【城】湧き出すもの
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/29 23:43



■オープニング本文

 何百年、あるいは何千年、ひょっとしたらその数十倍。
 あるものが狭い空間に閉じ込められていた。
 おそらくはただの偶然により、アヤカシに変じることなくただ有り続けていた瘴気。
 鉱山開発の過程でその幸福な空間にひびが入り、瘴気が外へと流れ出す。
 すぐに外から何かで防がれたようだが、もはや流れは止まらない。
 中級アヤカシ複数と下級アヤカシ数百を形作れるだけの瘴気が、勢いよく渦巻き始めていた。

●急報
 城塞都市ナーマの支配地で大量のアヤカシが現れる可能性有り。
 密偵の活動でその情報を掴んだナーマの取引相手達は、半ば恐慌状態に陥っていた。
 既に、ナーマが輸出する大量の穀物を前提に動きはじめていたからだ。
 ただし、当事者であるナーマはほとんど動揺しなかった。
 民兵を召集して城壁に配置。ジン隊とからくり隊を都市防衛任務から外し、アヤカシに占拠された可能性のある地下鉱山への攻撃隊を編成する。
 アヤカシとの抗争を勝ち残ってきて彼等にとって、この程度、日常でしかないのだ。

●妖の影
「瘴気溜まりの真上に開拓者の城とはな」
 知性と力を感じさせる声が、水が無さ過ぎて人の気配がない荒野に響いく。
「仕方があるまい。本命は後回しにして小さなものから開封する」
 乾いた大地が、みしりと音を立てた。

●依頼票
 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助
 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任される
 領主から自由な行動を期待されており、大きな問題が出そうな場合に限り領主が補佐することになる

●城塞都市ナーマの概要
 人口:普 零細部族から派遣されて来た者を除くと微になります
 環境:普 ごみ処理実行中。水豊富。空間に空き有
 治安:普 厳正な法と賄賂の通用しない警備隊が正常に機能中
 防衛:普 城壁が機能を回復。増築工事は進行中
 戦力:普 ジン数名とからくり12人が城壁内に常駐。戦闘用飛空船込みの評価です
 農業:良 開墾余地有り。麦、豆類、甜菜が主。大量の水と肥料と二毛作を駆使しています。牧畜有
 収入:普 周辺地域と交易は低調。遠方との取引が主。民兵動員中につき一時低下。一定期間後に鉱石買取価格低下の可能性高
 評判:良 好評価:人類領域(一地方)の奪還者。地域内覇権に最も近い勢力 悪評:伝統を軽視する者
 資金:良 鉄鉱石を大量採掘大量売却。今回の民兵動員に関する費用は消費済。大型氷砂糖が一年先まで予約済
 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。1つ以上の項目が滅になると都市が滅亡します

●都市側からの要望
最低眼、鉱山の外にアヤカシが出てこないようにしてください

●資金消費無しでも実行可能な行動例
ある行動を行った際の必要資金と必要期間の予測
対外交渉準備 都市周辺勢力との交渉の為の知識とノウハウを自習します。選択時は都市内の行動のみ可能。複数回必要

●資金投入が必要な行動一覧
都市、鉱山間を結ぶ道をつくります○ 最低限一ヶ月間必要
小型飛行船1隻購入○
民兵装備を長射程銃に更新○
飛空船関連事業○ 資金一段階分強を投じ、人材と設備を引き抜いてきます
×現在実行不可 △困難 ○実行可

●都市内組織
官僚団 内政1名。情報1名。他3名。事務員有
教育中 医者候補4名、官僚見習い20名
情報機関 情報機関協力員十名強
警備隊 約百名。都市内治安維持を担当
ジン隊 初心者開拓者相当のジン7名。対アヤカシ戦特化。城壁完成まで都市内警戒中
農業技術者集団 学者級の能力のある者を含む3家族。農業指導から品種改良まで担当
職人集団 地方都市にしては高熟練度。技術の高い者ほど需要が高く、別の仕事を受け持たせるのは困難
現場監督団 職人集団と一部重複
からくり 同型12体。見た目良好。駆け出し官僚見習兼見習軍人
守備隊 常勤は負傷で引退したジン数名のみ。城壁での防戦の訓練のみを受けた230名の銃兵を招集中。招集時資金消費収入一時低下。損害発生時収入低下

●住民
元作業員が大部分。現在は9割農民。正規住民の地位を与えられたため帰属意識は高く防衛戦等に自発的に参加する者が多い。元流民が多いため全体的に技能は低め

●雇用組織
小型飛空船 船員有。ナーマと外部の連絡便

●都市内情勢
甜菜。麦二毛作
妊婦の割合高め
食料庫が足りません
身元の確かなものが余暇を使い水源周辺清掃と祭祀見習いを担当

●軍備
非志体持ち仕様銃600丁。志体持ち用魔槍砲10。弾薬は大規模防衛戦2回分。迎撃や訓練で少量ずつ弾薬消費中
飛空船(装甲小型1隻)。都市・鉱山間であれば辛うじてからくりが運航可能です

●領内主要人物
ナーマ・スレイダン 故人。初代ナーマ領領主。元大商人。極貧層出身。係累無し。性格最悪能力優
アマル・ナーマ・スレイダン 第二代ナーマ領領主。からくり。人格未成熟。内部の権力は完全に掌握中

●ナーマ領域内地図
調査可能対象地図。1文字縦横5km
 漠漠漠漠
漠漠漠漠漠漠 オ。小オアシス複数
漠漠穴漠漠漠 道。道有り。砂漠。安全
オ漠漠都漠漠 穴。洞窟の入り口有り。砂漠。
漠漠漠道漠漠 都。城塞都市あり。砂漠。安全
 漠漠道漠  漠。砂漠。比較的安全

●鉱山側面図
   ○○入
   ○   穴
   ○   穴
未荒○○○○○○○採瘴

空白部分は地下の通行不可能な場所か地上
穴:空気穴。人は通れません
入:入り口
○:洞窟
採:作業員が採掘を行う地点です
未:落石、崩落等の危険有り。探査に時間がかかり、アヤカシ出現時、急ぎの作業時はさらに危険度増大
瘴:天井は補強済み。濃い瘴気が壁の亀裂から漏れ続け、アヤカシが現れ続けていると思われます。簡易バリケード設置済み

●交渉可能勢力一覧
王宮 援助等を要請するとナーマの威信が低下し評価が下がります
定住民系大商家 継続的な取引有。大規模案件提案の際は要時間
ナーマ周辺零細部族群 ナーマに対し好意的。ナーマへ出稼ぎを多数派遣中。経済・軍事に関する提携開始
東隣小規模都市 ナーマと敵対的中立。外部から援助され経済回復。外部から訪れた者に対する身元調査を行っています。ナーマとの勢力圏の境にある小オアシスを確保
上記勢力を援護する地域外勢力 最低でもナーマの数倍の経済力有。ナーマに対する直接の影響力行使は裏表含めて一切行っていないため、ナーマ側から手を出すと評判に重大な悪影響が発生する見込

●交渉不能勢力一覧
 前回OP参照

●敵戦力
アンデッド系全般。時間と共に数が増加。一定数で増加停止
城塞都市の兵を使わず開拓者のみで急行した場合、吸血鬼1(能力高・吸血・状態異常系スキル有)、スケルトン系30との戦いになります
戦場は幅3メートル高さ3メートルの洞窟。補強済みの場所でも、高位開拓者の全力に耐える強度はありません

   ○
未荒●○○

上記●の部分のみ広くて頑丈で、流れ弾有りの広範囲攻撃術を使わない限り戦闘に悪影響はありません。地上に逃げられる可能性があります


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
将門(ib1770
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
エラト(ib5623
17歳・女・吟
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文

●全滅寸前
 城塞都市ナーマの支配下にある鉱山の入り口で、数十名の男達が慌ただしく作業を行っていた。
 敵に対する盾とし、逃げるときには障害物とするため、障壁を慣れた様子で組み上げていく。
 障壁は、鉱山奥に対するものだけではない。
 鉱山への侵入者を防ぐための障壁も、同時に組み立てていた。
「隊長! 内部から破裂音が!」
 作業に参加せず、洞窟の奥で最奥にいるはずのアヤカシの動きを探るという最も危険な任務に従事していた守備隊員が、恐怖で顔を引きつらせて障壁の内側に駆け込んでくる。
 隊長は奥歯の一部が砕けるほどに噛みしめてから、目にだけ激情を浮かべ、冷静な声で命令を下す。
「只今をもって作業を中断する。からくり隊が到着するまでこの場を固守する。以上だ」
 この場から離れるという選択肢はない。
 ここ以外では、城塞都市ナーマにしか有力な防御施設が存在しない。ここで逃げてもアヤカシに追いつかれ全滅する可能性が高いのだ。
「隊長! 所属不明の飛空船が」
 今度は洞窟の外から聞こえて来た報告に、隊長は混乱で歪みそうになる表情を必死の思いで制御しながら、偵察のため自身を含めた数名を洞窟外に向かわせた。

●救援
「旦那、アヤカシの反応はありますかい?」
 商用小型飛空船の甲板で、船長が航海士を務める玲璃(ia1114)に質問をしていた。
 ここはナーマ領に入って数キロの地点。
 ほぼ全速力で鉱山に向かっててはいるが、鉱山はまだ見えない。
「いえ、全く。砂漠の地表にいたアヤカシの排除は済ませたとはいえ、自然発生したアヤカシやナーマ領の外から侵入したアヤカシがいるかもしれません。空夫の方々に警戒をお願いしてください」
 玲璃は自らを中心とする半径数十メートルの対アヤカシ用索敵結界を展開している。地上での対アヤカシ戦では過剰なこともある効果範囲だ。が、地表から離れ速度も出る飛空船では物足りなく感じることもある。
 やがて飛空船が鉱山の上空に到着すると、それまで操舵手をしていたルエラ・ファールバルト(ia9645)は後を相棒のからくり泉に任せ、備え付けの滑空艇を使い鉱山入り口である洞窟に急行した。
「全員いますか? ならすぐに乗船して後退してください。鉱山内のアヤカシの排除は我々開拓者が行います」
 それまで鉱山を守っていた全員から、無念と安堵の入り交じったため息が漏れる。
「よろしくお願いします」
 隊長は代表して頭を下げ、急速に降下してくる飛空船に全員を誘導していくのだった。

●地の底で
 堅い岩から削りだしたようにも見える、しかし明らかに強度が尋常ではない大型盾を構え、複数のスケルトンが一定の速度で洞窟の奥から押し寄せてくる。
 アレーナ・オレアリス(ib0405)は自らの後退する速度を調整し、アヤカシが狭い場所にさしかかったときに前に駆けだし、精霊力に満ちた刃を鮮やかに振り下ろす。
 片方のスケルトンは何かに導かれるようにして後退し、もう1体は盾を掲げてアレーナの一撃を防ぐと同時にアレーナを吹き飛ばそうとする。
 練度の高い部隊じみた動きに内心驚きはしたが、アレーナの太刀筋に乱れはなく、分厚い岩の盾を半ばまで切り裂き、反撃を警戒して舞踏のような優雅な動きで数歩後退する。
 盾に見えたものは実際にはアヤカシの一部のだったようで、断ち割られた箇所が岩から塩に、最終的には瘴気になって通路に漂い出す。
 だが瘴気は非常にゆっくりとしか霧散しない。
 今、地下洞窟内の瘴気が濃すぎるのだ。
「時間をかけれそうにねぇな。おいあんた、一旦下がるぞ」
 後方からアルバルク(ib6635)が呼びかけ、極限まで無駄を削った動作で猛烈な援護射撃を開始する。
 後退するアレーナを追おうとした重装備スケルトン達は、装甲に覆われていない頭や関節部を狙われ、急速に速度を落としていった。
「敵の数は分かるか?」
 アルバルクは、地上と地下を結ぶ大穴の底で仲間の配置を調整しつつ、偵察に意識を集中している玲璃にたずねた。
「29…いえこれは」
 玲璃の秀麗な顔に深刻な表情が浮かぶ。
 一部のアヤカシの反応が朧気で、消えたり現れたりを繰り返しているのだ。
 その旨を隠さず報告すると、アルバルクはばりばりと音を立てて自らの髪をかきむしった。
「あんたの知覚力に抵抗するってことは基礎能力が高い上に抵抗持ちか、最悪上級アヤカシだな」
 お供の羽妖精に最初から全力で行くよう言い含めてから、それまで意識して浮かべていた剽げた雰囲気を完全に消し去る。
「悪ぃがこっちはそろそろ燃料切れだ。後は頼むぜ」
 戦闘準備とこれまでの動きの効率化で練力をほぼ使い果たし、アルバルクの動きがそれまでと比べて鈍くなる。当然牽制射撃の密度も低下し、足止めされていたアヤカシ達が狭苦しい地下洞窟から広大な空間に一斉に飛び出てくる。
「そう来たか」
 将門(ib1770)の口元に不敵な笑みが浮かぶ。
 スケルトンを従え現れたのは、均整のとれた体を無地の白布で覆った、1体の吸血鬼だった。
 歳経たアヤカシのような老練さは感じられないものの、開拓者達の肌を泡立たせるほどの冷気を発している。おそらく、その身に秘めた力は上級まではいかなくても中級は確実にある。
「行きますっ」
 将門と歩調をあわせてルエラが駆け出し、すぐに鋭い声で警告する。
「数体壁を登っています!」
 霊剣に精霊力を導き、矛を構えた骸骨を一刀両断にしつつ、敵の別働隊の存在を仲間に知らせる。
 しかし数の差は数倍だ。
 将門とルエラが数秒で1体のスケルトン剣兵を切り捨てても、2人の横を回り込んだスケルトンが2人だけでなく開拓者後衛を包囲し、さらにその外側を小型のアヤカシ達が上に向かって移動していく。
「おじさんっ!」
 羽妖精のリプスが、練力を全て注ぎ込む勢いで刃を光らせて一閃し、自身と主に向かってきたスケルトン部隊全体を牽制する。
 アルバルクは短い時間で良く狙い、宝珠銃を両手で構えて引き金を引く。
 小型の、人と獣の骨を組み合わせた外見のアヤカシが、岩肌を掴み損なって宙に投げ出される。
 落下の軌道は偶然にもルエラの頭部を斜め後方から直撃するものであった。
 が、ルエラは視線を向けることなく白く輝く刃を振るい、地下の空気に混じり瘴気ごと、飛来した異形の骸骨を砕き、固い地面にたたき落とす。
 それを隙と見たスケルトン達が一斉に彼女に向かう。
 ルエラは驚きも恐れもせず、障壁を展開した盾で攻撃を受け流し、精霊力込みの一撃で確実に敵陣にダメージを与えていく。
 アレーナが骨を塩に変え、将門が純粋に強くて早い刃で頭蓋骨を切り飛ばし、大量の敵と拮抗するだけでなく徐々に押し返す。
「来るぞ!」
 将門は眼前の重武装スケルトンを強引に蹴り飛ばし、連携が崩れるのを承知で無理矢理に前進を開始した。
 吸血鬼が何を企んでいるか気づいたのだ。
 未起動状態のからくりじみた、生まれたばかりの吸血鬼。その瞳が見開かれ、人の精神をむしばむ呪いが開拓者の瞳に押し寄せた。
 ルエラとアレーナを中心に展開されていた、玲璃が仕込んだ結界が弾けて飛び、ルエラを覆っていた精霊力の護りが砕け散る。
「おじさん、上に何匹が行ったよっ」
「今はこっちに集中しろ!」
 アルバルク主従は意識を取り戻しかけたスケルトンを無視し、虚ろな視線で振り返りかけた美女2人にしがみつく。
「畜生っ。この嬢ちゃん達の抵抗抜くってどれだけ強いんだ」
 アルバルクは辛うじて押さえ込めてはいるが、リプス達相棒は軽々とはね飛ばされてしまう。
 エラト(ib5623)が精神を安定させる曲を奏でて意識を取り戻させる。一度に数人まとめて回復させる術が癒したのは、一人だけだった。
 曲を弾き続けることで数秒後には全員が正常な意識を取り戻す。だが吸血鬼も魅了の力を駆使して、高確率で抵抗を抜ける開拓者を2人ずつ魅了し続ける。
 玲璃が即座に癒しの術をかけてくれているから辛うじて重傷者は出ていない。からくりの庚も主の命を受け前線に出るが、実質3人以上が戦えなくなった開拓者側は一方的に押されようとしていた。
「何故?」
 勝利に手をかけたはずの吸血鬼から、泣き出す寸前の気弱な声がこぼれる。
 後方の大混乱と敗勢を無視し、将門が一直線に吸血鬼に向かってきているのだ。
 スケルトンに命じて食い止めようとはしたが、知識はあっても実戦はこれが初めての新生アヤカシでは、激変する状況に有効な部隊指揮などできるはずがない。
 将門に魅了の視線を向けても、将門は表情も変えずに距離を詰めてくる。実際には気力で無理やり抵抗を押しのけ、全身から大量の冷や汗と脂汗を流してはいるのだが、経験の浅い吸血鬼は将門の消耗に気づけない。
「誇るが良い。貴公はナーマ史上最も開拓者を追い詰めたぞ」
 救清綱が松明の明かりを照り返し、将門と吸血鬼を赤く染める。
「あ」
 吸血鬼が何かを言おうとし、しかし言葉が形を為すより早く、冷たい刃が美しい断面を残し首を切断する。
 刃は速度を緩めず幾度も振るわれ、驚愕の表情を張り詰めたままの頭部を微塵に砕くのだった。

●最終防衛線
 洞窟入り口を将門のからくりに任せ、篠崎早矢(ic0072)は相棒の鷲獅鳥と共に準備を進めていた。
 はやせと名付けられたグリフォンは、全力で飛翔しつつ戦うには少々狭い洞窟、正確にはかつてこの地に立っていた城の残骸を利用した人工洞窟の中を歩き回り、戦場予定地を五感で確認している。
 早矢は100をはるかに超える矢を地面に突き刺し、万が一のアヤカシ大量発生に対する備えを着々と整えていた。
「飛んで戦えますか?」
 はやせと視線をあわせると、肩をすくめるような気配ではやせが息を吐く。
 どうやら、騎乗しての戦闘は諦めた方が良いようだ。
 それから数分が過ぎる。
 アレーナ達が地下に降りて十数分経過し、アヤカシが地下で撃滅され自分の出番がなかったのではないかと思い始めたとき、洞窟の奥から空気の揺れが伝わって来た。
 それはあまりにも微かであり、耳でも肌でも感じることが難しかったけれども、弓術師として訓練と実戦を重ねた早矢にとって捉えるのは容易に感じられた。
 そして知覚したときには、片手で数本の矢を地面から抜き、既に構えた弓に番え、闇の奥底から飛来するそれに照準を合わせていた。
「可変?」
 怪鳥風スケルトンとでも表現すべきだろうか。
 混沌とした外見のアヤカシに対し、早矢は全く隙を見せずに複数の矢を放つ。
 1体は胴体部を破壊されて瘴気に戻り、1体は羽を砕かれて地面に転がりはやてに踏みつぶされる。
 同時に放たれた3の矢、4の矢は、どうやら自然発生したらしい不定形のスライム未満を射貫いて元の瘴気に戻す。
「1体侵入!」
 後方、つまり外部から、先程の骨鳥とは異なる真っ当な怪鳥が侵入してくる。
 洞窟侵入までにかなりの加速を行っていたようで、矢を命中するのは難しいようにも見えた。
 とっさに振るった早矢の拳は回避される。
 だがそれは失敗ではなく早矢の狙い通りだ。回避のため向きを変えた怪鳥は、はやての目の前に誘導され、鋭いくちばしに一刺しされて止めを刺される。
「申し訳ありません」
 怪鳥を追ってきた焔が恐縮する。
 それを宥める早矢の内心に警鐘が鳴り響いていた。
 主に最前線はまだ早いと言われたらしい焔。しかし早矢の目から見れば、焔は一端の使い手であり戦術的な判断もこなせている。
 そんな彼女が、並みより大きかったとはいえ怪鳥を仕留め損ない洞窟への侵入を許す?
 あまりに不自然だった。
「高位のアヤカシの命令を受けたから?」
 仮説が思い浮かぶが、仮説が真実かどうか確かめる術はない。
 早矢は思考を切り替え、再び手分けして洞窟の入り口を固めるのであった。

●異変
 吸血鬼が倒れた後の展開は早かった。
 指揮官を失ったスケルトン達は目の前の開拓者に攻撃することしかできなくなり、開拓者の戦力結集を許し、それまでの拮抗した戦いが嘘のようにあっさりと殲滅されたのだ。
 地上への進出を目指したアヤカシは、文字通り全滅した。
 体力、練力、精神力の全てを消耗した開拓者達ではあるが、このまま放置はできないと判断してエラトによる超広域瘴気祓いを試みる。
 次々に現れる、しかし最初に遭遇した吸血鬼とその配下と比べれば明らかに劣るアヤカシを退けつつ、実に3時間にも及ぶ演奏の後にエラトの術は発動する。
 最初に訪れたのは小さな横揺れだった。
 天井部分から少量の砂埃が落ちてくる程度の、かすかな揺れ。
 ただし1カ所ではなく洞窟全体が揺れていた。
 そして、揺れがおさまってから1分近く経過した後、大地の奥底から何かが砕ける音が響く。
 アレーナが相棒に人魂を使わせて偵察したところ、地形はアヤカシが現れる前とほとんど変わらなかった。
 ただ1カ所、アヤカシが湧き出した場所は極小規模な崩落が発生して塞がれていた。
 これ以上の調査は時間的にも体力的にも困難と判断した開拓者達は、鉱山の入り口を厳重にバリケードで囲み帰還することになる。

●ナーマ大城壁
 簡素な砦であれば、打ち付けるだけで破壊できそうな太い丸太。
 それを両側から支える小鬼達が、遠方からでもはっきりと見える白い城壁に近づいていた。
 城壁の上には銃器を装備した非ジンの兵士達がいるが、数は少ない。
 複数の小鬼部隊が東西南北から攻め寄せ、ナーマ側の戦力を分散させているのだ。
 数が少ない銃撃ではアヤカシの足を止めることは難しく、小鬼部隊は外壁周辺の牧草を踏み荒らし、総員の全力で丸太を叩きつけた。
 コンクリート製の白い壁の表面にかすかな凹みができるのと引き替えに、丸太は砕け散り破片に襲われた小鬼がその場に倒れ伏す。
 そこに城壁から銃弾が降り注ぐが、当たらない。数十メートル先を高速で動く的に高確率で当てることの出来る高位開拓者と非ジンでは、戦闘能力が違いすぎるのだ。
 小鬼達は傷ついた体を引きずって逃げようとし、振り返った時点で己の目を疑うことになる。
 いつの間にか、大型のアヤカシにも匹敵する巨体を持つ何かがその場に立っていた。
 ジルベリア帝国標準アーマー遠雷。
 外見的には平凡そのもののそれは、平凡とはかけ離れた速度と正確さで得物を構える。
 構えたときにはチェーンが回転を始めていて、チェーンに埋め込まれた刃が視認出来なくなる頃には、地面と水平に超高速で振り抜かれていた。
 アヤカシが消えた牧草地で、得物を腰に戻したアーマーがその場に跪き、装甲の一部を跳ね上げる。そこから体を抜き出し地面に着したのはアナス・ディアズイ(ib5668)。直前までナーマ大城壁の内側で工事を進めていたジルベリア騎士である。
「高効率は余裕の無さに通じる、ということですか」
 懐から取り出した、みっしりと書き込まれた計画表に修正を加えてから、アナスは小さく伸びをする。
 工事は既に終盤だ。外壁に関しては、既に外側は完成し、内側も市街地や農業区画に面した箇所での工事のみが残っている状態だ。
「少し、休みます」
 戦闘直後で高い熱を持っている愛機に背を預け、アナスはそっと目を閉じるのだった。

●工事完了
 連日の計画微修正と現場指揮に追い回され、酷い疲労状態の建設部門首脳陣。
 彼等が机の上に突っ伏して仮眠をとる指揮所を出て、朽葉・生(ib2229)は鷲獅鳥司と共にナーマ上空へ飛び立った。
 ひたすら高度を上げていくと、天幕や近くの倉庫があっという間に小さくなり、宮殿に巨大貯水池、広大な農地が目立つようになる。
 それよりも、さらに目立っているのは外縁にある城壁だ。
 実用性と建設期間の短縮だけを重視した結果、優美にはほど遠く、無骨との言葉では足らないほど威圧的で、おとぎ話に登場する魔王の城じみたものがこの世に姿を現すことになってしまった。
「来客が転じた侵入者の反応は無し。アヤカシの襲撃は…」
 凶悪な外見については意識して気にしないことにし、生は都市全域と城壁周辺を上空から確認する。
 アヤカシの襲撃は何度も行われているが、総動員された民兵が詰める城壁は十分な威力を発揮し、今の所アヤカシの撃退に成功し続けている。手間取ることがあっても、アナスや生が出て処理すれば全く問題ない。
 例えば。
「サンドゴーレムですね」
 宙を滑るように滑らかに移動し、西から攻めてきた、砂から巨大な上半身を出しているアヤカシに雷を浴びせる。
 大量の銃弾を浴びても動きが鈍りすらしなかった砂巨人は、一度雷に打たれた時点で冷静さを失い、二度、三度と浴びた時点でようやく上空の生主従に気づいて絶望し、せめて壁に傷をつけようと防御を捨てて壁へと全力移動する。
 しかし辿り着くには時間が足りない。核までこんがりと焼かれて体を構成していた砂がこぼれ落ち、瘴気はつながりを失い霧散していく。
「ありがとうございます!」
 城壁で敬礼する民兵に手を振ってこたえながら、生は民兵の限界について考えていた。
 小鬼程度のアヤカシからなる部隊は撃退できても、サンドゴーレム級の強力な個体1つを食い止めることは非常に困難なようだ。
 装備や戦法を変更するなら、早めに済ませる必要があるだろう。

●静かに揺れる内外
 鉱山での戦いが終了して既に3日が経過した。
 例の揺れはナーマでは感じられず、水源に異常もなく、アヤカシの大集団が来襲することもなかった。
 2日前の時点で民兵の動員は解除され、都市は既に日常へ回帰した。
 だが都市の上層と都市外は元に戻れない。
 アマル・ナーマ・スレイダン(iz0282)は兵と住民の慰労と都市外大勢力からの問い合わせに追われ続け、今は好物のもふらさまにすがりつくようにして深い眠りの中にある。
 そしてジークリンデ(ib0258)は、ナーマと経済面で関係の深い零細オアシス群からの返信を読み難しい顔になっていた。
「従属要請と受け取られたのでしょうか」
 領主の執務室でため息をつく。
 ジークリンデはナーマに到着してすぐに、アヤカシの大規模侵攻の危険と、その際のオアシス住民のナーマへの避難についての提案を送った。
 奇妙なアヤカシの動きから危険を予測し、念のための手を打ったつもりだったのだが、残念ながらオアシスはそう捉えなかったようだ。
 文面は消極的な受諾ではある。
 しかしこの返答が届いた前後から、オアシスから出稼ぎに来ている者達の態度に、わずかではあるが変化が現れていた。
 ナーマに仇を為す気配はない。
 同時に、ナーマに積極的に協力するという雰囲気が弱くなっているのだ。
 これまでアヤカシの襲撃に耐え抜いた勢力に対して、アヤカシの勢力が増す具体的な根拠無い状況での提案は、相手のことを知り抜いた上で慎重に行わない限り良い成果は得られないのかもしれない。
「ままなりませんね」
 宝珠の中に入ったままの管狐ムニンも同意している気がする。
 ジークリンデがオアシスを宥めるための手紙を書き始め、疲労したアマルが眠りを貪る宮殿の脇を、からくり達が駆る快速小型飛空船が静かに通っていく。
 短期間ではあるが密度の濃い訓練を課した結果、からくり達の操船はようやく実用レベルに達しようとしていた。
 もふらさまは一つあくびをしてから、起こさないよう注意しつつアマルを背中に乗せ、寝室へと運んでいくのであった。