空飛ぶ騒音怪鳥
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/15 00:16



■オープニング本文

 飛行能力は極めて強力な能力である。
 地上にある脅威から逃れて空へと飛び上がり、地上に獲物を見つけたときは降下して襲いかかる。
 それゆえ、特に飛行可能アヤカシは戦闘能力が低くても大きな脅威となる可能性がある。
 それが遠くから人間に被害を与えられる能力を持っているのなら、早期に討伐を行わなければ凄まじい被害が出かねない。

●勝者は怪鳥
 とある港に駐留中の精鋭私兵団は、アヤカシに一矢報いることすらできずに崩壊しかかっていた。
「お、おのれアヤカシめ」
 宿舎として使用中の倉庫から飛び出した志体持ちを数人含む私兵団は、全員顔色が非常に悪く足取りも頼りなかった。
 港湾施設の上空を旋回していた怪鳥は彼等に気付き、耳障りな鳴き声をあげながら近づいてくる。
 私兵団を構成する男達は、疲れ切った己の体に鞭打って素早く陣形を整えそれぞれに弓を構える。
 それから数秒後に一斉に放たれた矢は、本来であれば中空を旋回中の怪鳥の逃げ道を塞ぎ致命傷を与えていただろう。
 しかしアヤカシによる連日の夜討ち朝駆け睡眠妨害の結果、彼等の技の冴えは無残なまでに無くなってしまっていた。
 怪鳥は狙いの甘い矢の雨を軽々と回避し、私兵団の頭上で旋回しながら耳障りな鳴き声をあげはじめる。
 疲れ果てた男達は、睡眠不足により目をしょぼしょぼさせながら、怪鳥を睨みつけることしかできないのだった。

●討伐依頼
 怪鳥の群がある港を狙っている。
 アヤカシが発見されてすぐに派遣された私兵団により被害は出ていないが、怪鳥は狙いを私兵団に変え、私兵団を休ませないために夜討ち朝駆けと睡眠妨害を繰り返しているらしい。
 活発に活動する怪鳥に触発されたのか、より小型の飛行可能アヤカシである眼突鴉も数を増やしつつある。
 このままでは港の機能が麻痺しかねないので、朋友の戦力も使って早急に討伐を行って欲しい。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
からす(ia6525
13歳・女・弓
一心(ia8409
20歳・男・弓
和奏(ia8807
17歳・男・志
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
九条 炮(ib5409
12歳・女・砲
獅炎(ib7794
25歳・男・シ


■リプレイ本文

●聞こえない波の音
 海鳥の鳴き声と寄せては返す波の音。
 荷物を運ぶ労働者達がかけあう声。
 ほんの少し前まではそれ等が聞こえていた港を支配しているのは、鳴き声というにはあまりに騒々しすぎる音だった。
「これだけ離れていても五月蠅いとはね」
 獅炎(ib7794)は吸い終えた煙草を煙管から落とし、念のため砂をかぶせて火災の発生確率を零にする。
「そうね。でもそのお陰で鷲獅鳥や龍の移動音は目立たないと思うわ」
 鴇ノ宮風葉(ia0799)は相づちを打ちつつ、作戦参加者達と作戦開始前の最終確認を行っていた。
 その様子を、開拓者としての活動歴が短い獅炎は興味深げに見守っている。
 彼を除けば皆十代の初めから後半程度にしか見えない。
 しかしその身にまとう雰囲気は、荒事に慣れたもののそれだ。
「頼もしいね」
 獅炎は内心に浮き立つものを感じながら、騎龍の手綱をそっと掴む。
「みんな忘れ物は無いわね? 始めるわよ!」
 風葉は返事を待たずに全速力で駆け出す。
 その背に遅れぬよう、獅炎と駿龍の春は皆と同時に大地から離れるのだった。

●急襲
「きゃあ怖い」
 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は優雅な手綱さばきを披露しながら、からかうような調子でくすくすと笑う。
 眼突鴉や怪鳥と比べれば巨大と表現しても差し支えない大きさの鷲獅鳥が、風格さえ感じさせる動きで、その背を預ける主を完全に守り切りながらアヤカシの攻撃をいなしている。
 鋭い鷲の瞳はアヤカシの隙を捉えており、回避する際には始末したそうな気配を発していた。
「構わないけど嬲っちゃダメよ。速やかに仕留めなさい」
 主から許可が出されると、鷲獅鳥ハインケルは近づいてきたアヤカシを次々に砕いていく。
 それは恐るべき戦闘力であるが、残念ながらこの場では目立っていなかった。
 もうひと組の主従が凄まじすぎるのだ。
 理性に制御された巨大な殺気を放っているのが鷲獅鳥の彩姫。
 かなりの速度が出ているはずの鴉型アヤカシの前に立ちふさがり、一切の抵抗を許さず爪で粉々になるまで引き裂いていく。
 その背にあるのはからす(ia6525)。
 空を汚す存在にかける情けを持たない彼女は、気弱なものならそれだけで死に至りかねない殺意をピンポイントでアヤカシ達に浴びせていた。
 殺気の後を追うように矢が放たれ、アヤカシの中心を射貫いてその場で瘴気に戻していく。強すぎる矢はアヤカシを貫いてもほとんど勢いが衰えないが、建造物と開拓者を避けて何も無い地面に突き立って止まる。
 偶然ではなく、からすが地形と矢の軌道を計算した結果である。
 戦力差を悟った怪鳥のうち1羽が、他の全てのアヤカシを見捨てて距離をとり逃げ出そうとする。
「彩姫、『超至近距離戦闘用意』」
 だがからすが見逃すはずもない。
 弓を魔槍砲「瞬輝」に持ち替え、逃げ出そうとする怪鳥へと真っ直ぐに向ける。
 狙いが完全に定まると、暖色の美しい羽毛を持つ鷲獅鳥が爆発的に加速する。
 魔槍砲の切っ先が怪鳥に触れるのと、からすの白い指が引き金を引くのは同時だった。
「華と散れ」
 物理的な衝撃と練力による威力が重なり合う。
 怪鳥としては種の限界近い能力を持つとはいえ、下級アヤカシの中でも下位の存在でしかないそれには過剰すぎる威力だった。
 文字通り粉微塵に粉砕された怪鳥がいた場所を通り過ぎ、からす主従は何事も無かったかのように次の獲物に襲いかかっていく。
「派手ね」
 流通しだしてから間のない武器の実演を目にしたリーゼロッテは、興味深げに目を細めていた。
 そうしている間も周囲に気を配っており、高速移動に伴い揺れる長髪にアヤカシが触れることもない。
「20歩後方を塞いでー!」
 後方から響いてきた聞き慣れた声に反応し、リーゼロッテは上空に放とうとしていたウィンドカッターからブリザーストームに詠唱を切り替え、彼女の後方を迂回して逃げようとしてい眼突鴉をまとめて葬るのだった。

●潜伏と狩り出し
 早い段階で己と開拓者の力の差を感じ取ったアヤカシ達のうち、己の力に自負があるものは高速で上空へと逃げ出し、残りは倉庫などの建物の中や陰に隠れることを選択していた。
「漣李さん、上空への追撃はそこままでにしておきましょう」
 かすかに鶯色が混じった白い鷲獅鳥を手綱を使わずになだめながら、和奏(ia8807)は両手で鬼神丸を振るう。
 美しい波紋を持つ刃が、慌ただしく翼を動かしていた怪鳥を背後から切り捨てる。
 自然な動きで次の敵に刃が向けられるが、既に刃の届く範囲に敵の姿は無い。
 しかしそれは失敗ではなく、和奏の狙い通りの展開だった。
 風を切り裂きながら打ち上げられた矢が、次々眼突鴉や怪鳥を撃ち抜き、放物線を描いて海面に落下していく。
 和奏が追撃を止めたことでアヤカシと射手の間に障害物がなくなり、アヤカシはどんどん撃打ち落とされていったいた。
 風の方向が変わり、そのまま打ち上げると桟橋に命中する可能性が出てくると、それまで地上で射撃を行っていた一心(ia8409)は駿龍の珂珀と共に大空に駆け上がった。
 低空から中空、中空から上空へと、平衡感覚が狂いかねない軌道で、速度最優先で敵を追い抜いて高空に到達する。
 ここでなら、アヤカシを攻撃しても確実に何も無い地面で矢を止めることができる。
 珂珀(かはく)は主に指示を下されるより先に翼を半ば閉じ、地面に向けて急加速を開始する。
 壁が真正面からぶつかってくるような風圧にさらされながら、一心は淡々と狙いをつけ、矢を放つ。
 アヤカシの隙を正確に狙った、膨大な練力が込められた矢は、怪鳥の中核を完全に破壊しながら全く勢いを緩めず地面に衝突し、鏃の大きさの穴を残して地面の奥深くまでめり込んでいく。
「これで上の敵は全滅ですね」
 九条炮(ib5409)はマスケット「クルマルス」を構えたまま、鷲獅鳥レイダーと共にゆっくりと低空を旋回していた。
 記憶が確かなら4、5体アヤカシが隠れているはず。
 しかし敵に動きはない。
「そっちには地面に5体。猫や犬が残っていればその分少なくなるわ」
 後方から風葉の声が聞こえてくる。
 作戦開始前までこのあたりを支配していた騒音発生源は半分以下にまで減っており、風葉が喉の被害を無視して声を張り上げなくても聞こえるようになっていた。
「そうですね」
 炮はうなずくと、予め装填していた弾丸に意識を集中し始めた。
 倉庫の影や窓から、ときどきちらりと暗色の羽や鳥形アヤカシの頭が覗いている。
 そのほとんどが鳥並みの知性しか持ってないとはいえ、同属を多数滅ぼされたことで彼我の戦力差を骨身に染みて理解しており、銃弾や矢を打ち込まれるような隙はなかなか見せない。
 辛うじて一心が1体の眼突鴉の頭を吹き飛ばして始末したが、成果はそれだけだった。
「建物ごと破壊するのは最終手段ですからね」
 レイダーを空中で静止させると、炮は機敏な動作で狙いをつけ引き金を引いた。
 銃弾はアヤカシでも建物でもなく、何も無い地面に向かって飛んでいく。
 倉庫の背後から嘲るような調子の騒音が聞こえてくるが、炮は口元に笑みを浮かべるだけで何も言わない。
 そして弾丸が倉庫の横を通り抜けたとき、軌道が90度近くねじ曲がる。
 1秒も経過せず、耳障りな騒音の1つが唐突に途切れた。
「怪鳥から片付けたいんだけどな」
 慣れた動作でマスケットに弾を込めながら、炮は次の標的を探す。
「自分が狩り出します。漣李は」
 和奏は5メートル近い高さから危なげなく飛び降り、倉庫の半開きになった扉の横へ移動しながら空を仰ぐ。
「その場で待機です。敵の退路を断つのも重要な役割ですよ」
 主人兼目付役が離れたことで文字通り羽を伸ばそうとしていた鷲獅鳥の行動を誘導する。
 心覆で気配を押さえてから倉庫の内部に飛び込み、上下左右前方全てに注意を向ける。
 すると和奏と入れ替わる形で扉の上から抜け出そうとした怪鳥が視界の隅にひっかかる。
 気づいた時点で刃は鞘から半ば抜き放たれており、和奏が視線を上に向けるとアヤカシは既に瘴気に変じて散っているところだった。
「ここにまだいるー?」
 炮が大声で後方に呼びかけると、ほんの少しであるが喉が荒れた感じの声が返ってくる。
「倉庫の中に怪しいのが1つ。アヤカシかどうか分からないから注意して」
 アヤカシの不意打ちと逃亡に注意すると同時に、アヤカシで無かった場合に無用な殺生をしないよう気をつけろということだ。
「分かった。注意してあげるよ」
 炮は風葉からの指示を誤解せず、チチチと舌を鳴らしながら和奏に続いて倉庫に入る。
 倉庫から少し痩せた子猫が救出されたのは、それから数分後のことだった。

●お仕事完了?
「あーあー」
 風葉は発声練習をして喉の調子を確かめ、形の良い眉をしかめながら咳払いをした。
「お嬢、仕事中じゃぞ」
「うるさい。あたしの担当はだいたい終わったわよ」
 狐の早耳を使う三門屋つねきちと共に司令塔の役割をこなしていた風葉は、2方面での討伐が無事完了したのを確認してほっと息を吐く。
 残敵はこちらに向かってくる、怪鳥1体を含む数体の眼突鴉だけだ。
「とりあえず、上の方の敵から処理、ですかね」
 気弱そうな顔立ちに精一杯凛々しい表情を浮かべ、ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)は桜色の鷲獅鳥アルスヴィズと共に上空へ移動しようとする。
 敵の逃げ道をふさぐ効果的な行動であり、その場にいた獅炎も風葉も頼もしいものを見送る視線をネプの背に向けていた。
 が、桜色の鷲獅鳥は急角度で進路を変更してアヤカシの集団に突進していく。
「アルス君、そっちじゃないのです〜〜っ!」
 主が必死に止めようとするが、鷲獅鳥としては少し小柄な彼は、その脳味噌筋肉ぶりを発揮してしまっている。
 既にアヤカシにかなり接近してしまっているため、今から進路を戻しても効果が薄いとネプが判断しているのも大きい。
「アルスヴィズ! 前に逃がしちゃ駄目よ!」
 風葉が声をかけたのは、主のネプではなく鷲獅鳥だった。
 勢いに任せて加速し続けていた小柄な鷲獅鳥は、自尊心がくすぐられたのか風葉の指示に反発せず軌道を微修正する。
「僕の言うこと聞いて〜っ!」
 情けなく聞こえる声を出しながら、ネプは大型の槍を両手で振り回す。
 少々揉めることはあっても仲の良い1人と1体は見事な連携を行い、双方真正面から接近した結果とんでもない相対速度になった鴉型アヤカシを、ほぼ同時に3体打ち落とす。
「信頼には応えないとな」
 ネプに置いていかれた形になった獅炎は、騎龍と共に怪鳥以下数体のアヤカシを真正面から迎え撃つ。
 最初に攻撃を繰り出したのは騎龍の春だ。
 優れた体格を活かして横殴りに殴りつけるが、狙われた怪鳥は機敏な動作で翼をかいくぐって回避する。
 怪鳥はそのまま駿龍の横を通り抜けて戦場からの逃亡を目指す。
 が、その進路上に冷たく光り刃を置かれ置かれ、急減速して辛うじて回避する。
「じっくり狙っていけ、春」
 己の左右の眼球を狙ってくるアヤカシのくちばしを、わざとぎりぎりで避けつつ指示を出す。
 春は眼突鴉との戦いを主に任せ、怪鳥が伸ばしてくる足の爪を鱗で受け流しつつ、じっと貴秋を待つ。
 攻撃に注力しすぎて平衡を崩した鴉型アヤカシを斬って捨て、獅炎は残存のアヤカシと激しく切り結ぶ。
 春は己ののど元に食いつこうとする怪鳥の頭に、カウンターの形で爪を振り下ろした。
 怪鳥としては強力な個体だったらしく、重量と勢いのある爪をまともにくらったにも関わらず、途中で体勢を立て直して地面への激突を回避する。
 獅炎は即座に苦無に持ち替えて止めの一撃を放とうとする。
 が、己の背後から迫る殺気に気付いて体をひねる。
 ほとんど垂直に降下してきた眼突鴉が彼と彼の騎龍の脇を通り過ぎ、地面にぶつかる寸前で体勢を立て直す。
 そして怪鳥と同様に再度攻撃をしかけようとするが、近くまでやって来ていた桜色の桜色の鷲獅鳥踏みつぶされてしまう。
「数が多いとこういう展開もあり得るか」
 あと一歩前に出ていたら、先程のアヤカシは己の後頭部に傷を付けていたかもしれない。
 獅炎は己の用心が功を奏したことに満足感をおぼえながら、次の敵を屠るために改めて苦無「獄導」を構える。
 しかしそのとき既に、最後に息残っていた怪鳥は、三門屋つねきちの名を持つ管狐の雷でこんがり焼かれて息の根を止められていた。
「美味しいところをもらっちゃった?」
「無事に済めばそれで十分だ」
 獅炎はひとつうなずいて春と共に地面に着地する。
 そこには既にネプがいて、アルスヴィズの背でぐったりしていた。
「はぅぅ‥‥疲れたのです‥‥空戦ってまともにやったの初めてなのですけど、大変なのですね‥‥」
「これくらいでヘバってどーすんのよ。こんなの、空中戦の内にも入らないってのっ!」
 互いの距離の近さを感じさせる口調で、風葉はぽんぽんとネプに言葉を投げかける。
 朋友だけが頼りの高空での空中戦と比べれば、今回の戦いは空中戦というより地上戦に近いかもしれない。
 ただしどちらの戦いも疲れるのは確実だろう。低空での戦いは、障害物が多数ある地表付近を高速で移動しなくてはならない場合があるのだから。
 獅炎は口元を緩めると、皆と本来の住人達を呼び寄せるため、春と共に再び宙へ舞い上がるのだった。