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■オープニング本文 ●工事開始まであとわずか 砂漠を数十人の男達が渡っていく。 ある者は分厚い布で梱包された資材を担ぎ、またある者は十数人で共同して大型の石材を移動させていく。 人と資材の流れは途切れることなく続き、膨大な量の資材が砂漠の中心に運び込まれていく。 それらが最終的におさまるのは、一辺が半キロメートルに達する巨大陣地だ。 人の扱いに慣れた現場監督達が労働者達を容赦なくこき使い資材を陣地にため込んでいく。 1つの城を造るための資材を短期間で用意するために膨大な金が動いてる。アル=カマル各地の職人は設計図に従って部品を製作し、ときには飛空船まで動員されて資材が安全地帯の端まで運ばれ、そこから非志体持ちの護衛に守られた輸送隊が陣地に向かっている。 依頼人の財力を誇示するような凄まじい速度で、全てが勢いを増しながら進んでいた。 ●設計士達 「高級石材は古城から調達可能というのが大きいな」 「ああ。真っ当な手段じゃ調達に何年かかるか分からんからなぁ」 設計と工事の具体的な計画を話し合っていた技術者達が、ほっと息をついていた。 「ボトルネックは水場から出るの受け皿じゃな」 資材と人手を計算していた老人がうなる。 「これさえなんとかなれば後は金と人と物を大量に使えば工期短縮は可能じゃ」 「だが実際どうするつもりだ。今も水かさを増しつつある池、いや、もう湖か? ここから流れ出す水を貯蔵できる人工湖を造るには3月はかかるぞ」 恐るべき早さではあるが水の増量はそれ以上に早い。 このままでは貴重な水が砂漠へ流れてしまうことは避けられそうになかった。 「そこは開拓者の方々に頼るということで」 人工湖用に穴を開けても派手な術を使っても水場に影響が出ない場所は特定できている。 最大で直径半キロメートルの円形で深さ10メートルまで掘っても大丈夫と予想されているが、瘴気が詰まった地下空洞が複数有ってもおかしくない場所でもある。 最終的に岸を補強して水が漏れ出ないよう底に石を敷き詰める訳だ。開拓者が穴を掘って岸を崩れないようにしておけば、後のことはなんとかできる見通しが立っている。 「志体持ち仕様のスコップや猫車も発注済みだ!」 徹夜続きで精神が参っているらしく、発言者は目の色も顔色もよろしくなかった。 このスコップは極めて頑丈だが武器としての出来は最低に近い。スコップから本来の得物に持ち替えるのにも時間がかかるし、陥没に巻き込まれるかもしれない。危険度は正気を疑う水準だ。 「今のうちに工事しておかないと大量の水が無駄になりかねん。なんとか開拓者に頼み込むことにしよう」 唯一睡眠時間を確保してきた老人が結論を出し、長時間にわたる会議が終了したのだった。 ●依頼票に記載された情報 ・目的 最終目的はアヤカシが占拠する地域に城を建てることです。場合によっては城完成後の保守管理が開拓者に任されるかもしれません。 アヤカシの討伐、現地の調査、移動や長期調査を容易にするための拠点整備など、最終目的に近づくための結果を少しでも出せれば、その時点で依頼は成功となります。 ・新規事項 ストーンウォールを多用した資材置き場兼防御施設に、大量の資材が運び込まれました。 水場を含む城の建設予定地付近の安全を確保すれば、開拓者がいない時でも工事を進めることが可能です。 水場を囲い込む形の設計が採用されました。細部は決まっておらず、単なる城になるか城塞都市風になるか、防御施設としての機能があるかどうかなど、今後の開拓者の活動によって決まってきます。 ・現地状況 直径数十キロに達する、だいたい円形の砂漠地帯です。 気候は厳しく、日光と暑さと夜間の寒さへの対策を行っていない場合、思ったように動けないかもしれません。 中心付近に古城が存在し、そこから数キロ離れた場所に水場と巨大資材置き場兼防御施設が存在し、水場から砂漠の外に向かって転々とストーンウォールによる目印が続いています。 砂漠を行き来する職人の手により、飾りが施されたり砂避けや日光避けが取り付けられた目印があるようです。 水場を中心に徹底的なアヤカシ退治が行われた結果、水場から大量の水が溢れ出して池が出来ました。軽く煮沸するか濾過すれば飲用水として使用可能で、当然農業にも使用可能です。水場は徐々に広がっています。 砂漠の端から目印に沿って資材置き場まで赴くのであれば、非志体持ちの護衛をつければなんとか無事に移動できるようです。 古城は半壊しています。前回調査にあたった技術者によると、外側を削れば十分実用に耐える高級資材が数多く手に入るそうです。地下部分も存在するようで、資材の抜き取りを進める場合、地下部分からのアヤカシ襲撃が発生する可能性があります。 ・確認済みアヤカシ 砂人形(デザートゴーレム)。砂漠で登場する、全高3〜4メートルの、砂漠から上半身を出した巨人風の形状のアヤカシです。人間には劣るが比較的高めの知性、砂に紛れやすい体色、顔に埋め込まれたコアを破壊されない限り復活可能という面倒な要素を多数持った相手でもあります。 場所によっては数十体まとめて登場します。 凶光鳥(グルル)。希に飛んできます。高速と高い命中力が特徴ですが、能力全体が高く射程40数メートルの怪光線まで飛ばしてきます。 怪鳥。0.5〜1メートルの鳥型アヤカシです。全体的に能力は低く、知性は鳥並みです。全域で登場する可能性があります。超遠距離では凶光鳥と見間違う可能性が少しあります。 狂骨(スケルトン)。古城調査中に現れました。工事や開拓で遺跡等を掘り当てた場合、ついでに現れる可能性があります。 巨人。アル=カマル風の外見をした鬼です。前回戦った開拓者曰く「強い奴から弱い奴までいろいろいた」そうです。 ・城建設 資材置き場への資材運搬が、早朝から日没寸前まで毎日行われています。 アヤカシの掃討が進めば工事が開始されますが、かなり広範囲を念入りに掃討しない限り大規模な工事は難しいです。 出発前に声をかければ、有力な職人や技術者が手下を大勢引き連れて開拓者に同行します。余程無茶な指示を出さない限り、開拓者の意向に沿った工事を行います。 今の所、水場の近くに人工湖を建設し、水場と人工湖を囲む形で城または城塞都市を建設する方針になっています。 ・農業 大量の肥えた土が資材置き場に搬入されました。現在どのような作物が栽培可能か試行錯誤している最中です。花壇や田園や果物を作りたい場合は、今の内に種や苗を係員経由で注文しておいた方が良いかもしれません。 ・その他 武器防具と練力回復アイテム以外であれば、余程高価なもので無い限り希望した物全てが貸し出されます。建築や工事目的で使用する者に限り、練力を5回全回復させられるだけの練力回復アイテムが無料で支給されます。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●大移動 高空から肉眼で確認できるほど大きな流れが砂漠の上にあった。 「数え切れんな」 将門(ib1770)は振り抜いた刃を鞘に戻すと、騎龍である妙見に命じて円形の軌道を描かせる。 視界の隅では一刀両断にされた大型鳥アヤカシ、おそらくは凶光鳥の残骸が落下しており、砂の地面に激突するより早く瘴気へ戻り風に吹かれて姿を消す。 総勢数百名の人間と数十頭の四つ足が砂漠を渡る姿は滅多にお目にかかれるものではなく、妙見も周囲の警戒の合間にちらちらと視線を向けている。 将門は眼下の大集団と、大集団の行く手にある建造物を見比べわずかに目を細めた。 資材置き場は縦横それぞれ半キロメートル。既に工事が始まっているらしい人工湖の予定地はそれ以上の大きさだ。 これだけでも尋常な規模ではないのに、計画ではもっと巨大なものが建てられる予定だっだ。 「墓標にするには大きすぎるな」 将門は小さく息を吐いて雑念を払い、上空での警戒を続けるのだった。 ●農業 「よーしよしよし。進路そのまま。ゆっくり、落とすなよ」 ヤシの木を抱えた十数人の男達が動き始める。 根は少量の土と共に袋に包まれており、地面に水平にされた上で人力で運ばれていた。 「ヤシの木はいいよね〜! 飲んで美味しいし♪ 木陰にもなりやすいから植え方次第で上手く避暑ができるよ!」 アムルタート(ib6632)は満面の笑顔を浮かべて木々の移植作業を見守っている。 別に怠けているいるわけではない。アヤカシを含む脅威に即応するために待機しておく必要があるのだ。 「すまねぇ! そっちに一匹抜けた」 上空から銃声と共にアルバルク(ib6635)の声が聞こえてくる。 アムルタートは作業員が声の内容を認識するよりも早く地面を蹴り、足の先をほのかに輝かせながら石材の山の頂点へ飛び乗り、以前の対アヤカシ戦で開いた大穴を飛び越えて何も無い平地に着地する。 弾痕が穿たれた体に鞭打って駆けていた鬼型アヤカシが、いきなり目の前に現れたアムルタートを警戒し急停止する。 「うりゃ〜♪」 気の抜けるかけ声とは裏腹の鋭い動きで鞭が振るわれる。 アムルタートの手元から伸びた赤い革は生きているかのように激しく波打ち、禿頭の鬼の死角近くから急襲する。 鬼は頭を動かし眼球への直撃を避けアムルタートに接近しようとするが、赤い鞭が巧みに振るわれ行く手を遮る。 鞭が振るわれるたびに鬼の皮膚が腫れ、破れ、体液が滲んで垂れていく。このままではらちがあかぬと判断した鬼は、被害を覚悟しアムルタートに向け突撃する。鞭が真正面からぶつかり肉が抉られていくが、憎き開拓者を己の攻撃範囲に捉えることに成功する。 鬼の右腕の筋肉が盛り上がり、アムルタートに向け高速で振るわれる。 黒い布がアヤカシを幻惑するかのようにひるがえり岩のような拳が空振りするが、拳は何度も振るわれ振るわれるたびに踊り手に近づいていく。 「残念♪」 雪のように白い顔に甘く艶やかな微笑が浮かぶ。 その笑みが何を意味しているか理解するより早く、鬼の意識は後頭部から伝わってきた衝撃に刈り取られ闇の中に中に消えた。 「いえ〜いコンビプレー♪」 アムルタートがびしっと手を伸ばすと、鬼が変じた瘴気の中から鷲獅鳥の前脚が伸びアムルタートの手に触れる。 この鷲獅鳥は、主人がアヤカシを引きつけている間にアヤカシの背後から奇襲を仕掛けたイウサールである。 「あっちの警戒はお願いね」 イウサールは機嫌良くひと声鳴くと、翼を羽ばたかせ植林作業の現場の反対側へ向かった。 「既に終わっていましたか」 中空から駿龍が降下し、その背から朽葉・生(ib2229)が降りてくる。 生に気付いた作業員達はわざわざ帽子を脱いで挨拶をする。 危険地帯であるはずの砂漠をあまり苦労せず渡れた要因が何か、みな分かっているのだ。 「だいじょうぶ?」 アムルタートに顔を覗き込まれた生は、ほんの少しだけ視線を逸らした。 「はい」 砂漠内の道標に風除け用石壁を設置した練力は支給された回復アイテムで補ってはいるものの、陽光と風にさらされ続けた生の消耗は激しい。 「おう、ようやく見つかった」 2人の開拓者のもとに、目だけを布の隙間から覗かせた大男がやってくる。農業技術に造詣が深い造園業者だ。 「一応注文のを組んでみた。確認してくれ」 「わーい♪」 大男の指さす方向にアムルタートが駆け出し、生は騎龍のボレアに水を与え木陰で休むよう指示してから彼女を追う。 2人が訪れたのは、人工湖建設予定に隣接する場所だ。 風除けの石壁に囲われた区画には肥えた土が厚く積まれ丈の低い草がまばらに生えている。石壁の外側に目を向けると、乾燥に強いサボテン類が強い風に耐えている姿が見える。 「ジプシーの嬢ちゃんが言ってたのを植えたり移植してみたが、成否が分かるには時間がかかりそうだ」 この場所の気候についての情報がほぼ無い以上、どれだけ技術があっても手探りになる部分が多くならざるを得ない。 「道を造った旦那の方は…」 造園業者が一瞬迷いを見せる。 「牧草は生える。というか生えた。主食となるもんの栽培は正直分からん。麦や米が作れるとしても安定して生産できるようになるまでどのくらいかかるかは…」 数年から十数年かかる可能性もあり得る。それが専門家の結論だった。 生達は保存食の堅焼きパンと乾し肉、そして実験農場でとれた野菜で昼食をとると、午後の仕事にとりかかった。 ●工事 玲璃(ia1114)とエラト(ib5623)。 ジルベリア風と天儀風という違いはあるが、いずれも滅多にお目にかかれない麗人である。 そんな2人が持つのは柄まで金属の鍛造つるはしだ。極端に大きいわけではないがとにかく頑丈な作りであり、重量も非常識なほどある。常人なら持ち上げることも難しいそれを、2人は平然と振り回していた。 つるはしの扱いの見本は少し離れた場所で工事を行っている作業員であり、振り回す速度も見本とほぼ同じだ。しかし岩につるはしの先端が命中した際に削れる体積は、2人の方が2桁ほど大きかった。 「えっ…えっ?」 大岩に刻まれていく2つの割れ目と2人の麗人を見比べ、体格は良くても経験は浅いらしい作業員が惚けたような顔になる。 「おい若ぇの。余所見せずに手ぇ動かさんかい」 現場監督が巌のようにごつい拳を振り下ろすと、作業員達は痛みに顔をしかめながらも必死の表情でつるはしを振るい始める。その背後では彼等程体格は良くないものの熟練を感じさせる男達が砕かれた岩と土砂を大型の荷車に積み込み巨大な窪みの外へ運び出していく。 「おや?」 唐突に玲璃の手が止まり、わずかに目が細められる。 現場監督以下大勢の作業員が固唾を呑んで見守る中、玲璃は術の発動により体をほのかに光らせながら口を開いた。 「5歩程掘り進めたところ出てくるかもしれません」 「総員退避ー!」 監督の大声での警告が発せられると同時に作業員が道具を持ったまま整然とその場から離れ始める。人工湖の工事が始まってから退避はこれで5度目だ。最初は混乱して怪我人さえ出たのだが、今ではもう慣れたものだ。 「またかい」 げっそりした顔のアルバルクが大型木槌片手に駆け寄ってくる。 岩陰で待機していた騎龍のサザーは比較的元気そうではあるが、玲璃に付き合っていた人妖の蘭などは気品のある所作でも隠せないほど疲れが見えている。全ては急すぎる工事と頻繁すぎるアヤカシの襲撃の結果だった。 「アギオン、あなたは夜に備えるため水場で休憩していなさい」 エラトはつるはしをその場に置きリュートを取り出しながら、人工湖の端から疲れた顔を出した己の騎龍に命じる。アギオンはどこか人間くささを感じさせるうなずきを返してから、水場に戻り移植されたばかりの椰子の木の根元にうずくまり、木陰で眠りに落ちる。 周囲が慌ただしく動く中、玲璃は規則正しくつるはしを振り下ろしては大岩の亀裂を大きくしていく。 人間と朋友達が固唾を呑んで見守る中、玲璃の一撃が岩を大きく壊しその下にいたものを解放する。 濃い瘴気が小さな石と砂を吹き飛ばしながら吹き上がり、かつてこの地で倒れた者の無念にでも反応したのか、怨念にまみれた巨人として形を成していく。 「弾をくらわしても効いてる気がしねぇ」 銃口から煙をあげているエレメンタルロック式短銃を片手に持つアルバルクが逆の手をあげると、予め指示されていた作業員が数百メートル離れた場所で火種を乾いた草の山に突っ込む。油をぶっかけられたそれらは激しく燃え上がり、猛烈な勢いで狼煙があがりアヤカシの来襲を周辺全域に知らせる。 瘴気の噴出口から飛び退いた玲璃が着地すると同時にエラトの演奏が始まり、成人男性2人分以上の背丈を持つ歪な人型が姿を現したときには、強制的な眠りに誘う曲が完成していた。 ほぼ全ての巨人が眠りに落ちてはいたが、1体だけは健在だった。 「畜生、百発百中とはいかねぇか。引き際を間違えるんじゃねぇぞサザー!」 駿龍に騎乗したアルバルクが曲刀を手に身を低くしながら突撃を開始する。鋭く振られた刃は限界を超えて発達した筋肉の鎧に傷をつけ、サザーの放つ火炎は怒りの形相を浮かべた巨人の顔を焼く。 しかしアヤカシの動きは微塵も鈍らず、力任せのくせに異様に様になった蹴りがアルバルクとサザーに襲いかかる。 「やりやがったなこの野郎!」 自身の血にまみれながら、アルバルクはアヤカシの目の前に留まって何度も刃を振う。彼が一際大きく刃を振り上げたとき、絶好の攻撃の機会と捉えた巨人は刃が振り下ろされるより早く全力の一撃を繰り出す。 が、刃を振り上げたまま全力で後退したアルバルクにより、全力で空振りさせられてしまう。 そして、死に体になった巨人の頭上から人騎一体となった将門が急襲する。 早すぎて切っ先が分身して見える一撃がアヤカシに振り下ろされ、振り切って刃が再び1つに見えたときには巨人の首が宙を舞っていた。 将門と妙見は振り切った状態から即座に体勢を立て直し残りの敵に向き直るが、未だに眠りに落ちていることを確認して動きを止める。 「いてて。あまりやりたい手じゃねぇな」 健在なアヤカシに攻撃を仕掛けることで同属を目覚めさせることを防いだアルバルクは、蘭の治療を受けながらぼやいていた。 そこへ狼煙に気付いた生が到着し、慎重に間合いを計り、ブリザーストームの攻撃範囲に全てのアヤカシを入れられる位置に移動し、将門達に護衛についてもらった上でブリザーストームを連続で発動させる。 強力な戦闘能力を持つアヤカシ達は1度や2度の術では倒れなかったが、生の前に展開する開拓者達を突破できないま20秒近く冷気と吹雪で攻撃されると限界を超え次々にもとの瘴気に戻り霧散していくのだった。 ●城跡 非志体持ちではあるが軍隊経験のある作業員達を引き連れ、鴇ノ宮風葉(ia0799)とルオウ(ia2445)は瓦礫の山の中に突入した。 崩れ落ち石材で埋まっていたはずの通路は太い木材で補強され通路としての形を取り戻しており、補強が途切れた場所には壁や床から石材が剥がされた跡があった。 「どこに何が埋まっているのか分かる?」 剥がされた跡を指さし現場監督の1人にたずねるルオウの顔色は、夜光虫の弱い光に照らされていることを考えに入れても悪すぎた。 「ルオウ。あんた大丈夫?」 珍しく心底から心配する声をかける風葉に、ルオウは元気に返事をしようとして失敗した。 ルオウに付き従う白い猫又も、外とは違い一定の過ごしやすい温度が保たれているためうつらうつらと船を漕いでいる。 「まだいけると思うんだけど」 工事現場の周辺を休み無く動き回ってアヤカシを狩り続けていたルオウは、暑くもなく寒くもない場所を訪れたことで一気に疲労が吹き出してきたことを自覚していた。 「今度にしますか?」 わずかに残念そうな様子はあるが、ここ数日のルオウの奮闘を知っている現場監督は控えめに提案する。 「ルオウは地力があるから安全第一に行けば大丈夫でしょ。個人的にはゴーレムが視界の9割を埋め尽くすような大勢で来たりして欲しいけど」 「お嬢、不吉なこと言わんといてくりぃ」 管から姿を現した三門屋つねきちが思わずツッコミを入れる。開拓者の存在に安心して資材の回収と運び出しを行っていた面々は、風葉の言葉を聞いて震えあがっていた。 開拓者の助けを得られない場合、サンドゴーレム1体がこの場に乱入した時点で全滅必至だからだ。 「ま、いいわ」 風葉は不敵に笑って場の空気を変える。 「ここの地下に空間あるんでしょ? 宝物を隠すなら地下! 王道よね…!」 好奇心できらきらと輝く瞳を向けられた監督は、一瞬笑顔につられそうになったが基本的に渋い表情を崩さなかった。 「お勧めはできません。アヤカシがいるかどうかもいたらどう動くかも全く分かりませんが、そこの旦那が全力で動けば補強の柱なんてあっという間に折れます」 「呼んだ?」 連日の激務で疲労がたまっているルオウは、反応が通常より明らかに鈍くなっている。 「意見具申に感謝するわ。という訳でよろしくね」 「覚悟はしていたがきついことを言う」 つねきちは器用に肩を落としてから、一瞬煙と光を発生させつつ周辺の気配を探る。 ルオウは何かしていないと居眠りをしかねないと判断したらしく、作業員の先頭に立って建材を引っこ抜く作業を始めていた。 「うむ。ひかっかったぞ。そこに穴を開ければアヤカシと御対面…」 つねきちが言い終わるよりも早く、もともと超人的な腕力を持つルオウが練力を使いさらに力を増し、非常識に重くて長い倒れた柱をたった一人で抜き取っていた。 ぽっかりと空いた空間からわき出てきたのは、人のものにしては大きすぎる髑髏だ。 「がしゃどくろかその変種?」 疲れがたまっていない風葉の反応は早かった。 符を放って龍型の式を呼び出し、指向性のある凍てつく息を穴に向け叩きつける。 巨大な髑髏は巨大な骨の手を突き出してくるが、強烈な冷気におかされ見る間に崩れ落ちていく。 冷気は巨大な骨以外のアヤカシも倒してしまったらしく、穴の奥からは霧散していく瘴気の残りかすのようなものが大量に流れ出てくる。 その場はルオウを殿に撤退をし、後に開拓者のみで穴の奥を探索したところ、そこには何の変哲もない空の地下室があるだけだった。 「濃厚な瘴気がたまたま溜まっていただけ?」 風葉はさらに詳しく調べたい様子だったが、開拓者がいる間にできる限り工事を進めることを目指した者達により食料と資材の不足が発生したため、開拓者達は作業員達と連れだって帰路につくことになるのだった。 |