元小鬼の山、現鬼達の山
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/23 03:59



■オープニング本文

●早すぎる便り
「どこからか流れてきたのか、新たに発生したのか」
 手紙を読み終えると、係員は頭痛をこらえるように己の眉間をもんだ。
「どちらにせよ依頼を受け付けるのに問題は無し。‥‥前の資料をそのまま流用できれば楽なのにねぇ」
 口では文句を垂れながら、係員は関係各所に提出するための書類を書き始めるのだった。

●新入りは鎧鬼
「以前に討伐が行われた山のふもとで鎧鬼が複数確認されました」
 係員の言葉に、特殊な事件が発生したのかと思った開拓者からの視線が集まる。
「面積から判断すると、同じ山にアヤカシが現れるのは多少珍しいですが不自然というほどではありません」
 係員の発言に納得したのか、注目する視線が少なくなる。
「現地に存在するアヤカシは鎧鬼複数、小鬼がおそらく10から20です。ふもとで目撃された際には鎧鬼と小鬼が一団となって行動したようです。ですのでばらばらになって行動している可能性は低いとは思いますが、現地で調べてみないことには正確な情報は手に入らないでしょう」
 係員は縦横それぞれ1キロメートルほどの範囲が描かれた地図を取り出す。
 そこには以前の討伐に参加した開拓者が得た地形情報が書き込まれていた。
「山の斜面はかなり傾斜がきつく、特に北側は志体持ちでも十分な準備無しでは危険です。南側は多少は緩やかで、頂上へと通じる曲がりくねった登山道と、登山道脇の山小屋がいくつかあります。鬼達に荒らされている可能性もありますが、山中での捜索の際には有用な拠点となるかもしれません。‥‥今回の依頼は以前の討伐とは異なり現地での活動期間に制限はありません。アヤカシの捜索などで長引きそうな場合は、水、食料、寝床などの準備を予め行うことをお勧めします」
 強力なアヤカシを単独で討ち取れる開拓者であったとしても、水や食料が無い状態では長くは生きられない。
 この依頼、ひょっとするとアヤカシよりも山の方が強敵かもしれない。
「山の中でアヤカシを倒してから2日間新たなアヤカシと遭遇しなければ、その時点で依頼が成功したとみなされます。決して遭難などしないよう、くれぐれもお気をつけください」


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
沖田 嵐(ib5196
17歳・女・サ


■リプレイ本文

●準備段階で結果はほぼ決まる
「ご注文の品はこちらになります」
 朽葉・生(ib2229)発、開拓者ギルド経由の注文を請けて派遣されてきた運送業者が、部下に命じて米俵を初めとする食材を荷車から降ろさせる。
「ありがとうございます。食べ物をいっぱい持って行かないとなのですよね!」
 にこにこしながら細かな荷物を整理しているのはネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)だ。
 ギルドから貸し出された本格的な登山用背負い袋の中には、キャンディやチョコレートなどの甘味がたっぷり入っている。
 最長1週間の長期遠征に必要となる糖分を用意してきたのだが、必要なのはそれだけではない。
「大きな米俵に食塩がぎっしり詰まった袋に、朋友用の食料である草に日持ちのする干し肉。本当に色々いっぱいあるのですよ」
 容量としては草が極めて大きく、生の騎龍であるボレアだけでは無理をさせたとしても一度では運べないだろう。
「寝袋や替えの下着とかはいいのかい?」
 騎龍である赤雷の鞍に、1週間分の活動に備えるための荷物をくくりつけていた沖田嵐(ib5196)が確認すると、生とネプは顔を見合わせた。
「あたしだって女なんだから、気にするんだよ、こういうのは」
 嵐は少し照れが混じった声で言うが、生は普段の超然とした表情ではなく深刻な表情になっていた。
「衣服が汚れていれば少しの傷が大事に発展しかねない」
「最長1週間。ちょっと甘く見ていたかもしれないのです」
 今回赴く場所は、冒険者ギルドの依頼により開拓者によるアヤカシ討伐がなされた場所だ。今回の討伐依頼参加者の中には前回参加者が含まれているので、現地がどんな場所かは全員教えてもらって知っている。
「一応人間の手は入っているとはいえ、開拓者でもしかねない場所だったな。依頼である以上は少々の不便は気にならぬが」
 九条・颯(ib3144)は、豪奢な金の髪を風になびかせながら小さく息を吐いた。
「オレを始め、用意が不十分であったということだな。到着が遅れるがしかたあるまい」
 開拓者達は一端解散し、足りない物資の調達に向かうのであった。

●拠点奪回作戦
 宙を這う雷が古びた大鎧に直撃し、その内側にある肉と骨を衝撃と熱で痛めつける。
 風雅哲心(ia0135)が放った2度目の雷が命中すると、鎧鬼は鋭い刃を持つ薙刀を取り落とし、全身から瘴気を霧散させつつその場に倒れ込んだ。
「汪牙、あいつらを蹴散らしてくれ!」
 上空で待機していた焔龍牙(ia0904)の迅鷹が、主人の指示に応えて降下を開始する。
 降下の角度は地面に近づくほどの緩やかになり、地上5メートルの高度に達する事にはほぼ水平に滑空を行っていた。
「小屋の中に2つだ」
 心眼で掴んだ情報を伝えながら、龍牙は己に向かってくる小鬼達を体捌きだけで回避していく。
「ブライを残す。小屋の中は任せるがいい」
 颯は一直線に山小屋に向かい、扉を蹴り破って中に侵入する。
 瞬脚で距離を詰めて暗勁掌を2度放つ。
 それぞれ一撃で体の中枢を破壊された小鬼達は、その場に倒れることもできずに瘴気に変じて霧散していく。
「待たせたな」
 朋友への命令や情報の伝達をようやく終えた龍牙が、腰に下げていた太刀「阿修羅」を危なげなく抜き放つ。
「なぶりはしない」
 剛刀が2度振るわれ、太陽の光を照り返して2度輝く。
 特別な技巧のこらされてない攻撃ではあったが、小鬼にとっては回避も防御も出来ぬほど早く、筋肉どころか骨でも止められない力強い攻撃だった。
「汪牙! 無理に攻めるな。足止めを優先しろ」
 龍牙の迅鷹は2対の翼を羽ばたかせてアヤカシから距離をとり、颯の迅鷹と連携し、その場から離れようとする小鬼にのみ攻撃をしかけて足を止めていく。
「小鬼如き我が敵ではない。即刻片付けてくれる」
 3尾の狐が哲心の足下から飛び出して小鬼の群れに近づき、迅鷹達に足止めされた小鬼達へ目から電撃を放って1体ずつとどめを刺していく。
「今回は長丁場になりかねん。余分な力は使うな」
「分かっているとも」
 翠嵐牙は緑の体に自負をみなぎらせながら、全く無駄打ちをせずにアヤカシの群を片付けていくのだった。

●水場確保
 己の身長とほぼ同等の全長を持つ片鎌槍を刃を地面と水平にしてから、滝月玲(ia1409)は音もたてずに全身の力を使って突きを放った。
 白いオーラをまとった穂先は、風雨にさらされ脆くなっていた大鎧の前面装甲を貫通し、鎧鬼の腹の中を徹底的に破壊していた。
「これに耐えるか」
 玲は獰猛な笑みを浮かべて鎧鬼の胸部を蹴りつけ、深く刺さっていた槍を取り戻す。
「逃げるアヤカシの追跡を頼む!」
 低空飛行中の赤雷に指示を出してから、嵐は自身より大きな戦斧を構えたまま宙に飛び出す。
「てめぇの好き勝手もここでおしまいだ!」
 着地の衝撃を足から地面に逃がし、そのまま勢いを止めず戦斧「アースブレイク」を鎧鬼に叩き込む。
 アヤカシは大穴が開いた腹の痛みに悶えながら、強引に大棍棒を振るってアースクブレイクの軌道上にねじ込む。
「堅いっ」
 大棍棒で衝撃の大部分を殺されたことを悟り、嵐は戦斧を再び構えながらうめく。
 鎧鬼が繰り出す反撃の一撃を巨大戦斧の腹で弾きながら、嵐は慎重に計算を行う。
 このまま一対一の戦いを続けたら、時間はかかるかもしれないが確実に倒せるだろう。しかし今はその時間が問題だった。
「マスタージダイの名の元に、今ニンジャ合体です蓬莱鷹‥‥ルンルン忍法ニンジャセイバー・ハリケーンルンルン(疾風の翼)!」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)と忍鳥『蓬莱鷹』が空中で交錯した瞬間、両者は眩い光と共に融合する。
 新たに現れたのはニンジャセイバー・ハリケーンルンルン。
 友情パワーによりさらに強化された敏捷性と限定ではあるが飛行能力さえ得た、ルンルンの新たな戦闘モードである。
「とーうっ!」
 鎧鬼と事実上の一騎打ちを続ける嵐と、開拓者達を囲んで動きを封じようとする小鬼達を防いでいる玲をそのままに、ルンルンは空高く跳躍する。
 その手にあるのは片側に櫛状の刃を持つ大剣グニェーフソード。
 ルンルンの熱き想いに反応して刃の温度が急上昇し赤々と輝く。
 そして絶妙のタイミングで振るわれる。
「成敗!」
 翼を広げた大鷲の如き決めポーズをとると、木の陰に隠れ様子をうかがっていた、2体目の鎧鬼がぐらりと体を揺らした膝をつく。
「凄いな」
 感心が7分、呆れが3分の表情を浮かべた玲が、動きの止まった鎧鬼の首に片鎌槍「北狄」を叩き込む。
 地面と水平の向きにされた刃は分厚い脂肪と太い頸骨を完全に破壊し、ひたすらに頑丈なつくりと兜と共にアヤカシの頭が地面に落ちる。
「ロギとネプ、推参なのですよー!」
 玲が抜けた主戦場に、新たな役者が現れる。
 桜色の装甲で身を固め、その巨体にふさわしい大きさの斧と盾を構えた凛々しい巨人。
 ネプが搭乗する、ロギの銘を持つ駆鎧である。
「とおっ」
 背部宝珠式反動推進装置を全開にし、傾斜がきつく太い根が張った坂を一気に駆け抜け、無造作にも見える動きで巨大斧を水平に振る。
 嵐の背後に近づこうとしていた小鬼達は巨大斧に挽きつぶされるようにして仕留められ、地面に落ちることさえできずに粉々になって消えていく。
「あばよっ!」
 背後で振るわれた絶大な暴力に対する興味を意志の力で押さえ込み、嵐は小柄な体とは対照的な大きさの戦斧「アースブレイク」を頭上に大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろす。
 駆鎧の存在に度肝を抜かれた鎧鬼はとっさの回避を行おうとしたが果たせず、頭部から腰のあたりまで文字通り叩きつぶされてしまうのであった。

●4日目の食事
 初日以降アヤカシに遭遇せず一応は依頼成功条件を満たした開拓者ではあるが、2日目夕方に、その日のうちにアヤカシがつけたと思われる足跡を発見したため、捜索を続けていた。
「今日は山菜を使ってみた。火力と小型鉄鍋が必要だから全員分を1度には作れなかった。順番に取りに来てくれ」
 桜色の駆鎧が手振り身振りで何かを表現する。
「もう一度水を運んでくるからそのときに食べたい?」
 龍牙が意訳すると、駆鎧は勢いよく首を上下に振り、両手で持った桶から水がこぼれないよう注意しながら山小屋の陰に置く。
 丁度休憩中だった朋友達は、騒ぎもせずに順々に水を飲んでいく。
「俺も多少なりとも料理はできるが、そろそろ厳しいな」
 龍牙は口元だけで苦く笑う。
 食料には余裕があるが、日持ちするものしか持ってきていないのでどうしても材料が限られてしまい、どれだけ工夫を行っても献立がマンネリ化しがちだった。
 開拓者達は遠征中とは思えないほど凝った食事に満足しているが、料理の腕に自負を持つ龍牙としては心苦しい部分がある。
「今日で5日目。帰れる、のか?」
 日暮れごとに紙に記してきた印が4つになったのに気付き、嵐は憂鬱そうにつぶやくのだった。

●5日目
「ルンルン忍法ジゴクイヤー! ‥‥何か聞こえたよー!」
 超越聴覚を発動させて、移動、立ち止まって聴音に集中、移動という流れを繰り返していたルンルンが大声をあげる。
「あっちとあっち」
「2カ所か」
 ルンルンが両手でそれぞれ別の方角を指し示したのを確認し、騎龍と共に中空にいた嵐は赤雷に指示して頂上側に進路を変更させる。
 生は嵐を見送ると、ボレアに指示して逆側に向かう。
 木々に葉がしげっているので地面にいるアヤカシを発見するのは難しい。
 とはいえ予めアヤカシがいる方角が分かっているならば話は別だ。狭い場所に注意を集中するだけで良いので、捜索の効率は一気に跳ね上がる。
「小鬼が2に鎧鬼が1。これが最後のアヤカシだと良いが」
 6日間にわたる山中の捜索は心身を消耗させる。
 生は滅多に見せない疲れた表情を一瞬だけ浮かべてから、近くの地表で見かけた哲心に翼で合図を送る。
 そしてアヤカシを見失わないことを最優先に、一定の距離をとりつつ鬼達を追尾する。
「ようやく見つかったか」
 哲心は生とボレアを見送ると、安堵の吐息とはき出した。
「ばらけてるとかえって危険だ、俺に入れ」
「よかろう。主を守るのも、我が努め故な」
 哲心にも翠嵐牙にも一見疲れは見えない。
 しかし両者には奢りも悲観もなく、静かに一体化して万全を期しつつアヤカシへと迫る。
 2体の鬼が視界に入っると同時に哲心は大技を発動させる。
「一気に行くぜ。‥‥轟け、迅竜の咆哮。吹き荒れろ―――トルネード・キリク!」
 局所的な竜巻が発生し、アヤカシの集団を文字通り吹き飛ばす。
 鎧鬼はその頑丈さと重量でその場にとどまるが、小鬼は吹雪が吹き始めた時点で真空の刃に切り刻まれてそのまま霧散していった。
「これが最後だと良いのだが」
 生は魔法の矢を連続で放つ。
 落ち着かない様子で頭を左右に振りながら、攻撃をしかけきた者を探していたアヤカシに、斜め後ろから2本の矢が深々と突き立つ。
 霧散しつつある瘴気を吹き出しながら倒れる鎧鬼を確認し、生は哲心に合図を送ってからその場を離れる。
 まだ期間は1日残っている。
 山全体を捜索する時間はないが、少しでも多くのアヤカシを探し出し討伐する必要があった。

●最後の一日
「そろそろ時間だな」
 嵐は赤雷の首を労るように撫でてやりながら、背に夕日を浴びながら仲間の元へと向かう。
 既に山小屋からの撤収は済んでおり、山を降りながら道の近くの捜索を行っているところだった。
「おーい、ですよー」
 接近してくる嵐に気づいたのか、アーマーケースを背負ったネプが手を振ってくる。
 嵐は一度手を振って応えると、ゆっくると山道に着陸した。
「新たなアヤカシの痕跡は見つからなかった」
「こちらも同じ。全て討伐が完了したと思いたいな」
 颯に返事をしながら、颯は赤雷の翼の手入れを手伝ってやる。
「どうぞなのですよ」
 ネプが差し出した飴をありがたく受け取って口の中に入れると、甘味が全身に染み渡っていく。
 その感覚はあまりに甘美であり、自身の体が疲れ切り癒しを求めていること実感することになる。
「最後まで気を抜かずにいくのですよ」
「そう、だな」
 嵐は赤雷を促し、最後の偵察に向かうのであった。

●平穏
 開拓者達が山を離れてから数日たったが、山周辺でのアヤカシの発見報告は完全に無くなった。
 安全が確認されたわけではないとはいえ、新たにアヤカシが出現する可能性があるのは昔から変わらぬ現実である。
 山の付近に領地を持つ貴族から、山で生活の糧を得る地元住民まで、アヤカシが出没中に控えてきた活動を再開するのだった。