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■オープニング本文 ●ただいま輸送中 無人島への水食料各種資財の運送役として、輸送中にそれらを消費しないからくり空夫(臨時雇)に白羽の矢が立った。 「つめたいおみず…」 「あったかごはん…」 「すいーつ…」 食べなくても死なない。 でも美味しいものを食べられないと精神的にきつかった。 食べても飲んでも違約金が発生するので飲食もできず、余剰の物資など一切ないので綺麗な布で体を拭くこともできない。 だから正直そろそろ限界だった。 「陸だ!」 見張り員が大声を出すと、乗組員総勢6人が高速で舳先に集合した。 「やった」 「これで帰れる」 少女達が涙を流して抱き合う。 ちょっと薄汚れているが今だけは気にならない。 「あれ、何?」 島の西端の崖。そこにある洞窟に遠眼鏡を向ける。 鬼が、呆然とした顔で飛空船を見上げていた。 「宝珠砲! 宝珠砲準備して今すぐ!」 新しい兵器を兵器と認識できなかったアヤカシ達は、吹き飛ばされる瞬間までのんびりと待ち構えていた。 ●宝島? 「着弾確認」 滑空艇で戦果確認中だった彼女は、爆風が晴れた後現れたものに気づいて目を丸くした。 宝珠だ。 倒したアヤカシの数の半分近い数の宝珠が無造作に転がっている。 「ここ遺跡なの?」 宝珠になる率が普通の遺跡より高いかもしれない。 「ここで1日戦ったら新作の秋物1着…ううん2着買えるちゃうかも」 えへへとだらしない笑みを浮かべる彼女を正気に戻したのは、洞窟が崩れ落ちる音だった。 「ちょ」 あれでは宝珠は全滅だ。 からくり空夫達は大回りして東岸に向かった。安全な海岸に天幕を立てて物資を運び入れてから、肩を落として泰国の港目指して離陸するのだった。 ●宝珠砲どかーん! 遺跡の性質を強く持つ洞窟であり、中でアヤカシを倒せば宝珠が確実に手に入る。 だかそんなことは重要ではない。 アヤカシがいるなら倒さねばならない。 洞窟ごと吹き飛ばしてもだ。 「という名目で予算と資財ぶんどってきました」 「こっちは試作宝珠砲3門です。てきとーにぶっ飛ばしてデータとってきてください」 技術者達が実にイイ笑顔であなたたちに説明している。 「標的…もとい討伐目標であるアヤカシはこの洞窟のどれかにいると思われます」 水面から50メートルある崖の海面近くに、横に40メートルずつの間隔を開けて3つの洞窟が等間隔に並んでいるらしい。砂浜はないが水の流れは速くない。 「え? アヤカシの情報ですか?」 問われた技術者は戸惑っている。 「吹き飛ばせば何かあっても証拠隠滅…じゃなくて問題ないんじゃないですかね? 宝珠砲を載せるための飛行船も2隻用意してますし大丈夫ですよ!」 これはひょっとすると注意しないと危ない依頼かもしれない。 |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
クルーヴ・オークウッド(ib0860)
15歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
津田とも(ic0154)
15歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●画期的新型飛空船? 標準的な小型飛空船には船首と船尾に各1問の小型宝珠砲が搭載されている。 左右の目標に全砲門を向けることが可能な配置であり、当然のことながら前後の目標には1門ずつしか指向できない。 「しかし今回の船は違います。舷側ぎりぎりに取り付けることで前後に指向可能! 頑張れば上下にも向けられる画期的飛空船なのです!」 なのです、という声が岸壁に跳ね返されて返ってくる。 「ご苦労でした」 クルーヴ・オークウッド(ib0860)は笑顔で答えようとした。 「あ、あの、ご満足頂けません?」 商家の下っ端からくりがクルーヴの笑顔に怯えて後退し、砲弾が詰まった樽に隠れつつおそるおそる尋ねてくる。 「何事にも限度があると思います」 クルーヴが甲板を見渡す。 前後ではなく左右に宝珠砲を取り付けるため、倉庫部分まで食い込む大改造が施されている。 どう考えても今回の報酬より大きな額がかかっている。おそらく開拓者の要望という名目で予算を分捕って好き勝手したのだろう。 「え、えーっと」 右を見て左を見て。 誰からもフォローしてもらえないことに気付いて無理矢理に話題を変える。 「空夫さんも私も戦闘無しの契約なので守って頂ければうれしいなって」 ちらちらと非常にうっとおしい感じで目配せしてくる。 クルーヴは一度だけ大きく息を吐いて思考を切り替えた。 「任せてください。アヤカシには指一本触れさせません」 凛々しい笑顔にからくりが赤面する。 「ぷぷぷろぽーずは早いと思いますっ」 見なかったことにしてアヤカシが潜む洞窟に注意を向けるクルーヴであった。 「砲の扱いは任せな。この距離じゃ外しようがないからね」 津田とも(ic0154)が宝珠砲から顔を上げる。 渡された時点でツッコミどころ満載で不具合まみれだった試作宝珠砲も、砲術の専門家である彼女が丸1日整備したことで大きく改善された。 砲なので銃用のスキルは使えない。とはいえその程度ハンデにもならないほど彼我の戦力差は大きい。 「そろそろ始めるぞ」 地形と風向きを確認して左右両門の向きの最終調整を追え、真剣な表情でともがつぶやく。 「応」 大型の洋弓を手に立ち上がるのは北条氏祗(ia0573)。 兜の下の瞳は精力に溢れ、重装備なのに揺れる甲板上を軽やかに動いている。 船の十数歩下は青い海。前方数十歩の距離には岸壁があり、複数ある洞窟からは怪しげな気配が漂ってくる。 「派手にやろうぜ」 「射撃よーーーい、仰角あげーっ!!」 ぎりぎりと歯車が回る音が響く。 「宝珠作動、てーっ!!」 砲門周辺の空気が揺れ、大重量の宝珠砲が砲門から火を噴いて後退する。 宝珠の力が籠もった硝煙の香りを胸一杯に吸い込み、ともはぎらつく目で砲撃の行方を凝視した。 「硝煙のにおいが最高だなぁオイ! 弾着! 今!」 第1射。山なりの弾道で入り口に直撃。入り口の歪な円形が崩れていく。 「続けて行け!」 逆側の宝珠砲が吼える。射程が足りず中央の洞窟の斜め上に命中し、崖の表面全体にひび割れを発生させる。 衝撃と轟音がアヤカシに与えた影響は様々だった。 真ん中の洞窟ではあまりの激しさに怯えて閉じこもってしまい、左の洞窟からは危険をさけるため押し合いへし合いしながら宙に飛び出した。 「HA!」 攻城兵器にしか聞こえない音をたてて矢が直進する。 飛び出した直後の羽猿…見た目は翼がある猿に直撃しても勢いは衰えず、岩肌にアヤカシごとめり込んでようやく止まる。 「数だけは多いな」 氏祗の弓から第2の矢が飛ぶ。 水面ぎりぎりを飛ぶ羽猿に直撃。冷たい冬の海に高速で叩きつけ海面ごと砕いて瘴気に戻す。 「空夫は船倉へ避難しな!」 ともは宝珠砲の充填は間に合わないと判断し装填済火縄銃を構える。 「FIRE!」 氏祗の第3の矢が怖じ気づき背を向けた羽猿を射落とす。 「撃て撃て、皆殺しにしろ!」 銃口から飛び出した弾丸がともに力を与えられて本来の限界以上に飛び、最後に残った羽猿の額を砕いて致命傷を与える。 まるでそれを待っていたように右の洞窟から巨大な影が飛び出す。 化け物の咆哮が大気を震わせ、海岸奥の森から鳥の群れが飛び立ち。 「きゃぁぁぁっ!」 船倉入り口から悲鳴が響く。 クルーヴは揺れる甲板を盤石な地面のように危なげなく走りきり、船首で黒のロングボウを構えて待ち受ける。 鷲頭獅子の中でも大柄な個体が口から濃い瘴気を吐き急接近した。 「ちっ」 宝珠砲を触ったともが舌打ち。 通常型より充填速度が速い試作砲から砲弾が撃ち出され、鷲頭獅子に軽く回避され水面に落ち水しぶきをあげる。 「当てるのはきついね」 諦めて火縄銃の再装填を始める。 どうやら、決着には間に合いそうになかった。 クルーヴは弓矢を構えた状態から矢ではなくオーラを放つ。 予想外の一撃に鷲頭獅子は無理な上昇で対応。かわせはしたが速度が激減し動きも単調になる。 「あばよ」 氏祗の利き手が動く。 開拓者でも目視が難しい速度で3つの矢を打ち出し、鷲頭獅子の胸、右肩、右翼に小さくない穴を開けた。 「やったー!」 船倉入り口からお気楽な歓声が聞こえ。 「馬鹿頭を下げろ」 ともが下っ端からくりの頭を強引に下げさせる。 鷲頭獅子は急速に形を失っていくが元が大きすぎて消えきらない。 形を保ったままの胴体と回転しながら飛空船甲板でバウンドし、船を強烈に揺らした。 「あ」 舷側に突きだした右宝珠砲砲座が脱落後落下、水面に激突して見事に爆散した。 どうやら無理な改造が限界を超えたらしい。 「手強い敵だったな」 武器を下ろして爽やかに笑う氏祗の後ろで、船倉から這い出した空夫達が必死の形相で補修作業を始めていた。 ●お宝を目指して 飛空船からの砲撃が始まった頃、きらめく水面をスキップする少女がいた。 「うふふふ」 リィムナ・ピサレット(ib5201)の瞳に銭の文字が浮かんでいる気がするのは多分きっと幻覚だ。 「お宝お宝」 海面から突き出た岸壁に辿り着き、つま先立ちになって洞窟をのぞき込む。 明るい野外からは灯りのない洞窟内を判別するのは無理、なのは常人の話だ。 気で満ちたルィムナの瞳は明暗に妨げられることなく洞窟の状態を正しく認識する。案外過ごしやすそうな空間が真っ直ぐに伸びていて、下級アヤカシの中でも特に弱い小鬼の姿が確認できた。 洞窟の斜め上に砲弾が命中し鋭く尖った石が無数に落ちてくる。 リィムナは視線を向けることすらせずに鼻歌まじりにかわし、片手の力だけで自分の体を引っ張り上げて洞窟の中に踏み込んだ。 『だれだっ』 小鬼が誰何する。 「開拓者だよ」 リィムナは気軽に応じ、驚き慌てる小鬼をじいっと観察する。 驚愕、呆然、憤怒と移り変わる表情には注意を向けていない。 無色無音の式が小鬼を撫で。 恐怖一色に染まった小鬼が崩れて消える。 「ひゅー!」 小さな手が直前まで小鬼がいた空間を貫く。 「中級落とした訳じゃないのにこのサイズ!」 丸々とした宝珠はずしりと重い。 『おい何が起こっ』 奥から新手が現れる。小鬼にしては体格の良かったアヤカシが式に触れられて崩壊。 残像が残る速度でスキップしたリィムナが、地面の宝珠を回収する。 『ば、ばけ』 『先生方を呼んで来い!』 決死の覚悟で向かってきた小鬼3体が同時に消えた。 「ふふ、ふふふ」 入り口からの逆光を浴び蕩けた笑みを浮かべるリィムナは、控えめに表現して迫力がありすぎた。 『好き勝手にさせるものか』 『我等の3体連係攻撃』 『耐えられるものなら耐えてみよ!』 極めて頑丈な岩から手だけを出し、妖鬼兵3体が全く同じ動作で雷を生みだし放つ。 互いに絡みつき1本の大蛇になった術が、リィムナの芭蕉扇に無造作に撃ち落とされた。 「貧弱だねっ♪」 妖鬼兵の顎が外れた。 「3匹じゃ話にならないね、せめて90匹はいないとね♪」 無色の式が再度この世に現れ3体同時にこの世から消える。 「ドロップ率10割♪」 残るアヤカシが全滅するまで、20秒もかからなかった。 ●報告書 3問の試作宝珠砲が弾を撃ち出した。 開拓者が来る以前に脆くなっていた崖は、砲撃に耐えられずゆっくりと崩壊していく。 「1門故障」 「発射台がぐらついてるから場所移すぜ」 ともと氏祗が試作砲の面倒を見ている横で、リィムナが報告書に好き勝手書き込んでいる。 「すげー威力だった! 即射性を上げてくれたらさいこー! まる」 書き終えた報告書は、飛空船の補修作業で疲れておねむのからくりの胸ポケットに突っ込んだ。 「終わり良ければ全て良しですよ。きっと。」 アヤカシが潜んでいた、今後も発生したり流れて来たアヤカシが住み着きかねなかった洞窟の完全崩壊を確認し、クルーヴが満足げにうなずくのだった。 宝珠は予想以上の高値で売れ、4等分してもかなりの額になった。 試作宝珠砲と飛空船改造についても大きな成果が得られた。 ただ、予算の使い込みがばれた技術陣とおまけのからくり1人が左遷されたため、実用に耐える砲が完成するのは数年後になるかもしれないらしい。 |