【城】城と農地の蜃気楼
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/15 05:40



■オープニング本文

●水の城
「水源を中に抱え込んだ城って素敵だと思いません?」
 追い詰められ、やけくそになった係員が発した言葉が、その後の事業の方向性を決定した。
「何?」
 アヤカシと見紛うほどの憎悪と狂気をまき散らしていた老人が、一瞬ではあるが惚けたような表情になる。
 重圧から解放された係員は脳を全力稼働させて売り込みの言葉をひねり出し、もつれそうになる舌を必死に動かしていく。
「城内に水路を通すとか池をつくるとかしましょう。ひょっとしたら天儀にはそんな城もあるかもしれませんが、アル=カマルでは多分史上初めての城ですよ。すっごい評判になるんじゃないでしょうか」
 普通、思いついても実行はしないし口にもしない。
 大富豪がプールを持つのは有りかもしれないが、水が貴重なアル=カマルで大量の水を城の装飾にしてしまうのは、いくらなんでも限度を超えてしまっているからだ。
「お前は」
 老人の口から低い笑い声がこぼれる。
「ただの馬鹿ではないと思っておったが、案外儂を上回る悪党かもな」
「あ、あは、あはは」
 係員は恐怖のあまり涙腺を決壊させながら、必死に作り笑いを浮かべるしかなかった。


●依頼票に記載された情報
・目的
 最終目的はアヤカシが占拠する地域に城を建てることです。
 アヤカシの討伐、現地の調査、移動や長期調査を容易にするための拠点整備など、最終目的に近づくための結果を少しでも出せれば、その時点で依頼は成功となります。

・新規事項
 城造りのために必要となる各種職人と、農業を専門とする技術者を合計20名まで連れて行くことができるようになりました。
 全員非志体持ちですので、戦闘に巻き込まれた場合は死亡する可能性が高いです。5人以上死亡すると依頼は失敗扱いになりますのでお気を付け下さい。

・現地状況
 直径数十キロに達する、だいたい円形の砂漠地帯です。
 気候は厳しく、日光と暑さと夜間の寒さへの対策を行っていない場合、思ったように動けないかもしれません。
 中心付近に古城が存在し、そこから数キロ離れた場所に水場があり、水場から砂漠の外に向かって転々とストーンウォールによる目印が続いています。
 水場を中心に徹底的なアヤカシ退治が行われた結果、水場から大量の水が溢れ出して池が出来ました。軽く煮沸するか濾過すれば飲用水として使用可能で、当然農業にも使用可能です。池は整備されていないため、土砂や砂が崩れたりして大きさが一定していないようです。
 砂漠内に設置された目印はアヤカシにより少しずつ破壊されていっています。以前に比べれば破壊される速度は低下していますが、開拓者の護衛無しで移動するのは自殺行為なレベルでアヤカシが出没しているようです。
 古城は半壊していますが、職人を連れて行った上で作業に協力すれば、新たな城に転用可能な資材を取り出せると思われます。生き残りのアヤカシが潜んでいる可能性があります。

・確認済みアヤカシ
 砂人形(デザートゴーレム)。砂漠で登場する、全高3〜4メートルの、砂漠から上半身を出した巨人風の形状のアヤカシです。人間には劣るが比較的高めの知性、砂に紛れやすい体色、顔に埋め込まれたコアを破壊されない限り復活可能という面倒な要素を多数持った相手でもあります。 場所によっては数十体まとめて登場します。

 サンドワーム(大砂蟲)。最小でも全長10メートルに達する大型生物です。破壊力と全体的に高い能力に高速を兼ね備え、遠距離攻撃手段と砂中に潜る能力を持つ凶悪な存在です。未調査領域に存在する可能性があります。

 凶光鳥(グルル)。希に飛んできます。高速と高い命中力が特徴ですが、能力全体が高く射程40数メートルの怪光線まで飛ばしてきます。

 怪鳥。0.5〜1メートルの鳥型アヤカシです。全体的に能力は低く、知性は鳥並みです。全域で登場する可能性があります。超遠距離では凶光鳥と見間違う可能性が少しあります。

 小鬼(ゴブリン)。強力なアヤカシの群にひっそりと混じっていることがあります。

 狂骨(スケルトン)。古城調査中に現れました。工事や開拓で遺跡等を掘り当てた場合、ついでに現れる可能性があります。

・城建設
 職人を連れて行った場合、今回は現地調査と、余裕があれば古城から資材の調達、拠点の設営等が行われます。

・農業
 技術者を連れて行った場合、今回は現地調査を行います。
 大量の肥えた土が砂漠の近くの村に運び込まれており、これを水場まで運び込むことができれば今回種をまくことが可能です。土は開拓者が移動させるたびに補充されます。

・その他
 武器防具と練力回復アイテム以外であれば、余程高価なもので無い限り希望した物全てが貸し出されます。拠点を作る目的で使用する者に限り、練力を5回全回復させられるだけの練力回復アイテムが無料で支給されます。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
エラト(ib5623
17歳・女・吟
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文

●ワンダリングモンスター
「来ておる」
 三門屋つねきちはぴくりと耳を動かすと、エラト(ib5623)に対し方向と距離を伝達する。
 駿龍と共に飛び去っていくエラトの背を見ながら、つねきちは主人である鴇ノ宮風葉(ia0799)からこめかみをぐりぐりされていた。
「お嬢、時間がないのじゃから仕方あるまい」
「分かっているわよ」
 エラトが何も無い砂地に連続で重低音を投げかける。
 最初は砂の表面がかき乱される以外の変化はなかったが、徐々に地面が細かく揺れ始め、やがて地面全体が盛り上がり黒々とした巨体が姿を現す。
「はぐれサンドワームっ!」
 開拓者の護衛されている職人と技術者達が恐怖で蒼白になる。
 が、護衛を行っている風葉は今にも欠伸をしそうな、つまらないものを見る視線を巨大生物に向けていた。
「そろそろね」
 サンドワームの頭上で旋回中の駿龍アギオンから、戦場の雰囲気を安らぎにみちたものに塗り替える演奏が聞こえてくる。
 黒の巨体は徐々に動きを緩め、膨大な量の砂煙を巻き上げながらその場に倒れ込んだ。
「充填充填。射撃射撃」
 風葉が3枚の符を放つと、符はそれぞれ黒い炎を発して消失し、凶悪という表現ではとても足りないものを呼び寄せる。
 術に対する適性も知識もない者達でも感じられてしまうものがこの世に現れ、巨大生物の生命を大きく削ぎ取ってからその気配を消す。
 それが2度繰り返される。
 たった2度の術で、アル=カマルにおいて自然災害扱いされることもある巨大生物は完全に息の根を止められていた。
 恐怖と絶望で頭が真っ白になっていた者達が、徐々に現状を認識し始め、徐々に歓声が大きくなっていく。しかし偉業を成し遂げた本人は数十メートル先のサンドワームから飛んできた砂を払うのに専念していた。
「今日も砂の上、髪はじゃりじゃり、靴の中もじゃりじゃり。…はぁーぁ…」
 行軍中では髪の手入れは難しい。つねきちを偵察と警戒に使いながら、風葉は面倒臭そうな表情でため息をついていた。
「はいはい騒がんでください。この程度で驚いていたら身がもたねぇですよ」
 アルバルク(ib6635)は数度手を打ち鳴らして職人達の意識を引きつけると、駿龍に乗ったまま先導を再開する。片手で器用に望遠鏡を持ったまま、片目は水場がある方向に、もう片方の目は主に上空に意識を向けていた。
 それだけでは周囲への警戒が足りなさそうだが、今回は玲璃(ia1114)と鳳珠(ib3369)の2人が協力し、瘴索結界「念」をほぼ途切れなく発動させている。
 この状況で不意打ちを受ける可能性は非常に低いだろう。
「今回は特に、アヤカシが現れないのを祈りたくなりますね」
 駿龍と共に滞空中の鳳珠がつぶやくと、霊騎に騎乗中の玲璃が心から同意する。
「はい。生死流転は好んで使いたい術ではありませんから」
 優れた癒し手であるが故に癒しの術の限界を知る巫女達は、警戒を優先して視線をかわすこともせず、小さな声で話していたのだった。

●巨大陣地
「お初にお目にかかります」
 ジルベリア風の帽子を下ろすと、最高品質の絹のような銀髪がふわりと広がった。
「私はジークリンデと申します。宿営地の警備の担当は私が主に担当いたします。城や周辺の調査を行う際はご面倒でも私を含む開拓者に声をかけてくださいませ」
「俺はサムライのルオウ! よろしくなー。アルバルク…そこのおっちゃんと組んでアヤカシの駆除をしてるけど、言ってくれれば護衛につくんで遠慮無く言ってくれよな」
 ルオウ(ia2445)の元気な言葉に対する返事はなかった。
 彼に対する隔意故の行動ではなく、あるものの影響だ。
「宿営地兼資材置き場として軽く組んでみたのですが」
 ジークリンデ(ib0258)の背後には、一辺5メートルの正方形の石材が無数に組み合わされた、幅半キロメートルに達する巨大陣地があった。
「アル=カマル建築に関する知識が乏しいのでジルベリア基準での建築になってしまいましたので、ご満足いただけないかもしれませんが」
 ジークリンデは端正な美貌をわずかに曇らせ、本心から発言する。
「い、いや。既に築城が始まってるんじゃないかと思ってしまい…。不満は一切ないですよ」
 普段は数百人に達する部下を統率している大建築家が、借りてきた猫のように大人しい返答を返す。
 大規模開拓に一口噛んで美味しい目をみようという思惑も、己の腕を試したいという欲求もあった。しかし目の前にある巨大建築物は分不相応の望みを吹き飛ばすだけの強烈な存在感を放っており、職人や技術者を武力ではなく技術と物量で威嚇していた。
「食料と寝具は既に運び込んでいます。確認をお願いします」
 ジークリンデは完璧に礼法に沿った所作で、あくまでも穏やかに来訪者達に対している。
 極上の美女を前にすれば直接的な欲望を露わにする者が現れそうなものだが、巨大建造物を単独で創り上げる術者に対しそのような真似を出来る者はこの場にはいなかった。

●道
 駿龍の光陰と共に飛行中だった鳳珠は、知っている顔に気付いて速度を緩め、砂漠へ降下を開始する。
 目印と表現するには立派すぎる気もする建造物の近くで、朽葉・生(ib2229)がアヤカシの痕跡が無いかどうか調べていた。
「作業は順調ですか?」
 鳳珠が声をかけている間、光陰は両足で掴んでいた分厚い麻袋を地面に落とす。中身は数日前まで現役の農地で使われていた土だ。個としては強力であっても種としては重量物運搬に向かない光陰にとっては手強い荷物である。
「はい。被害が無かったので補強と数の増強を進められそうです」
 生は待機していた駿龍ボレアの背に跨り、光陰の荷を1つ分けてもらいボレアに任せる。
「ここまでくれば…」
 生の胸中には安堵に近いものがある。
 城を建てるためには資材も労働力も大量に必要であり、それらを運び込むためには給料以外にも多くの物が必要になる。水や食料や給金も必要だが、そもそも工事現場にたどり着けなくては全てが画餅と化す。
 長い時間をかけて生が造りあげた大量の目印は、アヤカシさえ現れなければガイド抜きでの砂漠の往来を可能とし、資材と労働力の移動の際の困難を大幅に低減するだろう。
「アヤカシもおそらくここには」
 生の言葉を遮るかのように、地平線の向こう側で土煙が発生し、数秒後に爆音が届く。
「ここには、現れる可能性が低いでしょう。少し離れればまだまだ討伐が必要かもしれませんけども」
 生は気を引き締め直すと、戦場に向かって飛んでいくのだった。

●城の近くの戦場で
「メテオストライク連打って自重しない威力があるわね」
 ジークリンデが一網打尽にしたアヤカシ部隊の痕跡、というより単なるクレーターに視線を向け、風葉はのんびりとつぶやいていた。
「黄泉より這い出る者を複数回ぶっ放した嬢が言って良いセリフじゃないわな。…来るぞ」
 クレーターの底の砂が消える。
 おそらく地下に空洞があったのだろうが、それを確認する時間は無さそうだ。
 穴から吹き出す高濃度の瘴気が次々に形をとっていき、荒れ狂う炎をまとった巨人が姿を現したのだ。
 ジークリンデは全く油断しておらず、十数体の強力なアヤカシに対し、一息で4つの爆発を叩き込もうとする。が、彼女の背後から慌てた様子の声がかけられた。
「すみません! それ以上大穴を開けると城の下の地盤が崩れかけます! 城からは超高級建材を切り出せそうなんで出来れば」
 警護されていた技術者からの必死の言葉に、ジークリンデは少しの無念さを感じながらアイシスケイラルでの攻撃に切り替える。管狐のムニンも攻撃に加わるものの、範囲攻撃手段が封じられているので効率はあまり良くない。
 ルオウが相棒の猫又を置いてアヤカシの集団に突撃し、咆哮、回転切り十数回、咆哮、回転切り十数回という流れで強引に接近戦を強要し、ジークリンデの攻撃で脆くなったアヤカシ達の数を一気に減らしていく。時々成敗!の決めポーズを披露しているのだが、アヤカシの密度が高すぎて仲間にも非戦闘員にも気付いて貰えない。
「砂漠の地下に何があるってんだ?」
 アルバルクは、濃い瘴気の切れ端から変じた怪鳥を処理しながらうなる。
 とにかく数が多いため、短筒に装填された弾を撃ち尽くしてからは再装填に必要な時間を惜しみ、駿龍サザーと共にアヤカシとの肉弾戦を行っている。
「遅れました」
 非戦闘員を安全地帯まで下がらせたエラトが、天儀における炎鬼に相当するアヤカシに強制的な眠りを贈る。
 そうなってしまえば後は楽なもので、ルオウがその場を飛び退き、生が地面に衝撃を与えないよう角度を調節してから強烈な吹雪を吹かせ、狭い範囲に密集していた巨人達をまとめてもとの瘴気に戻す。
 アヤカシからただの瘴気に戻ったそれは、ただのそよ風に負けて吹き散らされて消えていくのだった。
「いてっ、こっちもなんとか終わったぜ」
 空での戦いを終わらせたアルバルクが、自分の肩をもみながら地面に着地する。
「この場から感知できる範囲にはアヤカシの反応はありません」
 玲璃は緊張感を保ったまま、瘴索結界「念」で見た結果を報告する。
「入ってみようぜ!」
「中に遺跡があれば一攫千金! ついでに城の補修代その他諸々もげっとよ!」
 ルオウと風葉が嬉々として穴に向かう。
「待って下さい! その穴、おそらく少し振動を与えただけで崩落します。念入りに補強すれば調査できるかもしれないですけど、専用の資材がないですから補強工事が完了するより崩落が先になりますよ」
 技術者が自身の知識と誇りにかけて警告する。
「ちぇっ」
「つまんないー」
 ぶーぶーと大人げなく文句を言う2人を、必死に宥めるのだった。
 技術者の予測はあたり、数十分後に再度開拓者が確認したときには穴は完全にふさがり、直径数十メートル深さ数メートルの窪みが出来ていた。
 依頼期間中につねきちが探った結果、水場と城の周辺にはいくつか地下空洞が存在する可能性があることが判明した。

●農業のはじまり
「芽が」
 鳳珠は帰還予定日の早朝に水場を訪れ、黒々とした土の中に緑をみつける。
 専門家が風と夜間の寒さの対策を十分に施した結果、二十日大根の芽が元気に顔を出したのだ。
「放置して最後まで育つかどうかは分かりませんが、これでここで農業をやっていけることは確実になりました」
 農業技術者が静かに断定する。
 鳳珠は優しい笑顔で緑の芽を撫で、いつもより軽い足取りで砂漠を後にするのだった。

●計画決定
「そこまでやるのですかっ?」
 開拓者ギルド係員は、玲璃の提案に疑問と拒絶の声をあげる。
 しかしその有効さは理解できたため、数秒後に玲璃に謝罪をしてから提案を全面的に受け入れることを告げた。
「依頼人の名と姿を消すことが農地の崩壊に繋がる構造にすれば良い、ですか」
 涼しげな微笑みを浮かべる玲璃に視線を向けながら、係員は己の才の限界を強く感じていた。
 陰謀を巡らすことも武力を用いることもなく、単に技術と資材と労働力を組み合わせることで目的を達成する。言うのは簡単でも実行はまず不可能なはずの解決手段を、玲璃は実現可能な形で提示していた。
 依頼人の姿や名前を刻んだ部分を壊したり削った時点で機能が停止する灌漑施設を作る。手間と技術は必要だろうが、依頼人の資産があれば実現可能だ。
「いえ、そこまでは言っていないのですが」
 玲璃は礼儀を保ったまま、明らかに困惑の表情を浮かべていた。
 穏健かつ真っ当な計画案を提出したのだが、最近依頼人に毒されてきているらしい係員は良く言えば現実的に、悪く言えば悪意に満ち倫理に欠けた合理的解釈を行ってしまったらしい。
 玲璃としては人の善意や誠意の重要性を説きたいところだが、若くない係員を説得するのには時間がかかるだろうし、この計画がそのまま採用されても実行の段階で玲璃を初めとする開拓者が関与すれば穏健な内容にすることは十分に可能なので、今ここで間違いを正すことは諦めることにした。
「多分、いえ、確実にあなたの計画案が採用されます」
 依頼人にとっての理想的な解決手段が示された以上、先の長くない依頼人は文字通り全てをこの計画につぎ込むことになる。
 そう断言した係員は、突然腹を押さえて脂汗を流し始めた。
「大丈夫ですか?」
 介抱しながら玲璃がたずねると、係員は強張った顔に無理矢理笑みを浮かべた。
「あ、はい。大丈夫です。多分」
 係員のさほど出来の良くない頭が頑張った結果、ろくでもない展開予測が弾き出されたのだ。
 依頼人は城の完成にしか興味が無くなり、己の命もその後のことも無視して動く可能性が極めて高い。つまり、そう遠くないうちに依頼人もその財産も消え、城と農地だけが残ることになる。
 まともな部族長や貴族なら係累に継がすか国に献上するのだろうが、人間不信が極まっている依頼人がそれを是とする訳がない。しかし農地の放置は絶対に許されないため、誰かが城と農地を管理しなくてはならない。
 運転資金ゼロの城と農地を管理しながら依頼人の係累や後継者を詐称する欲深から暗殺者が差し向けられたりするであろう管理人の座が誰のもとに転がり込むか、係員はこれ以上考えたくなかった。
「エラトさんから報告書を受け取ってからアル=カマルに行ってきます。今回もありがとうございました」
 係員は最敬礼に近い礼をしてから、ふらつく足取りでギルドの個室から出て行くのだった。