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■オープニング本文 ●初夏。開拓者ギルドにて かき氷。 巫女が作った氷を砕いて砂糖をぶっかけたかき氷。 匙ですくって口に入れると、さわやかな涼しさと暴力的な甘味が体全体に広がっていく。 「おかわり!」 「すまんが儂も」 次々に差し出される空のお椀にお椀にお椀。 しかし粉砕担当のギルド同心(からくり)が申し訳なさそうに頭を下げた。 氷霊結担当巫女の練力が尽き残る氷は1つだけなのだ。 「えー」 先輩同心が子供っぽく抗議し。 「儂のぽけっとまねーで節分豆を…」 えらいひとが大人気なく金の力を使う。 巫女は、節分豆という名の練力回復アイテムを見て口元を抑える。 豆の食べ過ぎでお腹の調子がなんだかおかしい。正直食べるのはもちろん見るのも嫌だった。 「本日の納涼会はこれでお仕舞いということで、どうでしょうか」 最後に残った氷を粉砕し、えらいひとの器に大盛りにして控えめに提案する。 「うむ」 周囲から向けられる非難混じりの視線を平然と無視して完食し、えらいひとが暖かな茶を自分で煎れて満足げに息を吐く。 「残った砂糖は持って帰って構わんよ」 「えー」 「少々、多すぎます」 開拓者ギルドの奥に設置された調理台の上には、一足早いお中元として送りつけられた、大量の氷砂糖が山になっていた。 ●無料依頼。砂糖付 あなたが複数の依頼票を眺めていると、開拓者ギルドの窓口から小さな声が聞こえてきた。 「報酬が現物支給な依頼があるのですけど」 額にうっすら浮かんだ汗を拭って振り返ると、そこには困惑と申し訳なさが混じった顔の職員がいた。 「ええ、報酬は砂糖です。夏も近いので食中毒とかが怖いですから、その場で全て食べていただくのが条件です」 砂糖は高価だ。 産地でなら多少は安くなるかもしれないけれど、神楽の都では同じ重さの米の10倍してもおかしくない。 あなたはどれだけ食べていいのか聞く。 返ってきた答えは、予想より1桁多かった。 「大型の相棒さんの参加も歓迎します」 限界までお裾分けしても大量に余ってしまったらしい。 「ただ…」 ギルドが用意するのは砂糖と場所だけだ。 氷が欲しいなら自分の術で作るか市場から買ってくるしかないし、餅や果物が欲しいなら自腹を切るしかない。 「頂き物なので売り払う訳にもいかないのです。できれば、全部食べてください」 職員は、妙に甘ったるい香りを漂わせていた。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
ワイズ・ナルター(ib0991)
30歳・女・魔
真名(ib1222)
17歳・女・陰
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
ジャミール・ライル(ic0451)
24歳・男・ジ |
■リプレイ本文 ●準備 大型の鍋から瓶を取り出す。 その中にあく抜きと処理を済ませた青梅と氷砂糖を層ができるよう重ね、最後に焼酎を注いで封をする。 1年経てば爽やかな、7年経てばまろやかな、20年経てば極上の味を楽しめるだろう。 「すぐには飲めないけどお土産にイイんじゃないかしら」 御陰 桜(ib0271)が瓶を弾くと澄んだ音が耳を楽しませてくれる。 「そのつもりだったんだが」 羅喉丸(ia0347)が珍しく困惑に近い感情を顔に浮かべていた。 外に通じる大型の扉が数度ノックされ重々しい音と共に開く。 開けたのは羅喉丸の相棒だ。分厚く頑強な巨体を驚くべき精密さで動かし、皇龍頑鉄が大量の果実を調理場にそっと押し込む。 その中に、明らかに年季の入った果実酒の瓶が何本も含まれていた。 「仕込んだ瓶と交換して欲しいと言われてな」 超高位開拓者とギルド職員複数の間で熾烈な交渉が行われたらしい。 最終的に数年もの1本と仕込んだ直後の2本で交換が成立したようだ。 「断りづらいわよねぇ」 3年から6年が10ということどだろうか。 梅に林檎に、これは蜜柑だろうか。 頬を緩める桜の足に肉球が触れた。 「ありがと」 相棒に礼を言い、羅喉丸に一礼して前に戻る。 竈の上の鍋は良い具合に温まっている。予め切った芋を入れると油で揚げる良い香りが広がった。 「運んでくださってありがとうございます♪ 明日も是非来てくださいね」 入り口から愛想の良い真名(ib1222)の声と、やに下がる商家の男の声が聞こえてきた。 しばらくして、人化した銀狐が巨大な籠を軽々運んで来る。 びわ、サクランボ、桃、夏みかんに甘夏。シロップに加工するための果物がみっしりと詰まっていた。 「礼野さん、頼まれていた分」 主である真名が伝える。 「すみません」 礼野 真夢紀(ia1144)が顔を上げる。 手元にあるのは朱藩製手回し式かき氷削り器。夏の巫女にも必需品であり、取っ手から刃の先まで徹底的に整備されていた。 「あ」 果実を見て綺麗な瞳が軽く見開かれる。 「預けたお金で足りました?」 予想以上に鮮度が良かった。 「だいじょうぶ。快く値引きしてくれたわよ♪」 きつねっこ紅印が何とも表現しがたい表情をしている。ひょっとしたら女って怖いと思っているのかもしれない。 「値引きしてもらってもかなりの額だけどね」 芋に糖蜜を絡めながら桜がこぼす。 彼女も容赦なく……桜ほどの女性シノビなら夜春を使うまでもない……値引きさせたのだが、それでも材料購入にかなりの額が必要になった。 「それはまあある程度はね」 微妙な空気が漂った。 突然、桜の相棒が首を振った。まるで姿の見えない敵を警戒しているかのような動きに、凄腕女性陣と羅喉丸が気配を探るが怪しい反応はない。 「ついたー!」 「お疲れ」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)とその相棒羽妖精が大荷物と一緒に調理場へ到着する。 「明日は甘いもの食べ放題だよ! 食べまくろうね、大ちゃん!」 「うん!」 2人は牛乳を冷暗所へ移動させ食器の整理を始める。 「楽しみだねー」 ルゥミは大量の飴を明日配るために皿に盛りつける。 何故か、遠く離れているはずの闘鬼犬が毛を逆立たせていた。 「きっとみんな大喜びするよ! あ、ボクの分の飴はいいからね♪」 サルミアッキという名の地獄が解き放たれるのは、この翌日である。 ●天儀の初夏 砂糖を振る舞う会場に、特に誰も宣伝していないのに大勢の人が集まっていた。 なにせ米の10倍ほどする砂糖が無料だ。 最初に気付いた数人から瞬く間に噂が広まりこの通りの有様だ。 元々暑いのに、今は人の熱で真夏のように熱い。 「まじさー、こっちの暑いの、この湿気どうにかなんねぇの?」 自分に風を送る仕草すら艶のあるのはジャミール・ライル(ic0451)。 会場の一角に設けられたカフェ風スペースで、大勢の娘さんに熱い視線を向けられている。 「ジャミール様、どうぞ」 お洒落な器に適量の粉砕氷、その上に新鮮な果物のシロップ。 手の甲を愛撫するようにして受け取り、匙で一口。 乾いた寒さと暑さに慣れたアル=カマル出身者としては、甘さより旨さより涼しさの方が強く感じられた。 相手が気後れしないタイミングで勧めてみるとダイエットを理由に断られる。 「え、ダイエットしてんの? 実は俺もなんだよねー」 腕を軽くあげる。 踊り子らしい細く力強い筋と薄い脂肪、それを覆う艶めかしい肌にお嬢さん達が生唾を飲み込む。 「最近遊びすぎてこのへんぷにぷにしてきてさー」 かき氷を勧めてくれた子に二の腕で軽く触れる。 それだけで感極まり倒れかけ、ジャミールによって近くの敷物の上に寝かされた。 警備兼客であるはずの浪士組4番隊の野郎共から嫉妬の視線が集中する。 だが当の本人は気付いていない。 「つーか、ナジュムなんかあのおっさんに懐いてる気がするんだけど…」 日陰でだらしなく涼む中戸採蔵(iz0233)。その横で羽の手入れをするのはジャミールの相棒である迅鷹ナジュム。 ナジュムは手入れを終え、得意げな気配で中戸の額をつついて胸を張る。 「撫でろっての、俺にも滅多にしないよね? 俺、一応相棒なんだけど、なんなの…?」 一瞬発せられた冷たい殺気に気付き、中戸が慌てて立ち上がり立ちくらみを起こしていた。 そこから数十歩離れた場所では巨大な鍋でシロップが完成間近だ。真名は適度な濃度に調節し、味を調節してから火を止める。 「わあ…」 何度目になるか分からないため息をつき、微笑む。 レモンの黄色とほのかな酸味が砂糖の甘さに奥行きを持たせている。 ある程度煮詰まったら普通の瓶に移して紅印に持たせ、最も大勢の人が集まった場所に向かわせる。そこでは唯一の巫女が死力を尽くして氷大量生産しているはずだった。 真名は次のシロップにとりかかる。 苺を仕込んだ大瓶を取り出す。 仕込んだ直後は半分砂糖でもう半分が苺だったものが、今では少量加えていたレモンとも混じり合っていた。 封を切る。乙女の夢兼乙女の敵の甘味が鼻から脳へがつんと突き抜けた。 「ふふ」 幸せそうな笑みが、彼女を見ていた老若男女へ伝わってていく。 「スイ…メロンもあれば良かったなぁ」 もう1月後ならなんとかなったかもしれないが夏以降でないと収穫できない。真名は軽く首を振ってシロップの濃度を調節していった。 ●こおり! きめ細かに粉砕された氷がアーチをつくって虹の橋が生まれる。 真夢紀はハンドルを止めた。 氷が器に巨大な山をつくり、小さな子供が明るい笑みを浮かべて皿ごと受け取る。 「こちらにもお願いします!」 真面目そうな浪士組隊士から悲鳴じみた要請が来る。客が多くて抑えるのが困難なようだ。 「はい」 ルゥミからもらった豆を口に入れつつ残りの水を確認。 朝の時点で特大瓶2つが水で満杯だったのに今では1つの半分もない。 いや、実は既に一度全て使い尽くしている。 相棒の霊騎若葉が何往復もして運んでいるのにすぐなくなるのだ。 「転職してると術にかなり錬力使うようになるし…実質氷が作れるのはまゆだけなんですからっ!!」 泣き言だっていいたくなる。 とはいえ巫女の立場上客に聞こえないよう言って耐えるしかなかった。 氷霊結をほとんど常時使い続けて氷をつくり、八つ当たり気味に手回し式かき氷削り器で削る。 氷と虹のアーチによって子供と一部大人が引きつけられてどんどん人が集まる。 人の数が少なくなった瞬間に作り置きのものに手を伸ばす。 柑橘の皮の甘煮。 ひと匙掬って舌にのせると酸味と甘味が舌から全身に広がる。軽い歯ごたえの皮も実にいい。 「巫女様、私に一瓶売って頂けないだろうか?」 「ぼくにもひとくちー」 「あたしにもっ」 大店の隠居風の翁に薄汚れた格好の童に綺麗な着物の女児が、甘味に飢えた瞳を真夢紀に向けていた。 顔で笑って心で泣いて、真夢紀は客に美味を供給し続ける。 しかしいくら超高位開拓者でもできることとできないことがある。 「マスター」 羽妖精ターナが額に汗を浮かべ訴える。 「ええ」 ワイズ・ナルター(ib0991)が深刻な顔でうなずく。 盛況すぎる。甘味はなんとか足りそうだが氷が拙い。真夢紀が並みの巫女の全力5割増しの速度で常時製氷なんて無茶をしてくれているものの焼け石に水だ。 「一肌脱ぎましょう」 艶のある髪が陽光を反射して暴力的に輝いた。 ターナが浪士組隊士を使って大きな…子供なら2、3人泳げる大きさの瓶を運ばせる。 同時に近くの水も集めさせてキュアウォーターで浄化し、地面に固定させた瓶に注ぎ込む。 何事かと集まる視線を無視して術式に没頭。分かり易く氷の力を見せつけてから瓶の中に叩き込む。 観客がどよめく。 ターナが真面目な顔で服を脱ぎ、予め着込んでいた入浴用衣装で顎まで瓶に入る。 「ひゃー」 とても涼しい。 額にうっすら浮かんでいた汗も引っ込んだ。 フローズは攻撃用の術で平和な効果はないのだけれど、演出として使うことはできた。 老若男女が涼しげな様に魅入られる。 近づこうとした大人を鋭い視線で制してから、ワイズは子供達1人1人に視線をあわせて宣言した。 「子供専用3人まで。約束を守れるなら入っていいわよ」 はい、と元気な返事が重なった。 子供達が元気に飛び込みターナと声を出して笑いあい、そのたびにこぼれた水を補給するため中戸とその部下達が走り回っていた。 ●食事の時間 「頑鉄、御前も食べてみるか」 皇龍がゆったりとうなずく。 鉄でも砕いて飲み込めそうな顎が、器用にかき氷だけを飲み込んだ。 鉄塊にしか見えない爪がそっと空の皿を返す。 「そうか」 濃く長いつきあいなので言葉なしでも言いたいことは分かる。 「食った気がしないか」 温度と味は好みのようだがどうにも食べた気がしないらしい。 山積みされた氷砂糖の塊をかじり始める頑鉄に、大人用の梅酒やその他果実酒と子供用のジュースを配り始める羅喉丸。 1頭と1人に客が集まることで真夢紀にかかる負担が減って、真夢紀はようやく一息つくことができた。 「おねえちゃん! ほかのあじないの?」 子供らしい無遠慮で聞いてくる悪ガキにメッと注意してから近くの鍋を取り寄せる。 蓋を開けると、適量の砂糖で美しく色づいた小豆の色と香りが周囲の皆を惹きつけた。 「煮えたから宇治金時はじめるね」 おお、と主に年配客から歓声が聞こえた気がした。 かき氷がどれだけ美味しく希少だろうと食べ続けるのは難しい。冷えた体は暖かなものも求め始める。 そんな状況で熱せられた大鍋に砂糖の大山を注ぎ込む開拓者が1人いる。 ジルベリアの貴族層出身開拓者サーシャ(ia9980)だ。 お中元の送り主の厚意に答えるため全力で大量の砂糖を投入する。融けた始めた苺とと同重量の砂糖が混ざり合っていく。 「ん」 くびれた腰とは逆に自己主張の強い胸のせいで鍋の中がよく見えない。 身を乗り出す。 新鮮な果実と純度の高い砂糖、そしてそれらが混ざり始めた香りが鋭敏な舌と鼻を刺激した。 なお、見事すぎる体型に魅了された男性客がふらふら近づこうとして連れの女性にとっちめられるという光景がいくつも見られたらしい。 大きなしゃもじでかき混ぜた後、鍋の状態を確認してから下の火を消す。 最良の蜜のごときジャムがふるりと震えた。 「あら」 女性客の熱い視線に気づいて微笑む。 さすがに大鍋1つ全部自分のために持って帰る気はないのでお裾分けをはじめることにした。 「本来は冷ましてから頂くのが一般的ですが」 嫌みのない華やかな微笑みが咲き誇る。 「出来立てには出来立ての妙味がありますよ」 かき氷用に用意されていた皿にできたてのジャムを盛る。 わざと形を残した苺が中央にあり、サーシャのセンスが光っていた。 「あらああら」 「断るのも悪いものね」 立派な着物の奥様方が笑顔で容赦のないとりあいをしてあっという間にジャムが減っていく。 「まだまだありますから急がなくても大丈夫ですよ」 しかたがないなぁと内心苦笑を浮かべ、サーシャは専用機で運んできた別の鍋に下拵え完了済み果実を入れその上から砂糖を注ぐ。 自分が持ち帰るためのジャムを手に入れるまで、最終的に4回ジャムを作ることになった。 客も料理と入れ替わっていく。 甘さ控えめのあんころ餅に大豆の風味が爽やかな黄粉餅。つくりは雑ではないが体格の優れた羅喉丸らしく大型で、若い男達に特に評判だ。 かき氷も流行が変わっている。珈琲シロップにお好みで甘味を加える形式が予想以上に好評で真夢紀は全然休めない。 「残念ね」 餅とかき氷の味見を終え、桜はひどく残念そうに器を片付けた。 無料で振る舞うのが信じられないほど美味しい。でも相棒の体質を考えると味が濃すぎた。 『わん』 仕方がないですよと桃が目で伝える。 もっとも、桜はこのまま諦めるつもりは全くない。薬の調合のつもりで砂糖の量を調節し、調節しきれない分は量を減らして桃用の皿に盛りつけた。 午後の日差しに照らされかき氷が艶やかに光る。 「これなら桃も食べられるわね」 『わん』 おっかなびっくり触れて、舐めて、ぱくんと一口。 目が細められ尻尾が機嫌良く揺れた。 桜の口元に心からの笑みが浮かぶ。自分の分を持って来てぱくりと一口いただくと、程良い冷たさと品の良い甘さが舌の上で踊った。 「冷たくて甘くて最高ね♪」 『わんわん』 桃があっという間に食べ尽くして主の足下を駆ける。 「後はお芋にしておきなさい」 優しく叱って自作のすい〜とぽてとと甘味をからめた芋を器に盛る。客に出したのとは違い砂糖の量は極小だった。 「いいですなぁ」 中戸が気づいて声をかけてくる。 桃は、あげないよと言いたげに皿を移動させていた。 「今回は助かりました。うちの若いのはいくら食っても止まりゃしないんで大はしゃぎですよ。で、ですな」 「そこの卓に置いてますわ」 中戸は何度も礼を言って砂糖少なめ甘味を目指す。 「おいしかったー」 「あまくないのにすごいよねー」 そこにあったのはお砂糖控えめすいーつではなく腹をふくらませた羽妖精ご一行。 そして落ち込む中戸を気にもせずに夢中で匙を動かすルゥミの相棒だった。 「ひゃあ! キーンってなった! 甘くて最高っ!」 羽妖精の大ちゃんの緑髪がふわりと揺れた。 「いっぱい食べようね♪ サルミアッキはさいこーだよ♪」 主のルゥミは独特な甘味を周囲に勧めている。否、勧めまくっている。 「こりゃどうも」 中戸以下浪士組隊士が神妙に受け取り豪快に口に入れ、固まった。 最初に感じたのは食い物とは思えないのに食い物な味。すぐに刺激のある苦みに変わり、口の中に大量の唾液があふれ出す。 「おいしいでしょ!」 ルゥミはサルミアッキシロップたっぷりのかき氷を完食し、次の一杯にとりかかりながら笑う。 その笑みには陰は一切無い。 「は、はい」 「うぐっ、結構いけますね」 ルゥミに悪意があればはき出すなり逃げ出すなりしたかもしれない。 だが純真な子供の行為を足蹴にできるほどの根性悪はここにはいない。だから、冷や汗を流しながら必死に喉へ押し込んでいくしかなかった。 「あっ!」 何故かルゥミの表情が強ばる。 それまで休み無く食べていた氷を避け、トッピングのチョコチップサルミアッキシロップかけばかり食べている。 「ルゥミ大丈夫? ちょー汗出てるよ?」 大ちゃんが心配そうにルゥミのお腹に着地して、しまった。 きゅるる、ぐるるると破滅を感じさせる音が聞こえてくる。 冷たい物ばかり食べると体調を崩すという、超高位開拓者でも逃れられぬ現実かルゥミに追いついたのだ。 「…大丈夫じゃないね♪ 時間かかりそうだから残りは全部食べてねおじさん達!」 大ちゃんこと羽妖精大剣豪はそう言い残し主を厠に連れて行く。 中戸達は顔を見合わせ絶望的な顔で呻いていた。 それから数時間後、客達はそれぞれお土産を持たされ上機嫌で日常へ戻っていった。 「それじゃ、お土産もらって帰りましょ♪」 『わん』 それだけ配っても開拓者の元に多くの甘味が残り、皆相棒と共に苦労しながら持ち帰ったらしい。 ぁ」 |