大人げない人。鳥鍋編。
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/22 22:22



■オープニング本文

 ある寒い日、中戸採蔵(iz0233)は狩りの成果を配って回っていた。
 訓練の際に幸運にも群れに遭遇して撃ち落とすまでは良かったのだが、数が多くて1人では食べきれないのだ。
 若く良く食う者も多い浪志組屯所で配っていると結構な数が瞬く間に無くなってしまう。
「どうにも、自分の歳を感じちまうな…」
 採蔵は軽く口元を歪めて、鳥が入っていた籠を手に外出しようとする。
 そんな彼の背中から、軽い足音が聞こえて来た。
「何かご用で?」
 振り返ると、そこにいたのは司空 亜祈(iz0234)。
 顔見知り程度の仲で親しくも疎遠でもないが悪意を持って接する意味はない。
 採蔵は出来る限り人の良さそうな表情を浮かべてから猫耳…もとい虎耳少女に向き直る。
「とりさん…」
 亜祈は、空になった籠を切なげな目で見つめている。
 白い虎耳はふにゃりとしおれ、白い虎尻尾は力なく垂れていた。
「すいやせん。もう配り終わったんですよ」
「とりさん…」
 採蔵とは異なり澄んだ瞳にじわりと涙が浮かぶと、とうにすり切れたはずの良心が中年男の心をちくちくと刺激した。
「そ、そういえばもう一度鳥打ちにいくつもりだったんですよ」
 じいっと。
 罪のない瞳が採蔵のごまかしを糾弾している。
 言うまでもなく実際は採蔵の思い込みで、亜祈にそんな意図は無い。
「また獲ってきますんで、そのときはもらってください」
「ありがとうございます♪」
 亜祈が心からの感謝と共に頭を下げる。
 かくして、採蔵は自腹で資金を用意し、開拓者ギルドへ救援を求めることになる。

●冤罪
「自分の娘くらいの歳の女の子と山遊びですか?」
 顔馴染みの職員が、じっとりと冷たい視線を向けてくる。
「1度浪士組に問い合わせをしても…」
「冷やかすのは勘弁してください」
 中戸は声だけは丁寧に、落ちくぼんだ目に冷たい光を浮かべて対応する。
 罠にかけたり食い物にするつもりがあるなら、開拓者ギルドを関わらせないし証拠も残さない。
 そもそも、仕事以外で他人の恨みを買う趣味はなしやる意味がない。
「失礼しました」
 職員は咳払いと同時に軽く頭を下げて、形ばかりの謝罪をする。
「しかし余りに、なんというか」
「似合わないのは分かってますがね」
 額の汗を手ぬぐいでぬぐう職員の前で、半ば裏稼業の男が肩を落とす。
 直前までの薄暗い気配は消え去り、仕事で疲れた男の顔になってしまっていた。
 ギルド内で別の職員と共に手続きを進めている虎耳な娘さんにちらりと目をやり、ここでの会話を聞かれていないことを確認して安堵の息を吐く。
「詳しくは聞きませんよ。けどギルドで人集めをする必要があるんですかこの件?」
 司空と中戸が出向く場所の情報を思い出しながら、職員が首をかしげる。
 ケモノが少しいるが反応は中立的で、志体持ちが2人いれば危険などないはず。亜祈の友人がついてきたとしても、中戸1人で全員の腹を満たすだけの戦果は得られると思うのだが。
「1羽も穫れないと、あれなんで」
「ああ…」
 職員はようやく納得して何度もうなずく。
「要するに良いとこ見せたいと」
「それもありますがね」
 万一泣かれたらストレスで胃に穴が開きそうという本音は言わないでおく。
「それにほら、若い娘さんは分かりませんが、若い野郎共は確実に大量に食べますんで」
 心底納得した職員は、中戸の要望通りの依頼票を書き上げ、ギルドに張り出すのだった。


■参加者一覧
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
御形 なずな(ib0371
16歳・女・吟
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
ナキ=シャラーラ(ib7034
10歳・女・吟
来須(ib8912
14歳・男・弓
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文

●獲れない男
 中戸採蔵(iz0233)が銃を構えたときには、鳥は殺気に気づいて姿を消していた。
「ええと…何か、すみません。…胃も、大丈夫ですか?」
 劉 星晶(ib3478)が声をかける。
 中戸の実年齢より老けた顔からは生気が失せていて、ときどき目の焦点が合ってない気もする。
 水筒を差し出すと、中戸は無言で中身を飲み干し、微かに血の気の戻って来た頭を何度も下げる。
「亜祈は裏表無い分、無碍にしにくい所がありますよね」
 虎耳陰陽師娘と関係が深い彼は、中戸が何故この依頼を出したか正確に推測できていた。
「私のようなのには効きますよ」
 銃から弾を抜きながら、自分自身に対する呆れが籠もった息を吐く。
「獲ってきます」
「ええ、よろしくお願いされました」
 星晶は軽く手を挙げ、足音を消して緑の中に消えていった。

●根こそぎ
 口笛を吹きながら、御形 なずな(ib0371)が山道を歩いて行く。
 獣道に近い道を平地同様に移動しながら、本来弱肉強食のはずの自然を陽気な口笛で平和で満たしていく。
「山の実り達よ」
 口笛を止め、一息溜めて。
「集まれ〜♪」
 明るい声が、一部雪で彩られた緑に広がっていく。
 これが鳥類にとっての惨劇の始まりだった。
「我らの体の一部にっ。なりたい動物さん募集中♪」
 人語を解するケモノなら怯えて逃げ出す歌が、軽快なリズムで小さな口から流れ出す。虎耳娘さんご一行に注意を受けたから雪崩に繋がる大声は無しだ。
 哀れな小鳥が吟遊詩人の頭上を舞い、不幸中の幸いで狙われていない小動物が次々に顔を出す。どちらも、聞いてしまった時点で逃げられない。
「そろそろ…」
 曲が止まり、呪縛も消える。
 勘に優れた一部の鳥は逃げ出そうとするけれども、実戦経験有りの開拓者は甘くない。
「おやすみやで♪」
 練力の籠もった柔らかな響きが、小鳥たちとついでにリスや犬達の意識を鮮やかに刈り取る。
 ぱたぱた、ぽとぽとと落ちていく獲物を優しく見つめながら、なずなは良く研がれた手裏剣を手に近づいていった。

●冗談
「負けちゃいられねーな」
 ナキ=シャラーラ(ib7034)は、もう1人の吟遊詩人の狩りっぷりに対抗心を刺激されていた。
 一度派手にやったため、鳥達の警戒心は急上昇中だ。
 が、アヤカシに比べれば甘い。甘すぎる。
「んー、んーっと」
 木の陰で喉の調子を確認してから、隠密を解いて朗らかな声で平和を演出する。
「大物は〜いないな〜」
 視界の隅から鳩の群れが近づいているのに気づいて演奏終了。
 戸惑う群れを効果範囲に入れないようにして、スローテンポの子守歌を口ずさむ。
 この歌は、開拓者の敵には死を誘う歌として知られていたりもする。
 今この場にいる鳥達にとっても同じだった。
「止めはどうすっかなー。血の臭いに誘われるってことも…」
 同じ種類は多くて2、3羽になるよう調節しながら縄にくくりつけていく。
「なんだよ今忙し」
「わふ」
 妙に賢そうな犬…多分ケモノが、ナキの薄いドレスの裾を甘噛みして引っ張る。
 殺意の一切無い、しかも地面に落ちた鳥を無視してまでいたずらを優先させたケモノに不意を打たれてしまい、ドレスが盛大にずれて下着が見えかける。
「何しやがる! 返せ!」
「何をしているんですか」
 背後から伸びる手が犬の頭を掴む。
 逆らえば殺されると悟ったらしく、犬はドレスを解放して全身から力を抜いた。
「わりぃ、助かったわ中戸のおっさん」
 にやりと微笑んでやると、採蔵は無言で肩をすくめる。羽むしりの最中だったようで、着物のあちこちに複数種の羽が付着していた。
「司空の姉貴とのあれ、手伝ってやろうか?」
 小さな指でちょっと下品なハンドサインを来ると、中戸は腹を押さえてうめいてしまう。
 彼の口からは、ほのかに胃液の香りが漂っていた。
「冗談だよ冗談! しっかり獲るから後の処理は頼むぜー」
 隊士と隊長の、心温まる(?)やりとりであった。

●大物
 太い枝の上から地上をうかがっていた猿のケモノが動こうとしたとき、その目の前を矢が通り抜けた。
 大木の幹に深く突き立った矢を見てようやく状況を理解し、猿は一目散にその場から逃げ出した。
 礼儀正しく鈴木 透子(ia5664)が頭を下げると、来須(ib8912)は透子と同じく無言のまま礼を返す。
 侵入者を警戒するケモノを威嚇し、吟遊詩人をはじめとする危険から遠ざけてやるのが来須の役目。自然の中のわずかな痕跡を拾い集めて狙いを定めるのが透子の役目だ。
 透子は上空からの視線に気づいて顔を上げる。
「鷹だ」
 殺気と動きで牽制しながら小声で来須が解説すると、透子は軽くうなずいてから符を取り出した。
 符は吟遊詩人達が大量捕獲(うち半分程度は後に解放)した鳥の姿に変わり、透子の意に従って茂みの向こう側を探っていく。
 透子は先程拾った小さな羽毛と式から送られてくる視覚情報をもとに新たな指示を送り、とうとう目当てのものにたどり着く。
 借り物の弓に矢をつがえ、直前までの情報をもとに矢を放つ。
 矢が茂みを貫通してから数秒後、甲高いと悲鳴と異常な羽ばたきの音と微かな血の臭いが届く。
「雉だな」
 鳴き声から獲物を判別し、来須はその場を透子に任せて現場に向かう。
「絞めるのはやっておく」
「はい。…一日で犬猿雉に会えるとは思いませんでした」
 来須が首をひねった鳥に向かって、透子は静かに手を合わせるのだった。

●準備
 純白の猫耳が勢いよく立ち上がり、小柄な体躯がほとんど音を立てずに緑の中を駆けていく。
 ケモノ以上の速度を出しても首に巻かれたリボンは揺れない。野外活動に慣れているだけでなく、高度な身体能力と運動能力を兼ね備えているのだ。
「にゃぁ」
 上空から降りてきた鷹を牽制して追い返し、緋乃宮 白月(ib9855)は木の枝からいくつかの果実をもぎ取る。
 母と暮らしていたときは滅多に食べられないご馳走だったそれは、彼の手の中で甘い香りを漂わせていた。
「簡単に獲れちゃうんだ」
 あまりのあっけなさに嬉しさと同量の寂しさを感じながら、白月は自分の背丈以上の高さから落下する。
 軽く足を曲げるだけで着地の衝撃を0にして、果実にも被害は一切無い。
「いい匂いがする」
 羽毛の山が接近してくる。
 新種のアヤカシ…ではなく、大量の肉もとい鳥を処理中のなずなだ。
「中戸さんは?」
「地元の顔役さんに呼び出されたみたい」
 一房分けてもらったなずなは、意図して人ごとのように言う。
「いっぱい獲ったもんね」
 思わず遠い目をしてしまう白月であった。
「白月、なずな。そこにあるのは全部運んでくれ」
 腕まくりをした星晶が声をかけてくる。
 直前まで血抜き作業を行っていたため、手は全体的に赤く染まっていた。
「おそらく…」
 聴覚に集中し、遠くで動く複数の音に気づく。
「いや確実に野犬がいるから盗られないようにな」
「はいっ…うわぁっ」
 唇を果汁で華やかに染めたなずなが、処理済みの鶏肉を白月に手渡す。
 その量はいくらなんでも多すぎて、細い白月の足が地面にめり込んでしまうほどだった。
「あ、あらぶる荒鷲のぽーずっ」
 大重量のせいで戦えない白月は、本来攻撃技であるはずの術を威嚇に使うことで、食材をなんとか司空の元まで運び込んだという。

●舞台裏
「すいませんでしたぁっ!」
 地元の顔役に土下座する中戸。
「今後このようなことはないように、絶対にないようにっ、お願いしますねッ」
 顔役の怒りが収まるまで、1時間以上かかったらしい。

●食事・夜の部
「いただきます」
「頂きます!」
 唱和が終わると待ちに待った鍋の始まりだ。
 星晶は料理の美しい色合いを堪能しつつ好みの温度になるのを待っている。
 顎を上下させるたびにナキの顔がとろけていって、中戸が視線を外さざるを得ないレベルの色っぽさを醸し出していたりする。
 透子は合掌していた手をゆっくりと離し、適量盛りつけられた器を手に取る。
 まず、匂いが違う。
 屋台のような濃い味付けではないのに、良質な肉の脂と野菜の甘味が強く感じられる。
 はしたないと思うが、急速に口腔にたまっていくよだれを飲み込む必要があった。
 箸をとり、汁につかった鳥肉を掴む。
 予想以上に柔らかで、特に細くはなく頑丈でもない箸が鳥肉にめり込んでいた。
 肉を汁から引き上げると、綺麗に処理された脂身が外界に晒され、とろりと揺れる。
 口に運ぶ際に一瞬動きが乱れたのは、どんな味だか予想がついていたからかもしれない。
「っ」
 現実は予想を上回っていた。
 舌の上で肉がほろほろと解けていき、甘い脂がゆっくりと舌から喉へ広がっていく。濃厚なのに、くどくない。
 肉と共に口に入った茸は肉とは異なる食感で、噛むたびに舌触りと味が微妙に変化して透子の味覚を飽きさせない。
 良く噛んでから飲み込むと、えぐみは一切無く旨味だけが舌の上に残っていた。
「酒飲みの気持ちが分かる気がするな」
 大きな器を空にした来須が、鍋からすくいながらしみじみと呟く。
 おそらく、いや間違いなく、今酒を飲めば普段の数倍美味だろう。
「雉酒なんて二度と飲めない気がしますがねぇ」
 胃を押さえて呻いている中戸は飲んだら血を吐きかねないけれども、心身ともに頑健な来須なら問題ない。
「遠慮する。一応依頼中だからな」
 とはいえ、酒を入れて体の動きを鈍らせる趣味はないのだ。
 酒瓶に切ない目を向ける中戸を追い払ってから器を傾け汁で喉を潤す。
 肉と野菜の旨味がたっぷりと溶け出したそれは、胃と腸に良性の刺激を与えて働きを活発にさせる。
 要するに食欲が出ていくらでも食べられる。
 器を水平にし、大きな肉を野菜と一緒に箸で掴み、口の中に放り込む。
 かみ切ると予想とは異なる味があふれ出る。
「んむぅ」
 無意識に唸ってしまう。
 食べ慣れた食材が未経験の味と食感で攻めてくる。
 料理人の顔をちらりと見ると、機嫌良く虎耳を立てて星晶相手にあーんと攻め込んでいるようだった。
 来須は料理に視線と意識を戻し、頬張り、汁の一滴すら残さず腹におさめ、再度器にすくい、最初と同じ勢いで頬張り、味わい尽くす。
「たっぷりありますよ」
 虎耳娘の声に真剣な表情でうなずき、食欲旺盛な同僚を目で牽制しながらおかわりを続けていた。

●食後
「ふぅ」
 空になった器を敷物の膝の上に置き、白月は笑顔でごちそうさまを言う。
 春も近いとはいえまだまだ寒く、口から出てる息は白い。
 普段より多く食べても体に負担は感じられず、全身がほんのりと温かい。まるで…。
 白月は過去の優しい時間を思い出し、狩りの途中で集めた果実を皆に見えるように広げる。
「ちょっと酸っぱいですけど、おいしいですよ」
 果物はあっという間に無くなった。
「美味しく残さず頂くことが礼儀、ですよね」
 いつの間にか全ての料理が開拓者達の胃の中に消えている。
 食材に対する感謝を改めて捧げてから、白月は宴の片付けに参加するのだった。