冬の海に幸を求めて
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/17 06:23



■オープニング本文

●年初の漁
「今年もガンガン釣り上げてかあちゃんに楽させたるで〜」
「てめぇは数釣り上げるより1つ1つの扱いを丁寧にしやがれ。大物に傷をいれちまって買い叩かれたという話を聞いたぞ」
「ちっ。誰が漏らしやがった」
 筋骨逞しい漁師達が角を突き合わせながら、手際よく漁船と漁船に積み込んだ装備の確認を行っていく。
 年末年始も時間をつくっては補修と整備を行った成果が出ているらしく、昨年より短い時間で確認が完了する。
「いくぜ!」
「おうよ!」
 大きな櫂が振るわれ、漁船が小さな桟橋から高速で離れていく。
 朝焼けに照らされた橙色の海面を切り裂くようにして、男達の船は遠くにある漁場に向かう。
 と、これで終われば荒っぽくも気の良い漁師の日常で済んだのだろうが、残念ながら現実は色々な意味で残念だった。
 数日間帰らないはずの漁船はたった数時間で桟橋に戻り、猟師達が何かに追い立てられるような動きで漁船から飛び出して来る。
「アヤカシだ! うちらの漁場に居座ってやがる!」
 村長以下漁村の有力者が金を出し合い、開拓者ギルドへ早馬が飛んだのはそこれからすぐのことである。

●討伐依頼と調達依頼
 漁師が岸から遠く離れた海でアヤカシに遭遇した。
 漁村から遠く、航路も通っていないため放置してもすぐに被害は出ないと思われる。
 しかしそこは大型の魚が釣れる場所であり、放置すれば漁業が大打撃を受けかねない。速やかに現地に向かい、周辺のアヤカシ全てを討伐して欲しい。
 話は変わるが、現在様々な場所で新年会が開催されており、大物の魚の需要が特に高まっている。アヤカシがいないことを確認するためには時間がかかるだろうから、出来れば数尾釣り上げて漁村に来ている仲買人に渡して欲しい、という要望が依頼人である漁村から出されている。多く釣り上げた場合、引き渡した残りは食べてしまって構わないそうだ。
 鮮度の問題があるので持ち帰りは許可できないそうなので、船上か岸で調理するのも良いかもしれない。朋友が食べる場合は大量に釣る必要があるかもしれないが、その場合は釣りも頑張って欲しい。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ロゼオ・シンフォニー(ib4067
17歳・男・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
エラト(ib5623
17歳・女・吟


■リプレイ本文

●ただいま釣り中
 狼耳を冷たい風になぶられながら、ロゼオ・シンフォニー(ib4067)は優雅に釣り糸を垂らしていた。
 ロゼオが座るのは炎龍のファイアスの背中だ。
 成人男性3人分弱の全長をファイアスは、最下級のアヤカシである貧魚(ピラニア)が束になっても勝てないほど強い。だがファイアスは苦戦していた。
「兄さんの分も釣り上げてあげるからね!」
 主人であるロゼオは鼻歌を歌いながら釣り竿を操っている。その邪魔をするわけにもいかず、兄と呼ばれた炎龍は魚を驚かせないよう速度を落としふらつきながらもなんとか平衡を保っていた。
「兄さん、水面ギリギリだと危ないかもしれないからちょっと離れようよ」
 さらりと無茶を言われたファイアスは、戸惑いを飲み込み、窮屈そうに翼を動かしていくのだった。

●豊穣の海
「水の流れが急な場所ではかなりの速度が出ます。狐の早耳や瘴索結界だけでなく、実際の視界も注意してください!」
 表に出そうになる弱気を押さえ込み、乃木亜(ia1245)は吹き付ける風に負けない大声で注意を促す。
「承知しました…」
 ボートの上で櫂を操っていた柊沢霞澄(ia0067)がこくりとうなずき、次いで心配そうな視線を乃木亜に向けた。
「だいじょうぶ、ですか?」
 霞澄の懸念には歴とした理由がある。乃木亜は、ボートから身を乗り出し冷たい海に触れるような体勢をしていたのだ。
「は、はいっ」
 乃木亜が一瞬気弱な面を見せるものの、海面に顔を出した藍玉がぴぃと鳴くと表情を真剣なものに変える。
「見つけた…駄目? うん、少し待って。相談するから」
 外から見れば意味不明なやりとりかもしれないが、付き合いが長く、深い絆を育んだ1人と1体にとってはこれで十分な意思疎通が図れていた。
「水の流れから判断して、そこから先がアヤカシの発生地帯です」
 そこは目印も何も無い、360度水平線が見える場所だ。
 アヤカシと実際に遭遇した漁師から詳しい情報を聞き出した乃木亜と藍玉は、水の流れを読むことで皆を目的地に導いたのだった。
「広い…な。距離的にかなり厳しそうだが、大丈夫か?」
「何、問題ない」
 風雅哲心(ia0135)の装備から姿を顕した翠の管狐が、ぶっきらぼうに返事をしてその身を別物に変える。
 新たな姿はひ弱そうな小鳥だ。無力に見える姿をとることで、管狐の翠嵐牙がアヤカシのおびき寄せを担当する手筈になっていた。
「ヴァルさん。気をつけて下さい…」
 霞澄も己の管狐を送り出す。個々は弱いとはいえ膨大な数の敵に向かわせるのは心が掻きむしられるように痛む。
「藍玉が担当できたら良かったんですけど」
 乃木亜のミヅチによると、アヤカシは一定以上の大きさのものが近づくと警戒し距離をとるようなのだ。
 開拓者達は無言で2体の無事の帰還を願い、静かに結果を待つのだった。

●激突
「よーし、来た来た!」
 管狐が化けた魚が小鳥が魚型アヤカシを引き連れてこちらに向かって来ていることに気付き、ルオウ(ia2445)はにやりと微笑んだ。
「ヴァイス、もう少し待て。すぐに存分に戦わせてやる」
 大量の練力を消費した管狐達が次々にボートの上に着地する中、ルオウは興奮する迅鷹を不敵な笑みで押しとどめていた。
 後方を飛んでいたロゼオが状況の変化に気付き、さらに後方に対して合図を送る。すると冷たい空気を切り裂いて駿龍が飛来する。
 駿龍アギオンを駆りながら、エラト(ib5623)はリュートを奏でて独特の音色を響かせる。それは怪の遠吠えというアヤカシにのみ聞こえる音色を広範囲にまき散らす技だ。
 アヤカシの遠吠えに似た音が響き、何も変化が現れない。
 海という巨大な水が音を吸収したのか、冬の風が音をかき消したのか、あるいは貧魚が音を気にしないたちなのかは分からない。
 だがいずれにせよエラトを含む開拓者達がとる行動は変わらない。
「行くぞ!」
 ルオウとヴァイス・シュベールトが一体化し、天翔る人型の力がこの世に姿を現す。
 光の翼を広げ大海原に鋭い軌跡を残しながらアヤカシの群の上にたどり着く。続いて放たれた咆哮は、分厚い水の層を貫いてアヤカシの群を捕らえた。
 怪の遠吠えから夜の子守唄に切り替えたエラトも、ルオウから数十メートルの距離を保ちつつ広範囲の貧魚の意識を失わせていく。海流に翻弄されるアヤカシの姿は、控えめに表現しても酷く不気味だ。
「こちらも始めるか。一気に蹴散らすぞ。…射抜け、星竜の牙。――ホーリーアロー!」
 力を失い、けれど討たれないまま海流に流されていくアヤカシを、哲心は1体1体確実に討ち滅ぼしていく。膨大な水量は矢や術の効果を吸収していくが、もとの威力が巨大すぎるためアヤカシまで確実に届く。そして、少々威力が失われたところで貧魚にとって哲心の術は強大に過ぎた。風で大きく波打つ海面から、次々に瘴気がわき上がっては風に吹き散らされていく。
「どれだけ数が集まろうと雑魚は雑魚。我の敵ではない」
 本来の管狐の姿に戻った翠嵐牙が、強烈な雷でルオウを追うアヤカシを打ち砕いていく。
 別の姿で長距離を移動した結果練力を激しく消耗しているはずだが、動きの切れも術の冴えも普段より増しているようだった。
「しかし年明け早々数の暴力とはな。慣れてるからいいんだが」
 哲心が微苦笑を浮かべる。
「すまん。燃料切れだ」
 高速で飛び回り広大な範囲のアヤカシを咆哮で絡め取ったルオウが、ボートに着地すると同時に合体を解除する。
「藍玉! 前に出ないで攻撃!」
 乃木亜が瘴索結界を使ってアヤカシの位置を特定し、水面を自由に移動可能な藍玉がボートに近づきすぎた貧魚を討ち取っていく。
 それより離れた場所には海の一部を割るほど強力な術が大量に打ち込まれ、数だけは多いアヤカシを減らしていく。
 時間の経過と共にアヤカシの数も降り注ぐ術の密度も減り、やがて強力ではあるものの術に比べると見劣りする投擲武器に変わっていった。
「手裏剣の数を揃えてきて正解だったわね」
 慣れた手つきで手裏剣を放ちながら、リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)はやれやれと息を吐く。
「右に5間…」
 霞澄の指示を聞き逃さず、形の良い指から手裏剣を放す。美しい軌跡を描いて飛んだ刃は海水をするりとすりぬけ、必要にして十分な損傷をアヤカシへと与えるのだった。

●大漁と後始末
「カズラ! 寒っ、寒いってばっ」
 体の大きさを無視すれば葛切カズラ(ia0725)の妹に見える少女が、涙目で箱の中に魚を投入していた。
 無理をすれば大型魚もなんとか入れることの出来る箱の中には、カズラの術と冬の大気に冷やされた水がたっぷりと蓄えられている。箱は水が漏れないしっかりとした造りではあるものの、凍る直前の大量の水が容赦なく冷たさを伝えてくる。
「厚着をさせてあげているでしょう?」
 大型魚を一本釣りできる無骨な釣り竿を手にしながら、カズラは柔らかな口調で人妖の初雪をからかう。
「水がかかると冷たいのっ」
 船が揺れると箱から水がこぼれ、飛び散った水が初雪の健康的に白い頬にかかる。
 海上の強く冷たい風はかかった水を蒸発させると同時に温度を急激に下げていく。
 くちゅん、くちゅんと可愛らしいくしゃみを始めた初雪に、カズラは風除けにするための毛布を頭からかけてやる。
「さて、ここらが本番かもしれないわね」
 毛布にくるまってご満悦の初雪を横目にしつつ、カズラは釣り竿から片手を放し器用に符を放つ。
 呼び出されたカマイタチは、幸運にもエラト達の状態異常攻撃から逃れこっそりとこの海域から逃げようとしていた魚型アヤカシを切り裂いて消えた。
 別に彼等がしくじった訳ではない。海は戦場にするにはあまりに広すぎるため、小型のアヤカシを少数逃がしてしまったとしても依頼失敗とはいえない。
 しかし現実はもう少しでアヤカシの根絶が叶う。
「サンダーは出来れば使いたくなかったのだけど、アヤカシを逃がすわけにはいかないしね」
 貧魚の群がいた場所を挟んで反対側で、1体の龍が激しい水しぶきをあげなから鋭い爪を懐中に叩き込み、その背にある少年が稲光を光らせていた。
 一気に殲滅できないなら高速を誇る龍に乗って地道に潰していけばよい。開拓者達は海とその上を自由に動き回り、瘴索結界で徹底した調査を行い残さず貧魚を狩り尽くしたのだった。

●釣り
 魚との力比べで劣勢に陥りつつあったエラトは、最後の手段として力任せに釣り竿を引き上げた。
 海水に濡れ艶々と銀色に光る魚が海面から釣り上げられる。それと同時に、頑丈ではあっても志体持ち仕様ではない釣り竿がエラトの力に耐えかね、半ばから分解され魚ごと宙に舞う。
 そこへアギオンが滑り込むようにして飛来し、魚を口でキャッチしてじっと主人の目を見つめる。
「お疲れ様でした」
 労いの言葉をかけると同時に許可を出すと、アギオンは爪を器用に使って魚から釣り針を引き抜こうとし、結局失敗して頭を潰して釣り針ごと釣り竿を開放する。
 エラトが釣り竿を再度組み立てる間、アギオンはとれたての魚を丸呑みにする勢いで食べ尽くしてしまう。アギオンはむふぅと満足げに息を吐き、微妙に期待する視線をエラトに向けた。
「あまり期待しないでください」
 揺れる海面に糸を垂らしながら、エラトは戦闘後の穏やかな空気を楽しむのだった。
「難しいです…」
 エラトと背中をあわせる形で、霞澄も釣り糸を垂らしていた。
 餌に食いつかれる頻度はエラトより多いものの釣り上げた数は圧倒的に少ない。戦闘中なら克服できている気弱さが出てしまい、魚と競り勝てないようなのだ。
「あわせのタイミングが遅いのだ、もう少しピシッとだな」
 揺れる舳先に器用に立つヴァルコイネンが、厳しくはあるが丁寧な指導を行っている。釣りの技術を通して心構えを教える目的があるため、戦闘中より気合いが入っているかもしれない。
 己の管狐が己のことを第一に考えていることをよく知っているため、霞澄は指導を真剣に受け止め、釣りを通じて魚と海に向き合っていた。
「村に渡すのはこれで良いとして」
 エラト達とは別の船で、カズラはしめた魚を箱に収めていた。
「どう調理しようかしら」
 たたきか、鍋か、迷う所だ。
「凄いですね。こちらはなかなか釣れませんよ」
 鮮やかな色の炎龍が高度を下げてくる。その背にいるロゼオが抱える魚籠の中には、魚は少数しか入っていなかった。
「龍は大きいからね」
 初雪が差し入れに差し出した大型魚を滞空したまま器用に受け取った炎龍がぱくつくのを見ながら、カズラは端的に説明した。
「魚を怯えさせたのかもしれませんね」
 ロゼオは頭をかく。
 大漁を狙うなら漁師に教えを受けた上で漁船に乗り、正攻法でいく必要があるのかもしれない。けれど今行っている釣りは朋友と共に行う娯楽であり、そこまで根を詰める必要は感じられない。それにロゼオもファイアスも徐々に釣りに慣れつつあり、釣果は加速度的に増えていっている。このまま日没前まで頑張れば結構な数の魚が手に入るだろう。
「藍玉! めっ! 捕りすぎたら漁師さん達が困っちゃうじゃない」
 はしゃいで大量の魚をボートに積み上げていた藍玉がしゅんとする。
「ど、どうしよう。アヤカシが漁場を荒らす前に倒せてもこれじゃあ…」
 乃木亜はおろおろしながら必死に魚をしめていく。岸に戻った際に、残った魚を仲買人が高値で引き取っていったのでその心配は杞憂に終わるのだが、この時点の彼女に推測できるはずもなかった。
「おーい。鍋を使う奴いるかー?」
 ボートの上のルオウが頑丈そうな鍋を片手で振り回している。もう一方の手には爪楊枝があり、鮮度が最高の刺身を食した後の口内の掃除を行っている。
「気が利くな」
 哲心の口元に笑みが浮かぶ。
 漁師に持たされていた醤油と味噌を取り出すと、誰からともなく鍋の準備を開始する。
 火力は炎龍が担当するため繊細な火加減は期待できず、揺れる戦場での調理であるため魚の扱いもそれほど良くない。
 しかし生け簀ではなく海でとれたての魚肉を使った鍋は、寒さもあって恐ろしいほど美味だった。
「一杯やりたいわね」
「それは帰ってからにしてくれ。酔って操船するのはぞっとしない」
 開拓者達は山と積まれた魚をあらかた食い尽くすと、意気揚々と岸に引き返していくのだった。
 8割方食い尽くした残りがどんな金額で売れたかは、開拓者と仲買人と村人だけの秘密である。