の所備蓄はありますが農地を広げないことには輸入超過になります」」
「足りないのは治安関係もですよ。作業員は後領主様の恐ろしさを叩き込んでから連れてきているからさほど手がかからないんですがね。そういうの無しで入ってきた連中だとどうにも」
 深夜まで行われた工事の間、明るい話題は全くでなかった。

●敵が9割で残りが中立
 現在最も守りが堅い宿舎の一室で、都市の未来が決まった。
「任せる」
 将門が作成した都市内法の案に依頼人が許可を出す。
「このぺらぺら一枚が遠い未来までの街と領地の形を決めるって訳ね」
 依頼人の背後から覗き込んでいた風葉が興味深そうにつぶやく。
 作成者が元天儀貴族なので細かな部分が天儀風ではあるが、全体として見ればアル=カマルの常識内におさまっており過酷ではないが甘くもなく実用に耐えるものだ。
「細則や運用法の取り決めに実際に動かすための官僚や現場人員の確保と課題は山積だがな」
 どんな法でも運用次第でこの世の地獄を演出できることを知る将門は、達成感を感じさせない口調で冷静に応える。
「ま、その辺は詳しそうなのに任せるとして」
 依頼人の前に回り込んだ風葉の目に危険なものが宿る。
「全方向に喧嘩売ってまわるってあんた、いったい何考えてんのよ」
 この領地に隣接する勢力は、大小を問わず全てこの男の敵になっていた。
 理由はいくつも挙げることができるが、最大にして根本の理由は金の力であらゆる慣習を無視したことだ。
 その結果、流民同然の男が誰に借りを作ることもなく領地を手に入れた訳だが…。
「意図は分かる。支配の根幹は食料生産と兵力。これがなけりゃいくら評判が良くても綺麗なお題目掲げててもたいしたことはできないかもしれない。けどね」
 根幹以外の全部を無視してどーするのよ。
 風葉の言葉には呆れよりも相手を案じる感情が色濃く現れていた。
「それがわしの限界だったということだ」
 依頼人は気負いなく言葉を返す。自らの終わりが見える前なら怒ったのかもしれない。だが目的達成の意味でも終わりが見えてきた今では、余裕を以て受け止めることがだきた。
「城壁と中身のどちらが欠けても貴様の望む万劫末代まで名を語り継ぐ舞台装置としての城は完成しない。精々有効な依頼を出すことだな」
 将門の言葉に、ナーマ・スレイダンは心底愉快そうな笑みを浮かべるのであった。