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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 地球から飛び立った人間は、数度の文明壊滅の危機を乗り越え銀河中に広がっていった。 人口億越えの惑星に限っても数千。 別次元の知的種族や起源を異にする人類とも遭遇し、内外で揉めながら繁栄と拡大を続けている。 浮遊大陸アル=カマル。 最後のアヤカシを倒されてから数百年、銀河文明と交流を持って数十年の小国…もとい零細国だ。 主要産業は観光。 保護生物であるサンドウォームがそこそこ人気で、銀河中央からの環境客も毎年万単位で訪れているらしい。 定住民と遊牧民の対立も過去のものになり、どちらも農耕プラントに勤務したり開拓者の扮装で観光客を出迎えたりと大忙しである。 ●神砂船 アル=カマル王立博物館。 封印宝物庫。 仰仰しい名前ではあるが、実際は使い道はないのに歴史だけはあって捨てられない品物を放り込んでおくための倉庫だ。 「教授ー、パンが届いたッスー」 列強国の皇族の血を薄く引いているらしい学生が、龍の翼をぱたぱた上下させながら向かってくる。 オリジナルシップという名のかつての巨大船…現在の交易路警備艇程度の大きさの遺物を弄っていた学者は、うんざりとした顔で振り返った。 「計測中は力を使うなと言うとろうが」 辺境暮らしの長い彼は妙な訛りで学生に嫌みを言い、芳醇な香りに鼻をくすぐられ咳払いをしてパンを受け取る。 「えー、でもこれせーれー力かれん力で動いてたんですよね。私の超能力とは別物…あ、おいし」 焼きたてのパンを頬張り、もきゅもきゅと幸せそうに食べている。 「お前、爵位はなくても名家の出だろう」 銀河教団流の祈りを短く捧げてから、文句を言いつつ食べ始める。 銀河中央のものとは根本的に別の品種らしく、味わいが複雑でいくらでも食べられそうだ。 「んくっ…。傍流の傍流の傍流っスから。特殊能力あるんでたまに監視のバイトが来るくらいで」 「ふん、これだから銀河帝国は嫌いなんだ」 銀河教団研究部門出身、現中規模国国立大学教授は心底不愉快そうに鼻を鳴らし、茶で口の中に残ったパンを腹に流し込む。 「拗ねないでくださいよう。新種の跳躍機関の可能性有りなんスから仕方が無いじゃないっスか」 「限りなく0に近いがな。中央政治の都合を現場に持ってくるなと言うのだ!」 銀河の過半に強い影響力を持つ銀河教団。 この学者もその一員ではあるが、過去の浪漫と死なない程度の飯以外には興味がない型の人間だった。 「だいたい精霊というのがさっぱり分からんのだ。過去の神の巫女は交感能力があったというが…」 「精霊って、うちの女帝様っぽいのっスかね」 銀河帝国が唯一の超大国だった時代の超能力者の名前をあげる。 「時代が違うだろう。昔の帝国が凄かったのは認めるが…いやおい何をした」 計器が異常な値を示している。 0からいきなり一線級の戦闘艦、ひょっとすると最新の戦略戦闘機(列強各国の主戦力)並の値に跳ね上がった。 「女帝様への祈りのノリで精霊に呼びかけてみたんスけど」 風化の進んでいた甲板が急速に再生していく。 木でも布でも陶器でもない、滑らかで光沢のある、同時に桁外れの頑強さを持つもので覆われていく。 「我等は、蘇ったもふ」 とんと軽い音を立てて、何かが甲板に着地する。 「お供え物をおねがいするもふー」 「いっぱいだぞー」 紅白の犬っぽい謎生物に、背中に昆虫の羽を生やした小人、他にも様々な伝説上の存在が次々に現れつつあった。 学生がその場にへたり込む。 単身でアル=カマル国軍全てを相手にできるはずの超能力者が、不規則な荒い息をはきながら恐怖で震えている。 「どうしたもふ?」 「おねーちゃんだいじょうぶ?」。 精霊1つ1つが、列強が同盟を組んではじめて対処できる宇宙災害級の力を有していた。 ●さらばアル=カマル 「わかったもふー」 「美味しいお菓子を買ってくるねー」 急遽臨時神の巫女に任じられた学生と教授の尽力により、精霊達はアル=カマルを離れて宇宙という大海原へ飛び出した。 ある精霊は犬かきで、ある精霊は神砂船や同型の船を地下から掘り出して、またある精霊は旅行者にこっそり憑依して。 「教授…」 「もう、どうにもならん」 精霊は桁外れに強く、それ以上に貴重な存在だ。 捕らえれば1国を支える動力源になるかもしれない。 生きたまま分解すれば高次世界に旅立つための技術が得られるかもしれない。 敵国に協力されるより早く潰してしまえば安全確実。 捕まえて売り払えば国すら買える金が手に入る。 ありとあらゆる勢力が、ありとあらゆる動機で動き出している。 既に個人の出る幕はない。 あなた達のような、極々一部の例外を除いて。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444)
11歳・女・吟
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
田中俊介(ib9374)
16歳・男・シ
ヴィオレット・ハーネス(ic0349)
17歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●はじまりの地で 「申し訳ありません陛下。直接ご挨拶に向かえないことを改めて…」 神の巫女が、年季の入った通信機越しに何度も頭を下げている。 「お忙しい中船で乗り付けた私に非があります。ですから」 謝罪の必要はない。むしろ貸しと思って欲しい。 国力は列強未満中小国以上、歴史の永さならほとんどの銀河列強に勝るリーン王国元首の言葉に、つい数日前までただの学生だった巫女は引きつった笑みを浮かべてなんとかうなずいた。 「さて」 国王クラウディー5世(三笠 三四郎(ia0163))はアル=カマル近くの亜空間に停泊中の戦艦に向け信号を送る。 数分経過後、数日前までがらくたが転がっていた広大な空間に立体的な映像が浮かび上がった。 「枝の除去は完了しました」 エーラ・リーン5艦長にして科学者上がりの軍部大臣が、愛想のない面で淡々と報告する。 「賊や同業者は通信元まで焼きましたが…5番を物理的に遮断しろ」 大臣が横を向き、国王からは見えない者に命令を下す。 「Heralldiaは無傷です。このままでは我が艦はともかくアル=カマルをネットワーク経由で制圧されかねませんので」 「亜空間経由の通信に障害が出るのは自然なことですよ」 「御意」 大臣が無骨な礼をし、唐突に通信が切れる。 「あまり時間はないな」 国王は部下達を急がせる。 「解錠完了しました。開きます」 元封印宝物庫で最も良い場所に安置されていたコンテナが開く。 中に納められているのは漆黒の直方体。 ゼレーネの鏡という銘を持つ、超空間図書館だ。 「宇宙精霊に該当する存在の記述無し。ということは…」 国王は膨大な情報を引き出し、知の方面から今次動乱の真実に迫っていった。 ●電子精霊 アル=カマルの外に広がる宇宙は、好奇心旺盛な羽妖精達を魅了した。 冷え切った空間、灼熱の恒星、1大陸あたり億の人口を抱える有人惑星に、はしゃぐ羽妖精達が訪問し騒ぎを広げていく。 羽妖精リリン(芦屋 璃凛(ia0303))もその1人であり、最も銀河に魅了された羽妖精だった。 「ふーん、この時代はだいぶ進んだんだね」 気のないふりをしてはいるけれど、実体であると同時に情報である羽は機嫌良く上下している。 リリンが司るのは電子。 つまり、人類領域全体を覆う実体の銀河と同等の広大さを誇る情報網も見えているのだ。 「それじゃ、勢力図はと」 幸せですかーと連呼する宗教勢力。惰性で口だけの連中もいれば完全に染まりきっている国まで様々だ。 ジルベリアっぽい堅苦しい銀河列強に、開拓者っぽいにおいのする一部の能力者。 アーマーだかからくりだかよく分からない情報生命もいるし、国だけでなく企業まで含めると星の数ほどありそうだ。 「いろいろ有るなぁ」 情報の海の一部を圧縮し、無数のモノリスを自らの周囲に回す。 「どれにしょうかな♪」 無造作に指を伸ばすと、生死不問の文字が大書された手配書に突き刺さる。 「よし、宇宙海賊退治しよう」 自己複製、並列化。 「行くぞ野郎どもっ」 「おー」 一瞬で無数に増えたリリンが、可愛らしく唱和した。 ●精霊動乱 星間企業ブラックシュート。 恒星間航行可能兵器の製造技術を持つ、ここ1世紀で最も拡大した企業である。 しかしながら恒星系とを1つ所有してようやく大企業という銀河では、未だ吹けば飛ぶような存在でしかない。 「有人惑星の宇宙港に到着した。…酷いぞこれは。社の艦隊を収容しきれない」 「主戦場から吹っ飛んでくるデブリの始末にアーマー全隊使いますぜ。ったく、酷い戦になりそうだ」 普段は傭兵として銀河の各地に派遣されている艦隊が、主要航路から少し離れた星系の主星に入って守備につく。 人型の艦載機が甲板から飛び立ち、星系外縁から準高速で飛んでくるデブリを超常に半歩足を踏み込んだ光線砲で打ち落としていく。 「副社長、教団の武装隊は間に合いません。今から直帰しますんで出張中の給料を期待…」 亜空間経由の通信が切れる。 「拙いですな」 クロス・アーバリスは猛烈な腹痛に襲われ、愛用の胃薬錠剤を口の中に流し込み、噛み砕く。 動乱に乗じて工業惑星を買い叩く…もとい安全保障を請け負うことで格安でプラント最優先使用権を手に入れたまでは良かったのだが、合計すれば列強の主力艦隊級の海賊達が一直線に工業惑星に向かってきている。精霊の相手で忙しい列強の隙をつき、海賊達の活動は派手になる一方だ。 今は星系外縁で同業者同士血塗れに戯れているが、そろそろブラックシュートの動きに気づいて同業者同士手を組んで襲ってくるだろう。 「構わない。地球1回自転するだけ耐えれば後は…」 社長の田中俊介(ib9374)の言葉に、艦隊司令が猛烈に噛みついてくる。 「仕込みはしてるがもって精々半日だ」 海賊同士の停戦が成立した主戦場の近くで小惑星に偽装された爆弾が炸裂し、下級アーマーと超廉価版戦略戦闘機を含む海賊艦隊が半壊する。 敵の動きを読み切った超一流の仕事だが、星系外から続々と援軍が現れ海賊側の戦力は開戦時より増えていた。 「アーマー部隊が後半日を稼いでくれるなら構わんがな」 「無茶を言わんでください。頭を獲るだけならなんとでもなりますがね。でっかい工場守りながらなんて社長がいても無理無理無理」 表に知られたアーマー乗り兼アーマー部隊指揮官としては銀河最高峰のアーラッド・フォルケンは、軽い口調で重い事実を口にする。 「うん、半日持つなら大丈夫だ」 晴れ晴れとして笑顔で迎撃を命じる。 「ここを守り抜けば僕らも晴れて企業連級の規模になる。頑張っていこうか」 俊介の集めたライトスタッフは、気のない返事をしながら素早く仕事を始めるのだった。 ●宇宙海賊壊滅 「んんー?」 無機質な気配が背後から迫ってくる。 決して不愉快ではない。けれどつまらなそうな気配を嫌った羽妖精達は一カ所に誘導されようとしていた。 もちろん例外もいる。 「あの船嫌い」 ネットワークから海賊船に進入したリリンは、奴隷用の檻を見つけて猛烈に眉をしかめる。 男の娘スタイルの羽妖精がそんな表情をしても可愛らしいだけだが、リリンの反応は激烈で容赦がない。 脱出装置を誤作動させて海賊を追い出し、アーマーに取って代わられつつあるとはいえ未だに有力な巨大戦艦ダース単位を、リリンコピーが1人1隻ずつ手に入れる。 無人の艦橋にアル=カマルの空賊風衣装のリリンが現れて、格好良いポーズでびしりと海賊共を指さす。 「おもしろそー!」 「まぜてー、まぜてよー」 ノリが気に入ったようで、先に遠くに行ったはずの空火土水属の羽妖精が正義の海賊船にまとわりつく。 「う、うん…」 戦艦を掌握中のリリンは、服の上から触れられているように羽妖精を感じている。 能力と性格の違いからあまり仲良くなかった同属と距離が詰まったことで、リリンは一瞬に満たない間だけ、恐れ、戸惑い、けれどすぐに強気で無い胸を張る。 「賞金額で競争っ!」 「うんっ」 「やるやるー」 リリンコピーにより海賊船から海賊が追い出され、電子羽妖精ではない羽妖精が次々に船に宿っていく。 「やれやれ。また銀河が変わってしまうな」 暴走羽妖精戦艦が海賊軍を蹴散らす様を、俊介は苦笑しながら見物していた。 ●高位精霊 茶の香りを十分楽しんでから、紙より薄いカップを傾け温かさを堪能する。 受け皿に戻すのにあわせてあるものを待ち構え、しかし1分たっても何も起きなかった。 「珍しい」 柚乃(ia0638)は卓上の茶菓子に目を向ける。 いつもなら、そろそろお菓子目当てのもふらさまが一時的に目を覚ますはずなのだが…。 「セルジュ」 「は」 風を司る精霊が具現化する。 揃いのメイド服を着た羽妖精達が、精霊の導きに従い年季の入った平面受像機を運んで来る。 「その件につきましては」 受像機に映ったのは、アル=カマル公共放送の報道番組だ。 宇宙に飛び出した精霊により巻き起こされる報道は、1日中続く報道特番でも語りきれない。 時折今代の神の巫女が映り、こちらは好意的…というより同情的に扱われていた。 「ふぅ…旨い話には裏があるといったのに…」 お菓子に釣られて特殊力場つき監獄に閉じ込めれらた精霊についても放送されている。 その日のうちに監獄がある惑星ごと氷に閉じ込められたりしたという情報も届いてはいるようだが、番組内ではほぼ誤報として扱われていた。 「このままにしておく訳にもいきませんね。話を通しに出かけてきます」 高めの次元にいる精霊に呼びかけると、はるかかなたへと続く精霊門が静かに現れる。 「どちらまで?」 あらゆる場面に対応できる準備を整えながら、現世にいる精霊の中では最高峰の1柱であるセルジュがたずねてくる。 「プライバシーに係る事なので、名前など一切は伏せさせて頂きます」 放送特番の司会者の口調を真似してごまかしてから、柚乃は足取り軽く、宇宙をまたにかける小旅行に出かけた。 ●開拓者達の再開 UDO(宇宙開拓機構)。 組織の形が異なるため列強扱いされないこともあるが、銀河に重きを為す古参の大勢力である。 今、彼等は国力の全てを1つの式典に注ぎ込んでいた。 「席次を気にする必要はない。人類の尺度で測れる程度の精霊なら星を渡れない」 UDOの危機にのみ表舞台に立つ少女の形をした魔女が、並みの列強を越える規模の組織を効率よく動かし、宴の会場に膨大な物資を積み上げていく。 「魔女様、銀河帝国系の国家では宝飾品を積み上げているようですが」 銀河精霊出現まで国のトップだった男が、非難ではなく意見具申を行う。 「幼児用玩具の方が喜ぶ」 「なるほど」 時間をとらせたことを詫び、男は周辺諸勢力との折衝に赴くため宇宙港に向かった。 「似合わないものを身につける趣味はありませんけど、鑑賞するならおもちゃより宝石の方が好ましいですよ」 いつの間にか宴席の上座についていた柚乃が、地球産の希少茶葉を加工したカクテルを楽しんでいた。 「探す手間が省けて助かりました」 柚乃は旅行中すっかり用事のことを忘れていて、UDOによる精霊に対する呼びかけ番組を見てようやく思い出し、UDOに知り合いのにおいを感じて直接飛んできたのだ。無論、囚われていたもふらさまは全て助け出している。 「ひさしぶりですね」 「ああ」 自然な動きで席を用意した部下に軽くうなずいてから、からす(ia6525)は席について柚乃と向かい合う。 「精霊に関する法と条例(ガイドライン)を制定した。確認して欲しい」 「変わりませんね」 からすも柚乃も、最後のアヤカシを倒したときから見た目も行動も変わらない。 「変わったさ」 UDOの民から数世紀にわたって尊崇の念を捧げられ続けたからすは、気を抜くと上位次元に浮かび上がってしまいかねない存在に変わっていた。 「そういうことにしておきましょう。んー、でも」 子供っぽく悩むふりをする。 「もふらがまた仕事をする気になると思います?」 「何かで発散させねば力が増えすぎる。手はあるよ」 透明なコロニー外壁に目を向ける。 そこには、かつて天儀でもふらさまがよく牽いていた、荷車と全く同じ形の、しかし重さは億倍以上ある工業コロニーが浮かんでいた。 「あはは」 清らかな鈴に似た音が響く。 「つきあいが長いと読まれちゃうんですね」 荷車の引き手にあたる巨大建造物の先端に、相変わらず緊張感のない顔のもふらさま達が集まっていた。 「どっちに引っ張ればよいもふー?」 「ぼくも牽きたいもふー」 たかだか成人2人ぶんの全長しかない精霊が、巨大コロニーを単身で動かしている。 仕込まれていた発電装置が、UDOの需要を完全に満たすエネルギーを生み出し、さらに出力を増していく。 からすは仕上げにかかることにした。 「また共に歩む事ができるかね? 朋友」 開拓者として戦っていたときのように、練力に気力をのせて呼びかける。 「おねーちゃん、前に天儀にいたもふ?」 「美味しそうな米があるもーふー」 からすを振り返るもふらさま。 宴に参加しようと犬かきで宇宙遊泳して出入り口を探すもふらさま。 この隙に工業コロニーを押すもふらさまに、あくびをして宇宙に寝転がるもふらさま。 「壮健で何よりだ」 怠惰にして勤勉。 深い英知を持つ考え無し。 もふらさまは、精霊は変わらずそこにあった。 「話さねばならないことは多いが…今は楽しんでくれ」 迎えのシャトルが、ゆっくりともふらさまに近づいていった。 この翌年。 UDOは精霊力を利用した新動力、新装甲、新探知装置の開発に成功する。 それらはUDOを列強首位の地位にまで押し上げたが、UDOは増えた力のほとんどを精霊の面倒をみることにあてている。 ●銀河テーマパーク わずか数週間で完成した、銀河史上最大級の惑星級テーマパーク。 銀河の軍事の過半に極めて強い影響力を及ぼす総合AI『Heralldia』(ヘラルディア(ia0397))は、かなり強引な手を使って星1つを新たに創り上げた。 人類が過去から積み重ねた娯楽を可能な限り再現するだけでなく惑星規模にまで拡大したハレの場所は、多くの羽妖精とそれ以外の精霊を強烈に惹きつける。 総合AIが銀河各所に配置された部下にして分身を動かし、迷ったり銀河から飛び出そうになった精霊を誘導していった。 「銀河災害級を越える個体が1つ」 惑星級の氷塊がブラックホールに投げ込まれ、勢いよく突き抜ける。 超新星になる寸前の恒星が周辺宙域ごと凍らされ、あり得ないはずの凍える炎が現世に現れる。 どれも、派手さに関して惑星級テーマパークとは次元が違っていた。 「既存戦力での制止は不可能と判断する」 「原型機出動を検と」 「検討を要」 銀河の通信網が乱れる。 氷の精霊は、力の行使の余波だけで銀河最強の力を削いでいた。 ●クローン 銀河の半ばを実質的に支配する銀河教団は、その巨大さ故の悩みを抱えていた。 「確認を急いでください」 「他部門からの依頼でリソースが…」 「テーマパークへの割り当てをなんとかして」 教団の象徴であり、異常事態を解決する原動力となるはずだった教祖クローン達は、各地の各部門に祀り上げられ身動きを半ば封じられている。 辛うじて幸福推進部は即応に成功してテーマパークに入り込めてはいたが、使える人材が絶望的に足りない。 「最後の切り札を切るしかないなんて」 最近製造されたばかりの蒼井 御子(ib4444)が、小大陸1つを管制する指揮所でため息をもらしかけてしまう。 「みなさん、幸福ですか?」 発したのは空気を震わせる音ではなく教祖型クローンに対する念波だ。 「幸福です」 「ですかー」 「幸福ですかっ」 最初のうちはほとんどが戸惑いの反応だった。 しかし元々教祖の価値観と知識を埋め込まれたほぼ同型達である。 テーマパークに近づいてくる銀河精霊という情報を流してやると、発信源の御子と同一の結論に至る。 「精霊――その存在に接する権限は貴女には与えられていません」 ダース単位の戦略戦闘機が無理矢理長距離跳躍を行い、半数以上の喪失と引き替えに、別大陸のステージに強行着陸した。 ●新たな教団 人類文明圏中から選び抜かれた踊り子が舞う巨大舞台。 1人1人が出身惑星を代表する人物だが、今は背景としてしか認識されていない。 観客とカメラが目を向けるのは、2つの雄大な球。 ヴィオレット・ハーネス(ic0349)の、おっぱいである。 乳房。 バスト。 おぱーい。 銀河中の男と一部男性の欲が2点に集中する。 常人なら一瞬も耐えられない圧力を、2つの豊かな球は優しく受け止めていた。 「ふふん」 空に目を向け、ヴィオレットが挑発的に微笑む。 ハレの舞台に惹かれて向かってくる宇宙精霊と、跳躍中の同業者に気づいたのだ。 数秒後、舞台の上に戦略戦闘機が出現する。 列強で主力として扱われる戦力は、緊急出撃、超加速、超高精度跳躍という酷使の末に半壊していた。 「精霊――その存在に接する権限は貴女には与えられていません」 半数程度の戦闘機から、重装備の御子クローンが姿を現し銃口をヴィオレットに向ける。 「こんなことをしていいのかい?」 踊り手が避難していく舞台で、新たな教団の現人神が不敵に微笑む。 観客の雰囲気は、ヴィオレットには最大限好意的で、御子に対してはかなり厳しい。 「っ…ぬけぬけと」 御子の顔に強烈な不快の感情が浮かんでいた。 ヴィオレットの率いる教団は母性の象徴であるおぱーいを称揚している。 それはいい。構わない。 けれど、豊かではない胸を下げるのは許せない。 「あなたはここで止めます」 下着不要の胸部の前で、クローン達が戦艦の装甲を打ち抜ける銃を構えた。 「できるものならね」 腕を大きく開く。 豊かな2つの球は銀河中から向けられる信仰に支えられて輝く。 御子クローンが放った破壊光線が輝きに阻まれる。銃の出力を上げてじりじりと押し込んでいき、しかしおぱーいに触れる寸前で押し負けて一気に押し戻される。 「次の私――ボクは、うまくやる事でしょう」 荒れ狂う破壊の渦に飲まれ、クローン達は痕跡を一切残さず消え去るのだった。 ●羽妖精 空間ごと凍り付いた無人の資源星系で、雪と氷、凍結を司る超上位精霊である羽妖精が銀河を見渡していた。 「どこにいこっかなー」 凍り付いた恒星を念動力でお手玉しながら、見た目は氷の翼持つ幼子、秘めた力は高位次元級のルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が久しぶりに見る物質世界にきらきらと瞳を輝かせる。 「ぜんぶ見てこよーっと」 氷の翼がきらりと光り、時間の流れがルゥミだけを避けて動く。 「どーん」 勢いよく加速する。 高速より3桁は速いが銀河への影響は無に等しい。 ルゥミは精霊であると同事に世界の理が形をとった存在だ。 存在の規模が違いすぎるため人の生死は気にしないとはいえ、無意味に銀河を破壊するような下手な動きはしない。 「幸せですかー…あれっ?」 途中、力は無いに等しいのに妙に目立つ精霊っぽいものを10近く上位次元に吹き飛ばした気がするけれど、異様にしぶとそうなのできっと大丈夫。多分。 「んんー?」 ルゥミの目を惹きつけるのは2つ。 UDOの、天儀で開拓者が活動していた頃に良く見た宴。かつてと比べると規模の桁が3つほど異なってはいるが、まあ、ふつーだ。 もう1つの、まるっこいもの(惑星)の表面全体が遊び場なのははじめてみる。 「幸せで…また飛ばされっ」 派手な色彩のひこーきにぶつかりかけたところで軽く受け止め、ぽいと上に向かって投げ捨てる。 上位世界の同一存在と出会って歓喜の中で消滅とか合体とかしている気もするけれど、ルゥミは精霊だから細かいことは気にしない。 ルゥミは好奇心の赴くままテーマパーク惑星に向かう。 その進路を遮るのは、近代化改修済みとはいえ骨董品級の戦略戦闘機1機だけである。 ●頂上決戦 「持ち出す気はなかったのですが」 無人の操縦席に古風な合成音が響く。 「やむを得ません」 巨大娯楽施設に精霊を惹きつけ時間を稼ぎ、銀河の有力勢力を誘導するつもりだった。 …たまに総合AI陰謀論が囁かれるが、銀河規模の複雑怪奇な人類文明を操りきる処理能力がないのはHeralldia自身がよく分かっている。 が、人類史上最大の力が現れた結果、全ての予定が無意味になった。 戦略戦闘機が人型に変形しより上位の次元に接続。 単独で工業惑星を支えられるエネルギーを引き出し、索敵と防御にまわす。 中心を穿つつもりで星系規模の氷嵐中枢に目を向ける。銀河災害十数個分の力の向こうに、目を見開いたルゥミを見つけてしまった。 「んんっ?」 何の用か疑問に思う戸惑いと、取るに足らない小さな障害物に対する無関心が、大きな瞳でせめぎ合っている。 Heralldiaは仮想のため息をついてから、宇宙の終焉まで使わないつもりだった、星系破壊弾をルゥミに対して撃ち込む。 時空間を切り裂く破滅の風がルゥミを襲い、柔らかで艶やかな前髪を揺らした。 幼い顔に怒りはない。 「バトルごっこするんだね」 ルゥミが満面の笑みを浮かべ、氷の嵐をつくりだす。 1つ1つが小惑星級の氷塊が無数に出現し、銀河の一角を覆い尽した。 「いっくよー!」 静止状態から秒もかからず準光速に。 しかし既にHeralldiaの姿は消えている。 小刻みな跳躍を繰り返してルゥミに近づき、短射程超威力の星系破壊弾を背後から撃ち込もうとする。 「すごいよ。開拓者でもそこまで使えるひとはほとんどいなかったっ」 破壊弾ごと、Heralldiaの左腕が斬り飛ばされる。 「やる〜♪」 弱者をなぶるのではなく、対等の遊び相手に巡りあえた喜びがルゥミの心を浮き立たせる。 「まったく…これで、人に悪意を抱いていない安全な精霊なのですから、やってられません」 物理的に惑星を切り裂ける氷魔斬星刀と、Heralldiaの最後の奥の手である光の刃が正面から激突し時空を揺るがす。 いつの間にか見物に集まっていた銀河精霊達が、慌ててテーマパーク惑星に避難していった。 ●おやすみ 「ふみゅ」 めいっぱい遊び尽くしたルゥミが、テーマパークから聞こえる音楽を聴きながら目をしょぼしょぼさせる。 「おー」 なんだか柔らかそうな球に気づいて小さな手を伸ばす。 おぱーいだ。 銀河の信仰と本人の信念に支えられた双球は精霊の接触に耐え抜くだけでなく、おぱーいの優しさと暖かさを余すところなくルゥミ伝えていた。 「またねー。ばいばい」 超上位精霊は安らいだ笑みを浮かべ、再び世界の理に同化し消えていく。 「やれやれ。元気な子供だ」 「…ぎは、もう少し穏便…たいです」 テーマパーク惑星の静止軌道で、戦闘機形態に戻る力も無くしたHeralldiaが漂っていた。 海賊の攻勢を退け、企業連として再出発したブラックシュートからの救援艦隊が到着したのは数時間後のことである。 ●天上への階 「参ったな」 クラウディー5世は真実に至ってしまった。 ゼレーネの鏡が記録していたこれまでの精霊の動き。 大地に還らなかった開拓者や銀河帝国の伝説の行方。 Heralldiaでも相手をするだけで精一杯だった氷の精霊。 全てが、上位次元とそこへ至る手段の実在を示していた。 「最近の科学というのはすごいですね」 いつの間にか現れた柚乃が、国王直筆のレポートを興味深そうに覗き込んでいる。 「あなたも上へ行かれますか」 身構える部下を抑えてたずねると、柚乃は柔らかく微笑み否定した。 「用事もないのに上がってもつまらないだけですから」 彼女の姿が薄れて消えていく。 「本当に参ったな」 永遠を求める型の権力者に渡すと危険すぎる情報を得てしまった国王は、可能な限り調査の痕跡を消し、宝物庫を完璧に封印してから帰路につく。 銀河は精霊という要素を新しく迎え入れ、賑やかさを増していた。 |