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■オープニング本文 ●戦下手な用心棒たち 「アヤカシ共ぉっ、こっちに来いぃっ!」 羽織をだらしなく着込むサムライが咆哮する。 店を破壊しようとしていたアヤカシ達は一斉に振り返り、脇目も振らずサムライに躍りかかる。 「ふーははははっ」 真横に大きく振るった野太刀が小鬼を上下に切り裂き、残骸は倒れるより早く瘴気へ分解され消えていく。 「小鬼ごときワイの敵やな…」 傲然と見得を切ろうとした彼に、後続の小鬼が飛びついてくる。 1対1なら十数回繰り返しても勝てる相手ではある。 けれど防具無しの状態で多数の敵に襲われたなら、圧殺されかねない相手でもあるのだ。 「兄貴あぶねぇ!」 後衛の弓術師が慌てて矢を多数つがえて放つ。 非常に高度な技ではある。 けれど、敵味方の区別がつく技ではない。 「あいたっ」 地面に倒されたサムライの尻に矢が命中し、情けない悲鳴が響いていた。 「やっべ、すぐに治…遠すぎるぜ」 後方にいた巫女職の男が慌てて飛び出すが小鬼に牽制されて治癒術の効果範囲まで近づけない。 サムライだけでなく慌てた弓術師も小柄な小鬼の群れに飲み込まれ、情けない悲鳴をあげてしまう。 浪士組詰め所から押っ取り刀で駆けつけた中戸採蔵(iz0233)が目にしたのは、己の力を使いこなせない志体持ち達の、そんな残念な光景だった。 小鬼は浪士組の手練れによりあっという間に倒される。 が、戦闘開始時に指揮をとっていた鬼の姿がみつからない。 その後、歓楽街側は用心棒療養中の警護を浪士組に依頼し、浪士組は現在進行中の騒動に対応するため手が足りず、見回りの強化が精一杯で常駐は難しいと回答する。 こうして開拓者ギルドに依頼が出されることになった。 ●開拓者ください ギルドの片隅に新たな依頼票が張り出された。 内容は都基準で小規模な歓楽街入り口での警備。 これまで数体ずつアヤカシが襲来し、そのたびに用心棒が頑張って撃退しているのだが、そろそろ根本的に問題を解決したいらしい。 拘束期間は昼から深夜だ。 昼は綺麗どころと一緒にご飯を食べて歓楽街の入り口を見張り、夕方は酒抜きのご馳走を上げ膳据え膳で食べつつ入り口を見張り、深夜は熱いお茶をいただきつつ店じまいまで見張る、という流れになっている。 歓楽街入り口は、幅2丈(6メートル)ほどの比較的大きな通りにある。 具体的には、年少者避けの注意書きが書かれた立て札がある場所が入り口で、そこを越えると艶っぽい店が集まる場所というわけだ。 開拓者の募集に性別制限も年齢制限も無し。その代わり依頼中はそういう接待は無し。 是非参加して夢一杯の店を守って欲しい。 ●襲撃部隊 傷の癒えた鬼は立ち上がり、荷物に紛れて都に運び込まれた小鬼を1体ずつ集め、脅しつけなだめすかして部隊としてまとめ上げる。 小鬼の武器は簡素な手槍だけ。防具は盗んだ毛皮しかない。 浪士組と名乗る邪魔者のせいで、輸送中で半数以上の小鬼が発見され討ち取られている。 残存戦力は、駆け出し開拓者と互角程度の鬼1体と開拓者からみれば雑魚の代名詞である小鬼が十数体。全て集まっても雑魚扱いされるかもしれないが、1つの部隊にまとまれば大きなこともできる、かもしれない。 「ハデに壊す。ツギに燃やす」 小鬼が穂先を揃え、一斉に突き出す。 鬼は、都の破壊を夢見て不気味に笑っていた。 |
■参加者一覧
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
夏葵(ia5394)
13歳・女・弓
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
春炎(ic0340)
25歳・男・シ
祀木 愁(ic0346)
16歳・男・志
ナザム・ティークリー(ic0378)
12歳・男・砂
風見 春奈(ic0404)
14歳・女・吟
如月 終夜(ic0411)
15歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●歓楽街の昼 女達が起き出し、夜に向けた仕込みが始まる昼下がり。 都にいくつかある歓楽街の1つで小さな騒ぎが起きていた。 「志士さまー!」 ようやく起き出してきた女達が、ジルベリア風の装束を華麗に着こなす祀木 愁(ic0346)を見つけ、歓声をあげている。 夜の色気たっぷりな衣装ではなく、地味ではあるが清潔な普段着に身を包んだ彼女たちは、どこにでもいる普通の女の子に見えた。 「答えてやらなくていいのか?」 真面目な顔で、よく見ると茶化す気満々の如月 終夜(ic0411)が、終夜を盾にしようとした愁を通りに押し出そうとする。 「情報収集は得意な奴に任せた方が良いと思う」 きりっ、という音が聞こえそうな凛々さで抗議をする愁に、徐々に通りに増えつつある女性陣から熱い視線が向けられていた。 「地味な仕事は俺に任せてくれてもいいんだぜ」 終夜は心にもないことを真摯に語る。 ただし遊んでいるのは口だけで、目には真剣な光が浮かび、おそらく戦場になるだろう場所を念入りに確かめている。 地面は朝の内に掃き清められ、夜には華やかな女と光で彩られる建物も今は変わったところのない普通の商家に見えた。 「よっくん、しゅうちゃ…」 街の女達とは正反対の、とても控えめな声が2人に届く。 一見冷静な表情のまま、助けを求めて振り返ろうとした愁。 しかし終夜が女達の方向へ押し出すことで、愁は女達に囲まれてしまう。その結果、春奈(ic0404)は女達の嫉妬混じりの視線を回避できた。 「しゅうちゃん。おともだちを突き飛ばしては駄目ですよ」 めっ。 思いやる心から出た叱責に、終夜は素直にうなずいて受け容れた。 「こちらは、戦闘の邪魔になりそうな物は全然なかったです」 お姉さんの顔から開拓者の顔に切り替え、春奈は調査の結果を報告する。 「そう…でしたよね?」 支援専門の自分とは異なる意見を求めて横に視線を向けると、春炎(ic0340)が静かに同意する。 「技の使用に障害は無い」 春炎は慎重に地形と建物の形状を確認し、拳、炎、木の葉を、左右の建物の間近でも使えることを確信した。 練力を使う技の試し打ちはしていないが、自分の使う技は隅々まで理解できているのでまったく問題ない。 「そうか」 感謝を込めてうなずき、終夜は狐の姫さまに渡された砲に触れる。 「期待には応えないとな」 春奈は少し緊張した様子で、春炎は静かな闘志と共に同意した。 ●お手伝い 狐面の少女が異国風の長弓を構えていた。 大の大人でも引くのが難しそうな弦を引き、練達の武人でしかなしえない安定した体勢から矢を放つ。 矢は夕闇を切り裂き、アヤカシを追撃する志体持ち達を追い越し、都の闇に消えようとしていたアヤカシを射貫いて地面に縫い止めた。 ようやく追いついた部隊がアヤカシに止めを刺すのを確認してから、少女が狐面を外す。 すると、それまで周囲を圧していた強大な気配が消え、どこにでもいる…というには少々麗しすぎるが、一応は普通の範囲に属する女の子に戻る。 「はい、この班の治療は終わりました。他に必要な方は?」 「すみません! こっちもお願いしまっ…痛ぅっ」 着物に己の血を滲ませた男が悲鳴をあげる。 「無理はしないでください」 包帯と清潔な水の準備を周囲の者に指示してから、倉城 紬(ia5229)は怪我人の状態を確かめ、風の精霊に祈りを捧げる。 冷厳な冬の風とは異なる優しく暖かな風が怪我人を癒し、その見事な癒しの術に対する感嘆のどよめきが発生した。 「練力は残りませんね」 紬が小声でつぶやくと、撤収の準備を始めていた夏葵(ia5394)もこくりとうなずき自身も同じであることを伝えるのだった。 ●迎撃 今は深夜と夜明けの中間あたり。 店の明かりはほとんど消されて人の気配もない。 遠くからは浪士組のものらしい物々しい音が聞こえ、それに追い立てられるようにして近づいてくる足跡も徐々に近づいて来ていた。 「来たぜ」 ナザム・ティークリー(ic0378)は手についた埃を払いながら不敵に笑う。 闇に沈んだ通りの奥から、殺意と悪意が真っ直ぐに向けられてくる。 先程ナザムが組み立てたバリケード、具体的には店の椅子や机を組み合わせただけのそれは、隊列を組んでやってくるアヤカシ部隊と比べると頼りなく見えた。 春奈が大きく息を吸って、吐いて、己の中の恐れや緊張を吹き飛ばす。 「始めます!」 銀のフルートに唇を近づけ、己の世界に没入する。 冷たい夜の闇に、武勇とそれを為す者を讃える曲があふれ出す。 「金の為にしっかり仕事をこなしてやんよ」 押し寄せる殺意を笑い飛ばしてから、終夜は銃床を己の肩に当て、ようやく輪郭がはっきりし出した小鬼の槍隊に狙いをつける。 風はなく、バリケードから身を乗り出しているので障害物も無し。 距離以外は理想的な条件だ。 「俺の弾は一発5文…。それがテメーラの命の代金だ。派手に踊らせてやんよ!」 銃声が2つ重なって響き、隊列中央の小鬼がゆっくりと体勢を崩した。 ●実戦の洗礼 「当たらない…わけではないのですが」 闇の向こう側に矢を放ってから、紬はため息じみた息を吐く。 予想より敵の数が多く戦意も高い。 夏葵は1矢1殺してくれているが、このままでは射撃戦だけでは決着がつかず、白兵戦に持ち込まれてしまうだろう。一部装備を外して動き易さを確保してはいても、練力が尽きた分を補えているとは思えなかった。 さらに。 「左に、侵入するつもりの様です。何方か対応できますか?」 アヤカシの動きが部隊として優れている。 今も、傷ついて動きが鈍くなった少数が分離して歓楽街の奥へ入り込もうとしていた。 「俺が行く」 春炎がバリケードから飛び出、通りの端ぎりぎりを全速で駆けていく。事前に徹底して調べていたためか、速度が落ちる様子は全く無い。 「援護を」 狐面の射手から恐るべき精度の牽制が放たれ、シノビを狙おうとした槍の動きを一瞬止める。 「礼を言う」 春炎は振り返らず、建物と建物の間の小道に消えた。 「これが最後っ」 ダマスクス製の穂先から破壊の力が解放され、発見時と比較して半数にまで討ち減らされた槍隊を襲う。 が、小鬼とは一線を画する体格に分厚い装甲を纏った指揮官は、悲鳴をあげることも立ち止まることもなかった。 「さあて。余裕が無くなってきたな」 大きな狐耳が元気よく立ち上がる。 大好物であり最高の武器でもあるラクダは手元に無く、直前の魔槍砲連続使用で練力はほぼ空。 しかしナザムの心は闘志で満たされ、今にも鼻歌を始めても不思議ではない様子だ。 「頼むぜ志士さんよ!」 愁は返事の代わりに殲滅夜叉を構える。 長大で白い刀身は照明の赤い光を照り返し、妖しい魅力を感じさせていた。 アヤカシと開拓者の距離が詰まり、ナザムが両脇に厚く設置したバリケードによりアヤカシの速度が一気に低下し衝撃力が弱まる。 だが、アヤカシの槍衾が愁ただ1人へ集中する。 「っ」 緊張で表情が強ばっても、春奈の勇壮な演奏は止まらない。 鬼の号令と共に突き出された7本の穂先を、弧を描く殲滅夜叉が全てはじき飛ばす。 それを隙とみたのか、鬼の鉄拳が愁の喉元を狙う。 得物を戻すのが一瞬にも満たない時間間に合わないようにも見えたが、惨劇が展開されるより早くナザムがアヤカシ部隊の脇へと飛び出し、鬼の動きを牽制する。 愁は鬼の逡巡を見逃さず、強引に殲滅夜叉を戻して鉄拳をうける。 ぎしりという音の源は、鬼の拳か愁の刃か。 確かめるよりも早く、真横から伸びた曲刀が鬼の首元を切り裂く。 いつの間にか、勇ましい調べが敵の守りをかき乱す不協和音へと変わっていた。 「さすがに、堅いなぁっ」 ナザムは敵大将の首に固執せずバックステップ。 1秒ほど遅れて、寸前までナザムがいた空間を3つの槍が貫く。 鬼が首を傷を負い指揮ができず、個々に反撃する小鬼が部隊としての戦闘力を失っていく。 愁が敢えて大振りをすると、既に気力が尽きかけていた小鬼達はへっぴり腰になってしまい、射手に対して絶好の的となってしまう。 矢が頭蓋を貫く音が連続して響き、小鬼全てが倒れながら無色の瘴気に分解され、夜の闇に消えていく。 「強かったよ」 諦めず腕を伸ばそうとした鬼に、炎を纏った殲滅夜叉を振り下ろす。 最期まで、断末魔は聞こえなかった。 ●決着 主戦場で決着がついた頃、修羅のシノビと訓練を受けた小鬼3体が真正面から向かい合っていた。 地形を把握した春炎により、小鬼は逃げ道の無い袋小路に追い込まれている。 しかし主戦場の同属とは異なり、小鬼達は戦意を失わなかった。 細く粗末な槍を、気合いの声をと共に一斉に突き出す。 個々の狙いは甘く、1対1なら100度攻撃されても容易に防ぐことが出来ただろう。 しかしほぼ同時に繰り出された穂先は、春炎から回避するための空間を奪っていた。 「…っ」 春炎の呼気に怯えが混じっていると勘違いでもしたのか、小鬼の小さな顔に安堵と破壊へ喜びが浮かんだ。 しかしすぐに消える。 突然生じた木の葉が小鬼の目を惑わし、狭い空間で思い切り良く振られた棍が端の小鬼だけを打ち据え、半壊させる。 「来い」 修羅の瞳には侮蔑も油断も無く、相手を滅ぼす意志だけがあった。 絶叫と共に残る2本の槍が突き出され、棍が打ち払う。 小鬼が体勢を崩して湿った土の上に転がり、泥にまみれた小鬼がそれでも諦めずに立ち上がろうとする。 「そこまでだ」 終幕を告げる声が厳かに響き、小鬼の頸骨が折れる音が2回繰り返された。 ●夜明け 「みんな、おつかれさまっ。事前準備も戦い方も、すごく」 賞賛を言い終える前に、夏葵の体が不自然に揺れた。 「なっちゃんさんっ?」 春奈が慌てて抱き留めて介抱しようとして、夏葵が健やかな寝息をたてていることに気づく。 「1日中手伝いをしていましたから」 戦闘が終わってからようやく手伝いに来た中戸採蔵(iz0233)にちょっと冷たい視線を向けながら、紬が詳しく説明する。 普段は穏和で感情豊かな紬が迫力ある笑みを浮かべているのには訳がある。 人手不足に困った採蔵が2人に仕事を回し続け、練力だけでなく体力の大部分を消耗させてしまったのだ。 「後は任せて帰るか」 「そうですね」 夏葵は終夜に背負われる。 無言で助けを求める、自業自得な採蔵をその場に残し、開拓者達はうっすらとした夜明前の光を浴びながら帰路につくのだった。 |