【浪志】いめえじあっぷ
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/13 03:21



■オープニング本文

 基本的に評判の良い浪士組ではあるが例外は存在する。
 森藍可。
 良い意味でも悪い意味でも行動力に溢れる彼女は、実績と味方を得る代わりに悪評と敵を作る傾向がある。
 悪評に怖じ気づく藍可ではないが、部下の全てが強い心を持っている訳ではない。そんな部下の1人が、地味な活動を行おうとしていた。

●刀折れ矢尽きる
 頭巾で顔を隠して開拓者ギルドギルドにやって来た中戸採蔵(iz0233)は、控えめに表現して憔悴しきっていた。
 その日受付を担当していた係員は、緊急の依頼を予測し採蔵に駆け寄った。
「規模と場所を教えて下さい。依頼料については落ち着いてからで構いません」
「は?」
 頬がこけ、濃いくまが浮かんだ顔が不審そうに歪められる。
「アヤカシ退治ではないのですか?」
「違いま…あー、退治して片付く案件なら良かったんですがね」
 採蔵は虚ろな笑い声をあげる。
 精神的に極限まで追い詰められているらしく、酷く剣呑な雰囲気をまき散らしていた。
「ちょいと相談にのっていただきたいんで。奥の部屋を使わせていただけますかい?」
 係員は顔をひきつらせながら採蔵を奥へと導くのだった。

●無茶ふり
 大都市の近郊の見回りを行い、華麗に、力強く、きゃーあれが藍可様の兵よー、と言われるようなして欲しい。
 駆鎧や龍を含む朋友の使用許可はとってあるので、徹底的に派手にやるように。
 裏側の工作はできても真っ当な活動は苦手な採蔵の選択は、開拓者に対する事実上の丸投げであった。


■参加者一覧
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
九条 炮(ib5409
12歳・女・砲
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲


■リプレイ本文

●嫌われ者
 朝日が半ばほど姿を現した頃、数人の農夫達が都へと続く道を足早に歩いていた。
 背中にあるのは成人男性が1人入りそうな大型の籠で、その中には今朝収穫したばかりの新鮮な野菜がある。
 運ぶ先は都の料亭だ。
 高い質と鮮度を過酷なまでに要求してくる取引相手ではあるが買い取り価格は高い。男達は真剣な表情で一切の無駄口を叩かず足だけを動かしていく。
「おい!」
 唐突に最後尾の男が声をあげる。
「黙って足を…」
 先頭を歩いていた村長がたしなめようとする。しかし最後尾の男が次の言葉を口にした瞬間、それまでの寡黙さは消え去り恐怖に歪んだ表情を浮かべた。
「アヤカシだ! 距離は100歩、いやそれ以上? とにかく走れ! 逃げるんだ!」
 恐怖に飲まれ、損害を覚悟して荷物を捨てるという考えすら思い浮かばない。
 アヤカシに捕捉されれば抵抗もできずに全てを失う。
 家族を残して死ねないという思いが自らの命を惜しむ感情を生じさせ、火事場の馬鹿力を発揮させると同時に思考能力を低下させていた。
 背後に現れた鬼達は軽装で、なぶるように余裕をもって走っているのに徐々に距離が詰まってくる。
 半ば恐慌状態にある男達の前に武装した人間が現れたとき、彼等の顔に歓喜が浮かぶ。
「あっ、お侍様」
「た、助けてくだ」
 そこまで言った時点で歓喜が消える。
「げ、げぇっ」
「破落戸共の引率をしてた野郎じゃねぇか。もうおしまいだぁっ」
 心当たりがある中戸採蔵(iz0233)は反論もできず、ひきつった愛想笑いを浮かべながら男達を安全な場所へと誘導していった。

●暴れるもの
「言うことを聞きなさい」
 九条炮(ib5409)は手綱を強く引く。
 だが炮を乗せた鷲獅鳥は制止を振り切ろうと激しく首を振り、街道から距離をとろうとする。
「まったく」
 炮はレイダーを戦わせることを一時的に諦めることにした。
 殺気に近い気合いを叩きつけることで黙らせ、地上のアヤカシと人から距離をとらせることで興奮を抑える。
 距離が離れすぎたためにレイダーに身につけさせた宣伝用装備が役に立たなくなるが、現状のレイダーを人に近づけさせる訳にはいかない。
「避難は完了。始めるわ」
 採蔵がアヤカシの近くの人間を避難させたことを確認し、炮は魔槍砲の引き金を引く。
 漆黒の銃身から解き放たれた力が隊列を組んでいた小鬼のこめかみに命中し、頭蓋を貫通しても止まらず隊列の半ばを食らい尽くす。
 小鬼だったものは地面に倒れることもできずにただの瘴気に戻っていく。
 空の脅威にようやく気づいた小鬼達は恐慌状態に陥り逃げ散ろうとした。が、遅れてやって来た大型の鬼に叱咤されることで落ち着きを取り戻す。
 しかし既にアヤカシ達は追い詰められていた。
 強く響く笛の音に導かれ、暗き駆鎧が戦場となった街道に現れたのだ。
 関節部に埋め込まれた駆動用宝珠は人にあらざるものの目にも見え、顔面を隠す無貌の仮面は暗く冷たい気配を漂わす。
「来た! 来てくれた!」
「開拓者だぁっ!」
 犠牲者になりかけていた者達は歓呼の声で暗き駆鎧を迎えた。
 背中に大荷物を抱えた農夫達だけでなく、都からこちらに向かってきていた隊商や旅の者達もそれに加わっている。
 朝焼けを背にアヤカシに挑みかかるNachtSchwertは、心強い守護者として彼等の目に映っていた。
 駆鎧の足が跳ね上がり、密集して食い止めようとしていた小鬼の1体を打ち砕く。自らが作り上げた隙間にするりと入り込み、小鬼の陣をくぐり抜けて大柄な鬼の前に進み出る。
 鬼は自らより体格の良い駆鎧に対し、怒りの声と共に上段の構えから棍棒を叩きつける。
 棍棒と装甲がぶつかった音は奇妙なほど小さかった。接触の瞬間わずかに後退したNachtSchwertは、交差させた両腕で大根棒を受け止めつつ衝撃を逃げしていたのだ。
 再度の蹴りを鬼の腹に叩き込んで宙に舞わし、獣刀「鋸」を水平に振るい胸部の皮膚と肉を大きくえぐり取る。
 そして、鬼の足から鬼の意に反して力が抜け仰向けに倒れ込む。
 NachtSchwertがとどめを刺す寸前、新たな同属が現れる気配を感じた鬼は狂気と憎悪にまみれた笑みを浮かべるのだった。

●赤と黒の守り
 笛を吹いてアヤカシの位置を知らせていた菊池志郎(ia5584)は、深い藍と銀で彩られた滑空艇を操りながら少しだけ表情を動かした。
 街道を中心に次々とアヤカシが現れ始めたのだ。
 小鬼がほとんどで出現した場所も3、4つ程度ではあるが、都が近いため放置しておけばどれだけ被害が出るか分からない。
 志郎は滑空艇の出力を上げて高加速を行い、最も街道に近く、最も人間に近づいた小鬼に対し刃を振るう。
 20メートル以上の距離があったものの、刃から放たれたカマイタチは複数の小鬼の体を次々にえぐり足止めするだけでなく数を減らすことに成功する。
 だが敵の数は多い。
 上空の志郎に対する攻撃手段を持たないアヤカシ達は、都がある方向目指して駆け出した。
「瘴気の流れを読む助けにはなるか。無くても読むことはできるが」
 懐に黒い懐中時計をしまい、地上で待機していたからす(ia6525)は起動を完了した駆鎧に乗り込む。
 穏やかならぬ来歴を持つ駆鎧は、強大な力とそれ以上に強大な意志を持つ開拓者が乗り込むことで命を吹き込まれ力強く立ち上がる。
「さて鳥籠、制圧しようか」
 赤で縁取られた黒の駆鎧がばさりとマントをひるがえし、一切無駄の無い軌道でアヤカシ集団の前に立ちふさがる。
 突然の襲撃に驚きつつも陣形を崩さない小鬼を見てなかなか良い動きをすると思いながら、からすは巧みに小鬼の群れをすり抜けて指揮官である鬼へと襲いかかる。
 盾と剣を構えて高速で直進するという単純な攻め。
 いうまでもなく単純ではあっても粗雑ではなく、重量と速度が十分に乗った刃は豆腐を切り裂くように鬼の胸を貫き通した。
「この相手であれば生身の方が効率が良かったか」
 相手に聞こえないことを承知の上でこぼす。
 森藍可の良い意味での名声を広めるための装備抜きで戦うならそれで良かったのかもしれないが、宣伝と広告の文面と図案入りマントをまとうにはからすの体格が足りていなかった。
 黒と赤の駆鎧は鮮やかな手並みで鬼を葬ると、戦闘力は低くても数は多い小鬼を逃がさないようするための地道な戦闘を開始した。

●銃撃幻想
「う〜ん」
 アヤカシの群を目指し高速で駿龍を駆りながら、フィン・ファルスト(ib0979)は戦闘とは直接関係ないことを考えていた。
 採蔵とはこの依頼が初対面のはずなのだが、目のくまに見覚えがある気がするのだ。
 別のアヤカシの群を防ぐ駆鎧の背後で避難誘導を行う採蔵を再度ちらりと見たとき、フィンは唐突に思い出した。
「化甲虫と戦ったときのあれだ」
 昨年のことを思い出し納得する。
 そうしている間も地上と前方の確認は怠りなく行っており隙は全く無い。しかし別のことにも注意を向けている主人が心配になったらしいバックスは、軽く体を揺らして注意を促した。
「分かっているわ」
 手綱を引く必要もなかった。
 フィンが足に力をこめるとバックスはその意を察し、地面に突き立つような勢いで加速を開始する。
 地面に衝突する寸前で進路が水平に戻し、馬よりもずっと速い速度で小鬼の群目の前を通過する。
 鋭い呼気と共に突き出された紅の穂先は、小鬼に防御どころか反応も許さず一突きでこの世から退場させた。
「騎士たる者、そう名乗るなら民の為に尽くすべし、ってやつです」
 わざと速度を落とし、都側の遠くから見守っている人々に見せつけるように槍を掲げる。
 採蔵に対し冷たくはないが暖かくもない視線を向けていた人々は、気品と力を兼ね備えたフィンに対し歓声をあげる。
「派手にやってるな!」
 対地戦闘を繰り広げるフィンを横目で見ながら、和亜伊(ib7459)は街道から離れつつあるアヤカシの一団を追っていた。
「幸…は後ろか。無理せず見物客の護衛についてろ」
「無理なんかじゃなっ…あわわ」
 小さな体で凸凹した田に踏み込んだ羽妖精は、足をとられて少々速度が落ちていた。
「いくぜ!」
 アヤカシ達を射程距離にとらえると同時に跳躍する。
 派手な演出を行うためではない。万が一にも誤射を行わないようするための行動だ。
 和亜伊の手にある白銀と漆黒の二丁拳銃が唸り、隊伍を組んだ小鬼から分厚い鎧を着込んだ鬼まで満遍なく撃ち抜いていく。
 手を使わず練力で銃弾が装填され発射されるたびに、黒と白の羽が朝日の中舞い落ちた。
「これで終わりじゃないぜ」
 精悍な顔に茶目っ気のある笑みを浮かべ、和亜伊は宙で体をひねる。
 ほぼ上下反転した姿勢で左右の拳銃からの銃撃が続き、戦う術を持たない人間を虐殺するはずだった小鬼が次々に倒されていく。
 それは演出が強い物語の一場面に似ていた。
 が、現実でそんな真似をするとどうしても無理が出てくる。
「うおっ」
 足を畳んでぎりぎりで着地に成功し、和亜伊は額に浮かび上がった冷や汗を拭う。
「地面が髪をかすめたぞ…」
 着地直後で窮屈な体勢の和亜伊に、絶好の機会と判断した鬼が後先考えない全力攻撃を繰り出そうとする。
 分厚い筋肉がさらに盛り上がりその力が解き放たれる寸前、激しい稲光と共に高圧の電流が炸裂した。
「こいつは決まらねぇなぁ」
 たった一撃で瀕死となり、内側までこんがり焦げた鬼の口に銃口を突きつける。
 引き金を引くと同時に手をあげて謝意を示すと、遠方から援護したジークリンデ(ib0258)は柔らかく、しかし何故か破滅を感じさせる笑みを浮かべ和亜伊の感謝を受け取るのだった。

●宣伝
 太陽からの日差しが強くなり、都から出発した人々が増えてくる。
 アヤカシを避けるためにこの場で通行止めを余儀なくされた彼等は、不満ももらさず自発的に歓声をあげていた。
「茶番ね」
「ですねぇ」
 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)とギンコは真面目な表情を浮かべたまま身も蓋もない感想を述べあっていた。
「ムニンによるともう少しで接敵するとのこと。どう迎え撃ちます?」
「そうね…」
 ジークリンデの問いに、リーゼロッテは数瞬考えてから答えを出す。
「指揮官を討ち取ってからはあなたの努力を活かすことにしましょう」
 見物客が椅子代わりに使っている道路脇の石壁。
 ギンコと幸の羽妖精コンビが来た揃いの法被。
 いずれもジークリンデが準備したものだった。
「はい」
 柔らかく微笑み、ジークリンデは再度雷をこの世に呼び出した。
 小鬼と比べてあらゆる面で優れた鬼が、たった一撃で中枢部分を焼き尽くされて形を失う。地面に倒れることも許されず瘴気に戻っていくそれは、ジークリンデの飛び抜けた力を無言で語っていた。
「鬼は後1体か。2つの群が合流したのかしら」
 リーゼロッテは独りごちてから神妙な表情に見えるものを浮かべ、棒読みに近い調子で声を出す。
「きゃー藍可様の兵よー」
 通常ならリーゼロッテ自身も鼻で笑うレベルの演技だ。しかしすっかり盛り上がった観客と、こっそりと容赦なく使っていた夜春が組み合わさることで、強烈な説得力が生まれていた。
「ご主人さまの女狐ー」
「アンタの主人も大したもんだな」
 ギンコと幸は小声で喋りながら、悪に立ち向かう美少女を演じたつつアヤカシの群に突撃する。
 もちろん攻撃に参加するのは羽妖精だけではない。
 リーゼロッテが轟音を伴う雷を放ち、羽妖精達の進路上にいた小鬼を砕き小鬼の守りを貫く。
 演出の意図を悟った志郎が目立たぬよう低空飛行で背後から近づき、程良い感じで鬼の両手両足を切り裂き動きを封じる。
「えいっ!」
「このぉっ!」
 そこへ振り下ろされたギンコの刃が足を砕き、幸の蹴りが倒れてきたアヤカシの腰に突き刺さる。
 地面に転がった鬼が限界を超え瘴気に戻り始めると、観客から歓声と拍手が送られるのであった。

●後片付け
 アヤカシの掃討を終え観客を解散させた開拓者達は、宣伝用に機体に描いたペイントを落とし、意匠などが施されたマント等をまとめた上で採蔵に渡していた。
「藍可殿の許可は得ているのだろうか」
 からすが単刀直入にやずねると、採蔵は営業スマイルを浮かべたまま視線を明後日の方向に向けた。
 無言のまま冷や汗を垂らす採蔵を見かねたのか、志郎は空気を変えるために質問を口にした。
「森藍可さんてどんな方なのですか? いや、殆ど存じ上げないもので」
「そうですね。行動力に溢れた方です」
 炮がじっとみつめると、採蔵のこめかみに汗が一筋流れた。
「イメージアップを目指すのなら模範的行動を装うよりバサラ者らしい売りで攻めても良かったのじゃないか?」
 アーマーの状態の確認を終えた竜哉(ia8037)が至極もっともな意見を述べると、採蔵は困惑に近い表情を浮かべて己の頭を掻いた。
「一応思いつきはしましたが…」
 性格的にも能力的にも、そしてこれまで手を染めて来た事から考えても、採蔵には荷が重すぎた。
 今後機会があれば全面的に開拓者に頼ることを心に決めた採蔵は、戦場になった農地の持ち主に話をつけるために開拓者に別れを告げ立ち去るのだった。