【浪志】はさみうち?
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/15 00:21



■オープニング本文

●畜生働き
 暗闇に、白刃がきらめいた。
 悲鳴とも言えないような小さな呻き声を挙げて初老の旦那が事切れる。強盗が、男の口元から手を離す。彼の手にはじゃらじゃらと輪に通された鍵が握られていた。
「馬鹿め。最初から素直に出しゃあいいものを」
 男は蔵の鍵を部下に投げ渡すと、続けて、取り押さえられた娘を見やった。小さく震える少女の顎を刀の背で持ち上げる。
「‥‥ふん。連れて行け」
 少女は喚こうにも口元を押さえられて声も出ず、呻きながら縄に縛られる。縛り終わる頃には、蔵の中から千両箱を抱えた部下たちが次々と現れ、彼らは辺りに転がる死体を跨ごうが平然とした風で屋敷の門へと向かう。
「引き上げだ」
 後に残されるは血の海に沈んだ無残な遺体の山のみ。「つとめ」とも呼べぬ畜生働きである。

●婆娑羅姫
 広々とした邸宅。
 その一角では、どちらかと言えば小柄な女性が大杯を傾けていた。月明かりに風鈴が鳴り響く中、どたばたと廊下を走る音がする。
「なンだよ、うるせぇなぁ‥‥」
「森様、奴らの盗人宿が割れました!」
 縁側に駆け込んできた男の声に、森と呼ばれた女性が振り返る。様相は幼いが、酔った目元はぎらぎらと輝いて喰らいつかんばかり。まるで、飢狼だ。
「ようやくか‥‥あんだけ連日の畜生働きだ。腐れ外道どもめ。たんまり溜め込んでやがンだろうな‥‥」
 ふらっと起き上がって、身の丈を越えた十文字槍を担ぎ上げる。彼女は、大杯を飲み干すや、大きな声で人を集めろと叫んだ。

●ギルドにて
「その依頼ですか」
 話を振られたギルド係員は、意識して完全に表情を消しているようだった。
「普通の、特に裏はない、捕縛か殺害かの判断は参加した開拓者に任された依頼です」
 小さな街の郊外にある商家が武装集団に乗っ取られているらしい。
 もともとお世辞にも繁盛しているとはいえない商家だったが、少しでも経費を削減するために怪しげな筋から人を雇ったのが運の尽きだった。
 雇った人間が複数の志体持ちを含む一団を招き入れ、商家の主一家や従業員をまとめて始末してしまったのだ。
 表向き、商家は商いを縮小させ、現在ではほぼ休眠状態ということになっている。
 実際は、広範囲で活動中の蝮党という強盗団に属する集団の、襲撃時の拠点兼戦利品を収容するための倉庫だ。
「表から派手に突入して武装勢力を排除するという依頼です。裏から入り込む者達については詮索無用。そういう内容です」
 係員は、それ以上語る気はないと態度で示していた。


■参加者一覧
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
空(ia1704
33歳・男・砂
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
辟田 脩次朗(ia2472
15歳・男・志
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
九条・亮(ib3142
16歳・女・泰
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
マハ シャンク(ib6351
10歳・女・泰


■リプレイ本文

●寂れた通り
「もう少し胸の部分が大きいのは無い? 腰回りももう少し細いのが良いのだけど」
「申し訳ありません。その柄ですとそれ以上のものは‥‥」
 小さな呉服服の主人が申し訳なさそうに頭を下げる。
 店内には少々寂れた雰囲気があるが、商品の管理はしっかりしているらしく品質に不満はない。
 客である九条・亮 (ib3142)の体型が、ボンッ、キュ、ボン過ぎるだけである。
「ごめんね。時間だけとらせちゃったみたいで」
「いえいえこちらこそご期待に添えず誠に申し訳なく。またのご来店を心よりお待ちしております」
 亮は店主に見送られながら店を出て、頭と視線の向きを一切変えず、通りをはさんで斜め前にある店を確認する。
 昼間だというのに閉め切られているため、内部は全く伺えない。
 戸の周辺には足跡などの人が出入りした跡があるが、廃屋と表現しても差し支えないほど荒れている。
「どうしようっかなー」
 亮は通りをゆっくりと歩きながらつぶやく。
 視界の隅をシジミチョウの形をした物が横切っていくが、全く気づかないふりをして歩みを進める。
 蝶が廃屋じみた商家の2階にある破れ窓に消えてから数十秒後、内部から微かではあるが物音が聞こえてきた。
「ごめんっ、気づかれたかも」
 カンタータ(ia0489)が物陰から顔を出し、辛うじて亮が聞き取れる大きさの大きさで現状を報告する。
 先程の蝶はカンタータの式であり、賊が潜む建物に潜り込んで偵察を行っていた。
 式は小さいため見つかりづらく、蝶の形をしているため低級のアヤカシであれば正体に気づくこともできなかっただろうが、建物の中にいるのは志体持ちを含む犯罪者集団である。
 不自然な動きをする物が拠点に紛れ込んで来たら、念のため潰す程度のことは当然行う。
「下っ端が不審に思って棒で突いただけだからまだ気づかれていないかもしれないけど」
 口では希望的観測を述べているものの、カンタータは重武装のメグレズ・ファウンテン(ia9696)と恐るべき身体能力を誇るルオウ(ia2445)と共に賊の棲家に近づいていく。
「安全第一ってな、行くぜ!」
 ルオウが業ではなく純粋な身体能力による4連撃で戸板を破壊し、メグレズが装備の重量を込めた蹴りで隣の戸板を叩き折りながら内部に蹴り込むと同時に、カンタータが呼子笛を吹き鳴らし甲高い音が響き渡るのだった。

●急襲
 マハ・シャンク (ib6351)は戸板が破壊されると同時に瞬脚を発動させていた。
 風が入らないため極度に蒸し暑く薄暗い室内に侵入すると、上半身裸の男達がサイコロ賭博に興じる姿が視界に入ってくる。
「へ、あ、はぁっ?」
 しかし今は突然乱入してきたマハを前にして動きが止まっていた。
 厳重に封鎖されていた入り口がどうして一瞬で破壊されたのか、獲物に対する目を向けてくる目の前の少女はいったい何者なのか、そもそも目の前の光景は現実なのか、全く分からなくなってしまったのだ。
「アヤカシの方が手応えがあるな」
 マハはため息じみた息をつきながら、惚けたまま床に座り込んでいた男の顎を掌底で突き上げる。
 宙を舞う男を気にもせずに斜め横に移動し、得物を探すためなのか見当違いの方向へ手を伸ばそうとしていた男の肘関節を逆側から軽く叩いて粉砕する。
「二階に動きがあるよ。カンタータの予想通りに多分退却中!」
 マハの次に瞬脚で中に飛び込んだ亮は、魔の前にいた男の足を払って転ばせ、気絶以上即死未満になるよう力を調節した上で、その腹に蹴りを叩き込んでいた。
「力が抜けた人間を斬るのも良い経験です」
 マハ達にわずかに遅れて中に踏み込んだ辟田脩次朗 (ia2472)が、絶妙な位置とりを行いつつ横になぎ払う形の一撃を繰り出す。
 入り口に背を向けていた男は首をまわして背後を確認しようとしていたのだが、黒い刀身を持つ名刀により、まるで枯れ木かなにかのように首を飛ばされていた。
 驚愕に目と鼻が見開かれた頭部が床の上を転がり、あぐらを組んだま混乱中の賊の足にぶつかり、止まる。
「とはいえそれは1人で十分。2人目からは真正面から斬りたいのですが、ねぇ」
 剣を一振りして血と油を刃から飛ばし、脩次朗は仲間の首の前で呆然とする賊の正面に立つ。
「さぁ剣をとって。でないと斬り殺してしまいますよ」
「あ、あぁっ、ああっ!」
 恐怖で半ば錯乱しながら、震える手で腰から短刀を引き抜き、生き残りのわずかな可能性にかけて目の前の脅威に立ち向かう。
 起き上がりながら放った突きは、生への執念が呼び寄せた奇跡としか言いようのない、彼の人生の中で最高の一撃であった。
 そして、それは最期の一撃となった。
「惜しい。若い頃から修練を積んでいれば良い使い手になったかもしれませんね」
 剃刀のように薄い刃が賊の手首を切り落とす。
 床に落ちた短刀が乾いた音を立て、血まみれの手が不気味な水音と共に床にぶつかるが、脩次朗は曖昧な微笑みを崩しもしない。
「やはり剣の技の研鑽は人相手が一番ですね」
 脩次朗は刃を通して感じた皮膚と脂と肉と筋と骨の感触を思い返しながら、痛みのあまり気絶すらできない賊の腋下から刃を差し入れ、楽にしてやる。
「道をつくります」
 カンタータが発動させた結界呪符により、部屋の中央に道をつくるようにして2つの白い壁が現れる。
 幅50センチの壁2つに挟まれた空間を、同じ開拓者から見ても目を疑うような速度でルオウか駆け抜け、建物の奥へと侵入していく。
「手加減できませんので、貴方がたの頑丈さに期待してます」
 入り口で立ち止まり咆哮を放っていたメグレズが、皮肉の混じらぬ真剣な声色で通告する。
 メグレズの体からは、ろくに修練を積んでいない賊でもはっきりと分かるほど剣呑な剣気が感じられる。
 剣気に当てられた賊はまともに得物を振ることさえできなくなっているが、咆哮の効果に囚われているため逃げることができない。
 メグレズには身動きする必要すらなく、ただベイル「翼竜鱗」を構えて賊達の攻撃を受け止めている。盾に短刀や鉈が当たるたびに翼竜鱗が障壁を発生させ受け止めているが、おそらく障壁抜きでも傷ひとつ付かなかっただろう。
「賊の討伐中です。この建物には近づかないで下さい!」
 メグレズの背後でカンタータが大きな声を出す。殺気や血臭を判別できない平和ボケした者達が、よりにもよって見物しに集まってきているのだ。
「ストレスがたまるわね」
 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)も攻撃の手をとめて形の良い眉を寄せる。
 既に3人上半身と下半身を泣き別れさせているのだが、あまりに簡単すぎて苛ついてしまう。ただの一撃でオーバーキルになっているので、手応えがなさ過ぎるのだ。
 また、集まってくるのは外の人間だけではない。
 2階から聞こえて着ていた足音が乱れ、そのうちのいくつかがこちらに近づいてくる。。
「くっ」
 飛び出してきた賊に黒い刃を振るった脩次朗は、己の口元をわずかに歪めていた。
「志体持ちともやりたかったのですがね」
 メグレズが放った咆哮に囚われてしまった賊が、身の丈近くある鉄棒を振りかぶりながら一直線に突進していく。
 数は3人。
 その進行方向にいるのは言うまでもなくメグレズだ。
 脩次朗により脇腹に深い傷が付いても、斬りつけても、マハにより利き腕ごと鉄棒を破壊されても、ただひたすらに前進を続ける。
「味方だと心強すぎる技だよね」
 亮は目の前を通過する志体持ちに膝蹴りをたたき込み、そのまま体重をかけて相手の動きを制御する。
 志体持ちは完全にバランスを崩してその場にうつぶせに転倒し、無防備な背中をさらすことになる。
 亮やマハがその隙を逃すはずもなく、志体持ちは胸と腰を裏側から破壊されてしまう。
「ほぼ片付いてしまったわね」
 辛うじて生き残っていた非志体持ちの賊をアムルリープで全員眠らせ終えてから、リーゼロッテは幼さの残る顔につまらなそうな表情を浮かべる。
 生き残りの敵志体持ちがメグレズに殴りかかっているが、スパイク付きの盾ともう一つの盾を組み合わせたメグレズの守りを崩すことはできず、無防備な背中に亮、マハ、脩次朗が近づきつつある。
 即座に降伏しない限り、無造作に命を摘み取られるだけだろう。
「裏に行きましょうか」
 マハに腕を決められた志体持ちの悲鳴を聞きながら、リーゼロッテは奥へと向かうのであった。

●裏側
 蔵に続く扉を開けた瞬間、志体持ちの首に恐ろしく力が強い腕が巻き付いた。
 気付いたときには分厚い布のような物で鼻と口を押さえられており、声を出すどころか息を吸うことさえできない。
 首に巻き付いた腕により複数の関節を決められているらしく、腰にある得物に手を伸ばそうとしただけで思考が途切れそうになる痛みが襲ってくる。
「悪ィがこの先は地獄行きだ、生きてる奴は通せンな、ッヒヒ」
 空(ia1704)は冷たい無表情を顔に浮かべたまま、声だけで相手を嘲弄する。
 相手は火事場の馬鹿力を発揮して力尽くで抜け出そうとするが、空が己の腕に力を入れると、体を激しく震わせ声にならない絶叫をあげる。
 真正面から戦えば少しは空に対抗できたのかも知れない。しかし全く予期しない場所で、完全に気配を消した空に襲われた結果、恐ろしい程簡単に死命を制せられてしまったのだ。
「へェ‥‥来やがったな」
 空は蔵へと視線を向ける。
 そこには地味な色の着物を着た2人の男が、大型の槌を力任せに蔵へと打ち付けようとしていた。
 男達も空と志体持ちの賊との戦いには当然気付いているが、興味を示さず淡々と槌を振るう。
 宮仕えにしては所作に品がなさ過ぎると同時に動きが実践的すぎ、賊にしては欲望が制御されすぎている。
 男達は全く反応を見せず、短時間で蔵に大穴を開けて中から金目の物だけを選んで背負い始める。
「くそっ、くそっ! なんでこんな化け物がここに来るんだよぉ!」
 平静さを失った足音が響き、全身が汗と埃にまみれた賊が建物の中から転がり出てくる。
 空は己の手の内にある賊を始末してから対処しようかとも思ったが、近づいてくる新たな気配を感じ手を出さないことにした。
「へんっ! あんたの相手はこの俺だ! とっとと降伏しちまった方が身のためだぜぃ?」
 嬲るでもなく誇るでもなく、ルオウは闘志のみを感じさせる笑みを浮かべている。
 空に捕まった賊とは違い、メグレズの咆哮を実力で打ち破ったこの男は、その実力故に目の前の開拓者の力を理解できてしまう。逃げ切れないと悟り、真っ青な顔でルオウに向き直る。
「うわぁあああっ!」
 他の賊とは一線を画す動きでルオウに対し槍を突き出す。
「参ったな。確実に殺さず勝てる程度の力じゃない」
 ルオウは加賀清光を抜き放ち、一呼吸のうちに複数の斬撃を繰り出す。
 男は全身から血を流しながら、己との間に絶望的な力の差があるルオウに抗しようとする。それは意地から来る行動ではなく、絶望と恐怖にあおられた結果であった。
「おっ‥‥と」
 しかし男の体から急に力が抜け、槍を取り落としその場に倒れ込む。
「私が先に口をつけたなら最期までいただいたのだけど」
 リーゼロッテが裏口から姿を見せる。
「助かった」
 アムルリープで敵を眠らせたことをリーゼロッテに対し感謝するルオウだが、彼女はあまり楽しそうではなかった。
「いいわねぇ、今度私もやってみたいわこういうの」
 可憐な笑みを浮かべ、冷たい視線を蔵から略奪品を運び出す男達に向けていた。
「そう言えば、邪魔をしなければ良いのよね」
 リーゼロッテの視線が、空の手の内にある志体持ちから空へ、空から男達へと向けられる。
 それだけで事情を察したのか、空は人が悪い笑みを口元に浮かべ、志体持ちは己の運命を悟った絶望の表情を浮かべ、責任者らしき男は渋々ながら許容と同意のうなずきを返す。
「逃げれるなら逃げても構わねェぞ」
 空が手元の志体持ちを解放すると、賊は顔を真っ青にしながら逃走しようとする。
 その進路は、略奪品を運び出す男達の進路とたまたま重なっていた。
 宝珠式銃の銃声が2回響く。
 最期に残った賊は眉間と左胸を撃ち抜かれ、前転するようにしてその場に倒れ込む。遺体はかなり損壊しており、撃った者の装備と技量がかなりのものであることを示していた。
 撃った男は腰に銃を戻してから、開拓者達に小さく頭を下げてから略奪品を運んでいくのだった。

 捕獲された賊は付近一帯を有する貴族に引き渡され、その全てが即日処刑されるか、確実に短期間で死亡する強制労働を科されたという話である。