【城】足下から響く音
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2013/08/21 19:46



■オープニング本文

●領主の日々
 朝方から夕方まで面会の予定で埋まっていた。
 天儀の氏族は地下遺跡の宝珠を求め。
 アル=カマルの都市は小麦を求め。
 大小様々な商家全てが交易路の安全を求めてきた。
 領主が直接応対せざるをえない身分あるいは財力の持ち主が大勢いて、他の仕事の多くの部下に任せるしかなかった。

●破綻の気配
 久しぶりにそろって休暇をとった12体の同型からくり達が、商業部門からの差し入れのワッフルを摘みながら話し込んでいる。
「部門長がフォローに駆り出される件が増えています。今の所業務に目立った問題はありませんが…」
「新規部門立ち上げのため何人が引き抜いたら、拙い?」
 領主側付達は同じ造りの頭にそれぞれ別の困り顔を浮かべている。
「西への対応が遅れがちなのも人手不足が主な原因だよね」
「人手じゃなくて人材でしょ? 教育組織が本格的に立ち上がったから改善されるでしょ」
 彼女たちは目覚めて1年も経っていない。
 官僚としても都市の戦力としても働く彼女達は、誰もが努力すれば同じことができ、できないなら努力が足りないのだと考える傾向があった。
 そんな会話がされている宮殿から数十キロ北で、初老の零細部族長が難しい顔で考え込んでいた。
「入学できなかったのじゃな」
「無茶言うなよ親父」
 休暇でナーマから帰ってきた三男が鼻を鳴らす。
「ナーマは給料高い分要求が厳しいんだ。働きながら貴族並みの学問なんて身につけれる訳ねぇだろ」
 無理をすれば体を壊すか心を病んで解雇になる可能性が高かった。
「連合内で地位を上げる方法、他にないかのう」
「ありゃいいんだけどな」
 親子は同時にため息をつき、ナーマ土産の甘い焼き菓子にかぶりついた。

●上級アヤカシの憂鬱
『被害は1割。ナーマ周辺の兵力ですが、確認できているだけでジン11と一般兵50に止めを刺しました』
 報告をする中級アヤカシの顔色はよくない。
『昨日の時点で私が与えた損害以上の増援が到着しています。…失礼します』
 獣頭の上級アヤカシに促され、中級アヤカシが一礼してから退出した。
『人間がここまで増えているとはな』
 ひとつ息を吐いてから、前回と同規模の兵力をナーマ周辺に派遣するため別の中級アヤカシを呼ぶのだった。

●依頼票
 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助
 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任される


●城塞都市ナーマの概要
 人口:良 移民の受け容れ余地中。観光客増加傾向有。都市滞在中の観光客を除くと普
 環境:普 水豊富。汚水処理能力に余裕無し
 治安:普 厳正な法と賄賂の通用しない警備隊が正常に機能中
 防衛:良 強固な大規模城壁有り
 戦力:普 ジン隊が城壁内に常駐。防衛戦闘では都市内の全民兵が短時間で配置につきます
 農業:良 都市内開墾進行中。麦、甜菜が主。二毛作。牧畜有
 収入:優 周辺地域との交易は低調。遠方との取引が主。鉱山再度閉鎖中。麦を中規模輸出中。氷砂糖を小規模輸出中。観光業有
 評判:良 好評価:人類領域の奪還者。地域内覇権に最も近い勢力 悪評:伝統を軽視する者
 資金:優 定期収入−都市維持費=++。前回と今回実行計画により− 現在+++++++++++
 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。1つ以上の項目が滅で都市が滅亡

●都市内情勢
ナーマは直径数十キロに達するほぼ円形の砂漠地帯の中央付近にあります
外壁は直径1キロメートルを越えており、内部に水源、風車、各種建造物があります
妊婦と新生児の割合高めのまま。観光客(留学生候補を含む)多め

●領内アヤカシ出没地
都市地下 風車と水車で回す送風設備(地上)、水源を貫通するトンネルとホール(防御施設と空気穴有)それぞれ複数、トンネル、地下遺跡(宝珠有、空気穴有・封印済、瘴気濃度極低)、地下遺跡探索中箇所(空気穴有り・封印済み、瘴気濃度低)、瘴気だまり跡(未発見。不明)の順に続いています

鉱山 ナーマの数キロ西。地表、横に向かう洞窟、地下へ続く垂直大穴、鉱山、未探査箇所(西向き洞窟、奥に空洞がある急流)と東向き洞窟(低酸素小規模崩落)の順

●西方地図
無無草草草C草砂
無無草D草草草砂
無無草草草草草砂
無無A草草E草砂
無無草草F草草砂
乙無草草草草草砂
無無草草草草B砂

無 無人の不毛地帯
乙 不毛地帯。アヤカシがいる可能性高め
草 草のまばらな草原。集落無し
砂 砂漠と草地の境の土地
A オアシス。ナーマの兵が駐留中。土嚢による小規模防壁有り
上が北、右が東。1文字は縦横数キロ
地図より西は無人地帯で、詳しい情報は未判明。アヤカシの大部隊が潜んでいる可能性が高いです

●現在交渉可能勢力
西方小部族(B ナーマ傘下。遊牧民。経済力良好。戦時体制
西方零細部族部族(C〜F ナーマ傘下。好意的。防衛力微弱。水場有り。ジン無し。集落周辺のみ実効支配。Dが人不足
王宮 援助等を要請するとナーマの威信が低下し評価が下がります
域外定住民系大商家 継続的な取引有
域外古参勢力 友好的。宗教関係者が多くを占める小規模な勢力群。留学生関連で予想以上の利益を得たため、何らかの形でナーマへ恩を返したがっています
ナーマ周辺零細部族群(東境界線付近の小オアシスは除く) ナーマ傘下。好意的。ナーマへ出稼ぎを多数派遣中
定住民連合勢力 ナーマ東隣小都市を中心とした連合体。ナーマと敵対的中立。対アヤカシ戦遂行中。防諜有。同意無しの進軍は侵略とみなされます
その他の零細部族 ナーマの南隣と北隣に多数存在。基本的に定住民連合勢力より

●都市内組織
官僚団 内政1名。情報1名。他7名。事務員有。医者1名
職場研修中 医者候補4名、官僚見習い21名
教育機関 からくり10名(教師
情報機関 情報機関協力員34名 必死に増員中
警備隊 210名。都市内治安維持を担当。10名が西方に駐留中(増員停止
ジン隊 初心者より少し上の開拓者相当のジン7名。対アヤカシ戦特化。2名が西方に駐留中
からくり隊 10名。初依頼開拓者級。影武者任務可。演技力極低。主に地下遺跡でのアヤカシ退治と宝珠採掘を担当
アーマー隊 ジン2名。現在ほぼ非戦闘専門。練度上昇中
農業技術者集団 学者級の能力のある者を含む3家族。農業指導から品種改良まで担当
職人集団 地方都市にしては高熟練度。技術の高い者ほど需要高
現場監督団 職人集団と一部重複
領主側付 同型からくり12体。見た目良好。側付兼官僚見習兼軍人見習。1人が外交官の任についています。交易路防衛も継続。少し疲労状態
守備隊(民兵隊) 常勤は負傷で引退したジン数名のみ。城壁での防戦の訓練のみを受けた333名の銃兵を招集可。損害発生時収入低下。新規隊員候補170名。50名が西方に駐留中
西志願兵 西方諸部族出身。部族から放り出された者達。士気低。ナーマ民兵相当の能力有。18名。現在ナーマにいます


■参加者一覧
カンタータ(ia0489
16歳・女・陰
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ハッド(ib0295
17歳・男・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
将門(ib1770
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
エラト(ib5623
17歳・女・吟
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文

●闘争の地
 黒い戦馬が地表すれすれを駆ける。
 横に広くて高位霊騎には見えない見かけで実際平均より足が遅い気もするけれど、戦慣れだけはしている。
 城塞都市ナーマから北東数十キロの地点で、篠崎早矢(ic0072)主従は中級アヤカシに追い回されていた。
 身の丈3メートルを超える炎の巨人が目を怒らせ声を張り上げ超高温の火球を投げつけてくる。
「がんばれ!」
 作戦名がんばる。
 脳筋な作戦は、この状況では最適だった。
 長時間走っているのに全く変わらない速度で、最初に比べると速度が遅く狙いも甘くなった火球を引き離す。
 火球は徐々に高度を落として薄く草の生えた地面に接触し直径十数メートルの爆発が発生する。
『何故今ニナッテなーまノじんガ』
 爆風で巻き上げられた煙で何も見えない。
 異様に軽い音をたてて巨人の額に矢が突き刺さった。
 全身痙攣しさせながら防ごうとする巨人の全身に、数秒に1矢という弾幕に近い速度で矢が降り注ぎ9割近く命中する。
「ふう」
 煙が晴れたとき、アヤカシは大地に伏して端から瘴気に戻っていき、早矢は身の丈の倍近い弓を手に荒い息をついていた。遭遇した時点で相手がかなり傷を負っていたのに、元が強すぎるため綱渡りの連続だった。
「何者だ!」
 小さな町を囲む城壁の上から誰何の声が聞こえた。
「ナーマに雇われた開拓者…ええと、天儀に本部があるギルドのあれです」
 指揮官は早矢の顔から夜空の太い足まで何度も目を向け、アヤカシが化けていないことを確認してから安堵のため息をつく。
 手を振って守備隊に弓を下ろさせ、帽子をとって頭を下げる。
「見事な戦いぶりでした」
 境界越えについては見なかったことにするし水と食料の補給はするからこのまま立ち去ってと婉曲な要請がされたため、早矢達は首をときどき傾げながら西へ戻っていった。

●帰路
「高〜い!」
 飛空船の舷側から身を乗り出そうとするからくりを、ロスヴァイセが背後から手を伸ばして制止した。
 仕事はそれだけでは終わらない。
 アレーナ・オレアリス(ib0405)が作成した飛空船マニュアルを熟読したのに乗船の緊張で頭から消えてしまった新人からくり達が甲板の上で右往左往して船がゆっくりと風に流されていく。
 東から戻って来た早矢にも、近くで声をかけられるまで気付けなかった。やる気はあるのに見張りすら満足にこなせない惨状だ。
「不在でした」
 東隣勢力の小村からアレーナが戻って来る。
 一方的に食料を渡すのは侮辱になりかねない。そのため土産として渡せたのは少量だけだ。
 飛空船は時間をかけて方向転換し、下手な操船で揺れながらナーマへ向かった。

●破滅の気配
 1枚の書類が置かれた席でカンタータ(ia0489)が己の眉間を揉んでいた。
 ナーマの各部門が行った青田刈り実体を調べた結果、予想外で悲惨な現実に気づいてしまったのだ。
 城塞都市ナーマに住む10歳から14歳の3割近くが半数近くがスカウトされている。
 彼等が特に有能だった訳ではない。なにしろ採用されてから初めて体系化された教育を受け、中には計算はできても字が読めないものまでいた。
 大量採用した訳ではない。必要だったのは事務員の下の雑用係兼事務員候補で極少数。単純に、スカウト可能なナーマ民の数が少ないだけだ。
 今では金持ちや特殊技能の持ち主くらいしか移民を認めないナーマではあるが、最初は1人の大富豪と極少数の専門家と大勢の食いつめ者で成り立っていた。
 子を持つ余裕も育てる収入もなかった者が大部分だったので、ナーマの子供の割合は他都市と比べて異様に低い。
 ナーマで産まれた乳幼児は大勢いるけれども彼等が労働力になるのは10年以上先のことだ。
「家族が使える人材なら…」
 スカウトされたナーマ民の戸籍の束を手にとり精読していくと顔色がさらに悪くなる。
 ほとんど親がいない。
 生年が分からず自分で生年を決めた旨が書かれた戸籍が数割に達している。
「これは」
 歪すぎる人口分布に教育を受けた民の不足。加速度的に拡大する経済に領域。数年後には破綻してもおかしくないがここで諦める訳にもいかない。
 からくりの教育は全て玲璃(ia1114)に任す。
 カンタータ自身は教師からくりの指揮に専念だ。
 優先度が低い講義は可能な範囲で削って教師を確保し、就業後のナーマ民が学び易い時間帯に基礎的な講座を設置する。
 文字にすればたった1行を実現するため、警備の配置変更、資材の調達、留学生への周知にからくり教師との打ち合わせまで行う必要があり、依頼終了までほとんど寝る時間がなかった。

●潤い
「雨だ」
「雨だ」
 前者は歓喜の声で後者は絶望の声だ。
 急な天からの恵みは畑と牧草地を潤し、汚水の乾燥施設も濡らし、ディミトリの小規模実験場を強制的に終了させた。
 ようやく乾燥が終わったはずの小さな水槽にも水がたまり、ほとんど消えていた臭いが復活して健康に悪い臭気が放たれる。
「守備隊に人手を要請しろ!」
「恨まれますよっ」
「これが逆流したら恨まれるだけではすまん。早くしろ!」
 下水処理班が慌ただしく動いている。
 朽葉・生(ib2229)が西へ発つ前にキュアウォーターで大量処理していなければ、住宅区画や商業区画に汚水が逆流していたかもしれない。
「綺麗な布と水を出入り口に置いてください」
 ナーマの大通りに面した大型施設で、玲璃が慣れた様子で指示を出している。
 普段から掃き清められているとはいってもここは沙漠の中の都市であり、細かな砂が石畳を薄く覆うのは避けられない。そこで雨が降ると当然、泥水がうまれる。
 診療を受けに来たナーマの民に全く悪気はない。しかし雨に濡れた経験がほとんどないため汚れたことに気づかず入ろうとする者もいた。
「もふ」
 すごいもふらさまが器用に白い布巾を投げる。
 靴の泥は落としても濡れた髪と服をそのままに中に入ろうとした妊婦の頭に、ぽすんと可愛らしい音をたてて布巾がのる。
「体を冷やさないように。飲む人の体格を考えて量を調整して」
 医者見習には可能な範囲で仕事を任せ、知識が足りなさそうな様子があれば助言し、処方をしくじりかけたときはフォローする。
 全て玲璃1人が診た方が倍の人数を診ることができるがここは我慢のしどころだ。1人でも医者を増やさなければナーマの医療が崩壊しかねないのだから。
 戦闘並に精神に負担がかかる仕事を数時間続ていた玲璃は、施設の入り口が騒がしくなっているのに気づく。
 その場を見習達に任して廊下を通り入り口へ向かう。
「玲璃様っ、ごくろうさまですっ!」
 いわゆるからくり3期生の1人が、気合いの入った、でも少し間違った敬礼をする。
「お疲れ様です。今日は…」
「はい! 今日は任務がないのでマスターの付き添いでっ」
 声がとても大きい。
 からくりの主らしい、少し腹が大きな女性が周囲の人々に頭を下げ、玲璃に対しては特に深く頭を下げている。礼儀作法が不十分なのを恥じているようだ。
「そちらに座ってください。ああ、そうではなくて」
 主を強い力で引っ張ろうとするからくりを穏やかに止め、女性を柔らかなソファーに座らせる。
 からくりは気を悪くした様子はなく、尊敬と羨望できらきら輝く瞳を玲璃達に向けていた。
「大変でしょうが…」
「この子のおかげで助かっていますから」
 女性は疲れた顔で頭を下げる。
 一時期精神的に死にかけていたアマルやストレス過多だった領主側付達とは異なり、3期生はのびのびと元気に育っているようだ。
 ただ、非常に、雑だ。
「あ、私が運んできます!」
 玲璃が用意させた甘い飲み物に気づきて素早く近づく。
 動きが実戦的過ぎて観葉植物が吹っ飛んだり間近をすり抜けられた男がよろめいたりしているのに、からくりは全く気づいていなかった。

●都市の形
 現実の都市を模した縦横5メートルのミニチュアに、色つきの水が注がれた。
 水は建物から下水道へ流れ込み、城外の人工池に吐き出される。
 池は段差のある三層式のコンクリ製人工池。その最も下に貯まった水は、途中の砂で漉されて透明に近づいていた。
「実験は成功ですな」
「さすがですフレイア様!」
「いよーしっ、久々の巨大計画、燃えてきたぜぇ」
 いい年した男達…全員都市高官が浪漫に燃える少年の目で領主を見上げる。
 上座に座るからくりはちょっとだけ呆れた視線を部下達に向けてから、真摯な態度でフレイア(ib0257)をみつめた。
「予想される問題は?」
「工事中城壁の機能が低下すること。後は」
 これほど大規模な工事を頻繁に行うことはできない。少なくとも10年は改修無しで済むような形にすることが望ましい。
 そうフレイアが告げると、領主は各部門からの陳情内容を脳裏に並べておおよその数字を弾き出す。
「最低限でもこの規模が必要」
 独特の関節を持つ指で、城外の広い範囲を示す。
 男達は今にも歓声をあげそうなほど喜んでいる。対照的に、フレイアと領主の顔色はよくない。
「今週出来る限り穴を掘るとして」
 遠雷型のスワンチカにはかなり無理をさせることになる。
「足ります?」
 フレイアの問いに、領主の表情が一瞬だけ能面のようになる。ナーマのアーマー隊を使えば建設のための労働力はぎりぎりで足りる。
 だが、施設を運用や保守するための人材の手当ては、出来るかどうか分からない。
 それでも今後のことを考えると建設する以外に道はない。
 計画は認められ、フレイアは膨大な練力を活かして都市外に大穴を開けることになる。

●瘴気無き地下
 体格の良い鬼が突進する。
 迎え撃つのは5人のからくり。ではなく、鬼の正面にいる5人と鬼の側面に伏せていた4人のからくりだ。
 装填済みの宝珠式を構えて一斉に引き金を引く。
 複数方向から降り注ぐ弾幕を全て回避することはできず、手足や腹に弾がめり込み鬼が悲鳴をあげる。
 からくり達はためらいなく高価な宝珠式銃を放り出して頑丈な槍を構え、いっせーのと声を合わせて突きだした。
 数の差と富の差を活かした攻勢に、鬼は耐えられなかった。
 レネネトの演奏で極端に瘴気濃度が低下した地下遺跡に、鬼だった瘴気が漂い薄く広がっていった。
「きょうかーん、倒せました―!」
 数人が背後を振り返って手を振り、残る面々は油断無く周囲を警戒している。
「よくやった。倒しすぎて二度とアヤカシが現れずに宝珠がとれなくなったら問題じゃの」
 ハッド(ib0295)が冗談を口にする。
「え」
「そそそそんなっ。奥様2人目妊娠してるしまだ稼がないといけないのにっ」
 ハッドが手塩にかけて鍛えたからくり達が、戦闘初心者っぽい動きで慌て始めた。
「冗談じゃよ冗談。一度戻って休憩してから遺跡全域の再制圧をするから準備はしっかりの」
「はーい!」
 なお、宝珠式銃は2丁修理が必要だった。
「きょきょきょうかーんっ!」
「こ、こっち来てください!」
 休憩後アーマーに乗って地下遺跡整備に励んでいたハッドの元へ、何かを抱えたからくり達が駆けて…いや、非常に珍しいことに赤子を運ぶときのように慎重な動きで近づいてくる。
 からくり達の様子からアヤカシの襲撃ではないと確信し、ハッドは声での意思疎通を行うためてつくず弐号から降りる。
「瘴気の源があるかなーっと思って探してたら」
「その、おっきななめらかーな穴があって」
 勝手な行動を注意すべきかもしれない。が、どうやらそれどころではないようだ。
「こ、これがあったんですっ」
 一見漬け物石なそれは、質は低いが大きな宝珠であった。

●対アヤカシ戦
 空龍から降りて耳をすませる。
 まず聞こえて来たのは空龍が翼を動かす音。
 エラト(ib5623)が静かにするよう伝えると、鼓はいつでも飛び立てる姿勢で動きを止めた。
 次に聞こえて来たのは飛空船の音だ。停止してもらっても船体が風に吹かれて音が生じている。
 諦めて耳で探る。
 ときおり生命の、あるいはアヤカシが動く音は聞こえるものの、だいたい方角しか分からず距離については自信が無い。
 エラトが小さく息を吐いて集中を解く。
 すると、鳳珠(ib3369)が黒い懐中時計を仕舞う音が聞こえてきた。
「都市外としては薄いです」
 瘴気濃度の変化に注目することで隠れているはずのアヤカシを探るつもりだった。
 けれど移動しても薄いままほとんど変化が無くいこの状況では、アヤカシの気配に気づくよりアヤカシに気づかれてしまうかもしれない。
 そのままの体勢で瘴索結界「念」を使ってみる。
 すると、探知範囲の端に20近い反応が引っかかった。おそらく近くでもほとんど瘴気が感じられないほど弱いアヤカシだ。
「そのままで。数19。距離40の半円」
 開拓者に気づいてはいるが開拓者が気づいたことには気づいていない。
 脇に控える戦馬が、万一のときは盾になれるようほんの少しだけ向きを変える。
「仕掛けます」
 同意の気配を確認感じつつ、エラトはリュートの弦を一度だけ弾く。
 荒れ果てた地に心震わせる音が響いた。。
 精霊、人、妖の全てに通じるこえに、精霊は高みにあり動かず、人は心癒され、アヤカシは内側から襲われる。
 アヤカシの反応があった場所が落ちくぼむ。音に内側から食い破られて消滅したのだ。
 風に流されたらしく、鳳珠の鋭敏な感覚に流れてくる瘴気が感じられた。
「敵襲に備えろ」
 飛空船の甲板では将門(ib1770)が船乗りの指揮を行っている。
 今のところ空にアヤカシの動きはない。
 船乗り達は極度の緊張に晒されて徐々に注意が散漫になっていく。彼等を守るため、将門の相棒が船の回りを飛んで護衛している。
 地上ではエラトと鳳珠が静かに歩いては止まり、そのたびに地面から瘴気が噴出する。
「どう見るべきでしょう」
 生は甲板で空龍に乗ったまま動かない。
 地に潜んだアヤカシを見つけるのは鳳珠が、遮蔽物があってもなくても確実に当ててまとめて滅ぼすのはエラトが担当し完璧に役割を果たしているため出撃しても戦力の無駄になる可能性が高いからだ。
「アヤカシは伏兵による奇襲を狙っているはずだ」
 視線を前に向けたまま眉を寄せる。
「敵が焦れて飛び出して来きてもおかしくはない。油断は禁物だな」
 地に潜むアヤカシは静かに確実に滅ぼされていく。
 なのに逃げるものはいない。
 極めて高度な訓練を施されているのか、指揮官のアヤカシが凄まじく恐れられているのか、あるいはその両方なのか。
 数時間経過し、鳳珠の索敵結界に反応が無くなる。
 生達は安堵と落胆の混じった複雑な息をついて、船を回答させ東へ戻っていった。

●西の小集落
 生達は途中で船を下りて小集落へ向かう。
 そこでは鳳珠が手配したナーマの兵が教官となり、村人に銃の扱いを教えていた。
 数日前に比べれば見られるようになった構えで、十数歩先の人型標的を撃つ。
 少し間の抜けた音が響いて、標的の端に小さな穴が開いた。
「順調ですか?」
 たずねられた教官は、生徒に見えないよう気をつけながら鳳珠に青い顔を向けた。
「隊長に言われたんで大量に弾を使わせてようやくこの程度ですよ。ナーマの壁を守ってもらいたくないですな」
 鳳珠は戸惑う。
「駄目なのですか?」
「銃が複数あれば小鬼程度ならジンなしでも撃退可能でしょう?」
 生も疑問を口にする。
「実戦では緊張します。慌てて手が震える、目の前にいるのに気付けない、装填できない、腰が抜けて動けないなんてのはざらにありますよ。他にも、何発が当てれば小鬼なら倒せますが当たるまでに何発必要になるか考えると…」
 深いため息をつき、開拓者達に頭を下げてから生徒の元へ向かう。
「自衛できる集落は連合内での地位が上がると触れ回ればやる気が上がりませんか?」
 生の最後の問いかけに、ナーマ古参のジンは足を止め振り向く。
「この村、ジンもいませんし余剰の男が男がいません」
 不愉快な現実を口にする。
 兵は安全確保に必要だが兵は食料も富も生み出さない。兵にすればアヤカシに滅ぼされるより先に経済的に自滅する。
「やる気を出したらナーマに食料援助を求めてくるんじゃないですかね。銃や弾薬を只でくれてやった上にそこまでするというのは、どうにも」
 これが、ナーマ駐留部隊の率直な意見だった。
 エラトの奏でる子守唄は集まった村人の心を潤す。
 しかしその効果は一時的だ。西からのアヤカシの脅威、少ない水、下がることはあっても向上することはない生活水準など、心を傷つけるものは非常に多いのだから。
 エラトは演奏を終えた後、相手の心証を害さないよう細心の注意をはらって要望を聞き出す。
 様々に言葉を飾っているが実質の内容は4つだけだ。
 水が欲しい食料が欲しい安全が欲しい金が欲しい。
 エラトは萎えそうになる足に力を込め、村人達に別れを告げ帰路についた。

●領主の寝室
 すがりつくからくりの背中をゆっくりと撫でてやる。
 いつもは1分もたたずに落ち着いて眠ってしまったり子守歌をせがんできたりするのに、アマルは怯えた子供のようにアレーナに抱きついたまま離れない。
「心配事?」
 アマルが動かなくてもうなずいていることが分かる程度には付き合いが深い。
「うちもそとも問題いっぱいだもん」
 子供じみた弱音を吐き吐きするアマルの外見年齢はアレーナとあまり変わらない。ただし精神年齢は親子といっていいほど差がある。
「ちいさなまちをつくるつもりであつまった人だけでいなかのぜんぶしはいできるわけないもん。むちゃだもん。こんなんじゃまちつぶれちゃう」
 だから捨てられるものは捨ててしまう。
 アマルがそう考えはじめていることに気づいたアレーナは、正しいけれど実現が難しいことではなく、アマルに今最も必要なことだけを伝えることにした。
「赤ちゃんの笑顔を思い出して」
 優しく頭を撫でてやる。
 ようやく眠りに落ちていくアマルの心に、言うことを聞いてくれないけれど生命力に溢れたひとの顔がいくつも浮かんで消えていった。

●選定会議
 複数の部族を束ねる大勢力をまとめるためには領主一人では全く足りない。
 子や孫だけでは足りない。できれば分家も複数欲しい。
 しかしからくりは子を産めず、人間と同じ手段では数を増やせない。
「主様の従兄弟殿が最適だと思います」
「あるじさまのお子様が…」
 領主一族候補選定会議は初っ端から荒れていた。
 領主側付き11人が、熱烈に主の家族を推して一歩も退かない。
「今3歳でしょう? 厳しい訓練に耐えられるとは思えません」
「それを言うならそっちの方はこらえ性ないじゃないですか。守備隊訓練課程に脱落したの知ってるんですよ」
 己の主に利益を誘導するための争いに見えるが、実際は少し違う。
 からくり達は主大好きで主凄いと心から確信している。こうするのがナーマのためになると判断して行動しているだけなのだ。
 この場にいるからくりの主達は顔を青くしている。ナーマの領主は権力の私的利用を許さない。そう見える行動もだ。側付きから外されたり主が降格される可能性すらあった。
 このままだとろくなことにならないと判断し、将門が会議の中断を宣言した。
「権力闘争の意図がないとはいえ」
 領主執務室へ通じる通路で、将門は厳しい表情でつぶやく。
 放置すれば本物の権力闘争になる可能性がある。新しくからくりを目覚めさせるときには別の主を選ぶべきだろう。
 だがそうした場合、主にしても問題ない人間の数は十数人しかいない。
 だから、将門は驚くことになる。
「未起動からくり40人全員を目覚めさせるつもりです」
 領主は、気力に満ちた顔でそう言った。
「誰を主にしても揉めるぞ」
「ええ、ですから」
 今のアマルの危うさに気付けるのは、つきあいの長い開拓者くらいだろう。
「赤子に主人になってもらおうと思います」
 愛情があれば全てうまいくと言いたげな顔だ。
 将門は、背中に流れる嫌な汗を感じた。