【武炎】たまごをわろう
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/31 23:45



■オープニング本文

●蟲の置き土産
 守将が、砦の櫓から叫んだ。
「全員、配置につけ!」
 森の木々を揺らすアヤカシの群れが砦に迫っている。
 主戦場のほうでも、大規模な戦いが始まっていると覚え聞く。主戦場で安心して戦う為にも、後背地に至るこの砦は死守し、何としても敵を討ち果たさねば。
 そして、こうなると頼りになるのは開拓者たちの働きだ。
 城は篭るばかりだと相手に行動の自由を与えてしまう。外部からの牽制や側面攻撃が重要になる。近隣の里への攻撃も、機動力に富んだ開拓者任せだ。
「とうとう来たか!」
 砦の逆茂木目掛け、化け甲虫が飛び掛った。

●緊急時の対応例
「報告、依頼、緊急ーっ!」
 血と汗と埃でまみれた伝令が、血走った目で書状を係員に突き出す。
「あげる!」
 係員は中身が詰まった弁当箱と水筒を押しつけると同時に書状をひったくり、中身にざっと目を通すと同時に申請書類とその他もろもろを一気に書き上げる。
 弁当箱の中身をお茶で流し込んだ伝令が人心地つくと、その目の前に乱雑な字が書き殴られた依頼票が突きつけられる。
「よろしくお願い申すっ!」
 読み終えた伝令が叫ぶように了解の返事をすると、係員は上司に話を通すために部屋を飛び出していくのだった。

●砦からの依頼
 武天にある砦から緊急の報告が届いた。
 砦のある山の近くにある小さな丘に、奇妙な卵が複数確認された。
 持ち帰るのは危険と判断した斥候が卵を破壊しようとしたのだが、堅い殻の破壊に手間取っているうちに小型の化鎧虫に囲まれてしまい、重傷者を出しつつもなんとか撤退には成功した。
 現在砦では防衛戦が展開されており、卵を破壊するために戦力を派遣するのは難しい。
 卵にはもう少しで孵りそうな気配があるので、砦の援護は考えずに卵の始末を最優先で行って欲しい。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
利穏(ia9760
14歳・男・陰
エラト(ib5623
17歳・女・吟
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
玖雀(ib6816
29歳・男・シ


■リプレイ本文

●面倒なタマゴ達
 龍ほどもある岩とほとんど一体化していた巨大タマゴを、腕力にものをいわせて引きはがす。
「おっ?」
 滑らかな表面はルオウ(ia2445)の指先をつるりと滑らせてしまい、彼の強大な腕力で支えられていたタマゴを明後日の方向に吹き飛ばす。
 瞬脚で回り込んだ梢・飛鈴(ia0034)が蹴りを叩き込んでタマゴの勢いを殺し、地面に打ち落とす。
 ほとんど勢いがついていなかったにも関わらず、タマゴは地面に埋まっていた小石を粉砕しながら深々とめり込んでいた。
「産まれてくる命と産まれようとする命に罪は無い、って言うけどね〜〜」
 葛切カズラ(ia0725)が符を放つと、触手を持つ目玉型謎生物に形を変える。
「生まれると迷惑だし死んでもらいましょう」
 カズラが感情を感じさせない笑みを浮かべると、謎生物型火炎獣が勢いよくタマゴに炎を吹き付ける。
 数秒の間は、なめらかな表面が徐々に黒ずむだけでそれ以外の変化はなかった。
 しかしすぐに限界を超え、薄い氷が割れるような音と共に複数の亀裂が生じる。
 亀裂から覗くのは、まだ何の形もとっていない濃い瘴気。
 それは丘の木々を間のすり抜けてきた夏の風に吹かれ、端から徐々に細切れになり消えていく。
「よっし。じゃあ俺は右からいくぜ!」
 まるで何事もなかったかのような顔で、ルオウは丘を駆け上がっていく。この程度のことを気にしていたら何もできないので、ルオウを含む3人は全く気にしていない。
 ルオウは途中で目についたタマゴを引きちぎり、あるいは引き抜いて、そのまま勢いを殺さずせえのとかけ声をかけつつ、木が無く地肌が見えた丘の一角に放り投げる。
 スキル無しでも体力は超人的で、小さい、とはいっても30センチはあるタマゴが半ばまで地面に埋まっていた。
 気をよくしたルオウは次々にタマゴを投擲していく。が、全高1メートル弱のタマゴを手に取ったところで動きが止まる。
「うん、安全第一だな」
 小さなタマゴなら剛力を活かして保持、投擲が可能だが、あまり大きくなりすぎるとそうはいかない。
 ルオウは大型のタマゴは両手で抱え、打ち合わせ通りの進路でタマゴの回収を行っていく。
「多いナ」
 飛鈴はルオウと逆側の進路をとり、身を低くしながらじりじりと、とはいえ優れた身体能力があるためかなりの高速で丘の上を移動していく。
 枯れかけた木に埋まるように植え付けられた小さなタマゴに気づくと、踏みつぶすようにして蹴りを放つ。
 生半可な使い手なら足を痛めそうな堅さとなめらかさを持つタマゴに対し、理穴の足袋に包まれた足が絶妙の角度で触れる。
 スキルは使われていないが、勢いと自重は効率よく衝撃に変換され、タマゴの表面を粉々に打ち砕く。
 瘴気をこぼしながら消えていくタマゴの横を駆け抜け、飛鈴は次の標的に向かう。
 急な斜面と岩との間に挟まる形で、無理をすれば巨漢が入り込める大きさのタマゴが鎮座している。
 跳躍し、抜群の平衡感覚でその上に着地すると、ほぼ密着した状態からてのひらを押し当てる。
 浸透勁をくらわされたタマゴの表面全体に無数のひびが生じるが、中から瘴気が漏れ出すことはなかった。
「もう少し柔ければ小型のものを回収する手間をかける必要がなかったがナ」
 飛鈴がその場から高速で飛び出すと、既に限界に達していた大型タマゴのひび割れが急激に増え、やがて破裂する。
 大量の瘴気はアヤカシに変じることもできず、静かに消えていく。
「時間がなイ。すぐに決めるヨ」
 小型のタマゴを予め決められた場所に向けて投擲しながら、飛鈴はほとんど物音をたてずに作戦を進めていくのだった。


●迎撃
「‥‥来やがったか。フン、仲間を命がけで守りてぇ気持ちはてめぇらも同じってか? どっちにしても負けられねぇな!」
 丘の上でタマゴの焼却処分が始まった頃、見事な陣形を保ったまま迫り来る化鎧虫部隊の進路上で、玖雀(ib6816)は堂々と待ち受けていた。
 単身で敵部隊を待ち受ける様は、まるで吟遊詩人が歌う英雄物語の一場面だが、これはどうしても必要な行動だった。
「10体。確かに引きつけた!」
 玖雀は早駆を発動する。
 移動先はアヤカシ部隊ではなく、その正反対。
 彼が待避すると同時に高速の矢が飛来し、先頭に立っていた化鎧虫に真正面から衝突し深々と突き刺さる。
 要の一体の動きが乱れたことで部隊全体の動きが雑になり、致命的な存在の接近を許してしまったのだ。
 澄んだ、それでいて力強い音が響き始める。
 秘められた激情を感じさせる音が、精霊まで巻きこむ旋律を奏で、化鎧虫部隊全体を巻き込む破壊をもたらす。
 化鎧虫部隊は、攻城兵器の直撃にも耐えそうな装甲にひびを入れられたが、彼等の苦難は終わっていない。
 精霊さえ巻き込む演奏にただのアヤカシが抵抗できるはずもなく、命令への絶対遵守が精神に刻み込まれた化鎧虫は強制的に混乱状態に陥らされていた。
「できる限り化鎧虫を卵退治の皆様に行かせないよう努力します」
 生命そのものを燃焼させる演奏を続けながら、エラト(ib5623)はこの曲の演奏者とは思えないほど淡々とした態度を崩さず今後の予定を皆に告げる。
「御意」
 返事だけを残し、玖雀は早駆を用い一瞬で距離を詰める。
 そして精確な狙いで苦無を放ち、矢により重傷を負っていた化鎧虫の装甲の隙間に刃を突き立て、息の根を止める。
「見事」
 漆黒の弓に矢をつがえながら、雲母(ia6295)は短いセリフで賞賛する。
「とどめを譲られただけだ」
 数十メートルの距離を隔てていても、玖雀の聴覚は雲母のつぶやきをしっかりと捉えていた。
「律儀なことだ」
 雲母は煙管をくわえたまま射撃を続ける。
 エラトが奏でる精霊の狂想曲に支配されたアヤカシの1体に対し射撃を繰り返し、玖雀と協力して倒してから次の1体に取りかかる。
 アヤカシの数が半分に減ったとき、エラトの演奏がゆったりとしたものに切り替わる。
 生き残った化鎧虫が夜の子守唄の効果で眠りにつくより早く、玖雀と雲母は高速で駆け出していた。
 向かう先はアヤカシの増援。
 増援の後方数百メートルには、さらに数体のアヤカシ部隊の姿があった。

●根こそぎ
「おうい! こっちの茂みの中に1つあるぞ」
 笹倉靖(ib6125)は瘴索結界の効果範囲にあるタマゴの位置を把握すると、隠密性を一切考えずに大声で報告する。
「私が掘り出すわ。笹倉さんはそのまま捜索を」
「おう、分かっ‥‥」
 靖は己の側面に何かの気配を感じると同時にその場へしゃがみ込む。
 丘の下で戦闘中の化鎧虫が放ったらしい粘着弾の流れ弾は、靖が外套っぽく羽織っていた布にかすって、布に大量の粘液をしみこませていた。
「危ねー。そろそろ援護に回った方が良いのかね?」
「どうかしら。タマゴの処分はそろそろ完了しそうではあるけれど」
 茂みの中から引っ張り出すには時間がかかると判断したカズラが、カマイタチを放ってタマゴを破壊する。
「んん‥‥中途半端な濃さね」
 中身がほぼ消え去り、殻も消え始めているタマゴに手をのばし、カズラは瘴気回収を発動させていた。
 自然にアヤカシが発生するほどの瘴気の濃さにはちょっと足りない。
 タマゴが完全な状態なら十分な濃さを保てるのかもしれないが、それを検証している暇はないだろう。
「こっちは探索済み、と。どちらに行けばいいんだか」
 靖は利穏(ia9760)から渡された、非常に目立つ色の紐を木の枝にくくりつける。
 くくりつけられたのはここだけではない。全体を隙間無く彩る紐により、丘の印象は奇妙に華やいだものに変わっている。
「後はよろしくー」
 靖は飄々とした態度を崩さず、目だけはひとつの見落としもないよう真剣に、一度は他の面々が調査した場所を巡っていく。
 最小でも全高30センチあるとはいえ、木が多く、凸凹が多い地形の場所に生み付けられたタマゴは、生み付けられた場所によっては非常に見つけづらい。急いでいるならなおさらだ。
「靖さん?」
 長大な刀身を持つ長巻でタマゴの処分を行っていた利穏が、靖が近づいてきたことに気づいて振り向く。
「だいたい終わった。残っているのはあのあたり、くらいなんだが」
 現在いる場所から見て下り坂になる方向を示す靖だが、その表情は優れない。
 丘の周囲に40近い化鎧虫が展開し、1キロメートルほど先から、明らかに化鎧虫より大きなアヤカシが近づいて来ているのに気づいたからだ。
 担当の範囲の捜索を終わらせたルオウや飛鈴が迎撃にまわっているが、数の差がありすぎるので戦況は良く言って五分五分だ。
「素早く終わらせましょう」
「そうだな」
 利穏は改めて長巻を抱え、靖はぱちりと音を立てて扇子を開いて戦闘準備を整える。
 そして、2人は丘を駆け下りる。
 邪魔な岩や枝は利穏の長巻が砕き、所々に残っていたタマゴは、靖が放った光弾に打ち抜かれていく。
「こんな所にも」
 砕かれ宙に舞う枝の裏に小さなタマゴを見つけ、利穏は小さく息を吐いてつかみ取る。
「そちらは?」
「終わった」
 練力がほぼ尽きかけたエラトの言葉に、靖は軽い調子で返事をする。
 丘から2人が降りてきたのを確認し、雲母がそれまで温存していた練力をつぎ込んで攻勢を開始する・
 衝撃波をまとわりつかせた矢が連続で放たれ、開拓者の対単体攻撃のみを警戒していたアヤカシ部隊の多くを貫きダメージを与えていく。
 強力な装甲を持つ化鎧虫は連続で襲ってくる衝撃波に良く耐えたが、エラトの広範囲攻撃のダメージが残っていたため、雲母の攻撃に耐えきることはできなかった。
 一度に5体を失ったアヤカシは、ほんの数秒ではあるが隊としての戦闘能力を失う。
「助かる!」
 靖はアヤカシの隙をついて攻撃しようとはせず、全力で化鎧虫から離れて行く。
 他の面々は既に撤退に移っており、弓による長距離攻撃能力と早駆による高速移動能力を兼ね備えた雲母だけが撤退のための援護射撃を行っている状態だ。
 その雲母も、大技を連発した結果そろそろ早駆を使う余力さえなくなりつつある。
「さよなら、です」
 最後に残ったタマゴを投げつけ、利穏が皆の後を追う。
 タマゴはばらばらに開拓者を追いかけようとする化鎧虫に踏みつぶされ、瘴気をまき散らしながら消えていく。
 化鎧虫は丘のタマゴを全滅させた者達に対する追跡を続行するが、最初から逃げに徹した開拓者に追いつくことはできないのだった。