【北戦】矢弾を運ぶ先
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/14 04:44



■オープニング本文

 広範囲のアヤカシをまとめてなぎ倒せる術使いや、単身で強大なアヤカシを打倒する武者は確かに存在する。
 しかしそういう強者の数は極めて少なく、数の上での主力は今も昔も変わりなく凡人である。
 凡人が強さを身につけるためには組織と戦術が極めて有効で、それらを成り立たせるためには物資が不可欠だ。
 その中でも特に重要なもののひとつが矢弾である。

●依頼人
「武具を大量に扱っているから恨まれることはありますがね。あっし個人がアヤカシに狙われる原因に心当たりはありませんや」
 上等な生地をあえて下品に仕立てたものを着込んだ男が、疲れた顔に途方にくれた表情を浮かべていた。
 店の近くにアヤカシが現れ、店に押し入り彼を追いかけ回したのだ。
 幸いなことに巡回中の浪士組隊士が助けに入ったため彼にも彼の部下にも被害はでなかった。
 しかし店舗には大きな被害が出ており、新規の取引どころか既に注文をうけた品を納めることすら難しくなっている。
「お偉いとこから大口の注文をうけてますんで、時間をかける訳にもいきやせん。店と倉庫にアヤカシがいるかどうか確かめて、いたら完全に駆除してくだせえ」
 店の床に散らばった証文等を開拓者が目にしてしまう可能性があるが、内容を口外しないなら店主としては問題にする気はないらしい。
「刃物や弾薬の管理はしっかりやってやすが、万一アヤカシがいたらどうなっているかわかりやせん。くれぐれも気をつけて…可能な限り商品には傷つけないようにしてくだせえ」


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
山羊座(ib6903
23歳・男・騎
射手座(ib6937
24歳・男・弓
魚座(ib7012
22歳・男・魔
アリス ド リヨン(ib7423
16歳・男・シ


■リプレイ本文

●仮店舗にて
「失礼しますっす! この度、屋敷のアヤカシ掃討を請け負いましたアリス・ド・リヨン。シノビっす。どうぞ宜しくお願いするっす!」
 びしっと敬礼を決めたアリス・ド・リヨン(ib7423)を見た依頼人は、礼儀正しく頭を下げ礼を返す。
「この度はお世話になりやす。実は北面の方々からもせっつかれてやして、依頼をうけて頂けなければ倒産で済めば御の字のという状況でして」
 はっはっはと笑いながら、洒落になっていない状況を説明する依頼人であった。
「魔の森近くでの大騒ぎに対応するための荷もあるということかしら?」
 葛切カズラ(ia0725)がたずねると、依頼人は無言で頭を下げる。
 立場と契約上言えないということなのだろう。
「面倒な状況で面倒なことになってるわね〜〜」
 カズラは小さく息を吐くと、依頼人から見取図を受け取り、急遽開設された仮店舗の一室に詳細で大きな見取図を広げる。
 鳥瞰図で見ると、一見地味で貧相に見える建物と庭が、実は籠城まで配慮された強固な防御施設であることが分かる。
「アヤカシ襲撃時の状況を詳しくお教え願えますか。できれば従業員の方からも」
 アリスが真面目な表情でたずねると、依頼人は快くうなずいて軽く手を鳴らす。
 すると帳場に通じる扉が開き、筋骨隆隆としか表現しようのない大男達が顔を見せる。
「お頭、ご用ですかい?」
「口調!」
 依頼人がきつい口調で叱責すると、男達は慌てて威儀を正し粛々と入室してきた。
「お騒がせしました。何なりと聞いて下さい」
 依頼人の笑顔は、本人の努力も空しく非常にうさんくさく見えた。
「それでは…」
 現れたアヤカシについて、覚えている事を出来るだけ詳しく。
 依頼人が追い回されたのか理由について、憶測でも良いから教えて欲しい。
 そうアリスがたずねると、悪趣味な着物を除けば特徴のない商人と、堅気には見えない体格の良い従業員達は一切隠し事をせずに答えていった。
 アヤカシについては、人間ではない妙な気配を感じた時点で逃げたのでよく分からない。2本の足で歩いていた気もするが正直自信がない。目撃情報を総合すると最低で5体程度はいそう、という証言が行われた。
 依頼人が追いかけ回された件については、陰湿かつ凶悪な嫌がらせをする商売敵の心当たりは複数あるものの、アヤカシと手を組むという最低限の一線を越える相手の心当たりはないらしい。
「そうなるとアヤカシが自発的に動いたということだな」
 山羊座(ib6903)がそう発言すると、彼をマスターと仰ぐアリスだけでなく、開拓者全員がそれぞれ肯定の意を示す。
「知恵のあるアヤカシに直接狙われてるってことですかい。あっしも出世したもんだ」
 小物ぶった仮面の裏側から、商売という過酷な戦場で勢力を築いた男の素顔が垣間見えた。
「依頼人殿。襲われたときに来ていた服を貸して欲しい。依頼人殿が狙われているならそれで囮になれるかもしれない」
「承知いたしやした」
 依頼人は山羊座の要請を快く受け入れる。
 大柄な山羊座からするとかなり小さいものの、幸い上から羽織っても違和感がない作りだったので山羊座が身につけることには問題なかった。
 しかし。
「あーーーっははははは!」
 射手座(ib6937)が痙攣する腹筋を抱えながら、堅い床をばんばんと叩く。
「プッ」
 魚座(ib7012)は自分の口を手で塞いで笑い声を押さえ、息を止めたまま外に出て行く。それから数秒後、けらけらと腹の底から笑う声が小さく聞こえてくる。
「この服似あう?」
 至極真面目に問いかける山羊座から、その場に残った全員がそっと視線を外す。
 冷静沈着、質実剛健、実力主義という言葉が似合う彼が下品で小物じみた衣装を身にまとうと、罰ゲームを強制されたか滑った隠し芸にしか見えなかった。
「おーい」
 誰もが居たたまれなくなる雰囲気の中、悪意のない笑いの二連奏がいつまでも響いていた。

●襲撃
 三度弦を鳴らすと、射手座は2度の索敵の際と少しだけ異なる索敵結果を得た。
「どうっすか?」
 敷地の外で警戒する浪士組との打ち合わせを終えたアリスが顔を見せると、射手座は難しい顔をして地図を広げた。
「鏡弦に反応したりしなかったりする程度のアヤカシが5体ほどいる」
「わー。射手座様がやってそれってことは、俺から見て明らかに格上っぽいですね」
 アリスはとほほと声に出して天をあおぐ。
「中に入り込まれている蔵は1つだけのようね。弾薬庫は無事の様だし、仕掛ける?」
 射手座が書き込みをした地図を見て、カズラは淡い笑みを浮かべて提案する。
「承知した」
 山羊座は依頼人から無料で譲り受けた下品な外套を身につけ、力強い足取りで敷地内に侵入する。
 彼とつきあいの深いアリスと星座達は、何も言われなくても各々の配置につきアヤカシの衝突に備える。
「あれ? 前衛オレだけ?」
 ようやくそのことに気づいた山羊座が厳しい表情のまま軽い口調でつぶやく。
 作戦を微修正しようかとも考えたが、残念ながらアヤカシの方が反応が早かった。
 半壊した家屋の破損箇所や、蔵の上部についた格子付の小さな窓などから、不定形のものが姿を現し向かってくる。
 幽霊という下位のアヤカシにしてはかなりの速度だったが、山羊座が抜刀し振り抜く速度はそれを上回っていた。
 鋭い呼気ともに放たれた細身の刃は、朧気な人影を十字に切り裂きこの世から消滅させる。
 趣味の悪い割に目立つ外套につられたのか、あるいは他の人間に気づけないほど鈍いのか、総勢で10を超す幽霊が山羊座に向かってくる。
 射手座が誤射をしなよう良く狙った上で放った赤い矢が、宙に浮かぶ幽霊を刺し貫いてただの瘴気に戻していく。
「山羊にーさん、がんばってー♪」
 魚座の陽気な声が響き、声とは対照的に無慈悲な雷が幽霊を複数滅ぼす。
 しかしもともとの数が多かったため、無傷の幽霊が前後左右から山羊座に襲いかかる。
「クックックッ」
 体の各所を痛めつけられているにも関わらず、山羊座は不気味な笑い声と共に的確に剣を振り続け、ほとんど作業といって良いほど淡々と討伐を完了させる。
 アヤカシが与えられたダメージは、ぼろ切れと化した悪趣味な外套だけだった。
「鍵閉め終わったっすよー」
 いつの間にか蔵の扉にたどり着いていたアリスが大声で報告する。
 開拓者達が到達した時点で破壊されていた錠前は、アリスが持ち込んだ極めて頑丈な錠前に取り替えられて鍵をかけられ、当然のことながら扉も完全に閉められていた。
 外の戦闘に気づいたアヤカシが内側から扉を破壊しようとするものの、武器商人の蔵が短時間で破壊されるほど脆い訳がない。
「あら。遅いお出ましね」
 半壊状態の商家から完全武装の大柄な鬼が飛び出てくる。
 が、カズラが呼び出した禍々しい影により生命力を大きく削られたところへ赤い矢で追撃され、魚座が唱えた呪文により強制的に睡眠状態にさせられる。
「ありすちん、出番よー」
「ちんはないっすよ」
 アリスはがくりと肩を落としてから、眠りこける鬼の急所を時間をかけて探り出し、苦無のひと突きで息の根を止める。
「残りはこの中だけだと思うが、どうする?」
「弾薬庫が近いものね。運び出した方が良いかな?」
 魚座はそう言いながらアリスから鍵を受け取り、念のためカズラに人魂で偵察してもらった上で鍵を開け中を覗き込む。
 中には火気厳禁の張り紙が貼られた大箱が整然と並んでおり、有力貴族から物騒な筋まで、箱に張られた伝票には様々な名があった。
「戸塚? 浪士組関連で聞いたような聞かないような」
 複数の大箱に浪士組の構成員の名前があったが、魚座はすぐに興味を失い扉を閉める。
「運び出すとなると時間がかかりすぎそう」
 生き残りのアヤカシと離れていたら運び出すのも良かったのだけどね、と魚座は言い、生き残りのアヤカシに対する総攻撃を提案する。
「こちらの蔵の中身は筋肉質な鬼が4つよ。特殊な能力は無さそうね」
 カズラは蔵にあった小さな格子付窓から人魂での偵察を行い、その結果を伝える。
「俺が前に立とう」
「いや、多分その必要はないな」
 射手座が視線を向けると、カズラは小さくうなずいて彼の予想を肯定する。
「巣穴に覗き穴があるならそこから射てしまえば良いだろ?」
「蔵の狭さを考えると投擲武器でも」
「当然魔法でもいけるわね」
 山羊座は仲間の会話を聞きつつ奇妙な疎外感を感じながら、蔵の側に転がっている空箱を積み上げて小さな窓の下に足場を作る。
 そこから4人がかりで撃ち出された攻撃は、武器に囲まれた鬼達の頭だけを正確に吹き飛ばし、ほとんど被害を出さずに事態を終息させたのだった。