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■オープニング本文 ●とある民家にて 「石造りの大規模建築は造るのに何年も、ものによっては数十年かかりますよね」 「そーだよー」 職場でも駄目人間臭がする係員は、自宅では呼吸をする粗大ゴミだった。 「数ヶ月で城塞都市を何も無い所から造りあげるなんて、与太話というかファンタジーですよね」 「そーだよねー」 初めてあったときと比べると別人のように成長したなぁと思いつつ、ご近所さんから係員の保護者扱いされている被保護者を見上げる。 「お仕事、うまくいっていないのでしょうか」 「そー…」 うつぶせになって布団に潜り込み顔だけ出している係員は慌てて口をつぐむ。一応自分が保護者なのだから、被保護者を心配させる訳にはいかない。 「開拓者はみんな有能だから心配しなくて良いよ」 その日係員は、己の死に備え蓄えの全てを被保護者に譲り渡した。 ●アル=カマル某所 「自然によるものか人工物かは分からんが、大規模な地下空洞がある可能性が高いということだ」 某所開拓事業に関わる設計技師と現場監督の集会で、まとめ役である長老格の男が結論を口にした。 「魔の森の一種でないことを祈るしかありませんな」 「建築予定地から離れているのが不幸中の幸いですが、放置して良いものか」 「地下空洞の件は専門家であり実質的な指導者である開拓者が決めれば良い。問題は、地下空洞が水源と繋がっていた場合だ」 下手に地下空洞に手を出すと水の流れが変わって水源から水が出なくなったりアヤカシが大量発生したりしかねない。しかしこのまま放置しておけば、水源から唐突に瘴気が吹き出す展開もあり得た。 「綱渡りが続きますな」 「理論上は可能でも普通なら予算や慣習に邪魔され使えない手段を使い続けてこれですから」 会議は夜を徹して行われ、方針が決まった後は即座に物資と人の手配が行われた。 ●依頼票に記載された情報 ・目的 最終目的はアヤカシが占拠する地域に城を建てることです。場合によっては城完成後の保守管理が開拓者に任されるかもしれません。 アヤカシの討伐、現地の調査、移動や拠点整備など、最終目的に近づくための結果を少しでも出せれば、その時点で依頼は成功となります。 ・現状 水源周辺の整備が完了し、大量の資材が運び込まれ、作業員の手当も完了しました。今回から本格的な工事がはじまります。 これまでとは1桁異なる数の作業員が集められているため、注意が必要かもしれません。 今回は城の外縁に位置することになる堀を完成させ、城を囲む壁の建築を可能な限り進める予定になっています。 城の設計の細部は確定していません。今後の開拓者の活動によって変更されていきます。 作業員用の簡易宿舎が完成しました。朋友用の大型厩舎が完成しました。開拓者用の大理石風呂付き宿舎が完成しました。 ・現地状況 直径数十キロに達する、だいたい円形の砂漠地帯です。 気候は厳しく、日光と暑さと夜間の寒さへの対策を行っていない場合、思ったように動けないかもしれません。 砂漠の中心付近で工事が行われています。堀は直径1キロメートルを越えており、その内部に水源、人工湖、資材置き場、実験農場が存在します。 砂漠の入り口から水源まで点点と設置された目印(ストーンウォールによる壁にあれこれ付け足されたものです)が続いています。 水源からの水は人工湖に蓄えられており、軽く煮沸するか濾過すれば飲用水として使用可能で当然農業にも使用可能です。 砂漠の端から目印に沿って工事現場まで赴くのであれば、非志体持ちの護衛をつければなんとか無事に移動できるようです。 建築現場からやや離れた場所には半壊した古城が存在し、開拓者が近くにいる際には使える資材を抜き取る作業が行われます。入り口から奥に通じる通路が存在し、地下のあまり調査が進んでいない場所までなら比較的安全にたどり着けます。瘴気の濃度が濃いことは判明しています。 水源の瘴気濃度はここのところ低い状態でしたが、前回やや濃度が上昇しました。 ・確認済みアヤカシ 砂人形(デザートゴーレム)。砂漠で登場する、全高3〜4メートルの、砂漠から上半身を出した巨人風の形状のアヤカシです。人間には劣るが比較的高めの知性、砂に紛れやすい体色、顔に埋め込まれたコアを破壊されない限り復活可能という面倒な要素を多数持った相手でもあります。 場所によっては数十体まとめて登場します。 凶光鳥(グルル)。希に飛んできます。高速と高い命中力が特徴ですが、能力全体が高く射程40数メートルの怪光線まで飛ばしてきます。 怪鳥。0.5〜1メートルの鳥型アヤカシです。全体的に能力は低く、知性は鳥並みです。全域で登場する可能性があります。超遠距離では凶光鳥と見間違う可能性が少しあります。 小鬼(ゴブリン)。強力なアヤカシの群にひっそりと混じっていることがあります。 狂骨(スケルトン)。古城調査中に現れました。工事や開拓で遺跡等を掘り当てた場合、ついでに現れる可能性があります。 巨人。アル=カマル風の外見をした鬼です。 巨大な骨型アヤカシ。古城跡に現れました、がしゃどくろだったかもしれませんが、詳しく調べるより早く倒されたので詳しいことは分かっていません。 ・城建設 大量の資材と大量の人員が集結しています。初心者開拓者相当の志体持ちも少数存在しますが、彼等は戦闘を行わない契約で工事に参加していますので自衛以外の戦闘は期待しないでください。 堀の外のアヤカシの掃討が行われた後は基本的に工事が早く進みます。 余程無茶な指示を出さない限り、現場監督は意向に沿った工事を作業員を使って行います。 人工湖の工事が一通り完了しました。これ以後は工事が進むにつれ城の中に組み込まれていきます。 ・農業 大量の肥えた土が資材置き場に搬入されています。現在実験農場でどのような作物が栽培可能か試行錯誤している最中です。椰子の木が10程度、水源の近くに移植されました。実はなっていません。昼間涼むには最適の場所かもしれません。試験的に牧草が植えられた場所があります。面積は大きくても生えている草の密度が低いため、注意しないとらくだ等に食い尽くされてしまうかもしれません。二十日大根は常時食べられます。 ・その他 武器防具と練力回復アイテム以外であれば、余程高価なもので無い限り希望した物全てが貸し出されます。建築や工事目的で使用する者に限り、練力を5回全回復させられるだけの練力回復アイテムが無料で支給されます。 今回は参加者以外の人手が多いです。ストーンウォール大量設置を行えるような志体持ちは存在しませんが、任せられる作業は任せてしまった方が効率がよいかもしれません。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●地鎮 千人を超える人間が整然と並び、そのときを待っていた。 高度の教育を受けた者もいれば力仕事しか出来ない者もいる。しかし誰もが厳粛な面持ちで直立不動の体勢を保ち、静かであると同時に肌が泡立つような緊張感があたり一体を満たしていた。 質素な祭壇の前に立つエラト(ib5623)がリュートを構え、いつもと同じように、つまりは全身全霊を込めて弦を爪弾き始める。 最初は穏やかに。やがて荒々しく。 過酷な砂漠と豊かな水源がそのまま音と化し、観客全員の心を奪っていく。 会場から離れた建材の山の陰で、巴渓(ia1334)は声を出さず口元に笑みを浮かべていた。自身も心得がある渓は、この演奏がどれだけ得難いものかよく分かっている。 精霊の聖歌の演奏に没頭し忘我の状態にあるエラトも、演奏内容の記憶が残っていればうなずくだろう。 荘厳な空気に満たされた地上とは逆に、上空では血で血を洗う戦いが繰り広げられていた。 駿龍サザーは無数の怪鳥からなる巨大な群を突っ切り、主であるアルバルク(ib6635)は大きな魔槍砲を振り回してアヤカシの陣形をかき乱す。攻撃的な術を使っていないためアヤカシの数は減っていないが、移動速度を緩める効果はあった。 「生、群は任せた! 片付けた後は地上の連中を率いてサンドゴーレムへの対処にまわってくれ」 攻撃を放棄して視力強化の術を発動したアルバルクは、普段とは異なり剽げた部分の無い声で命じる。 「鳳珠、あんたは待機だ。ここを抜かれたら被害が何人出るか分かりゃしねぇ」 駿龍ボレアに乗った朽葉・生(ib2229)がアヤカシの大群に急接近して強烈な吹雪を切れ目無く放ち、端から盛大に削り取っていく。 鳳珠(ib3369)は駿龍光陰と共に上空を旋回しながら上下左右に対する警戒を忙しく行っている。 「悪いが嬢ちゃんは俺と付き合ってもらうぜっ、て早いな」 「先に行っているよー♪」 大きな鷲獅鳥の背で、アムルタート(ib6632)は元気よく手を振っている。くるりと前に向き直ると点のように見えていた物が見る間に大きくなっていく。 凶光鳥。下級アヤカシの中では上位に属する攻撃力と、最上位に属する敏捷性と速度を兼ね備えた凶悪な魔物だ。 広範囲の瘴気を根こそぎ祓う者の存在にどうやってか気付き、動員できる全ての戦力を以て攻め寄せてきたらしい。 「一撃入魂!いっくよ〜♪」 明るく軽快な声とは裏腹に、加速する人騎が得物を構える動きは完全に同期し振るわれるタイミングも一致していた。 ほぼ正面衝突の形で凶光鳥の赤いくちばしと最高速度に達した鞭、そして重厚な爪の一撃が交差する。 「イウサール! 高度は気にせずバランス回復最優先!」 高速で回転しつつ落下しながら、アムルタートは強引に体勢を立て直す。凶光鳥はくちばしに亀裂を生じさせつつも短時間で体勢を立て直すことに成功し、一気に急降下してアムルタートごと鷲獅鳥を貫こうとする。 「ぴーんち♪」 イウサールが猛烈に羽ばたいて落下速度を落とし、盛大な水しぶきをあげて水源に着水する。地下からわき出したばかりの刺すように冷たい水を肌で味わいながら、アムルタートはますます速度を増しつつ向かってくるアヤカシを、否、その背後につくものににこりと笑いかけた。 「邪魔すんじゃねぇよ」 アルバルクは引き金を2度引いた。 背後をとられた凶光鳥は後頭部に直撃を受け、脳漿と血をまき散らしながら落下を始める。けれどこの状態でも戦闘意欲を失わず、自らの姿勢を制御しアムルタート目がけて一直線に距離を詰めてくる。 「ふう。軌道が読みやすくて助かったわ」 凶光鳥の進路全てを塞ぐ形で吹雪が発生する。 鴇ノ宮風葉(ia0799)の強大極まりない術に傷ついたアヤカシが耐えられるはずもなく、空から下る鳥型の破滅は無力な瘴気の細切れに分解され消えていった。 「何体いやがる」 生に誘導された渓が、砂漠を駆ける赤い駆鎧の中で額から流れる汗を感じていた。 ゴッドカイザーの銘を持つ駆鎧は押し寄せる砂巨人の群を巨大な斧を振るい押しとどめている。 巨大な出力に支えられた一撃は城壁さえ崩す威力を秘めている。しかし物理的な力には強い砂の体は常識外の破壊力に耐え、赤い駆鎧を圧迫を加えていっていた。 渓をこの場に導いた生は別の方面に移動して別のデザートゴーレム隊と戦っている。駿龍に乗り術を使うとはいえ一方的に攻撃を仕掛けられるわけではない。砂人形は馬鹿ではなく、起伏のある地形を活かして奇襲をしかけたり大地に転がる岩を投げたりする知恵があるのだ。 ボレアも生も傷ついていき、仲間に傷を癒して貰う余裕もない。 1人と1体がこうなった最大の原因は一方的に上空から攻撃できる射程を持つララド=メ・デリタではなく、ブリザーストームを使ったことにある。そしてブリザーストームこそが防衛戦が成功した最大の原因となる。 「よし」 広範囲に打ち込んだ吹雪が10体近くのサンドゴーレムをまとめて消し飛ばす。比較的術に対する抵抗力が弱い相手とはいえ、強力な術者である生が無理をして短期決戦を挑んだ結果得られた成果だ。 「円さんの側面両方にアヤカシの反応があります。援護を急いで下さい!」 瘴索結界「念」で隠れた敵に気付いた鳳珠が龍を駆り急行する。 開拓者側の最後の予備戦力である玲璃(ia1114)が会場から直接渓の援護に向かい、渓の背後から管狐の紗と共に大量の術を放ち始める。それを脅威と見たサンドゴーレム隊と左右に潜んでいた小型アヤカシが一斉に玲璃目がけて襲いかかろうとする。が、ゴッドカイザーはアヤカシの強引な攻めを短時間ではあるが食い止め、他の方面の掃討を完了させた開拓者達がここに集まるだけの時間を稼ぐ。 長時間にわたる精霊の聖歌の演奏が終わったときには、建設予定地の周囲1キロほどの範囲のアヤカシは完全に討ち滅ぼされていた。 ●工事 掘った直後にストーンウォールを発動させることで複数の工程を省く。 普通の工事なら様々な理由で実行困難かつ採算割れの可能性が高いやり方かもしれないが、今この場所に限っては有効な方法だった。 技術者が地面の状態を調べ堀るための具体的な方法を決定し、数十名の作業員が一斉に掘り進め、疲れが見えたなら現場監督が次の班に入れ替えて堀を継続させ、ある程度形ができたところで生がストーンウォールを使い熟練作業員が仕上げを担当する。 生が受け持つのは一カ所だけではなく城の建設予定地の外縁部全体に及んでいた。複数人の現場監督達は分刻みの計画を立ててその通りに作業員を動かすことで、生の能力を容赦なく使いこなしていく。 常人とは比較にならない水準の身体能力を持つとはいえ生の体力も無尽蔵ではない。ボレアが心配そうに顔を覗き込んできたとき、生は心身ともに疲労が濃いことに気づく。 「ありがとうございます。これが終われば休憩時間ですから大丈夫ですよ」 監督の命令に従い作業員が引くと同時に、生は術を連続で発動して長い石壁を作り出していく。長さ約100メートルに達したときようやく今回の分が完成する。 生は乱れた息を整えながら節分豆をかみ砕くとぬるい水で飲み込む。砂漠から吹き付ける風は熱く、容赦なく生の体力を削り取っていく。 「お疲れ様です」 古城に通じる道からやって来た男達の中から現場監督が歩み出て、一項を代表して挨拶する。 近くに寄られるまで気づけなかったことに気づき、生は工事の担当分を消化次第休息をとることに決めた。 「それが例の?」 厚い毛布に包まれた建材が、数十名の男達により慎重に運ばれていく。 「ええ。これがとれなきゃ城の中の見栄えはかなり落ちたでしょう」 包みの中にあるのは大理石の一枚岩だ。普通に買えば極めて高額な買い物になり、ここまで無事に運んで来るためにはそれ以上の金がかかるだろう一品だ。 「そういえば」 生が口を開こうとしたとき、現場監督は慌てた様子で自分の口に指をあてた。 「開拓者様にとっちゃたいした知識じゃないのかもしれませんが、私らにとっては貴重な知識なんで気をつけてください」 開拓者の中には様々な種類の人間がいるのだが、この開拓事業で初めて開拓者を知った者達にとっては開拓者とは知恵と力を兼ね備えた超人である。生達が成し遂げつつあることは、それだけ大きな影響を周囲に与えていた。 生が返事をしようとしたとき、遠くで信号弾が打ち上がる。10秒もたたずに空を龍が駆け抜け、しばし後龍がゆっくりと元来た進路を戻っていった。 ●警備担当 鷲獅鳥がは速度を殺しながら降下していくと、水源の近くに生えている椰子の木が揺れた。 「つかれたー♪」 アムルタートは器用にころころと鷲獅鳥の上で転がり、ぴょんと勢いをつけて丈の短い草の中に飛び込んだ。 人工湖を通って吹き付けてくる風は涼しげで適度な水分を含んでおり、ここが砂漠の中であることを忘れさせる。 「次は俺の番か。人間のもめ事が持ち込まれていない分楽なんだろうがなぁ」 アルバルクは自分の肩を揉みながらサザーの背に乗り、建設予定地全域を見渡せる高所に設置した拠点に向かって行く。 「入れ違いでしたか」 開拓者を除けばほとんどの者に侵入が許されていない場所に、上品な身なりの男が現れる。 「アルバルクさんにご用でしたか」 瘴索結界「念」を発動したまま水源を調査中だった鳳珠が応対する。その間、アムルタートは椰子の木の陰で鷲獅鳥とたわむれていた。 「ああ、いえ、現状報告ですので出来るだけ大勢の方に聞いて頂きたかったのですが…」 設計と大規模工事の指揮の両方をこなす男が水源の池を見渡すと、そこには2人と2体しか存在しなかった。 「新しい物が生えたー?」 「はは、農業はすぐに結果が出る物ではありませんよ。野菜も果物も収穫には遠いです。二十日大根を除いてね」 男は穏やかに微笑みながら口にする。 「ただ」 男の声が重いものに変わる。ただならぬ雰囲気に気付いた鳳珠は真剣な表情を浮かべ、アムルタートは寝転がったまま耳だけ男に向けていた。 「エラト様の演奏の後で再度の測量を行ったところ、極一部ですが変化が現れた場所がありました。幸い建設予定地とはずれてはいたのですが」 水が噴き出す場所に、深刻な視線を向ける。 「やはり」 鳳珠の顔に憂いが浮かぶ。 「はい。最も変化があったのがここです。地形に影響が出るだけの瘴気が祓われたのだと思われます」 エラトは根こそぎ祓った。演奏直後に鳳珠が調べた際には薄い瘴気の一欠片すらこの場には存在しなかった。 にも関わらず、今ではわずかではあるが瘴気が感じられる。アヤカシが出現するほどではないが、瘴気の増え方は異常だった。 「水源そのものに何らかの手を打たねばならないのかもしれません」 「さすがにこれは、私の手には余ります」 今の所清浄な水をもたらす水源に、男は複雑な視線を向けていた。 ●古城跡地下 「紗、戻ってください」 敵を迎撃するために飯綱雷撃を使い続け、荒い息をつくようになった管狐に帰還を命じる。 朋友が宝珠に戻る様を確認もせずに、玲璃は節分豆を一息で飲み込んで清浄な炎を目の前に出現させる。 整然とした隊列を組んで押し出してきた髑髏達は炎で傷つけられ、さらに猛烈な吹雪を叩き付けられ依り代である骨ごと打ち砕かれた。 「玲璃のにーちゃん、ちょっと拙いんじゃねぇか? 風葉もふらふらだよ」 鋭い眼光を持つ人妖、二階堂ましらが玲璃に懸念を表明する。気弱になった訳ではなく、味方の消耗を冷静に計った上での発言だ。 「この程度で燃料切れしないわよ」 風葉は常と変わらない自信に満ちた表情を浮かべている。しかし練力は瘴気回収で回復できても気力や体力まではそうはいかない。夜光虫の弱い光でもはっきり分かるほど、顔色が悪くなっている。 「この状況で突っ込むのは遠慮してぇな。囲まれたら抜け出す前に力が尽きるぜ」 エラトが古城の側で演奏を始めてから1時間ほど経った頃、古城の地下にある部屋の床が地下側から破壊された。 そこから溢れ出すアヤカシの群に対して防戦を行っている訳だが、1度床の穴を確認出来る場所まで押し込んだ後は、次から次に現れるアヤカシの圧力に抗しかね徐々に後退しつつ抗戦を続けるしかなかった。 「お待たせしました。援護に入ります」 背後からエラトの声が聞こえ、続いて夜の子守唄の演奏が開始される。 疲れ切った開拓者達は、そのとき初めて精霊の聖歌の演奏が終わっていたことに気づいた。 一時的に行動不能になった一部のアヤカシが群れの動きを妨げる。その隙に開拓者達は残りの練力と体力を使い尽くす勢いで反撃を行い、心身共に消耗し尽くす直前になってようやくアヤカシの姿が消えた。 「崩落の気配はありませんね」 通路の壁や床の状態を調べていた玲璃が胸をなで下ろす。アヤカシのみに影響を与える浄炎を使える彼がいなければ、アヤカシに勝てはしても通路や古城跡全体に大きな被害が出てしまっていた可能性が高かった。 限界を悟った開拓者達は、通路の途中に建材を積み上げてバリケードを作った後宿舎へ戻る。宿舎で一晩を過ごし体力を回復させてから、開拓者達は未だに疲れが残る体を引きずり帰路についたのだった、 |