小鬼に食われた村
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/24 23:01



■オープニング本文

●小鬼
 初陣の開拓者でも打倒可能なアヤカシは複数存在する。
 小鬼もその1つであり、規模が大きな自警団であれば志体持ち抜きでも数体であれば撃退可能だろう。
 小鬼は強くはない。
 しかし小鬼は脅威なのだ。
 小規模な集落では小鬼数体ですら防ぎきれないかもしれない。
 防ぎきれなければ、これまで無数に繰り返されてきた悲劇がもう一度繰り返されることになる。

●終わった事件
「承知いたしました。周辺の村の防衛は貴族の方々が手配されたのですね」
 開拓者ギルド係員は急使の話を聞きながら、休み無く筆を動かしていく。
「はい。問題の村から数名逃げて来ていますが、残りは既に全滅した可能性が高いと」
「速度優先で?」
 依頼を出すために必要な書類を全て整えた係員は、ある貴族から送られてきた急使の前に数枚の書類を並べた。
「はい。予算的にも人員的にも長期の戦力展開は難しく」
 村には生き残りどころか遺体すら存在しない可能性が極めて高い。
 村の無事ではなく、アヤカシの排除を優先せざるを得ない。
「この条件でお願いします」
 急使は、村の焼き討ちも許容する条件での依頼を行うのであった。

●依頼
 小鬼がある村を占拠している。
 放置すれば周辺の村々に被害を与えかねないので、速やかな討伐をお願いする。
 被害をこれ以上広げないために領主が周辺の村に戦力を派遣しているものの、予算の関係でそろそろ撤退せざるを得ない。
 撤退開始は開拓者の現地到着予定日の翌日の昼頃である。
 それまでに討伐を終わらせて欲しい。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
喪越(ia1670
33歳・男・陰
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ


■リプレイ本文

●空を駆ける者達
「じゃあ先に行って状況を見てきてくれ。頼んだぞ」
「心得た。我に任せておけ」
 管狐の翠嵐牙はぶっきらぼうな口調で応えると、3つの尻尾をふわりと揺らせて小鳥へと変じる。
 そのまま音も無く羽ばたき、藍と銀の機体色を持つ滑空艇の前に移動する。
「構いませんが狭いですよ?」
 菊池志郎(ia5584)が確認のため尋ねると、小鳥は謝意を現すため軽く上下に動き、本来は荷物を置くための空間に入り込む。
「行きます」
 志郎は機体を起動させ、徐々に加速させながら宙に舞い上がる。
 空中移動可能な朋友を連れた仲間達が後に続くが、架空艇の速度は頭一つ以上抜けており、徐々に距離が離れていっていた。
「さて」
 ある程度の高度に達してから、志郎は機体の動力を切って滑空を始める。
 空気の流れを乱さないように、つまり風を切る音を極限まで減らしつつ目的地に向かっていく。
 普通に滑空艇に乗っていた場合は、音がうるさく超越聴覚を使ってもあまり情報が手に入らなかっただろう。
 しかし志郎の工夫により、開拓者しかいないはず場所で聞き慣れない声を捉えることに成功する。
 その声は人語ではないが、明らかに知性を感じさせるものだった。
「風向きはこうですから」
 眼下に広がる寂れた平原に目を向ける。
 声が発せられた方向の見当はついているものの、見る限りでは小鬼の姿は無い。
「そっちにいるの?」
 炎龍が全力で羽ばたき、背中に乗る主人を志郎の側に連れてくる。
「はい」
 志郎が答えて指さす先を、リィムナ・ピサレット(ib5201)は持ち込んだ望遠鏡を覗き込んで確認する。
「雑木林?」
 まばらに生えた木々が視界を遮っていた。
 リィムナは即断し、志郎を引き連れ雑木林へ向かう。
「ンフ…。村と山の遮断はこちらでわよォ」
 セシリア=L=モルゲン(ib5665)は後のことを引き受ける2人を見送ると、瀧鷲漸(ia8176)と共に進路を変えずに直進していく。
 高速で移動する2体の大型飛行獣と別れたリィムナ達は、高度を下げ、可能な限り気配と音を押さえて雑木林に近づいていく。
「4、いえ5です」
 瘴索結界「念」を発動させた志郎が感情を消した声で報告する。
 それとは対照的に、リィムナの瞳に強烈な怒りが灯る。
「亡くなった村の人達の敵討ちだよ! チェンタウロ!」
 騎龍の炎龍が急角度で上昇し、それと同時にリィムナの手に握られたアゾットがきらめく。
 雑木林の向こう側を移動中だった小鬼の群は、いきなり現れた龍と少女を呆然と見上げる。
「いっけぇ!」
 ほぼ垂直に打ち下ろされた火炎弾は、地面に衝突すると同時に強烈な爆発を生じさせる。
 爆発が押しのける大気により小鬼の体が吹き飛ばされ、続いて追いついた爆風により四肢と胴が砕かれ、吹き飛ばされていく。
「悉く瘴気に帰せっ!」
 冷たく見下ろす青の瞳には、粉々になった小鬼が形を失っていく様がはっきりと映っていた。

●待機時間
「先行班は派手にやっているようだな」
 村の外から聞こえてくる轟音を耳にしながら、九条・颯(ib3144)は廃墟と化した小屋の陰で待機していた。
 颯の背後には鮮やかな黄の羽を持つ迅鷹がおり、どことなく窮屈そうにしている。
 小屋が小さすぎるのだ。
「来た」
 雨の気配も無いのに低空を飛行している小鳥に気付き、颯は心身を完全な臨戦態勢に移行させる。
 小鳥は大きく旋回して小屋の陰から接近し、衝突する寸前に緑の狐に姿を変えて危なげなく着地する。
「先行班は持ち場についた」
 翠嵐牙が短い言葉で現状を報告すると、風雅哲心(ia0135)は無言でうなずいた。
 村の中央にある頑丈さだけが取り柄の一軒家は騒がしい。
 村の外から数度聞こえてきた轟音に、予定を過ぎても返ってこない偵察部隊。
 いつの間にか、鳥の鳴き声どころか虫の音すら聞こえなくなった人気のない村。
 屋上で投擲用の石を持った小鬼達は、緊張からくる貧乏揺すりをしながら落ち着き無く周囲に視線を向けている。
 緊張感のある沈黙が数分続いた後に、一軒家の向こう側にある山の麓で何かが光った。
「一気に攻めるぞ」
「よかろう、いつもの形でいくとしよう」
 翠嵐牙が主人と一体化するのと、哲心が詠唱を終えるのと、颯が一軒家までの半分程を踏破するのはほぼ同時だった。
「まずは指揮官からってな。これでも食らえ。…響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け―――アークブラスト!」
 過剰とさえいえる強力な雷が降り注ぎ、警戒を行っていた屋上の小鬼が一瞬で砕かれるのだった。

●挟撃
 雷が降り注ぐより数十秒前、セシリアは意識を耳に集中させていた。
 雄大な胸と匂い立つ妖艶さを併せ持つ持つセシリアだが、そうしていると凛々しさと知的な側面が強調されるようだった。
「アヤカシの残存兵力は村の中だけねェン」
 口元に浮かぶのは魅入られたものを破滅に誘う微笑。
 セシリアが手を振って作戦の開始を告げる、リィムナは金色の槍を振り上げて後続班への合図を行い、漸は自身より一回り以上大きな戦斧を手にし鷲獅鳥と共に突撃を開始する。
 そしてセシリアは、朋友に好きにさせた。
 鳥類の鳴き声にしては迫力がありすぎ、龍の咆哮にしては甲高い声が大気を揺り動かす。
 一軒家から飛び出た大柄な小鬼や、屋上で見張りを行っていた小鬼達が声の源を向き、絶望の表情を浮かべる。
 鷲獅鳥であるジャラールの全長は5メートルを超えており、小鬼と比べると巨人というよりほとんど怪獣並みの大きさだ。
 しかも怪獣は1体だけではない。
「づぇいっ!」
 人騎一体の突撃を行いながら、漸が小鬼の動体視力を上回る速度で巨大刃を振るう。
 棍棒を構えようとしていた小鬼と、石を拾おうとしゃがみかけた小鬼の腹部が消え去り、上下に二分された体が風に吹かれた紙くずのように吹き飛んでいく。
 振り切った戦斧を引き戻すと、攻撃の速度にようやく追いついた漸の胸がたぷんと揺れた。
「統率がとれてるのだからボスがいるはずなんだけど」
 リィムナはきゅっと眉を寄せながら、先程雷が降り注いだに目を向けていた。
 もとは数体いた見張りの最後の生き残りは恐慌状態に陥っているようで、うわごとらしきものをつぶやくだけで意味のある動きをしていない。
 リィムナは魔法の矢で小鬼を貫き止めを刺すと、事態の変化に備えて敵陣を注視する。
 そうしている間に後続班が突入を開始し、小鬼も反撃を開始する。
 小鬼は一軒家の玄関に鍵を掛けた上で家具で塞ぎ、それとは逆に窓を吹き飛ばして玄関の近くにいるはずの開拓者を奇襲しようとする。
 が、小鬼が窓を開けたときには既に颯が瞬脚による移動を完了しており、呆然と見上げてくる小鬼は鋭い突きで止めを刺された。
 一軒家の中の小鬼達は必死の思いで窓を閉める。そのまま籠城戦を行うつもりだったのかもしれないが、開拓者の攻撃はまだ終わっていない。
「さぁニグレド…潰しなさい」
「了解した、我が主」
 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)の命を受け、黒騎士が大剣を鞘から抜き放ちながら、封鎖された正面玄関に近づいていく。
 種類としては土偶ゴーレムなのだが、外装だけでなく内部にもリーゼロッテの手が加わっているため余程注意して見ない限り動きで人間と区別することは難しい。
 黒騎士は堂々とした態度で剣を振りかぶり、獰猛極まりない勢いの一撃を振り下ろす。
 分厚い扉が支えていた家具ごと断ち割られ、無残に散らかった中の状態が明らかになる。
 それと同時に生き残りの小鬼が粗末な槍を持って一斉に突き出す。
 そのほとんどはニグレドの鎧に弾かれるが、脇の装甲の隙間と兜に切っ先が食い込む。
「温い」
 しかしもともと分厚い装甲をさらに硬質化させていた彼にはほとんど効かなかった。
 大剣を真横に振るうと、扉だけでなく家を支えていた柱まで叩き切ってしまう。
 板がねじ切れる異音と共に建物が傾いていき、巻き込まれた小鬼が崩壊に巻き込まれて押しつぶされ、瘴気に戻り散っていく。
 しかしこれはアヤカシにとって最後の好機だった。
 開拓者達が危険を避けるために後退したため、一時的にではあるが包囲が緩んだのだ。
 小鬼は同属が建物に潰されていくのを助けようとはせず、生存のために扉や窓から飛び出していく。
「見敵必殺よ。一匹残らず殲滅だからね〜」
 リーゼロッテは口元だけで微笑みながら、強烈な電撃を逃げる小鬼の背に浴びせていく。
「無論だ…言われる迄も無い」
 逃げ損ねたものは黒騎士が振るう刃で蹴散らされ、ぎりぎりで逃れたはずの小鬼は瞬間的に距離を詰める颯が処理していく。
 足止めを優先するために手足を狙っているが、腕と力の差がありすぎて繰り出す全ての攻撃が小鬼にとっての致命傷となっている。
「これで終わり?」
 上空にいるリィムナは違和感を感じていた。
 村を攻め落としてそのまま拠点をして使うやり方は、稚拙ではあっても知性を感じさせるものだった。
 しかし今の小鬼の行動は無策で足掻いているだけだ。
 逃げ道を塞いでから戦いを仕掛けた開拓者の作戦に手も足も出ないのかもしれないが、やはり知恵が足りなすぎる気がする。
「出てきたわよォ」
 妖艶な声が響く。
 優勢すぎて手透きだったセシリアは、半壊した小屋の中から聞こえてきたかすかな音に気付き、最後の予備兵力に出撃を促す。
「任せな!」
 飛び出したのは喪越(ia1670)。
 やや大型の滑空艇を操り、小屋の中に隠れて機をうかがっていた、とはいっても既に戦意を喪失して開拓者が去るまで隠れているつもりだった小鬼の眼前に無理矢理着地する。
 滑空艇に押しのけられた空気が荒れ狂い、地面に落ちていた薄汚れたものが宙を舞う。
 集中力と視力に優れた喪越は、飛ばされていくそれが、何度も繕った跡がある布製人形であることに気付く。
 貧しさの中なんとか布を調達して自作した母親も、愛情を一身に受けていたはずの子供も、既にこの世にはいない。
「よう、くそったれども!」
 喪越は底抜けに明るい笑顔を浮かべる。
 失われたものを惜しんで立ち止まるのは彼の流儀ではない。
 風の吹くまま自由に生きるのが喪越の生き方だ。
「アディオス」
 別れを告げる言葉と共に、呼び出した式を弾丸のように打ち出す。
 圧倒的な格上から放たれた術に触れたアヤカシは、急所を撃ち抜かれて倒れることもできずに瘴気に戻っていく。
「ふー、ちょっとばかし派手にやりすぎちまったかな」
 空中で掴んだ人形を懐に入れ、喪越は滑空艇を急発進させてその場から飛び立つ。
 半壊していた小屋が限界を超え倒壊したのは、それから数秒後のことだった。
「独創的ですね」
 志郎は真下に手のひらを向けたまま、ほんのわずかの間ではあるが硬直してしまった。
 戦闘行動が可能な範囲で徹底的に改造を施されたそれは、見た目があまりに衝撃的に過ぎた。
 鷲獅鳥や龍などの大型生物に追い回される小鬼はそれほど気にしていない、というより気にするだけの精神的余裕がないようだが、開拓者と朋友にとっては目立ちすぎる一品だ。
 最後に残った小鬼が志郎の手による気弾で倒された後も、複数の視線が喪越の機体に向けられていた。

●残されたもの
 人の気配が消えた村に蕎麦を打つ音が響く。
 適量の水を加えられた蕎麦粉は、もとは廃屋に残されていた品だ。
 本来それを口にするはずだった人々は既にこの世にいない。
 滑空艇を地面に固定した上で各種装備を展開し、廃村に蕎麦屋の屋台を出現させた喪越は慣れた手つきで蕎麦を打っていた。
 一定の間隔で響く音は、鎮魂の鐘に似た響きがあった。
「良くやるわね」
 お供の黒騎士に戦場の片付けをさせていたリーゼロッテが声をかける。
 とはいえ止める様子はない。
 村に残された物を使った場合村の生き残りに領主から金が出ることになっていることを、ギルドから出発する際にギルド職員から聞かされているからだ。
 身体能力に物を言わせて短時間で打ち終えた喪越は、軽く茹でてからつゆをかけて完成させ、人形が座る席の前に置く。
 切なくなるほど食欲をそそる香りが広がっていく。
 数分の後、すっかり冷めた蕎麦を喪越が手に取る。
 激しく音をたててつるりと飲み込み、ぶはっと息を吐いてどんぶりを下ろす。
「連中にもこの絶品の味を堪能して貰いてぇが…そんな世の中が来るよう、もっとハッスルしなくちゃいけねぇなぁ。世知辛ぇ浮世がしょっぱ過ぎる」
 蕎麦の余韻に浸っていたはずの喪越は、急に顔をしかめた。感情が入りすぎていたせいか、蕎麦が傷んでいたのか、後味が妙にきつい。
「って、この蕎麦しょっぱいYo! 店員さーん?」
 店主はお前だというツッコミを受けながら、喪越は料理を続けていくのだった。