相棒たちのアルバイト
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/11 03:04



■オープニング本文

 傾城という表現では足りない美貌が涙をこぼす。
「駄目なの?」
 主は容赦なく拒否する。
 こうして、人妖(満年齢1歳)による今月2回目のお小遣い値上げ交渉が失敗した。

●開拓者ギルドの場合
「ごめんね。開拓者じゃないと依頼をうけられないの」
 窓口のおねーさんが心底残念そうに頭を下げた。
「ボク強いよ?」
 可愛らしく見上げる羽妖精に、おねーさんの胸がきゅんと高鳴る。
 鍛え抜かれた相棒は駆けだし開拓者より強いかもしれない。
 でも駄目なのだ。
「ここは開拓者ギルドなの。あなたから依頼をうけることはできても仕事は紹介できないの」
 こうして、羽妖精(人里に出て半年)による買い食い資金調達作戦が失敗した。

●浪士組の場合
「拘束時間の割に報酬少なくないですか?」
 良質な装備で身を固めたからくりが、面接官に対し抗議まじりの視線を向けた。
「役人でもギルドでもない組織に美味しい仕事がまわってくるとでも?」
 四番隊隊長中戸採蔵(iz0233)の瞳は疲労で濁っている。
「請けるつもりなら明日の朝現地集合。主同伴でも構いやせんが報酬は1人分だけですんで」
 1日頑張ってもお小遣い2日分という現実に、からくりはため息をつくことすらできない。
 こうして、からくり(起動後3ヶ月)はお金を稼ぐ厳しさを実感した。

●寺子屋の場合
「3食お昼寝付きもふっ!?」
 もふらさまが爛々とお目々を輝かせた。
「寺子屋の臨時教師ですっ! 遊ばないでくださいよぅ」
 神楽の都の住宅街(住民の収入は高め)で寺子屋を営む人間が言うがもふらさまは聞いちゃいない。
「おやつは甘味たっぷりで頼むもふ」
「いえですから街育ちの子供達にもふらさまとの付き合い方を教えていただきたいと…」
「任せておくもふっ。お残しはしないもふよ」
「…こいつ聞いちゃいねぇ」
 もふらさま(50歳になってからは数えていない)は、いつも通りだ。


■参加者一覧
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
からす(ia6525
13歳・女・弓
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
ジャミール・ライル(ic0451
24歳・男・ジ
エマ・シャルロワ(ic1133
26歳・女・巫
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文

●相棒たちの警備
 綺麗だが妙に野暮ったい服を着た少年がきょろきょろしながら歩いている。
 足取りは軽いというより浮ついていて、詐欺師やすりにとっては美味しすぎる獲物だろう。
『わん』
 少年の耳に、妙に迫力のある鳴き声が聞こえた。
 父より少し若い年代の男が泡を食って通りから逃げていく。
「わんちゃん?」
 柔らかな足取りで闘鬼犬が近づいてくる。
 開拓者が見れば良く鍛えられていることに気づけただろうが、この少年にはただの犬としか認識できなかった。
『わふ?』
 お困りですかと言いたげに首をかしげみあげてくる犬に、少年は笑みを浮かべてしゃがみ込み、手を伸ばす前に隣にいたはずの親がいないことに気づいてしまう。
「おかあちゃんっ?」
 苦労を知らない瞳に涙が浮かぶ。
 もう少し前か後なら通行人が少年を浪士組詰め所まで連れた行ったかもしれないが、今ここにいるのは犬1頭のみ。
 ただしただの犬ではなかった。
『わん』
 いつの間にか犬の姿は消えていて、ずっと遠くから先程と同じ犬の鳴き声が聞こえてくる。
「こっちでいいの? …あんたはぐれちゃ駄目って言ったでしょ!」
 闘鬼犬に導かれた中年女性が怒りながら少年に走り寄り全力で抱きしめた。
 少年が逞しい胸元に顔を埋め嗚咽をもらす。
 2人が落ち着くまで待って、犬がリズミカルに地面を叩く。
 親子の視線が向いたところで地面に置いたのは2つの財布だ。母は目を剥いて自分の懐を確認し悲鳴をあげた。
「どうして僕のお財布があるの?」
 犬は愛想良く、僕どうしてだか分からないと言いたげに息を吐いていた。
 それからしばらくして羽妖精の十束(主人:宮坂 玄人(ib9942))がふわりと通りに着地する。
 母子は既に隣の通りに向かい背中も見えない。
「桃殿」
 眼鏡越しに赤い瞳が犬に向けられる。
「人間の言葉で説明してもよかったのでは?」
 糾弾の台詞ではない。己の糧にするため貪欲に情報を求めていた。
「一般の方を驚かさない様するためですよ」
 落ち着いた声が闘鬼犬桃(主人:御陰 桜(ib0271))の口から流れ出す。聞いていて心地の良い声で、言葉が紡がれるたびに足下のオーラが揺れた。
 店と店の間にある小さな空間に踏み込みスリの体を引っ張り出す。被害者親子2人に気付かれないよう桃が捕獲した男だ。
「なるほど」
 十束が深くうなずく。
 騒ぎを起こさないことが浪士組と浪士組に警備を依頼した者の利益になる、ということだ。
「ありがとうございます。桃殿不在の間は私がこの場を守ります」
 鞘に入っていても威力を感じさせる剣の位置を目立たぬよう調整し、ジルベリア礼法に則りお辞儀をする。
『わふ』
 桃は器用にスリに縄をかけ、浪士組の詰め所へ引っ張っていく。
 そんな相棒2人の上空を飛ぶ雄偉な影が1つ。
 目元は凛々しい犬鷲風の、逞しい翼を持つ迅鷹ナジュムだ(主:ジャミール・ライル(ic0451))。
 都の上空を飛んだら良い顔はされない…上空からなら役所から上級貴族の屋敷まで全て見通せるから当然といえば当然…だが今日は特別である。
 浪士組制服用生地の余りを使ったらしいタスキがナジュムの胸元を飾り、任務中であることを誰の目にも分かるよう示している。
 もっともタスキの役目はそれだけではない。夕刻に渡されるはずの給金を守るという最も大事な役割がある。
 ナジュムが地表に対する監視を数秒中断し、都の一角にちらりと視線を向けた。
 また、ジャミールが懲りずに賭場ですっている気がする。
 いやひょっとしなくてもメスと遊びほうけている気がする。いやいや両方やってる気もすごくする。
 ナジュムは視線を戻し気を取り直す。
 もとより頼りにはしていないとはいえこのままでは数日飯抜きなんて展開になりかねない。今回の儲けは一銭も渡さず確保し今後に備えるつもりだった。
 その頃、十束から見て通りの反対でも羽妖精による警備が行われていた。
「折角ガキ向けの授業内容考えてきたのになぁ」
 悪戯のためのはうつー、上手い嘘のつき方に大人コントロール術、果てはエロ親父から大金をせしめる具体的手段まで書かれた自作教本を眺めながら器用に浮遊する。
「ちょ」
 根拠のない不安に襲われわざわざ見に来たらしい浪士組四番隊隊長が、血相を変えて通りを疾走する。
「没収ぅっ!」
 奪取、固定、封印。
 隊長の名にふさわしい見事な手際であった。
「なにやってんだよおっさん」
 ビリティス(主:鏖殺大公テラドゥカス(ic1476))が相変わらずふよふよ浮きながら横目で見る。
 無論そうしている間も周囲への警戒は怠らず、それが分かるから中戸採蔵(iz0233)も強く言えない。報酬も異様に低いし。
「見回りだ」
 肩を落とす中戸には疲れが目立ち、40近くに見えた。
 黙っていれば吟遊詩人の歌に出てくる妖精そのもなビリティスの顔に、ふてぶてしい悪戯っ子の笑みが浮かぶ。
 中戸は嫌な予感に襲われ警戒するがあいにく逃げる時間的余裕が無い。
 妖精は瑞々しい唇に白く細い指を当ててから投げキッス。
 濃厚な魅了の力が後退しかかった額に直撃した。
「ご苦労様♪ ビリたん、おじ様の事だぁい好き♪ これからも色々な仕事回してね?」
 天女の囁きに聞こえる邪悪な囁きが中戸の鼓膜を震わせる。
「出来ればもっと楽でこの100倍くらい儲かる奴♪ おねがぁい♪」
 100倍と聞いた瞬間、中戸が目を血走らせ気力を燃やし抵抗する。
「おいおい夜勤もあるのに気力を使っていいのかよ」
 しょうがねぇなぁと言いつつ額をぺちぺちしていると、朝の打ち合わせの際に一度だけ聞いた笛の音が聞こえた。
「アヤカシ!」
 2人はじゃれるのを止め即座に飛び出すのだった。

●寺子屋
 警備が始まった頃、寺子屋には大勢の子供達が集まっていた。
 普段以上におしゃべりな声が表まで響き、近隣から苦情が寄せられることもあった。
 でも仕方ない。生きた超高額美術品が授業をしに来るのだから。
 がらりと聞き慣れた音がして、音もなく見慣れぬ人影が教室に入ってくる。
 金髪金瞳の人妖。
 肌は生命力に満ちあふれた白で、若さに満ちあふれているはずの少女、否、女児に敗北感を与えるほど美しかった。
「はい、男の子注目〜!」
 意外と親しみやすい態度で話しかける人妖カナン(主人:蓮 神音(ib2662))。
 少女達から向けられる羨望と微かな嫉妬を頭の隅におきつつ、高い身体能力を活かして迫力あるポーズをとる。
 礼法的にも戦闘の際にも全く役に立たない姿勢だけれど、格好良い物だいすきな男の心を捉えて離さない。
「いいですか。男の子たる物、ここぞと言う時に決めポーズの一つも出来ないと女の子にモテませんよ♪」
 力を抜いて普通の姿勢に戻り説明する。
 子供でも男は男だ。モテルという人参を目の前にぶら下げられた彼等はカナンが二度三度と繰り出す迫力ポーズを凝視して必死に手元の帳面に書き込んでいた。
「次に女の子だよ」
 退屈の気配を感じて授業内容を切り替える。
「そうだなぁ。可愛い甘え方とかかな?」
 ふよふよと生徒達の間を通り、悪戯っぽい笑みを浮かべてリーダー格の少女に囁く。
「可愛い甘え方とかかな? これを覚えて男の子に色々奢らせたり、両親に欲しい物を買ってもらうんだよ」
 ちょっとだけ気弱げで儚い微笑みを浮かべ、高度を調節し潤んだ瞳でみつめる。
 言っている内容で効果が落ちているはずなのに、少女はカナンから目を話さない。
 カナンは移動を止めず女の子だけに指導を続ける。
「うん良い感じ。ちょっとだけ力を抜いて…うん!」
 特に飲み込みがよかったのは最も引っ込み事案の子だ。年相応に純で年不相応な艶に気付いて少年達が騒ぎ始める。
「これで私の授業は終了! 家に帰ってからも復習しないと駄目だよ」
 はい先生と、気合に入りまくった声が聞こえた。
 満面の笑みを浮かべたカナンが窓に向かって手を振ると、カナンに気付かれないよう見守り絶対に気付かれないよう上目遣いの練習をしていた神音が、少し焦った様子で手を振り返すのだった。
 新たな知識に興奮する子供達の後で、人体の限界に挑むポーズをするからくりが1人。
 もっとも感情表現豊富で親しみ易いので、普通の見学希望の子としてしか認識されていなかった。
「はっ!?」
 小月(主人:エマ・シャルロワ(ic1133))はようやく思い出す。
 ここに来たのは授業を受けるのでも遊ぶのでもなく応急手当の講師をするためだ。
 正直助手ではなく先生が講師をした方がいい気もするけれど、先生は急病人の面倒を見るので忙しく、応急手当の授業なら出来ると許可をもらっている。
「次の授業を、はじめます!」
 思考が日常生活から仕事に切り替わる。
 からくりの特殊な機能が働いた訳でないのに、子供達は大人が来たと本能で知り少しだけ大人しくなる。
「はじめましてっ。今日一日教師を務めさせていただきますっ。名前は小さな月と書いてシャオユエですっ」
 教壇に立ち、白墨を手に取り高速で名前と所属を黒板に書き込む。
 その素晴らしい手際に、舐めた真似をしたらよくないことが起きる(帰宅後に自分の親から雷を落とされる)と本能で察し子供達が沈黙し背筋を伸ばした。
「あ、先生は──シャオの先生ですねっ。その先生はリュネットって呼んでくれてますっ。ジルベリアの言葉で小さな月を意味するからって聞いてます。皆は呼びやすい方で呼んでくださいねっ」
 すらすらと自分のことを説明している間も手の動きはとまらない。
 傷のある手足を白い戦だけで表現する。
 小月に濃い実務経験があるだろう。血の臭いと患者の悲鳴が聞こえてくる気がした。
「練習用の包帯は人数分用意しています。あ、包帯で遊んだりしちゃダメですよっ? あと怪我をした人を見かけたら、無理に動かそうとせずに大人を呼ぶのも大切ですからね」
 実に手際よく包帯を配る。
「こうして…」
 子供の目で追える速度で、分かり易く、何より根気よく自分の体を使って見本を見せる。
 見た目は泰人少女でも身のこなしと技術は本職だ。子供達は小月を師とし真剣に技能の習得を目指していた。
 しばらくして、連続する金属音を小月の耳が捉えた。
 半鐘の音。火事の焦げる臭いは無し。おそらく極小規模のアヤカシか賊だ。
「上手く巻けたら隣のお友達のお手伝いをしてね」
 小月は素早く窓を閉め、一歩通りに出て後ろ手に扉を閉じた。
「逃げるんじゃねぇ!」
「小さい娘っ子に負けるんじゃねぇぞテメェら!」
 羽妖精と浪士組四番隊が都を駆ける。
 追いかける対象はたった1体の小鬼だ。真正面から戦えば一瞬で終わる相手ではあるけれど、ここは無人の荒野ではなく人口密集地だ。人を巻き込まないよう交通整理したり一部の通りを通行止めにしたり外出を控えるよう知らせるために人手をとられて直接追う者の割合は非常に少ない。
「これが現場か」
 現場に出て初めて分かることもある。
 十束は野次馬に元来た場所に帰らせ、不審な動きをする者は目力で威嚇し追い払う。
 できれば詰め所に連行したいが今は他に優先すべきことがある。
 隣の通りから、真新しい傷に全身覆われた小鬼が飛び出した。
 十束の背後から非戦闘員の悲鳴が聞こえる。気配は乱れに乱れて十束が下がるよう言ってもおそらく混乱するだけだ。
「何をしている。お前の相手はここにいるぞ」
 昨日までの十束なら何も言わず最短距離で近づき処理したはずだ。
 しかし今は民衆を落ち着かせるため大げさな動きで余裕ある態度を演じる。
「来ないのか?」
 漆黒の大剣をゆるりと鞘から抜く。
 努力の甲斐はあったようで、背後の人間達は安心して十束に声援を送っていた。
 小鬼が怯え反転して走り出し、待ち構えていたビリティスと浪士組により押しつぶされた。
「これも玄人殿の狙い通りか?」
 戦い以外でも得られる勝ちがある。
 ときと場合によっては勝つためには戦ってはいけないことすらある。
 主への尊敬の念を新たにした十束が、興奮する人間達を宥めに向かっていった。

●胃袋掌握
 浪士組四番隊が主に使用する詰め所…というよりほとんど長屋で、中戸が面白くもなさそうにおむすびを作っている。
 部下に対する愛情故では断じてない。中戸並みや中戸以上の腕を持つ隊士は数人いても料理の腕は中戸が一番ましというどうしようもない理由からだ。
「中戸サン」
 カボチャ型の頭が中戸の目の前に出現する。
「昼飯ならそっちのを食ってください」
 おむすびを作る手は止まらない。
 提灯南瓜キャラメリゼ(主:からす(ia6525))がやれやれと器用に肩…っぽい部分をすくめる。
「働いた後のお握りは確かに美味いアル。しかし食欲旺盛アイムハングリーなウチら相棒共がソレダケで満足すると思うネ?」
 泰風大鍋を背負ったまま中戸の周囲をくるくるまわる。
 無論埃などたてるはずもなく、それどころか掃除の行き届かない台所を綺麗にしている。
「手柄たてるときっとギブミーランチアルヨ。これは人間も同じネ」
「独身男に無茶言わんでくれ」
 中戸から聞きたい言葉を聞き、キャラメリゼの瞳にあたる光がにやりと明滅した。
「ウチが作るヨ」
 食品庫代わりのボロだんすを開ける。
 並びは乱雑。ただし腐敗臭はなし。
「十分な食材あるアル」
 ひょいひょい芋やキノコを採りだし並べながら注文をつける。
「採蔵サン料理作れない人間ネ? ダメヨ人間が料理つくれないのは」
 キャラメリゼにとっては、火加減も考えず火を通し塩を振るのは料理のうちに入らない。
「男だから作れなくてもいいと考えてるネ? 今は女も働く時代アル。ダメヨそんな考。だからモテないネ」
 中戸の手元が狂いおむすびが吹っ飛ぶ。
 ナジュムがひょいと首を出して捉え、悠然と崩して飲み込む。
 動きの止まった中戸をそのままにしてキャラメリゼが動く。
 釜の火を大きくしてその上に大鍋を載せて加熱。自身は大型の包丁を見事に操り適切なサイズに食材を切る。
「ココの隊長サンお酒好きそうダカラ晩酌のつまみの1つでも作れるようになるアルヨ。アト調理専門の部下の一人でも作るといいヨー」
 野菜の甘さと調味料の辛さが絶妙に混じった香りが広がっていく。
 最近食欲のない中戸の腹がぐうと鳴って、力尽きたように土間にしゃがみ込む。
「気を落とすな」
 からすがそっと器を差し出す。
 中身はからすが点てた茶だ。
「いただきます」
 後のことを実質お目付役のからすに任せ、無言で茶をすすり続ける。
 なお、昼のメニューは厚焼き卵焼きと鶏と豆腐のハンバーグが最も好評だったらしい。

●警備は続く
 アヤカシ騒動で荒れた通りが、たった1人の片付け名人によって綺麗になっていく。
「おお」
「人妖かよ。初めて見たぜ」
 片付け名人は天妖の雪華(主人:八十神 蔵人(ia1422))。
 身長は幼児程度でも体のバランスは美少女そのもので、凛々しく可憐なジルベリア甲冑姿がよく似合っている。
 近くの店の人間が手伝おうとしたが、雪華の手際の良さが素晴らしすぎて手伝えば邪魔になると思い肩を落として店に戻る。
「人、多いですね…。一体何故…?」
 雪華はごみを袋に入れて縛り首をかしげる。
 単なる野次馬根性で集まっていた者も思わず生唾を飲み込む。よからぬ思いを抱いて集まった者にとっては理性を破壊する最後の一押しになった。
「む」
 妖しい気配は見逃さない。
 雪華は人形用本格箒を片付けタスキを取り出す。
 誰が見ても浪士組と分かる柄のそれをかけ、不穏な空気を撒き散らす連中に近づく。
「浪士組です! そこの人、なんで集まっているか教えてください」
 可愛らしさと武威が両立することに、この日この場に集まった人間たちは初めて知った。
 カワイイ+ツヨイ=サイコー
 そう自覚した人々が鼻息荒く雪華へ近づく。
 容赦なく職務質問しても妙に喜ぶ野郎と一部女性がほとんどである。妙に親しげに触ってくるのは回避しているが正直鬱陶しい。
「はっ…まさかこの人たち…噂に聞く、ろりこん、というアレでは…?」
 雪華の特別製頭脳が高速稼働する。
 ひょっとして小さければ人外でもよいという突き抜けた連中?
 そういえば近くには子供達の通う寺小屋もあるし…。
「確定ですね」
 重々しくうなずき、大きく息を吸って大声を出す。
「中戸さん! 変質者です、少年少女を狙う変質者が!」
 この日、四番隊は詰め所は駄目人間で埋まることになった。
 夕刻。
 相棒達は持ち場を浪士組平隊士に引き継ぎ報酬を受け取っていた。
「…少ないですね…報酬」
 内心で社会貢献社会貢献と言い聞かせてもちょっと辛い。
 浪士組四番隊の服装をちらりと見て経済状況を推測し、最初とは別のため息をつく。
「頑張ってくださいね、中戸さん…」
 報酬に色をつけて払った中戸は、あまり顔色がよくなかった。
「桃〜♪」
 迎えに来た桜のまわりを機嫌良く尻尾をぱたぱたさせつつ闘鬼犬がまわる。
 ほとんどの主は仲良くほのぼのでも一部は違う。
「どーしよナジュム、賭けに負けてお金なくなっちゃっ…ナジュムー?」
 対等な関係故の相談のつもりで来たジャミールが見回してもナジュムの姿はどこにもない。
 太陽の残り香が消えた空を迅鷹がいく。
 厨房から今日晩の分のおにぎりと明日の分のおにぎりを報酬の一部として受け取っている。
 今日明日はお守りを忘れて1人を楽しむつもりだ。
 この日の相棒による警備と授業は予想をはるかに上回り好評で、地域の顔役まで出てきて次の開催を中戸に要請した。
「もう一度この額に頼む訳にも」
 中戸は頭を抱える。
 低額報酬依頼を続けるのはギルドに嫌がられそうだしかといって報酬を増やすには活動資金が乏しい。
「どうすりゃいいんだ」
 中戸採蔵三十ウン歳の悩みは尽きない。