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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 神の巫女セベクネフェル。 彼女が精霊門から現れたとき、天儀が激変した。 海は荒れ…はせずにミヅチが喜び跳ね回り。 山は狂い…はせずに羽妖精が陽気な音楽を奏で。 地は弾け…はせずにもふらさまが巫女の現れた精霊門を囲んで寝転がる。 「巫女様はどちらに!」 天儀開拓者ギルドで砂漠の民が真っ青になっていた。 考え得る限り最高の警備のど真ん中から、何の前触れもなく巫女が消えたのだ。 「誘拐の線はありやせんぜ。蟻一匹逃さない警護をしてたんですから。そうでしょう?」 冷や汗を流しながら天井を見上げる浪士組幹部。 何もないはずの空間に超高位のシノビが現れ、頭巾をとってうなずいた。 同じく超高位の陰陽師が口を挟む。 「アヤカシの反応は一切ありませんでした。ですが…」 巫女がいた場所に巨大な精霊力が漂っている。 残滓だけでこれということは、おそらく。 「精霊…神様にでも浚われたって言うんですかい!」 浪士組の悲鳴に、反論できる者はいなかった。 ●うぇるかむ! 「天儀へようこそモフー」 巨大もふらさまが顎を地面につけてしゃべっている。 半開きでも丸呑みされかねない口の間近で、一国の元首であるはずの彼女は緊張感の欠片もなく微笑んでいた。 「これはご丁寧に。セベクネフェルと申します。精霊様、どのようにお呼びすればよいでしょうか」 「くー、話が通じるのは最高モフ」 心底楽しげに身をよじる怪獣…もとい超高位精霊。 鎮守の森風の異空間全体が、ふよんふよんと平和に揺れた。 「僕はグレートモフと呼んで欲しいモ…」 「ちょっと待つミャ!」 空が破れ猫が高速回転しながら降ってくる。 猫は急速に大きくなって、着地直前には大アヤカシ級のサイズに達していた。地上に達すれば大破壊をまねきそうな超重量だがそこは駄目精霊でも高みに立つ精霊だ。見事に衝撃を消して着地に成功する。 「満点モフ」 「凄いですわ」 「どもどもニャ〜」 器用に二本足で立ってもふらさまと巫女の拍手を浴び調子に乗る猫の精霊(仮称)。1分以上たってようやく何をしに来たか思い出した。 「ご、ごごごまかされないニャ! あたしも新しい話し相手欲しいのニャ!」 フー! と威嚇する丸っこい怪獣…もとい猫精霊に対し、自称グレートモフは一見まったりしながら毛艶を増しつつ巫女に近づいている。 多分、撫でて欲しいのだろう。 「抜け駆けは無しキュ〜」 木々の合間から見える御所すら飲み込めそうな巨大湖から、外見だけは神秘的な龍が顔を出す。 元ミヅチで今も本人だけは今もミヅチなつもりな神の如き龍が、御所を覆える広さの翼をパタパタ上下させて抗議する。 「そうだそうだ〜!」 「他の儀のお話聞くの〜」 3対6枚の光の翼を持つ羽妖精(?)と闇の翼を持つ羽妖精(?)がいつの間にか現れ、それぞれ巫女の片手をとってこっち来てと誘導する。 4種5柱の神が、話相手を賭けて大戦を始めるまで後少し。 ●再び開拓者ギルドにて 「護衛依頼をうけた開拓者はどこにいる! 奴等が巫女様を浚ったのでは」 「開拓者ギルドを信用してください。脅威に襲われて討ち死にすることはあっても裏切りを働くような者はいません」 「ならどこにいるのだ!」 ギルド本部に絶望感が漂う。 天儀アル=カマルの国交断絶まで多分後1日。 ●依頼 今、あなたはとんでもなく高位の精霊ひしめく異界にいる。 外見は非常識に巨大な木々に覆われた鎮守の森風空間だ。精霊力が濃すぎて逆に体に悪そうでもある。スキルの効果も多分桁外れに上がっているだろう。 あなたはアル=カマル元首の護衛依頼をうけている。なので巫女を天儀に無事に連れ戻さないとちょっと…いやかなりまずいことになる。 幸い巫女の力で精霊との意思疎通は可能となっている。 4種5柱を満足させて巫女を解放させるしかない。 |
■参加者一覧
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
何 静花(ib9584)
15歳・女・泰 |
■リプレイ本文 神の巫女セベクネフェル。 天儀の人間にとっても重要人物だが、アル=カマル出身者にとっては言葉を交わすだけでも一生の語りぐさになり、護衛をするなら子々孫々に伝える武勇伝にできるほどの存在だ。 普段は飄々としたクロウ・カルガギラ(ib6817)でも気合が入って…いや歳の割にずいぶんと可愛らしい猫耳巫女さんにほんわかしながら、周囲の警戒は完璧に行っていた。 しかしそれは人間が可能な完璧でしかなかった。 天儀の都の大通りから、不自然なほど豊かな森の広場に一瞬で切り替わる。 「何です?」 陰陽師であるカンタータ(ia0489)は、場に満ちた強すぎる精霊力に気付いて冷や汗を流す。 「ここどこよ」 休憩中だったはずの何 静花(ib9584)もいる。 片手に泰の酒、もう一方の手には何故かアル=カマルの甘味地図。 なお、護衛されているセベクネフェルは甘味マップ「アル=カマル」に興味津津な視線を向けていた。 「おお! こいつはすげえなあ!」 天儀世界におけるあらゆる人工物を上回る大きさの龍に気付いてルオウ(ia2445)が歓声をあげる。 「うおー! すげー! みんなでっかいね!」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は恐れる様子もなく目の前の崖…超巨大もふらさまの毛に捕まってよじ登っていく。 「何者もふ!」 キリっとした表情で問いかける多分もふらさま。 「アル=カマル国元首とその護衛です」 カンタータが45度の礼をする。 「大精霊様方、我々に何かご用でしょうか?」 敬意に満ちた視線を向けられ、もふらさま型のカミがうっと言葉に詰まる。 「僕はグレートモフもふ。用は…えっと、その」 単に話し相手欲しかったの、という本音は通用しない気がする状況だった。 ルオウは前を見て、横を見て、上を見て事情を察する。 巨大な体とそれ以上に強大な存在感が5つ。他には自分達しか生き物がいない空間だ。 常人なら数日で精神をやられかねないし、高位存在である精霊でも精神的に厳しい気がする。 「そっか! つまりあんたら暇なんだな!」 「そうなのですか?」 口に手をあてて自称グーレトモフを見上げる猫耳巫女さんじゅーよん歳。 グレートモフのはるか後方では龍が必死に背伸びして自己アピールしていた。 「そうなんです…じゃなくてもふ」 しょんぼりするもふらさま。 角度が変わった巨大な頭から、ルゥミが勢いよく飛び出して一回転して着地した。 「ひゅーひゅー!」 「人間もやるねー!」 いつの間にか現れた羽妖精っぽいものが、ルゥミの真似をしてグレートモフから飛び降りようとしてモフに鬱陶しがられる。 「こりゃぁ夢だね。夢から覚めたら起こしてくれ」 静花は肩をすくめて近くの巨木に寄りかかろうとして、はるか遠くから向けられる切ない視線に気付く。 徳利を揺らすと甘く芳醇な香りがあたりに漂い、龍の瞳が爛々と光る。 「あげないよ」 徳利に口をつけ、味わいながら飲み干す。 龍が崩れ落ち、空間全体がふよんふよんと揺れるのだった。 ●だだっ子達 「僕は…」 声は届いたのに意味がある音として認識できない。 自分だけかと思ってカンタータを見る。 高位の陰陽師であるはずのカンタータが、ルオウの視線に気付いてお手上げと言いたげに肩をすくめた。 「ふうむ」 蒼井 御子(ib4444)が、否、御子にしか見えないなにかが微笑む。 何か言いたげにしているセベクネフェルに気にするなと身振りで応え目をあわせる。 「永く生きていればこういうこともある。我と入れ替わりしモノが気にはなるが」 視線をずらして高位次元に棲まう精霊を見る。 「無事連れ帰る役目は肩代わりしてやる」 「やだやだー!」 「話し相手が少なくて退屈なんだもん…もふ」 丸っこい、形は猫ともふらの怪獣が駄々をこねる。 御子は響きだけなら精霊の狂想曲に似た曲を数節つぶやき止めた。 怪獣達は動きを止め、数世紀喧嘩してないからちょっと危険かもという顔で冷や汗を流している。 そして、ようやく話し合える状況が整った。 「精霊様方。巫女様とお話したいなら皆で輪になってお話するので構わないんじゃないか」 クロウが至極真っ当な提案を行う。 御子がうなずくことで理だけでなく威も備わりすんなり認められる…訳がない。真っ当な意見で動く相手なら最初から巫女を浚ったりはしない。 「こうなったらニャ〜の肉球で即落ちさせてやる…ニャ〜」 なんだか危険なスイッチが入ったっぽい家猫風が肉球を近づけてくる。 触れれば魂まで蕩かせる魅惑の力は、その異次元な力を発揮することはなかった。 「う〜」 酒の香りを漂わせ、静花が肉球ではなく手首に触れる。 「ニャ?」 巨大建築の大黒柱並みの手首に静花の両腕が絡みつく。 「正直どうでも良かった」 据わった目で虚空を睨みながらぶつぶつ呟く修羅泰拳士。 ニャ〜が怯えて逃げようとする。でも静花の動きが巧みすぎて抜け出せない。 「どのくらいどうでも良いかと言うと木枯らしくらいどうでも良かった」 絶妙の角度で関節を決め、逃げようとする勢いを利用して体勢を崩させる。 「誘拐って形で喧嘩を売られれたら、買ったげるよ!」 「ふニャ〜!」 縦に回転しながら家猫大精霊が吹き飛んだ。 家猫は木々を何本を粉砕して龍に直撃…はしない。 元ミヅチの龍は迷惑ですという表情を浮かべて一歩横に移動し、猫は盛大な水飛沫を上げて湖面に消えた。 「うまいっ」 当事者なのに我関せずの態度で酒の封を切り、実に良い笑顔で飲み干す静花であった。 ●せったい! 光と闇の柱が降ってくる。 空は白と黒で9割以上埋め尽くされ、逃げ場などどこにもないように見えた。 「よーし!」 ルゥミが元気に駆け出す。 主の動きに気付いた迅鷹が合流し合体。 膨大な精霊力によって能力の拡大が起こったようで、3対6つの氷翼となってルゥミに力を与える。 能力の拡大は相棒だけではなかった。 「いくぞー!」 重力も慣性も無視した鋭角の動きで光と闇を直撃すれすれで回避。 紅の魔槍砲をぎゅんぎゅん全開にして一気に貯めた。 「ジェノサイドスパーク!」 打ち上げられた氷の弾が光と闇の羽妖精の中間で炸裂し、360度花開いた氷の大瀑布が精霊達を押し流す。 「つめたーいっ」 「人間すげぇっ」 全く効いたようには見えないが狙い通り。 氷の華で進路を限定された光と闇は、魔槍砲の射線上をふらふらしていた。 「避けられるかな?」 ただ勝つだけでは足りない。 場を盛り上げ見物客を楽しませるため、適量のためをしてから引き金を引く。 「スターダストブレイカー! 師より与えられた技術を百戦で錬磨した術式が、精霊力と反応し2筋の線になる。 「え」 「うそ」 線は光羽妖精と闇羽妖精の額に当たり、一瞬の後に万倍の太さに変わる 「うぃーんっ!」 ルゥミが腕を突き上げると同時に、はるか彼方で2つの星が光った。 「遠慮する必要はないぜ」 ルオウは得物を外して四股を踏む。 この地の精霊力にも慣れてきた。短時間なら普段より数桁上の力を出すのも可能だろう。 「やろうぜ」 龍を見上げる。 永い永いときをただ高みにあった龍が、あまりに強すぎる郷愁と歓喜で大きく体を震わせた。 「手加減できないキュ?」 「上等!」 ガハッと、かつてミヅチであったとき以来の笑みを浮かべる。 控えめに表現して、大アヤカシよりはるかに凶悪だった。 一瞬で0から音速越えの速度に至る。 龍の鱗は空気の壁をものともしない。 対するルオウは真っ向から迎え撃つ。 山のごとくこの世界を踏みしめて、とうに人間の限界を踏み越えた心技体で待ち構えていた。 「キュ〜!」 龍の鼻先とルオウの胸がぶつかり合う。 ほとんど人間の限界まで鍛え上げられた体に血管が浮き上がり、一部が破裂して血の飛沫があがる。 「うおぉぉぉっ!」 ここが地上なら足場がルオウの力に耐えられなかっただろう。 だが真剣勝負を望む龍により強化された大地は、龍の衝撃と超高位開拓者の力に耐え抜いた。 大地ではなく空間全体が凹み、ルオウの腕が限界を突破し龍を跳ね上げる。 場外に吹き飛ばされる大精霊は、心底満足そうに微笑んでいた。 ●別れ 「参りましたねー」 怪獣大決戦状態の異空間を見渡し、カンタータががくりと肩を落とした。 「元世界の座標が分からないのか?」 御子が問う。 単なる偶然で異世界の同位体と入れ替わってしまった彼女は、開拓者の御子に影響を与えないようするため力を削がれている。 力がありすぎるのだ。 「いえそれは大丈夫なのですが」 精霊に妨害されたら全くの異次元に飛ばされる可能性があるようなのだ。 立場上精霊を滅ぼす訳にもいかないし、正直打つ手がない。 「とれる手段に制限がある訳だな。ふむ」 滅殺も捕獲も駄目となると、後は…。 「貢ぎ物か」 己の元世界から物資を取り寄せる。 立体ディスプレイで1惑星のはじまりからおわりまでをシミュレートする廃人養成ゲームを初めとする危険なブツが出てくるが、ファンタジーノリの精霊が喜ぶ品がない。 「これ何?」 リィムナ・ピサレット(ib5201)が紙媒体の何かを拾い上げる。 「古典遊技の1つだ。分かるか?」 「んー、たぶんだいじょーぶ」 高精度の活版で印刷されているらしい。初めて見る言語でも、リィムナなら数百頁も読めば内容を理解できる。 「みんなー! 新しいあそびをはじめるよー!」 大声で呼びかける。 目を回していた家猫と池からあがったグレートモフが気付き、元気よく向かってきた。 数時間後。 「精神判定失敗。精神的ダメージが限界に達したよ」 「ぎゃーもふ! 見事もふ異界の精霊。しかし第2第3のグレートモフがいつか貴様を倒すもふ! と言ってから事切れるもふ」 「気にせず攻撃ニャ! 弱点に攻撃〜」 「いつものでいいね? んじゃ武術判定…失敗! 精神抵抗…失敗!」 「なんじゃこりゃー! と犬死にロールをしつつモフの上に倒れるニャ」 ノリノリでTRPG中の大精霊2柱と自称…はいらないかもしれない美少女天才陰陽師。 嬉々としてバッドエンド描写を行うリィムナも2柱も、心底楽しそうだ。 けれどそろそろ限界だ。 笑顔で見学中だった猫耳巫女が上体をふらつかせ、唯一護衛に徹していたクロウにもたれかかる。 美しく熟れた体が柔らかく少年の体を刺激する。 甘い香りがクロウの理性を盛大に削り、けれど鋼の理性でなんとか耐え抜く。 「俺の母さん達と同年代とは思えねえや…ってそんなこと言ってる場合じゃない」 巫女の体は熱く、呼吸も徐々に不規則になっていた。 「精霊力に当てられましたね」 徒歩で戻って来たカンタータが手当を始め、ちらりとモフと猫を見て表情を暗くする。 2柱とも、まだまだ遊びたい雰囲気だ。 「しょうがないなーもう」 卓を片付けリィムナが立ち上がる。 ルールブックを精霊に渡し、自身は分厚い書物をめくって目当ての頁を開く。 「ここならいけるね。いっくよー!」 精霊力のみを素材に人妖をつくる要領で3つの式を組み上げる。 1体は聞き上手のおばさん型精霊式。 もう1体は巧みな話術で決して飽きさせないカリスマホスト型精霊式。なんと口プロレスにも対応済みだ! そして各次元界やアカシックレコードに常時接続し自在に情報を検索可能な生きた端末型精霊式! データッキー対応を完璧なのだ! 「次の卓はこの子達とね♪」 「分かったもふ」 「相手してくれてありがとうニャ〜」 笑顔で手を振る精霊達がセベクネフェルに気付く(そして治療の名目で現世との縁を切り離す)前に結界を展開して運び込む。 「暇になったらまた遊んでやっからよ!」 「またねー!」 ルオウとルゥミが結界に飛び込むと同時に帰還用の術式が発動する。 精霊の世界が薄れ、天儀の光景が重なり精霊の世界を塗りつぶしていく。 「みなさん、ありがとうございました」 セベクネフェルが頭を下げる。 濃すぎる精霊力から解放されたため、顔色は元に戻り呼吸も安定している。 「戻れましたね」 クロウは安堵の息を吐きつつ巫女をギルドのソファーに寝かせる。 血相を変えて向かって来るギルドの偉いさん達が、ちょっとだけ怖かった。 開拓者達は事情の説明と護衛の引き継ぎを終え、いつも通りの生活に戻っていった。 「どうしたものか」 1人高次次元に止まった彼女は、極めて珍しいとこに困り果てていた。 天儀の同位存在が混乱しているのは、まあ、放っておいても本人がなんとかするだろう。 問題は。 「どうしたもふ?」 「そっちの世界、うちゅーにでてどうしたのー?」 「今からうちゅーに行っていい?」 精霊が、解放してくれそうになかった。 |