【武炎】迫り来る虫の壁
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/10 01:29



■オープニング本文

●伊織の里
 魔の森の近くには、どこの国でも、アヤカシを食い止める砦がある。
 伊織の里や高橋の里も例外ではない。
「敵襲ーっ!!」
 がんがんと櫓の鐘が鳴り響く。眼下を見れば、「花ノ山城」へ向かって、凡そ荷車ほどの大きさはあろうかと言う化け甲虫が、まるで鋼鉄のアーマー部隊の様に整列して迫っていた。
 どうやってかはわからないが、各地の砦近くに、甲虫達が、忽然と姿を現したのだ。
 そんな甲虫達の群れを見下ろすのは、個体の中でも、さらに大きな個体。
「さぁおいき、可愛い子供達。たっぷりとね」
 その上部には、会話を交わせるほどの形となった、美しい女性の姿が埋まっていた‥‥。

●虎の子の龍と数の暴力
「とうとうこの日が来たか」
 砦の中にある物見櫓の頂上で、顔に多数の傷跡がある男が拳を握りしめていた。
 砦を包囲するのは、全長3メートルに達する化け甲虫が40と少し。
 馬防柵と表現するにはあまりにも頑丈かつ凶悪なバリケードと、雑ではあるが深さ2メートルに達する堀によりなんとか食い止めることに成功している。
 もっとも既に深刻な被害が発生している。
 アヤカシの動きが活発になってから突貫工事を行い堀とバリケードを造りあげた結果、砦の守備を担当する一族の蓄えのほとんどが吹き飛んでしまっていた。
「アヤカシ共。このままでは千日手と思ったか? 甘い、甘いぞ!」
 砦の指揮官が手を振ると、砦の最深部で待機していた炎龍が力強く羽ばたき、徐々に高度をあげていく。
「これまでの戦いで貴様等に遠距離攻撃能力がないのは分かっている。おまけに非物理攻撃に比較的弱いこともな。我が一族の切り札、炎龍のほーちゃんの炎により滅び去るがよい! あ、ほーちゃんは無理しないでね。1出撃で1匹仕留めてくれたら十分だから」
 炎龍は「まーかせてっ」と言いたげに機嫌良く吼えると、射程ぎりぎりの高度を保ちながら、隊列を組むアヤカシのうちの1体に集中して炎を浴びせかける。
 アヤカシの巨体を隠す場所はなく、時間はかかってもそのまま討ち取られるかと思われたが、それより早くアヤカシ全体が動いていた。
 半数の化け甲虫が地面を掘って石や岩を掘り出し、残る化け甲虫がが石や岩に体をすくい上げるようにして宙に飛ばす。
 その半分ほどが明後日の方向に向かい、炎龍に届いたものもほとんど勢いが無く、辛うじて炎龍に命中した石も鱗に小さな傷を付けることしかできなかった。
 しかし化け甲虫の数は多く、体力はほとんど無尽蔵だ。
 1体がこんがりミディアムに焼き上がる頃には、炎龍は全身に投石をうけてふらふらになり、慌てた主人に命令されて砦の中に逃げ込むことになる。
 アヤカシ達は重傷を負った同族を後方に下がらせると、堀の近くの地面を崩して、ゆっくりと確実に砦攻めを開始するのであった。

●貸し出された砲術士
「あんた、いや失礼。あなたが?」
「はい」
 卑屈なほどに腰が低い男が、物見櫓の上で守備隊長に挨拶をしていた。
「交換条件で貸し出されたというか、その辺お察しいただけると大変ありがたく。おっと失礼」
 突然横を向き、床に置いていた大型の火縄銃を抱えてぶっ放す。
 堀を乗り越えかかっていた化け甲虫の正面装甲が大きくへこみ、化け甲虫はどこから攻撃を受けたのか探るために頭部を左右に振る。
 そこへ守備兵達の一斉射撃が行われ、化け甲虫はじりじりと押し戻されていく。
「事情は聞いているがどうにも‥‥」
 隊長は猛烈に葛藤していたが、10秒も立たずに決断を下した。
「申し訳ない。少々取り乱していたようだ。最後までおつきあいいただけると助かります」
「いえいえこちらこそよろしくお願いいたします」
 合意に達した両者は握手をかわし、それぞれも持ち場へ向かった。

●援軍要請
 花ノ山城の近くにある小砦がアヤカシの襲撃を受けている。
 防御施設が優秀ゆえ時間を稼げているが、防御施設の効果があるのはせいぜい3日ほどだと思われる。
 速やかに現地に向かい、アヤカシの集団を撤退させて欲しい。
 追記。
 砦の中にいる人員及び資材に対する指揮権は、依頼期間中は依頼人により開拓者へ与えられる。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
オドゥノール(ib0479
15歳・女・騎
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
エラト(ib5623
17歳・女・吟


■リプレイ本文

●空からの鉄槌
 地表から5メートルの高度を、一体の駿龍が飛んでいた。
 動きに気付いた化甲虫が投擲してきた石や、所々高くなった地形が、蝉丸の名を持つ駿龍に迫りその美しい体に触れる直前で回避されていく。
 蝉丸の背に乗る鈴木透子(ia5664)は、強烈な向かい風の中で目を見開いていた。
 全長3メートルの化甲虫40強からなる部隊は非常に迫力がある。
 1つ1つが分厚い装甲に覆われ、単独の頭脳により統率されているとしか思えない、余りに整然としすぎた隊列を保ちつつこちらに向かって来ている。
 化甲虫部隊との距離が縮まり、零になる。
「蝉丸!」
 透子は符を放つと、術の発動を確認する暇すら惜しんで蝉丸に指示を出す。
 蝉丸は主人の指示を聞くと、スタミナを使い切る勢いで翼を激しく上下させ、強引な軌道で急上昇を開始する。
 その蝉丸を追うようにして、透子が発動させた術より呼び出された瘴気の霧が広がり、全ての化甲虫をその効果範囲にとらえる。
 それから数秒後。
 美しすぎて聞きようによっては禍々しささえ感じられる音色を伴い、一騎の鷲獅鳥が蝉丸と入れ替わりにアヤカシ部隊の中心へと急降下を開始する。
「この一撃で灰塵と化せ」
 鷲獅鳥の黒蓮の背で、朝比奈空(ia0086)が詠唱を完結させる。
 高度30メートルの地点で生み出された火球は黒蓮を追い越して地表に命中し、音を置き去りにする巨大な爆発を発生させる。
 数分の一秒後に届いた爆音はあまりに巨大すぎ、上空から支援していたエラト(ib5623)の音色を、一瞬ではあるが誰にも聞こえなくさせていた。
 強い横風が吹き、空のメテオストライクによって生じた土煙が吹き飛ばされていく。
 すると20体以上の化甲虫が、分厚く頑丈なはずの装甲をひびだらけにされたことが明らかになる。
 瘴気の霧によりアヤカシの抵抗力が弱まっていたとはいえ、空の強大な知覚力がなければ為し得ぬ成果であった。
「黒蓮」
 急降下から急上昇に転じようとする鷲獅鳥の背で、空は厳しく命令する。
 主と比べればくぐり抜けた修羅場が少ないのが災いしたのか、黒蓮は急降下の際に勢いを殺しきれずに化甲虫の攻撃の間合いに入ってしまっていた。
 化甲虫は体の後ろ半分を支えにして強引に立ち上がり、分厚い装甲そのものを武器にして黒蓮に叩き付けようとする。
 黒蓮は、回避も反撃もしなかった。
 主の命令に従い速度の維持に全力を注ぎ、いくつかの打撲傷をうけることと引き替えに十分な高度をとることに成功する。
 そして、二発目の火球が大地に降り注ぐ。
 黒蓮に攻撃を仕掛けた化甲虫は距離をとることもできず、再び発生した大爆発により装甲ごと砕かれて宙に舞い、力を失った瘴気と化し霧散していく。
 空による空襲が行われるまでは巨大な菱形陣形をとっていた化甲虫部隊は、その陣形の中心部分の戦力を失い、多数のアヤカシからなる一個の部隊ではなく、ただの二十数体のアヤカシとなってしまっていた。
「指揮官は左側ですね」
 半壊した1つの部隊から多数の散開した部隊になりつつあるアヤカシを見下ろしながら、透子は結論を口にする。
 化甲虫の命令伝達速度は非常に早く、漫然と見ているだけでは全体が同時に動いたようにしか見えなかっただろう。しかし透子は行動が切り替わる順番に注意を向けていたため、比較的簡単に指揮官の居場所を突き止めることに成功していた。
 透子は左翼に展開するアヤカシの上空に移動すると、仲間への目印にするためアヤカシ側指揮官の近くに発光する式を飛ばすことで目印にする。
 化甲虫は複数の部隊に別れつつ、空のメテオストライクを避けるため散開しようとする。が、次々に部隊の動きが止まっていく。
 駿龍アギオンを駆るエラトが、空中を高速移動しながら夜の子守唄を使うことで、アヤカシの小部隊をまとめて眠りの中にたたき落としていっているのだ。
 小部隊とはいえ複数の化甲虫で構成されているため、余程運が悪くない限り1体程度は眠りから免れる。
 だがその1体が他の化甲虫の目を覚ますために使う時間は、ほとんど致命的な時間の損失をもたらしていた。
 何故なら、動きが鈍ったアヤカシの小部隊に対し、地上を走る開拓者達が突入を開始したからである。

●茫然自失
 砦の中は奇妙な沈黙で満ちていた。
 3騎の龍がアヤカシの大部隊に突入してから1分もたたない間に、アヤカシの3分の1近くが消し飛び、残るアヤカシも部隊として動くことができなくなってしまったのだ。
 これが人間同士の戦いならば、全滅覚悟の撤退か降伏を選択する状況だ。
「はん、治療した分しっかり働けよ」
 翡翠色の髪と瞳を持つ小さな少女が、半死半生状態から全快させた男達の頭をぺちぺちと叩く。
 それは平時であればとても失礼な行為なのだろうが、戦闘中に呆然とする男達を正気づかせるためなので誰も文句は言えない。
 少女の名はロガエス。少々ツンが激しい人妖である。
「まるで、子供向けの御伽話だ」
 羨望とも絶望ともつかない表情を浮かべた砲術士が、どす黒いくまで飾られた目を上空に向けていた。
「悪いがあんたには働いてもらうで。援護射撃と」
 守備兵が妙な色気を出して攻撃に参加しないように頼むで。
 ジルベール(ia9952)は直接口には出さず、人好きのする笑みを浮かべたまま砲術士に要請していた。
「申し訳ありません。ええ、ええ、確かに承りました」
 卑屈さと腰の低さでという仮面を被り直し、砲術士は深々と頭を下げる。
 ジルベールは一瞬目を細めたが口に出しては何も言わず、持ち込んだ医薬品を守備兵に渡すと騎龍に飛び乗り、地上を進む仲間を援護するため空へと飛び立つのだった。

●突撃
「出るぞ、シュナイゼル」
 ニクス(ib0444)は黄金の駆鎧の足系統に意識を集中し、隣を走る白銀の駆鎧、サーシャ(ia9980)のミタール・プラーチィと完全に速度を同調させた上で化甲虫の部隊に対し突撃を開始した。
 全高1メートル、奥行き(全長)3メートルに達する化甲虫が整然と並ぶ様はある意味壮観であり、並みの要塞を上回る強固さを持っている可能性すらあった。
 しかし上空を旋回中のエラトから妙なる音色が響き、化甲虫の大部分が強制的な眠りにつかされる。
 そこへ駿龍ネイトの高速飛行を活かして後方から追いついてきたジルベールが、桜色の燐光を纏う黒い湾弓から矢を放つ。
 尋常でない弓から放たれた矢が尋常であるはずもなく、ジルベールの念が込められた矢は近づいた化甲虫全てに傷を与えながらアヤカシの陣深くまで食い込んでいく。
「淑女ならば‥‥一撃必殺!」
 白銀の駆鎧中で気合いの声が響き、化甲虫の列と衝突する寸前に全高3メートル越えの巨大剣が横なぎに振るわれる。
 それに対して黄金の駆鎧は見事な構えで両刃の片手剣を突き出し、衝突直前に急加速したまま一切減速せずに化甲虫の隊列に突っ込む。
 白銀の駆鎧の進路上の化甲虫たちは駆鎧ごと部隊の後方へ押し込まれ、黄金の駆鎧の勢い支えきられなかった数体の化甲虫も深手を負って耐えきれずに後退していく。
 シュナイゼルは自身と折り重なりあうようにして倒れるアヤカシの1体に刃を突き立てると、全力で横なぎにして数体まとめて切り捨てる。
 2体の駆鎧の突撃により、恐るべき精密さで動いていたアヤカシの部隊の連携が完全に破壊されていた。
「行け、ツァガーン!」
 そこへ白い鷲獅鳥がアヤカシの中へ突入する。
 主人であるオドゥノール(ib0479)が化甲虫の関節部分を狙って疾風の銘を持つ槍を繰り出し、他の部分と比べて著しく薄い装甲をぶち抜いていく。
 だが、化甲虫の動きは鈍りはするものの討ち果たすには至らない。
 化甲虫の生命力が高すぎるのだ。
「体力だけならぁぁぁっ!」
 全高3メートルの巨体と剛力を活かして突入路を維持する金と銀の駆鎧の間をすり抜け、フィン・ファルスト(ib0979)が蜻蛉切を振り上げながら敵陣へと突貫する。
 そして、突撃の勢いを乗せて蜻蛉切を横に一閃させると、フィンの前方180度にいた化甲虫達の前面装甲がへこむ。
 フィンが今度は逆側から一閃させると、数体まとめて前面装甲ごと内部が破壊され、瘴気に分解されて霧散していく。
 だが化甲虫もやられてばかりではない。
 2体の駆鎧に比べると防御がもろいと判断したらしく、駆鎧の前に最低限の足止めを残し一斉にフィンに対し襲いかかってきたのだ。
「頑丈なのが取り得なんだから防げイノシシ!」
 砦から全速力で主人に追いついたロガエスが、本人としては精一杯の応援のつもりの、客観的には罵倒に限りなく近い叱咤激励の声を飛ばす。
「後で覚えときなよロガエスー!」
 急所に直撃しそうな一撃は蜻蛉切で受け、深く肉を抉りそうな足の一閃は胸甲で逸らしてダメージを抑え、少しの打撲で済みそうな一撃は自身の防御を信じて耐える。
「やれやれ。数が多いな」
 鷲獅鳥に乗ったオドゥノールがフィンの元に急行し、彼女を囲んでいた化甲虫の1体に集中攻撃を浴びせて沈黙させる。
 ツァガーンは主人が繰り出す攻撃に参加したいそぶりを見せていたが、オドゥノールは厳しさと同時に相手を思いやる心を込めて諭す。
「戦場の雰囲気に、まず慣れろ。この空気の中で飛ぶことを覚えろ。お前の爪を振るうのはそれから後だ」
 フィンより圧倒的に防御面で劣るツァガーンに、ほとんど全ての化甲虫が向かってくる。
 しかしオドゥノールの槍が致命的な一撃を防ぎ、フィンが攻勢に移ることで化甲虫の注意を引きつけ、ツァガーンへのダメージの集中を防ぐ。
 ツァガーンは回避に専念することでなんとか重傷を免れ、オドゥノールに指示され高度を上げることで一息つくのだった。

●全滅
 メテオストライクが大地ごと化甲虫の小部隊を吹き飛ばし、無慈悲な美しさを誇る九尾白狐型の式が全てを蹂躙する。
 通常型化甲虫とほぼ同一の見た目を持っているにもかかわらず、全ての面において通常型を大きく上回る能力を持っていた指揮官型アヤカシは、一切の抵抗も反撃も許されずに滅ぼされた。
「まずいな」
 ニクスは目の前の化甲虫にとどめを刺しながら、口元を小さく歪めていた。
 陣形の変更中に指揮官アヤカシを倒された結果なのか、数体の化甲虫が見当外れの方向へ移動し続けている。そのほとんどは荒野なり魔の森なりへと向かっているが、放置すれば無関係の人間に被害が出かねない。
 近くにいた化甲虫の掃討を終わらせたニクスは、駆鎧の残練力が少なくなったのにも関わらず全速で追いかけようとする。
 が、砦から砲撃が始まる方が早かった。
 一度の攻撃で練力を使い尽くすつもりとしか思えない、やけくそ気味の砲撃が1体の化甲虫を襲い、完全にとどめを刺す。
 残るアヤカシは、静かに空を移動するエラトの手による夜の子守唄で意識を奪われ、揺り起こす同属が近くに存在しないためそのまま動きを止めてしまうことになる。
 ニクスが砦の反対側に目をやると、サーシャが操る白銀の駆鎧が化甲虫の装甲の隙間に慎重に狙いを定め、全力で刃を押し込むことでとどめを刺していっていた。
「‥‥ふぅ」
 黄金の駆鎧の搭乗口が開き、濃い色のついた伊達眼鏡をかけたニクスが大地に降り立つ。
 既に生きているアヤカシの姿は無く、残っているのは開拓者と消滅途中のアヤカシの残骸だけだ。
「反応無し。‥‥反応がなさ過ぎて問題かもしれん」
 心眼による調査を終えたニクスは重い息を吐く。
 化甲虫は知覚力に関してはたいした能力を持っていないので、生身状態での知覚力を高めて来た彼の目から逃れたとは考えづらい。
 つまりこれでこの場のアヤカシが全滅したことが確定したわけだが、開拓者以外の気配が一切存在しない様を見るのはあまり良い気分にはならない。
「魔の森が近いさかい」
 駿龍と共に降下してきたジルベールが声をかけてくる。
 そのすぐ後にはオドゥノールが続いており、彼女はニクスと同様に駆鎧から降りたサーシャの方を向いていた。
「ただの練力切れですわ。被害も外装にちょっと、ちょぉっと傷が付いただけですので、短時間止めて練力を回復させれば自力で帰還できますわ〜〜」
 少しではあるが愛機に傷が付いたのが悔しいらしく、サーシャは笑顔の中にも悔いがある表情をしていた。

●勝利
「ふう」
「ふぅ」
 砦の守備隊長と援軍であった砲術士は、エラトから貰った甘酒を舐めるように飲んでいた。
「儂はもう時代遅れなんかのー」
 ここ数日で一気に老け込んだ感のある守備隊長が、ぽつりとこぼす。
「今回のことは必要以上に気に病まない方が良いのじゃないでしょうか。高みを見過ぎても転んでしまうだけです」
 不思議そうな目を向けてくるエラトに礼をしてから、砲術士は隊長を促し退却の準備を開始させる。
 大戦力でもって砦を包囲した化甲虫部隊は文字通り全滅し、砦側は1人の死傷者も出さずに使える資材を持ち出した上で砦を放棄した。
 完全勝利である。