【城】飛空船大安売り?
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/14 01:47



■オープニング本文

●鎮西村
 使者がナーマ連合最西のオアシスにたどり着く。
「助けてください!」
 オアシスに駐留するナーマの部隊が動くことはほとんどない。
 今回も、使者は肩を落としてアヤカシの襲撃で疲弊した小村へ帰って行った。
「多くても小鬼数体です。我々の力があれば」
 勝ち戦に慣れた民兵が景気の良い意見を表明し。
「連中、宮殿に直訴するつもりかもしれませんよ」
 敢闘精神に欠ける指揮を暗に批判するジンもいる。
「待機だ。勝手に動くことは揺るさん」
 松葉杖をついた指揮官が断言する。
 その姿は現場の指揮権を悪用しているようにも見えた。

●ナーマ宮殿
「あるじ様のあるじ様、西の隊長からの報告書です」
「御苦労様」
 ナーマ連合の長であり1都市の所有者であるからくりが、側付きから手紙を受け取り目を通す。
 駐留部隊を増強するつもりの彼女に対する諫言だ。
 ナーマの全軍をぶつけてもアヤカシの主力には勝てない。駐留部隊が健在なのはアヤカシがわざと生かしているだけだという主張で、公開すれば都市運営に重大な悪影響がでかねない内容だった。
 気を遣わせてしまったことに気づき、領主は顔には出さずに反省する。
「宝珠の氏族は」
 宝珠が専門の天儀の氏族からの出向者についてたずねる。
「飛空船に使いたい様子です」
 ナーマが金と大型低品質宝珠を出すならそれを核にした飛行船を新造してくれるらしい。
 ただし、積載量か速度が標準より劣悪な性能になる可能性が高い。そうならなければどちらも劣悪な性能になる。
「運に自信はありますか」
「あるじ様と職場の分で使い切っている気がします」
「私も同じです」
 からくり達は無言で笑いあう。
「新造を依頼するなら人間の使用を考えない、水と食料の分の積載量を削った船にするつもりです。細部の仕様は実際に乗り込む者を集めて決めなさい。…開拓者の協力を仰いでもよいですよ」
 今のところ城塞都市ナーマは正常に運営されている。

●依頼票
 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助
 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任される


●城塞都市ナーマの概要
 人口:良 移民の受け容れ余地中。都市滞在中の観光客を除くと普
 環境:普 水豊富。下水処理場に屋根がつき処理能力に少しだけ余裕が出来ました
 治安:普 厳正な法と賄賂の通用しない警備隊が正常に機能中
 防衛:良 強固な大規模城壁有り
 戦力:普 ジン隊が城壁内に常駐。防衛戦闘では都市内の全民兵が短時間で配置につきます
 農業:良 都市内開墾進行中。麦、甜菜が主。二毛作。牧畜有
 収入:優 周辺地域との交易は皆無。遠方との取引が主。ナーマ連合内での取引が増大中。鉱山再度閉鎖中。麦を中規模輸出中。氷砂糖を小規模輸出中。観光業有
 評判:良 好評価:人類領域の奪還者。地域内覇権に最も近い勢力 悪評:伝統を軽視する者
 資金:優 定期収入−都市維持費=++。前回実行計画による変化無し 現在+++++++++++++++
 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。1つ以上の項目が滅で都市が滅亡

●都市内情勢
ナーマは直径数十キロに達するほぼ円形の砂漠地帯の中央付近にあります
外壁は直径1キロメートルを越えており、内部に水源、風車、各種建造物があります
妊婦と新生児の割合高めのまま。観光客多め

●領内アヤカシ出没地
都市地下 風車と水車で回す送風設備(地上)、水源を貫通するトンネルとホール(防御施設と空気穴有)それぞれ複数、トンネル、地下遺跡(宝珠有、空気穴有、瘴気濃度低)、地下遺跡探索中箇所(空気穴有り、瘴気濃度極低)、瘴気だまり跡(空洞・瘴気濃度低)、よく分からない通路(不明)の順に続いています
鉱山 ナーマの数キロ西。地表、横に向かう洞窟、地下へ続く垂直大穴、鉱山、未探査箇所(西向き洞窟、奥に空洞がある急流)と東向き洞窟(低酸素小規模崩落)の順

●西方地図
未無無草草草C草砂
未無無草D草草草砂
無無無草草草草草砂
無無無A草草E草砂
無無無草草F草草砂
未無無草草草草草砂
未無無草草草草B砂

無 無人の不毛地帯
未 おそらく無人の不毛地帯
草 草のまばらな草原。集落無し
砂 砂漠と草地の境の土地
A オアシス。ナーマの兵が駐留中。土嚢による小規模防壁有り。通称鎮西村
F 放棄された小村。小さな水場有り
上が北、右が東。1文字は縦横数キロ
地図より西は無人地帯で、詳しい情報は未判明。アヤカシの大部隊が潜んでいる可能性が高いです

●現在交渉可能勢力
西方小部族(B ナーマ傘下。遊牧民。経済力良好。戦時体制
西方零細部族部族(C〜D ナーマ傘下。とても好意的。防衛力微弱。水場有り。ジン無し。銃で武装(未習熟)。集落周辺のみ実効支配。D〜Fが人手不足。Dの疲弊が深刻
王宮 援助等を要請するとナーマの威信が低下し評価が下がります
域外定住民系大商家 継続的な取引有
域外古参勢力 友好的。宗教関係者が多くを占める小規模な勢力群。留学生関連で予想以上の利益を得たため、何らかの形でナーマへ恩を返したがっています
ナーマ周辺零細部族群(東境界線付近の小オアシスは除く) ナーマ傘下。好意的。ナーマへ出稼ぎを多数派遣中
定住民連合勢力 ナーマ東隣小都市を中心とした連合体。ナーマと敵対的中立。対アヤカシ戦遂行中。防諜有。同意無しの進軍は侵略とみなされます
その他の零細部族 ナーマの南隣と北隣に多数存在。基本的に定住民連合勢力より

●都市内組織
官僚団 内政1名。情報1名。他7名。事務員有。医者1名
職場研修中 医者候補4名、官僚見習い21名
教育中 留学生30名(10代前半・午前・高度)、ナーマ民70名(20代中心・夜間・初歩的)
教育機関 からくり10名(教師
情報機関 情報機関協力員35名 必死に増員中
警備隊 220名。都市内治安維持を担当。11名が西方に駐留中
ジン隊 初心者より少し上の開拓者相当のジン7名。対アヤカシ戦特化。2名が西方に駐留中
からくり隊 10名。初依頼開拓者級。影武者任務可。演技力極低。主に地下遺跡でのアヤカシ退治と宝珠採掘を担当
アーマー隊 ジン3名。うち1人は臨時。現在非戦闘中心。練度伸び悩み
農業技術者集団 学者級の能力のある者を含む3家族。農業指導から品種改良まで担当
職人集団 地方都市にしては高熟練度。技術の高い者ほど需要高
現場監督団 職人集団と一部重複
領主側付 同型からくり12体。見た目良好。側付兼官僚見習兼軍人見習。1人が外交官の任についています。交易路防衛も担当
守備隊(民兵隊) 常勤は負傷で引退したジン数名のみ。城壁での防戦の訓練のみを受けた350名の銃兵を招集可。損害発生時収入低下。新規隊員候補180名。50名が西方に駐留中
西志願兵 西方諸部族出身。部族から放り出された者達。士気やや低。ナーマ民兵相当の能力有。18名。現在Aにいます

●保管中
大型低品質宝珠。帯に短し襷に長し


■参加者一覧
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
此花 咲(ia9853
16歳・女・志
ハッド(ib0295
17歳・男・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
将門(ib1770
25歳・男・サ
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
エラト(ib5623
17歳・女・吟
水芭(ic1046
14歳・女・志


■リプレイ本文

●アマルのきもち
「人手不足で赤子を主に含める場合、からくりが犯した罪を命令を出せない赤子も負うのは不条理ですので」
 朽葉・生(ib2229)は玉座のからくりから玲璃(ia1114)に視線を移動させる。
「行うのでしたら法令をお出しになるアマル様か、からくり教育者の玲璃さんが責任を負う形は如何ですか?」
 領主は長考を開始し、玲璃が生に続いて発言する。
「もしそのからくりが死罪に値する犯罪を犯した場合、赤子にも死罪を命じ命を奪いご家族から恨まれる御覚悟はございますか」
「当然です」
 アマル・ナーマ・スレイダン(iz0282)は自然体で肯定する。
 領主として内外から悪意も向けられのは当然と、頭だけでなく心で理解しているようだった。
 重苦しい空気が立ちこめる会議室で、アレーナ・オレアリス(ib0405)だけが何かに気づいている。
「戦力増強の面からジン隊に各人一人のからくりを起動させることを提案する」
 将門(ib1770)が、守備隊に属する志体の同意書と彼等の手による訓練および運用計画書を提出する。
 領主は高速で目を通す。数カ所に改善指示を書き込んでから側付に渡し、準備が整い次第実行するよう手配した。
 この日の深夜。
 ようやく仕事を終えたアマルは寝台に潜り込みシーツをかぶって蓑虫になる。
 いつもなら嬉々としてアレーナに甘えるのにだ。
「悩みや苦しいことがあるなら母さんに話してごらんなさい」
 赤子とからくりをそれぞれのバディにするのは、アマルなりに考え抜いた計画であるとは思う。
 でもアマルは何かを隠している。
 機密だから話せないのでも立場上話せないのでもなく、単に言いそびれて時間がたつにつれてもっと言い出しにくくなってしまった何かを、隠しているとアレーナは確信していた。
「アマル」
 みのむしからくりがびくりと震え、おそるおそる顔を出してアレーナを見上げた。
「怒らないから言ってみなさい」
 本心では言いたがっていることを言わせてあげるため、アレーナはあえて怒ってみせるのだった。
 翌日。領主執務室。
「教育を自ら受けている者達を新規からくりの主候補として扱う。忠誠、人柄、能力に関する調査と選別には時間がかかるが赤子を使うよりは早期に戦力化可能なはずだ」
 将門の言葉に玉座のアマルが悠然とうなずく。ただし、内心の動揺が少しだけ目に現れている。
「次は守備隊が起動させない3人に関してだ。これは領主直属とする」
 ある官僚は無言のまま眉を動かし、またある官僚は驚愕で大声をだしかけて咳払いしてごまかす。単にアマルの下につけるという意味ではない。ナーマで初めて、からくりがからくりを目覚めさせることになる。
「運用結果次第で第五期以降の計画を変更する」
 怒りを気合いで押し殺し、将門は淡々と会議を進める。
 何故怒っているかというと、アマルがからくりを起動できるのを隠して赤子の件を進めていたからだ。
 人外が人外を増やすのは対外的に不利になるかもしれないとか、無条件に絶対服従する部下がいたら堕落しない自信が無いと色々な理由をあげて弁解していたし事実ではあるのだろうが、要は自分の趣味を優先して危険の大きな計画を進めていたのだ。
「それで構わんな?」
 反対は出ず、この日のうちに10人のからくりがナーマに加わった。

●城壁外大工事
 熟練作業員が猛烈な勢いで沙漠に穴を掘っていく。
 水で固めたり資材で固定したりはしているが、短時間で崩れて元に戻るはずの穴だ。
 しかしそこに生がいることで全く異なる展開がうまれる。
 外見は全く何の特長もない石壁が唐突に穴の中に現れる。
 石壁は一つではない。
 既に設置されていた石壁にほとんど接続する形で現れて、穴の中に確固とした空間を作り出す。
「せー、のっ」
 作業員が資材を抜く。
 巨大な重量を持つ砂が石壁に正面からぶつかり停止する。
 高位魔術師である生によって作り出された壁は、同サイズの鉄板を上回る強度と鉄とは異なり錆びないという特性を持っている。
「次は」
「少しだけ待ってください。アレーナ様の作業が終了次第」
 生に答える現場監督の声が聞き取りづらい。
 人狼のドリルが岩を砕く音が大きすぎて、ほとんど聞こえないのだ。
 城壁近くの沙漠に埋もれた岩は大量だ。小は抱えることが可能な物から、大はアレーナの機体でも運搬は難しい物まである。
「錐ではなく大槌が必要ですね」
 今回はララド=メ・デリタの出番はないようだ。その代わりストーンウォールの出番はありすぎて困るほどある。
 豆を噛み砕いて斑から受け取った水で流し込む。
 急速に体内の練力が回復していく。
 今日だけで何個目になるか分からないほど節分豆を服用して、今は少し気分が悪かった。
「雲が出ているぞー!」
 ドリルの音に負けない音量での報告が聞こえてきた。
 見上げると、目を焼く陽光と濃い雲が浮かんだ青空が生の瞳に映り込む。
「しばらくは中の処理施設に籠もりきりですね」
 数時間後には雨が降り出して工事は中断され、生は城壁の内側、真新しい屋根の下で術を使った汚水処理に従事することになった。

●アーマー隊
「そのまま使う練力を一定に保つのじゃ」
 ハッド(ib0295)は根気強く遠雷に語りかける。
 大型資材を抱えた、今では旧式になりつつある駆鎧が奇妙な動きをしている。
 運搬作業というには無駄が有り過ぎ、踊りというには華が無さ過ぎる中途半端な動きは、アーマーに使う練力を少しでも抑えるための涙ぐましい努力の結果だ。
「水に浮いて気を感じるトレーニングを思い出して」
 ハッドと同じくアーマー隊の訓練に関わっているアレーナが声をかける。
 遠雷の動きはますます奇妙になり、重量物が腕から抜けて地面に落ちる。
「後3、2、1…」
 数えるハッドの額にうっすらと汗が浮かぶ。
「0」
 練力消費を抑える術がなければ練力が尽きるはずの時刻を過ぎても、遠雷はなんとか動き続けていた。
「うむ」
「やりましたね」
 騎士2人がそれぞれのやりかたで安堵の感情を吐き出す。
 ようやく、アーマー乗りとしての騎士が1人誕生した。
「後2人いるがな」
「ええ」
 安堵とは異なるためいきが2つ。
 騎士が駆る遠雷の後方数十メートルの地点に、2機の遠雷が練力切れで停止していた。

●からくり達の今
 ナーマ初のからくり。初代領主によって多くの知識と技術を詰め込まれて精神的に不安定になり、後に開拓者の手により回復する。
 一期生。12人の同型からくり。開拓者とナーマ官僚による教育を受けた。
 二期生。10人。ナーマが有する知識全ての教授可能になることを目指す教育を受けた。
 三期生。10人。二期生以前とは異なり一般的な教育と戦闘訓練のみを受ける。
「立派になりました」
 ナーマの選良であるからくり達が、玲璃のすごいもふらさまに抱きついたり遊ばれたり世話をしたりしてくつろいでいる。
「ええ」
 アマルは長女らしくもふらさまに飛びつきたいのを我慢している。
「教材はどうします?」
 4期生にあたる10人のための教材をつくりながら玲璃がたずねると、領主は長い時間考え込んだ末に言った。
「ジン隊の7人は三期生に準じた教育を受ける予定です。あの子達は、宮殿内の仕事をしてもらって適性があったときは現場に…」
 今でなく先のことを考えすぎていることに気付き、アマルは咳払いをする真似をしてから話を元に戻す。
「三期生のときの教材をもとにつくってください」
「分かりました」
 なお、二期生から上に対してつくれる教材はない。
 皆第一線で活動していて、学術書を読み解いて現場で活かせるのだから。
「三期生はこのままで?」
「地下遺跡は暗くて圧迫感があって緊張を強いられるのでしょう? 私はこれ以上仕事を増やさなくてもよいと考えています」
 三期生が自発的に学ぶのも玲璃達開拓者が教えるのも止めるつもりはないと言い残し、一度だけ恩に切ない視線を向けてから末妹の面倒を見に宮殿の奥へ戻っていった。

●西の難題
 西の小部族群に向かわせる労働力を雇おうとしたカンタータ(ia0489)への対応は冷たかった。
「命令でないのなら拒否します」
 ナーマ参加の遊牧民の長はそれだけ言って硬い表情で口を閉じる。
 カンタータは報酬の増額を提案しようと考え、ふと思い直して視線を長の横に移動させた。
「うむ…」
 前族長、現平のジンが難しい顔をしていた。
 エラト(ib5623)によるとこの男はとにかく現実的であり、自らが属する部族とナーマの力の差を、おそらくアマル以上に理解しているはずだ。
 部族の存続が脅かされない限り屈辱的な要求でも即座に受け入れたいと思うはずだった。
 それが悩んでいるということは…。
「西の情勢は危険とお考えですか」
 相手の面子を必要以上に傷つけないよう注意して問いを投げかける。
「アヤカシで全滅する可能性が高い場所に部族の者を行かせるつもりはありません」
 長は経験が足りなかった。
 最後まで隠し通すべき本音を言ってしまう。言った直後に気づいて後悔するが遅い。
「興味深い意見ですね」
 これ以上押してもこの場では利益を得られないと判断して、カンタータは族長の許可を得て退出した。
 炎龍に乗り北西へ向かう。
 遊牧民の拠点から十分離れたところで、今回得られたものを確認する。
「西部が壊滅すると思っている割にナーマから離れるつもりはない。配下にはいつでも移動できるよう荷造りを命じている」
 ナーマはアヤカシの大軍を城塞都市まで誘き寄せて戦うつもりだと推測しているのだろう。
「参りましたね」
 戦力が足りない。
 鎮西村に20人以上の避難民が到着し、他の村にもそれ以上の避難民が辿り着いているらしいのだ。防衛にも避難誘導にも人手と戦力が必要で、現状の戦力では全く足りない。
 鎮西村の他の村の状況がはっきりとは分からないのには理由がある。
 ギルドを介して開拓者に依頼を出し権力を貸しているアマルが支配しているのは城塞都市とその周辺のみ。他の地域はナーマに従ってはいるだけで傘下部族に対する絶対的な権力はナーマには無いのだ。

●援助
 抵抗すら難しいアヤカシの大軍。
 自衛を優先して滅多に助けに来ないナーマ駐留部隊。
 過酷な環境に疲弊する西の小村は、訪れたエラトを熱烈に歓迎した。
「ナーマは西部族の要請に応える」
 エラトの言葉は術では癒しようのない人々の心を勇気づけ、彼等がナーマを離反しないよう縛る鎖となった。
 カンタータが手配した食料が運び込まれる。
 人手が足りず生産力も落ちている状況で非常に助かる物資だ。ただし人手が足りない現状に変化はない。前回開拓者が癒した後に傷を負った者は多くは無く、前回でも癒しきれなかった者は今回も治せない。回復可能な者でも時間が必要で、中にはもう回復不能な傷を負った者までいる。
 エラトは懐中時計「ド・マリニー」の表面を確認する。
 相変わらず表示に変化はない。
 カンタータが手配した半鐘の音も相変わらず聞こえて来ない。
 エラトがいるときは村人が気づくよりも早くエラトが動くし、遠くで襲われたときは風で聞こえなかったり距離によっては風の具合がよくても聞こえないことがあるからだ。
 アヤカシの襲撃頻度は相変わらず1日1回1体程度で小鬼ばかり。
 今も上空の空龍が敵の接近に気づいて降下して、エラトを背中に乗せてから瞬く間に距離を詰める。
 全く訓練の受けていない小鬼の動きは雑そのもの。エラトや騎龍にとっては遠くからでもはっきりわかる的以下の存在だ。
 リュートを奏でて曲を小鬼に届ける。小鬼が音を認識するより、小鬼を構成していた瘴気が微塵に砕かれて拡散する方が圧倒的に早かった。
 松明を持ち込んで夜まで警戒を行った結果、村人達は安堵して肉体的精神的疲労が回復する。ただし戦果は小鬼数体で、西の村々にかかりきりのエラトはそれ以外のことは何もできなかった。

●遺跡調査
 暗闇の中で足音だけが聞こえていた。
 数秒まで地下道を照らしていたカンテラは、滑らかな地面に転がり機能を停止している。
 上にあるのは巨大重量を支える岩盤。背後に微かに見るのは地下遺跡にある宝珠の灯りで、光が弱すぎるため圧迫感を増す役割しか果たしていない。
 同行中のからくり3期生が緊張で体を震わせる状況で、かえるさんの人形が身の丈の数倍はある魔獣を振るった。
 無機質な灰色の光球がうまれる。
 光は、かえるさん人形を動かしていたケロリーナ(ib2037)と、彼女を守るからくり達と、冒険小説に登場しそうな吸血鬼を照らし出した。
「コノ程度デッ!」
 灰色の光が消えていき、上半身を大きく削られた吸血鬼が呪詛を吐く。
 口から凶悪な牙が伸び、ケロリーナの艶めかしく白い首めがけて飛びかかる。
 十数歩の距離があっという間に息のかかる距離まで詰まる。
「お嬢様!」
 凛とした女性の声と、床を蹴る硬質な音が同時に響く。
 ケロリーナを庇って吸血鬼を受け止めたのは金龍鱗で身を固めた女騎士。
 コレットの名を持つからくりは吸血鬼に左手を噛みつかせたまま、黄金に輝く細身の剣で不健康な喉を砕いて止めを刺した。
「きゃーっ!」
「かっこいー!」
 ナーマ三期生から黄色い悲鳴があがり、コレットは騎士らしい真面目な顔でケロリーナの護衛に戻る。再び灯が灯ったカンテラで照らされた顔は、少しだけ赤くなっていた。

●地下にあるもの
 人狼型アーマーてつくず弐号がトンネルから出てくる。
 続くのはアーマーにあわせた大きさのソリだ。
 積まれているのは宝珠。地下遺跡でアヤカシを倒したときに生じることがあるもので、これだけ売れば開拓者を引退しても一生食うに困らないどころか、一生では使い切れない額になるかもしれない。
「待たせたの」
 ソリをナーマからくりに任せてハッドがアーマーから降りてくる。
「地図はこれとこれじゃ」
 地下遺跡部分の担当はハッド。奥の通路の担当はケロリーナだ。
「ありがとうございます」
「うむ。1人だけなら半日ほど持つはずじゃ」
 水芭(ic1046)に地図を渡し地下の酸素の状況を伝えてから、ハッドは再びアーマーに乗り込み宮殿へ戻っていく。
 彼についていく三期生達の中には、相棒からくりではありえない鋭い動きをする者が混じっている。ただ、鋭さと性格の雑さは両立するようで、鋭くても周囲に向ける注意が足りない覚醒からくりもいるようだった。
「こちらが前回までに作成された地図です」
 領主側付きが水芭の前に別の地図を広げる。
 その内容を目で覚えてからハッドに渡された地図に目を向ける。
 地下遺跡部分には変化がない。
 昨日ケロリーナによって新たに書き足された通路部分には、瘴気の濃度が低くおそらく遺跡ではないという内容のコメントがついていた。
 安全第一で調査したため書き足された部分は小さい。だが遺跡でないと分かったのは大きい。
「埋め立てるか調査を継続するか…どちらになると思う?」
 問われた領主側付達は顔を見合わせた。
「アマル様は直接関わっている開拓者の方の判断をそのまま受け入れると思います」
「直接関わる方がいなくなったら埋め立てを指示されると思います。宝珠がとれる地下遺跡とは違って普通の洞窟は整備にお金がかかるのに儲けが出ないですから」
 水芭はなるほどとうなずいて、開拓者を除けばナーマ最大戦力の2人を引き連れ地下へと続くトンネルに踏み込んだ。
 アーマーが乗り入れ可能な空間はかなり広い。
 松明を頼りに降りていき、踊り場を数回抜けて降り続けると床が平坦になる。
 そこから少し進むと地下遺跡に到着だ。
 一定の間隔で小さく響いてくるのは、地上の換気口で稼働中の風車の音だろう。
 天井や壁に埋まっている宝珠の灯りがあるが光は強くない。
 松明に火をともして至近距離で調べてみると、弾痕や棒で打った痕跡がいくつも見つかった。
「ねえこれ」
「あの子達の武器ね」
 どうやら三期生達が外した攻撃が壁や一部天井を傷つけているようだ。
 補修は側付達に任せ、水芭は漏れのない徹底的な調査を開始した。
 閉ざされた薄暗い環境で変化の乏しい場所を調べるのは非常に疲れる。さらにアヤカシまで襲ってくるので職場としては最低級だ。
「退路の確保をお願い」
 物音に気付いて調査を中断して駆け出す。
 物音の聞こえた方向に意識を集中すると、壁にへばりつくようにして1つ、天井にめり込むようにして2つの気配があった。
「地下奥深くの探検、何が出るか楽しみだね」
 消耗していても軽口を叩く余裕が残っているのはさすがだった。
 精霊の力を借りて打刀「氷嵐」に乗せて斜めに振り下ろし、上に向かって切りつける。
 子供のあたまほどの大きさの蜘蛛型アヤカシが両断されて消えていき、1つだけ小さな宝珠が残る。
 生き残りの蜘蛛が天井を蹴って水芭にとびかかろうとする。
 水芭はアヤカシが動くより早く気配を感じ取り、アヤカシの足が天井を離れたときには蜘蛛の進路から一歩退いていた。
 後は非常に簡単だ。
 勢いよく堅い地面にぶつかり悶絶する蜘蛛型アヤカシに、水芭は鮮やかな手並みで止めを刺した。
 水芭が限界まで粘った末、既知の箇所に変化した部分がなかったことが確認された。
 瘴気濃度も地下遺跡としては全く問題ない範囲にある。
 つまりナーマ地下遺跡は、全く何の問題もなく大量の富を生む場所だということだ。

●依頼
「アマル様ー」
「私達魔術師になれまし…げっ」
 精霊力できらきらしながら宮殿中庭に乱入した三期生2人が、礼法教師に見つかって研修室という名のお仕置き部屋に連行されていった。
「短期間での転職が2人。大戦果ですね」
 お茶会中のアマルは穏やかな表情を浮かべている。
「アマルおねえさま」
 ケロリーナは薄い陶製のカップを下ろしてから、小さな少女が背伸びする感じで注意する。
「からくりさんたちは相棒としての力を失ったから新しく身につけることができたのですの。ジンとして長年活動されている方と同じに考えるのは双方にとって失礼ですの」
 諄諄と説く彼女は、出身も中身も高貴な貴婦人に見えた。
「そうですね」
 ケロリーナに比べれば付け焼き刃ではあるが領主として恥ずかしくない動きで、今度は心をこめて頭を下げた。
 そして、奥から近づいてくる将門に気付いて仕事用の顔に切り替える。
「依頼の件ですか」
「アヤカシの勢力が当初予想を上回っている」
 敵戦力を野戦で打ち破るのは現状戦力のみでは困難。
 籠城戦では勝っても被害が甚大と予測できる。
「一時的に募集枠を増やすか傭兵等を雇えるか?」
「可能です」
 アマルは即答する。
 前者は報告書で略される内容が増えるかもしれない。後者は志体を集めるには大量の金か域外勢力への借りをつくることかその両方が必要になる。戦闘力や政治的信頼性で高望みをするなら必要なものは際限なく大きくなり、逆なら小さくなるだろう。
「開拓者を別に集めることは?」
 返答は少しだけ遅れた。
「開拓者ギルドを通した通常の依頼しか出すつもりはありません」
 たちの悪いものが開拓者としてナーマを訪れた場合、ナーマ民の開拓者に対する敬意や信頼が低下して将門達の権力が大幅に制限される可能性がある。
 アマルは言葉を濁しながらそう伝え、上空を飛ぶ滑空艇と龍を見上げて目を細めた。