|
■オープニング本文 もふらさま。 気は優しくて力持ちな、人に大きな利益を与えてくれる身近ないきもの。 好奇心旺盛だったり怠け者だったりたまに愛玩動物扱いされている彼等は、一応精霊でありかみさまの1柱だ。 だから、たまにふらりと遊びに出かけてしまうことだってある。かもしれない。 ●港の騒動 「もふらさまをかえせー」 「かえせー」 「かえせよう」 多数の飛空船が係留された港が、大勢の人々に包囲されていた。 運送業者、建築業者、農家に貴族の使用人まで、実に様々な人が集まっている。 「もふらさまに直接言ってください。私達はっ」 港湾担当の下っ端役人がなんとか宥めようとする。 「もふらさまかえせー」 「もふらさまがいないと商売あがったりなんだよう」 「もふもふー」 が、騒ぎが鎮まる気配は全く無い。 「勘弁してください。もふら様方も1度戻ってくださいっ」 涙でにじむ目で振り返る。 「もふ?」 地面からわずかに浮かんだ飛行船を興味深げに眺め、触り、左右から押して揺らして遊んでいたもふらさま達は「僕人間の言葉わかんないよ」と自分の口で答えてから飛空船乗組員の邪魔にならない範囲で新しい乗り物を楽しむのだった。 ●もふらさまを満足させろっ 「えー、みなさん。緊急の依頼です」 開拓者ギルドの職員が、必死に真面目な表情をつくりながらギルド内にいた開拓者に呼びかける。 「港をもふらさまが占拠…じゃなくて遊んで…じゃなくて…」 ギャグ時空の気配を察した勘の良い開拓者が立ち去っていく。 「と、とにかく、港にいるもふらさまをなんとかしてください。このままじゃ仕事にならな…あーでも単にもふらさまが港に転職するだけかも…いやいや、とにかくもふらさまをもとの職場に返してくださいっ」 関係者にとって切実な依頼であるため報酬は多めだ。ただしその分気苦労が多いかもしれない。 |
■参加者一覧
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
フタバ(ib9419)
15歳・女・巫
黒曜 焔(ib9754)
30歳・男・武
ルース・エリコット(ic0005)
11歳・女・吟
迅脚(ic0399)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●荒ぶる宣伝の構え 長期間の酷使でぼろっちくなった飛空船が、ゆったりと港の周辺を巡っていた。 通常の航路を外れた飛空船を不審に思う農民、職人、商人に兵士に貴族達。 しかし我らがもふらさまはのんびりと荷を運んだり仕事を済ませてごろごろしていたりする。 「荒ぶる鷹のポーズ!」 しゃきーんという効果音の幻聴を伴いながら、小柄な泰拳士が舳先で見事なポーズを決めた。 「さあさあもふら様、よってらっしゃい見てらっしゃい、飛空艇による空の旅! 我々開拓者がふんだりけったり…じゃない、いたれりつくせりのサービスを致しますよ!」 体格から想像し辛い元気で大きな声が、広い範囲に響いていく。 つかみを見事に成功させ、迅脚(ic0399)はエルレーン(ib7455)に宣伝の仕上げをうながす。 「ぐ、具体的にはこんな感じだよっ」 船の大部分を覆っていた防塵用カバーが外され、色とりどりの紙風船が甲板から飛び立っていく。 地上から見えるように目立つ色の旗が張り巡らされていて、おんぼろ飛空船とは思えないほど人目を惹き、人ともふらさまの目を引きつけていた。 「みんなっ、待ってるからねっ」 恥ずかしさを乗り越え、エルレーンが全力スマイルを炸裂させる。 数分後。 もふらさまだけでなく大勢の人々が飛空船の後を追っていくのだった。 ●港 前を見ても横を向いても下を向いてももふらさま。 そんなもふらさま一杯な環境でも、港の機能は正常に保たれていた。 開拓者が仕立てて船を待つもふらさまが、自発的に荷物運び、工事、その他様々なことを手伝っているのだ。 ルース・エリコット(ic0005)はもふらさまを掻き分けながら、もふらさまの相手で疲労の極みにある港担当役人のもとへ向かっていた。 「今回、は…」 大勢の人が集まり、荷物の上げ下ろしや移動で殺気立つ港は、人見知りの傾向のあるルースにとって非常に辛い環境だ。 けれど一度仕事をうけた以上、何があっても完遂するつもりだった。 「宜しくお願…」 上空に華やかな飛空船が現れ、高速で港の上空を通過していく。 現在港に集まっているのは飛空船に興味津々なもふらさま達なので、当然興味を持って一斉に動き出す。 「ふわぁ!」 もふらさまの進路上にいたルースはもこもこした柔らかな羽毛に包まれて、通りの向こうに運ばれていく。 「はい?」 気苦労で疲れ切った役人がルースの呼びかけに気づいて振り向くが、既にそこには誰もいなかった。 「もふらさまの悪戯かな。まったく…」 彼だけでなく、港だけでなく、天儀の人々はもふらさまに多いに助けられている。 だから、たまの我が儘くらい受け止めたくなる。 「お待たせしました。開拓者ギルドの者です」 柔和な雰囲気の中に凛としたものを感じさせる青年が、役人に近づいてくる。 「ああ」 役人の顔に安堵の笑みが浮かぶ。 「お待ちしておりました」 「いえいえ。こちらこそお待たせしました。もう少しで飛空船が1隻到着します。もふらさまにはその船を使って満足していただくつもりです」 見る者に信頼感を抱かせる黒曜 焔(ib9754)の爽やかな弁舌に、近くを通りがかった奥様方が惹きつけられる。 だが、役人の顔はゆっくりと絶望に染め上げられていく。 黒曜の視線がしょっちゅうもふらさまを向いて、そのたびに夢見るように輝くのだから仕方がないのかもしれない。 「こ、今回は…宜し、くお願い…し…ふ!」 気弱ではあっても依頼完遂の意志を感じさせる声が、役人の耳に届く。 もふらさまに注意を完全に奪われた黒曜を無視して声の方向を向くが、以前と同じように声の主の姿はない。 港を行ったり来たりするもふらさまの塊の中からルースの腕が突き出ていて、助けを求めるように動いていたが、残念ながら気づかれるまでかなり長い時間が必要だった。 「なあなあお役人さん」 もふもふに心奪われた黒曜に代わってフタバ(ib9419)が提案する。 「もふらさまももうちょっと自由になりたいんちゃうかな。職業選択の自由、みたいな?」 あくびをしながら荷物を運ぶもふらさまに、仕事の合間にひなたぼっこをするもふらさま。 仕事を嫌がっているようには到底みえないというかもう少し真面目に仕事しろよと言いたくなるのをぐっと堪え、フタバはもふらさまに真面目に働いてもらうための建設的な提案を続ける。 「もう少し気晴らしできる場所とか、あるとええのかもしれんですね」 ひなたぼっこにも飽きたらしいもふらさまが、はふうと一斉にあくびをする。 「は、はは。できれば、直接もふらさまを説得っ」 極度の心労からくる痛みに襲われ、役人は同僚に支えられて近くの医者の家に担ぎ込まれるのだった。 ●空の旅 「しゅっぱつしんこーお!」 フタバが整列させたもふらさまを乗船させ、華やかに彩られた飛空船が空へと飛び立つ。 「ここがかゆいんですか? 背中ですか?お腹? じゃあひっくり返ってください…え、それもめんどくさい? じゃあ私が押しますね…」 迅脚は甲斐甲斐しくもふらさまの世話をする…というよりもふらさまのもふもふを心ゆくまで堪能している。 毛の手入れをされ、凝った部分のマッサージをされたもふらさまが満足げな息を吐いて脱力し、お腹の下に潜り込んでいた迅脚も踏みつぶす…はずもなくもこもこで包み込む。 「もふらさまー、これじゃ他のもふらさまのお世話ができないですよ」 一応抗議らしきものはするが、迅脚は笑み崩れているため全く説得力がない。 もふらさまは自由気ままに、けれど船長以下の乗組員の注意はしっかり守って甲板を駆け回り、舷側から顔を出して空の風を楽しんでいる。 「次はおおきな河が見えるからね」 エルレーンは率先して観光案内をしている間、妙な違和感に襲われていた。 妙に大人しい。 白と赤のもこもこが甲板をぐるぐる回っている。けど、本来この程度ではすまないはずなのだ! 「おさけのにおい?」 甲板の中央で、多数のもふらさまが酒臭い息を吐いていることに気づく。 あるものは鼻提灯でいびきをかき。 あるものはほろ酔い加減で船の揺れにあわせて自分から揺れ。 あるものはすっかり酔いが回って、その場で飛んでいるつもりなのか腹ばいになって足をまたばたせさている。 「…酔うと、羽が生え…て飛ぶ様な、心持になる…と聞いた、ので…利用させて、貰い…ました」 気弱な口調で、けれど小さな拳に力を込めてルースが力説する。 「お、おう…」 「すげぇ発想だ」 船長以下の筋骨逞しい男達が、小柄で気弱に見える少女に心底から恐れおののいていた。 ●せっきょー 遊覧飛行で山、海、河、花畑に草原を巡り、大量に積み込まれたお菓子とお酒がほとんど無くなった頃、ついにリア・コーンウォール(ib2667)が動いた。 「もふら殿。もうそろそろ役人殿の言うことを聞いたらどうだ? 十分に遊んだだろう?」 甲板の上に正座して、背筋を美しく伸ばして熱心に、けれど決して押しつけがましくはなくもふらさま達を説得する。 「もう少し、役人殿で遊ぶ事は抑えてくれると」 新しい遊びと思い込んだもふらさまが正座しようとして失敗し、ころころと甲板中央に転がっていく。 小さなもふらさまがリアの膝にあごをのせてむふーと満足そうに笑みを浮かべる。 「遊ぶなというつもりはない。もう少し節度を…」 リアは厳しい口調で諭し、同時に優しい手つきで小さなもふらさまを持ち上げ脇に下ろす。 すると待ち構えていた次の小もふらさまがリアの膝に頭をのせ、甘えるようにころんと体の向きを変える。 その背後には、いつの間にか順番待ちの列ができていた。 「本当に私の従妹に似ているな、貴殿達は」 脇に下ろされたもふらさまがとてとてと移動し、順番待ちの列の最後尾に並ぶ。 「従妹が、複数いる…」 はやくはやくー、という悪意の全くない視線がリアの心と胃壁を痛めつける。 「…いや、もうな。あの子といい、あの子の母親といい…あの子の一族は皆同じ…。貴殿等もなぜ」 リアの蒼い瞳から光が消えていき、重苦しい気配がリアを中心に広がっていく。 「元気出せもふ」 「そうもふ」 自分のことを棚に上げ、リアの背や肩を撫でてくるもふさま達であった。 ●もふもふもふ もふらさまには個人差がある。 だが共通点もある。 もふもふだ。 「すばらしいっ」 両手を広げて抱きついても、体格の良いもふらさまはびくともしない。 それでいて柔らかな感触は小さなもふらさまと変わらず、優しく、暖かく押し返してくる。 黒曜は、最近迎えたばかりの小さなもふらさまを疎んじている訳では断じてない。 ちっちゃな気まぐれな甘えん坊のことは目の中に入れても痛くないほど可愛いがっている。 でもそれはそれ。これはこれ。別腹だ。 最高の抱き枕の感触を堪能していると、体格の割には可愛らしい腹の音が黒曜の意識を覚醒させた。 「すみません。空弁当を用意してきたので」 食べます? と聞くより早く、黒曜の前に大勢のもふらさまが集合していた。 身動きがとれない黒曜に代わり、空夫が数人がかりで船倉から運んでくる弁当に弁当に弁当。 重箱、寿司の折詰にお茶にデザートの月餅まで、誰からも不満のでない完璧な組み合わせかもしれない。 「そういえばうちの相棒にももふらさまおるんやでー。お迎えしたばっかでめっちゃかわいいんやわぁ」 「同感です。うちのも負けてないですけどね」 フタバと黒曜の視線が交錯する。 その瞬間。空間がぐにゃりとねじ曲がった気がしたのは、本当に気のせいだったのだろうか。 「そうれっおなかもふもふの刑っもふもふもふもふもふもふー」 船長にいたずらをしかけたもふもふんにお仕置き…という名目で一緒になって遊んでいるエルレーンの声が響き、共にもふもふ愛好家である2人の緊張が解ける。 「でもここに混じってたりせぇへんかちょっと心配やなぁ」 「同感ですけどさすがに空の上にまでは」 「そやね」 はっはっは。 2人が気楽に笑いあう中、2人の相棒であるおまんじゅうとゆきは、舳先に並んで空の旅を堪能していた。 ●問題解決 「迷子にならんようにな〜」 最後のもふらさまを見送ってから、フタバは真っ白なもふらを抱きかかえて振り返る。 そこには、帳面を凝視してしきりに首をひねる役人がいた。 「どしたん?」 「はい、ええ、その」 困惑がきわまった表情で、つっかえつっかえ言葉を絞りだす。 「もふらさまの数があわないのです。港周辺から来られた方はほとんどお帰りになったはずなのですが」 「確かに。残っているのは小さめももふらさまばかりですねー」 迅脚の言うとおり、飛空船と空の旅を満喫して帰宅したもふらさま達に比べて、港にとどまっているもふらさまの多くが小柄だった。 「いつの間にか新しくうまれていたとか」 まさかと笑い飛ばすこともできず、その場に残った者達は曖昧に笑ってごまかし、依頼の無事成功を祝してからそそくさと解散するのだった。 |