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■オープニング本文 「行き倒れを放っておいたのですか」 「もと行き倒れさ。生前はどんなお方か知らんが、俺が見つけたときは肉も中身もない骨だったぜ」 農具を肩にかついだ農夫達が、しっかりとした足取りで荒野を行く。 「どんなお方っておめぇ、ありゃ格好からしてどっかから流れてきた盗人かなんかじゃろう」 半生の苦労を顔に刻みつけられた老人が、しっかりとした足取りで歩を進める。 「お偉い方や兵隊さんにしちゃみすぼらしすぎたし、商人やらの街のもんにしちゃ物騒すぎるもん持っていたからのう」 「俺は、食料を巡って仲間割れのあげく全滅したんじゃないかと思うぜ。重い得物を振り回すだけの力があるなら開墾でもすれば良かった‥‥なんだあれ」 農夫の一人の足が止まる。 「どうしたよ」 「いや、その。あっちでなんか動いた気がして」 農夫の指さした先は、先日数体の死体が見つかった場所だった。 「驚かせるなよ。怪談は夜のうちにするもんだぜ」 もう一人の農夫が笑い飛ばそうとする。 が、遠くで不気味にうごめく影に気づいて表情が固まる。 いつの間にか現れて、いや、立ち上がっていた複数の人影。 無骨なつくりの、血を吸って黒々と変色した棍棒が、皮膚も肉も腐り落ちた手に握られていた。 「ば、ばば化け物っ」 「アヤカシかよ。なんでこんな所に」 恐慌状態に陥る農夫達だが、彼らにとって非常に幸運なことに、辛うじて冷静さを保っている者が一人だけいた。 「逃げるんじゃ。ええい、荷物なんて捨てるんじゃ。命がなきゃ畑も耕せんし飯も食えんぞっ」 声を張り上げ、他の面々を殴りつけるようにして正気に戻す。 農夫達は農具をその場に捨て、蒼白な顔で村へと逃げ帰るのだった。 「この依頼ですね」 ギルト係員はひとつうなずくと説明を開始した。 「村の外で発見された死体を埋葬しに行った村人が、スケルトン複数に遭遇しました。現時点では村に被害は出ていませんが、危険であることには変わりがありません」 簡単な地図が書かれた書類を取り出し、開拓者達に示す。 「スケルトンの数は7。大きさは成人男性程度です。一団となって行動しているようですが、隊列を整えたり連携して戦う頭はないようです。地形には凹凸がそれなりにあるので、待ち伏せをしたり、穴を掘るなどすることも可能でしょう。あまり派手にするとスケルトンが気づいて襲ってくるかもしれませんが」 職員はそこまで説明すると、少し眉を寄せる。 「注意点としましては、2から3のスケルトンが状態の良い棍棒を装備しているようです。そのため通常のスケルトンより攻撃力が高い可能性が高いと思われます。ご注意ください」 |
■参加者一覧
夏葵(ia5394)
13歳・女・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
リン・ローウェル(ib2964)
12歳・男・陰
パニージェ(ib6627)
29歳・男・騎
スレダ(ib6629)
14歳・女・魔
レミィ・リル・バートン(ib6760)
17歳・女・魔
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●荒野に穴を掘る 「ここで問題ないな」 クロウ・カルガギラ(ib6817)は、低い丘の上で目を細めたままつぶやいた。 「数は情報通りに7。蛇行はしているが進路はほぼ一定。到着時刻は、どうかな」 「こっちはまだ見えないです」 スレダ(ib6629)はクロウと同じ方向を見ながら小さく息を吐いた。 微風が吹いており、荒野では砂埃が少し舞ってはいるが、視界は悪いとまではいえない。 事実、高所に陣取ったスレダはかなり遠くまで見通している。 しかしクロウの視力は次元が違った。 数キロ程離れた場所を移動中のアヤカシを、完璧に捕捉していた。 「よし、到着時刻は最長で半刻ってところかな。そろそろ罠の設置を始めてもいいかもしれない」 相手の情報を一方的に得ることで、待ち伏せの際に必然的に生じたはずの疲労を最低限に抑える。敵としては下手な戦力よりずっと恐ろしい存在だろう。 「はい。‥‥こちらでもなんとか確認できたです。私は見張りを続けても?」 「よろしく」 バダドサイトの効果を切ったクロウは、急激に変化する視界に耐えるよう、己の眉間を軽く押さえる。 「何度見てもすげーですね」 視線を動かさずにスレダが言うと、クロウは男らしい笑みを浮かべた。 「俺達ベドウィンの得意技だからね」 実績に裏打ちされた自信と、己の家族に対する敬意と愛情がこもったその言葉に、スレダの口元もほころんでいた。 「ここだな」 リン・ローウェル(ib2964)は手に持った地図と目の前の地形を見比べ、足を止めた。 地図はクロウが地元住民からもらってきた物で、廃材の切れ端に炭で書き込んだ粗末なつくりをしていたが、最低限必要な情報は記載されていた。 穴を掘って罠を張る面々や、近くで拾った籠やら木製農具やらを避難させる石動神音(ib2662)を横目に、地縛霊をその場に仕掛けていく。 後3カ所‥‥2カ所か。 主砲である霊魂砲と、いざというときの回復手段である治癒符のことを考えると、この場で全ての錬力を使い切るわけにはいかない。 落とし穴が設置された場所から離れたやや場所に、アヤカシから安全に移動するルートを奪うため、慎重に地縛霊を設置していく。 「‥‥」 背後に気配を感じ、リンは少しだけ眉を寄せる。 観察されるのは、控えめに表現して趣味ではないからだ。 「何の用‥‥だっ?」 くるりと振り返るが、そこで見えたのはリンの予想からはかけ離れたものだった。 金と銀で彩られたジルベリア風の大弓。 並みの成人男性の背丈を超えるサイズのそれが、中天にある太陽からの光を浴びて輝いていた。 「はいっ」 元気な声が下から聞こえてくる。 視線を下げると、そこには真っ直ぐな瞳でリンを見上げてくる夏葵(ia5394)の姿があった。 「ギルドから貸与されたものだから壊れなかった場合は持って帰るように、ってパニージェ様が」 「あ、ああ」 全身を隠せる大きな布を手渡されたリンの顔には、普段は浮かばない子供らしさがわずかに浮かんでいた。 手渡されたときに手が触れあって赤面、というような甘酸っぱい感情など全くない。自身とほぼ同年齢の、中身も真っ当な子供に全く慣れていないだけだ。 「ずいぶんと大きい・・・・ああ、そういうことか」 夏葵達の会話に気付いたパニージェ(ib6627)が、穴を掘る手を休めて己の得物を指し示す。 白薔薇の銘を持つ槍は、開拓者の力に耐えうる強固さと威力を兼ね備えると同時に美しい。つまり戦場ではかなり目立つ。 「承知した。擬装の際に使わせてもらう」 常の寡黙さを取り戻したリン。だがその口元は、いつもに比べて少しだけ柔らかだった。 ●包囲完成 骸骨が羽織る朽ち果てた上着が、荒野を渡る風に吹かれて不気味にひるがえる。 乾いた骨が硬い大地を踏みしめる、軽く、不吉な足音が聞こえてくる。 一部が黄色く変色した骸骨達が小さな丘を越えたとき、女性の裂帛の気合いが大気を揺り動かした。 「さすがに取りこぼし皆無とはいきませんか」 メグレズ・ファウンテン(ia9696)が偽装を解除し立ち上がる。 竜の顔があしらわれたバイザーの奥から、静かで、それでいて鋭い視線がアヤカシ達に向けられる。 アヤカシ達のほとんどは彼女の咆哮に囚われ、注意を彼女のみに向けて前進してくる。しかしわずかに効果範囲から外れていたらしいアヤカシが1体、何度も落とし穴に足を取られつつも、罠地帯を突破しつつある。 メグレズは敵味方の配置と地形から、全てのアヤカシの動きを誘導する最善手を探る。思考を開始してから行動を開始するまでにかかった時間は1秒にも満たず、メグレズは装備の重さを感じさせない足取りで移動を開始する。 が、問題のアヤカシの足下から大量の腕が現れ、本来有るべき地底に引きずり込もうとするかのように傷ついた爪を突き立てる。 地縛霊では狂骨の動きは止まらない。 止まりはしないが、全身の骨に細かな傷を負わせることは可能だった。 そして地縛霊が逃げ道を塞ぐ形で複数設置されているならば、ダメージを蓄積させることで足止めではなく打倒することもできる。 地縛霊に襲われたアヤカシはわずかに進路を変え、次の地縛霊の攻撃範囲に踏み込む。再度の攻撃を受けてからまた進路を変え、進路上にあった落とし穴を避けた結果別の地縛霊に近づいてしまう。 細かな傷は亀裂となり、亀裂は複数集まって骨を断つ。 メグレズの咆哮に囚われなかったアヤカシは、媒介である人骨を砕かれ、荒野の乾いた風の中に散っていった。 「・・・・」 メグレズは逆五角形の盾を正面に構え、波紋も美しい名刀鬼神丸を鞘から抜き放つ。 残敵は6体。 その全てが罠の密集地帯にあり、万が一敵が撤退を始めたとしても逃げ切る前に殺しきれる。 「これより攻撃に移る!」 仲間からの返答は言葉ではなく、敵に向かう矢弾と刃であった。 ●殲滅完了 「レダ、怪我はするなよ。」 そう言い置いて飛び出すパニージェに、スレダは片眼鏡をきらりと光らせて声をかける。 「油断する趣味はないですよ」 ふんと鼻を鳴らしながら精霊武器を構える。 「合わせて下さいですっ!」 何を、どういう風に、など言う必要はない。 パニージェがわずかに体をひねるのと、スレダが雷を放つのは同時だった。 サンダーはパニージェをかすめるようにしてスケルトンを襲い、その身を激しい電流で傷つける。 それとほぼ同時にパニージェが踏み込み、至近距離から白く輝く槍を突き立てる。 骨しかないアヤカシの左腕から左肩が粉微塵となり吹き飛ぶ。 残った右腕の骨がパニージェの首を狙うが、斜め横から飛来した矢が頭蓋から右腕を吹き飛ばし、続く一撃が胸から腰を打ち砕く。 「どもですよ」 スレダが親指を立てると、即射による連撃で援護した夏葵が、少し顔を赤らめて応える。後衛二人がやりとりをした時間はほんのわずかでしかなかったが、既にパニージェは次の獲物に向かっていた。 「パニ兄様、あまり前には」 口では文句を言いながら、スレダは的確な援護を続けていく。 「しぶといですわね。消え去りなさい! 醜いアヤカシ如きがっ!」 レミィ・リル・バートン(ib6760)が放ったファイヤーボールがメグレズと切り結んでいたアヤカシに直撃し、燃え尽きるようにして崩れ落ちる。 「すこあ取られたー」 「ふふっ、早い者勝ちですわ」 神音は悔しがりながらも一瞬で次のアヤカシとの距離を0にし、爆砕拳を放つ。 宝珠が埋め込まれた薄手の手甲がアッパーカット気味にアヤカシの頭部を襲い、勢いに押されたアヤカシの体勢が後ろに崩れる。 そこに乾いた音が響き、クロウが援護目的で放った銃弾が体勢を崩したアヤカシにとどめをさしていた。 「クロウおにーさん!」 再びとどめを刺し損ねた神音がちょっと涙目になる。 アヤカシの討伐数を競う気は神音にも、実はレミィにもないのだが、撃破数が増えるのが楽しいのは確かなのだ。 「少し、有利すぎたかも」 レミィはぼろぼろになった骨にとどめをさしながら、絶対の壁としてアヤカシの前に立ちはだかるメグレズの背を見る。 足止めを優先するために全ての攻撃を盾で受け止めているにもかかわらず、堪えている様子は全くない。 盾役としてはこれ以上望めないほど活躍だが、乱戦も覚悟した上で戦場に立ったレミィとしては、有利すぎる現状に拍子抜けの感があった。 「まったく‥‥いけませんわ」 特徴的な霊魂砲を放つリンを横目に見ながら、レミィは高慢な笑みを浮かべ思考を切り替える。 戦況が有利だろうが不利だろうが、ここが生死を賭けた戦場であることに変わりはない。 ならばすべきことはただ一つ。 攻撃あるのみだ。 「あたしの前にひれ伏しなさい!」 神音が上に吹き飛ばした狂骨目がけ、とどめのファイアーボールを放つ。 「すこあー!」 「ほーっほっほっ」 騒々しく、しかし確実かつ的確に敵を討ち取っていく仲間達の活躍に、それまで攻撃を後回しにして足止めを優先させていたメグレズの口元が緩む。 最後に残った狂骨は背を向けて逃げだそうとする。 が、開拓者の前衛と離れたことで後衛から射線が通ることになり、それまで援護に徹してきた夏葵が連続で矢を放つ。 頭蓋と腰骨を破壊されたアヤカシは逃げることも耐えることもできず、壊れた骨から強制的に退散させられ、消えていくのだった。 ●喜びの声 「とってきたよー!」 大きな籠を背負った神音が村に入ると同時に、老若男女の歓声が響き渡った。 「おねーちゃんすげー」 「かっこいー!」 「ねーちゃんぼくとつきあってー」 どさくさにまぎれて馬鹿を言ったお調子者の少年が、親に小突かれながら連れ去られていく。 「じゃあ、お願いしますっ」 「なあに、もとから弔うつもりだったんです。盛大にとはいきませんが、供養はしますよ」 夏葵から骨を受け取った村人が、安心させるようにニカリと微笑む。 「これは親父ので、こっちは川べりの家で、おー、こりゃほとんど無事ですな。おかげさまで金と手間をかなり省くことができます」 神音から渡された物の確認を終え、村長は満面の笑みを浮かべて頭を下げていた。 「貧しいなら頭を使いなさいな。こちらから言われなくてもね」 「面目ないです」 レミィの棘のある言葉に、村長は笑顔で、けれどしっかりと反省して頭を下げる。 スレダが村人に何を落としたか予め聞いていなかった場合、おそらく半分近くは見つからないか、見つけてもゴミと思い込んでそのままにしてしまっただろうから。 「よーし、このまま手伝いに行くよー!」 「おー!」 すっかり懐かれた神音が、子供達をひきつれて村の畑へ駆けていく。 アヤカシの脅威にさらされかけた村は、今日もたくましく日々を過ごしていた。 |