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■オープニング本文 浪士組には凄腕が揃っている。 一太刀で鬼を滅ぼし単身でアヤカシの群を駆逐する彼等に憧れるものは多い。しかし憧れても力が身につく訳ではないのが現実である。 土を盛り的を固定して射撃場を設け、浪士組は数日前から射撃訓練を行っていた。顔を出した主要メンバーは弓や銃を巧みに扱い凄さを見せつけたのだが、それ以外のメンバーの中にはろくに扱えない者が無視できない数存在した。銃を撃つにも矢を放つにも金がかかる。貧乏暮らしが長かった者の中には、かつて得意だったものの今では錆び付き素人以下になってしまった者さえいたのだ。 訓練場の担当だった戸塚小枝(iz0247)はとにかく数多く撃たせることで上達させようとしていた。のだが、その形式の訓練を開始してすぐ待ったがかかった。 「予算」 絞り出すような声で命令を下された小枝は、表情を変えないまま途方に暮れた。 素人、ただし剣は使える上少数ではあるが志体持ちが含まれた素人達を、物資を出来る限り使わず鍛え上げるというのは小枝の能力の限界を超えていた。 浪士組の中には教育を担当できる者もいることはいるのだが、そんな有為な人材はより重要度の高い仕事に忙殺されている。 小枝は久々にため息をついてから、開拓者ギルドの門を叩くのだった。 ●射撃訓練の教官募集中 仕事内容は非熟練者への指導、および効果的な訓練メニューの作成。 期間は3日間で通勤可。食事は食材のみの提供。 担当することになるのは熱意はあっても射撃の才が無い者達です。参加の際はお覚悟を。 |
■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
山羊座(ib6903)
23歳・男・騎
射手座(ib6937)
24歳・男・弓
魚座(ib7012)
22歳・男・魔
ルカ・ジョルジェット(ib8687)
23歳・男・砲
双子座(ib9048)
25歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●罪作りな男達 山羊座(ib6903)。 引き締まった長身に冷厳な相貌。観察眼に乏しい者なら己の力に酔った武人とみてしまうかもしれないが、双眸の奥には破壊衝動と殺意を大きく上回る理性が見える。 魚座(ib7012)。 洒脱な色男という概念を現実にしたような美形だ。しかし細部までつぶさに観察すると、先述した一見無愛想男と方向性こそ異なるが同程度の高水準で鍛えられている。もっとも、垢抜けた雰囲気と洗練された所作のせいでそのことに気づける者は少ないだろう。 射手座(ib6937)。 洗練という意味では射手座すら上回り、生来の造形美をたゆまぬ努力で磨き抜いた美貌は宝物庫に秘蔵されるべき美術品と表しても過言ではない。 ルカ・ジョルジェット(ib8687)。 星座達とは対照的な灰汁の強さがある男だ。奔放に己のスタイルを貫き快楽を追求するさまは、危険な魅力となってご婦人方を惑わせる。 「うわー」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は満面の笑みを浮かべ、彼等を案内してきた双子座(ib9048)に対し親指をたてた。 非常に目に美味しいものに接した結果、リィムナのテンションは天井知らずに上がっていく。 「シニョリーナ・リィムナ。ミーを混ぜないでくれないか〜」 ルカは陽気に肩をすくめる。星座達への隔意はないものの、目と目をかわすだけで互いの意図を把握するほど親しい連中に混じるのはできれば避けたかった。 「はい! わかりました!」 リィムナは元気に返事をしてから、軽い足音をたてながら射撃場に向かう。 「ミーはやっぱり射撃の指導をしようかな〜?」 ルカの視線の先ではリィムナが経費削減のため的を自作を始めていた。和紙ではなく藁半紙に墨で目印を描きいれ、使い古した藁を紐で縛って標的用わら人形を仕上げていっているようだ。 「訓練に使う銃はこれだが…」 ここに来る途中で戸塚小枝(iz0247)に渡された大箱を下ろしてから開き、双子座は表情を渋くする。 「へ〜、なかなか実践的だ」 箱を覗き込んだルカが口笛を吹く。攻撃性能は凡庸だが頑丈で整備が容易な拳銃が十数丁と、持ち運びに優れた小型の砲が1門。 「実践的すぎる気もするがな」 教材にできるかどうか確かめるため、慣れた手つきで分解から再構築を行っていく。 「悪い銃ではないが癖が強い。このままでは悪い癖がついてしまうことになるが…」 再構築を終え、双子座は己の腰にある銃にちらりと目を向けた。 「我がコレではな…。志体持ちなら貸し出しても辛うじて使えるかもしれんが」 「ま、使えないなら弓の練習をしてもらえば良いさ。山羊座も準備してきているしね」 射手座は口を挟んでにこりと微笑む。 彼の背後では、山羊座が大量の初心者用弓を敷物の上に下ろし、無言のまま弓の状態を確認していた。 ●悲しい男のさが 「男と分かっているのに何でっ」 「訓練と食事が無料ってだけで価値があるからいいんだよ。ついて行けばいいんだよっ」 「いっそ男でもいいかななんて」 魚座の宣伝にあっさりとひかかった隊士達は、非番になると同時に教えられた場所に向かっていた。 「思ったより立派なところだな」 訓練場が視界に入ると隊士達から浮ついたところが消える。 小さな天幕を除けば盛り土しか無い場所ではあるが、各種装備は射撃する場所から離され、盛大に誤射しても危険は少ない。 「銃の訓練希望か?」 隊士達を鋭い目つきの男が迎える。 内心トレーナー魂が燃え盛っている山羊座なのだが、彼と初めて出会う隊士達には気づくのは無理だった。この場に魚座がいればフォローも期待できただろうが、魚座は食事の用意に集中しているのだ。 「はっ、よろしくお願いいたします」 隊士達は直立不動で返事を行った。 山羊座は内心「もうちょっとフレンドリーでも」と考えながら、厳しくも頼りがいのある態度を崩さず銃の訓練が行われている場所に彼等を案内していった。 ●銃 リィムナは自身の身長を超える大きさの鳥銃を器用に構え、姿勢の調整と照準の合わせ方を分かり易く示す。 これまで銃に縁が無かった浪士組隊士達は、ああでもないこうでもないと言い合いながらリィムナを見本に模擬銃を構えようとしていた。 「いきますっ」 小さな指がそっと引き金を引くと、火縄が火薬に触れ爆発が生じる。 銃口から爆音と共に飛び出した銃弾は、墨で塗られた的の中央を貫通し藁束の半ばまで埋まったところで止まる。 「おおー」 期せずして拍手が沸き起こる。 「参ったな」 彼等の背後で見学をしていた射手座が己のほほを掻く。 一を聞いて十を知ることのできる彼は、訓練らしい訓練を行わないで戦場を通じて技能を鍛え上げてきた。故に、目立った才を持たない者に対する教育は苦手であった。 「ま、適材適所さ〜。 ミーがお勉強を担当するからお仲間と一緒にフォローは頼むよ」 ルカは射手座に合図をしてから、初めて触った銃に戸惑う隊士達の元へと向かう。 「シニョーレ、体勢が崩れてる。剣の方は使えるんだろ〜? 基本は同じだって」 「ん、おおっ、つまり…」 飲み込みの早い者はすぐに銃に慣れていく。しかしそうでない者も多い。 「そちらのシニョーレは腕に力が入りすぎ…ああ、それは抜きすぎ」 ルカは大型のマスケットを手に取り、自ら構えた上で説明を開始する。 引き金を引いた際に不必要な力がかかって狙いがずれる事例や、体が静止していても動いてしまう筋肉を考慮した構えと最適な力の入れ方、重力や風の読み方などを筋道を立てて理路整然と語る。 「なるほど」 隊士達の後ろで説明を聞き双子座は深くうなずいていた。知っている知識も多かったが開拓者として場数を重ねた砲術士の話は非常に興味深く、これまでの経験が効率良く自らの血肉になっていく気がする。 隊士の一部は首をかしげている。ルカの説明を聞いても理解できなかったらしい。 「む、分からんのか? 後で分かるまで説明してやるが、まずは聞いて覚えろ。我は嘘は言わん。射撃を繰り返し技術が身につくにつれ自然と理解できるようになる」 後ろから口をはさんだ双子座の言葉を聞き、ルカはほうと感心し片眉をあげる。 「ミーの授業はこれで終わりさ〜」 「ありがとうございます。次は銃を装備したままでの行軍から全力疾走だ! 銃を撃つための筋肉が足りぬ奴は筋トレも追加するぞ。着いてこい!」 厳しくも熱意に満ちた双子座の言葉に、隊士達は雄叫びで応えるのであった。 ●弓 二日目の参加隊士の数は初日の数倍に達していた。 準備も教育も負担が大きくなってはいたが、山羊座は表情を変えず淡々と教導を行っている。 十数人で横に並んだ男達が、矢をつがえないまま弓を構え、狙いをつけ、弓を降ろす動作を繰り返していた。 「石井、重心が低すぎる。下道は右足を半歩前に。関原は上体が反りすぎだ。上屋は…」 山羊座の指摘には嫌みは無いが容赦も無く、隊士達の精神を圧殺する勢いで注文をつけていく。だが無理をさせた甲斐はあったようで、2日目の隊士の構えは格段に良くなり、今日が初めての隊士も始めた頃とは比較にならないほど良くなっている。 「進んでいるな」 射手座が顔を見せると、山羊座はじいっと射手座を凝視してから表情を変えずに何度もうなずく。 「どうした?」 「いや。お前が見本とは心底意外だなと思ってな」 山羊座は真面目な顔で冗談を飛ばす。 彼にとって最も見慣れた弓使いは射手座であり、目を閉じていても容易に彼の美しいフォームを思い出すことが出来る。 「このやろう」 相方が冗談を言っていることは分かっているとはいえ、少しだけだが腹が立った射手座はこつりと山羊座の額に拳を当てた。 そして、爽やかな笑顔を浮かべながら弓に集中する隊士達に近づく。 「大分良くなってる。それなら今日は的中を狙えそうだな」 心身の疲労で集中力を失いつつあった男が、的確に褒められたことでやる気を取り戻す。 「鞭だけではいかんぞ?」 「ぬう」 小声でからかう射手座に、山羊座は表情はそのままに声だけで無念をあらわすのだった。 ●食 「できたよっ」 「できたか」 食事ができたことを告げに来たリィムナに対し、双子座は偉そうな態度と声でうなずいた。 「こら」 こつんと双子座の頭を叩いてから、魚座はリィムナに対し頭を下げた。 「ごめんね。後で反省させておくから。一応本人的には悪気はないらしいから嫌わないでくれると嬉しい」 ぐりぐりと双子座の頭を押さえつけながら神妙に語る。 「いいよ、気にしてないしっ」 双子座から反省の雰囲気を感じ取り、リィムナは笑顔で許す。 リィムナのまわりでは訓練を中断した隊士達が片付けを始めている。 しかし中には熱中しすぎて、あるいは間近で響く銃声によりリィムナの声を聞き逃してしまった者もいる。しかしリィムナは表情を曇らせるどころか笑みを濃くし、今にも踊り出しそうなほど上機嫌になる。 銃を構える隊士の姿勢が銃をうつもののそれになっている。ここ数日の教育と訓練の成果が形を為しているのだ。 「よくできたひとにはお菓子とハグをプレゼントだよっ!」 歓声をあげながら飛びつくリィムナに気づき、隊士達は慌てながらも腹の底からわき上がる喜びに笑顔を浮かべた。 ●その後 大きな成果を少量の矢弾と資材で実現させた開拓者に対し、浪士組と参加した大勢の隊士達から感謝の言葉がおくられた。 最終日には幹部である小枝が礼の言葉を述べに来た。礼儀正しく感謝の言葉を述べる小枝から、開拓者はわずかではあるが不気味な気配じみたものを感じたらしい。 |