【浪志】都市直上空中戦
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/28 06:06



■オープニング本文

●ある館で
「ここが繰り上がって、と」
 中戸採蔵(iz0233)は算盤を弾く手を止めると、己の眉間を指で揉んだ。
「あんさん、細かいですなぁ」
 上品な着物を艶やかに着崩した女が、銀の煙管から赤い唇を離して揶揄を口にする。
 その挑発的な視線は、女遊びに慣れた男でも激発しかねない危険なものだった。
 しかし採蔵は営業用の笑顔を崩さない。
「それが仕事ですからね」
 請求書の確認を終えた採蔵は、脇に置いていた金庫を開いて小判の枚数を数えていく。
「つまらない男」
 体温を感じさせるほど近寄り、男を堕落させる甘い香りをそっと吹き付ける。
「手前の金で買えない女に反応するほど若くはないので。確認をお願いします」
 徹底して事務的な対応をする男を前にして、女は滑稽さを感じさせる動作で肩を落とす。
 この男、金や女の誘惑が一切効かないタイプだ。
 それだけならただの堅物だが、この店で飼っている志体持ちをけしかけられたなら、おそらく半殺しにした上で店の金を根こそぎ奪っていくだろう。
 ひょっとしたらそれ以上のことをするかもしれない。
 この男の目は、ただ必要だからという理由で人を殺せるろくでなしの目なのだから。
「はいはい、分かりました」
 女は小判の束を受け取ってから体を離す。
「釣りは障子の向こうの皆さんの飲み代にでもしてください」
 金庫を片手に立ち上がる男は、笑顔を崩さずに用心棒の存在を指摘する。
「本当に、つまらない男」
 芸者ではなく経営者として吐き捨てた女は、獰猛であると同時に艶やかな、一瞬ではあるが見とれてしまうほど美しい表情をしていた。

●カラス襲来
 館を後にした採蔵は、己の肩を何度も叩く。
「兵隊上がりに交渉の真似事はきつい」
 とはいえ現状に不満はない。
 多少の贅沢が出来る程度の給金が支払われ、肥だめより汚い場所に入り込む必要のない今の職場は、採蔵にとっては極楽同然だった。
 時折現れるスリを回避しながら、採蔵はすっかり秋めいてきた神楽の都を楽しんで歩く。
「お、お侍さん。あれ、ひょっとして」
 店構えが立派な商家の前で掃除をしていた小僧が、恐怖で体を震わせながら採蔵に声をかける。
 最近は脅迫用スマイルではなく営業スマイルが板についてきたと思うんだが、と内心でつぶやきつつ小僧が指し示す方向に目をやる。
 地表から離れた上空で、己より体格の良いカラスを無造作に引きちぎる鳥が1羽いた。
「アヤカシだな」
「や、やっぱり。ひえぇ」
 小僧だけでなく、採蔵のつぶやきを聞いた者達が争うように通りから逃げ始める。
 採蔵は既に銃を構えて戦闘準備を完了している。
 しかし小型であるため銃の射程は短く、中空にいるアヤカシに対する攻撃手段が無い。
 人目がないならアヤカシを無視して立ち去っただろうが、上司の意向を聞かずに一般人を見捨てる訳にもいかない。
「給料分給料分」
 採蔵は上空にいるアヤカシを牽制しながら、官憲がかけつけるのをじっと待つのであった。

●討伐依頼
 神楽の都の郊外近くにある通りに眼突鴉が出没している。
 眼突鴉は飛行能力と高い回避能力を兼ね備えたカラス型アヤカシであり、人間の眼球を執拗に狙う習性を持っている。
 アヤカシとしての格は最下位に近く、弓矢や銃や飛行手段さえあれば、初心者開拓者でも1対1で楽勝だと思われる。
 だが奴等がいるのはよりにもよって神楽の都である。
 流れ弾が建物や通行人に当たる可能性はかなり高く、龍に乗って激しい空中戦を展開すれば、飛行が制限された場所に突っ込みかねない。
 現在通りには砲術士が1名常駐しており、牽制を繰り返すことで被害をなんとか防いでいる。
 長期間通りに留まる砲術士の消耗は激しく、また、人の移動が極端に制限された通りは店の大部分が倒産しかねない状況にある。
 速やかに現地に赴き、可能な限り被害をおさえて全てのアヤカシの討伐を行って欲しい。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
からす(ia6525
13歳・女・弓
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
一心(ia8409
20歳・男・弓
郁磨(ia9365
24歳・男・魔
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
藤丸(ib3128
10歳・男・シ
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰


■リプレイ本文

●ただいま到着
 数日前までは活気に溢れ、頻繁に掃除が行われていたため清潔さを保っていた通りは、鳥達の死骸が積み重なる無残な光景をさらしていた。
「怨み、聴き届けたり」
 通りに佇むからす(ia6525)は、内心の激情を全く表に出さずに宣言する。
 同属を殺めた相手に向ける情けはない。
 向けるのは研ぎ澄まされた殺意だけだった。
「お待たせしました」
 男として、聖職者として貫禄を備えたジルベリア人が近づいてくる。
 純白の鷹を従え、包容力と威厳を兼ね備えた笑顔を浮かべるエルディン・バウアー(ib0066)は、助けられる者にとっては神の使いにも見えた。
 事実、店に籠もっていた者達が格子越しにエルディンの登場に気付き、感極まって泣き始める者さえいた。
「よく持ちこたえてくれました。あとは私たちに任せてください」
 きらりと光る聖職者スマイル、もとい頼りがいのある微笑を浮かべると、青白い顔で宙に銃口を向けていた中戸採蔵(iz0233)はその場に両膝をついてうずくまる。
「大丈夫?」
 状態を確認するために郁磨(ia9365)が目の前で手を振るが採蔵は動かない。
「大丈夫だね」
 へらりと笑みを浮かべて郁磨は採蔵を放置する。
 汗と土埃で酷い有様の着物を着込んだ中年男は、体力の限界に達して激しいいびきをかきながら妙な格好で熟睡していた。
「後は任せよ」
 地面に転がる鴉の遺体に対する態度とは正反対の、非常に軽い口調で採蔵に声をかけるからす。
 しかしアヤカシに対する怒りはおさまるどころかさらに燃えさかっていた。
「詩弩、己が思うようにやるといい」
 からすが許可を出すと同時に、闇色の二対四翼を持つ詩弩(シド)が飛び立ち、砲術士が抜けた穴をついて急降下してきた眼突鴉を迎撃する。
「グルル‥‥」
 獰猛な殺意を隠さない詩弩は鋭く翼を振り下ろし、破壊力のある風を叩き付けて複数のアヤカシガラスを分解する。
 朋友の攻撃と同時に主人であるからすも動いており、商品を陳列したまま通りに出しっぱなしの台を足場に店の屋根に飛び乗る。
「ほう」
 からすの視界に入ってきたのは、店の屋上で羽を休めていた数十の眼突鴉だ。
 陽光を吸い込む暗い色の羽に、それとは対照的に強烈な飢えを感じさせるぎらついた瞳。
 眼突鴉の群が一斉に飛び立つ様は悪夢じみた光景ではあるが、からすは表情を全く動かさなかった。
「さあ、ケルブ。天儀の皆さんにカッコよく活躍を見せるのも布教の活動の1つですよ」
 エルディンのどこまで本気か分からない明るい声が響く。
 その発言が平時にされたのならブーイングが飛んできたかもしれない。
 しかしここは既に戦場であり、エルディンは聖なる矢を上空のアヤカシに対し次々と打ち込んで滅ぼしながら、神々しいほどに白い鷹を天に導いている。
 彼の発言は、場を和ませ聞く者に余裕と勇気を与えるユーモアとして受け取られていた。

●逃げ道無し
「害獣駆除は面倒臭いわ」
 鴇ノ宮風葉(ia0799)は、己の頭上1メートルに滞空中の管狐、三門屋つねきちから受け取った情報を脳裏にある立体地図に当てはめていく。
 つねきちが使う狐の早耳の効果範囲は、上は中空の一部に達し、横は通りのほぼ全域を覆っている。
 敵味方の判別ができないとはいえ、効果範囲内の生き物とアヤカシの位置を把握できるのは非常に大きい。
「2軒、じゃなくて3軒後ろの店の勝手口付近に3つ反応があるわ」
 藤丸(ib3128)が足場の無い壁を三角跳の要領で駆け上がり、そのまま勢いを緩めず屋上を横切り飛び降りる。
「竜胆、思う存分狩って来い! あ、他の迅鷹の邪魔はするなよー!」
 迅鷹の竜胆はばさりと翼を振るって了解の意を表し、藤丸を背後から伺っていったアヤカシ共を高速で移動しながら追い散らしていく。
 藤丸は背後のことは竜胆に任せ、既に半壊状態の雨戸をこじ開けようとしていたアヤカシを踏みつけるようにして地面に着地する。
 着地したときには既に手裏剣は放った後で、手裏剣で柱に縫い止められたカラス型アヤカシは、踏みつけられたアヤカシと共にそよ風で形を崩しながら消えていく。
「建物の中にアヤカシが、いえ、建物の中から外を覗こうとしてるのがいる。 藤丸、2つ後ろ!」
「分かった!」
 風葉に返事をしたときには、既に藤丸は目的地の到着していた。
 小屋の中から漏れ聞こえた悲鳴に気づき、予め知覚に移動していたのだ。
 格子に無理矢理頭を突っ込んで中の住人の目玉をくちばしで抉ろうとしていたアヤカシが、藤丸が巻き起こした旋風に切り刻まれて消えていく。
「多いな」
 建物と建物の間から空を見上げた藤丸は、空高くにある黒く大きな染みに気づいて思わず呟いた。
 最初からこれだけいたのか、あるいは徐々に増えたのかは知らないが、眼突鴉の数が異様に多い。
 おそらく3桁には達していないが、1割でも取り逃がせ大きな被害が出かねない。
「竜胆! 立派に役目を果たしたら、今日の晩飯は兎の丸焼きな!」
 藤丸は油断も緊張もなく、頼りのする相棒に声をかけながら再び屋上へと駆け上がっていく。
「奥の集団がまとまって離脱しつつある。急いで!」
「お嬢。わし等の仕事は援護じゃき、あんま前に出んときぃ」
「なこと言ってる場合じゃないでしょ」
 編隊を組んで急降下してくるアヤカシを、半歩横に移動するだけで華麗に回避しながら、風葉は慣れた様子で管狐と口喧嘩を続けている。
 口喧嘩の間も仲間の誘導は続けており、風葉の頭の中では立体の戦場が高速で変化し続けていた。
「あー、めんどくさっ‥‥こんな頭使うの久しぶりかも‥‥!」
 心底面倒臭がっているが、やることは全て正確かく確実。
 全ては風葉の実力の高さの成せる業であった。

●空での戦い
 深紅と漆黒に彩られた鷲獅鳥が天へと駆け上がり、進路上のアヤカシを暴風で砕きながら群れを突破して中空へと至る。
「街中‥‥それも都でも出てくるもんだな」
 可能性が皆無ではないとはいえ、ほぼあり得ない判断していた光景が眼下に広がっていく。
 鴉型アヤカシ約20体の群。
 戦闘能力は低いとはいえ、無防備な街に襲いかかればその高速を活かして数百やそれ以上の被害を出しかねない脅威だ。
「来るがいい。相手をしてやる」
 実力に裏付けられた宣言は、アヤカシの群全体の意識を縛り瀧鷲漸(ia8176)へ向けさせる。
 漸が手綱を動かすと、鷲獅鳥ゲヘナグリュプスは獰猛な唸りをあげつつ翼を大きくはためかせ、高速でその場から離脱する。
 アヤカシ達はゲヘナに乗る漸を追うため移動を開始するが、連携がとれていないため各所で衝突未遂と渋滞を繰り返し、横や下から見れば無防備な姿をさらしてしまっていた。
「ぬ」
 地上で弓を構える開拓者の姿を確認した漸は、迫力のある美貌をわずかに曇らせる。
 予想される矢の軌道を現在のアヤカシの位置と組み合わせると、交通規制などが行われていない場所にまで届きかねないことに気付いたのだ。
 わざと弱く矢を放って飛距離を短くする程度のことは当然やってみせるだろうが、そうすると回避能力だけは優れた眼突鴉に当てられない可能性が出てくる。
「面倒なことだ」
 アヤカシとの距離が開きつつあるのに気付き、ゲヘナの速度を落としながら片手から気を放つ。
 実体を持たない気はアヤカシを粉砕する際に攻撃力を失うが、通常の矢ならこうはいかないだろう。
 どのようにアヤカシを引きずり回すか判断に迷ったとき、迅鷹にしては小柄な体格の天藍が漸に近づき、翼で漸に合図を送ってからアヤカシの群に接近していく。
 上から圧迫することで地面近くまで高度を落とさせ、流れ弾が万に一つも戦場の外に届かない状況をつくるつもりなのだ。
「やるもんだな」
 感心したように漸がつぶやくと、漆黒と紅の鷲獅鳥は自身をアピールするように激しく翼を振るい、少しずつ眼突鴉を打ち落としていくのだった。

●地上戦
「足場は‥‥なんとかなりそうだな」
 一心(ia8409)は商店の屋上で板張りの足下の状態を確認していた。
 足場が悪かろうが移動しながらであろうが、眼突鴉を相手にして矢を外すことはあり得ない。
 しかし命中した矢が戦場の外へ向かうかどうかは別問題だ。
 可能性は極めて低いとはいえ、建物の隙間を通り抜けて別の通りにまで届く可能性も皆無ではないのだから。
「良くやった」
 破壊力のある風を放ちながら、迅鷹の天藍が通りの上空2メートルにまでアヤカシを追い込んでいく。
 一心が絶好の好機を逃すはずもなく、狙いやすい相手ではなく遮蔽物の陰になるなどして狙うのが面倒な眼突鴉を1体1体確実射貫いていく。
 3体ほど射貫いた時点で明らかにオーバーキル(なにしろ命中時に着弾の衝撃で派手に砕け散っていた)だったので、威力の低下と引き替えに避けにくくする技のみに切り替えていく。
 一心の技量に比べれば拙い回避能力しか持たず、アヤカシの中でも最下級の耐久力しか持たない眼突鴉には、それでも十分すぎた。
 一心が打ち込む矢の間を縫うようにして、九条・颯(ib3144)が商店の屋根から通りへと飛び降りる。
 途中、商店の窓を突いて壊そうとしていたアヤカシを瞬脚による加速を加えた蹴りで粉砕し、豪奢な金色の翼を広げつつ音も立てずに着地に成功する。
 颯の目の前にいるのは、通りの向こう側が見えないほど集まった眼突鴉の群。
 迅鷹達が一個所に押し込めてくれた結果であり、言うまでもなく颯の迅鷹も参加していた。
「時間との勝負だな」
 目の前のアヤカシを手のひらで打って首を折り、竜の尻尾を軽く振って勢いをつけ、そのまま片足と片腕を振るって向かって来た眼突鴉で打ち落とす。
 敵の数が多く面倒臭さを感じるようになった頃、それまで戦場外に逃げようとする眼突鴉の撃墜に専念していたからすから援護射撃が届く。
 からすはすぐに自分の担当場所に戻るが、援護の矢は的確にアヤカシの逃げ道を塞いでいた。
 続いてアヤカシを襲ったのは聖なる矢だ。
 朝比奈空(ia0086)が作り出した矢が、接触するかしないかという時点でアヤカシを粉々に分解していく。
 オーバーキル過ぎる威力だが、距離があるため建物の陰に位置するものまでは攻撃できない。
 そこへ白い光弾が連続で飛来し、再び宙に逃げようとした眼突鴉を次々に消滅させていく。
「ふぅ、数が多くて気が滅入りますね〜」
 霊杖「カドゥケウス」を手にのんびりと歩いてくるのは郁磨だ。
 瘴索結界を通して付近のアヤカシ全ての位置を把握し、逃げようとしたアヤカシから白霊弾を叩き込んでいってた。
「もう少しで終わりますから〜」
 人の気配がする建物の中に声をかけながら、郁磨は着実にアヤカシの数を減らしていく。
「任せた」
 郁磨1人でこの場を押さえられると判断した颯が、明るい黄色の迅鷹と交錯する。
 一瞬後には颯の金色と翼は眩く輝き始め、数度羽ばたくと颯を再び建物の屋上へ連れて行っていた。
「任されました」
 上空の鷲獅鳥は既に他の場所に向かい、射撃を続けて来た一心も徐々に移動しつつある。
 この場での生き残りの眼突鴉の数は極少数とはいえ、
「‥‥夜光、作戦変更。俺の所に敵を集めて」
 柔らかな口調で、しかし目には強い意志を込めて、郁磨は漆黒の鷹に命令を下した。
 夜光に追い立てられた眼突鴉達は、後衛術使い用の杖しか持たない郁磨に一撃を加えてからその場を離脱しようとする。
 が、郁磨の横を通り過ぎる瞬間、藍色の刃に両断されて地面に転がり、瘴気に戻って形を無くしていく。
「元志士の剣術、なめないでね‥‥?」
 郁磨は忍刀「暁」を鞘に収め、にやりと妖艶な微笑みを浮かべるのだった。

●制圧完了
 禍々しい雰囲気を漂わせた龍の頭蓋骨が、ふわり、ふわりと宙に浮かんでいた。
 気の弱い者であれば即座に逃走するか恐怖で身動きとれない光景なのだが、あいにくと眼突鴉は恐怖を感じ取れるような繊細な神経を持ってなかった。
 地面から数十センチの高度で加速しながら迫ってくる眼突鴉に対し、龍の頭蓋骨は慎重さを感じさせる動きで建物と建物の間の狭い空間に入り込み、安全を確認してからちょっとだけ顔を出して雷を放つ。
 地面と水平に放たれた雷は、アヤカシに抵抗を許さずその身を瘴気の細切れに分解する。
 それは駆け出しの開拓者では到底なしえない強力な術だったが、肝心の術者は頭蓋骨をかぶったまま、人目を避けるように通りして屋根の上に顔を出していた。
「‥‥相も変わらず困った子ですね」
 眼突鴉が屋根から顔を出すたびにその頭を聖なる矢で撃ち抜きながら、空は小さく息を吐く。
 管狐の青藍は決して臆病ではない。しかし人見知りの度合いがかなり強く、主として歯がゆさを感じる場面があった。
「神の力を得し聖なる矢よ、アヤカシを射抜け!」
 エルディンが高らかに声をあげると、白い矢が先行となってアヤカシを射貫き、澄んだ青空の中に消えていく。
「よし」
 敵の姿が消えたのに気づき、エルディンは満足げにひとつうなずく。
「よく頑張りました」
 空から舞い降りてきた迅鷹ケルブに笑顔を向け、エルディンは油断無く上下左右の警戒を行っていた。
「こちらの索敵範囲に敵影無し。他はどう?」
 遠くから風葉の声が響くと、アヤカシが排除された空から漸の覇気のある声が返ってくる。
「上からは確認できない」
「こちら側も異常無しです」
 風葉の反対側を担当していた郁磨からも、柔らかな声で報告がされる。
「こちらも問題有りません」
 念のため周囲の確認を行いアヤカシの全滅を確認した空は、静かな声で討伐の完了を宣言した。
 甘えるように空の胸に飛び込んできた青藍をあやしながら、空は静かに通りを抜けていくのだった。