大人気ない人・下着編
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/31 21:28



■オープニング本文

●論争
 ガーターベルト・肌襦袢論争をご存じだろうか。
 いずれの下着が上かという不毛な、人によっては己の生死より優先すべき論争である。
 多数の男達と極少数の女達を巻き込んだ争いは激化の一途をたどり、武力衝突も秒読みかと思われた。
 しかし、ある老貴族の一言が事態を変えた。
「開拓者にモデルをさせ決着をつけようではないか」
 開拓者には美女美少女が多い。
 眼福じゃね?
 いやいやこれはあくまで論争に決着をつけるための提案だよ君ぃ。
 というノリで論争が一時棚上げされ、開拓者ギルドに依頼が持ち込まれることになったのである。

●ファッションショー?
「私は靴下が何より重要だと思うのです」
 依頼に興味を持った開拓者を別室に連れ込んだ係員が、真剣な表情で馬鹿を言う。
「ま、それはそれとして」
 同僚から向けられる冷たい視線に気づき、ごほんと咳払いをして話を戻す。
「依頼票には美男美女美少女美少年男の娘募集なんて書いてありましたが、あれは無視してください。許可はとっていますので」
 依頼人の奥方に話を通してそういうことにさせたらしい。
 通常なら問題になりそうなやり口かもしれない。しかし今回は放置した方が大きな問題(大家の家族会議からお家騒動勃発)になりかないため各所から黙認されていた。
「依頼票に書かれていたとおり、モデルをする依頼です。ただし観客は服飾の専門家に限られ、安全と秘密が確保できる屋敷が会場となります」
 要するにリビドーを爆発させかねない馬鹿を閉め出したということだ。
 もっとも専門家とはいえ頭のねじが飛んでいそうな論争に参加していた連中だ。性欲以外の面での暴走はあり得る。
 その埋め合わせのつもりなのかは分からないが、豪華食材を大量に使った料理が用意されているらしい。
 出番以外では料理に集中するのも良いかもしれない。
「予め要望を出しておけば、ショーの当日には各種下着が完成します。着用する物は持ち込んだ物でも構わないそうです。何を着るか、何回着替えるか、演出の方法もモデルとして参加される方に任されるそうなので」
 女性用下着を男性が着るもの構わない(露出度が高くなりすぎるため逆は不可)、ということらしい。
「ファッションショーの舞台の改造や新設のための費用も経費で認められます。存分に予算を使ってしまってください。それと」
 できれば靴下も、と言い出した係員は、同僚達によってたかって強制連行されていくのだった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
シルフィリア・オーク(ib0350
32歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ワイズ・ナルター(ib0991
30歳・女・魔
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
罔象(ib5429
15歳・女・砲


■リプレイ本文

●ファッションショー
 艶のある髪はしっとりと湿り、傷一つ無くどこまでもなめらかな肌はうっすらと健康的に汗ばんでいる。
 あまりに魅力的な肌の大部分を隠すのは、やや厚めの生地を使った肌襦袢。
 シルフィリア・オーク(ib0350)が舞台中央に設置された湯船からあがったとき、観客は彼女の姿に物語を感じた。
 強く美しい女開拓者が、湯で一日の疲れをとった上で身体を拭く。
 湯船の中で磨き上げた肌を任せるのは、柔らかく決して肌を傷つけることのない布地。
 無論無粋な造りなどではない。
 女性らしい柔らかさと実戦を経て形作られた美が同居する肉体を包むのは、そのまま庭先に出ても違和感がない上品な一品だ。
「どうしました? 拍手も歓声もないですが」
 解説者席に座る水鏡絵梨乃(ia0191)が隣の席に座る老人に声をかける。
「皆困っておるのだ」
 強烈な精力を感じさせる老人が、しかし情欲の感じられない、冷徹とさえ表現できそうな視線をシルフィリアに向けていた。
「この御仁、見た目も存在感も理想的だ。並ぶ者はいるかもしれぬが上回る者はおそらくおらぬ」
 権力と財力を長年持ち続けた結果、真っ当に叶えられる欲望ならほぼ全て満たしてきた男が断言する。
「だが残念なことに、肌襦袢にはあわぬ。いや、言い換えよう。肌襦袢ではこの御仁の魅力を引き出しきれぬのだ」
 シルフィリアが花道を通り、その先端で女座りをしつつ胸を強調する蠱惑的なポーズをとったとき、肌襦袢派の老人は悔しさの余り涙を浮かべていた。
「見よ! 胸のトップとアンダーの差が大きすぎ、必要以上の隙間ができてしまっておる。仮に隙間を無くすデザインにしてしまえば、あまりに即物的になりすぎる」
 具体的には胸の大きさを強調しすぎる感じになる。
 老人の言葉に、いかにも金を持っていそうな観客達が熱心にうなずいていた。
「なるほど。興味深いご意見でした」
 絵梨乃は年上に対しては基本的に敬語を使うのだが、こだわりがありすぎる連中に対して敬語を使い続けるべきか深刻に悩んでしまっていた。
「続いてはペアでの登場になります。‥‥少し手間取っているようですね」
 解説者らしい生真面目な表情を浮かべている絵梨乃だが、その身にまとっているのは肌襦袢である。
 モデル用の身支度をしてないことを周囲から惜しまれつつ、彼女はあくまで解説に徹していた。
「は、派手すぎない?」
「あはは〜、レヴェリーさんとっても可愛いですね〜♪」
「な、何事も経験というわよね。えぇ、此れも修行‥‥!」
 舞台袖からじゃれ合いのような声が響いてきたかと思うと、軽やかな足音と共に2つの影が舞台に登場する。
 1人は金髪の美女。
 おっとりとした本人の雰囲気とは逆に、紫の生地に銀糸が織り込まれた大胆かつ上品な下着を身につけている。
 その上には同色のガーターベルト。
 膝上まである靴下はとにかく細く、身にまとう本人の穏やかな雰囲気と相まって、背徳的な色香さえ感じられた。
 もう1人は仮面の上からでもその美貌が分かる銀髪の女性。
 育ちの良さを感じさせる堅め雰囲気とは逆に、淡い桜色と白が組み合わされたフリルに飾られた可愛らしい下着を身につけている。
 生地には銀糸が縫い込まれており、髪の色と肌の白さに映えていた。
 ガーターベルトにつり下げられたオーバーニーレングスソックスは、色を除けば金髪の美女のものと同じであるにも関わらず、対照的と表現しても良いほど印象が異なる。
 金が包容力、銀が華やかさだろうか。
 とはいえモデル本人の内心は少々異なる。
 猫宮京香(ib0927)はこの状況を心底楽しんでいるし、レヴェリー・ルナクロス(ia9985)は楽しんではいるがそれと同程度に照れてしまっている。
 2人が舞台の左右から現れ、中央で合流する。
 しなやかな足を、豊かな胸を、バランスのとれた肢体を誇示するように歩いて行く。
 ガーターベルトを初めとする下着達は、秘すべきところを隠すだけではなく、美女達の動きを阻害せず、それどころか魅力をさらに引き出していた。
 花道の先端に到達すると同時に背中合わせの体勢になり、くるりと回転してポーズをとる。
 手と手をとりあい、ブラジャー、ガーターベルト、ショーツ、ソックスと、全ての下着を誇らしげに見せつける。
「素晴らしい!」
「おっとここでガーター派からコメントが出ました。いかがです?」
 いつの間にかガーター一式に着替えた絵梨乃が話を向けると、ジルベリア紳士は片眼鏡の位置を直しつつ口を開く。
「ジルベリア出身者と天儀出身者が共に完全に着こなし、その上で互いが互いを高めあう。予想外で期待以上の出来映えだ」
 満足げに微笑むガーター派紳士の周辺では、肌襦袢派の人々が焦りの表情を浮かべていた。
 だがそれも、金と銀の美女と入れ替わりに罔象(ib5429)が登場するまでのことだった。
 しずしずと宗教行事の一環であるかのように花道を進んでいく彼女は、これまで登場した美女達と美貌は同レベルかもしれないが背も低く発育も控えめだ。
 しかし生地が大目の肌襦袢を隙無く着込み、清冽さすら感じさせる動きを見せる罔象には、これまでのモデル達とは方向性が全く異なる魅力があった。
 肌着を着込んでいるにも関わらず、罔象がまとう気配に緩みはなく静謐さだけがある。
 なお罔象自身は、似合っているいるのかどうか確信が持てず観客の反応を知りたがっているのだが、観客達は圧倒されてしまい咳ひとつ出せない。
 罔象が花道を折り返して舞台袖に向かう途中、予め仕掛けられていたからくりが作動し、大量の霧が降りかかる。
 うっすらと透けた肌襦袢は、色香ではなく神聖さに近いものを彼女にまとわせていた。
「よし!」
 罔象が退場すると同時に肌襦袢派から歓声があがる。
 京香とレヴェリーによって勝負が決まりかかったのを五分まで戻したのだ。
 これで盛り上がらない訳がない。
 罔象の次に登場したのは、生命力に溢れた闇だった。
 艶めかしく白い肌を、胸部から腹部にかけて黒のレースが覆っている。
 下腹部の布地も凝ってはいたが、この場には真っ当な性欲を持つ観客はいない。
「よく着こなせていますね」
 絵梨乃は分厚いくせに柔らかい肉をナイフで切り分けながら、解説者席で賞賛の声をあげる。
「目の保養にぴったりですよ〜♪」
 出番を終えた京香も、席について記憶に焼き付けるつもりでモデルを凝視している。
 艶やかな黒髪、肌理の細かい白い肌、そして肌を隠すと同時に強調するスリーインワン、ガーターベルト、オーバーニーレングスソックス。
 扇情的でありながら確固とした品格を感じさせる、見事な魅せ方であった。
「私もこのくらい堂々とすべきだったのかしら」
 観客席に座りながら、レヴェリーはワイズ・ナルター(ib0991)を見上げて小さく息を吐く。
 無性に甘い物が欲しくなるのは、心身の消耗のためか、単なる食欲のためか、レヴェリーには分からなかった。
 もっとも、分かっても分からなくてもやることは同じだ。
 食べた分を確実に消費仕切れる彼女は、雑味のない甘さを楽しみながら立食用の卓にあった菓子の山を崩壊させていく。
 そうしているうちに演目は進み、再びナルターの出番がやってくる。
 今度は肌襦袢をきっちりと着込んでおり、闇色の髪を揺らしながら花道を進んでいく。
 そして端に到達したとき、今にも詠唱を開始するかのような姿勢をとる。
 実際には口を開いていないにも関わらず、観客達には妖艶な魔女が犠牲者を破滅に導く情景がはっきりと見えていた。
 運動に適した服装でないため裾と襟が少し乱れてしまうが、今このときに限っては魔女の魅力を増す要素となっていた。
「決め手に欠けていますね」
 退場していくナルターの背を見送りながら、絵梨乃は会場の雰囲気を読み取って現状を口にした。
 肌襦袢派もガーター派も、自尊心があるからこそ自陣営の優位を主張できない。
「次が最後の1人になります」
 絵梨乃がそう口にすると、会場から一切の音が消える。
 会場中から強烈な視線が向けられる中、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が舞台袖から姿を現す。
 小さな頭に載ったナイトキャップからこぼれ落ちるのは、きらめく金を極限まで細くした豪奢な髪。
 ようやく膨らみ始めた胸を隠すのは、暖かな部屋での使用を前提としているらしい、丈の短い白のキャミソール。
 歩くたびに可愛らしいへそがちらりちらりと見えるのは、色気こそないものの美しさは十分だ。
 腰から下は、裾にフリルレースがついてはいるものの、実用性を重視して作られた膝丈ドロワーズに覆われていた。
「ガーターと肌襦袢の決戦場に殴り込むとは良い度胸ね」
 絵梨乃は華やかで獰猛な微笑みを浮かべ、会場全体に視線を向けた。
「なんというっ」
「くっ‥‥。まさか儂がこんなものに。だが認めざるを得ぬ」
 抱き枕用の大きなうさぎ型ぬいぐるみを引きずりながら、リンスガルトは片手の手のひらで目をこすっている。
 それはあまりに自然な動作であり、会場全体がギーベリ家の屋敷であるような錯覚さえ感じさせた。
 花道の先端で大きなあくびをしつつ一礼したリンスガルトが退場するまで、観客は新たな強敵を仰ぎ見るしか出来ないのだった。

●結末
 かくしてファッションショーは終了した。
 肌襦袢派もガーター派も勝利を収めることはできず、新たにドロワーズ派が誕生するという、誰にとっても予想外の結末であった。