【初夢】宇宙幻想ロボ編
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/20 01:09



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 領有恒星系が100を越える星間国家が銀河列強と呼ばれている。
 巨大な経済、深遠な知恵、強大な軍備という武器を持つ彼女等ではあるが、主力軍を構成するのは数千年前に基本設計が確立した恒星間移動可能な戦闘機であった。
 数千年の間に大は恒星級機動要塞、小は微小機械からなる星系破壊兵器、果ては物理法則をねじ曲げる魔法少女まで開発され、その多くは戦闘機の性能を上回っていた。
 だが、戦略戦闘機の圧倒的な使い勝手の良さを上回る兵器は現れなかったのだ。

●ジルベリア
 地球経由で銀河列強とも国交を持つようになった、浮遊大陸国家ジルベリア。
 その国軍演習場において、1つの試作機が起動しようとしていた。
「おおー。これが第7世代アーマーですか」
 銀河帝国出身の技術者が目を輝かせる。
 数十年前に実戦配備された遠雷から発展してきたアーマーは、今回の試作機以降、恒星間移動能力を手に入れる予定であった。
「今では半ばレジャー用品ですよ」
 大帝似のジルベリア将官がほろ苦い笑みを浮かべている。
 人型兵器であるアーマーの力を引き出すには、練力と気を操る開拓者の存在が不可欠だ。
 しかし、魔をことごとく滅ぼした彼等は、剣を置くか精霊門の向こう側に消えてしまった。
 現在も騎士の養成は続いているものの、地球由来の戦車や航空機、銀河列強由来の廉価版戦略戦闘機がジルベリア国軍の主力なのだ。
「何分象徴的な機体ですので編成から外す訳にもいかず、開発費をまかなうため輸出にも手を出さざるを得ないので…」
 第7世代アーマーが無事完成した場合、近衛の儀礼用部隊に1小隊分配備された後は、民間仕様に手を加えられた機体が地球の富豪むけに販売される予定だった。
「帝国にも輸出されては? 最近地球産の娯楽動画が流行していますから、案外飛ぶように売れたりするかもしれませんよ」
「そうなって欲しいものですな」
 将官は穏やかに微笑むと、銀河帝国と比べると5世代は古い通信機を使って試験の開始を命じた。

●お約束の暴走
「ゲインが通常の5倍…50倍…計測器が振り切れました」
 テストパイロットから届いた報告に、管制は混乱しつつではあるが明確な命令を下した。
「現地点をもって実験を中止する。ただちに動力炉を停止しろ。最悪破壊しても構わん!」
「了解」
 テストパイロットを務める騎士は操作を受け付けない制御卓に見切りをつけ、オーラを込めた銃口を動力炉に向ける。
 生命の危機にオーラの量が一時的に増大し、かつての開拓者達と比べると弱くはあるが、アーマーをアーマーとして扱うための閾値を越えてしまった。
「なっ」
 感知装置があり得ない数値を示し、外部カメラの映像が途絶する。
 数瞬の後に予備カメラに切り替わると、見たこともない銀河を背景に、地球とは異なる色をした惑星が目に入ってきた。
「そこの所属不明機! 直ちに停止し投降しなさい! こ、こっちには戦略戦闘機だってあるんだからね。ちょっと旧型だけど」
「誠に申し訳無いが、まず貴官の所属を教えて欲しい、私は…」
 騎士が自分から所属と官姓名を名乗ると、通信機の向こう側の相手は数秒沈黙した後、烈火のごとく怒り出す。
「こんのー、田舎の農業星だからって馬鹿にしてっ。半径百光年以内にそんな星はないわよちくしょう」
 誤解を解くのに、数時間が必要だった。

●新世代機
 ジルベリアとその同盟国による緊急調査により、第7世代機の真の性能が判明した。
 パイロットの根性次第で百光年単位の跳躍が可能な機動性。
 宇宙災害級の高位存在相手でも、かすり傷程度は与えられる汎用的攻撃力。
 戦略戦闘機の製造能力を持たない国家でも建造可能な技術的要求水準の低さ。
 パイロットに志体または魔法行使能力が必要という欠点はあるが、戦略戦闘機を数機しか保有できない中小国でも千人単位でパイロットを確保できるのだ。第7世代アーマーの技術が広まれば、間違いなく全銀河の地図が激変する。

●争奪戦
 試作機と試作に関わったジルベリア側全技術者、および歴代アーマーの資料。
 今回の騒動で、これらの価値が暴騰した。
 具体的には、銀河列強が獲得または抹消ために総力戦を覚悟するほどの価値ができてしまった。
 ジルベリア政府は精霊門の破壊まで検討したが、残念ながら銀河列強の一部は次元間移動手段を確保している。列強に比べれば零細でしかないジルベリア単独での対抗は不可能だった。
「技術者と全資料を捨てるしかない」
「積極的に列強に売り込むべきだ」
「独立維持は不可能なのか。単独で無理なら地球も巻き込んでしまえば良い」
 内乱寸前の騒乱状態にあるジルベリアに、複数の銀河列強が派遣した、ジルベリアと地球を千回破壊できる巨大艦隊が迫っていた。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
からす(ia6525
13歳・女・弓
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
罔象(ib5429
15歳・女・砲
田中俊介(ib9374
16歳・男・シ
アリエル・プレスコット(ib9825
12歳・女・魔


■リプレイ本文

 銀河の地図を大きく塗り替えるであろう新技術の登場に気づき、複数の銀河列強が同時に動いた。
 緊急展開部隊を全て現地に向かわせ、各地の防衛軍から戦力を抽出して後を追わせる。
 その規模はまさに天文学的であり、地球に対抗手段は存在しないはずであった。

●狙われた地球
 免税店から出てきた青年が、何かに気づいたらしく晴れ渡る空を見上げる。
 建造中の軌道エレベータの向こう、他星系からの客を出迎えるための宇宙港のさらに向こう側に、1つの星系を相手にするには過剰に過ぎる大艦隊が浮かんでいた。
「珍しいな」
 拠点防衛用超光速万能人型兵器RAGOUMARU(羅喉丸(ia0347))であり、現在は人間としての生活を満喫中の彼は、両手に地元へのお土産を持ったまま人の流れに逆らわず歩いていく。
「出来れば大事にはならないで…欲しかったんだがな」
 銀河列強の艦隊から発進した戦略戦闘機隊が、その圧倒的な質と数を以て地球防衛軍外惑星防衛隊を吹き飛ばす光景を目にしてしまった。
 これがただの人間同士の争いであれば、RAGOUMARUは何もせずに地球を立ち去ったかもしれない。
 けれど、銀河列強の艦隊は惑星占領用の艦艇は含まれておらず、それどころか恒星破壊級の兵器がダース単位で含まれていた。
「ああ、帰りは遅くなりそうだ」
 土産の発送手続きを行い、自身に内蔵された通信機で地元に連絡を入れてから、RAGOUMARUは周囲に一切影響を与えることなく大気圏外へ飛び、そのまま戦場に向かった。

●銀河列強
 銀河列強全てが新技術を剥き出しの暴力で手に入れようとした訳ではない。
 長い歴史を持つ銀河帝国は豊富な人材の中から飛び抜けた1人を選んで権限と戦力を与えた。列強複数に大きな影響力を持つ銀河教団も秘密裏に動き出している。
 彼等の勢力はあまりに巨大に過ぎて、ジルベリアやその友邦にして隣人である地球はなすすべ無く踏みつぶされ、吹き飛ばされるかと思われた。
「我が国は提案を歓迎します。実現可能であればですが」
 ジルベリアの元首が、銀河の果てと繋がった通信機に向かい肯定の返答を行う。
「重畳」
 列強としては新参であり、規模的にも距離的にも他列強に対抗不能なはずのUDO(宇宙開拓機構)全権特使が、少女にしか見えない顔にかすかな笑みを浮かべる。
「ジルベリアと新技術を一時切り離す。利用に枷を嵌め衝突を鎮静化する条約が結ばれた後に果実のみをジルベリアに戻す。邪魔をする勢力もいるであろうが」
 からす(ia6525)は愉快そうに微笑む。
「伝説の逆鱗に触れたものがどうなるか、今近くまで来ている列強が実例を示してくれるだろう」

●伝説
 戦艦から放たれた質量弾が瞬く間に加速して光速の数万分の1に達する。
 1つでも命中すれば惑星が砕け散るに十分過ぎる攻撃が、実に千と数発。
 真っ直ぐに地球に向かう破滅の進路上に、人間の男性にしか見えないものが現れる。
「やらせはしない」
 腰を落とし、構えをとり、静かに腕をまわす。
 微量ではあるものの絶妙の機を捉えて放たれた気が、全ての質量弾の進路をねじ曲げていく。
 伝説の万能人型兵器がなすにふさわしい絶技ではあった。
 しかし人は進歩する。
 数千年の研鑽の果てに開発された兵器は、経験の蓄積を考慮に入れれば建造時を上回る力を持っているはずの伝説を、半壊させていた。
 列強艦隊は未だ原形をとどめる伝説に半ば恐怖しつつ、重厚な布陣を敷いて確実にRAGOUMARUを葬るため前進を開始する。
「ここは、通さない」
 動力炉の自爆機能の安全装置を解除してから、彼は数千の戦略戦闘機を迎え撃つのだった。

●ジルベリア
 銀河をまたにかけて交易からPMCまで手広く手がける星間企業ブラックシュート。
 その社長である田中俊介(ib9374)は、物珍しさに惹かれて集まって来た精霊(大部分はもふらさま)の相手を副社長に任せてテストパイロットの仕事をこなしていた。
「ふんふんなるほどね」
 劣悪を通り越して最悪な操縦性の機体を軽やかに飛ばし、十分なデータを管制に送ってから音を立てずに演習場に着地する。
 超長距離跳躍能力発覚後に改造を施された第7世代機は、俊介の眼鏡に適うだけの性能を発揮していた。
「これでようやく初代Heralldiaのロールアウト直後並みか。ようやくかとうとうのどちらが適当かな」
 若くは見えるが経歴的に年齢不詳の社長は、コクピットの中で不敵に微笑む。
 この機体は彼が持ち込んだ戦略戦闘機の部品が多く組み込まれている。今は大小様々な不具合を潰している段階で、無事に仕上がればジルベリアの旗機になるはずだった。
「社長。荷造りが完了したようです」
 社内暗号で通信が入ってくる。
「ん、出発後は任せる。逃げ時を見間違うなよ」
 副社長は不敵な笑みと共に敬礼をし、通信を切る。
 俊介は停止状態でもじゃじゃ馬な機体を慣れた手つきで宥めながら、コンテナと技術者が積み込まれつつ旧式輸送機を眺める。
「面白くなりそうだ」
 喉の奥から、血に飢えた獣のごとき唸りが漏れていた。

●伝説の人型決戦兵機
 宇宙を切り裂き巨大艦がこの世に顕現する。
 惑星間航行用超光速超弩級万能宇宙戦艦KEITO。
 はるかな昔に地球で建設され、幸福にも今まで出番が無かった超絶の武力は、壮絶な戦いで原形をとどめていないRAGOUMARUを回収して変形を開始する。
「羅喉と計都、まさか」
 列強艦隊の総指揮官が目を見開く。
 進路を塞ぐ人と船は、おとぎ話に謡われる存在と奇妙なほど似通っていた。
 胸中に生じた焦りと恐れを職業意識で塗りつぶし、司令官は冷静に攻撃継続を命じる。
 対するRAGOUMARUは、消えかけていた。
 通常の戦略戦闘機は彼の足下にも及ばないとはいえ、軍団規模であれば宇宙災害に対抗可能な兵器ではあるのだ。
 RAGOUMARUが永き時の果てに消え去ろうとしたとき、KEITOの中に残されていたメッセージが再生される。
 2個軍を単独で止めるのには無理があった。
 息子よ。人を。地球を頼む。
 自らの創造主からの言葉に、RAGOUMARUの魂に灯がともる。
 そして、羅喉と計都の変形が完了する。
 人類防衛用超光速万能大型合体変形人型決戦兵機ASURAOUは、膨大な数の砲門を超常の泰拳士のように操り超高速の戦略戦闘機軍団を撃ち落とし、骨法起承拳の神髄を再現した主砲で以て艦隊旗艦の防御に大穴を開ける。
 とどめる刺すために踏み込もうとし、超空間経由で通信が入っていることに気づく。
「既に侵攻能力は消えている。後片付けを任せてくれるなら貴公が面倒に巻き込まれないよう計らうが、如何?」
「魔女殿か。異論はない。お任せする」
 ASURAOUは拳をおさめ、太陽系中散らばる無数の損傷艦をUDO船籍の船に引き渡すと、一切の痕跡を残さず位相次元に姿を消した。
 その数日後、辺境の星に1人の若者がひっそりと帰還したが、星系内ニュースにすらならなかった。

●外交戦
 銀河帝国本領から級派された旗艦級戦艦の中で、武力を用いない戦いが行われていた。
「閣下、西教国が今回の件で銀河教団に同調しないことを確約しました」
「新共和国が条約についての追加条件を…」
 艦橋の中央には既知銀河全域を示す立体地図が表示され、白と黒の濃淡で色づけされていた。
 黒が最も濃いのは銀河帝国であり、同盟国、友好国となるに従い黒が淡くなっている。
 白が最も濃いのは銀河教団の本部ではあったが、純粋な白ではなく、銀河教団構成星系には黒に近い灰色のものまであった。
「銀河教団に本件技術を与えないのが最低条件です。他に関しては譲歩も認めます」
 最良の外交官や交渉人数千人に指示を与え終えてから、罔象(ib5429)は実に数日ぶりに短時間の休憩をとることに成功した。
「大使、銀河教団全てを排除するのは困難では?」
 帝国中枢からお目付役として送り込まれてきた皇族が懸念ではなく困惑を示しつつ、劇薬じみた回復効果を持つ薬草茶を差し出す。
 人脈と能力はあっても特に高貴な血筋ではない罔象は、非礼にあたらないよう慎重に表情を選びつつ詳しく説明することにした。
「彼等を甘く見てはいけません。膨張と分裂をあれだけ繰り返したにも関わらず教祖の影響力は未だに盤石なのです」
「そんな馬鹿な。っと失礼」
 皇族は一瞬呆然とし、すぐに己の失態に気づいて超然とした顔に戻す。
「構成国のほとんどでは世俗化が進んでいます。今回原理主義的な構成国が暴走し主力軍を失ったことで、短期的には教団の力は落ちますが中長期的には古の国連に匹敵する存在になりかねませんよ」
 ここ数世紀は表舞台に立たないのが慣例になっているとはいえ、皇族は高度な教育と正確な情報を与えられている。その1人である彼は、今回の罔象の行動に軽くではあるが懸念を抱いていた。
 彼女のこれまでの実績がなければ、既に更迭のため動き出していたかもしれない。
「幸福推進部という部署を知っていますか」
「はい。確か教団の教祖に似た、おそらくはクローン達で構成されている部署ですね。歴史は古いですが権威も権限もない部署のはずです」
 罔象がわざわざ口にしたのだからそれ以上の何かがあるのだろうと確信しつつ、あえて自分の知識通りに回答する。
「彼女を掣肘する部署は教団内部に存在しません。幸いなことに彼女は教団外に有力な人脈を持たず、強力な手駒を持たないから大人しくしていますが…」
 敵意でも恐怖でもなく、絶対に相容れないものを見る目を地図の白の部分に向ける。
「今回の新技術を渡せば銀河全体が危機に陥ります。…UDOに対し牽制を。遊撃艦隊5つと跳躍旗艦工場2つまでなら使い潰しても送りつけても構いません。なんとしても教団を、彼女を封じ込めるのです」
 劇薬を飲み干し、罔象は指揮を再開する。
「閣下! ジルベリア方面から複数の次元間跳躍の反応が感知されました」
「最高度の暗号を施した上で戦略戦闘機の通信網に現在の情勢を流しなさい。それで、最悪の事態だけは避けられるはずです」
 事態は混沌とし、どう収束するのか誰にも予測できなかった。

●蒼井 御子(ib4444
「どーします?」
「どーしましょー?」
 同型のクローン達が形成する銀河規模通信網で、かつてないほど活発な意見交換が行われていた。
 議題は、戦略戦闘機にとって代わりかねない新兵器をどう扱うかだ。
 扱う目的についてが議論されない。
 クローン達の目的は幸福の流布であり、目的に反するのならば銀河教団本体を敵にまわすことも辞さないのだから。
「とりあえず予算の全部を使って技術を集める方向でいきましょう」
「賛成」
「さんせー」
 階梯を登った教祖と比べると個々のクローンの能力は極めて低い。罔象麾下の1士官、1官僚にも及ばないだろう。
 だが宗教的情熱と呼ぶには不気味に過ぎる純粋な善意は、巨大すぎる銀河教団を徐々に1つの方向へ誘導していく。
 ほとんど無制限の技術拡散。
 銀河大戦に発展しかねない危険な流れは、UDOや銀河帝国とぶつかり合いながら加速していくのであった。

●神話の領域
 次元跳躍可能アーマーを見に次元を下ってきた鴇ノ宮 風葉(ia0799)は、予想のはるか斜め下の光景に直面していた。
「体を張った冗談のつもり?」
 ジルベリアに向かって跳ぶ銀河列強艦隊。
 効率を突き詰めたそれは壮麗と表しても誰からも文句は出ないだろう。
 しかし次元術士の頂点を極めた風葉から見ると、あまりに拙い技であった。
「これじゃ目立ちすぎて上から怪獣が寄って来かねないわ」
 上位の次元からするすると伸びてきた触手、ちなみに太さは星系規模で長さは銀河規模のそれを威力はともかく構造は初歩的な術で焼き切ってから、文字通り何もない場所で腕を組む。
 正直この場で消し去っても問題がない気もするが、必要の無い殺生は彼女の趣味ではなかった。
 銀河帝国の通信コードはまだ使えるかなと思いつつ1から超高度な通信術式を組んでいると、風葉でも見落としかねない微かな信号が届く。
「んー…Heralldia?」
 信号を億倍に増幅してから読み解くと、かつて同じ戦場にいた相手からの救援要請が現れる。
 読み進めていくとみるみる機嫌が急降下し、読み終わったときにはうんざりとしたため息をついてしまう。
「あのときのことは一時忘れてやるわ。とりあえずこっちは」
 風葉が指を鳴らすと、銀河列強の主力が強制的に通常空間に復帰させられる。
 突然母港に戻された彼等は、しばし呆然として思考すらできなかったという。

●人型決戦兵機
 精霊門を抜けて地球に降り立ち、燃料を補給してから大気圏を離脱、そのまま戦場跡を抜けて銀河中心に向けて旅立った旧式輸送機は、銀河文明の手荒い歓迎を受けていた。
「護衛部隊長。もうすぐ会合点だが反応はあるか」
「ないねー」
 俊介は新型機の中でくつろぎながら、輸送機からの問い合わせに対して彼なりに丁寧に答えていた。
「そう、か。東教国は裏切ると思うか?」
 アヤカシ駆逐後の数十年の平和は、ジルベリアの政治感覚を鈍らせたのかもしれない。
 無数の宇宙海賊と多数の非正規部隊を退けたとはいえ、一時雇いでしかない俊介に対して弱みを見せてしまっていた。
「状況判断の甘さと義理堅さが売りな国だね。取引相手としてはマシな方だと…」
 操縦席の全天モニターに違和感を感じた彼は、高速の半分まで増速して近傍宇域の小惑星の後ろに回り込む。
 そこには、動力炉と通信設備を念入りに破壊された、列強としては中堅どころの主力艦隊の残骸が漂っていた。
「出迎えは壊滅済みだね。戦略戦闘機部隊、おそらく総合AI直下の精鋭が来るぞ。全速で逃げるか白旗をあげるのをお勧めするね」
 俊介は何もない空間にエネルギー機雷をばらまき、これまで抑えていた力を解放し、短距離瞬間跳躍を行う。
 その直後、寸前まで彼がいた空間を無数の光弾が貫く。機雷が存在する空間に多数の重装戦略戦闘機がワープアウトし、機雷の爆発に巻き込まれて消えていく。
「な、何っ?」
 ジルベリアの輸送機は混乱している。
 俊介はジャミングをかけて輸送機の位置をごまかし、数百年ぶりに開放した己の力を広範囲にまき散らし、跳躍直後で動きが鈍った戦略戦闘機隊を蹴散らす。
 新たな伝説に相応しい戦果を得た俊介本人は、この戦場に見切りをつけていた。
「事前準備無しで総合AIとやり合うのはさすがにね…。給料分と契約分の仕事は済ませた。後はお嬢さん次第ってところかな」
 数千機に達する大部隊がワープアウトし、半数近くを俊介に撃ち落とされるのと引き替えに、対宇宙災害用の超高速弾道弾を発射する。
 起爆と完全に一致したタイミングで、俊介は隣の銀河に確保しているセーフハウスへと超長距離跳躍を行う。
 ご丁寧なことに新型機の残骸に見えるゴミを残し、そのまま退職金代わりに新型機を手に入れてしまうのであった。

●破滅のはじまり
 護衛を失った輸送機は、進退窮まっていた。
 第7世代の機体は全て損耗し、星系内運用しか考えられていない第6世代は射出と同時に撃破された。残るは大気圏内飛行能力を持つ第5世代と骨董品の第4世代のみ。
 万策尽きたジルベリア人達は、戦略戦闘機隊の生き残りに降伏信号を送ろうとしていた。

●堕天使
「ふふ、あはは…」
 ジルベリアを飛び立ってどれだけ時間が経過しただろう。
 はじめて見る星々。
 はじめて見る銀河。
 はじめて見る深淵。
 アリエル・プレスコット(ib9825)にとって、全てが輝かしい喜びそのものであった。
 弱々しい体でこの世に生まれ落ちた彼女は、清潔ではあっても狭くて単色の病室で生を終えるはずであった。
 だがあるとき訪れた軍属研究員によって全てが変わった。
 彼女の優れた知性と神経の性能に目をつけた彼等は、アリエルの親族に圧力をかけて買い取ってしまったのだ。
 試作機に搭載された彼女は次々に貴重なデータをもたらし、実現不可能とされていた第7世代への道を切り開いた。
 成果をあげた研究者達はより大きな権限を得、清濁併せ飲めるはずの軍高官でも目を背ける悪行に手を染めていく。
 パイロットスーツを取り上げられ、少しでも反応を良くするため素肌に電極を無数に取り付けられ。手足を解体され神経を機体に直結させられる。
 その全てを、アリエルは自ら望んで受け容れた。
 小さな小さな病室から解放された彼女は、成果をあげ続ける自分に対する賞賛と、初めて見る広大な世界に満足していたからだ。
 故に、これは必然なのかもしれない。
 試験跳躍中に超空間の奥深くまで踏み込んだアリエルは、銀河規模の超常存在と邂逅し飲み込まれ、喜びの中で吸収された。
 彼女の一部が残ったのは奇跡か悪夢か。
 どちらにせよ、彼女だったものを止められる者は、常世には存在しない。
「貴公は…」
 ジルベリア輸送機の指揮官は内心困惑していた。
 兵籍簿にも、非公開部署の人員のリストにも載っていない者からの通信など無視すべきだ。
 だが進退窮まった状況では、藁でもなんでもいいから縋らざるを得ない。
「試験機ヤディスの騎士に告ぐ。我らは銀河教団本部を目指している。護衛または障害の排除を願う」
「はい。わかりました」
 上半身が剥き出しの彼女は、どこまでも透明な、花咲くような笑みを浮かべてこたえる。
「ぜんぶこわしてからジルベリアにかえります」
 通常空間が揺らぎ、そこから人型の何かが現れる。
「な…」
 神々しい汚辱としか表現しようのない肉腫で覆われた何かは、輸送機を拿捕しようとした戦略戦闘機数機をまとめて飲み込み、汚染し尽くした。

●混沌
「幸せですかー?」
 また1つ、第7世代機の影響を受けたと思われる機体が爆発四散する。
 個々の機体の能力は現行の戦略戦闘機に劣り、操縦者の腕も戦略戦闘機乗りとしては並程度。
 そんな存在に対して、戦略戦闘機全てを司る総合AIHeralldia(ヘラルディア(ia0397))は、人間でいう苛立ちにあたる感覚を味わっていた。
 人間の試験からは、1人1人好き勝手に動いているようにしか見えない御子クローン達。
 だがHeralldiaの視点から見ると、1つの巨大な意思に導かれているようにしか見えなかった。
 これまで人類社会を引っかき回してきた教祖が動かしていると推測してしまうほど、クローン達は巧みに技術情報を集め、新技術を身につけつつあった。
「ヘラルディア、こちらはほぼ終わったわ」
 総合AIの超速の思考に匹敵する密度と速度の情報がもたらされる。
「石盤から現行のコンピュータまで、第7世代アーマーの資料は全部あの世行きよ。教団の技術者には思い出しにくくなる程度の暗示はかけた。後は乗り逃げの若作りパイロットと輸送機の連中くらいだけど」
 風葉は超密度超速度の通信に溜息をのせる。
「面倒だからそっちでお願い。私は私でやることがあるし」
 了解と感謝を表すデータが返ってきたのを確認してから、風葉はジルベリア輸送機の船倉で実体化する。
「これ借りるわね」
 現行機と比べると非常に小さい、骨董品の遠雷改造型に己の術式を重ねていく。
 対アヤカシ戦末期の凄腕が手がけた逸品らしく、フレームの強化と気密を確保するだけで風葉の力に耐えうる機体に変わる。
「後は〆のみ。とっととすませましょ」
 宇宙災害と化したアリエルは、ゆっくりとジルベリア向かっていた。

●御子退場
「これはいけません」
 数少ない御子クローンが、よろめきながら飛ぶジルベリア輸送機に辿り着く。
 左右を固めながら背後を振り返ると、かつてヤディスであり、今は全銀河から宇宙災害とみなされた超常の存在が、小は戦略戦闘機、大は惑星まで侵食して眷属に変化させ、巨大軍勢を築き上げていた。
 巨大すぎる存在感は御子クローン達の正気を削り、1人、2人と呼吸をする気力すら無くして死んでいく。
 それは輸送機の中のジルベリア人も同じらしく、接近途中に聞こえて来た誰何の声が聞こえなくなっている。
「幸せな女の子の邪魔をするのは趣味じゃないですけど」
 心が半壊したためだろうか。
 御子は、かつてこの世にいた教祖と見分けのつかない笑みを浮かべたまま、ジルベリアに向かい直接飛ぼうとした異形の前に立ちふさがる。
「…」
 口を開くより早く、本体と眷属から放たれた無数の高出力生体レーザーが御子を射貫いていた。

●術者自主退場
 ナイフ状の術式が人型の異形の関節を切り裂き、レーザーの照準を甘くさせる。
 御子を消し去るついでに近くの有人惑星を貫こうとしていた光条が拡散し、宇宙を禍々しくも美しく彩った。
「この次元から追い出すには燃料が足りないわね」
 食事もとらずに長時間超高密度な戦いを続けていたため、風葉の力は低下していた。
 いや、力そのものは落ちていないのだが、この状態で全力を振るうと力の制御がほんの少しだけ甘くなり、余波で物理法則がずれかねないのだ。
「近くの列強戦力は全滅。上から関係者が降りてくる気配もない。…これは詰んだかしら」
 出来れば使いたくない超常の術式を用意しながらつぶやく。
「とおしてください」
 宇宙災害の中枢で、構成要素が高次元のものに入れ替わった少女が微笑む。
「古参の戦闘機娘に言いなさい。…後任せたわよ。下手打ったら上から笑ってやるからね」
 戦略戦闘機が1機だけ通れる使い捨て精霊門を開いてから、風葉は休憩をとるために上位次元へ帰還していくのだった。

●真・人型決戦機
 直径1万光年の人類側戦力は壊滅した。
 遠方の銀河列強が救援艦隊を向かわせているが、たどり着く頃にはジルベリアも地球も周辺宙域全てが冒され、宇宙災害の一部に成りはててしまうだろう。
 上の次元から介入があったとはいえ、戦略戦闘機1機を数万光年移動させるのみではどうにもならない。
 風葉ともう1人を除き、誰もがそう考えていた。
「みおぼえが」
 アリエルの形をした何かが首を傾げる。
 霧散していく精霊門を突っ切って現れたのは、軍に限らず教育機関であれば必ず一度は教えられる存在であった。
 大気圏内での戦闘が重視されていた頃に主流だった、今では超大規模博物館でしかお目にかかれない形状の航空機型戦略戦闘機。
 かつて銀河の戦力図を一変させた、はじまりの1機であった。
「排除を開始します」
 Heralldiaが加速する。
 自らが実戦にでるのは久々で、無理な長距離跳躍で機体は絶不調。
 対するは歴代最強級の宇宙災害で、成り立ての眷属1体でも戦略戦闘機1小隊分の力がある。
 にも関わらず、Heralldiaに攻撃があたらない。
 光速の攻撃手段も混じっているのに、攻撃をしかけた時点で当たらない場所にまで移動し終えている。
 才に差はないかもしれないが、積み重ねた戦闘経験の差がこれ以上ないほど残酷に結果に表れていた。
「あー、まー?」
 既にHeralldiaは航空機の形をしていない。
 変形して人型の姿を顕わにし、最良の第7世代アーマーに匹敵する力を最良の戦略戦闘機のやり方で運用し続ける。
 たった1発の銃弾が惑星級にまでふくれあがった災害の外皮を吹き飛ばし、静かに手放した光刃が星系規模の弾幕をすり抜け、アリエルの額に突き立つ。
 宇宙災害とその眷属達は、季節外れの雪のように、何も残さず溶けて消えた。

●新秩序
 宇宙災害が第7世代アーマーのなれの果てだった事実は隠蔽された。
 第7世代機の実物と資料が謎の紛失を遂げたことで、ジルベリアに対する関心は急速に低下する。
 そんな状況でも銀河帝国は強硬にアーマー技術の管理を目的とする体制作りを目指し、多くの勢力を困惑させた。これまでの反動でアーマーの将来性を過小評価する勢力が多すぎたのだ。
「さて。誰が勝ったのやら」
 UDOはジルベリアに残った遠雷とその資料を高額で、ただし全銀河が注目していた頃と比べると異様な安値で買い取った。
 国家としては小規模なジルベリアですら100年もかからず第7世代にたどり着いたのだ。列強の一角であるUDOならば短期間で戦略戦闘機を上回るものを造れるかもしれない。
 技術に関しては最も割を食った形の銀河教団は、総合的に判断すると今回の勝利者かもしれなかった。
 教祖のクローンが身を挺して時間を稼いだ様子が華々しく銀河全土に放送され、これまで教団の影響力が薄かった場所にまで浸透し始めているのだ。
「前任者があれだとプレッシャーが…。し、幸せですかー」
 銀河は変化し続け、今日も続いている。

●未来
「ふふ。夕焼け包まれたジルベリアって、こんなに綺麗なんだ」
 ジルベリア大陸の上空に姿を現した彼女の目には、朝靄に包まれた緑と白のジルベリア大陸が、夕焼けの色に染まって見えていた。
 高位の存在は体を消滅させた程度では消えない。
 最も新しい宇宙災害が本格的に動き出すのは、このときからである。