強いぞ?僕等のDソンビ
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/11 06:15



■オープニング本文

 死竜(ドラゴンゾンビ)。
 飛行能力と強力な再生能力を持つ、非常にやっかいなアヤカシである。
 開拓者ギルドでときに見かける、単独で強力なアヤカシを殴り殺せたり単独でアヤカシの部隊を消し飛ばすような熟練開拓者であれば、死竜を打倒することは簡単かもしれない。
 問題は、攻撃が届く距離まで死竜に近づけるかだ。

●逃げ癖あり
「どうしましょう?」
「どうすればいいんでしょう?」
 開拓者ギルト係員と、とある貴族から派遣されてきた役人は視線を交わし、同時に頭を抱えた。
「逃げ癖がついた死竜なんて冗談みたいなの、本当に存在するんですよね?」
「冗談ならどれだけ良かったか。ほぼ毎日村を襲撃する死竜を撃退するのを繰り返すという苦行を1週間続けているのですよ。幸い今の所被害者は出ていませんが、矢弾の補充や私兵団の駐留経費、さらには周辺地域における生産活動の萎縮による収入低下の影響で、財政が大打撃を受けております」
 まだ三十路に入っていないはずの役人は、心労と過労によりやつれきっていた。
「追撃して倒そうにも、死竜は空を飛べます。実戦投入できる出来る龍は領内に2体しかいませんから、追っても返り討ちが目に見えているわけでして」
 とはいえこのままでは防衛戦力より先に領内の経済が崩壊する。
「死竜の飛んでくる方向は分かりますか?」
「この向きですね」
 机に広げられた、持出禁止の判子が押された地図の一点を指さし、そこから一方に指先を動かす。
「私兵団が言うには、戦闘能力はともかく頭は良くて獣並みだそうで、おそらく縄張りから一直線に向かって来て、一直線に帰って行くのだろうと」
「そうなると、このあたりで迎撃すべきかもしれませんね」
 係員の視線の先には、人里から遠く離れた荒野があった。

●討伐依頼
 人里に対して襲撃を繰り返す死竜を討伐して欲しい。
 死竜は飛行可能であり、人里や街道の上空で戦闘を行った場合、不測の事態が発生しかねない。
 周囲に人工物が存在しない荒野で迎え撃ち、そこから逃さず倒すようお願いする。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
オドゥノール(ib0479
15歳・女・騎
沖田 嵐(ib5196
17歳・女・サ
九条 炮(ib5409
12歳・女・砲
サクル(ib6734
18歳・女・砂


■リプレイ本文

●高空
 眼下には、広大な荒野。
 少し視線を遠くに向けると、小規模ではあるが牧畜が行われているらしい、まばらに草が生えている。
 そして視線を地面と水平にすると、水平線を隠す山の陰から、3つの小さな影が現れていた。
 駿龍のシュムースが風の影響を殺すようにして身体を揺らさず飛行する中、その主人であるサクル(ib6734)はギルドで記憶した地形情報に3つの影の位置を当てはめ、その速度と己との相対速度を計算する。
「見えた速度での概算ですが、あと2分でここに来ます」
「承知した。再生能力があるとはいえ幾度も来るのはこちらにもあちらにも苦痛だ。さっさともう一度眠らせてやろう」
 オドゥノール(ib0479)は静かに応じて、みるみる大きくなっていく3つの影を迎え撃つため移動を開始する。
 影は、力強く大気を切り裂く翼を持つ、かつては龍だった存在だ。
 瘴気に入り込まれアヤカシと化した今でも、体力と速度は極めて優れている。
「咆哮の範囲にぎりぎり入るな」
 沖田嵐(ib5196)はサクルからアヤカシとアヤカシの間の距離を聞き、艶やかとも表現できそうな獰猛な笑みを浮かべた。
 サクルが敵をはるかに上回る視力を発揮した結果、多少速度で負けていても、敵を確実に捕捉できる位置を確保できている。
「では参りましょう」
 サクルが戦陣「砂狼」に練力を使いながら促すと、開拓者とその朋友達は、一斉にアヤカシへ突撃を仕掛ける。
「お前らの好き放題も、今日これまでだ。話が通じるか知らねえが、覚悟しろ!」
 宣言に咆哮の効果を込めながら、嵐は炎龍の赤雷と共に真っ直ぐに距離を詰めていく。
 嵐の手にあるのは自らより大きな斧、戦斧「アースブレイク」。
 急速に零に近づいてくる相対距離を冷静に測り、衝突する寸前でわずかに回避行動をとりつつ巨大斧を振り切る。
 爆発じみた音をたてて死竜の脇腹が爆ぜ割れ、赤雷の頬の鱗が数枚まとめて剥ぎ取られる。
「思ったより素早いなあっ」
 3体の死竜と交叉した直後、赤雷はくるりと体をひねって全力を出して羽ばたき、強引に180度方向転換する。
 嵐は赤雷の背で巨大斧を振り上げ、今度こそ翼を断ち切るため全神経を目の前の敵に集中する。
 それに対して3体の死竜は、軽く左右にバンクして互いに意思疎通すると、無理の無い軌道を描いて反転し嵐に向かっていく。
 腐っても竜というべきか、回避に長けた者でも一撃二撃ならともかく三撃全てをかわすのは難しい、見事な隊列を組んでいた。
 だが連携を行うのはアヤカシだけではない。
 死竜が嵐に引きつけられたため、進路を遮って足止めすることに失敗したオドゥノールが、嵐に向き直るため無防備な背中を見せている死竜に急接近して槍「疾風」を鋭く振るったのだ。
 狙いは、頑丈ではあるものの、死竜の巨体に比べれば頼りないほど薄い翼だ。
 オーラをまとって力を増し、鎧の隙間すら刺し通す精密な動作で突き込んだ結果、翼の付け根よりの部位を半ばまで切り裂くことに成功する。
 悪夢じみた再生能力を持つ死竜ではあるが、戦闘中に重要部位の完全再生をするほどの再生能力は持っていない。
 腕力を揚力に帰る力を急減させた死竜は、急激に速度を落として自由落下に近い加速で降下していく。
「あのまま行くと地表に大穴が開きそうです、ねっ」
 駿龍のシュムースは惜しみなく練力を使い続けることで動きの切れを増し、嵐に突っ込む死竜の至近距離を行き来する。
 その主であるサクルは、嵐とオドゥノールを支援できる位置を確保し続けることで、2人がより容易に動ける状況をつくっていた。
「ちっ、竜の癖に怖じ気づきやがって!」
 嵐は戦斧「アースブレイク」を振り下ろす機会を掴めず、噛みついてくる死竜の牙を防ぐために振るっていた。
 死竜は初撃で大打撃を受けて懲りたらしく、隙を見せないよう守りを固めた上で、着実に嵐にダメージを与えていく方針に切り替えているのだ。
 赤雷は己を守ってくれる主を信じ、体格が一回り以上大きな元竜に対し爪を突き立て、抉る。
 それは頑丈な竜でも決して無視できない傷だったが、既に生き物でなくなってしまっている死竜にとってはかすり傷でしかない。
「さらに高空に逃げるつもりか?」
 オドゥノールが警告を発する。
 高空に残った2体の死竜は高度を下げたもう1体を見捨て、逃げるためか、あるいは有利な位置に移動するためか、頭上の雲目がけて上昇しようとする気配を見せていた。
「それならこれで!」
 サクルは激しい空中戦の中、装備し直すことになんとか成功した鎖分銅を振う。
 鎖は死竜の翼に絡みつくことには失敗したが、片足に絡みついたことで死竜の動きをある程度制限することに成功する。
 そこに鷲獅鳥のツァガーンが連続で真空の刃を放ち、死竜の翼を傷つけた。
「よし!」
 それまで2体の死竜を相手にしていて余裕がなかった嵐が、攻勢に転じることはあえて行わず、死竜との距離を保ちながら効果を開始する。
 目指すは中空。
 開拓者達が罠を張る、アヤカシにとっての死地である。

●中空
「紅焔‥‥一緒に頑張ろうね‥‥」
 柊沢霞澄(ia0067)の白い手で頭を撫でられた炎龍の紅焔は、無言のまま闘志を秘めた瞳を上空に向けた。
 上空から落ちてくるのは、瘴気に冒されきった同属の亡骸だ。
 姿形から判断して己との血縁はないだろうが、それでもその存在は許せない。
「加護結界はまだ効いていますか?」
「大丈夫です。効果時間が切れる頃には戦いが終わってますよー」
 迫り来る死竜により緊張感が高まっている中、カンタータ(ia0489)の何時も通りの声が響く。
「俺もまだ効いているよ」
 ジルベール(ia9952)はにこりと微笑んで、黒い湾弓に弓をつがえる。
 既に死竜は数十メートルの距離にまで迫っており、このままでは射程距離外に逃れるまで10秒もないかもしれない。
「じゃあ」
「狙い定めてSHOOT!」
 九条炮(ib5409)の陽気な声があがると、術と矢と銃弾が同時に放たれる。
 霞澄の強大な知覚力に裏打ちされた精霊砲が、死竜の右の翼の少し下に直撃する。
 命中した個所を中心に、直径半メートルほどの半球形の陥没が生じ、腐った血と骨の破片が尾を引くようにまき散らされる。
「逃げるんはお前らの専売特許やあらへんっちゅーの」
 ジルベールは鷲獅鳥のヘルメスに急降下を指示してから射撃を開始する。
 自らが降下し続けることで死竜との相対速度を小さくし、射撃可能な時間を増やす。
 背面撃ちの要領で連続して放たれる矢は霞澄がつくった穴へ次々に命中し、体の内部を深く抉られた死竜の翼がぐらつき始める。
「援護しますので、ご無理しないでくださいねー」
 カンタータが符を放ち、死竜の動きを制限する。
 動きが少々鈍る程度の制限ではあるが、戦闘の拮抗状態を崩すには十分だった。
 鷲獅鳥のレイダーに乗る炮が放った銃弾が、周辺部位をぼろぼろにされて不安定になっていた翼の付け根に命中してひびを入れる。
 そこへ霞澄の第二撃がほぼ直上から降り注ぎ、右の肩ごと死竜の翼の付け根が粉砕され、翼が高速で回転しながら荒野に落ちていく。
「なんて頑丈な‥‥」
 未だに瘴気に戻ろうとしない死竜に気付き、霞澄は唇をかみしめる。
 だがいつまでもそうしている訳にはいかない。
 霞澄は再び上空を見上げると、落下してくる2体目の死竜に対し攻撃を開始する。
「よぉ見ときや。これが、お前の桜の見納めや」
 中空から低空へ、低空からから地上へと落下していく1体目の死竜の背後をとり、ジルベールは素早く取り出した片手剣で死竜の残った翼を切り裂き、地面との衝突を避けるため急角度で下降から上昇へと移っていく。
 両翼の損傷により完全に体勢を立て直す手段を失ったアヤカシは、勢いを全く殺せずに地面に衝突し、全身を瘴気ごと粉々に粉砕されながら飛び散るのだった。

●低空
「分かっている蒼月。だがここで引くわけにはいかないんだ!」
 皇りょう(ia1673)は偽装を解除すると、それまで隠れていた地面の穴から駿龍の蒼月と共に大空に飛び立つ。
 配置につく前にカンタータの治癒符により治療を受けたのだが、未だに回復できていない。
 カンタータの治癒に問題は無い。
 開拓者の身体は極めて頑丈とはいえ、深すぎる傷を負った場合は、どれだけ強力な回復術を使っても回復仕切れないのだ。
 蒼月は傷が癒えていない主人のことを気遣うが、主人が翻意しそうにないのに気付き、早く戦闘を終わらせることで主人を危険から遠ざけることに決めたようだった。
 りょうは急速に高度を上げていき、2体目の死竜と交戦中の仲間を追い越し、嵐に誘導され降下中の3体目に近づいていく。
 高空にいた頃なら死竜もりょうの接近に気づいたかもしれないが、大地と距離が近い低空にいる今では、直前まで地面に潜んでいたりょうに気づけない。
 りょうは珠刀「青嵐」を掲げ、滲んだ夕陽じみた光をまとわせる。
 ようやくりょうに気づいた死竜は視線だけを向け、その不可思議な光に幻惑される。
 その隙をついて蒼月が急接近して爪で切り裂こうとする。
 が、死竜の鱗がはがれ腐った体液が飛び散りはするものの、頑丈さだけは凄まじい死竜に深手は負わせられない。
「ならばっ」
 死竜は嵐に注意を強制的に引きつけられているため雑な行動しかとれなくなっていると判断したりょうは、端に重石を結んだ荒縄を取り出してもう片方の端を保持したまま死竜に対して投擲する。
 荒縄は死竜の背中を飛び越え、重石が死竜を軸に一回転して縄が死竜に巻き付くことになる。
「くっ」
 縄から伝わってきた重さにりょうがうめく。
 いつもなら眉一つ動かさずに腕力で押さえ込める重さでしかないのに、腕が、背筋が、腰が、きしんでいる。
 死竜との直接接触を避けつつ行動することは、不調とはいえりょうにとっては容易いことだ。
 しかし体力を含む身体能力が必要になる場面では、今のりょうには荷が重かった。
「もう一発!」
 マスケットへの再装填作業をを終えた炮が、銃弾に練力を込めた上で引き金を引く。
 炮は翼の付け根を狙ったものの、わずかに狙いが外れた弾は死竜の脇腹に食い込む。
 片方の端はりょうが手を離したとはいえ、全長50メートルに達する荒縄とそれに結びつけられた重石を背負った死竜は、バランスを保つのに失敗して身体を大きく傾かせる。
 そこへ上空から降下してきたオドゥノールが突撃し、二度目のためか狙いがより正確になった突きで死竜の翼の付け根に槍を突き刺す。
 それで限界を越えてしまった死竜の翼は爆ぜ割れるようにしてばらばらになって飛び散り、そのまま石のように落ちていく。
 数秒後、重く湿った物が固い大地にぶつかる音が響いた。
「紅焔!」
 霞澄は炎龍に命じると同時に、膨大な量の練力を込めた一撃を放つ。
 最後に残った死竜は、ようやく嵐に追いつき噛みつこうとしたところで横合いから炎に焼かれ、霞澄の術により頭が半ばまで陥没する。
「死にぞこないのアヤカシめ、今すぐ消毒してやるぜ!」
 アヤカシの至近距離にいた嵐が巨大斧を振り下ろして死竜の片翼に傷をつける。
 同じく至近距離から赤雷が放った炎が、これまでの戦いで傷だらけの死竜の傷を焼き、カンタータが動きを鈍らせた上でその騎龍であるカノーネが炎で死竜の身体を焼き、地上近くから戻って来たジルベールが次々に矢を放って死竜の耐久力を削り取っていく。
「これで!」
 サクルの手にある銃ら放たれた弾丸が、死竜の口蓋を貫通し、頭蓋に内側から命中して止まる。
 それがとどめになった。
 死竜は身体の各所から瘴気を噴出させながら、ただの骸に戻り、音も立てずに荒野へ落下していった。

●火葬
「お疲れ様でした」
 サクルが予め用意していた水を差し出すと、開拓者達は口々に礼を言って受け取り渇きを癒していく。
 肉と骨の焼ける臭いが充満したこの場は休憩には向いていないが、もともと夏の陽で熱せられた荒野で龍の遺体を焼いた結果、開拓者にとっても厳しい暑さになってしまっているのだ。
「頑張ったね」
 カンタータが薄い金色をした翼を撫でると、火葬に加わった後に元気を無くしていたカノーネが、気力と機嫌をあっという間に回復させた。
「キュー♪」
 身軽な動作でカンタータの周りをまわるカノーネは、巨体であるにも関わらず、まるで母親に褒められはしゃぐ子供のようにも見えた。
「勢いついとったからなぁ」
 半径数メートルの大穴が3つもあるのを確認し、ジルベールが小さく息を吐く。
「埋めるにせよ煙がおさまってからやな」
「はい」
 オドゥノールは小さくうなずくと、ツァガーンを従え淡々と穴埋めの準備を進めていくのだった。